整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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八号作戦その後

 

 

 横須賀第四鎮守府、作戦本部(司令室)。

 

 俺と麾下の前線艦隊六隻が、総司令官の前に整列し、敬礼している。

 

 心配していたが、どこかホッとした微笑を浮かべる古鷹。珍しく直立不動でいる結城。緊迫した空気にオドオドしている大鯨さん。髪を弄りながら、クールに佇む那智さん。

 八号作戦の主役でありトップが、この司令室と化した執務室に集結している。

 

 八号作戦はもちろん成功した。

 八丈島攻略後、そこで一日だけ野営し、翌日に速攻で青ヶ島と小笠原の攻略を実行に移し、八号作戦開始から最後の島制圧までにかかった時間は、僅か5日。

 

 一ヶ月以上の猶予を与えられたにも関わらず、事後処理が残っているが、それも2日で終わる予定なので、一週間という短期間での攻略。それに加えて、前線艦隊は常にこの6隻であり、残骸として浮いていた深海棲艦の一部を撃破数としてカウントした上、コチラの損害なし。

 傍から見ればこの艦隊はまさに無双。

 もちろん本当は、元帥艦隊からボコボコにヤられた大量の深海棲艦の死骸とその残党刈りをしていただけであり、彼らが通った海を素通りしていただけである。大鯨さんの後方支援の手腕が良かったとは言え、いくらなんでも早すぎたか……元帥は今頃、グアムなのかな?無事に着いて、陸上型深海なんちゃら倒して、元気でやってると良いんだけど。

 

 作戦本部兼総司令部となっている第四鎮守府に戻ってきたのは、5日目の夜のことだ。

 

 八丈島で野営していた時、春雨ちゃんが布団の中には入ってきたと思ったら、俺のおしりを執拗に狙うゲイ三人衆の声真似だったことを思い出し、この作戦は一生忘れないものとなるだろうと俺は確信した。

 

「前線艦隊帰還しました。これが戦闘詳報です。前線の事後処理はもうしばらくかかるかと思いますので、終わり次第那智参謀へと提出します」

 

「う、うむ……」

 

 神妙な顔で俺たちを凝視する少将。

 時雨たちには口裏を合わせるように言ったが、緊張している様子は見せなかった。

 総司令官になんていうか、というよりも、作戦が無事に完了したことへの安心感が、彼女たちを多少、落ち着かせるのだろう。

 

「……宍戸中佐、八丈島の攻略に際し、なぜ後方艦隊と連合を編成せずに攻略しに行ったのか、具体的な説明を求める」

 

 万が一、元帥艦隊の進行が遅かったら他の奴らにバれるからに決まってんだろ、なんて当然言えない。

 功を焦る男みたいなレッテルを貼られたらたまらないから、どう答えようかと一日中悩んだ質問だ。

 

「慎重な哨戒と偵察を重点的に行おうと、6隻艦隊編成で行った結果、一隻二隻と、大した数ではなかったので撃破して行った結果、思わぬ事に殲滅していた……というのが全貌です」

 

 前線で同時に指揮した艦娘の総数は最大で24隻。その理由は深海棲艦が12隻ぐらいまだ青ヶ島にいたためだが、なんとか軽巡を小破させただけで済んだ。

 できればあのまま鈴谷に前線の指揮を任せて、後ろでのんびりしていたかったんだけど、俺が指揮しないと損害増えそうで怖いんだよなぁ……まぁ何十隻も運用するなんて、戦わず指揮に集中する人にやらせるのが一番効率的かつ効果的なんだけど、なんか複雑だ。

 

「ふむ……新しい軍服を頼んできたのはまだいいが、君が乗っていた船が破壊された件は……」

 

 船は元帥に、服はゲイ三人衆に。

 

「申し訳ありません、事故で沈めてしまいました。司令艦船はまだまだ実験段階だったようです。当分は、現在自分が使っている輸送艦船に頼るのが得策かと思います」

 

「ん~ッ……」

 

 いや、こんな説明じゃだめだったか。流石に事故って沈んだとかマジやばい状況だけど、壊れたのが八丈島周辺の艦隊を撃破した後です!と付け加えたので、辻褄は合わせることは一応できる。

 でもこの人まだ怪しんでるよ……一世一代の大勝負、大博打にこんなピンチに遭遇するとは……やばい、これ以上、弁解はできねぇわ。誰か助けて!

 

「まぁ、結果オーライというヤツじゃないですか?八丈島にはそれほど強い敵がいたのだろうが、宍戸中佐は運よくそれを偵察艦隊だけで倒せた……と解釈してはどうだろうか?」

 

 な、那智お姉ちゃん……!

 

「私もそう思いますっ!宍戸さんは、秋津洲ちゃんもチェスで倒しちゃうぐらい強いんですからっ!そ、それに、御蔵島だってあんなに早く取りましたし……」

 

 大鯨さん……!

 

「まぁあれッスよ!女の子落としたら、また次の女の子が寄ってきて、それも落とす。それ繰り返してたらちょっとディープすぎる二桁股しちゃうみたいな?そんな感じですかねぇ!」

 

 なんかわかるような分からないような例えしてんじゃねぇぞてめぇ。

 

「一応周辺海域に深海棲艦がいないかなど、哨戒は怠っていません……が、この様子だと、我々で撃破した深海棲艦が全てだと思います」

 

「パパ……」

 

「……私は別に怒っているわけではないんだ。ただ宍戸が心配だったんだ……」

 

 強靭な肉体が席を立ち、近づいてきた上腕二頭筋へと繋がるゴツゴツとした手が頬に当たる。綾波ちゃんがいたら完全に発狂ものであり、艦娘はみんな、その無自覚にもいやらしい動作に対して赤面する。

 

「たしかに君は実力がある。だが、無茶はしないでくれ……所属が違っても、君は私の部下なのだから」

 

「そ、蘇我提督……!」

 

 熱を帯びた視線が、互いの瞳を見つめ合う。

 横にいる時雨は「は?」みたいな顔をしてるし、白露さんも興味津々のご様子。

 那智さんですら赤面を余儀なくする男同士♂のカンケイは、女性陣にとって、理解に苦しむものとなるだろう。いや、だからこそ興味が湧くのだが。

 

「ぱぁ〜ぱぁ〜〜っ!!!」

 

「ふ、古鷹!どうしたんだいきなり!?」

 

 痺れを切らした古鷹の牽制により、俺と蘇我少将の仲は、まるでロミオとジュリエットみたいに離れ。っておい、なに言ってんだ俺?ロミオとロミオだろこれじゃ?同じモンテギュー家なんだから、引き裂かれる理由なんて何も……いや、モンテギューとキャピュレットを派閥に置き換えれば、その内部でも過激派と穏健派がいるからな。

 ところでモンテギューとキャピュレットなら、どっちが保守派なんだろう?

 

 やっぱりスラっとしている美系の男性ってことで斎藤中将の革新派と、フリフリ円形カボチャドレスが荒木大将の腹みたいだから、キャピュレットが保守派かな?

 それ言ったら絶対に軍法会議だろうな。

 

「コホンッ……まぁ分かってくれたならいい。一ヶ月を予定していた作戦を、まさか一週間にまで縮めてくれた。その上、犠牲者どころか損害もないとは……この点には、非常に感謝しなければいけない。まずは、よく帰ってきてくれた」

 

「「「ハッ!」」」

 

「書類仕事がまだ沢山残ってはいるが、宍戸中佐が言うように2日もかければ終わるだろう。明日からでも初めてもらって良いが、それまでの猶予を有意義に過ごすのも、悪くはないと思う……得に今回、一番の功労者である君たちには、それを得る資格があると思う」

 

 軽いウィンクをする蘇我提督の意は会社でいう「先にあがっていいぞ」って意味だ。流石は俺の元上司である、そして理想の上司でもある。

 昔比叡のカレーを食べて病院送りにされた経験を持ち、人間的な道徳をわきまえ、部下への配慮も怠らず、柔軟な思考の持ち主。その上、粋な計らいができる、まさに上司の鑑やで。

 この人になら掘られてもいいわよ。

 

「よし、では鴨川前線艦隊!ここからは自由に行動しても良し!作戦命令は追って連絡を伝えよう!」

 

「ハッ!……っしゃお前ら今から焼き肉ダアアアアア!!!」

 

「「「わぁーーい!!」」」

 

 

 

 

 

 勢いよく出ていった鴨川艦隊を見て「相変わらず元気な艦隊だな」と古鷹は思った。空になっていた湯呑におかわりを注ごうとしたが、彼女の父はすでに胸がいっぱいだったので、注ぐのをやめる。

 

「いいなァー羨まし過ぎるッスよ〜提督!俺ッチも作戦終わったので、休暇オナシャスッ!」

 

「だめだぞ結城、貴様は何もしていないじゃないか」

 

「しましたって!ほら、心配そうな古鷹ちゃんの心を癒やしてあげる……とか?ドヤァ……!」

 

「思い出したぞ結城大尉ッッッ、それについてもうちょっと話をしようじゃないかッッッ」

 

「あ、お、オレっち、情報参謀として、ちょっと情報精算しないといけないので、これで失礼しやッス!」

 

 駆け足で退出する結城を見て、直属の上官である那智は呆れ顔を見せた。古鷹はそれほど嫌悪感を抱いていたわけではないが、そこから特別な感情が芽生えることもなかった。もちろん父親の手前、それを言うことすら許されなかったが、すでに意中の男性が別にいる事に、彼女の父親は気づくはずもなかった。

 

「で、ではわたしも、書類の作成をしてきますねっ!」

 

「あ、大鯨さん!わたしも手伝います!」

 

「ありがとうございます、古鷹さんっ!」

 

 後方支援担当の大鯨少佐の任務はまだ終わってはいなかった。伊豆諸島に駐屯する艦隊の補給をするに連れて、足りなくなる物資の要請を行わなくてはならず、最終的には蘇我提督の承諾と共に大本営へと送られるプロセスがある以上、総司令官が就寝する前にそれらを渡しておきたいと思ったからである。

 もちろん物資は、実質的に作戦の終了が叶っているので、これ以上の物資は供給過多であると推測されるが、大鯨の「念のため」というポリシーが彼女を動かしていた。

 作戦は事後処理が終わり、一般的には公表されてから初めて作戦終了であると認識されることが多い。故に「おうちにかえるまでが遠足」と言われるように、大鯨や総司令官は最後まで気を引き締める。

 

「……那智作戦参謀、流石に早すぎるのではないか?彼が攻略したのは別の島々だったり」

 

「既に確認はとってありますので、島を間違えた……などは、まずないかと思います」

 

「そうか……クッ、あっさり過ぎるだろう!?どんな手品を使ったんだ……」

 

 握りしめた蘇我総司令官の気持ちは複雑であった。

 彼は別に部下の功績に嫉妬するーー増して、功績の横取りや、出世の妨げをするような人物ではない。むしろ部下の昇華に喜びの笑みを浮かべるような人格の持ち主であり、今回の作戦は被害をこれ以上にないほど最小限にとどめている点、作戦の出来栄えそのものは褒めてしかるべきである。

 自分の功績などではなく、部下に命令しただけであり、それでもこの大規模作戦の出来はこれ以上にない成功である。近々行われる海軍将官会議にて、自分が作戦の成功により勲章や昇進を受ける事があれば、断るべきなのか、あるいは心苦しくも上司としては喜んで受けるべきなのか、早くも迷っている状況である。

 

 那智も同じく宍戸の功績について考えていた。

 しかし蘇我総司令官とは違い、彼女が黙考していたのは、過大すぎる功績についての危険性である。

 柱島防衛戦、関東防衛戦、大洗演習、そして今回の八号作戦。少なくても名前の通る戦いでは無敗であり、今までならばともかく、今回のような作戦であれば、宍戸の名前が全国に上がる可能性は大いにある。

 英名は栄誉を極めるが、トラブルに見舞われる種ともなり、それ以上に利用されやすい立場となるのは必定。

 もっとも那智は、自分がどうにかして良くなることもなければ、口出しするにはおこがましい問題であるとも思っていた。

 同じ司令官として、まずは武運長久と、彼を取り巻く環境が平和であり続けることを祈る。

 

「イージス艦を轟沈させられ、奇襲を受けたとはいえ大きな損害を代償として払った横須賀鎮守府が、要港部の、しかも一艦隊に功績において負けるなど……」

 

「それでいいのではないでしょうか?宍戸中佐の実力でそれを勝ち取った以上、実力相応の功績だと思いますが」

 

 何れにしても二人は、世間からみる要港部への認識の変動を、僅かながら予感していた。

 

「まぁ考えても仕方がないか……我々は軍人、今できることをするしかない。ハァ、執務のせいで肩が凝るな……あぁ、この書類は結城大尉が集めた撃破情報と艦種などを照らし合わせなきゃいけないのか。それにしても、結城はいつもあんな感じなのか?危うく娘を誑かす者として私直々に刑罰を与えるところだったぞ?」

 

「申し訳ありません、私の教育が行き届いていないばかりに……」

 

「いや、那智中佐のせいではない。まぁ、あの程度で誑かされる娘ではないがな。なにせ、私の!娘なのだかな、ハハハ!好きになる相手は、やはり誠実な日本男児でなければならないと、私は思う!うむ!」

 

「なるほど……でしたら、心配はないですね。古鷹秘書艦も、男性の見る目はあるようで……」

 

「……ん?那智中佐、どういうことかねッ?」

 

 蘇我少将の目の色が変わる。

 それにあまり注意していなかったのか、那智は抱いていた持論を言ってしまった。

 

「古鷹秘書艦は、宍戸中佐に好意を抱いているのはないかと思いましたので……あ、そ、蘇我総司令官?」

 

「……その話、詳しく聞かせてもらおうかッッッ」

 

 顔が死ぬほど怖かったので、那智は「他の男性に話す時の目と、彼と話すときの目が少し違ったと思った」と付け加えた。目ざとい……言い換えれば、鋭い那智の推測は正しいのだが、それを頑なに信じようとしない総司令官。

 

「な、何を言っているんだ那智作戦参謀!?ふ、古鷹はまだそういうのは早い!宍戸は確かに良いやつだし、有能だし、誠実……かは分からんが、結城よりはいいとは思っている!だ、だがな!?」

 

「…………」

 

 この慌てぶりを見て那智は確信した。この人は例え誰であろうと娘が嫁に行くのを許さないタイプの父親だと。

 古鷹は娘としても一人の女性としても魅力的だが、この父がおまけとしてついてくるのは、将来のパートナーに何かとストレスを与えるであろうと、那智は思った。

 

 

 

 

 

 

 横須賀、鎮守府周辺の寿司屋。

 

 この寿司屋は豪華である。寿司屋、というよりは半ば料亭のような感じで、個室が設けられている。畳には座布団が人数分用意されていて、広さが感じられる和風な空間はまさに料亭である。ただしメニューがほぼ寿司系統なので、レビューに料亭と書かれてあってもオレはここを寿司屋と呼ぶことにした。

 

「なぁ、俺たしか焼き肉って言ったよね?なんで都内で一番高そうな寿司屋に来てんの?演習で約束した極上カルビ、漢らしく守ろうとしたんだお?」

 

「嘘つきィ!!宍戸くんあの安物チェーン店に行こうとしてたじゃん!!」

 

「あ?え?なに言ってるんですか時雨さん?肉ならなんでも極上でしょう?」

 

「僕の舌を舐めてもらっちゃ困るよ?舌だけに」

 

「うまいと思ってんのか?クソォ!お前らァ!頼むからお会計は合計15万円以内に収めてくれェ!!」

 

「結構お金持ってるじゃん……」

 

 俺の作戦を文句を言わずに決行して、元帥とのことを墓まで持っていってくれるお礼なんだから、これぐらいは勘弁しておいてやる。と、さり気なく自分の財布の中をチェックする。

 15万、丁度!……念の為に持ってきておいて良かったけど、俺を含めずに、6人が2.5万円分食ったとして、丁度15万になる。チップはないから計算しなくてもいいけど、問題は白露さんと時雨だ。

 

 鈴谷には寿司類の少食は美容に良いと言って、熊野には少食はレディーの嗜み!と言えば一万円以内に収められるだろう。

 村雨ちゃんや春雨ちゃんが大食漢なわけがない。そんなこと、ありえない。

 だから俺と一緒にくっちゃべりながらチョビチョビ食えばいいとして……クッ!この白露姉妹のトップ2にはどう言ったら暴食を回避できるんだ……?

 白露にまたケツがデカイとか言ったら、今度はこのクッソ高そうなテーブルの上でレスリング技されそうだし、無意味な破壊によって生じる損害賠償なんて払いたくもないし。

 時雨は……だめだ、なに言ってもだめな気がする。

 

「し、宍戸さん!村雨も半分払いますからっ!」

 

「春雨もお金もってきましたぁ!」

 

「だめだァ!普段は奢らない……でも、今回ばかりは奢らなきゃいけない……!一度決めたらやり通す、それがこの俺様ダァ!!」

 

「「か、カッコいいですっ!」」

 

 クソォ!村雨ちゃんと春雨ちゃんに気を使わせちまったじゃねぇか……漢、失格。そもそも日本がカード払い主流じゃないのがイケないんだ。デビットカード持ってきてんのにさ、使えるか分からないから、使えなかったら詰みである。

 

「ぼくたちのしれいかんカッコいい!だからぼくもいっぱい大トロたべていいんだよねっ?」

 

「あそこの外に生えてる草は大トロだお〜?食べておいでぇ〜?」

 

「そんなのに引っかからないお〜?おばかさんなのかなぁ〜?」

 

「じゃあこの俺様の逞しい腕が大トロだ、食え」

 

「がぶっ!」

 

「ギャアアアアアアア!!!」

 

 クソォ!!時雨のヤツ、ガチでかじりついて来やがったァ!!あぁ、俺の逞しい司令官アームが……肉削ぎ落とされてないかな?無くなったかと思うぐらい痛かったんだけど。

 

「お、お客様!だ、大丈夫ですか!?」

 

「ハハハ、心配いりませんよ。ただ飼い犬に噛まれただけなんで」

 

「グルルルル……!」

 

「は、はぁ……?」

 

 眉毛をへの字にして去っていく従業員さんから「ちょっとやばい客きた」と聞こえたので、提督服を脱いでおいて良かった。海軍軍人だってバレたらネームバリューがダダ下がりだもんな。

 

「ハハハ!宍戸っちすごい声!」

 

「ハァ……殿方たるもの、噛まれたとしても、食事をするレディーの前では堂々としていてほしいものですわ?」

 

「これ甘噛みやと思ったら大間違いやでェ!?明らかに内出血してそうな紅さやで!?鮮血やで鮮血ゥ!?」

 

「ほ、本当ですっ!お兄さん大丈夫ですかぁ!?」

 

「え、春雨ちゃん?もちろん大丈夫さ……クッッッッッソ痛いとはいえ、白露さんとか時雨のボディープレスよりダメージないから」

 

「「ひどい!こんなか弱い女の子に対してっ!」」

 

 は?

 

「で、でも赤くなってます……早く消毒しないと、狂犬病が伝染っちゃいますっ!」

 

「「え」」

 

 時雨も俺も口を合わせた。

 自分の妹からどう思われているか、これでわかったか時雨ェ!恨めしそうに、言い返す言葉を見失った時雨は、ただひたすら俺を睨み続けた。

 やめてよ、まるで俺が悪いみたいじゃん。

 

「お兄さんの腕……!ハァ……ハァ……!な、舐めてもいいですかぁ!?」

 

「だ、だめだよ……春雨ちゃんに感染したら……」

 

「し、姉妹なんだから大丈夫です!それに早く取り除かないと、お兄さんが姉さんみたいな暴力でしか言うことを聞かせられない世紀末鬼畜ド○キーコングさんみたいになっちゃいますっ!」

 

「っ───」

 

 時雨そのスフィンクスみたいな顔やめろ。

 

「じゃ、じゃあ……あむっ」

 

「「「あッ!!!」」」

 

 うっとりさせた瞳で、春雨ちゃんが小さな舌をチコっと出して、噛まれた腕に舌を付けた。まるで子供のように夢中で舌を出し、唾液を分泌させながら、出てきた唾液を舐めとる。

 そのあまりの夢中さに、やめさせるタイミングを失う。

 

「んっ……あむぅ……ちゅる……っ」

 

 甘く艶のある声と、幼げな顔からは想像もつかない、潤んだ瞳が上目遣いで自分を映す。

 

 え、今の春雨ちゃんはどうなのかって?

 

 一言でいうと……エッッッッッロカワ。

 

 それをじっと見つめることしかできない俺、そして野次馬。見てんじゃねぇ見せもんじゃねぇぞ。村雨ちゃんが間髪いれて止めようとした、その時だった。

 

「失礼、こちらに宍戸中佐がいると聞いたのですが……」

 

「「「あ……」」」

 

「……コホンッ、本当に失礼しました」

 

 バタン!

 

「今の誰?」

 

「…………」

 

 大淀次長!?

 


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