整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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陸軍さん3

 

 ー舞鶴、道場。

 

 To be continuedじゃなくて、To be determinedだろうが。俺は一回も了承してないぞ、決断ぐらいはさせろよ……まぁ受けるつもりだったので、待つ必要はないけど。

 

 クソ七光り野郎にはともかく、提督達にはかなり迷惑を掛けたと思ったけど、『流石は宍戸くんだ、割り切れない関係を勝負事に持ち込んで分かり合おうとするとは……』とか、何処かしら勘違いをしてくれているようだ。

 蘇我提督も、『私達の時代は、気に入らない事があると殴り合って解決していたんだ。そしてそうやって……仲間を作るんだ……』とか言ってた。

 

 今の時代はそんな事すると必ず警察、親、裁判に持ち込もうとするから、番長時代を懐かしんでいたのだーーとも言っていた。殴り合って解決するとか海外かよ?ほら、よく動画で見るヤツ。

 確かペルーには喧嘩祭りなるものがあるらしいけど、素手で顔を殴り合うのよりかは剣道の方が寸分マシか。

 

「ハァ……なんで僕まで?僕関係ないよね?」

 

「剣道やった事がある奴、少ねぇんだよこっちは。お前と熊野以外は俺しかないって……だから特別ルールの3on3なんだろうが」

 

「わたくしも多少かじっている程度なのですが……それに、淑女であればこんな野蛮なスポーツはーー」

 

「おいおい、フェンシングは野蛮だってのか?」

 

「ふぇ、フェンシングは全く違うスポーツでしてよ!?」

 

「違わない。東洋か西洋の違いだけだぞ」

 

 海外ではな、ジャパニーズフェンシングって言えば大抵通るんだよ。貴族がフェンシングするイメージがあって、剣道は庶民が汗を吹き回しながらするって風潮があるから高級感が薄れるのだ。

 

 そんな汗を飛ばしまくる剣道は、団体戦と言うものが存在する。基本5on5だが、やれる人が時雨と熊野と俺しかいないので、3on3のルールとなっている。後のルールは同じだ。

 

 誰かもう一人ぐらい剣道してる奴居るだろうが、出てこいよ。

 そんなジョーカーも、この試合を一目見ようとする敷き詰められる道場の人混みに隠れているんだろうな。

 

 まぁ出たくない気持ちは分からなくもない、なにせ陸軍と警察は毎回全国大会を独占する奴らだからな。

 ……大抵は警察の人に持っていかれるけどね。言ったら怒るだろうから控えておく。

 

 何はともあれ、この試合は今後の威厳に関わる。

 

「あんな強い人達と戦いたくないよぉ……宍戸くん、これ終わったら」

 

「あぁ奢ってやるよ、一品だけだぞ?」

 

「当然だよ、僕にこんな汗臭い事させて」

 

「整備の仕事はこれよりマシだってのか?」

 

「あーそう考えるとこっちのほうが楽かも」

 

「シッ!始まりますわよ」

 

 防具を着て、あら方用意して、対戦相手の前に整列する。

 

『両者、前!』

 

「「「…………」」」

 

「貴様はこの私が潰す……」

 

「フラグですよそれ」

 

「フラグ……なんだそれは?」

 

「知らないならいいです……」

 

『正面に、礼!お互いに、礼!』

 

「「「よろしくお願いしま〜す」」」

 

 

 

『時雨姉さん!宍戸さん!頑張ってぇ〜!』

 

『お兄さんあとでその手ぬぐい下さい!!』

 

『くまのんがんば〜!』

 

 礼して解散した直後に湧き上がる歓声と共に、いつの間にか譲れない海軍vs陸軍の戦いがスタートを切る。

 俺も胴を手で叩きながら後ろへと下がり、次の試合を待つ。

 

 先方は面を着けている熊野が行く。ウォーミングアップを済ませた時雨は次に備え面を取り、熊野は蹲踞した後に立ち、始めの合図で剣道恒例の威嚇(気合)をする。

 

「では、始め!」

 

「とぉぉぉぉおおうおうおう!!」

 

 

 

「……ブフッ!」

 

「なんだあの叫び方……」

 

 時雨を含め、野次馬共も大半は笑いを堪えている。笑わせて油断させようとしているのか?いい作戦だ俺もやりたい。

 

 ……後に鈴谷から、これは出撃の時でも発する熊野特有の雄叫びだと知る事となるが、それは後ほど。

 

 とにかく、いま分かった事は、

 

「一本!勝負あり!」

 

「ひ、ひぇぇ……強ぇぇ……流石、社会人」

 

 熊野が一瞬のうちに二本取られた事だ。相手は大会上位に行ったすげぇ人だから、そりゃ負けるわ。

 

「申し訳ありませんわ……」

 

「いいよいいよ!熊野すげぇ頑張った」

 

「そうだよ熊野、僕がアイツラァから敵取ってくるからァ……!」

 

「「お、おおう……」」

 

 時雨の気迫に圧倒される。やっぱり仲間思いだな時雨は、絶対敵には回したくない。

 熊野と同じように蹲踞、そして構えて、

 

「メェェェェェェェェェエン!!!ドォォォォォ!!コテェェェェェエエエエエ!!!」

 

「一本!」

 

 すげー……小手からパッシーンって音がした。中々鳴らないぞあんな音。

 

「メェェェェェェェェンッッッ!!!」

 

「一本!勝負あり!」

 

 一瞬にして勝利した。面を打たれた相手選手が一瞬だけグラついたのが気になったけど、大丈夫かあれ?その犠牲の上に君臨する時雨さんが帰ってくる。

 

「ハァ……ハァ……勝ったよォ……?宍戸くんも勝たないと……殺すから……ハァ……」

 

「あ、あぁ!楽勝だし!」

 

 プレッシャーかけてる自覚ある?両者とも一瞬にして勝敗を決した故に来た大将戦。

 普段剣道何てしない女の子に打ちのめされた相手は、深い傷を負わ無いことを願い、俺は中佐と対面する。

 

「「「…………」」」

 

 騒ぎ立てていた道場は一瞬にして静まり返る。これができるのは、集団意識の高い日本人だからこそできる事だ。

 剣道では反則になる勝利後のガッツポーズも控える事を頭に入れておき、審判からの始めの合図を待つ。

 

 呆気なく終わった二戦とは打って変わり、どう転ぶか分からない緊迫した雰囲気が辺りを包み込む。

 

「「…………」」

 

「では、始めェ!!」

 

「「ヤアアアアアアァァッッ!!」」

 

 

 

 

 

 ーー陸軍第一六師団二十連隊隊長ーー

 

      斎藤 中佐

 

 

 

「「メェェェェェェェェエン!!」」

 

 初撃は双方頭上の面に竹刀を振り下ろすが、案の定有効打にはならず鍔迫り合いへと発展。衝突するお互いの小手、そして鍔を交互に打ち合い、一旦離れる。

 

『頑張れ宍戸くーん!』

 

『負けるなよ副班長ォ!!』

 

『やってやれ隊長ー!』

 

 間合いを詰める。竹刀の先が当たるか当たらないかぐらいの、遠い距離。指先一つ詰めるだけで変わる状況、それが剣道だ。

 

「突きィィィィィィ!!」

 

「うお!!」

 

 顎下の打突部を強襲する攻撃「突き」は、無理な距離もあってか首の下をすり抜けていく。しかし、万が一避けていなかったら確実に一本取られてた。

 

「ふぅ……アブねぇッすよぉ中佐ァ……」

 

「試合中だ、口を慎め」

 

「うるせェ!ドラゴ○ボールだって三分って言っておきながら何時間掛けてんだってぐらい戦ってたじゃねぇか!」

 

「その間の会話はサ○ヤ人にしかできない超高速お喋り……我々とは桁違いだ」

 

「人間でもその戦闘過程を実況してる時あるじゃねぇか」

 

「クリ○ンの事かぁぁ!」

 

「止め!二人共、反則一回!」

 

「「すいません……」」

 

(※剣道では試合中に会話しても反則となります、間違っても会話はお控え下さい)

 

「では、始め!」

 

「「ウラアアアアア!!」」

 

 やり直して、再度間合いを詰め始める。初撃同様、面で交わる竹刀は当たるも有効打には成らず。思い切って面から小手を振り下ろし、再び面狙いで刺し面を食らわす。

 竹刀で交わされ、面返し胴は近すぎる距離で当たらず、再度鍔迫り合いに戻る。

 

『『『…………』』』

 

 接戦は見る者を魅了し、道場内の雰囲気が一気に静まり返り、空気が振るわれる竹刀へと集中する。

 

「……フッ、面ェェェン!!!」

 

「ウ……」

 

「一本!」

 

 身を一ミリ引いた一瞬を突く、大きく振りかぶられた引き面が頭上に炸裂し、すり足でありながらの高速移動。音よし、痛みはない、対応できなかった……完全な一本だ。

 

『まだ大丈夫だァ!二本取ったら巻き返せるぜ!』

 

『お兄さん頑張って下さい!そして私の事も巻いてください!』

 

『勝ったら俺たちがすげぇエロい事♂してやりますから!』

 

 結城か、アイツも剣道やってたと思ったけど、すっかり忘れてた。春雨ちゃんの巻くってどういう意味だろう?まぁ後で布団にでも巻いて遊んであげよう。最後のはすごくいらない。

 

「二本目、始め!」

 

「「オラァァァァァ!!って、痛ェェェェエエエ!!」」

 

 二戦目は両者共に、逆胴を繰り出す。しかし奇しくも当たらなかった竹刀は45度の角度で脇下を強打する。

 相手もそうだと思うけど、痛い。ボーラのフルスイングを受けたみたいな脇痛が腹にまで浸透する。

 

 立て直し構え、突き面の後に再び胴を繰り出すが、一本にはならず。相手も尖い突きを穿ち、面へと連鎖させるがそれを交わす。

 時が進むに連れて、突きの挙動が多くなって来たその頃、俺は前の結城の言葉によりあるひらめきが頭を過る。

 

「ハァ……突きィィィィ!!」

 

「待ってたそれを!フンッ!」

 

「な、なに!?」

 

「止め!反則一回!一本!」

 

『よし!やったな宍戸!』

 

『宍戸さんカッコイイです!!』

 

 

『この接戦、実にいい……そうは思いませんか蘇我提督?』

 

『はい、我々が切磋琢磨していた時期を思い出しますな中将』

 

 剣筋を大きく回し、竹刀を宙に舞わせるこの攻撃は巻き上げと言う。

 先程の反則と合わせて二回となり、一本へと繋がる。しかし奇襲技とも言えるこれはもう出来ず、俺はあと一回反則になったら一本になるから事実上あっちが有利だ。

 

「三本目、始め!」

 

「「コロオオオスッッッ!!!」」

 

 気合ってそれっぽかったら何言っても良いんだよね。その言葉に連なり、俺も中佐も殺す気で行く。

 

 双方、突きを穿つ。小手面に続き、鍔迫り合いを経て引き面。突き面、そしてフェイントで胴を打ち込むが交わされ、後ろから迫る面を上にかざし防御。

 互いが持つ全技をラッシュで与え続ける。その連撃、打突、大技の一挙手一投足に誰もが息を呑む。

 飛び散る汗は床を塗らし、舞わされる竹刀が辺りに疾風を巻き起こす。

 残り時間が30秒を切り、お互いの攻勢は加速する。睨み合い、一歩も譲らぬと牽制して構えのポジションで膠着する。三分とは短い試合時間かとも思えるが、この緊張感の中でそれだけ暴れ続けられる奴はハッキリ言って人外だ。だから今みたいに息切れも起こす。

 

 ……見ている女の子達はすげー心配そうな顔で俺を見つめている。クゥ〜可愛いなもう!俺が負けちゃわないか心配なんだな。大丈夫!このクソメガネなんて今すぐブッ殺してやるから!

 

「フゥ……胴ォォォ!!!」

 

「っ!」

 

 迫り来る動作は一旦面を思わせるかと思いきや、勢いに乗った逆胴が脇腹を通過する。外し、そのまま後ろを見せたまま残心で逃げようとする中佐を追いかける。

 少し距離を開けてから振り向き様に秘技、飛び込み面を浴びせよう。

 

「ふ!……うぉォ!」

 

「締めた!」

 

 中佐は振り向きに勢いを付け過ぎたせいか、身体がよろける。最後の最後でコイツは足元をすくわれた、やるなら今だと、頭上に開いた面が語りかけているように思えた。

 悪いな中佐ァ……この勝負、勝たせてもらうぜ!

 

 そう胸の中で呟き、最適な距離から会心の飛び込み面をしようとした、その時だった、

 

 

 

 脳内に、俺の爺さんとのある思い出がフラッシュバックする。

 

 

 

 

 

 『ジジイ、何見てるの〜?』

 

 『おぉ龍城か!いやなに、バードウォッチングならぬ、人間観察じゃよ。見よあの尻、そして胸を!マッコトけしからんわい』

 

 『嫌な顔してるよ〜?』

 

 『分かっとらんなガキンチョが、あんな胸元開けさせたエッロイ格好しておきながら見られるのが嫌だなどと、矛盾してるにも程があるワイ。そうは思わんか?』

 

 『でも嫌な顔してるよ〜?いい加減看板の後ろでコソコソ見るのやめようよぉ……』

 

 『いいかクソガキ!オナゴの胸は男を吸い寄せるバキュームなんじゃ!ツガイを引き寄せて交尾するための、言わば客引き道具。その性、その本能故に、男はこれに抗えない……』

 

 『おっぱいってそんなに凄い物なの〜?』

 

 『そうじゃ。あの乳首が隠れたデッカイプリンには、男を惑わす特殊能力が秘められておるのだ。お前も大人になれば何れ分かるだろう……デッカイおっぱいが揺れれば、お前は嫌でも目で追わざるを得なくなる。例え一瞬でも、ゴルゴンの目を向けられたかの如く、男なら誰もが持つ股の龍が膠着するように……な』

 

 『わかったよジジイ!おっぱいが大きな女の子はみんなメデューサなんだね!』

 

 『フム……まぁそう言う解釈も、悪はないな──』

 

 

 

 

 

 面を打つ瞬間、視界の端に、

 

『宍戸さぁ〜ん!頑張れっ、頑張れ〜っ!』

 

 村雨ちゃんの大きなプリンが、ぼよんっ!ぼよんっ!と揺れていたのだ。

 チアリーダーのみたいに俺を応援してくれてた村雨ちゃんの胸が、見たことないぐらいの上下運動で、ぼよぉんっ!だせ?

 

 いやさ……そりゃ見るでしょ?

 

「うおっ!」

 

「ン……胴ォォォォォ!!」

 

「一本!勝負あり!」

 

 体勢を立て直され、見事な逆胴勝ち。湧き上がる歓喜の声、そして敗北した俺が残された。一瞬の不覚が、相手の一瞬の不覚により逆転すると言う正に主人公的な勝ち方をされた瞬間だった。

 

 再度お互いに礼をして、戻って防具を外すと、

 

「僕、言ったよね?負けたらどうなるかって」

 

「負けたらブッ……じゃなくて、メシ奢るとかだっけ?分かってるって!だからその木刀で俺をブッ殺すのだけはやめてくださいお願いしますお願いしますお願いしますオネガイイィ!!!」

 

 竹刀はいいけど木刀はやめて。どっから出したのそれ?

 でも楽勝と言った手前、負けているのは本当に申し訳なく思ってる。特に、彼女の責任では無いとは言え、村雨ちゃんの胸が視界に入ったから動作が止まった……なんてクソみたいな敗因を、事実として作ってしまった事に負い目を感じる。

 

「大丈夫ですかお兄さん!?」

 

「おいおい!副班長様の土下座だぜ皆!撮れ撮れ!」

 

「やめろォ!でもマジでゴメンみんな」

 

 気づいたら俺の仲間に囲まれている……とは言っても、大半は試合の口論で夢中だけど。普段剣道しない副班長勝ちだ!いや、試合の結果が全てだ!とか色々言ってるな。

 

 時雨には土下座して、みんなにも謝る。鬼の形相で見下してくる時雨圧倒されて顔を上げれないけど、横から春雨ちゃんが手ぬぐい持っていこうとしたのと、村雨ちゃんがそれを止めてるのが見えた。

 確かに洗うのは村雨ちゃんだから村雨ちゃんに渡しとけばいいか。

 それにしても、クソジジイとの思い出がこんな形で俺を害するは思わなかった。

 

 そして勝ち組である陸軍中佐様がこちらへ歩み寄られる。

 

「……宍戸大尉」

 

「このク、コホンッ……いやはや、流石は中佐殿。文武両道とは正にこの事、自分の完敗です」

 

「何故、あの時少し留まったのだ?技を外して体勢を崩した私に情けをかけたつもりか?」

 

「え」

 

「それは私も気になった所だ。何故、宍戸くんの動作が遅れたのか……部下が負けたとは言え、その敗因を徹底して追求するのもヤボかとも思うが……」

 

「え、いやその……」

 

「君が私の自慢の息子に手を抜いた……とは到底思いたくはないが、やはり気になる。何処か体の調子が悪いのかな?」

 

「そうなの宍戸くん?」

 

 

 

 ……そんなの決まってんだろ?

 

 

 

「む、村雨ちゃんのおっぱいがチラッと視界に入ったからです!」

 

「何!?海軍の片隅にも置けない奴だな君は!」

 

「提督候補から除外するか……」

 

「ひ、ひどい……!村雨……なにもしてないのに……うぅ……!」

 

「村雨を泣かせたね?宍戸くんには失望したよ……これはもう冗談抜きで殺すしかないね。出番だよゲイ三人衆」

 

「「「いただきます」」」

 

「Noooooooooo!Help!Helpmeeeeeeeeeeeee!俺のテイソウがァァァ!!!」

 

 そして俺は便器になって、性癖も改造されて、ウリセン一本で生きていくことになったとさ。

 

 

 

 

 

 などの展開は冗談抜きで避けたい。

 正直に言ったら殺されるし、下手な言い訳は通用しない。提督や時雨達に睨まれる中で出す答えは……ファイナルアンサー?

 答えのないクイズは嫌いなんだけど?

 

「……中佐達へ華を持たせたかったからです」

 

「……では君は、息子に手を抜いたと言うのかね?」

 

「それも違います」

 

「どういうコト宍戸くん?」

 

「皮肉にも深海棲艦のお陰で、海軍ってのは陸軍より武功で目立つ。それは本来持ちつ持たれつの両軍にとって、偏りを生む。自然と出来た海主陸従の雰囲気は中々消せない。だから、ここは陸の方々に今一度勝利を取ってもらい、バランスを取ってもらおうかどうかーーそんな思考が一瞬なりとも頭を過り、一瞬の不覚へと繋がってしまったのです。もし中佐殿の反応がもう少し遅れていたら自分は勝ちに行っていたので、普通ならあり得ない失態です」

 

「なるほど、あくまで一瞬の気の迷いが敗因を生んだ、と言うのか……」

 

「優柔不断な自分を責めるばかりです」

 

「うむ。まぁあそこで話している部下達は、君の思惑にまんまと引っかかったみたいだぞ?」

 

 なんやかんやで話し合わない方向から、喧嘩腰でも会話をするようになってるのは事実だ。この後打ち解けるかはさておき、俺は自分の役目を一応果たした漢として、そして意図せずだが相手を立てた漢として印象を残す……のか?残ってほしいけど。

 あ、あぶねぇ……何も浮かばなかったらガチで本音を答える所だった。ほら、米国初代大統領ワシントンが子供の頃、桜の木を間違えて切って素直に話したら許してくれたみたいな話あるじゃん!所詮は作り話だけど。

 

「……フンッ」

 

「あ、ちょ!」

 

「すまんな、せがれは負けず嫌いなのだよ。私があとで話しておくから、君はシャワーでも浴びてくるといい……良くやってくれたね、このまま引き続き頼むよ」

 

「は、はい……」

 

 斎藤親子が退出。ついでに蘇我親子や他の仲間達も道場を出て行く。俺と時雨姉妹はポツンと道場の隅に残された。

 

「お兄さん大丈夫でしたか?頭痛くないですか?スンスン……っ」

 

「あぁ痛みとかないから全然大丈夫だよ。それより今汗臭いからあんまりくっつかない方がいいと思う」

 

「そうですか……」

 

 とか言って離れようとしないんだけど。

 

「ハァ……初めから負けるつもりで楽勝とか言ったの?」

 

「……フッ、さぁーてどうだろうなぁ?」

 

「何スカしてんのムカつくんだけどシネ」

 

「あ、あははっ、流石にそれは言い過ぎだと思うけど……でも、剣道してる宍戸さんも凄くカッコよかったですよ?素敵ですっ」

 

「そんな事言ったら俺毎日剣道しちゃおうかな〜?」

 

「仕事の後にやる体力があったらやってもいいよ」

 

「じゃあ結構です」

 

 どんな仕事も終わった後はキツイ。休めと訴えてくる体には逆らえない。それは人間が身体という器に支配されているからだ。だから三大欲求である飲み物や食べ物一つで発狂したり、殺し合ったりする所もあるんだーー身体が欲しがってるものだから。

 だから春雨ちゃんはもうちょっと俺から離れたほうがいいと思う。胸とか脚とか当たってさ、柔らかくて俺イキそう。

 

『おいおい、俺たちの副班長舐めてもらったら困るぜ?ルービックキューブ2分で解けるの、あの人しかいねぇんだぞ?』

 

『バカ言え、こっちはルービックキューブ回しながら円周率100桁以上言える凄腕がいるんだぜ?』

 

『そんな円周率なんて覚えてもなんの得もねぇぜ。まぁ俺は300桁まで覚えてるけど?』

 

『テメェお勉強箱のくせにチョーシこいてんじゃねぇぞォ!!』

 

『ハァ!?なんだそれ意味わかんねぇぞ!?』

 

『おい、お前ちょっといいケツしすぎじゃねぇか?流石陸軍で鍛えてるだけあるな。後で貸せよ』

 

『え、ちょっとそれは……』

 

 

 

 

「……戦いが終わって、いい試合だったねで終われるほど楽じゃねぇか」

 

 

 その後、20連隊との間を取り持つ役としてひとり一人順番に話しかけまくったのだった。

 

 可愛い艦娘達が話しかけると目の色変えるのは、少し即物的すぎとも思ったけど、案外それで順調に事を運ばせることができた。

 あの娘の好きなものなに?あの娘って彼氏いるの?とかの情報を男に聞くので更に話題が増え、いい傾向を見せる。

 俺はこの試練を乗り切った事でその疲れが一気に来て、部屋に帰ったらベッドにぶっ倒れる。

 

 因みに一番人気があったのは、海陸両方から話しかけられていた春雨ちゃんだった。次いで村雨ちゃん、そして如月と順を追っていく。ランキング基準は単純に話しかけられていた人数で決めた。

 春雨ちゃんはまだここの所属ではないので、明日には帰らなくてはいけないのが悔やまれる。

 

 

 

 

 

 

 でも大丈夫。

 

 この二週間後、春雨ちゃん達が晴れて卒業式を迎えて、俺たちの鎮守府に配属となる事が正式に決定されたのだ!わぁ〜い!

 


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