整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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官僚襲撃事件

『総理を含めた国務大臣、及び海軍元帥が先日の攻撃により行方不明となっている事についてなのですが、本当なのでしょうか!?』

 

『えーまだ調査中ですのでー、えー』

 

『何故あの旅館に一同が集まっていたのでしょうか!?世間では先月の党のスキャンダルに付いての密会だったと憶測されていますがどうなのでしょうか!?』

 

『えーその件については、えー現時点では、えー調査中ですので、えー申し上げる事はできません』

 

『一部では深海棲艦ではなく軍部からのクーデターではないかという憶測も広まっていますが本当でしょうか!?』

 

『えーその件につきましても、えーまだ調査中ですので、えー』

 

『海軍はこの状況で正常に動けるのでしょうか!?』

 

『えーはい、えーその件につきましても、えー軍令部総長からの、えー会見があるので、えーその時に、えー詳細を、えー……』

 

 

 

 ー鴨川要港部、執務室。

 

 この人凄く動揺しているな。こういう人がよく使う『えー』をカウントしながら同じニュースを何回も見ている気がする。今のだけで16回だぞ?輪廻の如く同じ出来事を繰り返す理由、それは番組が同じ事件を何回も報道しているからだ。そしてそれだけ大きな事件が起こったって事だ。

 事件は、変わらぬ日常の中で突然起きた。大抵事件てのは唐突なものだろ、ってツッコミはさておき……事件がこれほど大きなスケールで起こったのは、深海棲艦登場以来だろうか?

 

 事は静かな夜、早朝に移り変わる間に起こった。

 

 総理大臣を初めとする、副総理、陸軍大臣、海軍大臣、防衛大臣、総務大臣、外務大臣……その他、次官達や政治家、終いには大企業の社長が集まる場所で、深海棲艦の航空機の群による襲撃を受ける。

 密会をしていたのかどうか分からないが、予定から外れた名もない旅館に集まっていたらしい。しかも海岸からかけ離れているのにも関わらず、かなりの飛行距離で飛んできて、爆撃を受けた。その間、襲撃で命を落としたのを確認されているのは今のところ陸海大臣達と、外務大臣だけらしい。

 民間人の被害は今のところ家が数軒壊れた程度で、東京は厳戒態勢を取っている。民間人を襲わない深海棲艦様に敬意を払いそうになる……人間より礼儀が成ってるとかこれもう笑えてくるぜ。

 

 そして、なぜかあの元帥閣下もいない。彼らの死体は見つかっていない。まるで消えたように……神隠しに遭ったかのように、綺麗サッパリと。

 

 ここまでは報道されている通りの出来事で、4W1Hが成り立っていない事件に海軍省や軍令部も混乱している。

 軍部からは正確な詳細こそ得られなかったものの、何故突然姿を消したのか、他の事件との関連性はあるのか……今までとは違い、何がなんだか分からない状況に、俺は立たされている。

 

 この状況において、各要塞に配置された提督ができる「最善」は一つしかない。

 

 それは、通常通りの執務である。

 

 多分、他の提督もみんなやっている事だとは思うけど、突然のサプライズに動じず、司令官としてただ平常心を保ちながらいつも通りの執務仕事をやる事が、今の俺たちにできる最良の行動である。

 

 この大事件は鴨川要港部の連中にも衝撃を与えており、俺は彼らの高ぶった興奮混乱を抑える事に専念する事にした。同期達が指揮する九州ら辺ではあまり衝撃を受けることはなかったらしいが、それでもドデカイニュースではある。

 その同期が「俺たちは多分問題ないんだからそっちも問題はないだろ?」とか言ってきたのですかさず、「田舎に居るやつにはこの文明的な衝撃が伝わらないんだろうなァ!?」と差別的な発言をしてしまった。

 「ごめんね、東京バナナ10箱ぐらい送るから許して」と後でライン送ったら「うんっ、許すっ(はぁとっ、はぁとっ、おっきぃはぁとっ)」と帰ってきて寒気がしたのは記憶に新しい。ガテン系がこれ書いてる所を想像すると更にキモい。

 

 因みに、横須賀方面の前線基地だからって俺へ責任があるわけじゃない……事を信じたい。

 警報もないし、艦娘たちには夜間警備を配置してたし、その記録もある。それは横須賀鎮守府も同じ事だろう……いや、もしかして警戒してなかったから深海棲艦が東京湾に侵入したとか?

 あぁ、だから逃げたのか元帥さん。と

、冗談は置いておこう。あの最強の元帥さんに限ってそんなこと……まぁ、リアルタイムで進んでる調査結果を待たない限りはどうにもならないんだけど。

 

 一組織の大将とは、どんな状況でもドッシリと構えて、待ってるもんだ。

 

 そしてこれまた同期の人物に、仕事をすると同時に電話を首に挟みながら、意識の高い話題を振る。

 

「……執務室って、エロいッスよね?」

 

『と、突然なんだ?』

 

「いえその……ここの机の下って、人がスッポリ入れるぐらい大きくて、隠れる場所としては最適なんですよ。まずそれだけで無限のシチュを生み出します。次点として、人が来るかどうか、人が居るのに、仕事場なのに……と、背徳感を催す環境が整ってるんです。しかも、秘書艦と二人きりになっている時間が非常に多い……これはもうセッ」

 

『宍戸少佐。気は確かか?今の状況を見て混乱するのも分かるが、気をしっかり持て。一日程度ならば休暇を取る手助けをしてやってもいいんだぞ?』

 

「結構です中佐!休みってのはゴールなんですよ。長い道を歩きに歩いて時には走って……そしてようやく辿り着くのが、休みです。そのゴールを動かすのは妥協でも措置でもない、ただの負けです」

 

『よく分からん……』

 

 達成感の問題だと、同期の斎藤中佐に付け加えておく。

 彼は現在白浜要港部で司令官として指揮を振るっている。大阪警備府の後方支援艦隊としての機能を備えている上、東と西日本の行き来が容易な場所でもある。

 

「それよりイイ加減にしてくださいよォ陸軍!?これ多分陸軍が仕掛けたんでしょ!?そうに違いない!何回同じようなクーデターを起こせば気が済むんですかァ!?」

 

『いや海軍にも五・一五事件という暗いクーデターの歴史があるではないか』

 

「ありゃいいんッスよォ!現に反逆罪の割にはほぼお咎めなし見たいな物だったじゃないッスかァ!」

 

『確かにそう言われてみると……って、いやいや駄目だろう。陸軍差別は良くない。そう言ったのは貴様ではないか』

 

 差別だと?差別があるからこそ人は成長するッ!完全に差別を無くした世の中に待っているのは、衰退だァ!

 鈴谷達が見てた戦争映画で、過激派アナキストに対する名言だ。

 

『ハァ……しかしマズいことになったな。陸軍海軍の大臣だけにはあきたらず、防衛大臣や総務、その次官等までもが行方不明だと?ふざけた状況だ、政治はどうなるんだ?』

 

「臨時の総理とかッスかね?」

 

『まぁ何にせよ我々が何を言おうがしようが、労多くして功少し、だ』

 

「そうッスね。俺は東京に居ないので、こっちに火の粉が掛からなければどうでもいいんですけどね」

 

『何だ?案外冷静ではないか。下劣すぎる挨拶のせいで一瞬本気で心配したぞ……』

 

「いやね?部下の中に俺をホモセッ○スと言う名の人生のグランドキャニオンへと導こうとしている啓蒙主義者が居ましてね?クーデターより俺のケツの方が大臣より大事ンなんですよ。しかも一般人まで狙ってきたりするんですよ?まったくゾンビ映画にいるみたいですよハハハッ」

 

 あと、毎日豆○ばみたいに教えてくれるゲイ用語のせいで、ドンドンソッチの世界に詳しくなってる俺がいる。イケメンって、本来は男受けするオトコって意味だゾ〜、とかどうでもいい知識ばかり。

 

『そ、そうだったのか……あぁ、今行く!悪い宍戸少佐、また連絡させてもらうッ』

 

「はい、ではまた……ふぅ」

 

 電話を置いて、紙の上を走らせてたペンも休ませて一息つく。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうね村雨ちゃん」

 

 何時も笑顔で、行ったことはないけどまるでエデンにいるみたいな気持ちにさせてくれる村雨ちゃん。豊満、そして俺の気持ちも放漫にする、あの忌まわしくも揉みしだきたいオッパイは正に母性の塊。

 だが、そんな彼女も今日は元気がない。というより、落ち着きがないというかなんというか……まさか、今日は女の子の、

 

「あ、あの!……だ、大丈夫、ですよねっ……?く、クーデター……とか……」

 

「ないないそんなの。それに時期に戻ってくるでしょ大臣達なんて。戻ってこなかったとしても変えがいるし……それに、どうせ先月の横領スキャンダルで炎上してるから、これを機に3日間ぐらい逃げてるんでしょ?俺もやった事あるよ、晩御飯のおかず全部つまみ食いしてさ」

 

「そ、そういう話じゃないと思うんですけど……」

 

「クーデターの可能性とか言ってるのはネタに困ってるマスコミが膨張してるだけで、本当はまだ何の確信もないから」

 

「で、でも……」

 

「……まぁもしもの事があったら、俺がみんなを守るからさ……危険な目には遭わせないよ」

 

「し、宍戸さん……っ」

 

 照れて頬を染めながらもはにかみを見せる村雨ちゃん。お茶を乗せてたプレートで口元を隠す仕草、正に女子力の塊……そして俺カッケェェェェ!!!女を守護れる漢、それが俺。

 こりゃ惚れるのも時間の問題だな。

 

「司令官いる?作戦報告書持ってきたよ」

 

「おう時雨、今日もご苦労さん。あ、これ中身がパチパチの粉菓子になってる飴なんだけど、どう?」

 

「わぁーい」

 

「って、なんで二人共そんなに落ち着いてるんですかぁ!あんなに凄いことが起こってるのにぃ!」

 

「いや、僕達が焦っても仕方がないでしょ?僕達がやらなきゃいけない事が増えてるわけでもないんだし」

 

「そ、それはそうだけど……っ」

 

「ハハハ、いやぁーそれにしても物騒な世の中だなぁ〜!横須賀鎮守府の皆さんは深海棲艦の侵入を許して一体何をしていたんでしょうね〜?」

 

「僕的には深海棲艦の方が百倍物騒なんだけど?」

 

 そりゃそうだろ。

 人間が深海棲艦より危ないとか……いや、解釈の仕方を変えればある意味そうなんだろうけど。

 

「最新のニュースでやってたよ?臨時の総理が今いないんだって」

 

「どういうことなの姉さん?」

 

「なんでも、予め指定してた代理になる人たちが事件で消えてるからナイカクホウジョウ?できないんだって」

 

 内閣を作る時とかに予め5人ぐらい臨時総理する人を選ぶんだけど、要はその五人が事件に巻き込まれた、って事らしい。残った国務達で協議と国会も開いてないし、国会を開くとウンコみたいな話し合いをするだけで数十億もの税金が吹っ飛ぶし、散々だぜ。

 

 なんで国のリーダーをすぐに用意できないのかを子供がわかるように説明すると、日本国憲法っていうのが蜂の巣みたいに穴だらけだからだよ〜って言えば納得はしないけど大体この世の真理が理解してもらえるはずだろう。

 だから俺たちみたいな下っ端が苦労する羽目になるんだ。

 でも俺たちは軍人。政治の事は税金で温泉旅行に向かうお茶目さんに、そして官僚共の行方は警察さんが全力で探してくれるだろ。

 

 海軍が直面する問題と言えば、横須賀第一鎮守府の元帥の不在だ。それでも補佐官、或いは大本営、または第二鎮守府の提督が代理をする事になるから焦る必要はない。海軍大臣とかも代理が……いや、いなくても正常に機能してるし別にいいだろ。

 指揮や作戦は今までどおりやっていいと既に軍令部から通知が来てるので、俺はこういう混沌とした状況でこそ信用されるカス共のフェイクニュースによって人心が掻き乱される方が心配だ。

 

「ねぇねぇ宍戸くん」

 

「どした?」

 

「陸軍と海軍の大臣がいるのはわかるけど、なんで防衛大臣がいるの?陸海だけで良くない?」

 

「俺にもよく分からん」

 

「は?大学校卒業したんでしょ?三歳児でも分かるように説明してよ」

 

 三歳児でも理解できるんだったら苦労しないんだよなぁ?しかもこの理論で行くと、一心不乱な愛国心を持つガキが政治やっても差し支えないんだよなぁ?どっかの頭のいい愛国者探してこいよ。日本にはほぼ存在しないけど。

 

「ん〜まぁアメリカ副大統領みたいなもんだよ」

 

「は?三歳児でも分かるように説明してって言わなかった?」

 

「あ、そうだったねしぐれちゃんッ!!つまりねェッ!!いらないのォッ!!分かったかァ時雨(3)ゴラァ!?」

 

 陸海を纏めるための職で、本来は軍隊のトップを統合したアメリカ合衆国国防長官相当の存在であり、その後陸海大臣は廃止される……予定だったが、両軍から猛反対されて廃止は実現はしなかった。

 陸海空のトップが居なくなるわけじゃなかったけど、内閣から外されるか留めるかの選択だったから仕方がないかな?

 俺が理解している中では閑職だから早めに廃止するか、さっさと全部統合するかしたほうがいいと思うのは俺だけじゃないはず。上に行けば行くほどフットワークが遅くなる日本では仕方がない事なんだが。

 

 この大臣達は陸海空軍のトップ扱いなのが腹立つ。陸海軍大臣はともかく、防衛大臣なんて殆どが軍隊出身者じゃないクセに。これを『シビリアンコントロール』約してシビコンという。

 

「へぇ〜そうだったんだー」

 

「お、これだけ簡単に説明しても頭に入ってないって顔してるぞォ〜」

 

「うん!今はブドウ糖が無くなってて頭が回らないんだぁ!だから今日も深海棲艦を倒しまくった功労者に、日頃のお礼として提督権限でデザート大盛り持ってきてくれても、バチは当たらないと思うんだけどなぁ〜……チラチラっ」

 

「は?テメェさっき食い物つまんでただろ?もう栄養がなくなったのか、或いはそもそも時雨に知識を入れる脳が無いのか……」

 

「できる女の燃料はそれだけ高いってコトだ……よォッ!」

 

 持ち前の反射神経で、間一髪飛び込んだ顔面ストレートを避ける。躱す必要があったのかどうか疑問が残る程の距離だったにも関わらず、顔面に疾風を帯びた。

 

「殺す気か!?」

 

「当然だよ。女の子を侮辱する奴は大抵これぐらいの罰を受ける事になるからねッ」

 

「つまり女の子を侮辱すると死ぬってことなのか……」

 

「宍戸さんっ、そろそろ……」

 

「あ、ごめんごめんもう食事の時間だったね。今日は金曜だからカレーだったっけ?」

 

「そうだね。カレーは好きだけど、僕はデザートの方が好きかな?カレーって脂肪分多そうだし」

 

 コイツ言ってる事が矛盾してるんだけど。村雨ちゃんも「ふふふっ」と天使の顔を浮かばせている。

 

 

 

 ー食堂。

 

 確かに食事の量は基本多くて高カロリーって点では合ってるけど、栄養を考えてるこちらとは違って、その辺で買うデザートは健康に悪いものばかりだ。

 海軍みたいに体を動かす仕事場では、供給されるエネルギー以上の消費を求められる事がある。だから体が休めずダルい、体調が悪い、もっと元気を分けてくれェェェ……!ってなった時、ご飯だけでは助けてくれない時がある。

 

 そういう時は(今持ってないけど)これ!エナジードリンクだぁ!まるでエンジンにハイドロポンプを食らったかと思うぐらい元気が出るぞ!

 兵学校時代、普通に買いに行けないので友人(闇市場)を使ってドーピングまがいのな事をした経歴がある。

 

 兵学校か……懐かしいな。大昔の話だけど、卒業がてら嫌いな教官や教師を張り倒す風習に従ってやっても良いものかと思ったけど、案の定止められたのは言うまでもない。

 だって教官さん食事の作法にも煩いんぞ?俺達は将来政治家になる訳でもあるまいし。

 

「ねぇねぇ提督提督!どうなってんのこれ!?」

 

「はしたないぞ鈴谷。女性はもっとお淑やかさを磨くべきだ」

 

「珍しく意見が合いますわねっ。レディーは優雅に、ですわ」

 

「は?熊野はともかく提督に言われたくないんだけど。いつも鈴谷のオッパイにエッチな目を向けてきてセクハラで訴えたいってカンジ?」

 

「どぉぉぉおおおおぉうおうおう言うことでして!?女性の価値は胸で決まらないのではなかったんですの!?」

 

「はいお兄さんっ、あ~んっ」

 

「うん!あ~ん。うん、おいち!」

 

「「キモッ」」

 

 口にカレーを運びながら昔を懐かしんでた横で唐突な「どうなってるの!?」宣言。多分あの襲撃事件の事だろうけど、隣に座る春雨ちゃんはそんな事を気にせず俺にカレーを運んでくれる。

 鈴谷、俺は寛容な姿勢で接しているけど、もし俺があの兵学校の教官だったら、食事中に立ったお前を厳罰処分にする所だぞ。

 

 官僚襲撃事件は話題にはなっているものの、マイペースな要港部は表面上変わらない景色を見せてくれる。

 辺りを見渡せば、ワサビ大盛りロシアンルーレットに興じる第十七駆逐隊と陽炎三姉妹とか、時雨達はと夕張率いる整備工作班が昔を思い出しながら談笑してる所とか、綾波ちゃんと例の三人が俺の隣で男娼の実態について……って、おかしいだろそれ。

 

「あぁ〜ダメダメダメ(話してる内容が常軌)イキスギィ!」

 

「え、教養っすよ教養?」

 

「はいっ!いっぱい教えてもらっちゃってますっ!」

 

「「「えぇ……」」」

 

 満面スマイルと状況が状況だったら若干エロスを感じる言い回しにも関わらず、汚染された腐の意思が、ドン引きの二文字を掻き立てる。

 鈴熊と春雨ちゃんも、俺が隠し持ってた陵辱物のThin Book(薄い本)を見つけた時みたいにドン引き。

 そして綾波ちゃんの隣にいる陽炎も大当たりのワサビを喰らいながらドン引き。

 更にはその隣で不知火が「それ私のスパッツ!?」と、とんでもない事実を漏らしてドン引き。

 

 まるでドミノ倒し、あるいはピタゴラスイッチのように連鎖していく謎の現象は、美しい人生の中で一度は起こる奇跡と言っていいだろう。

 後に陽炎は、妹のパンツを盗んで履く変態ではなく、単に訓練で汚してしまったから密かにお借りしてただけだと言う結論に至った。訓練中は大抵汚れるし、余分に支給されているはずだけど、足りなくなるほど汚していたのか……いや、考えないようにしよう。

 

 このぷよ○よみたいなリズムで起こる連鎖は見てたらきりが無いので目を背けて、再びカレーを召し上がる事にする。

 

「あっ、はい司令官!あ~ん」

 

「あ、いや流石にもう大丈夫だよ。ありがとうね春雨ちゃん」

 

「わ、わかりました……しゅんっ」

 

 今度は春雨ちゃんの無垢なおててを使わずに、自らのゴツい手で食べる。これ以上やると春雨ちゃんが穢れるような気がしてならないし、俺も堕落する司令官の典型みたいにはなりたくない。

 芳醇な香りを漂わせるガラムマサラとクーミンシードが鼻腔を通る……その旨さを再度確かめるべく口に運ぼうとした途端、きまぐれメルシィという電話の着メロにしてはハイテンポすぎる音楽が鳴り響く。

 ただし小音量にしていた為、ギャーギャーウルセェ鴨川要港部の愉快な仲間達の耳には届いていない。

 

 一応注意しておこう、電話に出るのは例え軍隊じゃなくても完全なるマナー違反です。お茶の間を囲う良い子のみんなに、このとんでもない無礼さを認知して周りたい。

 

 俺は出るけど。

 

「はいもしもし」

 

『あ、シシード?私わたし!』

 

「そのイントネーションはオイゲンさん!久しぶりだね!元気してた?」

 

『うん!そっちも変わってないみたいでよかったぁ〜!』

 

 席を外しながらこっそりと食堂を抜ける。夕暮れの元、外の空気を吸いながら中にいる連中を確認する。よしッ、食堂抜け出したのバレてないな。

 今は何処にいるか分からないけど、声を聞く限りでは元気でやっているみたいなので一旦保留しておく。

 

「今日はどのようなご用件で?」

 

『あ、そうだった!プリミアミニスターさん達もそうなんだけど、グロースアドミラールさんがユクエフメイ?になってるって聞いて、そっちは大丈夫かな〜って……』

 

「その為にわざわざ……ありがとうねオイゲンさん。何がなんだか分からない奇怪現象だし、たしかにこっちの要港部でも大きな話題にはなってるけど、直接仕事に影響が出てるわけじゃないし。そっちもあんまり気にしなくてもいいと思うよ」

 

『そうなんだぁ……私の所でも結構話題になってるから凄く心配しちゃった。でも大した事がなくて良かった!』

 

「本当にそれだけのために連絡くれたの?」

 

『事件の事でシシードなら何か知ってるかなーって思ったんだけど……』

 

「そういう事か。いや、俺はなにも聞かされてないよ」

 

『だよね!急にごめんね電話かけてっ、じゃあ私は仕事が残ってるから、ビスバ〜ルっ!』

 

「チュース!」

 

 辛うじて覚えていたドイツ語を絞り出して通話を終えた。彼女も事件を気にしていた様子、

 

 ピロロロッ!

 

「うぉ!あ、同時に電話掛かってきてたのか……はい、もしもし」

 

『あっ、繋がったかも?秋津洲かも!』

 

「久しぶりですね秋津洲さん!調子はどうですか?」

 

『かなりいいかも!と言いたいところだけど、こっちでは結構な騒動になってるかも……宍戸少佐の所はどうかも?』

 

「え、うちらはいつも通りですけど」

 

『そうかも……こっちは襲撃事件の質問について問い詰められて要港部がふんぞり返ってるかも!秋津洲はなにも知らないかも!』

 

「そうですよね……」

 

 みんな心配してるんだな……まさか楽観的に考えてるのって俺だけ?

 それはともかく、退屈な鎮守府とかだったら例え芸能人の別れ話程どうでもいいニュースでも、それだけで丸一日ぐらい話題に尽きないだろうな。それがこれほど大きなものとなると、秋津洲さんは暫く騒がしさに見舞われるだろうな。

 

『あ、いまいきまちゅよ〜!……ごめんかも少佐!またあとでかも!』

 

 ……ん?ちょっと待って、何だ今の返事は?明らかに軍人に対する返事じゃないぞ?

 ま、まさか子供!?や、やべぇ気付かなかったッ……出産祝いとか今からでも間に合、

 

 ピロロロッ!

 

「え、またァ!?……はい、もしもし」

 

『よぉ宍戸!元気元気〜?俺ッチの結城提督様の要港部は大変な事になっててさ〜?助けてくれよォ〜!』

 

 次々とかかってくる電話に手を追われて食堂に戻る時間もないンですけど。俺

まだカレー食ってた途中なんだよね。

 これは食事中に立った罰だ。子供でも分かるインスタントカルマって奴だな。

 コイツの話長くなりそう……えぇっと、中国系の妙に高い声を出してっと。

 

「エェ、ア、コチラ中華人民デリバリヘルアル。ゴチュモンドウゾ、いい女のコ揃テルアル」

 

『え、俺ッチ番号間違ったのか?』

 

「エェ、ゴチュモン」

 

『あ〜じゃあチャーシュー麺一つ!大洗要港部まで!お代は鴨川要港部宛に付けといて!』

 

「ゴチュモンは50代ブス専、アブラミン系熟女アルネ。一時間デ到着スルアル」

 

『あ、違うゥッ!!待ってッ!!Noooooo!!!キャンセル!!キャンセルして!!いやできれば中○しオッケイ系今井○奈似の女のコにチェーー』

 

 黙れ。

 あと、せめて現実にいる女のコにしろ。二次元を対象に似とか言われても本業の人が困るだろ。

 ったく、なんで俺ばっかに連絡してくるんだよコイツ等?静かに考える暇も、

 

 ピロロロッ。

 

「はいィもしもしィ!?何なんだよさっきからドンドコドンドコ電話かけてきヤがってよォ!?」

 

『す、すまない。やはり要港部の電話を使ったほうが良かったか……』

 

「あ、し、少将!?す、すいませんッ!!少将とは露知らず……」

 

『あぁいやいいんだ、少しばかり個人的な用事なのでな。』

 

「と、言いますと……?」

 

『一度兵学校の方に出向いてはくれないか?』

 

「……え」

 

 

 

 ……なんで?

 

 


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