整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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防衛終わり

 

 

 敵艦隊の親玉は、佐世保湾の底に沈む。

 

『シシード! 敵艦隊はこれで全滅したよ! っていうかオーバーキル……』

 

「アブナイ感じがしたし、何艦隊もコイツに倒されてたって聞いたからどうなることかと思ったけど……なんとか佐世保に付く前に倒せたのは、みんなのおかげだ! ボーナスは期待していいと思うぞ! 俺の金からじゃないから分からねぇけど!」

 

『は? 宍戸くんが貰ったボーナスで焼き肉食べに行くのが美味しいんじゃん』

 

「鬼ですか?」

 

『あの、焼き肉はいらないので、帰ったら宍戸提督から借り物をしたいのだけれど、いいですか……?』

 

「初霜が俺に借り物? 珍しいじゃん、なに借りたいの?」

 

『宍戸提督がいつも部屋でやっている……えろげー? とやらを、貸してほしいの……いいかしら?』

 

「え」

 

『海軍大学校の講義を通信で受けながらやってたのを見て、それで、色々な戦術について語ってたら、どんなものか興味があって……』

 

 多分、初霜がチラ見したのは多分、”守護る”というタイトルが入った、ただのバ○ズリ多めな抜きゲーだ。胸部挟撃戦術・キトウ一点集中とか、初霜ができるわけないだろ。

 初霜がそんなの見たら初霜の中の俺は、カッコいい有能な提督から、淫獣へと変貌を遂げてしまうだろう。

 

 ……いや、それとも主人公がハーレム作って女の子をオーバーパワーな異能で守ったり絶倫の限りを尽くすほうのエロゲーかな?

 

 どっちもダメじゃねぇか。

 

『それって宍戸くんがやってる女の子が無理矢理いやらしいコトされて、でも何故か喜んでるゲームのこと?』

 

『『『…………』』』

 

 え、時雨、俺そんなゲーム持ってないよ?

 

 ヒロインはみんな合意だったぞ。

 

『時雨さん! いくら宍戸提督でも、講義中にそんな事するわけないじゃない!』

 

「………おう! 初霜、あれは売ってしまってもう手にない……が、代わりに書いた論文資料をあげるから、それで許してくれ。艦隊と、ひいては国民を護るために、どうすればいいかと熟考して数年の歳月をかけて作ったものだ」

 

『え、そんな貴重なもの、いただけるの?』

 

「あぁ、なんかテーマが変わって別のものにしたから、資料は持ってっていいぞ」

 

『ありがとうございます!』

 

 防衛作戦成功の報を鎮守府に送る。

 

 村雨ちゃんが言うには、鎮守府司令部は佐世保への寄港を命令しているらしい。敵艦隊主力撃破の成功を伝えたら、全域の敵艦隊情報と照らし合わせて、後は弱い残党殲滅任務に勤しんでいる、との事で、防衛は終わった。

 成功を祝った報告に全員が歓喜し、俺も喜ばしいと胸を張って佐世保鎮守府への移動を艦隊に命じた。

 

 

 

 

 

 

 佐世保鎮守府、司令部。

 執務室とは違い、かなり大きな司令部が、第一鎮守府にはある。

 ここみたいに、膨大な数の艦娘達と士官たちが入り浸る鎮守府では、俺の艦隊も含めて勝利を祝うと共に、各々勝手に休息を取っている。村雨ちゃん、オイゲンさん、そして柱島艦隊副旗艦を努めたアイオワさんを連れて司令部に来た俺は、蘇我提督に別働隊の報告を行う。

 

「ありがとう皆、主力が佐世保に来る前に撃退できたお陰で、損害は最小限に留めることができた。既に放棄されていた漁場数カ所と、怪我をした艦娘や将兵を除けば、被害は最小化できた。よく頑張ってくれたな」

 

「「「ハ!!!」」」

 

 古鷹や赤城提督も嬉しそうにしているぜ、へへへ……最後に敵艦隊の親玉を、まるで映画のヒーローみたいに倒した俺、マジかっこいいぜ。

 

「あ、いたいた!」

 

 十人ほどの屈強な男たちが俺たちを囲う。大防衛という緊迫した中で走り回ってたのは分かるけど、その汗臭さと言ったらクッセェッ!

 いやさ、今にも汗が飛び散って俺の目に入ってきそうじゃん。

 

「きゃっ! し、宍戸さんっ……?」

 

 村雨ちゃんを少しこちらに抱き寄せる、男たちの汗から守るためにな。

 驚いた顔で頬を紅潮させ俺の顔を見上げる村雨ちゃん。少し膨れっ面になってジト目を向ける古鷹。そして微笑ましそうに笑う赤城提督。

 どうだ? 強いし頭もいい副司令官様とお前らでは、太陽とウミガメぐらいの差がある事を、その女を狙ういやらしい目に焼き付けて置くんだなァ……!

 

「流石はあの宍戸提督ですが、何よりプリンツ・オイゲン提督が凄い!」

 

「……は?」

 

「艦隊を指揮するだけではなく、自ら戦場に立つその度胸と勇気! あの手のつけられない柱島艦隊をも操作できるほどの力を持っているなんて……! もしも機があれば、貴女の麾下に加えて頂きたいと、小官は思うほどです!」

 

「あ、あははっ、私いま提督じゃないんだけど……」

 

「何をご謙遜なさるのですか!? 小官一行、プリンツ中佐の指揮下に入る準備も子宮に入る準備も整っています!!」

 

「その通り! もしも提督職を賜る機会がございましたら、是非我々にお声をお掛けください!! あ、これ小官の連絡先です」

 

「え、あ、ありがとう……私プリンツよりもオイゲンて呼ばれるほうが……」

 

「フンッ……小娘がァ、今年で50代となる私よりも先に提督になるなどォ……! クッ……! こんな小娘に負けるなど……! 悔しい……悔しい……! あ、これ小官の連絡先ですもし機会があったら叩き上げである私を推薦してくれるとありがたいというか私を子宮に入れてほしいというかバブル時代ならぬバブる時代に戻してほしいというか……」

 

「あ、あはは……ちょっとこわい……」

 

 クッ……! 流石に今の俺では、男たちの性根からオイゲンさんまで守り切るには力不足だ……! 村雨ちゃんだけでも守る……!

 

「宍戸さん、そういえば敵艦隊と交戦する前に艦隊旗艦だと確認していたみたいですが、なんで艦隊の旗艦だってわかったんですか?」

 

「スゲー強そうだったから」

 

「そ、そんな理由で……?」

 

 古鷹も困惑してる様子だけど、事実そうなんだから仕方がない。村雨ちゃんもコクコクと頷いている。

 

「しかし、事実主力艦隊は強く、進行を阻止しようとした数艦隊は無力化されたほどです。そして、宍戸提督の艦隊の何人かは軽傷を負われたと聞きましたが、その方々は問題ないでしょうか?」

 

「攻撃型軽空母の鈴熊は大破しましたが、本人らは奇跡的に軽傷で済みました。他の艦娘も艤装の中、小破で済んでいます」

 

 軽傷と言っても双方ともに、太ももの掠り傷程度だし舐めとけば大丈夫らしいが、一応そう報告しておく。

 

「そうですか……その鈴熊さんには、どうかお大事にと伝えておいてください」

 

 赤城提督、どうやら鈴熊を一人の人間だと思っているらしい。巨乳とチッパイの差がある事を伝えていなかった俺も悪いけど、赤城提督直々に労いの御言葉を頂いたと二人に伝えておこう。

 

「旗艦と断定した要素は、小官が見たことがないタイプの深海棲艦だったから……と言うこともあります。他の証言どおり、隊列が確認できないほど入り乱れていましたが、同型が一隻だったので」

 

「見たことがないタイプ……ですか?」

 

「はい、人形の深海棲艦ですが見た目は小型。戦艦と同威力の主砲を放ちながら空母のように制空戦にまで参加してくるタイプの深海棲艦です。赤城提督はご存知ないですか?」

 

「いいえ……戦艦でありながら航空戦力としての機能を有した深海棲艦……まるで、航空戦艦のような……」

 

「新型か、厄介な敵に遭遇したものだな……後で、お前と主力艦と戦った艦娘全員に事情聴取を行うが、いいか?」

 

「もちろんです」

 

 事情聴取って結構長いからいやなんだよなぁ……。

 その事情聴取を受けるオイゲンさん達はその前に、男たちから別の事情聴取を受けてるというか。

 

「HAHAHA! モテモテねオイゲン! うん、モテモテすぎてjealousy感じちゃうけど、仕方がないものね! というわけで、admiralはこの秘書艦であるIowaがもらっておくわね!」

 

「それはだめ! いくらアイオワでも殺すからね!」

 

 ははは、オイゲンさんも物騒な言葉を使うんだなぁ〜。

 

 ……え、なに? オイゲンさん、え、違うでしょ? admiralって、俺のことだよね? あの弱々しいザコ提督のことじゃないよね?

 

 指に力が入る。

 

「あ、あの、宍戸さん……い、いつまで村雨を抱き寄せてるんですか……?」

 

「お、ご、ごめんね村雨ちゃん。村雨ちゃんをあのち○ぽたちに触れられたくなくて、つい……」

 

「そ、そうなんですか……えへへっ」

 

 村雨ちゃんその笑顔は反則……ッ!

 

「コホンッ、まぁ私の前だから男女の戯れ合いを許容しても構わないのだが、それが宍戸というのがなんともなぁ……?」

 

「宍戸提督だから引っかかると……つまり、蘇我提督は宍戸提督にご興味が……」

 

「ち、違いますよ赤城提督!? 古鷹をもらってほしいと言ってやったヤツが、このように目の前で仲の良さを見せつけられてはたまらないと思ってまして……!」

 

「失礼します! 相浦駐屯地より戦闘詳報書を受け取りに来た者です! あの勇敢と謳われた蘇我閣下が男色主義だと聞き及び、中の良さ♂を確かめる為に馳せ参じた所存! 付きましては、小官の小型拳銃を突きまして、濃厚な詳報の作成に励みたいと願っております!」

 

「聞き及びって貴様今聞いただけだろうッ!? おいやめろ、死ぬぞッ!!」

 

「では蘇我提督! 小官はこれで失礼したいと思います!」

 

「おいまて、いや待ってくれッ! 貴様はこの類を退けるのは得意だと聞いた! 助けてくれぇ!!」

 

「パパ、もう宍戸さん行っちゃったみたいです」

 

「宍戸ォォォォォ!!!」

 

 

 

 

 

 食堂。

 防衛作戦大成功を祝ってるみたく、補給をするためにかなりいっぱい人が入り浸っている。他の士官やら将兵やらも、他の部署と資料作りとプチミーティングを開いたりするために食堂が使っているけど、やっぱり補給の目的も兼ねてるのか、艦娘が多い。

 というか、厳戒態勢だというのに休みを入れている人が多い。反攻作戦の件を考えてみれば当然か。

 

「……例の反攻作戦決行はいつになるのかわからないけど、俺もまた前線に行くことになるんだろうな……いやぁ、人遣いが荒い! それに佐世保鎮守府まで敵が来なかったからここの艦娘たちは拍子抜けしたってわけだ」

 

「僕たち警備府でずっと寝てても良かったんじゃないの? この人たちにあの深海棲艦任せてれば……」

 

「いや人口が多い佐世保鎮守府の近くで戦闘が起こるとそれだけで被害が出るから、これが最善の結果じゃないかな。佐世保鎮守府が攻撃を受けるって事実だけで、威と品質が落ちるからって面もあるし」

 

 まぁ無理に倒す必要はなかったかもしれないけど、艤装小破で済んだんだから結果は上々だよね……と思いつつスマホで書類整理を行う。

 「アイツなにスマホ弄ってんの? シゴトサボってんの? 提督にチクろっと」みたいな顔されたので、俺は宍戸様だぞ崇めろオーラを腰振りダンスで詰め寄った。

 

「やぁ」

 

「「「きゃああああああああ!!!」」」

 

 逃げられた。

 

「宍戸くん、確かにジロジロとイヤな視線送られてたのは知ってるけど、流石にパンツ下ろそうとするのはやり過ぎ」

 

「いや下ろしてねぇだろ、ほら、フェイントだよ。学芸会でやったことあるの知ってるだろ。まったく……近頃の若いのってなんで礼儀が成ってねぇんだよしばくぞ」

 

「れ、礼儀は大事だけど、し、シバクのは、良くないと思うよ……」

 

「っ!? あ、荒木大佐!? な、なんでテメェみてぇな半端モンが……」

 

「「「……ッっ」」」

 

 とても美人な外国人の方々に睨まれてる。

 

 あれれー? しかもイタリアの方々、お食事に夢中だと思われていましたが、自分たちの提督が侮辱されたとなると、睨み効かせてイタリアンマフィアになってしまうのですかー? 

 

「……ではなく、万物を超越セシ偉大なる柱島総督閣下。尊敬すべし御方が、その御御足を御運ばれに御成ったのは如何ほどの御要件が御座っての事でしょうか?」

 

「あ、うん。実は斎藤提督に急遽ここに来るようにって送り出されて……」

 

「ハハッ、そうなんだァ~? オイゲンさんのほうが何倍も提督らしいし有能で何より可愛いんだから、さっさと柱島の席をオイゲン提督に渡したらどうなのこの人?」

 

 かのプリンツ・オイゲン提督をも麾下に加える、荒木提督を派遣なさるとは……いやはや、斎藤提督もお人遣いが荒いですな。

 

「「「は?」」」

 

 本音と建前が逆に……あ。

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 釜山海軍基地。

 

 各祖国の思惑を胸に秘めた士官等、艦娘等は小さな会議室を出た。

 

 薄暗い部屋の中で、一人呆然と、頭を抱えるアメリカ軍の総司令官がため息をついた。

 

「はぁ……なんでこんなにもさ、うまくいかねぇんだろ? 確かによ? 過去の貿易摩擦と外交戦争の延長線みたいに、中国系移民が反米化した時期に中国系企業の買収で起こってる人種雇用差別問題が表面化してさ、中露マフィアの活動も活発化してコッチもかなりヘイト溜まっててさ、便乗してアラスカ返せ言い続けてるロシアとかさ、演習はアホみたい成功してたのに、実戦では子供レベルで連携取れてないとかさ……あぁ〜もうメチャクチャだよ」

 

 横で構える士官と艦娘の二人も、うんうんと頷く。

 

「中国系マフィアが流した合法麻薬の影響で、私の故郷も、一時期はとても悩まされました。実家がチャイナタウン化した街の横にあるのが接触の原因でしょうし、人種差別は、自由と平等を愛するアメリカ海軍軍人としてはいけないと思いますが……正直、我々と彼らでは住む世界、重んじる文化が乖離していると感じたのは事実です」

 

「お前も大変だったんだな……あ、言っとくけど、俺は中国系じゃないからな? 顔はアジア人でも中国とはあんま関係ないから」

 

「分かっていますよ、ドグソドルジ元帥」

 

 太平洋方面艦隊総司令、ジャック・ドグソドルジ元帥。

 上下ともに人間関係を円滑にして時勢を進める処世術、政界から大企業の重役まで届く人脈構成、ライバルを蹴落とす謀略、策略に長けた人物であり、一見陰湿なイメージを持つプロフィールとは裏腹に、持ち前の人柄からか、異常なほど人を惹きつける能力があると言われている。東アジア系としてアメリカ軍の元帥となった唯一の人物でもある。

 

 とある日、プレイボーイとの噂を聞いた部下が畏れ多くも関係を持った女性の数を聞いたら「お前って今まで会った女の数覚えてるの?」と冗談半分に返された。

 

「ロシアの艦娘たち、ぜーんぜん海路譲ってくれないんだもん、頭にきちゃう!」

 

 ぷんぷん! と頬を膨らますサミュエル・b・ロバーツ。可愛らしい見た目からは想像も付かない行動力を有し、駆逐艦という艦種の限界点、狂戦士並の立ち回りを幾度となく見せつけた。

 

「そうだなサム。韓海軍は日本との摩擦を加速させる目的だったから正直結果は気にしてないらしいし、後方だったから被害は一番少ないし……」

 

「ロシア海軍の艦娘が血気盛んなのは、個人的な武勲を立てる事で得る令聞冷望が多いからでしょう。勲章の授与による賞金も付くのに加え、ボーナス支給が簡単にできる体制が原因らしく、まるで中世に戻ったかのような狂乱の時代に連邦は居るようです。嘆かわしい」

 

 頭に手を添え頭を振る士官。

 

「元帥、個人的に得た情報なのですが……中国海軍は、意図的に我々の軍との連携を損ねた可能性があります。この作戦自体もそうですが、オキナワを奪還する一方、本命は直接的な干渉による関係悪化を加速させる目的であったと」

 

「記憶に新しい対中関税の報復、強硬姿勢の誇示、軍事力を見せつける一環でもあったのかもしれねぇが、今となっては失敗に終わった。アイツらの考える事は自分らの利益につながる事だけだ。今更どうしようとしてたか、なんて考えるだけ無駄だぜ。そういうのはペンタゴンの秀才たちに考えさせよう」

 

「はい……あの国を牽制するという同じ目的を持った我々とチャイナが、日本海軍のガモウや彼の作った深海棲艦教と協力関係にあったというのに、やはり敵はどうあがいても敵なのでしょうか……」

 

「……え、え!? 提督たち、そんなことしてたの!?」

 

「サムはしらなかったのか……しっかし、アイツも可哀想なヤツだよな? 理由はどうあれ、心が病んでたからこそ協力できたし、ヤツ自身ナショナリストみたいな顔して隠してたらしいけど、すげー日本のこと嫌いだったらしいぜ?」

 

「謀の類は好みではありません……」

 

「まぁ、一番ひでぇのはコッチの作戦が失敗した事だがな。まったくどうなってんだあのオキナワって島は? あんな強い深海棲艦、俺のキャリア全部通しても見たことねぇぞ?」

 

 サムは同意するよりかは、前方にいた味方の証言を頼りに想像した悲惨な戦線に対し、多少の恐怖感を憶えていた。あんな大きな艦隊でも倒せないのか……と。

 

 とはいえ、規模は連合軍が交戦し沈めた深海棲艦や、九州に来た大規模艦隊を合わせたら、歴史上最多となる数だが、総合的なデータを取るにはまだ早い。

 

「ここにいた各国幕僚の会議でも何度か繰り返された言葉だが、まさかこちらが撃破されるとは俺も思ってなかったぜ……確認した通り、新型の深海棲艦がいるようだが、それも一匹だけじゃねぇってのがまた厄介だな……」

 

「一隻はジャパンに行ったみたいだけど、もう一隻の強い方は上海に行ってそのまま行方不明になったみたい! 帰ったのかな?」

 

「え、つまり人民海軍は撃破できなかったってことかよ!? ウソだろ……深海棲艦相手じゃ、最早艦船なんて邪魔なのかもしれねぇな。大火力主義の我が国では、動く海上砲台のミサイル艦をこよなく愛するが、常識の改変は徹底しなきゃな……ハァ」

 

 サムの発言に驚きを隠せない元帥は、更に深々とため息をついた。

 

「元帥、ご存知の通り米軍将兵はジャパンの島々に漂流したと暗号文をいただきました。総合的にみて少人数とはいえ、同胞を島々に放置してはおけません。四カ国の軍部首脳はこの会議で、我々が日本海軍に援軍要請をすると認知した以上、艦隊を再編成しなくては……」

 

「そうだな、それで援軍要請は出したかサム?」

 

「はい!」

「うん!」

 

 二人とも返事した。

 

「……あの、サミュエル・b・ロバートの方に聞いたんだけど」

 

「私の名前はサミュエル・b・ロバートであります!」

 

「えー! 私も同じ名前なんだよ! 同姓同名なんだね!」

 

「え、可愛い女の子と40越しそうなオッサンが、同姓同名……? キモッ」

 

「私はまだ27ですッ!! それに同姓同名で悪いですか!? ぷんぷんッ!」

 

「うわキモ」

 

「あ、あははっ、でも提督に言われたとおり、結構前から援軍要請は送ってるよ? でも、国際的手順を踏んだ上で要請してください、って返ってきたんだって!」

 

 ぷんぷん! とまた怒ってる。

 

「……彼らは国連に参加しているだけで、軍事同盟には参加していないし、正直なことを言えばごもっともな指摘だ。援軍に来るとしても、早々に駆けつけてくれるわけでもない。まぁそうなる前に我々自身で救援に向かってる頃だろう。未だに作戦が失敗したのが信じられん、私のキャリアにおいては最悪な一日だ……こうなった以上は、一刻も早く同胞らを救うことに専念したい」

 

 多少の国際問題覚悟で救援に向かう事もできるが、救出要請を許可する前に行けば、侵略行為と囃し立てられる可能性が浮上した。

 更に中国政府がアメリカ批判に便乗し、日本側に付く可能性もあり、最善の結果を残すには将兵救出要請を受け入れてもらう他なかった。

 

「実は、オキナワをダシにして軍事同盟を結ばせるって手も考えてあったらしいが、それも今となっては……だな。沖縄にいた敵は強敵だ。ここは、私自らが佐世保の提督に話をしようじゃないか。既に政府同士での折り合いはついてるらしいし、一応、挨拶はしておかなきゃな。必要ってワケじゃねぇけど、日本は礼節を極度に重んじるからな。アイサツとか空気読まないだけで虫みたいな扱いされるし」

 

「まぁ総司令官ともなれば、政治家のような振る舞いが仕事の90%を占めます。Our Great Americaを代表する象徴としての一角を担う以上、挨拶は元帥にとっての実戦です。どのような状況下でも、疎かにするのは得策とは言えません」

 

 その他にも、日本上級将校と対面した時の正しい振る舞い方や、念頭に入れておくべきことを事細かに……ドグソドルジ元帥の感覚としては、口うるさく諭されていた。

 

「あぁ、うん、そうだな……って、え、お前何者? なんでそんなに俺がやってる仕事の内容とか理解してるの? いや合ってるんだけどさ」

 

「私の母は海軍省で働いていたんです。祖父も将官で、今日本で働いている従兄弟のべリングハム少佐も含め、家族関係のせいで実は海軍の人脈が広いんですよ。だから上から下まで海軍についての情報が入ってくるんです」

 

「はへぇぇ〜ローカルの軍人家庭なんて羨ましいぃ〜! 俺もな、親父と息子の所属国がバラバラなだけで軍人家庭なんだけどさ、一人ぼっちで、まっサラの状態から始めなきゃいけなかったからホント苦労したぜ……」

 

「所属国がバラバラ……とは、これまた奇天烈な……お父君は、元帥のディセントから、蒙古であると推測しますが、ご子息の方は……」

 

「今交渉中のJapanだよ」

 

「へぇ〜……って、今ケンカしてる国じゃん!」

 

「いやケンカってほどじゃないんだけどな? ハァ……Saratogaにドレイクの様子を伺わせてるんだが、そういえば最近あまり連絡取れてないな……まぁ、楽に海外電話できるような時代じゃなくなっちまったから仕方ないか……」

 

「……元帥?」

 

「あ、いやなんでもない。それよりアッチの提督に連絡を入れないとな」

 

「そうですね。佐世保は現在防衛作戦中であると、あちらに派遣した士官が言っていましたので、司令室に通信許可を入れます」

 

 三人の後ろの大画面は、数分ほどでブルースクリーンから佐世保の司令室、そして佐世保鎮守府総司令を映し出す。

 

『何をする貴様流行らせコラ!』

 

『抵抗しても無駄ですァ!』

 

『ドロヘドロ!』

 

『…………』

 

 荒木大佐が投入された。

 

『なんだお前!?』

 

『三人に勝てるわけないでしょうァ!』

 

『馬鹿モン貴様私は勝つぞ貴様!』

 

『フル焼きそばッ!』

 

 

 

 

「「「WTF」」」

 

 


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