整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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お見合い大合戦2

 

「ぶぅええええん!ふええええん!」

 

「こらこら、大の男が泣いてはだめじゃないか。どうしたんだ?この那智に話してみなさい」

 

「うん……えぐっ、ぼくね?ちょっと遊んでただけなの、そしたらね?ぼくの部下がね?ぼくのめいよをね?まるでマイク・タ○ソンがかじり取った耳みたいにボコボコのボヘミアン・ラプソディにしたの」

 

「それは……すまない、私じゃ手に負えんが、とりあえず元気を出せ」

 

「ぶえええええええん!」

 

「ご、ごめんなさいお兄さん!!お、お兄さんが結婚したくないって言ってたので、つい……」

 

「村雨もやりすぎてしまいました……ごめんなさいですっ」

 

「ふえええぇぇぇん!」

 

「あぁもうゥ!君はそれでも一応は司令官なんだからいい加減きげん直してオラァぁ!!」

 

「いっッッッァァアアア!何すんだクソアマコラァ!!?ケツがあのマントヒヒ共と同じぐらい真っ黒になったらどうすンだ!?アアァ!?」

 

「「「良かったぁ〜いつもの司令官だぁ〜!」」」

 

 那智司令官にすいませんでしたと礼をしてたあと、「気にするな」と手をふりながら去っていく。颯爽と立ち去る美しさは相変わらずの美貌であり、彼女も実は独身。

 実はといえば、那智さんは鴨川にいる我らが市長、妙高さんの妹であり、つまりは足柄さんの姉である。本人を崖っぷちと評する足柄さんがいうには、那智司令官は男勝りなイケメン提督と言う事だったので、どんな人物かと思ったら……なんだ、マジでカッコイイじゃん。

 あの人になら掘られてもいいわよ。

 

「那智司令官カッコよかったね」

 

「あぁ、人間的にも尊敬できそうな人だ。でも足柄さんが言うとおり、現代の日本男性が好みそうなタイプではないだろう。あ、言っておくけどこれは褒め言葉だぞ」

 

「宍戸くんが女性を貶したの初めて聞いたかも!暫定でいっちばーんひどい貶し方だったけど、白露さんは嫌いじゃないよ!」

 

「違いますって。ただ依存的な小動物系可愛女子を好む人が我が国には多いので、逆に言えば海外だったらモテモテですよあれ」

 

「つまりわたくし共の司令官様は、小動物系可愛女子を好む輩とは別……と仰っしゃりたいのですわね?春雨さん、村雨さん、鈴谷、残念ですわね!ふふん!」

 

「なんで得意げ!?鈴谷はそれに入ってないよね!?入っていたとしても宍戸っちは好きだよねそういうの!?」

 

「宍戸さん……うるうるっ」

「お兄さん……うるうるっ」

 

「は?大好き」

 

「「「わぁーい!」」」

 

「ほら、バカやってる間に次の企画始まっちゃうよ。自分のことをボードに描いてPRするんだって」

 

 時雨が言うように、番組は早くもフリータイムに差し掛かっていた。男性側がボードに自分の事を描いて、来た女性に対して色々と自分の事を教えていくというコーナーである。

 フリーと呼んでるが、俺はFREETIME(女の品定め)と呼ぶ。

 

 捻くれてようがなんと言われようが、これが俺だ。そして、そんなひねくれ物はもちろんボードなんて持ってない。フリートークタイムなんだから、そんなのはいらず、普通に声をかければいいんだ。

 

「じゃあ行ってくるわ」

 

「「「いってらっしゃい!」」」

 

 猛獣の檻に放り込まれるような感覚で会場に参入する。

 

 色々な人種がいる中、偏りがあるのはお察しだが、男性一番人気の副司令官殿が予想より少ないのは色々とやらかしたからか、それでも来てくれる人は多いようだ。

 

『うっふ〜ん。アタシ八回離婚してるの

〜。でも病気になってないのぉ〜』

 

『その八回を、一回の本気に変えてみる気はないですか!?残りの40種類の位を試すとか!ソクソクっ的な!?』

 

 最ッッッ低。

 

『あの、話す機会なかったとは思うんですけど、よかったら俺と結婚しませんか!?』

 

『え、僕たちは別に参加者じゃないんで……』

 

『う、うちはお金持ちだから……はぁ……はぁ……結婚とか……おっぱいとか……はぁ……ハァァ……!!』

 

『い、いいえ!ま、まにあってますからぁ!』

 

 参加者じゃねぇっつってのにさ、自分から話しかけにいくヤツが多いのはなぜだろう。嫉妬の目が俺の艦隊に差し向けられたらどうすんだよ?女の嫉妬は妖刀村雨(KATANA)より鋭いんだぞ。

 

 少し巡回していると、案外出会いの場としては悪くないとは思った。さり気なく並べられた椅子は休憩と書いてあるが、こういうところで恋は生まれる。

 すでに占拠されている椅子の中には男性x男性、女性x女性など、同性同士の組み合わせもあったが、どんな形であれ恋は生まれているのは確かだろう。

 それを否定することはできない。

 

「あのぉ……すこしお話してもよろしいでしょうかぁ……?」

 

「え」

 

 歩き回ってたら、突然三人ぐらいに囲まれていた。体と顔をくねくねさせながら寄ってくる様はまさに雌。こりゃなにか裏があるな……この疑り深い性格が、幾度となく俺を救ってきた。その手には乗らないぞ。

 

「あのぉ……お名前わぁ〜……?」

 

「え?あぁ、宍戸です」

 

「あ、そうだったんですかぁ!すごくかっこいい人なのに、なんで覚えてなかったんだろー?うふふ!」

 

「マジ激ヤバイケメンって感じですよね?チョーやばい!」

 

「こんなにイケメンなひと見たことないかも……!」

 

 …………。

 

「え、そう?グフッ!」

 

 

 

『ムッ……鈴谷たちのシレイカン?すごくだらしない顔してるんですけどッ?』

 

『あきれますわ……』

 

『あれ絶対おだてられて喜んじゃってるよ……しょうがないなぁ』

 

『時雨姉さん!ハンドサインハンドサイン!』

 

『分かったわかった』

 

 

 

 なるほど、うん、へぇーすごい。

 普段はモテない俺でも、お見合いにくるような奴らにとっては、若くてかっこいいイケメンってコトなのかな?グフッ。まぁ、なんだ。話を聞いてやるぐらいならまだいいか。苦しゅうない、苦しゅうないぞい!

 受けごたえしかしてないのに、スゲー話しかけてくる。こりゃ演習なんてもう……ん?時雨が俺になにかメッセージを送ってる。

 

 その人たち 肩章 見てる

 

 え どういう こと?

 

 階級 見てる

 

「……お嬢さん方、すいませんが自分は、心に決めた人がいるので、これで失礼させてもらいます」

 

 イケメンすぎる理由をつけて、颯爽と立ち去る。

 あ、残念ですぅ……と、明らかにしょぼんとした顔で、拳を作りながら口を隠し、「でもそういうところがかっこいいです!」とつけ加えてくれたお嬢さん方のもとを離れるのは心苦しいが、心を鬼にして、時雨のいう階級 みてる、の真意を確かめに、我が艦隊に近づいた頃、

 

『……ねぇ!全然堕ちないじゃない!どういうコトォ!?』

 

『あの若さで一番階級が高いヤツ狙ったのに……』

 

『モテなさそうな顔してるし、独身だからイケると思ったんだけど……やっぱりワケアリ?それともホモ?ココロに決めた人がいるとかマジキモいんですけど』

 

 

 

「…………」

 

「宍戸くん、ハンドシグナルの意味なんだけど……」

 

「いや、もういい。鈴谷も村雨ちゃんも、熊野みたいに呆れてくれてもいい。もう十分報いは受けたし、俺はもうなにも信じないからさ」

 

 そう言って再び、幽霊のように会場を彷徨い始めた。後ろからなにか聞こえたような気がしたけど、ワケアリな俺の地獄耳はうまく言葉を受信できなかった。

 

 

 

 しかし悲しきかな、筋肉自慢や学歴絶対主義者が蔓延る中、数人ほど女が近寄ってこない可哀想な男性らがいる。

 俺は演習以外でも、一つ個人的な理由を持ってここに来ている。春雨ちゃんを束縛していたゴミに近づいた。

 

「それでさそれでさ!俺は兵学校卒のエリートなのにさ!?メスがね?よってこないの分かるゥゥゥ!?分かるゥゥゥ〜!」

 

「は、はぁ……」

 

「おいおい、女性が近づいてこないからって俺の女に手を出すんじゃねぇよ」

 

 女が近づいてこないからって春雨ちゃんに話しかけているこのゴミクズ、俺があと五階級上だったら消してるぞ。

 

「お、お兄さんの、お、お、おんなぁ……っ!!あぁぁ〜〜っ!!」

 

「チッ、ヒレ付きかよッ。かわいい顔して思わせぶりな態度取りやがってェ!これだから女は……」

 

「いつ春雨ちゃんがお前みたいなのに思わせぶりな態度を取ったか是非知りたいけど、それよりも優先的に知りたい事がある」

 

「あぁ?なんだよリア充?」

 

「おいおい、JAFGの幹部がそんな態度とっていいのか?増してや上官に」

 

「ジョウカン?……お、お、おま、ま、まさか!?」

 

「そうだよ田中晃司くん、こんな若いのが幹部なんて思いもしなかったけどさ、まさか海軍にまで手が及んでたとは……」 

 

 フェミアンチグループの幹部であり、海軍兵学校卒フレッシュ新人の田中晃司(統率88、武勇79、知略83、政治84)だ。

 引き合わせるようにとは言ったが、まさか海軍軍人として紛れ込んでいるとは思いもしなかった……しかもエリート揃いの整工班にさ?

 

「早速で悪いんだけど、保守派について教えてくれない?なんか大きな事になってるのは承知のことだろうけど、問題がこれほど大きくなりすぎると流石に知りたくなっちゃうんだよね。っていうか、君に引き合わせるようにってあの自称お金持ち○ぽに頼んだ理由ってそれだし」

 

「お、俺はただ指示されただけなんス!!」

 

「は?テメェ今なんて言った?」

 

 胸ぐらを掴んだ。

 

「その言葉聞いたの何回目だと思ってるのォオ!?何枚重ねにして指示受けてんだテメェらはアァ!?麻薬密売組織かよッ!?いい加減にしないとお前らが掲げている古き良き日本に従って衆道男色ゲイセ○クスをお前の政治84のケツに叩き込むぞォ!!」

 

「ひ、ひひいいい!!お、俺はただ古き良き日本を目指している加賀提督のご意向に賛同しているだけッス!!ほ、本当ッス!!」

 

「加賀提督?え、あの人が保守派なの?」

 

「そ、そう言った方が彼女に貢献できるかと思って!」

 

 加賀提督とは、大湊警備府の艦娘提督である。何度か会ったこともある人だし、話もしたことがある。初めてあったときの感想を表現するならばミニスカ弓道着姿のクールビューティー。

 那智司令官もクールだが、加賀提督はどこか冷たさを持った印象だ。それだけに表情からは読み取れず、いっさい海軍派閥的な言動や素振りを見せていなかったーーというより、言葉の総数が少なかった。

 

「え、でもあの人は女だぞ?」

 

「JAFGは元々アンチなんちゃってフェミニストだったんス!那智司令官や加賀提督のような尊敬できる女性、そして女性しかなれない艦娘を掲げて、自分たちが楽をするために女の利権を最大限に利用しようとするクソアマに対して攻撃していただけなんッスッ!!」

 

 古き良き日本に戻すためのJAFG……その活動を知らしめる行為と共に仲間を増やしていって、そして十分な影響力を持った時に保守派支援を公開する。というのがシナリオだったらしいが、とある集団の牽制を受けて勢いが停滞してしまったらしい。

 とある集団……そんなの俺たちに決まってんだろ。

 

「そんな崇高な組織がなんでタクヤさンみたいなやり捨てレ○プ組織になったんだ?」

 

「え!?あいつらそんなことしてたんスか!?」

 

 やっぱり俺の見解は正しかった。コイツらは近いうちに瓦解する。

 

 こんな12センチ単装砲よりも使えない組織を利用するなんて、保守派も存外アホなのか……いや、もしかしたら保守派にも内部派閥があって、過激派と穏健派に別れていて、過激派が別の思想を持ち始めた故に暴走して起きた、制御不可能な悲しい闘争劇だったのかもしれない。

 これはどんな組織でも起きることで、中東のテロリスト集団の中にも過激派が破門された話は有名だろう。それが建国して騒乱へ……あ、そう考えると、保守派に過激派がいるんだったらガチで戦争起こりそう。

 

「とにかく加賀提督が、大将が乗り気でもないのに保守派を斡旋してて、お前はフェミアンチなくせにこのかわいいかわいい春雨ちゃんに話しかけてたって事でオッケー?」

 

「お、俺だって本当はカノジョ欲しいんッス!!挿れたいんッス!!」

 

「春雨ちゃんみたいな純粋無垢なフェイスの前で何言ってんだオラァ!!」

 

「OUCH!」

 

「ほら、春雨ちゃん行くよ」

 

「お兄さんのオンナぁ……ぐへ、ぐへへへへへぇ〜〜っ!」

 

 だめだこりゃ。

 

 このあと演習があるってのに、俺の体力はシュレッダーにかけられてるみたいな感覚に襲われてる。そう、すげー擦り削られているの。

 

 今頃、俺の要港部は何してるのかな。

 

 

 

『わぁ〜!』

 

『どうしたの綾波?』

 

『夕張っ!見てください見てくださいっ!!司令官の引き出しからサムソンとバディーが出てきましたぁ〜!』

 

『え、そ、そ、それってお、男の人同士の……は、破廉恥ですっ!!』

 

『あれぇ〜?なんで親潮さんは知ってるんですかぁ〜?』

 

『え、あ、その!べ、別にいいじゃないですか知っていたって!!』

 

『でも知ってるって事は、興味があるってことですよねぇ〜っ?』

 

『あ、あぁっ、はうぅ……』

 

『兄貴がそんな物を読むわけがない。三人衆の差金でしょう。まったく……』

 

『どうでもいいけど、なんでみんな司令の部屋に集まっとるんじゃ?』

 

 


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