とある警備府。
ケツアルコアトルをケツマ○コアトルの違いが一瞬分からかなった今日このごろ、警備府に四人の影が出現していた。異様にして普遍的、偉大にして過小なる存在は、新設された長崎警備府の内部を神妙な顔立ちで歩いていた。その雰囲気に士官等は行き交う度に敬礼を交わし、小声ながら饒舌となっていく。
艦娘も、兵士も、士官も、誰もが彼女たちを物珍しげに見る通り、その四人の艦娘を”見慣れている”と言う者はほとんどいないだろう。
今日着任予定の四人は、緊張の糸が解れないままノックをして、この警備府の統括者である提督の元に馳せ参じる。
一列に並び、敬礼しながら形式上の挨拶を述べた四人に対して、提督は淡白に返す。
「ご苦労だった」
「「「…………」」」
ここは通称、悪鎮守府と言われている。
なんで警備府なのに鎮守府なんですかねぇ……という総ツッコミを受ける所だった提督。
理由はこの提督がなんかセクハラしまくっているとか、すげークソみたいな作戦で人権人命のことを考えないで威張り散らしているところとか、とにかくそんな感じのクソ野郎って設定である。
その証拠に、先程から舐め回すように、程よく発達した身体を持て余す四人を見る。
四人はとても秀麗であり、美形の例を持ち上げるならば間違いなく彼女たちを上げるだろうと、巷でも評判だ。その内の二人は、世の女性達からすれば敵と見なされても文句を言えないほど我儘な体型を保持しており、その端正な顔立ちと組合わさる事で、男性をバキュームのように引き寄せる。
提督がヌメっと気持ち悪く立ち上がった。
「君は、村雨と言ったかな?いい体をしているね」
是非その身体を使って、私の疲れもバキュームのように吸い上げてほしいね、と言いつつ肩を触る。
「い、いやぁ!やめてください!」
「ほう?この私に逆らうつもりかね?噂通り私はいうことを聞かない子へは解体も辞さないのだよぉ……?」
「ひぃ……!わ、私には……村雨には、心に決めた人がいるんですッ!!」
「はッ?誰だよソレッ?……ではなく、誰かなその心に決めた人とやらはッ?私の権限で抹殺できる人間だといいのだがね……ハハハ!」
警備府の提督というのは、鎮守府ほどではないものの、十二分の政治力も有している。
若き村雨が意中の相手として想う相手は消去法により若年の士官だと断定できるが、海軍の若き士官ならば提督の鶴の一声でどうとでもできるだろう。その恐怖から、誰も彼に口答えできない。
いやらしい手が村雨の身体の隅々まで侵食して行く中で、隣にいた姉妹の一人が村雨を守ろうとした。
「やめてください!妹が困ってます!」
「ほう?たしか君はトキアメと言ったかな?なにか文句でもあるのかね?」
「村雨を離してください!あとトキアメじゃなくてし、ぐ、れ、です!学歴低いんですか!?」
「は?ちょっと間違えただけで学歴を疑う大日本学歴主義共和国好きだわクソ。俺お前より学歴高いんですけどむしろ頂点なんですけど?あと俺の肩章見える?大佐なんですけどォォオ!?はい、君は俺に逆らえないバリアー!!!」
「じゃあ学歴と階級と歳に似合った言動してくれない?警備府の提督がこんなうんちみたいな人だなんて僕たちはともかく部下の人が可哀想だから」
「「グルルルルルルッ!!!」」
「はいカットカット!二人共いつものペースに戻ってる!」
悪代官、悪提督プレイ、見事失敗に終わる。
長崎警備府、執務室。
新設された長崎警備府とともに着任した俺と、同時時刻に着任した時雨たち白露軍団。
正式に警備府が運行開始するのは三日後となっているが、準備、そして最終確認と、予行運行のために一週間前からここに配属された者が多数いることは、昨日確認した。
悪提督プレイを楽しもうとしていたのだが、流石に村雨ちゃんのお腹を触ったのは早計だったか。
「久しぶりだなみんな、元気にしてたか?」
「うん、宍戸くんも相変わらず元気そうだねっ」
「村雨ちゃんのお腹を触ったから元気満タンだよ」
「お兄さんッ?」
「春雨ちゃん怖い……!怖い……!」
「ハハハ!でもいっちばーん元気にさせるのは、この白露お姉さんのボン・キュッ・ボンなセクシーぼでーだよね!?」
「はい、もちろんですよ白露さん」
「なんかお世辞っぽい返し方なんだけど」
いつもどおりのみんなの笑顔を見て、俺もついつい笑顔になってしまう。
変わらない時雨たちと一緒にいて、俺は初めて戻ってきた感覚を得るんだ。これは最早家族、つまり俺は春雨ちゃんの本当のお兄ちゃんで、みんなの夫だったんだ。え、錯乱しているって?いや、錯乱じゃなくて、真実にたどり着いただけだよ。錯乱とか言った野郎は警備府監獄行き。
「それよりみんな……」
俺は一人ひとりを見渡しながら、白露さんの頭をなでた。
「ど、どうしたの?ひ、ひさしぶりに会ったから、お姉さんに甘えたいとかっ?さ、流石にいきなりは照れちゃうよ~あは、あははっ!」
余裕そうに振る舞うが、白露さんは顔を紅くしている。
しかし俺は順番にみんなの頭を撫でていく。
みんな突然の頭ナデナデに恥ずかしそうな、あるいは照れくさそうな表情を浮かべるが、抵抗はされなかった。
最後の時雨の頭も撫で、予想以上に顔を真っ赤にした事に驚きつつも、ちゃんと頭を横にある触覚の感触を楽しむ。
「どうしたのこれ?寝癖?」
「あの、そろそろセクハラで訴えてもいい?」
「NO、ダメェ、俺のquestionに答えなさい」
春雨ちゃんには無いが、白露さん、村雨ちゃん、時雨には髪の上、それか横?とにかく髪が犬の耳みたいに生えていた。時雨や春雨ちゃんには容姿的な変化は無かったが、白露さんと村雨ちゃんは凄く……そう、メッッッチャくちゃ、容姿が変わっている。
白露さんはといえば、全体的にボサボサしたロングヘアーとなっており、何時も付けていたヘアバンドがなくなっている。そしてムッチムチの太腿に黒ニーソと、胸が……大きくなっている……だと!?
村雨ちゃんはあの天女のような美しいツインテールから更に髪の量が増えて、後ろにロングヘアーを残した髪型となっている。見つめたら赤面して目を逸らされたが、瞳が微妙にオッドアイとなっており、胸が……微妙に大きくなっている……だと!?そして何より黒ニーソなのだが左脚だけであり、右脚は完全にスカートの中にまで伸びたストッキング?あるいはインナー?もう言わなくてもお分かりだろうが、
エッッッッ。
艦娘って、一年ちょっとでこんなに変わるものなの?
白露さんと村雨ちゃん、ホントスケベ。思わず顔を横に振って笑ってしまう。
「実は改二になったんだ僕たち、春雨はまだなんだけど……」
「は?改二ってナニ?人体改造計画?」
改二でこんなに容姿が変わるの?鈴谷と熊野なんて服以外はあまり変わらなかったじゃん。艦種が重巡から軽空母になったぐらいの激変ぶりだったのにさ。
「なんで春雨ちゃんだけ改二ないの?差別?」
「い、いや、別にそういうわけじゃないとは思うんだけど」
「白露、いっちばーん最後に改二になったんだー!どう?カッコいい!?」
「はい、エロ……じゃなくて、カッコいいと思いますよ」
「えへへ~、やっぱり君に褒められると元気出ちゃうな~!」
「あ、あの……」
村雨ちゃんは更にドスケベとなった身体をモジモジと揺らしながら、欲しがりやさんな顔でこちらを見つめている。そのエッチな服で上目遣いとかマジでただのセ○クスする前のエチエチ女の子だからやめなさいと言いたいし、どうこう言う前に、他の男の前では絶対にするなと独占欲をさらけ出したい気分になったが、持ち前の冷静さを表に出して気丈なまでに面倒くさくない漢を演出することにした。
「どうしたの?」
「あ、あの、その……む、村雨は、どう……でしょうか……?」
熱を帯びた眼が一人の男性を見上げている。これはもうセック……ではなく、村雨ちゃんは彼女の改二姿が、俺の目からどのように写っているのかを知りたいらしい。
「可愛いよ村雨ちゃん」
「よ、良かったぁ……!」
「むぅ……春雨はどうですか!?」
「春雨も時雨も、相変わらず可愛いよ」
春雨ちゃんは子供のように喜び、時雨は当然だよと胸を張る。時雨も耳みたいな寝癖がついてるけど、何処かで見たことあると思ったら、夕立ちゃんの耳みたいだ。
「提督さん!白露たち来てるっぽい!?」
「おう、来てるぞ」
「「「夕立に五月雨!?」」」
「ぽ〜い!」
「お疲れ様ですみなさん!」
ドアを開けて、直行で姉妹たちに抱きつく可愛らしい金髪紅眼の美少女夕立ちゃんと、そして100センチ以上あるんじゃないかと思うぐらいのスカイブルーの長髪を携えたサミー。
この二人は、改革された横須賀鎮守府から異動して警備府に着任したのだが、姉妹たちがここに来ることも含めて考慮されたのだろうか?何れにせよ、今は場所的に大本営にやすやすと顔を出せないので、その真意の程は電話で聞くとしよう……海軍大臣が多忙でなければ。
「ぽーい!久しぶりの時雨っぽーい!」
「ちょ、くすぐったいってばっ」
それにしても、時雨と夕立のペアはイイっすね〜。全員が全員と仲がいいのは当たり前だが、一番仲が良さそうな雰囲気を感じる。時雨の顔に夕立ちゃんのお顔が擦り付けられて、まるで犬みたいにじゃれ合ってるのは正に喜悦。
五月雨ちゃんも、春雨ちゃんや村雨ちゃんと会えて嬉しいみたいだ。
「ねぇ、白露は〜?白露に会えて嬉しいでしょ!?」
「うん、嬉しいっぽい」
「宍戸くん〜!お姉さんが一番疎外されてるキブンなんだけどぉ〜!」
「あはは、そうですね〜。ほら、白露さんが俺がよしよししてあげますよ〜」
「うふふ!久しぶりに頭ナデナデしてくれるの嬉しいな〜!」
相変わらずナニかする度に姉妹たちからの視線が痛い。でも仕方がないじゃん、白露さんメッッッチャ可愛くなってるもん。ロングヘアとか反則だろおい。
長崎警備府、これでついに役者が揃った。