整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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我々は今度こそ勝つ。それを見せてやる。

 

 佐世保鎮守府司令部。

 画面越しに映るアメリカ海軍の元帥はなんとも言えない顔で蘇我提督を見つめていた。

 

「先程は失礼しました、私は佐世保方面総司令の蘇我です」

 

『失礼って……むしろそちらの陸軍の方々が失礼をなさっていたような……』

 

 僕は助けようとしたんだけど……と、荒木大佐はボソッと呟いた。

 

「コホンッ! ……アメリカ太平洋方面軍総司令とのリアルタイム通信など、私にとっては夢のような状況ですが、早速本題に入りましょう。そちらから通信を頂いた件については、例のアメリカ軍将兵救出、についてですか?」

 

『お察しの通りです、お耳は早くて助かります。何分急を要するものですから、アメリカ大使館にも既に連絡を入れ、日本国首脳にもこのお話が行き届いてるはずなのですが……国家間の意思疎通というのは、度々誤解を生んでしまうものですから、急な事に加え、各方面で強く駆り立てるような無礼な言動や行動があったことを、我が祖国を代表してお詫び申し上げます』

 

「頭を上げてください! 私個人としては最善を尽したいのが本音です。今にでも自らの足を運んで救出したいと思っております」

 

『かの蘇我提督からそのお言葉を頂けただけでも嬉しいです。あなたのような提督が日本に居てくれることは我々としても頼もしい。それに、私の日本語も通じるようですしね』

 

「ははは、日本語がご堪能な閣下のお陰で円滑に話し合いが実現されています。外交上手と噂される閣下はマルチリンガルでもあると、外交官がこの場にいれば、聞かせて勉強させたいものです」

 

『彼らがいたとしたら、私は英語を話さなければなりません。翻訳者と外交官の仕事を奪ってしまう事になりますから』

 

「ははは、確かにそうですね」

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 総司令部前の廊下。

 嵐が去ったあとの静けさとはこういうものだろうか、不思議と廊下は、俺と白露さんたちが立ち止まれる程度のスペースが確保されている。

 

「……クッソッ!! 今にも美人外人たちに殺されそうな状況だから、柱島だけ置いて帰れるかどうか聞きに行こうとしたのにさ、来てみればコレだよ。え、なになにアメリカの将兵の救出? いや、俺帰って事後処理全部、斎藤司令官に任せて寝るつもりだから」

 

「アメリカ海軍の偉い人と話してるだけじゃん。入ったら?」

 

「時雨、お前俺のこと空気読まなくてもやっていける無敵人間だと思ってる?」

 

「こんなに大きな司令室なんだし気づかないよ、僕なら入っちゃうけど」

 

「お前無敵?」

 

「でも宍戸さん、別に人払いをしているわけじゃないんですし村雨たちは入っていいんじゃ……」

 

「そうなの? ねぇねぇ警備兵さん、鈴谷たち入ってもいいの?」

 

「宍戸提督とその艦隊の皆さんの出入りは制限されていませんが扉前を大勢で囲むのは他の方々の邪魔になりますので、入るのなら早めに入ってください」

 

 警備兵さんがすごく迷惑そうな顔してたので勢い余りに入ろうかとも思ったが、予想外の展開が司令室で起こっているので、物怖じしている。

 

「っていうかお前らなんでここにいるの!? 俺挨拶だけしようとしただけだから来なくてもよろしかったのよォォォ!?」

 

「宍戸くんが行くところ、常に白露たちがいるんだよー!」

 

「でも、早く入ったほうがいいと思いますよ? 宍戸提督がご挨拶しないと、私たちも帰る準備ができないですし」

 

 初霜の言うとおりだ……クソッ、でも入りたくねぇ。

 

「いや、でも、せめて……あのアメリカ軍のおち○ちんみたいな顔したお偉いさんとの話が終わってからにしよう。みんな、終わるまでここでトランプでもして遊んでようね! ……俺は隠れるけど」

 

「「「はーい!」」」

 

「いや、入らないなら別の場所に行ってください……」

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 数分の話し合いの中、度々各方面から通信があった中で、日本列島付近で遭難した将兵らの居場所を特定したところまで話が進んでいたのは、一秒でも早く救出したいという気持ちの現れだったのだろうと蘇我提督は思った。

 海軍省の海軍大臣から、救援を受けるので出撃準備が整った後、すぐに出撃するようにとの司令が下っていた。

 

「……どうやら、我が国の首相が正式に、あなた方のご要望を受け入れると発表なされた様です。我々は全力をもって彼らを救出しましょう」

 

『ありがとうございます』

 

「……しかし、アメリカ海軍以外の同盟海軍はどうなさったのですか? 大打撃を受けたのは分かったのですが、相応の被害を被ったと受け取ってよろしいのですか?」

 

『人民軍は上海まで撤退し、露海軍は我々以上の被害を被り、韓海軍は被害を最小限に留めたものの、新型深海棲艦の大群の襲来を懸念してデフコン3を宣言してほとんどの戦力を国防に当たらせています』

 

『A, admiral! You shouldn't mention about those…』

 

『It's alright man, it's all good……救援要請の必要性は、国防省からも認められた通りです。我々の太平洋艦隊も速やかに編成を整え、再出撃を計画しています』

 

「分かりました。では我々は防衛作戦終了の後、速やかに救援へと向かわせます」

 

 通信を切った蘇我提督、深く息を吸った。

 

「……よし、じゃあ宍戸を呼んできてくれ。アイツに話がある」

 

「え、宍戸提督……ですか?」

 

「そうだ。救援任務もだが、アイツには別の任務を引き受けてもらう必要があるんだ。事は一刻を争う」

 

「宍戸提督でしたらすぐ外にいますが……」

 

「なに!? ッ……おい宍戸! って、何をやってるんだ貴様は!? なぜダンボールに隠れながらトランプなどしているのだ!?」

 

「え!? あ、これには個人的な事情が……って、何ですか急に!? いきなり出てこないでくださいよビックリしたせいで神経衰弱の位置がわからなくなったじゃないですか!?」

 

 司令室でゴヤゴヤ話し合ってたと思ったら急に出てきた蘇我提督。

 並べられたカードを見て村雨ちゃんが勝ってるんだが、俺は初霜とスチールメイトしてる。

 ここで勝たなくちゃ威厳が見せられないし「三位以内に入らなかったら全員に飯奢ってやる!」ってカッコつけた以上はなんとしても勝利を掴まなくちゃいけない。 と、結局柱島勢も提督と戯れてる事に集中したおかげで俺は難を逃れたワケだ。

 

「お前達には重要な任務を、軍令部総長及び海軍大臣から直々に頂いている」

 

「え……まさか、防衛作戦終わったらすぐに反攻作戦するっていうアレですか?」

 

「え、今やるの?」

 

 時雨たちを含めた、多分反攻作戦に直接関与しそうな人たちには事前に言ってた事がある。

 大淀総長から頂いた「反攻作戦は、防衛作戦後に実施する可能性有り。佐世保鎮守府、可能なら、長崎警備府も戦力を温存した上で、反攻作戦をする準備に取り掛かるように」という命令である。

 

 大淀総長の言う通りにするとても良い子な俺は、その通り整工班はほとんど置いて行ったし、ここにきた方法は司令艦船ではなく、小型輸送艦船で、しかも言われた通り警備府の戦力はまだ温存しているし、結果的に他の要港部は打撃を受けたけど、佐世保艦隊は戦力を温存できている。

 

 反攻作戦するのはしばらく間を置いてからだと思った。

 

「話が早くて助かる……いや、個人的にはあまり命令したくはない。だが、軍令部の命令である以上は……」

 

「え、実施命令が下ったんですか!? え、いや冗談でしょ、いくら大淀総長そんな防衛作戦直後ヤるなんてトンデモジョーク過ぎですよ。防衛作戦がうまく行ったから気を良くしてるんでしょうね? アハハハ」

 

 ポケットの電話が鳴る。

 

「あれれ、これ見たことがある番号だなぁ……もしもし」

 

『私が冗談を言っているとでも?』

 

 …………?

 

「……あの、俺の番号って、最近変えたばかりなんですよね。え、電話番号、なんで知って……」

 

『そんな事はどうでもいいです』

 

 怖いね、俺じゃなかったら可愛い艦娘たちと上司の前で大洪水してた所だよ。

 まぁ電話番号は変えたらすぐに海軍個人情報資料の更新を義務付けられてるし、トップともなれば簡単に調べられるから分かっちゃうのは当然か。 

 

 いや、一番怖ぇのはこのタイミングで電話してきた事だよ。日本海軍ってホント人外みたいな能力持った人多いッスね。

 

『それよりも、反攻作戦の件についてですが、再び前線指揮官として……今回は、彼らのまとめ役を買っていただけないでしょうか?』

 

「え……ま、まとめ役というのは……というか、前線指揮官って、沖縄反抗作戦前段艦隊の、ですか? 規模からしても流石に小官がそれを担うのは……というか、前線は佐世保鎮守府の士官に任せる予定だったのでは?」

 

『その担っていた方が防衛作戦で負傷されたので、代わりに斎藤准将が前線を取り仕切ります。ですので、少なからず宍戸副司令の指揮権限を広がります』

 

「小官には荷が重い役目かと……てっきり参謀に徹するかと思ったのですが……」

 

『前段と後段の艦隊、作戦に参加する各司令官、参謀、指揮官を取りまとめられるのはあなただけなんです。斎藤司令を始め、オイゲン中佐や大鯨中佐、特に秋津洲中佐と佐世保鎮守府の参謀や整工班とのコネクション。数え上げたらきりがないですが、その中心で関係を円滑にすることができるのはあなただけなんです』

 

 つまり、司令官としては斎藤准将がいるけど、実質的にそれらの司令官連中とのパイプになれと?

 司令官の横の副司令官にそういう人を置く場合はよくある。寡黙な司令官と、陽気で人気者の副司令官みたいな。

 

 でもなぁ、あの人を侮るなよ?

 あのひとも人並みにはリーダーシップあるんだぞ。

 それより、そんな俺を信用してくださっているんだったら俺を昇進させて提督させろや。

 

『貴方を昇進させてもいいですが、海軍省にも少なからず貴方の事を良く思わない定年間近の士官が多くいます。早すぎる昇進を重ねた宍戸副司令を更に昇進させる事になれば、その人数は増すと思います。あなたの今の立場を考えると、特に』

 

「この宍戸、十分承知しております。しかし、元はほんの一翼を担う立場だった小官が異例の抜擢など光栄の至で……」

 

『回りくどいことは結構なので聞きたい事があるのなら早めにお願いします』

 

「拒否権ってありますか?」

 

『軍令部、ひいては海軍省の命令を聞かないとどうなるか今更説明しなくちゃいけないんですか? あなたの警備府に海軍よりすぐりの強力な慰安師たちを数人余り、あなたの専属として送ってもいいんですよ? 彼らは確かあなたもよく知る拡張好きの調教師だとお聞きしま』

 

「了解しましたァッ! 軍令部、海軍省……この日本海軍と日本国の栄誉に掛け、任務を引き受けましょう」

 

『ありがとうございます。反攻作戦の詳細は蘇我提督から聞きてください……これはあなたにとっても一大勝負です、ご武運を』

 

 電話が切れる。

 総司令官も、時雨たちも、電話の内容を聞いていたわけじゃないけど何となく理解した様な顔をしている。

 

「……蘇我提督のご命令を後押しする内容でした」

 

「了解した……君たちも異存はないかな?」

 

 蘇我提督が今度、視線を向けたのは時雨たちだった。

 事前通達があったとはいえ、あまりに急な任務に対してそれを命令する事に抵抗を感じているんだろう。

 

「白露さんはいつでもオッケー!」

 

「え、即決するのはまだ早くないかしら……?」

 

「いや、村雨も分かってるとは思うけど、どの道断れないでしょ!? でも、こんな戦いに繰り出されるんだからいっちばーんイイ装備を要求しなきゃフェアじゃないよね!」

 

「フェアじゃないって……そもそも、この作戦をこのタイミングで実行する方がフェアではありませんわ。なにゆえ防衛が終わった後ですの?」

 

「考えがあるんだろうけど、流石に終わった後に沖縄旅行ってのも鈴谷あまり好きじゃないかな」

 

「すまない……」

 

 他にも初霜みたいに「仲間を傷つける諸悪の根がそこにあるのなら、徹底して叩かなくては!」と言いながら反攻作戦にノリノリな白露さんたちと、「面倒くさい」の一言で蹴散らした時雨たちで半々ってところか。

 作戦そのものがキャンセルされたわけじゃないから、反攻作戦の実施は戦力が多少削がれてる以外の問題はない。

 沖縄を早急に叩く必要がある、そんな意見が海軍省で出てもおかしくない。

 今度ばかりは事前準備の賜物。なにより連合軍の敗北をインテルとして受け取ったからS勝利で終わったものの、またそんなのが沖縄を拠点に生まれたら、いちいち大規模作戦級を出さなきゃいけない。

 あんな深海棲艦の大群がまた現れる前に、あの島ごと叩く必要がある。

 

 戦闘準備はできている、そう分かっていても、やっぱりデケェ攻撃を受けたあとのデケェ作戦は不安だ。

 

「作戦成功の暁には、特別待遇として二週間の有給休暇を与えると言われているが流石にそれは即物的すぎると……」

 

「僕やります」

 

「は?」

 

 は? 時雨お前……は?

 なにやる気出しちゃってるの?

 

「だってここで頑張ったら、二週間はダラダラできるんだよ!?」

 

「時雨さんの言うとおりですわ、最近忙しくて行けなかった神戸にやっと行けるなんて……!」

 

「お兄さんと一緒に休暇取りたいです! そのためだったら世界も攻略してみせます!」

 

「は、春雨ちゃんそれは無理だと思うけど……クソ、こんな安直な……!」

 

 で、でも一ヶ月か……二週間、二週間……いや、よく考えたらこれは勝てる戦いだよな。

 勝てば得る報酬は、休暇、武勲、本拠地を叩くことでしばらく活動が大人しくなる事による安全、そして何よりも重要なことだが、人脈を増やす絶好の機会だ。そのために行動できる条件は上々であり、それを得るには作戦の成功以外にない……ということなのか?

 

 チッ……仕方ねぇなぁ。

 

「やってやるかっ、ハハハ」

 

「もともと拒否権なんてないでしょ?」

 

 

 

 

 

 あとで分かったんだが、有給にボーナスは出ないし、少佐以上の高級士官には適用されないとのことだった。

 

 当然、俺には適用されない。

 

 騙された、日本海軍※ねと掲示板に書き込んだのは数週間後の話である。

 

 


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