蒼穹のファフナー ~The Bequeath Of Memory~   作:鳳慧罵亜

7 / 9
いやー前回は申し訳ない。寝落ちしかけて慌てて書き上げてしまったのでちょいと大変なことになってたかもしんないです。

それにしても、設定に反してレイとカノンの絡みが少ない。これはいかん。



……ではどうぞ。


対話

島の海岸で、一騎は皆城総士と一緒に砂浜に座っていた。彼が言っていた出前の出先が、総士の元であったのである。

 

傍から見ると通い妻のようであるが、本人たちにその気はない。と、思いたい。

 

そして一騎は先の親睦会で人類軍たちが言っていた『マカベ因子』について、総士に話していた。

 

「『マカベ因子』か―――人類軍らしい」

 

弁当箱に入っていた最後のポテトサラダをフォークに刺し、口に入れながら総士は簡潔に述べた。

 

「あいつらも俺みたい(・・・・)になるのか?」

 

互いに外側に対角線に成る様に座っていたが、一騎は水筒のコーヒーをカップに注ぐと、総士に手渡しながら尋ねた。対する総士は目線だけ一騎に向けながら答える。

 

「……どんな因子かは不明だ」

 

「でも、解る事はあるだろう?」

 

一騎の更なる質問に対して、総士はコーヒーを受け取ると、思考を簡潔にまとめながら口を開いた。

 

「彼らの年齢で染色体変化と同化現象を受けたなら、20代の終わりまで命が持たない」

 

「それが彼らの生存限界だ―――」そう言って、総士はコーヒーを口に運ぶ。自分好みの淹れ方をいつの間にか覚えていた一騎のコーヒーはいつ飲んでも

美味い。

 

「なのに俺は、感謝されたわけか―――」

 

一騎は顔の向きが総士と平行になる方向に座り直し、砂浜に寝そべった。それに対して、総士は「お前の責任じゃない」と少し強めの口調で断言する。

 

「立場が違えば、僕らが誰かの因子を使って戦っていた。」

 

水筒のキャップ兼コップを揺らしながらそう語る総士。一騎も思うところがあるのか、しばしの沈黙の後に口を開いた。

 

「……そうだな。同じことをレイにも言われたよ」

 

「……彼はなんて言っていたんだ?」

 

「「そんなこと、俺は知らない」っていえば言ってさ。どうなろうとも、彼らの自業自得だって言ってたよ」

 

空を見上げ、総士のもとに向かう途中も何度か反芻していた言葉を伝える。それに対して、一騎からは見えなかったが、どこか苦笑した雰囲気で総士は「そうか」と言った。

 

「らしい言い方だ。敵と味方、自分と他人、明確に線引きして判断する彼らしい、な」

 

そう言って、コーヒーを飲む総士。一騎は「そうだな」と言い、場に静寂が訪れた。お互いに何も話さず、時間がゆるやかに流れていく。海岸線に吹く風は2人の髪を揺らす程度の弱さで、時に少し強めに吹きながら絶えることなく吹き続けている。夏に差し掛かった夜が涼しく感じられる。総士は海を、一騎は夜空を見上げ、静かな時間を過ごしていた。

 

「……。……」

 

やがて、ちらりと一騎の方へ顔を向けた総士。ふと、思い出したように口を開いた。

 

「……伸びたな」

 

「?」

 

総士の言葉に、一騎は彼の方へ目線を向けた。彼の視線は肩にかかりそうなくらいに伸びている一騎の髪に向けられていた。

 

「切ったらどうだ」

 

そんな総士の言葉に、一騎は風に揺れる髪の一束を指で挟み、眺めながら言った。

 

「これも俺の一部で、生きてるって思うと、切る気がしないんだ」

 

「そうか」

 

一騎の言葉に総士はそう言って、視線を海へ戻した。

 

「少々、鬱陶しいな」

 

「お前が言うな」

 

明らかに自分の3倍以上にまで髪を伸ばしている親友の言葉に、一騎は至極まっとうに反論した。

 

――――

 

「―――人類軍の発言についてですが、美羽ちゃんは全て肯定しています」

 

竜宮島アルヴィス内の会議室にて、各リーダー格の面々が集結している。人類軍の来訪と示された全ての情報、そしてこれからのことを話し合っているのだ。当然、そこにレイ・ベルリオーズも席に座り、会議に参加している。この場では彼はファフナーのメカニックとしてではなく、ファフナー部隊の隊長という立場で参加しているため、基本この場では部隊長として以外では機体について触れることはしない。それは同席している小楯保の仕事である。

 

会議の内容は「人類軍が来た目的」と「人類軍による協力要請に応えるか」という2つの議題を同時に進行している。

人類軍が来た目的については大方の把握はできたが、正直な話恐ろしいことになりそうだ。

 

新たなミール『アルタイル』が地球に接近しつつあるという。

 

今まで、地球に飛来したミールは3つ。1つは遥か昔、人類の進化に影響を及ぼしたとされる超古代ミール。フェストゥムが人類の心を読めるのはこれが関係していると目されている。2つ目はその超古代ミールに引き寄せられて飛来した瀬戸内海ミール。

 

現在はアーガディアンプロジェクトの目的の為に分解され、我々の力となっている。

 

そして、5年前―――最後の戦いの舞台となった北極に存在した北極ミール。現在は粉々にされた破片の一部が小ミールとなって世界各地に存在しているという。2年前、こちらと戦った来栖操が存在したミールもそのうちの一つだ。

 

ミールとは言わば、フェストゥムを統べる本体の様なモノ。フェストゥムにとっての頭脳体ともいえるべき存在である。

 

故に、その力は強力無比。もしそんな存在が一個のフェストゥムとして活動しているのならば、ザルヴァ―トルモデルでなければ到底太刀打ちはできないだろう存在になる。

故に、こうして緊急会議が開かれているのである。

 

途中、急に遠見千鶴がクシャミをしたが、まあそれは置いておくとしよう。問題は人類軍たちが何が目的でこの島にやってきたのかが重要であるのだ。

 

「嘘発見器による診断も、同様でした」

 

千鶴に続いて要澄美が発言をする。その2人の言葉を受けて、竜宮島指令、真壁史彦は考え込むように唸る。だが、すぐに2人から視線を外し周りで囲んでいるデスクの中央モニターにし顔を向ける。

 

「彼らの言うミールは―――」

 

モニターに3DCGで出来た映像が投射される。その映像は、ある場所を指し示している。かつて、インドと呼ばれた場所だ。

 

「インド大陸北部、シュリーナガルにある」

 

そして、史彦の言葉に合わせ、映像が更新されていく。3D投影されたインド大陸の映像の一点にマーカーが示され、「Srinagar」と地名が表示された。全員がそれを確認し、しばし沈黙が訪れる。10秒後に沈黙を破ったのは西尾行美である。アルヴィス最高齢のメンバーにして現在尚、竜宮島最下層に存在する『キール・ブロック』、別名を「ウルドの泉」と呼ばれる液体コンピュータ解析の担当者として会議に参加している。

 

「島に持ってこれないということは、よほど巨大か、地面に固定されているか……ミールが何に変化したのか、大いに興味があるよ」

 

研究者として、興味があるためか自分なりに分析した考えを周囲に伝える。その発言に幾人かが頷いていた。

 

「陸地じゃ島を近づけられん、美羽ちゃんだけ行かせるわけにはいかんだろう」

 

ここで、溝口恭介が口を開くが、その内容はこの島の現状から協力は難しいという意見が濃厚に滲んでいた。それに続いて、ジェレミーが発言する。

 

「ファフナー部隊を護衛に出した場合、島の防衛力の低下が不安です」

 

彼女も、現状の戦力では協力は難しいと考えている。そして、それは彼も同様であった。

 

「現状、僕を含めパイロットは5人引退しています。現状のメンバーをフル動員しても計5人。アルトドッグとも言えない隊形です。島外派遣をするにはトリプルドッグ。3人での連携が最低条件、それ未満は部隊長として認められません」

 

静かに、それでいて強い口調でレイは断言する。これは言外に現状の戦力では島外派遣は不可能という事を突きつけるものでもあった。

 

それに続けるように澄美の発言する。

 

「パイロットの新候補者は接続テストも、両親への通達もまだです」

 

「……改良型と、新型は?」

 

2人の言葉を聞き、文彦は今度は小楯保と羽佐間容子に視線を向けた。

 

「改良型は現在3機が完成目前ですが、内蔵させるコアが不足しています。新型機はヌルのコアを移植する予定ですが、例の新機構が完成していません」

 

容子は手前のコンソールを操作し、中央モニターに映像を投影させた。映像は一度シュリーナガルの映像が消え、新たに並ぶ3機のファフナーと、そこに少し離れた位置に表示される今までに見たことがない形状のファフナーが1機、合計4機の機体が投影されている。映し出される機体の周囲から各部位の完成状況と全体の完成率が表示されている。どれも90%以上を表示しており、唯一新型の機体だけが胸部の完成率が70%を下回っていた。だが、その新型以外の機体には、容子の言葉通り、コアが内蔵されていないという趣旨の記述がされていた。操作が終わった後で、容子がもう一度発言する。

 

「コアがなければ通常兵器と変わらず、敵に対抗できません」

 

「現在8機がコアを搭載。しかしドライとアハトが無人機の研究に使用中で、動かせるのは6機のみです」

 

容子の発言を補足する形で同じメカニックのイアン・カンプが言葉を繋げる。そう、現状機体ができても内蔵させるコアが不足しているのだ。コアがなければ敵の攻撃に対する十分な防御ができず、通常兵器同様あっさりと敵に破壊されてしまう恐れがある。例外としては一部のパイロットはコアのない機体でも敵を撃破することが十分できる実力を持っているが―――

 

「一騎やカノン、そしてお前さんはコアなしでも戦えるけどなー?」

 

「そうですね」

 

その点をやや大げさに両手でジェスチャーしながら溝口がレイを見る。レイはそれに対して肩をすくめそっけなく応えた。そう、この中でコアのない機体での戦闘経験、及び敵の撃破経験があるのが、溝口が挙げた3人である。

 

そのうちのレイとカノンは、元人類軍という都合上、長いあいだコアなしの機体で戦い抜いてきている。基本1体の敵に3、4機で戦闘する人類軍ではあるが、この2人に限って言えば単独で複数の敵を撃破してきているため、実力島のパイロットたちの中でも最高クラスであった。

 

しかし、だからといって戦えるわけではない。

 

「その3人はとっくに引退しちまったがね」

 

「だよなあ」

 

西尾行美の指摘にがっくりと項垂れる溝口。言わずもがな、彼が挙げた3人は既にパイロットを引退している。結局のところ、コアを内蔵した機体でなければ戦力にはならないということは変わらないようだ。最も、それは溝口も重々承知の上での発言のため、うなだれたのも唯のフリでしかない。それを全員が知っているため特にこれ以上言及することはなかった。

 

「……ソロモンは?」

 

溝口の発言を一通りスルーしていた文彦は次の問題について口にした。それにジェレミーが答える。

 

「アザゼル型と呼ばれる巨大な敵ですが、ソロモンは断続的に応答。島を追跡している可能性が高いと思われます」

 

「戦力を減らすわけには行かねえな」

 

「連中を信用したとしても、現実は厳しい」

 

「アザゼル型がミールそのものであると考えるとすると、現在の戦力でも太刀打ちできるかは―――厳しいと言わざるを得ません」

 

ジェレミーに続いて、溝口に小楯、レイが各々の見解を述べていく。3者別々の立場からの発言であるが、共通して人類軍に協力するのは現状の戦力では不可能と言う結論であった。

 

3人の意見に、再び場が沈黙しかけた時、真壁史彦がその空気を破った。

 

「……実は将軍から提案があった」

 

史彦がそういうと同時に彼の背後のモニターが点灯。人類軍と共にいた少女と日野美羽が一緒に画用紙に絵を描いている様子が映し出されている。

 

「あの少女が島の戦力を増大させられると」

 

「増大?」

 

「どうやってですか?」

 

史彦の「戦力を増大させられる」と言う言葉に真っ先に反応したのはレイだった。やはり部隊を担う身として、機体に携わる身として今の言葉は聞き逃すことはできなかったのだろう。次に反応したのは羽佐間容子であったが、彼女もメカニックであるためか、反応は早かった。彼女の反対の席に座る小楯保も言葉は発しなかったものの、眉を顰めていた。

 

容子の問いに史彦は応える

 

「あの少女を島のコア……皆城乙姫と、対話させたいと言っている」

 

その言葉に1人を除いた全員が驚愕した。当然だろう。皆城乙姫、この島の中心にして心臓であるコアと例の少女を接触させるというのだ。一体何が起きてしまうのかなんて、

この場のだれも想像ができないし、最悪コアが変異する恐れもある。

 

「何だって……!?」

 

「コアを通して島のミールに接触する気だねぇ。で、何をするか想像もつかないよ」

 

長い間、ミールやフェストゥムに関することを研究してきた西尾行美ですら想像がつかないという。当然この場の全員にも想像なんてできるはずがない。

 

「大丈夫なんですか?」

 

要澄美はこの場にいる中で史彦の言葉に唯一驚くことの無かった千鶴に尋ねる。彼女はあらかじめ知っていたのだろう。

 

「美羽ちゃんが言うには、ただお話しするだけだと」

 

「……明朝、あの少女を皆城乙姫と出会わせる。全エリアを監視、異常があれば中止する。異論は?」

 

史彦の言葉に応じる者はいない。この場の全員が、これから起こるであろう未知の事象に対して、何も予想が出来ない以上、

下手に動くよりもまずは見てみる事を選んだのである。

 

全員を見渡して、史彦はもう一度口を開いた。

 

「彼らの言う「希望」が、我々の中核たる存在に対しても、有益であることを祈ろう」

 

最後にそう締めくくり、この会議は終了したのだった。

 

――――

 

「島のコアと、対話……戦力の増大……」

 

夜も更けた頃、レイは帰路につきながら会議での内容を反芻していた。だが、反芻して内容を理解しようとしても、会議で語られたことは彼の思考の外側にまで広がっている。例の少女、「エメリー・アーモンド」と島のコアである「元・皆城乙姫」と対話をさせる。

 

一体それでどう戦力が増大するのか、全くもって見当がつかない。

 

予測される事態に対処しようにも、予測のしようが無いのでは後手に回る対応しかできないではないかと、思考がぐるぐると廻っていた。思考のメリーゴーランドが何週目かに入ろうとした時、自宅が見えてきた。

 

この時間だ。向かい側にある羽佐間家の明りはついていなかった。容子さんは僕が出る時にはまだアルヴィスにいたから帰宅はしていないはず、カノンはもう寝ていますね。

と思考しつつ、向かって右側の、自宅への門へ差し掛かった時、赤い髪が見えた。

 

「遅かったな。レイ」

 

「カノン―――どうしたんですか?このような時間に」

 

彼の家の扉の前にいたのは、見間違えるはずもない羽佐間カノンその人であった。彼女は私服姿のまま、こちらの帰りを待っていたのだろう。

 

肩にバッグを掛けているが、仕事用の物とは違うため、一度向かい側の自宅には帰ってきているはずだが、なぜ態々待っていてくれたのだろうか。

 

「母さんが、会議で遅くなるって言っていてな。どうせお前も遅くなるだろうと思って、待っていたんだ。10分前あたりからな」

 

「そうですか……ありがとうございますカノン。入って下さい。紅茶でよければ、出しますよ?」

 

「助かる。実はまだシャワーを浴びてないんだ。借りるぞ」

 

「ええ、どうぞ」

 

扉の鍵を開け、中へカノンを招く。理由は未だ判然としないが、待っていてくれたのはちょっと、いや結構嬉しい。どうやらバッグの中身は着替えが入っているようで、そのまま風呂場へと入っていった。

 

リビングで湯を沸かし、いつでも紅茶を入れられる準備を整えて、待つこと1時間。先程までとは別の私服姿に着替えた顔所が、持っていたらしいバスタオルで髪を拭きながらリビングへやってきた。

 

僕はテーブルの椅子に座るカノンを見ながら、彼女様に用意していたカップに紅茶を注ぐ。そして、幾つかの氷とシュガーを入れて、彼女の前に差し出した。

 

「どうぞ、カノン」

 

「ああ、ありがとうレイ」

 

カノンは紅茶を一口飲んで一息つくと、少し真剣な表情になって、口を開いた。

 

「会議、何があったんだ?」

 

「人類軍のことですが、少し妙なことになりまして―――」

 

僕はカノンに会議で会った事を話す。人類軍が島に来た理由、新たなミールの飛来、そしてエメリー・アーモンドとの島のコアとの対話の件についても。彼女も驚くことが多かったが、無理もない。僕だって未だ理解できない事が多く、正直混乱しかけている。

 

「―――と言うわけでして、明朝例の少女と島のコアを出会わせます。事が事ですので、島全域が監視対象になります」

 

「と、なると私もブルグで待機していた方がいいな」

 

「はい。保さんや容子さんも各所定の位置で待機してもらい、何かあったら対応してもらう手筈です」

 

だが、流石カノン。元軍人と言うこともあって、思考の切り替えが早い。既に自分がどうすればいいかを判断していた。

 

「だが、戦力の増大か……何が起きるのか、予想もつかないな」

 

「こればっかりは明日にならないと、ですね。明日は早いですよ」

 

僕の言葉に、彼女は頷いた。それから何点か明日の事やパイロットの事などを話し合い、そろそろお互い明日に備えて就寝しようという流れになった。

 

なったのですが、どうも様子がおかしい。いや彼女に別段変わったことはありませんが、就寝しようという話の流れに反して、どうにも自宅に帰る様子が見当たらないのはいったいどういうことなのでしょうか。

 

「あの……カノン」

 

「?なんだ」

 

少し言い辛いのだが、ここは意を決して口にしなければならないだろう。

 

「いま、就寝しようという話になりましたよね?そこは間違いありませんね?」

 

「?ああ、そうだな」

 

首をかしげながら、僕の言葉に同意するカノン。いや、首をかしげたいのは僕の方なのですが……。

 

「明日も早いですし、もう寝ようという流れですよね?」

 

「そうだが、どうした?」

 

「いえ、でしたらもう自宅に戻られた方が―――」

 

「何を言っている?今日は泊まっていくぞ?」

 

…………え?

 

「いま、なんて?」

 

「だから、泊まっていくといったんだ。母さんにはもう許可を取っている」

 

―――――なんです?

 

「僕の家に寝室は1つしかありませんよ?」

 

「知っている。ベッドも1つだな」

 

当たり前のようにそう平然と言う彼女に僕の首筋に一筋の冷や汗が流れた。

 

「もしや、一緒に寝る……と?」

 

「当然だろう」

 

―――?

 

「当然なのですか?」

 

「当然だ」

 

「当然?」

 

「当然」

 

「僕の性別は?」

 

「男だな」

 

「では、貴方の性別は?」

 

「女だな」

 

「それで、1つのベッドに一緒に寝ると?」

 

僕がそこまで言ったところで、カノンは何かを悟ったかのように、深い溜息を吐いた。そして、小さい声で「この、鈍感め」とつぶやく。いや、鈍感と言われましても、

僕には貴方の行動の方にこそ問題があると抗議したいのですがそれは?

 

「私に皆まで言わせる気か。ほら、行くぞ」

 

「わ、ちょ、カノン?」

 

「安心しろ、何が起きても誰にも言わないでおく」

 

いや、みじんももあんしんできないのですがそれは――――――!?

 

 

 

僕、どこまで理性が保つでしょうか……道生さん、洋治さん……。

 

 

――――

 

明朝、僕はカノンと一緒にアルヴィスへ赴き、途中で別れてカノンはブルグへ、僕はCDCに向かっていた。

 

島のコア。ワルキューレの岩戸には、皆城総士、立上芹、日野美羽、日野弓子、遠見千鶴。人類軍のナレイン将軍に例の少女、エメリーアーモンドの2名。そして、溝口さん

率いる特殊部隊が向かっている。

 

僕は立ち会いを辞退し、全てが俯瞰できるこのCDCで何が起きるのかを待っていた。

だが、彼らがいるから安心できるとは言っても、何が起きるかは全く未知数だ。そういう意味では関係者全員に緊張が走っている。

 

ワルキューレの岩戸の様子は此処からでも確認ができる。

 

モニターには丁度、岩戸の中へ入ってきた一行の姿が見えていた。

 

『はっ……乙姫ちゃん!?』

 

一行が岩戸の深奥、コアの存在する場所へと近づく中、芹が何かに気付いたのか、慌てた様子でコアに近づく。

 

『これほど急激に成長するなんて……』

 

『自ら成長を速めたのか……?』

 

千鶴と総士がコアの様子を見て呟いている。確かにこちらから確認できる様子には、彼らの言うとおり精々生まれたばかりの姿であったはずのコアがかつての皆城乙姫と同じ姿にまで成長していた。

 

『人の形をしたコア。人とミールの融合か。初めて実物を見たな』

 

ナレイン将軍は、どこか感嘆する様子で言葉を紡いだ。そして、彼の隣にいた少女、エメリー・アーモンドが悲しげな声で『とても優しくて、悲しい子』とつぶやき、それと同時に歩き出した。

 

その足は真っ直ぐに、コアの方へと進んでいく。

 

『待って』

 

コアの近くにいた芹が止めようとしたが、彼女の纏う雰囲気に押されたか、または別の理由か一度は制止したもののそれ以上は何もできないままにエメリー・アーモンドを見送った。

 

そして、コアの前に立つと、岩戸の深奥であるコアを護る人工子宮のガラスに手を触れた。

 

『ずっと……守っていたんだね……皆を……』

 

そう呟く少女の声は震えていて、こちらからは確認できないが、涙を浮かべているだろうことが声で予想できた。

 

『っ……!?』

 

総士や芹達が何か異変に気付いた様子だが、こちらからは判らない。しかし、エメリー・アーモンドが言葉を発した直後に、それは起こった。

 

『私達に……あなたの強さを与えて』

 

彼女がそう言った直後、岩戸の人工子宮が、輝きだしたのだ。明らかに尋常ではない事態。そして、事態はさらに動き出す。

 

『エメリー!?』

 

美羽の悲鳴に近い声が届く。エメリー・アーモンドの子宮に触れている手から、緑色の結晶が生えだした。それは一瞬のうちに彼女の腕全てを覆い尽くす。

 

『ミールに同化されるぞ!?』

 

「莫迦な!?現状のコアに自発意識はないはずです!?」

 

CDCから様子を見ていたレイは思わず叫んだ。無理もない。現状のコアは成長期を乗り越え、安定してはいるものの自発意識を持つには本来なら、もう3年は必要と目されていた。

 

そして、自発意識から体の成長状態を鑑みて自分から岩戸を出て、動くコアとして島を回ると予想されていたが、自ら何かを同化しようとするには明らかに速過ぎていた。

 

「だが、コアは既にかつて我々と共にいた皆城乙姫と同じ状態にまで成長している」

 

「……っ」

 

そして、レイを窘めるように史彦は静かに言葉を投げかけた。彼も向こうの様子に驚いているはずだろうが、彼は何が起きてもそういうことなのだろうと受け入れる姿勢を整えていたらしい。

 

レイも落ち着きを取り戻して、「すいません。理解が追い付かないもので……」と謝罪する。それに対して史彦は「君だけじゃない」と語った。

 

「この場も、あの場のだれもが、予想だにしなかった事態だ」

 

そして、彼らがやり取りをしている間にも、事態は進んでいた。CDCが異常を感知し、すぐさま情報共有が成されていく。

 

「ソロモンに応答!艦内です!」

 

「位置は!?」

 

「キールブロックで異常が発生!ウルドの泉でなにかが……発生!?」

 

「何かって……解析は!?」

 

レイが発した声は驚愕に染まっていて、CDCオペレータのジェレミーと要澄美の2人も解析を急ぎ、せわしなくコンソールを叩く。

 

「ソロモンは島のミールと断定!」

 

「ファフナーと同コードの何かが出現、さらに増加中!」

 

2人の報告を受けて文彦は緊張した様子で指示を飛ばした。

 

「モニターに出せ!」

 

間もなく表示されたモニターには、ウルドの泉が映し出されていた。そして、映像には泉の所以たる液体コンピュータから、何かが発生している様子が確認できる。

 

すぐにその「何か」が拡大され、詳細が明らかになる。

 

「こんなことが……有り得るのか!?」

 

さすがに史彦の声も驚愕に震えていた。そして、レイは「バカな……」と驚くばかり。絶句した様子でかぶりを振っている。

 

彼らの前に広がった光景とは、それほどまでに会い得ないものだった。

 

――――

 

そして、その異常はブルグでも―――

 

ファフナーブルグでコンソールを操作していたカノンは直ぐに異変に気が付いた。

自分が操作していたコンソールが、急に点滅しだしたのだ。

 

「!?」

 

しかも、それは自分が使っていたものだけじゃない。あたりを見渡すと、他のコンソールも軒並み点滅し、あまつさえブルグ室内の照明すらもがパチパチと点滅しだしたのだ。

 

さらに、何も手を出していないはずのファフナーが、起動し始める。暗く、明るくを繰り返すブルグ内でも、明確に視認できるほどに、カメラアイに光が灯ったのだ。

 

「―――なんだ!?」

 

カノンはファフナーと自身の周囲を見渡し、異常が発生した事実と、何が起きているかを確認すべく行動する。コンソールを動かしてCDCと連絡を取ろうと試みるが、点滅するばかりでうんともすんとも言わないコンソールを「ああくそっ!」と苛立ちまぎれに拳を叩き付ける。

 

だが、こちらから連絡をよこすまでもなく、インカムから通信のコール音が聞こえてきて、インカムの通信機能をONにする。

 

『カノン!』

 

通信者ははレイだった。直ぐにレイに何が起きたのかを問い質すと、レイも慌てた様子で答えた。

 

『こちらも何が起きているのかは皆目―――ですが、急いで対同化装備、回収機を用意して、キールブロックへ急いでください!』

 

息が荒く、それだけで尋常でないことが容易に察せられるほどに狼狽している声色で放たれた言葉に、カノンも言葉を失うことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『―――ウルドの泉で、コアが発生しています(・・・・・・・・・・)!!』

 

 

 




感想、意見、評価、お待ちしています。

レイ君にだってわからないことはあります。いっぱいあります。キャラ崩壊するほどに驚くことだってあるんです。

それにしても話が進まない。これはどうしたものか……。

レイ君。君は今のうちにカノンといちゃこらするべきだ

なぜなら君は中盤から……高濱ァ!!的なことになるのだからな!!(意味不明)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。