整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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八号作戦その後のその後

 

 割り当てられた部屋は総司令官の部屋に行く前に、廊下を歩いていた士官に教えてもらった。さっき古鷹とあったばかりだし、二回顔を合わせるのもなんか変な感じだし丁度良かった気がする。

 前線艦隊はいっぱい食べてお眠なのか、すぐに熟睡モードに入ったので、廊下を歩いているのは俺一人である。

 

 横須賀第四鎮守府は俺にとっては懐かしい学校だ。

 ここで提督育成プログラムを経て提督……と呼ばれるにはまだ早いと時雨は思っているらしいが、それでも俺はいち要港を守る司令官となったのだ。

 廊下は新築の割にはギシギシ音がするところがあり、一瞬だけ欠陥建築じゃないかと思ったが、日本の建築技術を侮ってはいけない。整工班として建築技術は習ってはいたが、実際に携わった機会は少なかったから、個人的に経験のないことへあーだこーだ言いたくないんだ。

 

 たまたま通りがかり廊下を歩く女性士官らに、イケメンぶりを見せるためにニコッと笑顔を向けたが、アハハ、と軽くあしらわれる。ハハハ、既婚者かもしかして?既婚者じゃないのに俺様へその態度だったら、恥辱罪にするぞ。

 

 ミッションコンプリートしたとして駐屯艦隊などが置かれ、みすみす島を取り返されないために防衛に専念しているところだが、横須賀第四鎮守府に帰ってきた艦隊も大勢いる。

 

 所属が混同しているのはいつものことだが、部屋あてには注意してほしい。 

 

『いま夜だよね!?夜ってことは、夜戦でしょ!?早く行こうよやーせーんっ!』

 

『ね、姉さん静かにして……』

 

『お姉ちゃん静かにしてー!夜ちゃんと寝ないとお肌に悪いんだよ!?』

 

『そんなこと関係ない!私は夜に生きるんだー!』

 

 ドアが閉まっていてもクソうるせぇ騒音が第四鎮守府の一室から聞こえていた。これは俺の仕事じゃないが、軽くノックして黙らせよう、

 

 と思った矢先。

 

『んっ……ん、あぁっ……!も、もうっ……がまんできないよぉ……っ!』

 

『はぁ……はぁ……ぼ、ぼく、もう……はぁ……!』

 

『し、舌が……びんかんになって…いっぱいかんじちゃってる……っ!』

 

 WHAT THE F○CK?

 

 この部屋に入るべきか、入らないべきか。俺この頃、決断と決断の重ねがさねで、頭がパンクしそうだよおぉ……!

 そもそもなんだこの空間は?夜戦とか静かにしろとかなんとか言ってて、急に夜戦始めちゃうとか……これもうわかんねぇよな?しかもここ、大学校時代の俺の部屋だし。

 ノックは入れた、だから俺は入ってもいいんだ。

 

「失礼します。床での夜戦はお控えください」

 

「「「あ、す、すいません!!」」」

 

「って、せ、川内三姉妹!?どうしてここに!?」

 

 目の前に現れたのは、あの海軍の国民的顔とも言われるNAKA・CHANGを中心としたネイビーポップアイドルグループ……川内三姉妹!

 しかし、あの妖艶で甘ったらしい声の発生源とは思えない立ち位置にいる。というのも、一人は普通に三段ベッドの前に立ってて、残りの二人はそれぞれのベッドでぺたん座りしている。

 

「それに照月と初月まで……ってか、なにしてんに二人共?」

 

「あ、し、宍戸さん!お久しぶりです!はぁ……はぁ……!」

 

 だから何してんのかって聞いてんだよ。

 

 二人は川内三姉妹とは反対側の三段ベッドで、同じベッドでこれまたぺたん座りしながらビーフジャーキーを睨んでいた。

 

「ぼ、僕たちはただ、極限の空腹状態でビーフジャーキーが目の前に置かれたとき、どれだけ耐えられるか我慢比べをしていたんだ……」

 

「照月のベロ、お腹減ってるときね、すごく敏感になるの!」

 

「神通さん、あの、医務室ってまだ空いてましたっけ?この二人ちょっと病気なので入れたほうが良いかと……」

 

「だ、だめぇぇぇ!おにく食べられなくなるううぅ!!!」

 

「僕たちは人間が自然に持つ快楽をただただうまく利用して楽しんでいただけなんだ!信じてくれ!」

 

 とは言ってもな?極限状態ってどういうことなんだ?って話なんだよ。食料支給されなかったの?そこまでブラックにするほど、海軍ってまだ落ちぶれていないと思うんだけど。

 

「……あっ!君って第三鎮守府に古鷹ちゃんときたあの時の軍人さん!やっほー!」

 

「こんにちわ!って、覚えててくれてたんですか……」

 

「もっちろんだよー!那珂ちゃんの前で神通お姉ちゃん派なんて言うひと初めてだったんだもん!」

 

 素直ですまなかったな那珂ちゃんさん。

 那珂ちゃんのように眩しい笑顔を振りまく美少女は大好きだし、実際にファンの顔を覚えている辺りは好印象だが、あまり自意識過剰すぎるのはNGなのだよ。

 それでも……いや、だからこそ愛らしさが生まれるんだろうが、それでも個人の好みは変えられない。

 

「照月初月はともかく、第三鎮守府のお三方が何故ここに?」

 

「横須賀鎮守府を防衛するために、一時的に第四鎮守府いるんです」

 

 それなら逆に他の横須賀鎮守府に人員送ったほうがいいと思うんですけど……と思ったが、神通さんがいうには、一時的に第三鎮守府の機能を停止させて、その分で余った艦娘や士官、並びに兵士を第二鎮守府や第四鎮守府に回して指揮を強化しているんだとか。

 第四鎮守府は今回の作戦を絶対に成功させたいと言う念もあって、密かに他の鎮守府からの助っ人を呼んで作戦に参加させていたとも言われた……が、俺のせいで無駄になっちゃったかな。

 前線艦隊はほぼ要港部で固められていたから、あまり目立った活躍はなかったはずだけど。そこの所は、後方の艦隊の指揮官である大鯨さんや磯風に採点を任せておいたので、あとで機会があればこの5人の作戦貢献度を聞きに行こう。後方防衛しかしてないとは思うけど。

 

「ねぇねぇ!あなた夜って好き!?」

 

「え」

 

 突然、見知らぬ美少女に手を握られた。

 いや、消去法で川内さんだと思うんだけど、前あったときとテンションが違いすぎて別人みたいになってるし。

 動画でみた川内ちゃんは元気に踊っていて、実際に見た川内ちゃんは来客があっても立ったまま寝てて、いまの川内ちゃんは夜なのにうるせぇんだけど。

 

「夜……まぁ、嫌いじゃないですね」

 

「やっぱりそうでしょ!?夜っていいよね〜!」

 

「す、すいません中佐!ね、姉さんったら、みんなに迷惑だからお願いだから静かにして!」

 

「えぇ〜……」

 

「神通さん、俺のこと覚えててくれたの?」

 

「は、はい……今回の作戦のことも聞いています。類を見ないほど素晴らしい采配を振るわれた艦隊指揮官、として有名ですよ?」

 

「あの神通ちゃんの褒められるなんて……気運向上のために、もらったサインにキスしておいて良かったわ」

 

「あ、そ、そんなことしてたんですか!?こ……混乱、しちゃいますっ」

 

 可愛いな神通さん。

 実際にやってないから完全なるお世辞だけど。サインはキッチリ個人ロッカーの中にしまってある上、番号を忘れたので長い間だしてない。

 でもそんな分かりやすいお世辞にも頬を赤らめる神通ちゃん!この人が巷の噂で聞くような鬼教官なわけがない。第四鎮守府の駆逐艦連中が鬼教官が来たと騒いでいたので、何事かと思って聞いてみたら神通ちゃん来た!と言っていたので、俺は無条件に同名の艦娘だと信じることにしたが、この愛らしい様子を見て、盲信を更に強固なものとした。

 

「神通が言ってた前線の艦隊の指揮官ってこの人のこと!?」

 

 その言葉に那珂ちゃんさんと初月照月が驚いていた。まさか知らなかったとか、あるいは俺が指揮官、司令官クラスにいるんなんて信じられないとか?

 

「じゃあ私を今から前線に出して!早く夜戦したい!」

 

「もう夜戦したじゃんお姉ちゃん……」

 

「まだ足らないの!あの程度で私の中の夜戦魂が鎮まると思ったのぉ!?何年一緒にいるの!?」

 

「それ自慢して言うことじゃないですし、推薦や進言はできますが、異動の権限そのものは自分にはないので総司令官に……」

 

「総司令官に言えばいいんだねっ!?川内、出撃します!」

 

 ちょいちょいちょい、何で出ていこうとしてんの!?明らかに寝着の川内さんは察する所、就寝しなきゃいけないはずだし、防衛戦でも起こらない限りは出撃できないはずでしょ!?しかももう作戦自体は終わってるんだから……いや、ここまで情報がまだ届いてないのか?そんなことはないと思うけど。

 

 そろそろこの川内さんを黙らせないと、ガチで隣室から苦情が来そうな予感がしていたその瞬間、サイレンが鳴る。

 

『敵艦隊接近!数はおよそ二隻程度!迎撃部隊の艦は直ちに出撃されたし!!』

 

「ヤッホオオオーー!!!」

 

 深海棲艦が来たって言われてこれほど嬉しそうに部屋を出る艦娘が他にいただろうか?

 行動から推測するに、今日の夜間迎撃部隊である初月と照月は、軍人特有の早すぎる早着替えを俺の目の前でする。

 下着として履いていたのがスポーツブラだから恥ずかしくないもん!ということなのだろうか?初月なんて全身タイツだぞ?逆に恥ずかしいだろ。

 サイレンが鳴ってから部屋を出るまで僅か15秒。女性とは準備に時間がかかるものだが、ここでは関係ないんだなそれが。合計12隻ぐらいの迎撃部隊がいるはずだから、たった二隻の深海棲艦に手こずるとは思えないけど、一応武運を祈っておこう。

 

「……あれ?神通さんと那珂ちゃんさんは行かなくてもいいの?お姉さん行っちゃったよ?」

 

「私達は迎撃の任を受けていないので……」

 

「っていうか、お姉ちゃんも迎撃部隊じゃないよ?」

 

「つまりは無断出撃か……」

 

 はい命令違反。

 悪気ゼロだったし、清々しすぎて違和感を持てなかった。違反を目の当たりにした俺は総司令官へ、このことを報告するべきか悩んでいた。しかし二人の妹の冷静さを見るあたり“いつものこと”と思って半ば諦めている印象が強く残る。

 

 なので、放置することにした。

 

「ですが、何故前線指揮官がこんなところに?作戦は……」

 

「小笠原までいって全部終わらせて来たよ」

 

「も、もう……ですか!?」

 

「すごーい!流石は那珂ちゃんのファン!」

 

「いや、神通ちゃんのファンなんですけど……まぁいいでしょう。俺は、川内三姉妹のファンということで」

 

「ありがとー!キラリーン!」

 

 可愛いんだけどさ、これが素なのか裏があるのか分かんねぇから怖いんだよな。女には、常に裏の顔と表の顔があるもんなんだ。でも、できる女は、第三の顔を持っているもんなんだよ……そう昔、母から教わったことがある。

 でも俺の艦娘たちは絶対にない。俺に見せてるキュートな顔が本性で、表の顔は俺には見せてないんだ。

 それで思い出した、俺がこのことを話したときに夕張はこう言っていたんだ。「妄想も程々にね……」と。

 は?村雨ちゃんや春雨ちゃんが俺の知らない別の顔があるってのか?そんなことあるわけぇだろバキャッロォッ!!村雨春雨ちゃん最高ッス。

 妄信だろうが迷信だろうが関係ない。白露姉妹は純粋ピュアな女の子ォ!!

 

「宍戸中佐、こんなところにいたのか……」

 

「な、那智中佐!?い、いつからそこに……」

 

「今きたばかりだ。警報が鳴ったので、迎撃の任に当たっている艦娘ではないが川内を呼ぼうと思ったのだが……もう出ていったのか。まったく……」

 

「上官の意を真っ先に感知する能力があるのは、軍人としては良きことかと」

 

「そうだな……まぁ我々は非番だ。敵がどれほど少数であろうと油断は禁物だが、総司令官が起きている以上は多少の慢心は許してもえるだろう。入ってもいいか?」

 

「「「ハッ!」」」

 

 突然、上官からの入ってもいいか宣言は、大抵お説教の類だが、どうやらそのつもりではないらしい。

 那珂ちゃんさん、神通さんと俺は敬礼して、サイドテールを靡かせる那智さんを部屋へ迎え入れる。すぐにお茶を用意しようとした神通さんは“気を遣うな”と手を振りながら牽制され、代わりに那珂ちゃんさんと一緒に4人分の椅子を用意する。

 那智さんの次に俺、そして神通さんと那珂ちゃんの順で座った理由としては、階級の違いである。プライベートであってもここはれっきとした海軍要塞の一つである横須賀第四鎮守府。

 この行動が自然にできるかどうかで、どれほど規則に厳しいか、どれほど真っ当な教育を受けたかが一発である程度見受けられる。

 

 無論、俺の要港部なんて部下たちから「まぁ座りな」と言われるほどフリーダムではあるが、口を酸っぱくして「俺が司令官のときだけだぞ」と言い聞かせているので、任務に支障が出ていない分、問題はないはずだ。

 

「那智中佐、神通さんや那珂さんに話があるのでしたら、自分は席を外しますが……」

 

「むしろ貴様に用があるんだ。というより、敬語は必要ないだろう?もう同階級じゃないか」

 

「いいえ、これは一時的なものですので……それに、那智司令官に対しては、こちらの方が落ち着きます」

 

「ふむ……ならいいんだが」

 

 那智さんの足組み……白ストがまた美脚を輝かせているな。もし俺が海軍大臣になったらミニスカニーソ、あるいはストッキングを義務付けよう。言わずもがなだが、女性限定だぞ。

 

「さてと……宍戸中佐は、どうやってあの八丈島を攻略したのか、詳しく聞かせてはもらえないだろうか?私事ではあるが、同じ司令官としては是非とも教養が欲しい所なんだが……」

 

 え、無血開城でしたけど?なんて言えるわけねぇし。書類上では無傷ではありえないレベルの撃破数だったし、それにもう言い訳は済んだはずなんだけど……。

 

「宍戸中佐の艦隊指揮、艦隊運用能力は十分に承知の上だが、やはり無傷で八丈島を……それもたった6隻でとは、流石に無理があるんじゃないのか?事実であるのも承知だが、だからこそ気になってしまうんだ」

 

「は、八丈島を、たった6隻で……!?」

 

「す、スゴ……」

 

 おい、驚かれる度に騙してるみたいでドンドン俺の良心が傷ついていくぞ。那珂ちゃんさんなんて素に戻ってるぜ。

 

「自画自賛をお許し頂ければ、確かに前線での指揮は得意です。しかし、我が前線艦隊の6隻の練度は極めて高く、普段からプライベートでも触れ合うなど結束力も強固であり、なにより我が艦隊の特性は各個撃破を得意としている……それらが重なり、我々にとって最高の条件とも言える戦いができたわけです」

 

「ふむ……普段からの結束と訓練がものを言ったわけか……」

 

「はい」

 

 しかし、睨み顔をやめない那智さんに、俺はまだ納得の行ってなさを感じた。

 

「実は八丈島に到着した際に、敵の密集陣形が島の裏側に潜んでいたので、ありったけの魚雷と艦載機を奇襲と言う形で使ったことで、大部分を撃破することに成功したんです。蘇我総司令官の前では、格好をつけるために各個撃破に成功と言いましたが、戦闘詳報には詳細を記録しています」

 

「なるほど……それは運が良かったな。しかし、魚雷を一斉に使うとは……采配と機転の良さと、普段の訓練から培った練度がモノを言った、というわけか」

 

「あ、はいそうです」

 

 なんかそれっぽいこと言って納得してもらおう。実際に報告書に書いたことってそれと似たようなものだし。

 

「し、しかし凄いですね……八丈島は最低でも占拠までは2週間を予定していたというのに……」

 

「神通さんに褒めてもらえるなんて光栄だなぁ」

 

「中佐さんスゴーイ!そんな中佐さんには、那珂ちゃんのサインをプレゼントしちゃおー!」

 

「ウッス、どうもッス」

 

「な、なんか那珂ちゃんだけ軽いんですけどー……」

 

 うなだれる那珂ちゃんだが、それぐらいではへこたれないのがアイドルなんだと、三秒後に復活してお茶を入れに行った姿を見て思った。この、どんな感情が彼女の中を掻き乱そうとも、立ち向かおうとする根気の強さが、那珂ちゃんさんの真の魅力なんだろうな。

 慌てて神通さんも同行しに行った。

 一応深海棲艦が周辺海域にいるんだからもっと緊張感持つのが艦娘じゃないのかよ?言えた義理じゃないけど、実際に戦う人たちも、あれぐらいの冷静さを持つのが丁度いいんだろうな。

 

 しかし二人きりにされるのは緊張する。

 こりゃ、また那智お姉ちゃんが発動しちまうかもなぁ?あのおっぱいに浸りたい。

 

「……宍戸中佐。言わなくても分かっているとは思うが、貴様の功績はかなり大きい。世間にも名前が行き渡るだろう。それを良しとするかどうかは、貴様が決めることだが、時に名声は煩わしさを呼ぶ事もある」

 

「と、いいますと……」

 

「有名人はトラブルに見舞われやすい、ということだ……まぁ、なにが起こったわけでもない。気をつけていれば、きっと大丈夫さ」

 

 クールに双瞳を閉じながら発してくれた警告の意味を、俺はこのときは軽んじていたのかもしれない。

 理由はもうトラブルだらけで、これ以上のトラブルなんて起きようもないと思ってるし、作戦終了後に直行で食いに行って帰ってきて今ここなんだから、普通に考えても眠いに決まってんだろ。

 

 しかし那智司令官の言ってたことは、的中した。

 

 


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