ー舞鶴第一鎮守府、会議室。
「やぁ、よく来てくれたね」
「このような場所に自分のような若輩者には些か場違いかと存じますが、ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いしますッ!」
「ははは、そう固くなることはない、好きな席に座ってくれたまえ」
「は、ハ!失礼しますッ!」
ドキッ!提督みたいな上級将校だらけの会議室。そこで超緊張している俺は、准将でも大佐でもない、大尉の整備士だ。
何故こんな所にいるのか、このVTRを見てくれれば分かるだろう。
ーーー
ーレストラン。
「なるほどなるほど。古鷹の説明が分かりやすかったからすぐ理解できちゃった。ありがとう古鷹」
「えへへっ、ありがとうございますっ!」
比叡のカレーを食べた提督が突然倒れたらしい。どうしてカレーを食べてそうなるかは定かじゃないけど、兎に角そういう事らしい。食中毒か?
「じゃあ俺達の班長が指揮権を継承するんじゃないの?班長は少佐で、俺は副班長で大尉だから……」
「少佐さんは緊急入院する事になったらしいです……」
「ハァ!?なんで?」
「打ち上げで飲みすぎて……そ、その……腰を……」
若くないのに無茶する人は大抵そうなるけど、そんなこと聞いてないな……あ、そう言えば俺昨日アニメ見てて外の世界とは不干渉だったな。
「だとしても今日は休日で、指揮は有事以外しないんだろ?指揮するぐらいだったらお隣の第一鎮守府にいる大佐さん借りればいいし……」
「て、提督は、班長が駄目なら宍戸さんが良いと……」
何故指名するし?指名できる体力あるんだったら腹壊してねぇでさっさと仕事しろって言いたい。
「腹壊したぐらいで指揮権継承とか……少し寝てれば治るだろ」
「そ、それが結構酷くて今も寝てるんです……それに、今日は来週辺りから実施される大規模作戦の会議がありますし……」
「え、そんなの聞いてないんだけど?」
「提督が、みんなが毎週待ち望んでいる休みに水を差すような事は言いたくないと……休みが明けてから発表する予定だったそうです」
前言撤回、提督マジ天使。上司の鑑、人間の鑑。自分、涙いいっすか?
「んでその会議に、提督の代わりに出ろと?」
「はい……そ、その、すいません!」
「いいじゃないか、宍戸くんにはいい経験だよ」
「時雨……お前他人事だと思ってッ」
「宍戸さんが会議に出ると思うと……村雨、ちょっと興奮しちゃいますっ。困ってる女の子の頼みを断れない男の人って、カッコイイですよねっ!」
「で、でもさ村雨ちゃん……」
「もし出たら……村雨の、ちょっとイイところ……見せて、あ、げ、るっ」
「古鷹、俺会議に出るよ」
「本当ですかっ!?」
「単純すぎるよキミは……」
ーーー
ー舞鶴第一鎮守府、会議室。
魔性の女、村雨ちゃん。前世は貂蝉だな。
フランスパン形状のテーブルに、その先端にはモニターがある。多分モニター越しに話す人が居るんだろう……偉い人だと思う。それに、日光が入ってこない部屋は人工的な光で覆われている。部屋の色は全体的に白い。
そしてとにかくそれを囲む椅子に座るスゲー偉そうな将校の人達。肩章を見るに左から准将、少将、大佐……やべぇ腹痛くなってきた。カレー食べたぐらいで腹壊すのよりよっぽど健康に悪いタイプの腹の痛みが俺を襲う。
物腰柔らかく出迎えてくれたメガネの中将さん……好きな席に座れとか何抜かしてんだよ?大抵こう言う場面では座る順番とかあるんだよなぁ……そう言うの手取り足取り教えてくれないと分かんないんだよォ!
「「「…………」」」
偉い人たちが俺を睨む、視線が痛い。さっさと座れということなんだろう。
とりあえず、あとから来る人の事考えて階級順で行こう。当然、そうなると俺はモニターから一番遠い席になる。
「んっしょっと……」
「……ん?君は第二鎮守府の提督代理だったと思うが?」
「え、あ、はい!そうですけど……」
「だったら君はもう少し近い方がいい。私の隣に来なさい」
だった最初からそう言ってくれよぉぉぉぉぉぉ!!!
「し、失礼します!」
何回も何回も頭下げたり敬礼したりして、しかも恥ずい事やっちまったじゃねぇか。しかもフランスパンの先端から二番目とかッ。
「そう言えば自己紹介がまだだったね、私は舞鶴第一鎮守府の斎藤だ、よろしく」
「自分は舞鶴第二鎮守府所属、整備工作班副班長の宍戸龍城大尉です!よろしくお願いします、斎藤中将!」
レストランで睦月が言っていたメガネでカッコいいナイスミドルな斎藤提督とは、彼の事である。
「宍戸くん……だね。実は私が今回の大規模作戦の司令官を任されていてね。君達の提督である蘇我准将には私の参謀を務めてもらいたかったのだが……見かけによらず、お腹が弱点だったとはね。あ、こんな事を言っては失礼か!今のは忘れてくれ」
俺もそう思っていました。レストランで如月の言っていた上腕二頭筋、そして俺が言っていた人格者で理想の上司こと俺たちの蘇我准将。初めて作った比叡のカレーで腹を壊すなんて彼の腹が弱いのか比叡のカレーが強力なのか。
まぁとにかくメモとペンは用意したし、胸ポケットのボイスレコーダーも万全。何か聞き逃しても心配することは無い筈。安心して覚えて、提督に会議の内容渡して、終わり!簡単じゃないか。
ーーー
全員集まり終える頃には残りの将校さん達と挨拶し終わり、話すと案外普通の人たちだ。俺が声を掛けるまでの間睨みつけていたのは何だったのだろうか?圧迫面接みたく俺を試そうとしていたのか?やめてほしいんですけど。
「改めて、今日お集まり頂き感謝する。今回の大規模作戦は、日本海を中心に行う深海棲艦の掃討作戦だ。横須賀鎮守府の大将もお聞きになっている故、ここでの発言には気を配ってくれると助かるが、不明な点、意見や案があれば物申してくれて構わない」
案……腹ブッ壊れたので帰っていいっすか?多分採用されないな。
『……ではこれより、第三次日本海掃討作戦の計画を始める……大将閣下に、敬礼!』
中将がボタンを押すと、後ろのモニターにおっさんが写って喋った。皆が立って敬礼するので、俺も慌てて敬礼する。
ネタバレをすると、モニターのおっさんは東京らへんの大将で作戦の行き先を見届けているそうだけど、すべての提案に「分かった、そうしろ」としか返事しない。幕末のそうせい侯かよ。
「ではまず、私の作戦案から提示して行こう」
中将がこと細かく丁寧に作戦を説明していく。会議の流れは、中将が予め用意している作戦をテンプレートにして話し合うらしい。
他の鎮守府、そして従来のイージスやらなんやらを使う海軍基地を使って深海棲艦の本拠地と予想される三箇所を同時攻撃すると言うもの。頻繁に行動している為、総合で二倍の戦力と言う情報以外は分からず、片方だけを攻撃すれば他二箇所も守備を固める。ロシアと韓国の海軍が失敗した作戦を日本が継承、及び成功させる事で今後の貿易を有利に運ばせる、と言うものらしい。
っていうか第三次って……もう既にニ回失敗してんじゃねぇかよッ。前にも一度三国共同で負けてたし。
「ここまでは予想通りだとは思うが、今回は出来るだけ空母の出撃を抑えたいと思う。今回の作戦時刻をフタフタマルマルとし、夜襲でケリを付けようと思う」
「ふむ……本来ならば、夜戦であれば韓国海軍の必勝戦術。ロシア海軍の航空隊連携もななと聞いたが、流石にもう一度共同作戦を実行すること叶わぬか……」
「確かに、ただでさえ戦力が二倍と予想される日本海域の上、航空戦力はあちらの方が俄然優位……夜戦に特化した艦隊を編成し、三拠点に居る空母を叩けば……」
「だが相手もそれだけ言う訳ではないでしょう。もしも空母が居なく、あちらも夜戦特化の艦隊がいたとしたら……最悪、轟沈者が出るかも知れません」
「確かに死人は出したくない……消極的な作戦で成功できるとは言い難い。多少リスクがありとも……」
「突撃じゃァ!突撃あるのみじァ!!」
色々案を出し合ってる将校達に対して感じる事は、来週からかなりハードな事やらされるんだなって言う虚無感だけ。会議は踊る、そして結局一番最初か二番目の案が良かったと思うまでがテンプレなのに。
「だから空母と駆逐艦では戦力が違いすぎる訳でして……」
「夜戦ならばまず勝てる、それに軽巡や重巡も編成する故戦力的な問題は夜戦にて解消される筈だが?」
「だが、深海棲艦に重巡、軽空母の類がいた場合それでは劣勢の殴り合いとなって重大なリスクを伴う、どうしたものか……」
「突撃一番じゃァ!」
極力ローリスクを理想とする人と、多少のリスクがあっても!と考える人と、コンドームか……考えなんてまとまらないよ。
飛び交う言葉の中、隣の中将殿が俺に話しかけてくる。
「君は、どうすれば作戦をよくできると思うかね?」
「整備工作員で、しかも大尉の自分がこの場で発言するなど……」
「立場などに囚われなくてもいい、将校たちはあのように話し合ってる最中だ。私に君の案をこっそり教えてくれればいい」
出た、大抵下っ端の案なんて通らないし、通ったとしても俺の手柄にならないから結局俺にとって何の意味のない進言を要求しようとする人。
「ではッ……ごにょごにょ」
「ふむふむ……なるほど、面白いな。ありがとう」
「はっ!」
「皆聞いてくれ!少し作戦に変更点がある」
ーーー
ー鎮守府近くの病院。
「と言うのが、今回の大規模作戦の計画内容となります、蘇我提督」
「…………」
綺麗だろ?腹壊して寝てんだぜ、これ。
「ひぐ……えっぐ……ひ、比叡のガレーをだべだばっがりにぃ……!!」
「落ち着くデース比叡!提督はきっと帰ってきマース!!」
「勝手に提督を殺さないでくれるか?もし提督が目を覚まさなかったら俺が大規模作戦の指揮を取ることになるんだぞ?」
「そうなったら宍戸提督って呼んであげるよ。臨時就任記念に僕達の、ちょっとイイとこ、見せて、あ・げ・るっ」
「ふふっ、俺は君の妹の奸計にまんまと引っかかったバカ野郎さ。でももう騙されないからな……ッ」
「奸計なんてひどいですぅ……」
病室には俺、時雨、村雨、金剛、そして元凶である比叡が蘇我提督のベットを囲っていた。この病室の隣には班長が寝ていて、ゲイ三人衆に囲まれながら腰の治療を受けていた。
比叡のカレーが不味くて倒れたって聞いたときほどじゃないけど、驚く事に俺の案が採用された。作戦は、『何とか韓露に頼んでもう一度三国協力の元、日本海への補給線を断つ』と言うものになった。
三箇所の根城つっても深海棲艦の物資が大量にあるって訳じゃないし、そもそも日韓露海軍のバミューダトライアングルでそんなに粘れるものじゃないし。ただ補給艦を倒せば良いって話なんだけど、そんな簡単に行くんだったら苦労しないし。
だから多分すごく強い主力艦隊と補給艦隊が居るんだろうから、一旦主力艦隊を放置して北か南から来てる補給艦隊に集中するとかどうかなと伝えた。その後、色々戦術的な言葉を聞いたような気がするけど、そこは提督達におまかせ。
正直貿易を有利に進めるとか日本には居るはずのない有能な政治家らしい考え方で、多分無理じゃないかもしれないけど、あまり無茶をするとかえって損するし俺達の仕事が増えるからやめてほしい。結局一番最初の三国合同作戦がいい案だったんだ。
とかもっともらしい事言って、これを眠ってる蘇我提督に伝えた。そもそも整備工作員は戦って壊れた物修理したりメンテしたりするのが仕事だし、そんな下っ端の案を採用するなんて斎藤中将もとんだ野郎だぜ。
「ハァ……結局起きるまで休みの書類とか片付ける羽目になったし、アニメ見れなかったじゃんか……どうしてくれるんですか蘇我提督ゥ……?」
「提督を悪く言うのはノー!デース!」
「冗談だよ金剛……あ、そうだ!比叡、俺にもカレーを作ってくれないか?」
「「「……え?」」」
みんなは一斉に俺を見る。
「え、だ、駄目です!!提督をこんな風にしてしまった比叡に、料理をする資格はありませんッ!!ふえぇぇぇぇん!!」
……クソォ!俺も提督みたく眠りたかったのにィ!