整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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医務室で

 

 電文の内容は次の通りだ。

 

 発令時刻0500、八号作戦、鴨川要港部。

 本作戦は機密である。

 本作戦は横須賀第四鎮守府、及び複数の要港部が任務に当たる。

 本作戦は、御蔵島、八丈島、周辺海域を攻略するものである。青ヶ島、小笠原などの攻略は八丈島攻略後に始めるものとする。

 また、周辺の海域に生息すると思われる新種、エリート深海棲艦、及びフラッグシップを殲滅するものである。

 本作戦で鴨川要港部に必要とされる物資は、最新鋭の装備を人数分並びに、司令艦船一隻である。

 前線総指揮官を宍戸龍城中佐、麾下艦隊総旗艦を攻撃型軽空母の鈴谷大尉とする。

 なお、艦隊は後方艦隊を組み込み、柔軟的に連合艦隊を編成する予定であるが、原則的に総旗艦は鈴谷大尉であるものとする。

 

 以上。

 

 

 

「いや、以上じゃないでしょ!?何やってるの宍戸っち!?あそこ鈴谷たちだけじゃ攻略なんてできっこないよッ!?」

 

「大丈夫だから!俺に考えがあるんだって!」

 

「八丈島まで行かなくても、わたくしたちだけで御蔵島と八丈島を攻略しろと言うんですの!?」

 

「いや、あとから連合艦隊組もうとしてるんですけど……」

 

 俺が立ち寄っている医療室まで抗議しに来た鈴熊は、まだ納得のいかないという顔をしている。もちろんだ、こんな無茶ぶり俺も納得していない。

 

 内容は端的に、八号作戦は公表する前に決行する。鴨川要港部が前線艦隊としてーー詳細としては精鋭の第一艦隊だけで攻略作戦を実行する。もちろん最新鋭の艤装、装備を手配してもらうつもりだ。

 機密と言ってもあの八丈島の作戦がニュースに取り上げられたように、どのみちバレるんだからさ、機密にしなくてもよくない?

 

「鈴谷たちだけ作戦するのはともかく!宍戸っちまでなんで前線にくるの!?必要なくない!?」

 

「作戦指揮は司令室でやるなんてとおおおぉぉぉおうおうおうぜんのセオリーでしてよ!?なんでわざわざ司令艦船まで出して司令官が来る必要があるんですのぉ!?」

 

「指揮官自ら前線に出なくてどうすんだアァ!?」

 

「お三方、医務室なのでお静かにお願いします」

 

「「「すいませんでした……」」」

 

 軍医くんに促され、静かに鈴熊へ退出を願ったが、やはり納得の行かない顔で部屋を出ていく。

 

 今作戦は俺も同行するために、司令艦船という最新兵器を導入する作戦でもある。

 これは司令官など、艦娘として戦えなかったり、海上を移動できない人のために用意される指揮官専用のボートみたいなもので、言ってしまえば移動用の輸送艦船とほぼ同じである。

 

 しかし若干小さくなっており、通信機器を常備し、防御力もあがっており、スピードが超特急で、なにより揺れが少ない。多少攻撃能力もあるらしいが、弾丸を陽炎、不知火、黒潮に弾き飛ばされたため、まったく期待できない。

 使う理由はもちろん、元帥艦隊の弱点を知る俺が指揮を取るためで、鴨川艦隊とは言っても助っ人として他の要港部と鎮守府の艦娘に入ってもらうわけだし、最低でも戦闘編成の合計は24隻以上にはなると予定している。

 

 最新鋭でコストがかさむが、実戦投入段階にあるのにも関わらずリアルで使う人がいないのは、単純に死にたくない人が多いって理由と、そもそもこれが必要になるような作戦がまだ実行されていないからだ。

 これから海外進出を行うのなら、これからドンドン使われる事になるだろう。

 つまりこの俺が先駆けとなるのだ。

 海軍上層部よ、俺を崇めろ。

 

「宍戸くん、本当に司令艦船なんかに乗るの?危険じゃないの?」

 

「大丈夫、心配するな。ほら、窓の外を見てみろ。砲弾弾き飛ばしてるだろ?」

 

 

 

『クッ……壊せないですけど!』

 

『私にも、まだまだ倒せない敵がいるということですね……いや、この不知火の砲撃技術に落ち度でも……?』

 

『バンバン打つでぇ!中に人おるけど、どうせ死なんなら普段の鬱憤晴らさせてもらうでぇ!』

 

『怖いいいいい!!!助けてえええええ!!!』

 

 

 

「中の人すごく叫んでるんだけど」

 

「でも大丈夫だろ?流石は俺の訓練生。興味本位ってのもあるし、作戦実行の口実でもない限り最新鋭の司令艦船なんて持ってけないしさ。それに司令室だとなにかと不便なんだよね、何十隻も指揮して戦況が100パー掴めてないと致命的だしさ。俺を軍神って崇めて?艦娘でもないのに砲台ばかばか打たれる中で司令官が最前線にいるんだしさぁ……!」

 

「軍神って、死んでるじゃん……」

 

 作戦遂行にあたって、本当についで程度にだけど、とある電話の真意を突き詰める意味も含まれている。

 

 電話は八丈島からのもので、その相手は……元帥からのものだった。

 行方不明の元帥からのメッセージなんてわけがわからないけど、電話から無造作に番号が発信されてていた。一瞬ただのいたずらかと思ったけど、一応すべてメモをとっておいた。

 

 そのあと受け取ったFAXの電文の内容がこれまた番号の数列だったが、電話の発信した数字とは異なった。個人的にこういう数列暗号の解読が好きで、よく兵学校時代にやっていたんだけど、流石にこれは初めて見るタイプの暗号だった。

 番号を使った暗号の解読書を読み漁ってたら、ワンタイムパッドというのが目につく。

 旧ソ連が使ってた暗号で、メッセージを伝えるための発信数字と手元にある鍵の数字を合わせて出来上がる数字を、アルファベットに照らし合わせるものだ。

 ぐうぜん字列が意味のある文字を浮かべるなんてことは、確率的に不可能な領域を超えない限りは、絶対に出ない。つまり俺が導き出した答えは合っているはずだ。

 そのアルファベットを日本語に訳すと、衝撃的な字列が浮かびあがった。

 

 

 永原、艦娘と一緒に八丈島にいる、だれかたすけにきて。

 

 

 元帥が、俺にメッセージ……?

 なるほど、これはただのイタズラだな。

 うちらのところ以外にも近くの基地に来てたりしたが、暗号は解けなかった上、イタズラだと思って放置しておいたらしい。しかし幸いにもそれだけで、上層部へ届けるほどでもないと判断した。

 俺はあちらに向かってモールス信号で数列を送った。鍵の番号を同様のものにして、そして自分のメッセージとして数字を作り、答えとしては、

 

 こちらは鴨川要港部。助けてほしくばこちらに艦隊を寄越されたし。

 

 と耳が痛くなるほど送ってやった。

 つまりは生きてる証拠、そして本当に元帥からのメッセージなのか見せろ、という意味だ。

 もしも生きて艦娘といるとしても艤装があるか、資材はあるか、そもそも信号が届いているか云々の話になるが、正直それは俺の知ったことではない。

 大淀次長のこともあるんだし、これ自体が大淀次長からの奸計で、もしも元帥と手を組むようなことがあれば殺すーーみたいな陰謀が渦巻いたメッセージかもしれない。

 

 このことをさり気なくみんなに話したら「アニメの話?」とか言われてショックを受けた俺は、現実はフィクションよりも奇なりという言葉を座右の銘にしてるんだ。

 まんまと殺されないためにも、作戦内容は偵察機をバンバン常に張って、兵站を細心と慎重な行動で、最初のターゲットである御蔵島までの経路を作る。

 参加する要港部の指揮官が結城や大鯨さんとかの同期だから、バックスタッブされる心配はないだろう。

 まず御蔵島攻略は、嵐か台風でもない限りは、成功するだろうーー俺の勘はそう読んでいる。たいてい勘とはスピリチュアル的なものではなく、無意識に信用を置ける経験上の要素と、言葉では言い表しきれない状況が自分にとって益をもたらす条件が、なんとなくそろっているときに、ふと起こるものなのだ。

 

 それでも色々と考えなきゃいけない面倒臭さを感じながら、また休暇を潰されたことへの怒りが込み上げてきた。

 

「そんなことより大丈夫かよ?お前の首にアザついてんぜ?」

 

「心配してくれるんだ、ありがとうね!僕がこうなる前に姉さんを止めてくれたらもっと良かったんだけどッ?」

 

「う、うぅ……」

 

「ごめんよぉ~時雨ぇ~?でも俺にこの人止められると思う?」

 

「司令官でしょ!?止めてよ宍戸司令官コラァ!?」

 

「ま、まぁまぁ!宍戸くんも悪気はなかったんだし!お姉ちゃんも悪気はなかったんだよっ?」

 

 妹が餅を分けなかったからって、殺人級のチョップをかますのは流石に悪気どころじゃ済まされないんだよなぁ?

 それに、白露さんケツでかいんだからさ、もうちょっとカロリー気をつけたほうが……って、摂取カロリーと本来の体つきは関係なかった。つまり、尻がでかいのは骨盤の問題で、生活習慣を見直しても到底なおしようのないものだったのだ。

「……って、さっきから何みてるの宍戸くん!はは〜んっ、さてはお姉さんのおしりがそんなにきになるのかなぁ~?うふふっ!このえっちっ」

 

「いや、デケェなって……ハッ!?」

 

「宍戸くんも処刑決定だねっ!」

 

 時雨のベッドの隣でメガトンフィストを食らわされたあと、背中に馬乗りされて、ハンマーロックという公式プロレスでは禁止されている技をかけられる。

 しかも両腕にかけられているので、感想をいうと、死ぬほど痛い。

「イタイイタイイタイイタイ!!!」

 

「宍戸司令官、白露大尉の右腕と右脚の定時報告を医務局に送る必要があるのですが、彼女の右半身の調子はいかがですか?」

 

「軍医大尉くん!これ見える!?書類なんていいから少しこっちみて!明らかに調子を心配するような動きじゃないんだけどねぇ!?これ兵器開発局の奴らいるよねこの腕と脚の製作者にッ!?」

 

 黙々と書類に詳細を書き込むメガネの軍医さんマジ日本人。まさにパッション気質とは正反対の位置にいる。

 人の命なんてどうでもいいと思ってるのか、患者の目を見ず、紙切れを凝視し続けている(ヤブ)医者みたいな奴だ。

 

 腕がコキっと鳴ったところで白露さんは馬のりをやめる。しばらく立ち上がれなかった俺が身を起こしたのは数分後のことだった。

 

「宍戸くんはこの作戦って成功すると思ってるの?」

 

「御蔵島はともかく、八丈島は問題だけど、信頼できる作戦は一応立てた」

 

「でも完璧じゃないんでしょ?」

 

「この世に完璧なんて無ェッ!!しばくぞゴラァ!!」

 

「なんか言った?」

 

 なんだよ時雨、椅子なんて持ち上げやがって……結構元気じゃねぇか……その元気、作戦遂行当日まで、止まるんじゃねぇぞ……!

 

「決行当日は御蔵島攻略後に、艦隊を再編成して八丈島を偵察しにいく。もしも巨大な艦隊がいたら引き返し、引き寄せて釣り野伏せのプランA、少なく、敵がある程度倒せる範囲だったらプランB。もちろん、双方は万全な情報網を敷いていることを条件としている。な、簡単だろ?」

 

「司令官っていうお荷物が居なかったらもっと楽なんだけどねッ!」

 

「すんませんね……それにしても、春雨ちゃんはどうしたの?こっちに来ると思ったんだけど」

 

「宍戸くんの部屋にいるんじゃない?」

 

 ……ん?

 

「だから宍戸くんの部屋にいるんじゃない?」

 

 ……?

 

「あの、宍戸くん?冗談で言ってみただけだから。そのオスカー・ワイルドみたいな顔とポーズやめて」

 

 俺の部屋には入れてはまずいものがある。

 だから鍵、暗証番号、そしてドアノブに細工して、一旦下まで降ろさなきゃ開けられない三重ロックをかけているんだ。

 そんな容易に開けられるものか、バカモン。

 

 あそこには、スマイリングガールズセッ○スティバルという、ヤられているときは終始笑顔でやり遂げ、最後はもちろん溢れるぐらい中……コホンッ、そういうタイプの芸術作品が置いてある。

 机の引き出しの底を二重にして隠してあり、もちろん細工を施した机の中にはスマイリング以外のも多くのお宝が眠っている。

 

 下賤妊法、孕まセ○クスの術。

 大開通、スマックフ○ッカーズH。

 ナマイキ罵倒連語ギャル、後にごめんなさい連語エ○チ2。

 

 名作揃いだ。

 

「兄貴!電話ですよ!中将からです!」

 

「シー、静かにしろ月魔。病人がいるんだぞ」

 

「病人と言っても姐さんだけじゃないですか!そんなの姐さんのバケモノじみた回復能力ですぐ治りますって!」

 

「え、ぼくのことバケモノって言ったかなこのストーカー野郎くんッ?」

 

「あ、しまった!……た、たすけてください兄貴!!」

 

「電話ありがとうな」

 

 電話を怯える月魔からぶん取り、時雨に譲った。

 時雨のレッグツイストは相変わらず痛そうだが白露さん同様、時雨の首の調子は心配するほどでもなかったようだ。

 

「宍戸です」

 

『少佐これはどういう事だね!?八丈島作戦に加担するとは一言も聞いていないのだが!?』

 

 ……この人機密情報得るの早すぎぃ!

 

「八丈島攻略への先駆けとして自分の名前が上がりましたが、その代わりに軍令部、大淀次長に内争を緩和するようにと直々に感嘆しました」

 

『あ、そ、そうだったのか……』

 

「安心してください、実際当日に深海棲艦がいるとは限りませんし、そもそも軍令部からの命令を辞退することはできません。同期らには、念を押して騒がないようにと連絡を入れておきますので」

 

『そうか……すまない、早とちりが過ぎたようだ』

 

「いいえ、心配をおかけしてしまい申し訳ありません」

 

『あぁ……ところで、親潮は君のもとでうまくやっているかな?』

 

「はい、このように有能な部下を送ってくださるなど、斎藤中将には感謝してもしきれません」

 

『それは少し大げさな気がするが……まぁ、それならいいんだ。それより親潮は、そちらで風邪など引いていないかね?出撃などの回数もできれば教えてほしい』

 

 やけに親潮の事を気にするんですね。

 斎藤中将も大淀次長も、海軍省に影響力があるのは分かるけど、スゲーなと思うわ。

 あ、俺も海軍省に班長がいるんだった。

 今度それを切り口に海軍省内の人脈構成でも……と、俺もとんだ野心家だな、ハハハ。

 

 そんな野心家の部屋が、時雨の戯言が現実のものとなったのか、春雨ちゃんの手によってすでに開放されていることに気付いたのは、俺の輝名がどん底まで落ち、正式に中佐階級をもらい、作戦を実行する当日である……が、それもまた別の話である。

 

 

 

『お兄さんなんでロリ物がないんですかなんで巨乳ものばかりなんですかなんでですかなんで春雨を見てくれないんですかなんで春雨とは真逆の女の人のビデオがあるんですかなんで春雨が置いた写真がないんですかどうしてどうしてどうしてどうして』

 

『お、落ち着きましょう春雨っ?ほら、ベッドから降りて?ね?ほら、もう少しで出撃だし、私も班長として準備とかあるからっ。ねっ?』

 

『さ、サムソンとバディーの表紙の中身がまさかの巨乳グラビア……司令官はノンケだったんですかぁ……!?』

 

『普通にあのノーマルだからぁ!頼むから二人とも兵学校時代に戻ってぇ!同期がこんな変態ばかりなのはいやなのよおおおぉぉ!!』

 

 

 

「さてと、じゃあ今度はあの司令艦船に直接俺が乗るとするか……本番で操作を間違わないように、体で覚えさせるのも必要だからな」

 

「わかった……月魔くん、大丈夫?」

 

「ア……ア……」

 

 すでに虫の息のようだ。

 しかしすぐ立ち上がるところは流石だと思う。

 

「うんしょっと……兄貴。言い忘れてましたけど、出撃所に他の要港部からの艦娘が来てましたよ?司令官に用事があるんだとか言ってましたけど……」

 

「そんな予定は入ってないと思うけど……とすると、負傷した艦娘が立ち寄ってるのか?どちらにしてもこっちには連絡が入ってないけど」

 

「いいえ、それが無傷なんです……かなり巨大な艤装を付けてて、所属と名前を名乗ろうとしないんですよ。不審だったので、今は要港部の出撃所にとめてますけど」

 

「名前を名乗らない……誰だろ?俺が直接行くけど、なに、記憶喪失とか?」

 

「そんな感じはしかなったですね」

 

 入港連絡もない、その上名乗らない。

 誰だよ。

 明らかに怪しい感じの艦娘に対して不安感が募る。こっちは元帥やら大淀少将やらのせいで、散々めんどうな作戦を考えがなくちゃいけないのにこれ以上俺にストレス溜めさせるな。

 

「宍戸くんでもストレス溜まるんだね」

 

「おりょ?分かっちゃう?つか声に出てたのか……人間ストレスが溜まると、人格も行動もおかしくなっちゃうもんなんだよなぁ……とりあえずそのケツのデカイ艦娘とやらの場所に案内させて」

 

「ケツがデカイとまでは言ってませんが……」

 

「じゃあ太ってるのか……」

 

「艤装が大きいってだけだから。宍戸くん、艦娘を貶めるとろくなことにならないよ?」

 

「フン、規則ルールもろくに守れないヤツに遠慮することはない……俺様の司令官としての威厳、海軍のルールに則って、再度みんなに知らしめてやる」

 


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