整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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マジ卍

 

 佐世保鎮守府第一鎮守府、控室。

 

 そういえばコッチの問題忘れてた。

 

 ……特に加賀提督相手には手こずっているが、俺のツタを伝って、後から聞いた情報などを精算すると、蒲生提督は最初は深海棲艦教だったという最初の仮定は半分当たっていて、半分当たっていなかった。

 深海棲艦教の上層部というのは元々、共産党政府から多額の資金を受けていたと結城から聞いている。だからわざと失敗して日本海軍を陥れる算段だと俺は思っていた……だが、

 

「そのような自殺行為をするわけがないだろう? 私は本当に沖縄作戦を成功に導こうと思っていたんだ……だが、まさか新種の深海棲艦に加えて、元帥の艦隊と交戦していたとは……」

 

 保守派と革新派、両方の顔を併せ持つ蒲生大将は、表では愛国心を謳いながら裏では沖縄と佐世保鎮守府を使って日本海軍にクーデターを起こそうとしていたなんて……誰が想像していたんだソレ?

 

 しかも、高尚な野心はなく、政治的構想のため……でもなく、大雑把に言えば、共産党政府に売り飛ばすためだったらしい。

 正確な最終目標は、政権を新米親中寄りの団体にすることだったらしいが、同じことだ。

 

 それを知った加賀提督が、強引ながら元帥の艦隊を使ってそれを阻止した事となった。

 

 元帥に装備の供給を行っていたのは紛れもない加賀提督だが、それに加担していたのは保守派に協力的な一部の鹿児島基地と、赤城提督だ。海外の連合軍が攻撃をかます時に連絡を入れなかったのも、口封じと用済みとなった艦隊を抹殺するため……って筋はほぼほぼ合っていると思う。そんな状況から生き延びたあの艦隊のバケモノポイントが倍増しする。

 蒲生大将は、俺を含めた数十名の海外士官を抜けさせた理由も、彼を動かしていたのが外国政府の一軍だったから……らしい。

 

 加賀提督が何故元帥と知り合ったのか? などは不明のままだが、現状ではこれが全貌と言えるだろう。

 俺はとりあえず物資の横流しと、故意に軍を動かしたという事実は弱みとして握ぎれるので、今後俺のキャリアを積み上げる重要な武器となるだろう。

 

 部屋には斎藤長官、羽黒さん、蘇我提督、古鷹、村雨ちゃん、そして憲兵隊に連行されてきた蒲生大将がいる。

 

「蒲生大将……いや、蒲生、何故なんだい? 君の家族の事は知っている、だが、自暴自棄になってそんな野心を心に芽生えさせることはなかっただろう……」

 

「……君には分からんさ、息子を失ったことのない人間には」

 

 彼の息子は優秀とは言えず、極度に内向的な子だったらしいが、決して自分の親の地位を鼻にかけるような子ではなかったらしい。国民性だから仕方ないとはいえ、この国で見かける超陰湿系のイジメ。親が社会的地位がある人物……当時はそれほどでもなかったらしいが、社交的だったら人気者だが裏で妬まれたり心の中では嫌われ者になったり、内向的だったらイジメの対象。どの道、スポーツ万能成績優秀なイケメンタイプじゃなかったらしいから、それが災いしたんだろうな。

 当然それだけではなく、海軍軍人の日本男児なら弱々しくするな、と突き放してしまったらしい。その自責の念が重く、今でものしかかっているのだろう。妻もストレスによる浪費が原因で離婚してしまい、要はよくドラマとかでみる家庭崩壊の一種だ。

 

 彼はそれ以前に、本当は愛国心溢れる活気ある軍人だった。性格も成り立ち相応に真面目一本。深海棲艦出現当時の日本を見ていた事もあり、価値観や思想が俺たちとは異なる。

 性格上、信念を曲げられないタイプの人間で、それが結果的に、彼の行動を壊してしまった。

 

 ……と、家族内容については後で大淀総長からこっそり教えてもらっただけなのだが、この二人の間にこんな濃密な関係があったなんて……まぁ、俺としても、こんな話を村雨ちゃんや古鷹の前でされちゃ困るから、にらめっこで済ませてくれたのはありがたい。

 

 どう考えても息子一人のせいで全て狂ったとは思えないけど、彼なりに国を思ってやった事だと信じておこう。

 

 これに懲りた様子を見せている大将。

 良かったな、改心して。

 

 大丈夫だ、今の日本海軍は責任を追求されたからって、クーデターでも起こさない限りは死刑に処されるわけじゃない。

 すべて未然に終わった。ただ作戦に失敗しただけ。しかも失敗した理由もこの人のせいじゃない。

 今後は、海軍と社会のために力を振り絞って、一層尽力してほしいな。

 

「……昔の日本は良かった……深海棲艦の到来とともに、多くが生死の彷徨い、平和ボケとくだらない些細な争いがなくなり、確立していた独特の排他的風習を協調に変え、老人を半ば公然と見殺しにでき、国家を守り強くするためならば手段を選ばずとも、どれだけ批判を受けても執行できた。いや、そもそも批判などは執行の阻害にすらならなかった。そんな素晴らしい国となった日本のために必死で働き、今度は良き方向へと導こうと思ったのに……この体たらくはなんだ? 貴様らのような時代の逸材が台頭できる状況になり、それが成したことで急速な回復を遂げたこの国は、いまや元のくだらない国に戻ろうとしている。もう一度、大きな打撃を与えないと目を覚まさないのか? あるいは、民族そのものが腐り落ちてしまったのか?」

 

 全然そんなことなかった。

 

 サラッととんでもない過激派的な事を言い出した蒲生。

 こいつレイシストだって分かってたけど、それが海外の指示なんだなーって分かって実はフェイントだったって分かって、その裏で実は自分の民族に対してガチでレイシストなんだって分かってやっぱりそうじゃんってなったのは他のみんなも同じだろう。

 コイツは絞首刑でいいな。

 

 パァン! と突然テーブルを叩きつける蘇我提督。

 

「だからと言って! 自国を陥れるような算段を企てるなんて! そんな……!」

 

「「…………」」

 

 古鷹も村雨ちゃんも、抜け出せるならここ出ていきたい……みたいな顔してる。いや、顔に出てなくても俺には分かる。俺が一番そう思ってるし、それと同時に俺は「なんでここにいるの?」って思ってるもんね。

 

 ガチでなんでいるの俺?

 

 蒲生大将も、この後何回か投げかけられた質問ガン無視してるし、もう解散でよくない?

 

「……これ以上、話してくれる気はないのかい?」

 

「……すまない」

 

「分かった……急に来てもらって悪かったね。こんなところに出向く予定なんて入ってなかったのだから、疲れているんだろう。彼を連れて行ってくれ」

 

「「ハ!」」

 

 直で会うのはこれが最後だと思ったのか、出ていく蒲生の後ろ姿ドアが閉まる寸前まで見つめていた。これほどの騒動を起こしたのだし、公式には作戦失敗しただけだから軍法会議ではそれについては軽く見られるだろうが、深海棲艦教と外部組織とのつながりについてゆっくりと尋問を受ける事となるだろう。

 

 これが、あの提督の真相……現実的を知るというのは、こうもアッサリとしている。正直、本人にはもう興味がなかったという点もあるが、後ろにいる黒幕は雲のような存在である……その事を理解してしまった時点で、この件について俺がこれ以上追求できることはないし、掴もうとする意味がない。

 

 二人の提督はため息をついた。

 彼らも、蒲生が大罪人だという事実以外にも、個人的な感情として思うところがあるんだろう。

 彼らの一休止の合図を聞いた秘書艦たちも、それに連座し、ため息をついた。

 

 村雨ちゃんが肩に寄りかかってくる。

 

「大丈夫村雨ちゃん?」

 

「す、すいません……少し疲れちゃって」

 

「まぁ、目の前の緊迫感ったらなかったよね……」

 

「来てもらって悪いね宍戸大佐」

 

「い、いいえ、戦勝パーティーに参加させていただくなど、むしろ小官がお礼を申し上げたいほどです。我が秘書艦の村雨以下長崎艦隊も、嬉しくて涙が溢れ出ている頃でしょう」

 

「佐世保鎮守府の戦勝パーティーはにぎやかなモノにしたからな。一部の施設は地方人に開放して大いに賑わせている」

 

 蘇我提督はこういう行事を盛り上げるのがうまく、これも彼が人気である所以だと言える。

 対して海軍大臣は面を伏せていた。

 

「本当にすまない、君も一応、彼から作戦の参加を拒否された身だから、謝礼ぐらいはさせておくべきだとおもったんだが……まさかあそこまでペラペラ話始めるとは思わなくてね……」

 

「お心遣いに感謝します。次いで佐世保鎮守府に報告書を提出しにくるのが本命かと思ったのですが……小心者ながら、彼の陰謀に加担しているとお思いの斎藤長官が、まとめて話を聞こうと画策しているのかと勘ぐりを入れてしまっていたこと、お詫びせねばなりません」

 

「そんな魂胆は微塵もないぞ宍戸、貴様を取って食ったりするような真似は、誰であろうとこの私が許さない」

 

「そ、蘇我提督……! あ、でも取って食ったりしないんですか……? そ、そうなんですか……そうですか……」

 

「……宍戸さんっ、なんで少し残念そうなんですか……ッ?」

 

 い、痛いよ痛い村雨ちゃん……そんな太ももを抓らなくても、俺は逃げたりしないよ。

 俺がむしろ村雨ちゃんみたなエンジェルを捕まえて取って食ったりしそうだもんね。まったく、俺の主砲を最大直角させるような服着やがって村雨ちゃん……クソォ! 好きィ……!

 

「まぁ、わざわざ君をこんな……若者流にいう、萎える話を聞かせるために呼んだわけじゃないんだ。君に会いたいという人が居てね」

 

「だ、誰ですかそれは……」

 

「ん……一人の人物というよりは、大勢かな。君は……あぁほら、あそこにいる永原くん、ではなく、永原元帥を最初に見つけたのも君だし、色々と話を聞きたいんだろう。それに、赤城提督も活躍談などを聞きたいと言っていたしね」

 

 じゃあ、わざわざ長崎警備府の艦娘を連合艦隊分連れてくる必要はなかったのでは?

 と思ったんだけど、下で士官に囲まれてる斎藤司令官の護衛だとでも思えばいいか……戦勝パーティーというなの無礼講は警備府に戻ってもやるつもりだし、下にいる艦隊もはしゃいでる。

 

「あの柱島艦隊だって、本当は呉所属なのにこちらに来ているんだ。連れてきて損はなかったんじゃないかな?」

 

 渡航代損しましたなんて海軍大臣に面と向かって言える愛すべきバカいる?

 いたら俺の代わりに言ってやってくれ。いや、下で時雨たちとモノ食ってる親潮がいればもしかしたら……?

 

 見えるだけで柱島艦隊のみんなも、秋津洲さんや大鯨さんもいるぜ。すげぇ顔ぶれだ。

 

 下にいる奴ら……ホント楽しそうだな。

 この控室から見下ろす特等席からは、パレード……という名の、沖縄作戦を祝う正式な音楽隊によるパレードと、所々宴会のように、仲のいいグループがポットラックで騒ぎ立てる集合群。広範囲に散らばる艦娘たちと将兵の群衆が沸き立っている中、俺の艦隊はやたら目立つ。

 斎藤司令と親潮は士官に絡まれてるし、隼鷹と飛鷹は酒飲んでるし、時雨たち五人は食ってるし、初霜、涼月、鈴熊も鎮守府のみんなもなんか艤装の一部を使って一発芸してる。あれは……像のマネ? 

 組体操みたいなコトしてんのに良く出来てるな。スカート短いんだからやめろ、エロいし、鈴谷たち無意識にパンツ見せてるのクッソエロいぜ。男どもがみんな見てるでしょ? やめなさいエッチな女の子たちっ。

 

「ははは、面白い事をやるね君の艦隊は……そう思わないかな古鷹くんも?」

 

「は、はい……」

 

 気になってたんだが、さっきから目線を向けるとそっぽ向いてしまう古鷹。

 こんなにラブコールを送ってるのに……痛い痛い、村雨ちゃん、読心術でも習った? 

 

「め、面目次第もございません……」

 

 それにしても、クソォ……海軍大臣と総司令が来てるから恥ずかしい真似やめろつったのに……ッ!

 

 俺の艦隊だけ見れば、宴の場を斡旋しているように見えるが、一番目立ってるのは佐世保鎮守府に居候している元帥本人と彼の側近の艦娘である。当然だし、報道規制をしているから元帥の近くには近寄れないけど、遠くからカメラが殺到しているのが分かる。

 

「君もそろそろ行ってきたらどうだ? あそこにいる人達に君を会わせるのが、君を連れてきた理由なのだから」

 

「我が艦隊を矯正するお時間を頂けるなど、斎藤長官のお心遣いには感謝しても、しきれません。あのような催し物を公然の場でやるなど公然猥褻に匹敵する所業です。副司令官たるこの小官が、自らの艦隊を制御できないなど末代までの恥。海軍大臣のお目を汚させない様、小官自らが直々に指導を行う所存です。では我が秘書艦たる村雨、行こうではないか。教育の成ってない艦隊の恥晒し共をシバキに行くぞッ」

 

「分かりました!」

 

 

 

「いや、そういうことじゃなかったんだが……あぁ行ってしまった。足が早いな彼は」

 

「いいのですか? 宍戸に彼の事を伝えなくても」

 

「まぁ普通に言っても逃げるって言われてるからね……」

 

「古鷹、お前も行ってきたらどうだ? 愛しの宍戸が大人数との会話で疲れた所を狙うんだ」

 

「わ、私は、その……」

 

「聞き捨てなりませんな、彼は親潮と結婚を前提としているのをお忘れですかな?」

 

「お、おやめください二人共! そのような事を娘の前で話すのはいかがなものかと思います!」

 

「すまない羽黒……申し訳ない蘇我提督、また熱くなるところだった」

 

「私も軽率な発言でした、申し訳ありません……しかし古鷹、下の連中と遊ぶことぐらいはできるぞ? 最近は私の補佐であまり羽を休める暇もなかっただろう? たまには羽目を外してもいいんだぞ……ついでに、宍戸をその目で見定めてこい。この意味は分かるな?」

 

「パパ……は、はい! 古鷹、いきます!」

 

 

 

 

 

 

 ……ハァ、斎藤や蘇我の前でとんだ愚痴を口走ってしまった。

 

 過去、我々は多くの部下を無くした。

 深海棲艦の出現で、一時期は人類の存亡だのを国連が議論していたぼどだ。艦に乗り、国を精一杯守り抜き、艦娘技術が確立するまで、後輩らの教育と、国家のあるべき姿として先生から教えられた”強い国”の実現に向けて奮闘した。

 我々の国は、弱かった。

 他人には全体主義を求める個人主義者の群衆。

 献身なき愛国者たちの治める国。

 どんな善行も偽善として片付ける国民性。

 批判中傷は被災地に赴いた慈善団体はおろか、彼ら国民を守る軍隊にすら向けられ、頭のおかしい集団に”共感を覚える”と錯覚する有象無象が次々と湧く。

 ”奉仕の精神は死ぬ直前まで持て”と言わんばかりに、非常事態でも子供より自分の生命を優先しようとした老害には手を焼かされたが、非常事態なだけあり、消えていくのも静かだった。

 

 国は新たな希望である艦娘技術に力を入れるために、国民全員が尽力していた時期があった。それはもう、互いが互いを信じる、素晴らしい世界であり、まるでエデンにいるような風景が、私には見えた。

 技術は確立され、平穏と復興に力を入れ、斎藤や荒木や、他のみんなとともに、先生のもとで強き国とは何か……精神的、知識的に事を教えられた事を、この国に適用しようと尽力した。

 

 そして、成功した。

 

 だが、再び国民は軍隊への批判と、怠惰な精神を表にした。彼らは、日々の感謝を忘れ、前のような横暴な人種へと変貌を遂げてしまった。

 

 息子は確かに亡くなったが、それは決め手でしかない。一致団結を忘れ、排他的な社会にーー学校に馴染めなかったあいつを、ただただ叱ることしかできなかった私は、今でも後悔しているのかもしれない。

 

 この国の本質を見誤っていた私にも、責任がある。

 この国は腐っている。

 人を人として思っていない。

 いや、民族そのものが病気なのだ。

 

 浄化するべきだと今でも考えている。

 

「随分としょぼくれた顔してんじゃん」

 

「ドグソドルジ元帥……」

 

 蒲生と元帥は人払いを済ませた廊下で会った。

 連れていた憲兵は、彼が来るのを知っていた様子で、二人が話せるように一旦距離を置いた。

 

「昔は本当にナショナリストだったがミスター蒲生。真面目すぎる性格が災いして、心に悪鬼を芽生えさせてしまった……みたいな? 古典的な悪役じゃん? でも、生憎お前みたいなの取り締まれば全部丸く収まる、なんて筋書きは存在しないんだよなぁ……」

 

「それに近い事はできたでしょうか……それで、この国に何か変化を及ぼせれば、私はそれで満足なのですが……」

 

「かなり自暴自棄だな」

 

 蒲生は一応、拘束されている身だが、どこか満足げな表情を浮かべている。

 海軍に務めていること自体が、彼にとって重い枷だったんだろうと、元帥は納得していた。

 

「深海棲艦教って組織……蒲生は日本嫌いになっちゃったみたいだけど、お前が掲げた理由だったらどんな国でも同じような問題あるぜって話。だから、本心では人間そのものを信じちゃいなかった……だから、深海棲艦教。ってことだったのか? 正直、なんで組織作るのに深海棲艦教って名前にしたのか不思議だったから、そこだけ聞きたかったんだよね。俺たちも、組織に資金提供とか協力とかしてた仲なんだから、それぐらいは知りたいんだよなぁー」

 

「人間を信じていない……そうかもしれません。深海棲艦には、ある種の感謝をしていましたから……日本という国が強大な敵に向かい、一つの家族となり、団結力の塊となったあの輝きを見せてくれた、好敵手に」

 

 あ、怖、コイツガチでヤバイやつじゃん……と寒気を感じた元帥は、一笑する。

 

「海外士官を作戦から避難させてくれたのはありがたいから、その礼だけ言いに来たんだ。我々が放棄地域である沖縄を奪還して基地を取り返してもいいし、君が作戦を成功させてもいいって、そういう作戦だったのにさぁ……まさか、あのナガハラ元帥が相手だったなんてな。まぁ事前に得ていた情報とは違った、新種の深海棲艦が俺たちにとって一番厄介だったんだけどさ、それにしてもスゲーよなあの元帥の艦隊。よく生き延びていたなって俺も思ったぜ」

 

 合衆国側はまだ、この遠征を援軍行為として示しているため、日本側の完全勝利であるとは言い切れない状況である。

 

「……永原元帥は、ここでは生きていけないでしょう」

 

「え、なんで?」

 

「永原元帥は、大淀中将から恨みを買っていました。何かと反発する間柄だった上、保守派、革新派問わず、提督たちや官僚たちからは、尊敬する者と反感を抱く者の半々と言ったところです。態度は横暴ではありませんが、馬鹿正直に何でも思った事を口にしてしまう人柄なんです。その後のフォローもあまり無かった様子で、連合艦隊司令長官でありながらあまり顔を表に見せず、若い事もあり、調子に乗ってると思われていたのでしょう……まぁ、艦娘らも、反感を持つ士官らに対して態度があまりよろしくなかったのも、それらをエスカレートさせた原因かもしれませんね」

 

「永原の事は知っていたが、まさかそんなコミュニケーション障害の持ち主だったなんて……そんな政治力のない奴を元帥にする国。一応これも嫌っていた要因なのか?」

 

「別にそういうわけではないのですが……まぁ、反感を覚える者も多い分、好かれる時はとことん好かれる様でしたが」

 

 へぇ……あれがね? と、窓から少しだけ見える人混みに見え隠れする永原元帥の姿を見て、少しだけ納得するドグソドルジ元帥。

 

 大淀総長が実は官僚たちをあの場に内密に招き入れ、艦娘らが襲撃を企てていたのを知っていてあえて何もしなかった事を告げると、驚愕した表情を見せた。

 これはつまり、当時の内閣を崩壊させるために、大淀総長が仕組んだ罠である事を意味している。蒲生も協力関係にあり、度々革新派として保守派の排除を行ってきたが、最終的には自分も排除される運命だと、深海棲艦教の話題が海軍内部で持ち上がった時から薄々気づいていた。

 

 そう暗に告げ、邪魔な政権と、反対派の軍事力の両方を一辺に片付けた現軍令部総長に畏れすら感じ初めていたドグソドルジ元帥。美人だけど怖ぇ……と口を零した。

 

 という推測を話していたが、総長本人は襲撃計画を知らずに攻撃された上、官僚たちの半数は独立戦力と化していた元帥の排除よりも、私募ファンドに関しての総長からの”密談”という甘い響きに釣られてやってきただけだった。

 元帥は平和主義者であり、元帥なりに内部闘争を緩和しようと努力していたが、かえって闘争初期の火種をエスカレートさせてしまった。以降何もしないという選択をとったが、それが保守派として認識されてしまったのである。

 彼の性格と、艦娘たちの忠誠心を知っていた大淀総長は、まさかあんなタイミングで武力行使という野蛮な手に出るとは思っていなかったのである。 

 

「聞いていた通りだな。元帥艦隊は忠誠心の非常に高く、艦娘達は最早、元帥以外の命令は聞かない状況だった……それが保守派で、内戦もあり得た状態だったから、万が一勃発した時、元帥艦隊が保守派に付かないために……あるいは、未然に防ぐために、一刻も早く排除する必要があったみたいな?」

 

「その線で合っています」

 

「まぁ何にしても、すべて失敗に終わったって事だな。蒲生、お前の役目は終わったが、軍法裁判にかけられて、万が一、刑罰に処されても軽くなるように手は回してある……お前的には、正直休みたい気持ちもあるんだろ?」

 

 蒲生は真面目すぎる性格から、少し行き過ぎた思想に達してしまい、それを邁進し続けて止まらなくなってしまったが、彼自身、ここで諦めれば楽になる。

 使命感から来てる行動はいずれ疲れ果てる……というのは、元帥の体験談である。熱狂的な愛国心も、恋と同じく三週間しか保たない。

 

 今後、彼が自分が選んだ道を諦めるか、あるいは暗躍し続ける道を選ぶか、その選択肢の分かれ目に、彼はいる。

 

「蒲生、今後どうするかはお前次第だが、俺的には新たな人生スタートさせてもいいんじゃねぇかって思うんだ」

 

「……それも、いいかもしれませんね。それを選択する権利を与えるか与えないかは、大本営が決めることですが」

 

「作戦は失敗に終わったが、いずれにせよこの国は、我々の国がもらったも同然なんだがな? 日本海軍には、海外士官の他に、将来的にここを支配する人物が現れる」

 

「ご子息のことでしょうか?」

 

「そう、その通りだ! 俺がお前のdaddyだ。と言ってやって、ハグすればアイツも思い出すだろう、父親の温もりを、本来自分が何処にいるべきかを……というわけで、Sonに会ってくる。会って愛しのdaddyと共に国を支配しよう! って提案して、『うん! パパ大好き!』って言うんだ、これが本来の筋書きだ」

 

「随分と楽観的ですね……まぁ、ご武運をお祈りしております」

 


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