整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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卒業式

 

 ー海軍大学校、数ヶ月後の卒業式。

 

 

 

『……大鯨!』

 

「は、はひぃ!」

 

 

 

『……秋津洲!』

 

「はいかも!」

 

 

 

『Prinz Eugen!』

 

「ハッ!」

 

 

 

『……結城真司!』

 

「ハッ!」

 

 

 

『……宍戸龍城!』

 

「ハッ!」

 

 

 

 卒業証書を順に貰い、着席し、代表がスピーチを行う手順はどこも変わらない。

 

 

 

『私達海軍軍人は、日本の平和と、国民の安全を守り続け、未来へ繋げる意思と希望を──!』

 

 卒業式の張り詰める空気の中、壇上にいる将軍クラスを物ともせずに大きな声でスピーチを行っている、凛々しく逞しき海軍軍人の姿があった。

 海軍大学校を首席で卒業した上、将来の超絶スーパー提督であり、多大な人徳と圧倒的な戦略眼を持ちながら、街に出ればその視線を独占しーーどんなヤツでも子宮か股間を唸らせること間違い無しの、アルティメット提督ことこの俺、

 

『以上!卒業生代表、秋津洲!かも!』

 

 ……の同期である秋津洲さんです。

 

 海軍大学校普通科の生徒よりも早い段階で卒業式を行っている俺たちは、提督育成プログラムの完走した段階にいる。

 卒業論文、再三に渡る海軍将校からの圧迫面接、補佐した提督達からの評と、そこで得た実績……実は、結構脱落した者が居たらしい。

 そいつらとは話していないのでノータッチだったが、あまり可哀想とは思わない。育成プログラムから脱落した者は海軍大学校の普通科へと移り、数ヶ月に及ぶ練習航海をする事になったのだとか。

 受け皿も用意されてる所を見ると、ちゃんとシステムがうまく作られているんだなと、改めて感心した。

 

 上の階には、最終的に15人ぐらいになった卒業生達の関係者が居る。列席者の殆どは海軍軍人だけど。

 お、あの金髪は柱島のジャーマンスープレックスことビスマルクさんだな?

 お、何故か三方を持ってるあの変な人は多分秋津洲さんの関係者だな?

 お、あの可愛くあざとい容姿を持つピンクヘアは春雨ちゃんだな?

 

 みんな真剣な眼差しで卒業式を見送ってるけど、観客席の人たちが滅茶苦茶濃い人ばっかで、そんな人たちが無言で俺たちを見てるって思うとニヤけるんだけど。笑いを堪えるのがやっとだぞ。

 そのせいで軍人すら滅多にお目にかかれない軍令部総長、荒木大将閣下が壇上で一生懸命話してるのに、その有り難い御言葉がお耳に入らない。

 

 大将が終わって、続いて出てきたのが斎藤中将だ。思えば彼が、俺を大学校に引き込んだ張本人だったんだよな。

 

『荒木大将閣下の育成プランは大きな成功を収めてくれました。これほど有能な将校を育成するに物足りず、ついには研修中に大成果を上げる将校まで出てくるとは……これは、前世代に対する辱めのおつもりかな?』

 

『『『HAHAHA!』』』

 

 昔の将校には英雄的な人が30年に一人ぐらいのペースで輩出されたが、それ以外がクソだったみたいな事を何度も聞いたことがあるな。

 国を一種のカルト的な信仰心で崇め過ぎたのか、或いは真面目に働くのが面倒になったのか……何にせよ、日本軍にとっては今が一番いい時なんだろう。

 俺的に、先人たちは悪い人ばかりじゃなかったとは思うけど。

 

 それより、俺の話題を持ってくるのはやめてほしい。柱島の事はミスだと思っているから、そのことを賛美されるのは無性に恥ずかしいんだ。

 ただ俺はあの作戦のお陰か、成績で優等を貰った。優等とは、次席のことである。

 

 え、秋津洲さんが首席で俺が次席……首位を独占してた七光り糞メガネこと斎藤中佐はどこへ行ったかって?三席まで落とされたんだよ。

 悔しそうだったけど、ここでの首席ってのはテストで点数を取ったからと言って一位になれる訳じゃないんだ。

 俺を含めた三人の元々実力が僅差だったし、こっちは柱島で凄い成果を上げたけど、秋津洲さんの方はコンスタントその上々な指揮能力を見せつけていたので、それが首席となった要因だろう。

 卒業論文と面接で追い抜いた可能性もあるが、それは置いておこう。

 

 

 

 ー外。

 

 卒業証書とか言う紙切れと、集合写真撮って、終わり!そして何か涙適当に流してフリータイム突入って訳には、残念ながらいかないんだ。 

 

 外に出て軍隊歩きをしながら威風堂々と海軍の威厳を見せつける卒業生達の前には大量のカメラフラッシュ。

 テレビも来てて、歴史的瞬間を手元の機械に撮影しようと必死に押しかける姿は正にマスゴミ。こいつ等が潰した人生は数しれず……でも必要だからムカつく。

 

「では御三方、ここに並んでくれるかな?」

 

「「「ハッ!」」」

 

「この三人が、提督育成プログラムの代表的な生徒達です。現在航海練習を行っている海軍大学校の生徒達を成績、実績で上回っているにも関わらず、これから地域の要塞を統括して提督になろうと言う者達です。この提督達に守られる地域住民は、さぞ幸運な事でしょう」

 

「……受け取れ」

 

「「「……ッ!」」」

 

 海軍大学校を卒業した……ってだけで名誉以外にも様々な特典とかバッジとかが付いてくる。

 しかし軍学校の成績優秀者には、恩賜の軍刀と言われるJAPANESE KATANAがもらえるのだ。首席次席だけでなく、成績が優秀だった者がもらう事となるこの軍刀は、事実上トップ3位を争ってた秋津洲さん、斎藤中佐と俺の三人が手にする事になった。

 これは陛下から直接受け取る事もある……というかそれがデフォルトなのだが、今回は代役である大将と中将がくれた。因みに陸軍大学校では世紀末のモヒカンみたいな頭飾りを付けることになる……陸軍じゃなくて良かったー!

 

 そしてポーズを取った瞬間パチパチパチパチパチパチィィィ!!カメラフラッシュの集中砲火!目に被弾!大破しましたァァ!!

 でも目を開けてないと駄目ってカメラマンにダメ出しされた!殺すぞハゲ。

 身長で秋津洲さんが凄く目立って見えるせいか、秋津洲さんにフラッシュが集中する。

 

 そして終わった後は国歌とか海軍の歌とか歌って、自由な行動が可能となるフリータイムへと突入する……と言うなのマスゴミインタビュータイム突入。

 卒業生のみんなに行くはずのインタビューは、まず最初は目玉からと言わんばかりに成績優秀者の元に押し寄せた。

 

「貴方は次席の宍戸龍城海軍少佐ですよね!?この度、歴史上異例な課程設立と言われている提督育成プログラムへと参加し、次席の座を手に入れた心境をお聞かせください!」

 

「国民の平和と安全を守る日本海軍へと半ば憧れを持って入隊したこの自分が、まさかこれほどの大役を仰せつかるなど、夢にも思いませんでした」

 

「事実上海軍大学校の上位相互ではないかと言われていますが、その点についてはどう思いますか!?」

 

「現在艦隊運用練習航海に赴いている同胞は、海軍省や大本営など中核を保つポストに付きやすいと聞きます。我々は各海軍要塞を統括し、最前線で戦う軍人ですので」

 

「あの安芸灘と瀬戸内を防衛した海戦で重役を担った研修補佐官が居たと聞きましたが、それはあなたの事でしょうか!?」

 

「あの海戦で誰が柱島の補佐をしていたかは関係ありません。どれほどの敵が来ようとも、打ちのめすのが我々の役目……しかし私言を放たせていただきますと、あれは柱島の提督による管理能力が、最良の結果に繋がったのでしょう」

 

「昔は同性の恋人が居たと聞きますが、本当でしょうか!?」

 

「いません。自分はノーマルビーイングです」

 

 ウゼェ……カメラフラッシュもウゼェ……!話しかけてくるなよもう……うなだれた顔で斎藤中佐や秋津洲さん達の顔を見つめ合う。

 この後も大将主催のパーティーがあるみたいだし、参加自由とか言ってるけど行かないと失礼だし、その後は提督同士の二次会とか行きそうだし、これらは多分全部強制参加だし……ダルいッ!

 

「お兄さん、大丈夫ですかぁ……?」

 

「あぁ大丈夫だよ春雨ちゃん。ただ答える必要のない質問までズカズカ聞いてきて来るもんだから、疲れちゃって……」

 

「ハハハッ!柱島にいた時の気迫はどうしたのよ!もっとしっかりしなさいって!」

 

「そうだぞ。君はこれから私の同僚となるのだから、これより疲れる事など山ほどあるんだぞ。その時は、私が力になろう」

 

「ビスマルクさん……蘇我提督……」

 

 うわぁ……これから提督になるに連れて、人脈も大事になってくるだろう。スタートオフにこんなにも頼もしい人たちが俺の後ろを支えてくれてるなんて……!

 蘇我提督は第四鎮守府の提督として強制参加だが、ビスマルクさんはオイゲンさんの関係者として参列していたのだが、

 

『大学校では異例である女生徒であり、艦娘としても外国人としても初の卒業生であるプリンツ・オイゲンさん!一言お願いします!』

 

『ダンケ!』

 

『現在彼氏は居るんですか!?』

 

『き、キエンこめんたーるです!』

 

 

 

『首席の座を勝ち取った秘訣をお聞かせください!』

 

『と、とにかく頑張ることかも!頑張ればなんとかなるかも!』

 

『提督候補から落ちた方々に対して一言お願いします!』

 

『お気のど……って、そんな事聞かないで欲しいかも!?』

 

 

 

『大鯨大尉、卒業おめでとうございます!現在彼氏はいらっしゃいますか!?いないのなら私などどうですか!?』

 

『は、はぅ……』

 

『おい退けよお前ェ!!ではせめてスリーサイズをお聞かせ願えませんか!?俺にだけこっそり教えてくれればいいので!』

 

『……〜〜っ!』

 

 見ての通り、オイゲンさんを含めて三人の艦娘は色々な人に絡まれていてとてもじゃないが話せる機会など無い。

 大鯨さんを見てくれ、恥ずかしくて指に罰マーク作って駄目ですサインを送ってるぞ。クソかわいい彼女の仕草に、轟沈者が続出している。そのまま死んでろおチン○ン共。

 

 ようやく少し人数が減り、ビスマルクさんや蘇我提督が他の卒業生達の所に行けるようになり、入れ替わるように近寄ってきたのが、多分提督として一番相応しくない結城だった。

 見る限りでは、コイツの周りにだけ取材班や将校が取り囲んでなかったっぽい。羨ましいな。

 

「よ!春雨ちゃんに宍戸じゃねぇか!どうしたんだよ疲れた顔しちゃってよォ!?」

 

「次席の座を持つ人間から言葉を引き出したい奴が多くてな?取材班や将校達に絡まれないお前が羨ましいぜ……」

 

「え?俺の所にも来たぞ?ただ挨拶がてらソイツらの後ろに立って、俺はレ○プとゲイの合体版ゲイプマンだ、お前の顔とケツのカタチは覚えたぞッ……って言ったら近寄って来なくなってな」

 

「そうなんだ。じゃあまずは俺に近寄るのやめてくれる?そのゲイプマンのおホモダチだと思われるのマジ勘弁って感じだから」

 

「はァ!?なんだよダチ公!?ただ取材の追手を逃れるためにやった作戦だろうがァ!?」

 

「じゃあもう少しマシな回避方法考えろよォ!?海軍の重役がお前みたいな変態ばっかりだと思われたらどうするんだよォ!?」

 

「変態でいいじゃん!!使えない常識人より有能な変態!国がちゃんと回ってればそれでいいじゃん!!」

 

 ……クッ!倫理的に凄く問題があるのだが、総合的に見て的を射抜いてる辺り反論できねぇ……!

 

「倫理的な問題だが、総合的には的を射抜いているぞ結城大尉」

 

「おぉ斎藤中佐!群がりたがりの輪から抜けてきたんスねェ!?」

 

「あぁ、報道陣だけに飽き足らず海軍将校や陸軍将校までもが私に寄ってくるとは……ここは高校の卒業式ではないのだぞ?」

 

 元陸軍将校であり提督となる男であり、その上父も現役提督ともなればゴマ擦りに行くのは当然だしな!

 

「へ、ヘヘッ……さ、斎藤中佐ァ……か、肩を、お、お揉みしましょうかァ……!?」

 

「貴様もか……言い忘れていたな、次席おめでとう。まぁ、貴様ならば当然だろう」

 

「え、ど、どうしたんスかいきなり?」

 

「あれほどの実績と海軍内部の評価を得ている貴様であれば当然だろうと思ってな。流石は私を負かした男だけはある……」

 

「剣道の時と、毎日やらされたチェスを相殺したら引き分けですけど」

 

「それでもだ。それに舞鶴の地域研修の際に、宍戸少佐は大勢居る中、チェスで秋津洲少佐に勝ったではないか……首席を打ち破り、現役提督からの信頼も厚い無名の次席として有名だぞ」

 

 そんなに目立ってるのか俺?悪い気はしないけどさ、悪目立ちするとどうしても不利になっちゃう事ってあるからさ、そんな超絶目立ちたくない。

 

「まぁこれでハンモックナンバーは手に入れたな。今後の活躍が楽しみだ」

 

「やっぱりお兄さんは最強です!」

 

「もちろんさ!でもハンモックナンバーとかどの時代の話しですか……」

 

 ハンモックナンバー……それは平たく言えば、出世する順番である。単純に成績の良し悪しで決まるため、昔の日本海軍が掲げていた学歴至上主義を代表する言葉の一つである。

 今は学歴差別だから言わないし、学校の成績が優秀だったからって同期よりも早く出世できるわけじゃないので、所謂死語の一種でもある。

 

「今は無いとはいえ、優秀な者にしか与えられない称号でもあるのも事実だ。恥じぬように、気張れよ」

 

「中佐も頑張って下さい、一応結城もな」

 

「俺はついでかよ!?……んん〜?」

 

「どうした?」

 

「いやサァ、時雨ちゃんや村雨ちゃんも居るんじゃないかって思ったけど……来てないん?」

 

「あ、姉さん達は……」

 


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