「あの、俺たち少しプライベートな食事を楽しんでいただけなんで、帰ってもいいですか?」
「だめです」
「コホンッ、小官らはーー」
「だめです」
最後まで言わせろ。
ちょっと俺に用事がある、という要件で俺はみんなの席から剥がされてしまった。このプライベートまで干渉してくる日本社会の伝統ダイッキライ。
大淀次長が居座る部屋は俺たちとあまり変わらないが、どことなく雰囲気がVIP用っぽい。掛け軸や置物などの装飾品が、豪華さを演出しているのだろうか。
「いいではないですか、あの方々の分も、私が奢りますよ?」
「は、はぁ……」
時雨たちの分の食事代も奢ってくれると言っていたので、その点はすごく助けるんだけど、こういう人がこういうことする時って、なんか裏がある。そもそもなんでここに来てるのかすら怪しいんだし……俺はなるべく慎重に、スミノフを彼女のおちょこに注いだ。
「私のお酌などせずに、あなたも飲んでいいんですよ?」
「お酒は嗜みませんので」
「フフフ、意外ですね。八号作戦を勇猛な前線指揮で成功に導いた立役者が、まさか下戸だったとは」
「な、なぜ八号作戦の結果のことをォ!?」
「いや、私は軍令部次長なのですから、知っているのは当然でしょう……」
あ、そういえばそうだった。
知らなくてもいいような情報とか、WI-FIじゃなくてLI-FIでも使ってんのかってぐらい超高速な伝達速度で知るから、信用ならねぇんだよなぁ。
「よくぞ例の艦隊を倒してくれました、まさかこれほどアッサリと成功するとは思っていませんでしたが……と言いたかったのですが、作戦結果の詳細を聞く限りだと、倒したというよりは逃した、に近いかも知れませんね」
「ッ!?」
や、ヤバイ……殺されるッ……!?
「いや別に殺しはしないです。ですから涙を吹いてください気持ちが悪いです」
「ハッ、失礼しました」
そりゃそうだよな。あの最強の艦隊を一瞬で蹴散らすなんて、要港部……その前線艦隊6隻だけじゃ到底無理だもんな。いや、束になったって無理だったさ、だから交渉したんだよ。
これが最善の策だった。誰も傷つかないし、作戦結果だけ見たら俺マジ被害を出さなかった英雄なんですけど?
「たしかにそうかもしれませんね。その点は、流石は宍戸中佐というべきでしょうか」
「次長からのお褒めに預かるとは身に余る光栄に存じます」
だったらなんで俺ここにいるんですかね。
作戦成功の祝とお礼とか?絶対そんなことないでしょ。
「心外ですね……私だって、部下を敬う気持ちぐらいはありますよ?」
「あの、さっきから人の心を読むのやめてもらってもいいですか?そんなオカルトありえないんで」
「人の心なんて読めるわけないんでしょう……表情に出過ぎですよ」
おれの今後の方針はPokerFaceに決定した。
「ただ、元帥がどこに行ったかまでは分かりませんので、それをお伝えしてくれればと思います」
「我が国では短い間ですが、大宮の島と呼んでいた場所です」
「大宮の島……大宮島……なるほど、でもそこには陸上型が……いや、だから大発を……そして移動には司令艦船……」
一人で自問自答を続ける大淀次長は、少ない情報の中で理論的に、どう辻褄を合わせているかを計算している様子だった。
言葉そのものは少ないが、その端からは、ほぼ作戦の全貌を知り得たような言動がいくつもあった。
流石は海軍の頭脳……敵に回すのは、ダメ。
「付け加えさせてもらいますが、彼らは彼らの主の安全さえ確保できれば、この国に……ひいては、次長に執着することはないと伺っています……言い換えますと、わざわざ東の大海原を何千キロも横断ながらあそこまで攻略の手を伸ばさない限り、害となるか否かとしては、まったく問題ないでしょう」
「それは本当ですか?」
「はい」
瑞穂さんがなんとなくそう言ってたのを使わせてもらう。万が一これが元帥本人の意思であろうとなかろうと、俺には関係ない。
ついでに言えば、俺は次長と元帥の仲介役を担ったんだ。どれだけ壮絶な戦いが両陣で行われていたかはわからないけど、その修復不可能な関係を大淀次長の事実上の勝利という形で終わらせたんだ。ありがたいと思え。
「理論上、国力を持つ日本の海軍ですら太平洋の奥深くまで進出するのは困難な状況です。その国力を相手にする、まして我々以上の遠路を強要されるともあっては、あちらからの攻撃を仕掛けてくることはもちろん、感情が許しても、現実が許さないでしょう」
「それに、無事にあそこまで着いたとも限らない……そう言いたいのですね」
「え、あ、はい。しかし少なくても、小笠原諸島周辺海域には、その影は見当たりませんでした」
「そうですか……」
あの絶対に生き残ってみせる的な雰囲気だったら、まず死んではいないと思うけど。
あとこういう理論尽くしの人と理論的な会話するのヤダ。なんか論破されそうだもん。
論破されることは俺のプライドは許せるけど、かのアーネスト・キング提督が言ったように、日本人は他人の不利に容赦しない。
ちょっと間違ってただけで徹底的に叩いて存在を否定したり、微妙なラインでも屁理屈で強引に自分の理論が正しい事にして、叩き落としたり。言い返せないの?のあとは決まって、言うな、書くな、この世から消えろ、と言われるのが定跡みたいになっている。
プライドが無駄に高いのか、低能だと自覚しているのか、少しでも自分の方が偉いと思いたいのか、優位に立ちたがる姿勢が、そのクソみたいなハイエナ共の世界を生きづらくしているのはまだ分からないのか?
「私は理論的に考えるのを嫌ってはいませんが……それほど理屈っぽいでしょうか?」
「い、いいえ!大淀次長のような方ならば必然、理論で考えることを強要されます。むしろ、理論的な考えを持たざるものが軍令部次長の座に就くなど、天地がひっくり返ろうともあってはならないこと……って、やっぱり俺の頭の中を読んでませんか?」
「フフフ、さぁ?どうでしょうか」
後で春雨ちゃんに聞いた話だが、俺の声って時々漏れてたりするらしい。お口にチャックだ。でも、そろそろ大淀次長に気遣うのもダルくなってきた。
「大淀次長、不躾ながらご質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんいいですよ……ゴクっ」
「次長は単に作戦の詳細を聞くために、わざわざここまで脚をお運びになったのですか?」
「そんなわけないでしょう。人と会う約束をしているだけです」
「なるほど……自分の予想であれば中将か、あるいは大将か」
「あなたには関係ありません」
きっぱり言うひとだなこの人ォ……まぁ、ここまで来るのが仕事内容の内に入っているわけないし、プライベートな会談ってところか。
でもねぇ?関係ないなんて言われたらぁ、気になっちゃうのっ。誰だか気になる……それまでに出て行けって言われるとは思うんだけど、大淀次長は俺の度数ゼロ酌を受け続け、特別焦っている様子もない。
推測するに、会う約束をした時間にはまだ早いんだろうか。10分前ぐらいに来たみたな感じ?
そう予想していたんだけど、またしても俺の予測は外れる。しかし大淀次長にとっても予想外だったらしく、突然あけられた襖の方を見て、次長も俺も大きく目を見開いていた。
「大淀っ!元気だった?」
「あ、明石!?よ、予定より一時間早いんだけど……!?」
「いやぁ~それがすぐに終わっちゃって!だから大淀を驚かせようと早く来たんだけど、大淀の方が早かったか~!……も、もしかして、早く来すぎちゃったの、迷惑だった……?」
「は?むしろ息が合いすぎて私たち最高のセック……じゃなくて、最高なんですけど。やっぱり私たちって、一番の友達だよねっ!」
「うん!」
襖を開けたのは、まだ作業服に身を包んではいるが、少将の肩章……っぽいものをストラップみたいに胸辺りにぶら下げてる、明石と呼ばれた桃色の長髪の麗しい美人だった。軍令部で次長の部屋にあった写真立ての中に写っていた人と同じであり、彼女があの海軍省軍務局局長……明石少将。
テレビでみたことがあるぐらいすごい人だけど、クセの強い人だとも聞いたことがある。
「それで、こっちの人は?」
「あ、こ、こっちは私の部下で、宍戸中佐っていうの」
「宍戸……もしかして、あの宍戸中佐ですか!?」
「え」
いきなり手を握られた。
美女に急接近されるのは別に悪くはないけど、このキラキラした目の前では不思議と下心は芽生えない。
しかし大淀次長は「なんでテメェみてぇな三下の名前を明石が覚えてんだよォ……」と、俺の耳が正しければそう聞こえた。その眼力は、ただの恐怖でしかない。怖い、怖いし帰りたいし、なんでこの人俺のこと知ってるのぉ?
「噂は聞いています!それで、あの司令艦船の出来栄えはどうでしたか!?」
あ、そういうことね。
「あ、あの船ですか……まさに輸送艦船の上位互換と言えるでしょう。沈めてしまいましたが、あの船ならば前線指揮を取るのにーー」
「なにやっとるんじゃオラァ!?明石たんがァせっかく作ッたァモンなにシズメトンじゃい!?アァ!?」
大淀次長の眼力は怖い、から殺気の波動へ昇格。
言動はインテリヤクザからヒロシマヤクザへ昇格。
ぼく、おしっこもらしてもいいですかぁ…?
「ま、まぁまぁ大淀おちついて!沈んだっていうことは、まだまだ不完全だったってことで、むしろ良いデータが取れたってことなんだから!まだまだ艤装とか装備とか、いろいろ改良しなきゃな~。ありがとうございますね、宍戸中佐っ」
「は、ハッ!」
「あかしたんがいいんだったらなんでもいいんだおー!」
あの大淀次長の顔がメスの顔に……あぁ、やっぱりこのひとも、人の子だったんだんだな。
弱点なんてない。そんなオカルトありえない。誰だって弱点はある。
それを知り得ただけでも、俺としては儲けものだ。
こんなことをする義理はないけど、俺もさっさと退出したいし、気を使って二人の時間を作ろう。
「では部下を待たせているので、小官はこれにて失礼します」
「はい、ご苦労さまです」
「また会いましょうね!宍戸中佐!」
俺がここで大淀次長と会ったのは運が良かったのかも知れない。
自分の席に戻った時、お皿のタワーが積まれてあった。残骸を見るに、エビなどを食っていた。それだけで数万超えだろう……ただでさえ海鮮物は深海棲艦のせいで値が不安定なのに、あんなに平らげやがって。
大淀次長の懐にどう影響するかわからないが、彼女が奢ってくれるという言葉に甘えて、この場は素直に全額を委ねることにした。
・
・
・
横須賀第四鎮守府、廊下。
大淀次長との取引は果たした。
あとは彼女が昇進させてくれればいいだけなんだけど、正直昇進はどうでもいい。ただこれ以上、俺に関わらないでもらいたい。
今はお酒が入ってないのに、まるで飲み会で飲みすぎたオッサンみたいになってる人たちを介抱しなきゃ。
「オロロロロロロォ!!!うぅ……きもじわるい……」
「大丈夫ですか白露さん!?お腹の子供もパンパンですよッ!?」
「宍戸くん、本物の妊婦さんの前では絶ッッッたいに言わないでね?失礼どころじゃないから」
「ハハハ、もちろん言わないさ。そんな冗談かませるのは、か弱い女の子を自称してんのに、そのレッテルを無視して暴飲暴食に走るとっても愉快で奇天烈な人だけだよ。鈴谷と熊野もそうでしょ?うん?なんとか言ってみなさいよ」
「「うぅ……」」
彼女たちをそこまでさせるものは何だったのか。
久しぶりの食事にありついているわけでもないのに、まるで数日間飯抜いた犬みたいに餌を貪っていた鈴谷と熊野。
「春雨ちゃんを見て、この華奢で女の子らしい体。村雨ちゃんを見て、この女性らしいわがままな体。ボクサーの増量かよってぐらい大量の暴飲暴食は、全部アメリカとかメキシコみたいな肥満大国を見習ったスタイルなんだぞ?今から見直さないと、カラダ壊すぞ」
「大丈夫だいじょうぶ!ぼくたち艦娘だし」
その根拠ってどこから来るの?それで生活習慣病がなくなるんだったら今からタイに行って整形して、艦娘になるぞ俺は。
あと、カラダを壊すってのは風邪引くとかそんなレベルじゃないから。
カラダ壊すってのは、肝臓腎臓心臓とかの内蔵が修復不可能なレベルまでボコボコにやられて、この世にある全ての病気にかかって死ぬってことだぞ。
まったく……俺の艦隊ったら財布に糸目をつけないんだからぁ!そんなに貯金しているわけでもないんだぞ?
腹八分目を弁えた娘たちが、弁えない娘たちをせっせと運ぶ姿は、傍から見れば負傷した艦隊の帰還風景である。
これを士官たちに見られたらアウトだ。
前線艦隊とその指揮官がこの体たらくなんて言われたら、末代までの恥になる。
幸いにも前方から来ているのは大鯨さんたちだけだから、見られても大丈夫だろう。
ーーーーーーーー
「これで書類は全部ですか大鯨さん?」
「はいっ!ありがとうございます古鷹さん!」
「ふ、古鷹で良いですっ!一応上官ですし……」
「ご、ごめんなさいっ!まだ慣れなくて……でも、古鷹さんのおかげですっごくはかどっちゃいましたっ!」
「へぇ〜?それじゃあまるで私だけじゃ力不足みたいじゃない?」
「あ、い、いいえ!そ、そんなことはぁ……!」
「フン!」
秘書艦の初風ちゃんにもあわふたする大鯨さんは、やっぱり可愛らしい。
後方参謀の任務はかなり大変だけど、それでも大鯨さんの手腕は流石だ。
私もいつかはこんな女の人になりたいと、パパに話している。パパはまだお嫁に行くには早すぎるとか言ってるけど、そんなこと言ってたら、私は絶対に婚期を逃すだろうと、薄々思っていた。多分それでもパパは「一生独身でも良いじゃないか」って言うかも知れないけど……うん、まぁ独身でもなんでも、幸せならそれでいいと思う。
「……あ、宍戸さん」
「お、大鯨さんと初風秘書艦と古鷹!まだ仕事があったの?」
「あ、別に明日でもいいと言われたんですけどぉ……やっておかなくちゃいけないと思って」
前方から来たのは7人の集団だった。
お酒は入っていなさそうだけど、なんとなく食べ物の匂いがした。少し生臭さのあるこの匂いは……お寿司かな?いいなぁ……。
でも食べすぎたのかな?鈴谷さんと熊野さん、それにあの白露さんまで、姉妹に抱えられている。
「俺に言ってもらったら手伝ったのに……ねぇ初風?」
「なぜ私に振るんですか?」
「いや、俺たちも手伝ったほうが、早かったんじゃないかと思って」
「ふん!」
こんな態度をとっているけど、たぶん初風ちゃんはまんざらでもないと思う。他人同士の会話に入るのが苦手で、なんて言っていいか分からなくなるから、じっと会話を眺めているだけ。
……結構前の私も、そうだった。
秘書艦として仕事をしていても、やっているのは事務仕事だけで、秘書を務める相手が父親だということで偏見を買ったこともあった。
今みたいに、会話へ積極的に入れてくれるさりげない優しさは流石だと思う。
「古鷹も、あっ待ってください宍戸さぁんっ!って言ってくれたら俺、朝まで執務室に居続けたぜ」
「それは流石に邪魔だと思う」
酷い!とツッコミを入れた宍戸さん。相変わらず時雨さんと仲がいい。
「前線艦隊だからって遠慮しないでさ……いつでも、俺を頼っていいんだぜ?」
「あっ……!」
彼が私の頭を撫でてくれている。
大きくてゴツゴツとした手……すごく優しく撫でてくれて、安心する。胸がすっごくドキドキしてるし、顔が赤くなってないかな……なってたら恥ずかしい。
髪の毛、ちゃんとサラサラしてるかな?身だしなみはいつも気にしているけど、汗でベトベトしていたらどうしよう……彼に不快な思いはさせたくない。
「フンッ!」
「グアアア!!な、何すんだ時雨ェ!?」
「え、僕じゃないよ?」
「は?お前以外にその蹴り出せるの……は、春雨ちゃんに村雨ちゃん?」
「宍戸さんッ?」
「お兄さんッ?」
「め、めめめめめんごおおおォ!!!」
逃げていく宍戸さんを追いかけていく彼の艦隊。見ていて微笑ましく思える空間。彼の周りにいれば自然と笑顔になる。これが計算でやっているものなのか、彼の素なのか……そんなことは、長い間一緒にいる時雨さんや村雨さんを見ていて、すぐにわかる。
「……大鯨司令官、あの人って本当に最前線で指揮とったあの宍戸中佐なの?あの八丈島と御蔵島を一日で攻略したっていう?信じられないわ」
「ま、まぁ素の彼を見ればそう思いますよね……でも、彼はとっても信用できるんですよっ!この大鯨が保証しますっ!」
「大鯨司令官の保証はアテにならないから別にいいわ」
「ひどいっ!」
「…………」
彼はみんなに好かれる。
それは名声からとか、表面上の彼じゃなくて、本当の彼の人望、そして優しさが、私みたいな人も包み込んでくれる。
だからこそ、私は……いや、彼の周りには、私よりもかわいい女の子が大勢いる。
私は、ただ見ていられれば、それでいい。
それで、いいんだ。
ーーーーーーーーー
「だから……一回だけでもいいから、私を抱いて、あなたの女にしてェ……!」
「「「はッ?」」」
さっき会った古鷹の内心がどんな心情で固められているのかと談義してたら、その場の全員に引かれた。理解不能。
「は?ってなんだよ?漢は誰しもそういう欲望に塗れた妄想を一度はするもんなんだよォ!?」
「はぁ?何いってんの宍戸くん?ゴミ?」
「そ、そこまでは言いませんけど……でも宍戸さん、反省してください!村雨、怒こっちゃいますよっ!ぷんぷんっ!」
村雨ちゃんの胸がぷるんぷるん揺れた。
古鷹に対しての妄想でも、それぐらい入れた方が良かったかな……胸がドキドキして、ぷるんっ、ぷるんっ、とインナーから飛び出しそうなぐらい……みたいな?グフッ!あぁ見えて古鷹、かなり身体はエッチッチーだからなぁ〜グヒヒヒヒヒホホヘヘェ!!
「宍戸っちキモォ……」
「海軍の恥ですわ……」
「白露お姉さん今ダウンしてるからぁ…ボコボコにされたかったら後で言ってぇ……」
白露さんの蹴りが入ってたら絶対死んでた。
「ひどすぎる、俺はただ古鷹みたいな純情な子であの場面なら、内心はキュートでピュアなハートで、俺を想ってるかなーって思っただけなのにさ?」
「そこまで言うんだったら宍戸くんに現実を見せてあげるよ。VTR、どうぞ」
「え」
ーーーーーーーー
「……あ、宍戸さん」
うわ、なんかキモいの来た。
「俺に言ってもらったら手伝ったのに……ねぇ初風?」
「なぜ私に振るんですか?」
うわぁ、他の司令官の秘書艦をイジるとかマジないわ。なんなんコイツ?世界が自分だけで回ってると思ってんのか?
「古鷹も、あっ待ってください宍戸さぁんっ!って言ってくれたら俺、朝まで執務室に居続けたぜ」
キモすぎるッ。
言うわけないでしょそんなこと。
こんなのと一緒に仕事したら吐きそうになるし、邪魔以外の何者でもない。執務室にいたら一分も持たない。
「それは流石に邪魔だと思う」
時雨さんは流石だ。
クールで、イケメンで、可愛くて、キュートで、セクシーで、人を気遣えて、みんなのリーダーで、艦娘としては強くて、でもちゃんと女の子で、男を手玉に取れて、かっこよくて、頭がよくて、かっこよくて、かっこよくて、とっても優しい。
横にいる、ク粗大ごみとは大違い。
「前線艦隊だからって遠慮しないでさ……いつでも、俺を頼っていいんだぜ?」
「あっ……!」
う……ヴォエエエエ───ッ!!!
頭がウジムシの手が!?うわ、臭いし、キモいし、何これ、地獄!?頭が汚れるッ!触らないでェ!早く終わってェ!!
「フンッ!」
「グアアア!!な、何すんだ時雨ェ!?」
「え、僕じゃないよ?」
「は?お前以外にその蹴り出せるの……は、春雨ちゃんに村雨ちゃん?」
「宍戸さんッ?」
「お兄さんッ?」
「め、めめめめめんごおおおォ!!!」
ハァ……ハァ……なんとか吐かずにいられたのは、時雨さんとその妹さんたちが、私をあのオーガーから助けてくれたからだ。
時雨さんにありがとう。
あの膿溜にさようなら。
そしてすべての鴨川要港部艦隊のみんなに、ありがとう。
ーーーーーーーー
「人の妄想聞いてるだけで泣いたの、初めてかもしれない」
「本当に泣かないで宍戸くん、それこそキモい」
「お兄さん泣かないでください!春雨でいっぱい妄想していいですから!」
「ありがとうね春雨ちゃん、君だけが俺の味方だよ」
「えへへっ、お兄さーんっ!んふふ〜〜っ!」
「そんなに抱きついてくれるのって春雨だけだよ?少なくても僕の予想は半分以上当たってたと思うけど?」
「冗談でもそんなこと言うなよ時雨?俺だからまだいいが、もしあの大天使古鷹の内面がお前の妄想した想像クソビッチだなんて言われたら、普通の男子なら拳銃自殺してるぞ」
まぁいいさ、作戦を無事に、クールに、スマートに終わらせる事ができたこの俺が、そんなこと言われるはずがないし。
それに古鷹の赤面マジ可愛かったし……クソォ!あんなの嫁にしたらマジ最高としか言えねぇだろうが。
ケッコンしたいと本気で思ったことはないけど、こういう俺にだからこそ災難?チャンス?が降りかかることになるが、それはまた別のお話。
「ところで……俺たちの部屋ってどっちだっけ?」
「「「……え?」」」
「宍戸くん、まさか知らないで歩いてたの?」
「……てへっ」
俺は聞き忘れた部屋番号を聞きに、再度少将のところに行くこととなった。