障害物競争の結果に驚く者がほとんどであり、途中から一位予想をやめた物もその割合に含まれる。また、海軍士官の各グループの間だけで行われていたトトカルチョでは倍率的にも2倍以上は行かなかったため、いい儲けにはならなかったと嘆く者もいた。
圧倒的ッ……一位ッ……!
ガッツボーズで拳を天に突きつけたまま、漢はヴィクトリーロードを歩く。
他の選手を素通りする、強者の姿勢。
称賛ッ……圧勝ッ……最強ッ……圧倒的、最強ッ!
真っ先に向かう、古鷹の場所ッ。
圧倒的っ……漢感っ……圧倒的っ……彼氏感っ……!
オス共っ……劣等感っ……漢に対しっ……嫉妬っ……!!!
ベンチに座る艦娘……感嘆……神……降臨……OMATA……濡れるゥ……!!
「勝ってきたよ、俺の古鷹」
「俺のッ? じゃ、じゃなくて、凄いです宍戸さん! ちょっと怖かったですけど……」
村雨ちゃんが今チラっと見せた顔のほうが100倍怖いよっ。
「宍戸くんって障害物競争すごく上手いよね、僕でも勝てないよあんなの」
「障害物って避けるの楽しくない? 目に見える障害物を身体で避ける安直さと、それをいかに早く避けるかを考えながら、その先にある障害物を避ける計算をして、スピードを図る……奥深さがある。金になるなら障害物競技争世界大会選抜選手になるのもやぶさかではない」
「調子にノリすぎっぽい」
「いやいや、あの走りならちょっと練習すればスグなれるんじゃない!?」
陽炎の言う通りだ、俺は最強、圧倒的なんだ。
昔から地味に好きでこれだけは常に一位を取っていた覚えがある。
まるで人生みたいな競技であり、足や棒で玉遊びする競技より断然オリンピックに相応しいと思う俺だが、金の集まりは良くない。金メダルよりも金(Money)が重要って、はっきりわかんだね。
「司令が置いていった爪痕は深い様子ですが……」
『な、なんでだ……!? 宍戸大佐はあまり運動してないと想定してたのに……! いや、短距離走でも俺に勝ってたんだから運動能力は問題ない……だが、この俺が得意な種目で敗れるなんて……いや、流石は大佐……いや、でもこれじゃあ古鷹さんへのアピールが……いや、でも……って、古鷹さん!? な、なぜ大佐と一緒に……!?」
『フフフ、安心してください。あの方は特別です。Shigureも含めて、この佐世保鎮守府開催の運動会を圧巻させるのは、あの二人と決まっているのです』
『だ、誰ですか貴方は……』
『私はAJAX。色々な意味で、Faptainの右腕です。ふむ、貴方も中々……クッ! クソッ! 悔しそうにケツを突き出しやがってッ! ……いいえ、私は誇り高きBritish American! 紳士たる行動を信念とする者! 惑わされませんよこのIncubusッ!』
『は、はぁ……?』
2位との圧倒的差、これはもう立ち上がれないだろう。
更に俺が古鷹と接点がある様子を見せつける。
だが、完全なる勝利とは、考えられるすべての要素に”勝ち”を得てから貰える称号であり。完全勝利には時間と何らかの犠牲が伴うのは必定。少尉みたいな一途と言い張りながら目移りの早い尻軽男の子には、少なくても仲間としての古鷹を譲れる気がしない。
「夕立ちゃん、明日の計画は順調に進んでるよね」
「っぽい! とは言っても、宍戸さんが古鷹とデートするだけなんだけど……古鷹はスケジュールを開けておいたっぽい?」
「あ、うん! 問題ないですっ」
「じゃあ夕立艦隊、一旦帰還っぽい!」
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金メダルの授与と閉会式を終えた直後、古鷹は鎮守府内の廊下に呼び出されていた。人気のないスペースは普段からあまり使われておらず、通るのは巡回中の警備兵か総司令に用事のある古鷹ぐらいだ。
均整の取れた肉体と人々をテレビ越しに惹きつける甘いマスクで多くの女性を惑わしてきた海軍士官、近衛少尉。
今日来た理由はその意中の人の下へと馳せ参じる為であり、運動会で彼と、大湊警備府の実力を見せつける為でもあったが、彼にとって所属云々は塵よりも意識価値が低かった。
「古鷹さん……俺の活躍、見てくれてましたか?」
「あ、は、はい! とっても良かったと思います!」
「ははは……出場した全種目で宍戸大佐には負けてしまいました、それでも俺は……大湊のために、何かできたんじゃないか、って思いました。貴女に、この想いを伝えるためにも……」
「……銀賞、おめでとうございます。では、そろそろ行きますね」
「ま、待ってください!」
「きゃ!」
「あ……」
不意に手首を掴んでしまった事に気づき、すかさず離した。このような所で乱暴な真似をしたら、誰にも気づかれない以前の問題である前に、紳士的な態度で臨んでいた彼の一貫性が崩れるからだ。
「す、すいません……でも、俺の気持」
「す、好きな人がいるのでっ!!」
「……え?」
「す、好きな人がいるんです……だから、ごめんなさい!!」
「あ! ……行ってしまった」
赤面してしまった古鷹は彼の返答を待たないまま立ち去ってしまう。
この時点で既にフラれた事になっているのだが、今まで一度もフラれたことの無い彼にとって、プライドの許しがたい事案だった。一度だけ落胆をするも、あと一日だけ佐世保にいる間、必ず落としてみせる……総司令官の娘という肩書は羨望的であり、彼女本人の魅力以外に惹かれた部分があった事は否めない。
彼の人生の中で一、ニを争う大きな獲物は、なんとしても愛したいと思っていた。
廊下のど真ん中で盛大に立ち往生していたので、顔を見ずとも彼が近衛少尉だと言う事はひと目でわかった。
夕立は気さくに肩を叩いた。
「うぉ! ど、どうしましたか?」
「どうしたもこうしたもないっぽい! 廊下の真ん中で立ち往生なんて邪魔っぽい!」
「す、すいません! すぐに退きます」
「違うでしょ夕立、あなたに話があって来たんです。明日、予定はありますか? もし良ければ村雨たちに付き合ってくれませんか?」
「え、予定はありますけど……」
「そうなんだ、ならキャンセルしてね」
「え」