整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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台風にはぐれぐれもお気をつけください。


九州防衛作戦3

 

 

 京泊要港部。

 九州に点在するすべての要港部、また警備府は、佐世保鎮守府の管轄下に置かれている。表向きの格は要港部と警備府で決められているが、地理学的な要素を含めることで、その重要性は増減する。

 要は警備府だからこっちより大きくて偉い! とは限らない。

 

 ここの要港部だってそうだ。

 長崎警備府と同様、長崎という重要な拠点を死守する重大な役目を任されている。

 長崎警備府と位置が近いので、長崎警備府の臨時拠点のような役割も持っている。

 

 そんな京泊要港部だが、建築費を削られ、海軍が建設した出撃所や工房以外は、民間施設を利用してようやく要港部としての機能を保っている状態である。

 だが、警備府の艦娘や士官を入れ替えしたりしているので、機能としては立派な海軍基地と言える。職員の半数以上が警備府にいるのを除いて。

 

 俺が乗る艦船を囲うように航海する艦娘たち。現在の状況で使えるとしたら、艦娘たちの羽休め、簡易な補給所。通常出撃などにも使われている中間地点。

 

 深海棲艦共に防衛圏が破られたのを見て、「念の為」と前に付けながら、別働隊の配置を改めて命令した蘇我総司令に従い、俺は現在ここにいる。

 状況なだけに、呑気にはしていられないが、準備は十全を心がけている俺にとって、待機する場所の確保と細かい準備作業の完遂は何よりも大事だった。

 

 司令艦船に乗っている俺が、彼らの周波数に合わせて寄港要請を出す。

 

「こちらは長崎警備府駐在艦隊司令官の宍戸大佐である。一時補給の拠営地点として我が艦隊を入港させたい」

 

『こちら京泊臨時拠点基地。貴官の艦隊の入港を拒否ス。針路の転針を要求する』

 

「こちら長崎警備府改第二連合艦隊、及び海陸上揚陸部隊を束ねた佐世保別働艦隊総指揮官の宍戸大佐である。京泊要港部を開港されたシ」

 

『こちら京泊臨時拠点、だからそれはできない』

 

「こちら佐世保の右腕にして前線の龍、長崎警備府艦隊総司令の宍戸大佐である。この艦隊には前線艦隊として名を馳せた6隻を全員編成しており、最新鋭試験装備の高射砲、15.5センチ砲、12.7センチA型改二、そして烈風など、現時点で最高性能を誇る搭載を施してある。これは、航空攻撃を行ってきたとしても我々はほぼ無傷で貴様らの基地航空を血祭りに上げ、更に無防備になった裸体を舐め回すも犯すも自由であるのは言わずとも分かるな? すぐに明け渡せッ、さもないと……」

 

『だから狭すぎるからできねぇっつってんだろオラァ!! え、ちょ、冷静に考えてみ? ここの規模見ろ? 乗ってる船が入れるスペースあると思う? え、むしろ、この基地がそっちの船に入っちゃうみたいな? あと、京泊要港部じゃなくて臨時拠点つってんだろオラァ!! 〇〇すゾッ!!』

 

「す、すいません……」

 

 常設すると決まったから一応は要港部扱いなんだけどなぁ……まぁいいや。基地の大きさ自体は俺たちの船とどっこいどっこいだが、船を形だけ入港させる程度なら問題ない。船と言ってもただの小さな輸送艦だしだが、そもそも京泊の基地自体が小さすぎるのがいけないんだよなぁ……常設するならこんな派出所みたいなサイズじゃないほうがいいと思う。

 ほら、今みたいに巨大艦隊が攻めてくる時とかこの人たち死ぬじゃん? まぁそのために俺たちがいるんだけどさ。

 

 艦船から降りず、俺は現在状況を近くの艦娘や京泊要港部と確認し合う。全体の状況把握に務めているが、そろそろ深海棲艦の本隊へと総攻撃を仕掛ける準備をしている事以外は対して重要じゃない。

 

「それにしても、通信が混雑してるなんて普通ある? 白露はあまり無線とか聞かないタイプだから、普段からこんなに聞こえないものなのか分からないけど」

 

「ちょっと耳がビリビリするのは分かるけど、村雨的にはちゃんと聞いたほうが良いと思うわよ? 特に今は旗艦の立場でしょ?」

 

「え〜、白露、面倒くさいのいやいや〜っ!」

 

「鈴谷も気持ちわかるー! まぁ、流石に聞かないなんてことはないけど……」

 

「どうやって今まで戦ってたんですか白露姉さん……」

 

「ははは、白露さんならゴリ押しでもなんとかなるんだと思うよ春雨ちゃん……よし、指揮能力の欠如を理由に、今から旗艦白露の第二艦隊指揮権を駆逐艦春雨に継承ッ! 駆逐艦白露は直ちにこの要港部での全裸謹慎待機を命じるッ!!」

 

「じょ、冗談だから!! 落ち着いて宍戸くん! ていうか、全裸待機なんてえっち! 白露のことそんな目で見るなんて、サイテー! そんなエッチな宍戸くんなんか、男好きな男の人に男にされちゃえー!」

 

「やめろォッ!! ただでさえ毎日危険な状態なのに、そんなこと言われたら絶対ホられるッ!!」

 

「別にいいじゃん一回や二回ぐらい」

 

「時雨、お前それ自分の身体にも言えるのか? 迫られれば一回や二回ぐらい肉体的御奉仕を辞さないと?」

 

「え、駄目に決まってるじゃん。え、っていうか、今作戦中なんだよ? 宍戸くん、そんなセクハラする暇があったら僕たちが頑張ったあとのお礼でも考えたらどうなの?」

 

 ふふふ、と悪戯っ子っぽさを含む笑顔を見せる時雨。そして隣で時雨の言葉を真に受けて、ガチで考え込むベアーフィールド(熊野)。

 

「お礼……お願いできるのであれば、お寿司かモスがいいですわ……いいえ熊野、淑女たるもの、常に謙虚を心がけて、二度は断るモノ……いいえ、仮に一度目を断ったとしても『オイオイ遠慮スルナヨクマノォーンオレトオマエノナカジャナイカー』と言われでもしたら、再度断るのは無礼というもの……それに、”遠慮はするな”と言うからには、遠慮していてはかなり失礼に当たる可能性が……」

 

「おいベアフィールド、そのクッソ可愛い声との間に聞こえたクッソブサイクな声って俺の真似?」

 

「か、可愛い声だなんて……も、もう宍戸さんったら……」

 

「「「ジー……」」」

 

 艦娘だけじゃなく、船の中にいる数人程度のムサ苦しい整工班も俺を凝視していた。

 ははは、モテるな俺、すっごく幸せだよっ。

 

「は? 夕立ちゃん? 五月雨ちゃん? え、初霜まで? 貴様ら恋愛に興味なかったんじゃないのかい? っていうか、こんなことしてる場合じゃないんだお? 第二防衛圏内に入ってる深海棲艦と戦うってことは陸空支援を受けれない上、艦娘だけで戦うから戦力全力全軍全開な数動員して、そのせいですっごく混雑していて、だから鎮守府との無線が繋がらないと思うのはさっきも話したよね?」

 

「ここで待機命令出されて、そこから通信が途絶えたから、ここでジッとしているしかないっぽい?」

 

「もどかしいけど、そういうことなんだよね」

 

「つまんなーい」

 

 白露さんの言葉に全員が同意しているわけじゃないとは思うけど、全員が落胆した表情で、寄りかかってうなだれる。

 

 鎮守府は待機命令以降、命令を出してこない。

 

 なんでだろう? と考えれば二つの可能性が出てくる。ヤバイことになってて通信途絶か、好転してるから命令出すの忘れてた、テヘペロっ、である。

 

「おいおい、お前らそんなことで良いのかよ! 高確率で近い将来、反攻作戦で沖縄旅行が実施されるんだぜ?」

 

『し、宍戸くんかい!? ち、鎮守府が、た、たたった大変なんだ!』

 

 急に割り込むな。

 

「どうしたんですか荒木大佐……?」

 

「ち、鎮守府が……鎮守府の艦隊が大変なんだッ!」

 

 荒木大佐が大変しか言えない大変ロボットになって、大変大変を連語しまくってくるなんて予想外にもほどがある。

 

「だから大変大変ってなんすかァッ!? 内容は手短に、そして概ねの状況を分かるように説明してくださいって何回も言ってるでしょおおおおおおおおおうおうおうおうぅ!!!」

 

「宍戸さんまたわたくしの真似ですの!? いい加減やめてくださる!? その声真似のせいで巷で熊野のイメージが変な声を出す淑女になってますのよ!? どう責任取るおつもりかしらァ!?」

 

「合ってるから問題ないんじゃない?」

 

「キエエエエエエエエッ!!!」

 

「お、新しい雄叫び。まぁそれはともかく荒木大佐、まずは指示をお願いします」

 

『う、うん! 今は、佐世保に向かってほしいって、斎藤准将が言ってるよ!』

 

 この人指示もできないとかどうやって提督してるの?

 

「了解です……みんな、佐世保鎮守府ヤバイからアッチに向かえと命令を受けた。これより最大船速であちらに行くぞ!!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 警備府。

 

「た、たたたた大変大変……!」

 

「落ち着け荒木大佐、お前が正気を失ってどうするんだ? ほら、貴様の秘書艦であるザラを見ろ。一心乱れぬ佇まい、明鏡止水の心を弁えている」

 

「ポカーン……」

 

「ザラさんは気絶してるんだと思います。妄想が捗りすぎたとか何とか……というか、なんで司令はメガネを逆さまにしているんですか?」

 

「は? ファッションに決まってるだろう!? 私は流行に疎い方が、今の流行は逆さメガネだ!! これで佐世保鎮守府も救われる!!」

 

 歯ぎしり、足踏み、フルスイングゴルフ素振り、ラリアット、宙返り、反復横飛び、ジャンピングジャック……落ち着きのない二人の司令官の奇行は親潮の目にも余った。しかし、無能な司令官と罵られるような行動をする前に、やる事はちゃんとやっている。

 

 斎藤准将はすぐさま警備府の残存艦隊を宍戸艦隊、並びに柱島艦隊、そしてその他の長崎警備府艦隊へと合流させると共に、佐世保鎮守府への集結を命じた。この命令は警備府に留まらず、鎮守府との連絡が途絶えたと訴えていた遠方の要港部にも発せられた。

 親潮や、補佐官として臨時着任した叢雲、並びにサラトガやべリングハム少佐も、この迅速かつ的確な行動には流石だと感銘を受けていた。

 だが当の本人は、数人の力を合わせてもその程度しかできない事に不満を抱いており、同時に不安も抱く斎藤准将の現在の姿がこれである。宍戸大佐に任せることしかできない不甲斐なさにも、不満を持つ要因でもある。

 

「佐世保鎮守府からの要請は捌きましたし、これ以上できることはないのは事実です。ここで待っているのが定跡でしょう。全てはCpt.Shishidoがなんとかしてくれるはずです。ね、Sara?」

 

「そうですね、のんびり待ちましょう……しかし、なぜGotlandとTashkentがいるのですか?」

 

「のんびりすると聞いて。あと今の状況だと役職を決めてもらえなさそうなので、暇を持て余してるの」

 

「そうそう、役職外されてから同志たちとお茶ばっかりしてたら水腹になりかけたんだ」

 

「ハハハ、なるほどね。じゃあみんなでゆっくり彼らの帰りを待ちましょう」

 

「宍戸に毒されすぎているぞ貴様らァ……こんな状況で慌てないなど、人間の常識を超えているとしか言えん。あれとて時には危機的状況に陥る事だってあることは、貴様らも十分承知であろう?」

 

「そうですね……Captainはイケメンなので、常にお尻を狙われるお立場にあるのは重々承知です」

 

「ソッチの意味ではない」

 

「大丈夫ですよ。司令なら、きっと……」

 

 どこか胸騒ぎを起こしていた親潮だが、そう信じたいがために、祈るように言葉を絞り出していた。

 

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 鎮守府付近海域。

 

「「「…………」」」

 

「……なにあれ?」

 

 温度の高い海を切り裂き、佐世保鎮守府正面海域に近い場所までやってきた俺たちが見たのは、深海棲艦の残骸に加え、ところどころに散りばめられた鉄の人工物。

 

 多分、大破して壊された艤装の数々だろうが、それ以上に佐世保鎮守府正面海域に侵入しようとしていた艦隊を見て、漏らした言葉だった。

 

『……!』

 

 幼い子供のような人形の深海棲艦が、不気味な瞳をこちらに照らしながら、笑みを浮かべて敬礼している。

 

 


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