整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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柱島 イギリスの料理はUnwelcome

 

 ー工房。

 

「えーっとですね……ジス、キャン、ビー、イージーアー、ライク、ジス」

 

「「「HOLY SHIT!」」」

 

 聖なる糞と叫ぶのは外国人整備工作班。意味合いはスゲーとか、マジかよ!?とか驚いた時によく使う言葉なので、直訳した物にあまり意味はない。

 整備工作班のガチムチ男性三人衆(ゲイ)には、舞鶴で俺が整備を行っていた時によく使っていたショートカットを伝授して効率よく仕事ができるように教えていたのだ。

 

 執務の方は速攻で終わらせる。そして提督に褒められたが、出撃で成果が今ひとつないので嬉しくないのはお察しである。

 

 ガチムチの人たちは英語を喋っているので祖国はアメリカなんだろうと思うけど、この人たちの整備工作班の班長がこの人なんだよね。

 

「とっても、勉強になります!Merci!」

 

「Bienvenue!」

 

「え、あ、えぇ?」

 

 ……あれ?なんか間違ったか?なんだよ、思いッきりスカしてたのに凄い恥ずいじゃん。

 

 こちらが柱島の整備工作班班長の、コマンダン・テストさん。俺の人生の中で一人称がわたくし呼ばわりな人を見たのは熊野に次いで二人目である。しかしこっちの方が品がありそう……いや、絶対にある!熊野んには失礼だけどごめんね!

 美しい人だァ……そして髪が物凄くトリコロールな人だァ……この人への告白の言葉は、あなたの髪の毛で毎日俺の歯を磨かせてください!!で決まりだな。

 

「ふふふっ、上手くやっているようね」

 

「あ、オフコースですよオフコース!ウォースパイトさんも相変わらず麗しい……Beautiful eyes, just like my romantic past old days memory!(まるで我がロマンチックな過去のように!)」

 

「How could myself determine about your past be fulfilled with beauty?(あなたの過去が美しさで満ち溢れているとどう確認すれば?)」

 

「今の俺を一心不乱に見てくれれば、嫌でも分かりますよ……んま!」

 

 俺の投げキスを笑うウォースパイトさんは、脚を組みながら優雅にテーブルで紅茶を飲んでいる。上には数人分のカップとティーポットが用意されている、誰かと飲むつもりだったのだろうか?

 

「English pronounciation(発音)が相変わらず上手いわね」

 

「いえいえ、ウォースパイトさんほどではないですって!流石本場の米語は違いますなァ!」

 

「私はイギリス生まれなのだけれど?」

 

「ごめん、発音がアメリカ人っぽくてつい……でも本当に上手いっすよ?アイオワさんとか見てくださいって」

 

『Meのプディンッッッグ!!!』

 

『名前書いとけメリケンサックゥッ!!』

 

 あそこで叫ばれた少ない情報でもう何が原因の喧嘩なのか分かる。そして見なくてもその喧嘩相手が分かる所を見ると、もうここの環境に慣れてきてしまった俺がいる。

 状況適応能力とか、軍から賞賛されてもいいと思うんですけど。

 

 それにしても、アイオワさんは相変わらず凄く流暢な英語だなぁ……!

 

「あれはともかく、Shishidoは何処かでEnglishを習ったのかしら?」

 

「え?まぁ……昔、ね?」

 

「言えない過去でも?」

 

「フッ……まぁ、いい漢には言いにくい過去の一つや二つあるものさ……ドヤァァァ!」

 

「ハッハッハ!それもまたカッコイイではないか補佐官!ハッハッハ!」

 

 時雨がいたら、キモォォォッ!って奇声を上げてるところだけど、今回はパイプを咥えた愛国者ガングートさんが褒めながら来てくれた!キリッとした顔なのにちょっと童顔で、それなのに性格は女前とか惹かれませんかねェ!?

 

「Gangut、いかがかしら?」

 

「紅茶か!我が祖国では良くコーヒーと共に体を温めていたな!頂こう!ゴクゴクゴクッ!」

 

 熱湯をそんな勢い良く飲んじゃだめだと思う。

 

「どうかしら?British本場のTeaの味は?」

 

「うむ!よく分からん!しかし美味いぞ、хорошо!」

 

「煙草なんて吸ってるからよ……」

 

「ブリタニヤは煙草の本場のような物だろう!?現に私の吸っているのはダンヒルだぞ!」

 

「愛国者ならせめて祖国のを吸ったほうが……」

 

 煙草はあまり知らないけど、あの流れだとダンヒルってのはイギリスの煙草なのだろう。

 

「まったく、風味に敏感なんだな……味蕾はからっきしなくせに」

 

「わ、私たちの料理はまずくないもん!!」

 

「だ、大丈夫ですから、俺は知ってます!本当のイギリス料理は美味しいのがあるんっすよね!?」

 

「わたくしも知ってます!イギリス料理は美味しいです!」

 

「日本食とフランス料理に言われても嫌味にしか聞こえないわ……」

 

 ガックリと肩を落とすウォースパイトさん。いや、イギリスって行ったこと無いけどさ、帰ってきた奴らの統一した意見が「不味い」だからどうしてもそのレビューを信じちゃうんだよ。

 でも最近は、英国とはそもそも美食意識がなく、一定以上腹が膨れて栄養価が蓄えられればそれでいいと思える効率的な思考を持つ文化なのかも知れないと、専門家は言ってた。

 ロシア料理は美味しいのもあるけど、他のと比べて人気が無いのにもそれ相応の理由があるって事だ。

 

「だが私はイギリスの24時間レーションを食べた事はあるぞ」

 

「ど、どうだったかしら?」

 

「控えめに言えばとても不味かった。オートミールが特に不味い」

 

「じゃあ控え目に言わなかったら?」

 

「犬も食わない。これなら我が祖国が出しているちょっと高級そうな犬の餌っぽいカーシャの方がまだマシだぞ」

 

 どっちにしろ犬の餌じゃねぇか。

 話聞いててもクソまずい飯出されたら戦意喪失するわボケ。戦闘糧食は日本が一番!他の国ではアメリカ、フランス、イタリア辺りが他国から好評だ。

 何ていうか、味蕾のレベルが違うみたいな?

 

 しかし勘違いするなかれ。戦闘糧食というのは、あくまでジャングルとか砂漠地帯みたいな兵站が困難な状況下で人を飢え死にさせない為に作られた「生き永らえさせる」食い物なのだ。

 一日中動き回りながら何も食べずに我慢してたら、味に文句なんて言ってられないでしょ?

 

「Buon Giornov〜!なんの話かしら〜?」

 

「特に大した話はしてませんよ、ただイタリアの料理は美味しいな〜って話をしていただけです」

 

「それはそれは!嬉しいわね〜っ」

 

 この人はアクィラさんで、イタリアンファミリーの構成員。まったく……なんで外国艦はこうもボンボン!な人は多いんだ……おっぱいがそこら中にあるぜぇ……?

 

 こんな南国のパラダイスみたいな鎮守府はここだけ!それを体感できるのは今ここにいる俺だけ!

 

 大学校の同期はみんなはどうしてるのかな〜?まぁ、俺ほど鎮守府の研修を楽しんでるやつはいないと思うけど?ハッハッハ!

 

 

 

『まさか呉鎮守府に当たるなんて思わなかったかも!提督とまた一緒に仕事できて嬉しいかも!』

 

『大鯨もですっ!短い間ですが、一生懸命学ばせていただきます!』

 

『はは、そう言ってくれて嬉しいよ。確かあの柱島鎮守府へ君達の同期を送ったのだが……彼は大丈夫なのだろうか?』

 

『誰かはわからないけど、提督育成プログラムの人たちはみんな凄く濃いかも!だから大丈夫かも!多分!』

 

『た、たぶんって……』

 

 

 

『……それでですね?合コンの勝率を上げるには年収を言うのが最も確実な方法なんですって!巷で言う年収一千万、実は税金や受けられる社会保障がかなり激減する一方で海軍は寧ろ手当がついて実質3割増し!その事を言えば最早その場の主人公ですって!』

 

『それじゃあ金で釣られるアバズレしか釣れないじゃないか……俺を誠に見てくれる、大和撫子を……』

 

『なにナマ言ってるんスかァ!?しかもいつの時代の常識掲げてんですかァ!?今の世の中はフリーセックス社会!最初はおマ○コとおチ○コが握手して、そこから始まるロマンス!それが男女の挨拶みたいなもんじゃないですかァ!?』

 

『し、しかし……』

 

『あぁ焦れったいィ!じゃあ試しにここの艦娘でお手本を見せます……おーい!そこのロリがかったカーノジョー。俺、年収は実質一千万、未婚、イケメン。はいこれで股間同士の握手決定ね』

 

『はい通報決定ね』

 

『Nooooo!!あ^〜(通報は)だめだめだめだめマジでヤメテイ』

 

 

 

『では今日もよろしく頼むよ』

 

『『『ハッ!』』』

 

『あ、あの!私はどうすれば……』

 

『オイゲンくんには大和と武蔵の書類の手伝いをしてほしいんだ。彼女達から学んでくれた方がいいと思ってね、教えるのは得意じゃないし』

 

『わ、分かりました!だ、ダンケです!グロースアドミラールさん!』

 

 

 

 ……しかしだな、一つ思った事がある。

 

 これから提督と成りうる有望な提督候補は、今までの歴史の中で……いや、かなり早いスピードで将校への道が切り開かれている。

 

 共に学業をこなし、個々の才能を肌で感じていて俺は理解していた。提督候補生達はみんな優秀であり、指揮官となる権利を誰もが所有していたと断言していいほどの裁量を持っている彼らは、俺なんかよりもずっと資格がある。

 

 普通ならば安全に、そして安定を求めて無理に出世街道を駆け登るような真似はしない。常務の忙しさに加えて、それ以上にストレスや努力を必要とし、もしかしたら失敗するかも知れないリスクも背負っているからだ。

 

 若き指導者の卵は、それ故に今ひとつ目立たない。最初に開けた卵パックからは、勿論手前の方を選ぶだろう。だがもしも、一つだけ茶色のがあったらどうだろうか?最初に割られるかはともかく、他のやつよりは明らかに良さそうに見えるのではないだろうか?

 

 つまりあれだ。あまり目立たない俺が滅多に得られない経験体験をして実績を得たら、海軍内での名声も上がるかもってこと!

 

「両艦隊、呉艦隊を確認できたようです!」

 

「じゃあ宍戸少佐の作戦通りに砲雷撃戦開始……でいいのかな?」

 

「はい。念のため再出撃及び補給の準備をするようにと整備工作班にお伝え下さい。自分は大本営に本作戦内容の説明文等を予めしておきますので」

 

「う、うん、分かった……始めていいよ!」

 

『『『Gooootoheeeell!!』』』

 

 

 

 

 ……防衛戦ってさ、突然やってくるもんなんだよ?冗談抜きでさ。

 


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