整備工作兵が提督になるまで   作:らーらん

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ギアアップ3

 

 何十時間前の海域。

 

 そのまた何十、という数では効かない兵士を乗せ波を仰ぐ艦船と、それに随行ように走行する艦娘たちの群衆がいた。俗に言う連合軍艦隊は、現在南を向いている。

 その大まかな規模と目的は、既に世界中に知れ渡っているが、国際的に結ばれた艦隊である事と、日本の”元”プリフェクチャーへの武力をする任務以外の事の詳細を伏せているプロジェクトは、オペレーションCSと名付けられていた。CSーー沖縄の中国語読みから取ったものである。

 

「我々がオキナワを攻略したところで、ジャパンは黙っていないでしょう? なぜこのような遠征をしてまで……」

 

「艦娘を起用するための資材が溜まってるのを確認できたからだろ? その他にも、アルミや鉄、石油まで出来てるって言うじゃねぇか、こりゃ発見した衛生技術班は表彰物だな」

 

「資源もそうだが、あの国は度々領土問題を黙認している。領土をあのように奪われて取り返さないのは黙認と同意義だ」

 

「しかしオキナワは流石に大きすぎます。避難民も本州にいるらしいですし、現政権は強健であると認識しています。いくら中立地域であるグレーゾーンに認定されているからと言って、指を咥えて島の統治権譲るとは……」

 

「あちらが何を言ってこようと、国際社会では放棄地帯として認識されている。深海棲艦が支配する海面放棄地帯の確保は、制圧能力のある軍隊と、その後の保護が可能な国家に判断を委ねられる……それを悪用した過激な例を出せば、サウジアラビアがUAEやオーマンに援軍を出し、恒久的な安定を条件に、そのまま保護国にしてしまった事例もあるぐらい、現代の状況は変わってしまったんだ。深海棲艦がいなかった、あるいは出現当時に一致団結していた時代が懐かしい」

 

「領土権を揉めてる間に資材かっぱらって行けばイイって寸法ですね? アメリカサイコー! チャイナへの圧力としても使えますし、少しでも我々の基地を取り返せれば、なおのことサイコー!」

 

「人民軍だけじゃない、ジャパンも海外へと手を伸ばそうとしている今、オキナワを国際拠点とし、牽制を効かせる必要がある」

 

 参加するために臨時結成され、訓練を施された連合軍艦隊ーーアメリカ側の俗称であり、Combined Fleet of Provisional International Commitmentの略称として使われているCFは、人民海軍と合流できたものの

 

「……こちらはUSPF、DDデヴィジョン5。モセウルポ湾から出港して一時間、チャイニーズフリート及びラッシャンフリートとの合流を果たしました……しかし、奴らは煽るように我々の先頭を陣取りました。これは我々をバカにしている行為とみなしましたので、攻撃許可を頂いてもよろしいでしょうか? HAHAHA」

 

「「「HAHAHA!!!」」」

 

 艦上の司令室では笑い声が轟く。

 世界情勢や緊張が特に際どく迫っているわけではないが、近年、水面下で行われるロシアと中国大陸からアメリカ合衆国防衛省への攻撃が激化していたこともあり、それを悪びれるどころか当然の権利のように振る舞う各軍の緊張は高まっていた。それは訓練中での不祥事や、ほんの小さな出来事も含めて、本番での連携を損なっている事に上層部は気づいていた。

 連合軍上層部もある程度、互いへの嫌気が伝染し続けており、パトリオティズムとナショナリズムが高ぶる現在の海軍において、少なからずお互いへの悪感情が高揚していた。

 

 当然、この演習には強国同士の団結力を確かめ合い、固める目的もあった。しかし、様々な試行錯誤を繰り返しても、国内で起こっている人種が引き起こしている問題などにより、阻害されている。

 言葉と文化の違いやイントネーションの誤差が起こすコミュニケーションの障害も、大きな要因だと言える。

 軍隊、政府機関、大企業以外の国民が軽々と海外旅行にいけなくなり、深海棲艦到来以前よりも海外へのインターネットアクセスに少なからず制限が掛かった状態は、文化の多様化に歯止めをかけた。

 

『何を言っている、これは演習ではなく実戦である。ジョークはほどほどにしておけ』

 

「了解……なっ!? じ、人民海軍が速度を上げている模様! 速度維持を要請していますが、止めません!!! 我々USPF、そしてUSIPCを愚弄する行為です! ラッシャンの艦隊もそれに随伴していくようです! 我々も速度を維持していれば離されます!!!」

 

『もう少し待て!! USIPCのドグソドルジ元帥の許可を取らなくてはいけない! 辛抱が足らぬ奴らを追っていく必要はない!!』

 

「しかし……!」

 

 大海原にて巨大な鉄塊の上に乗艦する艦長が唇を噛み締めていた。

 艦に随行するように海上を滑る艦娘たちは、一部の外国艦隊から急接近されたり、速度を上げられたり、または正面を陣取られたりと煽り行動を受けている。

 

 一部は慢心からくる行為であり、ロシア海軍の艦娘たちがアメリカ艦隊が定めたと決めた深海棲艦を横取りして撃沈し、更には「ロシア艦隊サイキョーーーー!!!」や「人民軍に敵うものなし!!!」など、定期的に聞こえてくる無線から自分の国が一番だと遠回しに挑発する言動が、アメリカ艦隊も若干の苛立ちを覚えさせていた。

 この一連の出来事を収めたカメラ、及び一部が記録していた動画が後に世界中でリークされ、その全貌が知られる事を予め知っておけば、彼らは冷静さを保っていられただろうと後に語る。

 

 団結を欠くCFに必要な連携強化から目を背ける理由はただお互いの事が嫌い……などと、安直な理由からではない。

 沖縄で戦う事となるのがより強大な敵深海棲艦であればまだしも、CFの戦力的な強さと、日本海軍が沖縄の深海棲艦に負けた真の理由を知る上層部にとって、戦術面での戦いには目を触れる必要すらなく”約束された完勝”であると信じていた。

 また、日本海軍の負けた理由として各国のメディアが上げたのが”日本海軍の戦術的観点からみた脆弱性”を信じ切り、特にそれを矯正されなかった下士官や艦娘たちにとって、ウサギ狩りに行くようなものだった。

 

 ただ、作戦の意図を理解しないほとんどの下部士官や艦娘たちにとっては「作戦を失敗した日本軍の尻拭き」であり、なぜそんな作戦にわざわざ出なくてはならないんだという、士気低下も見られていた。

 

 これらの悪感情は今に始まったことではなく、近年から各国の人種による国内問題や経済状況から来ており、それが軍隊にも波紋を及ぼしている。

 

 それらを払拭するための軍事外交の一環、という面を有していたが、かえって関係を悪化させるまでに至ってしまった。

 共産党政府はこれらの行為を黙認した背景には、少なからず米国からの関税政策や、大手中華系企業の幹部の逮捕などが挙げられる。

 他にもロシアからは富裕層が米国に根城を作り、中国系移民同様、ロシアタウンを作ってしまい、英語という言語が若干危ぶまれている事が、米軍艦長や司令官にとっては腹立たしいらしい。

 

 更に取り上げれば、地元フットボールチームが、ロシア系オーナーとロシア人で構成されたチームに州大会で負けたのが許せなかったらしい。もしも俺が艦長だったら、目の前のファッキンラッシャンフリートにバリスティックミサイル打ち込んでやりたかったと語っていた一部兵士も居た。

 

「クソォ!!! 我々が目的を駆逐すると言ったのにまた砲撃したぞアイツラァ!? しかも我々の艦娘に当たりそうになった! 忠告だけで済む相手じゃない!! ここは多少威嚇してでも……」

 

『待て!! 今は指示を待つんだ!!』

 

「チッ、了解ッ……艦娘たちも引き続き随伴行動を取るように……クソォ!! 指揮系統どうなってんだよコレェ!? ヴァージンでも口説くのにこんな時間かからねぇぞ!?」

 

『こちらDD5のサードフラッグシップ! それは女性への冒涜と受け取っていいんですね!? 裁判で訴えます!!』

 

「うるせぇぞクソアマァ!! だいたいお前がもっと早く攻撃しないからFU”KEN CH"NKやIWANに取られるんだろうがァ!!」

 

『それは聞き捨てならないです! 艦娘だけじゃない、女性全員への冒涜とみなして、裁判にかけます!!!』

 

「うわ面倒くせぇ、艦娘フェミニスト多すぎだろ……」

 

 小さな事が、すべてを狂わせる。

 CFの統制でも、その原則は変わりはしない。

 

「USPF本部より通信! 上海艦隊が撃破され撤退中とのことです!!」

 

「ハッ! ざまぁみろ。言われてるほど艦娘技術がないのか、軍の統制が整ってないのか、何れにせよ深海棲艦に負けるなんてなぁ?」

 

「まったくですね、それで数は如何ほどですか? 人民海軍の艦娘を10倒すのに10を必要とするかも知れませんが、そこから敵数予測ができる我々も、一応正確な情報は聞いておきたいので」

 

「「「HAHAHA!!!」」」

 

 遠回しに「アイツら弱い」と言っており、この無線はアメリカ艦の無線を傍受していた人民海軍とロシア海軍の耳にしっかりと聞こえていた。この反感によって、特に艦娘と下士官たちの反感情が伝染して飛び交い、また彼らもそれを意図的に無線の傍受を阻止しようとは思わなかった。

 

「そ、それが……未だに情報交換に時間がかかっていると……」

 

「同盟軍なのに情報の交換ができねぇってのか? やっぱり敵は敵か。分かりあえねぇ奴らってどうしてもいるんだよなぁ……俺の今の上官もゴミクズだしよォ? それに艦娘たちの中にはフェミニストがいると来た! 楽なミッションだが、反面楽しくない航海になっちまいそうだなぁ……ん?」

 

「て、敵艦隊発見!!! これより警戒態勢に入ります!!!」

 

「チッ、クソガァ!!! 目の前の艦隊が退かねぇから部分的にしか敵情報を把握できねぇじゃねぇか!!! 砲撃準備!!!」

 

「え、う、撃つつもりですか!? チャイニーズの艦隊が目の前にいるんですよ!?」

 

「敵艦隊が近づいたら深海棲艦だけを狙って撃つ! あくまで自衛のために撃つ! 煽るだけ煽ってきた艦隊は今俺たちの盾になってる。だが、同時に敵艦隊倒すのに邪魔な存在になってる。退けって言っても退かねぇんだったら、このまま戦うしかねぇだろ! 一応、当たるかも知れねぇって再度忠告をするぞ!」

 

「は、はい! ……あ、あれは……!?」

 

「どうした!?」

 

「あ、あの数は……!」

 

 

 

 

 

 

 佐世保第一鎮守府、会議室。

 佐世保方面軍にいる、各基地の意思決定ができる高級士官を全員招集した。

 

 俺を含めた警備府の三大司令官はもちろん、秘書艦の村雨ちゃん、それに旗艦の飛鷹と隼鷹を連れてきたんだけど、流石に酒瓶を持つような場所でも雰囲気でもないので、若干緊張しながらも静かに話を聞いている。

 

「それでは結城司令官。今作戦情報参謀として、説明を頼む」

 

「ウィィィッス! まぁ要はアメリカ、中国、韓国、ロシアの外国海軍が即席結成した連合艦隊をぶっ潰した沖縄の深海棲艦の大群がコッチに向かっているって事ッス。確認できるだけで100隻で、その内半分以上はエリート艦以上と断定はしているんッスけど、これ以上来る可能性もフラッグシップがいる可能性も大ッス」

 

「「「百、隻……?」

 


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