蒼穹のファフナー ~The Bequeath Of Memory~   作:鳳慧罵亜

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ギャー!!
2週間をめどに更新するはずだったのにー!!
仕事の都合で平日に更新ができないんです。1週かの暮れてしまい申し訳ありませんでした。





合流

アルヴィスの通路で司令の真壁史彦は2人の護衛とファフナー部隊の隊長を連れて、人類軍と接触を図るべく移動していた。予定では、特殊部隊が先導を行いアルヴィスの通路内で合流する手筈となっている。

 

そんな移動中に、ふと思い出したように史彦は隣を歩く少年に話しかけた。

 

「そういえば、溝口はどうした?」

 

溝口恭介。アルヴィス特殊部隊隊長にして竜宮島指令補佐を務める男が、何故かこちらに合流していない。既に彼は海上から回収され、もうこちらに戻ってきているはずなのだ。だが、先ほどから姿が見えず、こちらに合流する気配も見えない。

 

その質問に対して彼の隣を歩くレイ・ベルリオーズは首をすくめてこう答えた。

 

「将陵さんに捕まって陣内さん共々説教中です」

 

「そうか」

 

史彦はその一言で察したのか、納得したような表情で頷いた。そしてもう一度口を開く。

 

「それで、先程の戦闘を見て君はどう思った?」

 

史彦の更なる質問に対し、レイは少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。

 

「部隊長としての意見ですが、機体性能でいえば彼らの機体はノートゥングモデルに近しい性能を持っていると思います。総合性能でいえばこちらの方が勝っていますが、局所的な部分で言えば、こちらが劣っている部分もあるでしょう。特に、あの3機全てが飛行可能というのは、こちらには無い特徴と言えます」

 

「成程」

 

頷く史彦に対し、レイは言葉を続けた。

 

「パイロットの能力で言えばあの3人は恐らく此方の現役パイロットたちよりも高いかもしれません。流石に2年前の戦闘経験しかない彼らとあちら側のパイロットたちでは実力に開きはあるでしょう。最も、真矢さんは桁が外れているので論外ですが―――」

 

「うむ」

 

2人は人類軍に関しての意見交換を行いつつ、合流予定地点へと向かっていった。

 

 

――――

 

 

タラップより降り、竜宮島の地に足を踏み入れた人類軍。その彼らに銃を向けていた竜宮島特殊部隊の1人が銃を下ろし、人類軍の先頭に立つ男に近寄る。

 

「此方です。くれぐれも、変な真似は起こさないようにお願いします」

 

銃は下ろしたとても、警戒は決して緩めない部隊員に男は頷く。その表情に警戒されていることの嫌悪や不安感はなく、むしろこちらの対応に感心したといった面持ちで口を開いた。

 

「分かっている。警戒するのも無理はないだろう」

 

そう言うと、後ろにいるほかの人類軍の面々へ振り返り、「行こう」と告げる。他の面子もそれに対し「はい」

と返事を返すと、案内されるままに、先導する特殊部隊員に付いていった。

 

道を進んでいくと、ガードフェンスに仕切られた場所へ出る。フェンスには『関係者以外立ち入り禁止』という趣旨の看板が取り付けられ、カードキーによるロックが掛けられていた。特殊部隊員が懐から取り出したキーでフェンスを開く。すると、フェンスの傍に立ち、「こちらへ」と手で道を指す。

 

「こちらの奥に進むとゲートがあります。後は向こうに案内がいますので、そちらに従ってください」

 

「ありがとう。道案内、感謝する」

 

人類軍の先頭に立つ男はそう言うと、他の面子とともにフェンスの奥へ入っていく。

コンクリートで舗装された道の奥は崖となっており、見上げると、茶色の地肌を剥き出しにした山が聳えていた。道の正面に、コンクリートで入口が掘られており、鋼鉄製のゲートが有る。

 

人類軍がそのゲートの前まで到着すると、間も無くゲートが重苦しい音を響かせながら開いていく。

 

ゲートが開いた先には、山の中にあるとは思えないほどに綺麗に整備された機械的な通路が存在していた。

 

「すごい……」

 

「地形を利用して、広い空間を基地として使用しているみたいだ」

 

人類軍の彼らはこの竜宮島の施設に対して興味津々といった様子である。そして、開いた通路の中央に立っている2人の人影。奥の2人は先ほどの特殊部隊員と同じ格好をしており、どうやら彼らがこの先の案内人の様だ。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

その中の1人が通路内に入るように促し、先導するように歩き始めた。彼らもまたそれに従うように通路へと入っていく。人類軍は中に入ってからも、興味津々な様子であたりを見渡しつつ先導に従う。

 

そして何分か歩いた後、竜宮島の隊員が立ち止り、道を開ける。

 

「ここでお待ちください」

 

「間もなく司令が到着なさいます」

 

その言葉に一同は驚いた様子で、やや空気がざわついた。

 

「え、司令って……」

 

「竜宮島の司令自らが来てくれるというのか」

 

「ウソだろ……!」

 

等など、各々が口々に呟く中、通路の奥、右側のドアが開き中から出て来る人影が見えた。

 

人影の数は4人。1人は人類軍の髭の生やしたリーダー格の男性と同じくらいの年齢だろうか、黒を基調とした制服を着ている。その隣に居るのはやや背が低いが、年齢は人類軍のパイロットたちと同じくらいの年齢だろうか。

 

淡い金髪とエメラルドブルーノ瞳をした、やや中性的な顔立ちの青年だ。その容姿から竜宮島の―――つまり元日本に元から住んでいる人ではない事が予測できる。

 

その2人の後ろに立つ2人はこちらを今まで先導してくれていた隊員たちと同じ格好をしていた。恐らくは護衛だろう。

 

人類軍のリーダー格らしき人物は1歩前へ出る。そしてこちらにやってきた男性へ向けて右手を差し出した。其れに応えるように恐らく竜宮島の司令と思われる男性、史彦も一歩前へ出て右手を出して、2人は有効の証を立てる。つまり握手を行った。

 

「人類軍総括本部所属、ナレイン・ワイズマン・ボース大将だ。受け入れに感謝する」

 

「竜宮島アルヴィス司令官、真壁史彦。今の人類軍は将校が部隊を引きるのかね?」

 

2人は自己紹介を終え史彦が挨拶代わりに質問を投げかける。2人の手は自然と離れ、人類軍のリーダー格、ナレインはややうんざりする様に目を閉じてその質問に答えた。

 

「今は大将だけで100人は居る。もはや階級に意味はない」

 

あきれたような声色をしているナレインはその実呆れているのだろう。「大将だけで100人は居る」その言葉に少なからずレイは驚きと呆れを覚えた。

 

どうやら人類軍は5年前と比べてもさらに肥大化していたようだ。最終作戦『ヘブンズ・ドア』北極ミールとの決戦で文字通り総力をぶつけたであろう筈なのに、未だ巨大化の一途をたどるのはむしろ呆れを通り越して感心してしまうほどでもあった。

 

そして、レイはナレインという名前を聞いた瞬間、思い出した。

 

―――ナレイン・ボース……総括本部の、当時はまだ少佐でしたっけ。道理で覚えがあるわけだ。

 

ナレインはレイが人類軍にいた当時からも、穏健派として一定の発言力と力を持っていた。そして、その意見が彼の恩師である日野洋治と合ったのか、ナレインはモルドヴァを拠点としていた僕らの事を訪ねてきていたことがあった。そのときにも何度か会話をした覚えがある。

 

「命と希望を失わなかった者が責任を背負うのだ」

 

ナレインの口から発せられたその言葉には強い意志力が感じられる。その言葉にはレイも賛同するところだった。そして、史彦にも。

 

「同感だ」

 

ナレインの言葉に同意する史彦はやや視線を落とし、ナレインの後ろにいるほかの人類軍の人間に視線を向ける。

 

「武装解除の為、ファフナーパイロットには監視をつけさせてもらう」

 

「当然だな。彼ら3人と、私だ……」

 

史彦の提示にさして動揺するわけでもなく全員が受け入れた。ナレインは後ろにいるパイロット達3人をみやった後に、少し気恥ずかしそうに自身もパイロットであることを告げた。

 

「!ファフナーに乗れるのか!?」

 

「搭乗適齢は既に終わっているはず―――」

 

その言葉には流石に史彦とレイは驚きを隠せなかった。島のほかのパイロットたちとは違い、フェストゥム因子を持たないでも、常人とは桁違いのシナジェティック・コード形成数値を持っているレイですら、既にノートゥング・モデルへの搭乗は断念してしまっているのに、それらの機体に近しい性能のあのファフナーに乗れるというのを聞いてしまえば、驚くのも当然と言えた。

 

「史上最高齢のパイロットであることが、ささやかな自慢でね」

 

気恥ずかしそうに答えるナレイン。そして、彼はある事に気が付いたのか、少し驚いたようにレイに視線を向けた。そして、やや震える声でつぶやく。

 

「君は―――まさか」

 

その眼は信じられないモノを見ているような驚きと、それでいて旧友と再会したような親愛の感情が複雑に絡み合っている。その視線の意味に気づいたレイは1歩前へ出て、少しだけ表情を緩めた。

 

「はい。人類軍、第7特殊機動部隊に所属していた、レイ・ベルリオーズ元少尉です。お久しぶりです。ナレイン将軍」

 

「やはり、ヨウジの下にいた少年か」

 

「2人は旧知かね?」

 

見知った中であるような口ぶりに史彦は口を挟んだ。レイが元々は人類軍に所属していたことは彼も当然知っている。だが、彼とナレインと言う男に接点があったことは流石に知らなかった。ナレインは視線を史彦に戻し、少し焦った様子で史彦に説明する。

 

「ああ、済まない。彼は私の友人のヨウジ・ヒノのところで機体の設計を学んでいてね。よく顔を合わせていたんだよ。パイロットに転属していたとは聞いていたが……まさかDアイランドで再会できるとはな」

 

「洋治先生の……」

 

史彦が懐かしい名前が出てきたのを懐かしそうに反芻している中、ナレインの後ろにいるパイロット達はレイのことに対して驚きを隠せない様子で「第7特機って、あの『トリプルシックス』の?」「嘘でしょ?私たちとそう変わらないのに、特Aクラスのパイロットだなんて」等とレイをチラチラと見ながら話し合っている。それを途切れとぎれだが、聞いていたレイは少しこそばゆくなってきた。

 

そういえば、当時は自覚していなかったが、自分と彼女の所属していた部隊は特殊任務が多い精鋭部隊であったな、と。川に流される木の葉だった過去の自分を思い出し、そんな自分に対して今となっては懐かしさすら感じている。

 

そんな中、3人のパイロットのうち、一番平静を保っていたブロンドの長髪の青年が1歩前へ出てきた。

 

「お願いします。どうかパイロット同士の交流を許可してください」

 

それに続くように、後ろの女性と、スポーツ刈りの青年も前へ出て、口を開いた。

 

「是非、カズキ・マカベや彼と話がしてみたいんです!お願いします」

 

「僕からもお願いします!」

 

3人からの希望の声、にレイは一瞬気になる単語を発見した。どうやらそれは史彦も同じだったようで「カズキ?」とレイの思考を代弁するように疑問を投げた。

 

「そう、スーパーエースパイロット。僕たちに『マカベ因子』を与えてくれた人」

 

「北極ミールを破壊したパイロットでしょ!?」

 

史彦の疑問に答えたのはパイロットの中で一番後ろに居たスポーツ刈りの青年だった。その言葉に続くように女性のパイロットが興奮気味に続ける。

その勢いに押された史彦に、やや苦笑気味にナレインは解説を加えるのだった。

 

「我々の英雄なのだよ。Dアイランドのカズキ・マカベは」

 

飛び込んでくる情報を聞いていたレイは、一つの仮説に思い至った。

 

―――モルドヴァが消滅した以上、その情報を新しく公開するには当時モルドヴァから脱出した我々か、あの「アイアン・レディ」以外には不可能。

手に入れたノートゥングモデルの情報と共にプロパガンダに利用したというわけですか。

 

「ふむ。どうかね?」

 

史彦は僕に視線を投げかける。僕は一瞬思考を巡らせ、口を開いた。

 

「許可します。ほかのパイロット達にも伝えておきましょう」

 

彼らはある程度の経験を積んだパイロットであることは間違いない。こちらのパイロット達との交流で、彼らの話を聞くだけでも実戦には劣るもののいい経験になる。

特に里奈さんは人類軍に対して警戒心が強い。そう言った人たちとも交流を重ねて、彼らに島のことを理解してもらうことも必要でしょう。

 

僕の言葉に対して、「やった!」等と嬉しさを表しているパイロット達を見ながら、つらつらと思考を重ねていく。

 

「では、パイロットの方はこちらへ、交流の場や、他の施設を簡単に案内します」

 

パイロット全員と交流をするならば、打って付けの場所がある。おいしいカレーも食べられて、エースパイロットたちとも交流が出来る。一石二鳥というやつですね。

僕は踵返し、3人のパイロットたちを先導する。念の為に、後で陣内さん達に監視を頼みましょう。

 

「では、ナレイン将軍、私たちはこちらです」

 

「ああ。彼らの要望に応えてくれて、感謝する」

 

「応えたのはレイ君です。人類軍に対する警戒心が人一倍強い彼が信頼しているならば。我々は彼を信じています」

 

「ああ」

 

―――偶に信頼が重い時もありますが、それはそれですね。その信頼に応えられるよう、努力します。

 

こうして、一行は互いに別れ、別別の場所へと移動していった。パイロットの3人はこれから行われる交流に期待を膨らませ、レイはこれからの交流、そしてこれからの戦闘に向けて思考を重ねながら。

 

――――

 

ファフナーブルグ。地下ドッグにて、話題の渦中にいた人物は封印された自らの機体を眺めていた。

 

救世主(ザルヴァートルモデル) マークザイン。既存のファフナー全てを凌駕して尚、その先を走り続ける2機の世界最強のファフナー。その片割れである。

現在は、封印処置を施され全身を特殊鋼材で巻かれ、うっすらと人型であることが解る程度にしか外見をとどめていない。

 

そんなエジプト王家の木乃伊のような状態になった愛機の姿を彼は何を思って見ているのだろうか。

懐かしいような、悲しいような。そんな曖昧な表情を浮かべる彼は身動きもせずに、僅かな明りしかない暗い室内でずっと機体を見続けていた。

 

そして幾許かの時間が過ぎたころ、不意に彼の後ろのゲートが開く。

 

「此処にいたか、一騎」

 

後ろから聞こえてきた聞きなれた女性の声に、一騎はようやく振りかえり、機体から目線を外す。搬送エレベータから降りてくる人物は彼の予想通りに、

特徴的な赤い髪を揺らしながら、こちらに向けて歩を進めてくる。

 

「カノン。お疲れ様」

 

「全く……なんでここに来たんだ?」

 

赤い髪の女性。羽佐間カノンは呆れ果てた様子でため息をつきながら一騎に問いを投げる。一騎はその問いに視線を再び機体へ向けて答える。

 

「なんとなく、コイツが見たくて」

 

カノンはその質問に対して頭を振り、一騎の傍まで近寄ると「乗る気じゃないだろうな?」と再び問う。それに対する一騎は「違うよ」と返す。

表情はカノンからは見えないが、声色からすると、苦笑しているであろうことは容易に想像できる。

 

「何度も言うが、お前はもう十分戦ってきた。レイだって、あれでも最後はファフナーから降りる決心をしたんだ」

 

まだ戦うために、思いっきり自分が乗る為の機体を作ってるがな―――とは口の中だけに留め、言葉にはしない。したら面倒なことになるのは

火を見るよりも明らかなため、余計な事は喋らないようにする。

 

最愛の人間が今も尚未練タラタラで戦うための準備をしているのは、彼女にとっても心苦しかったが、レイはああなると止まらない事は知っている為、

カノンは折を見て強制的に叩き下ろすことにしていた。

 

「……マーク・ザインには、だれも乗らないんだな」

 

そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、のほほんとした様子でそんなことを口にする一騎。ファフナー部隊やアルヴィスの職員のほとんどが一騎以外に

乗れない事を知っているのにもかかわらず態々そんなことを口にするのはどうなのか。最も―――

 

「特殊すぎてだれも乗れない。コアの摘出が成功したら、その……解体して、海底に沈めた後、フェ、フェンリルで……消滅させる予定だ」

 

真面目な気質のカノンは恋人が提案したあまりにも物騒な処理方法に内心ドン引きしながらも答えてしまう。……最近レイはファフナーに

乗らずとも言動や行動が過激になってきている気がする。

 

「そっか」

 

一騎はカノンの言葉に極めて平静にそう返すとマークザインヘ近寄っていき、カノンが「あ、おい!」と駆け寄っていく。一騎は落下防止の柵が設けられているところまで歩み寄ると、

徐にマークザインヘ手を伸ばした。そして、マークザインを覆う特殊鋼材に伸ばした手が触れようとした時―――

 

「そこまでだ!」

 

カノンが一騎の手を取って、強制的に下へ降ろす。一騎は少し驚いた表情を浮かべ、カノンは呆れと心配が混ざった表情をしていた。

 

「封印しているとはいえ、何が起きるかわからない。特にお前の場合はそのまま機体に同化されかねん。頼むからそういう無茶はやめてくれ」

 

「心臓に悪いんだからな」と一騎の行動を咎めるカノン。一騎はしばらく呆然としていたが、やがて観念したように笑い、「わかったよ」

と口にした。

 

「一騎……」

 

「俺だってまだ死にたくないし、レイに知られたらどうなるかわかったもんじゃないしな」

 

そういって、カノンの手を軽く振りほどく一騎。本当に分かったのかは信用しがたいが、一騎が「わかった」と言った以上、

一応こちらもそれで良しとしなければならない。どうせすぐまたここに来るだろうから、何らかの監視でもつけてしまおうか。そう考えるカノンであった。

 

「それで、俺を探してくれてたんだろ?何か用事でもあるのか?」

 

一騎は思い出したようにそう言った。そう、カノンが最初に口にした言葉「此処にいたのか」それはつまり、カノンは一騎の事w探していたと言うことになる。

そんな一騎の能天気な発言に、「はぁ……」と心配した自分はいったいなんだったのだろうか。と思いつつも口を開いた。

 

「レイがな。楽園で人類軍との交流会を開くんだそうだ。それでお前にパイロット達と人類軍3人分のカレーを作ってもらうから呼んでほしい。と言っていた」

 

「レイが?」

 

一騎は意外な人物の名前が上がりきょとん、と首をかしげる。彼ら竜宮島パイロット達の共通認識で、「レイは人類軍に対して人1倍警戒心を持っている」というのがある。

むろんこの認識は正しい。それは彼が元人類軍で、彼らのやり方を良く知っているというものがある為で、そのため彼は人類軍全般に対して強い警戒心を持っている。

 

ただ、警戒しているだけで敵対心は持ってはいないため、信用できると判断した場合は友好的に振る舞うこともあるだろう。

 

「私もわからないが、「彼らは信用できます」とだけ言っていたぞ」

 

「そっか、なら大丈夫だな」

 

「そういうことだ。分かったらさっさと店に戻れ」

 

「はいはい」

 

一騎は「じゃ、あとでな」と言って一足先にドッグを後にする。それを見送るカノンはがっくりと頭を落とし、またしても溜息を吐いたのだった。

 

「全く……いつまで強がりを続ける気なんだ」

 

その溜息は、決して呆れの感情だけでは済まないほどに、重苦しい物だった。

 

――――

 

「いやーごめんごめん。待たせちゃったね」

 

竜宮島。海岸線の港で、レイと人類軍のパイロット達は特殊部隊用の装備を整えた陣内貢達

と合流していた。もっとも、陣内達はやや遅れてしまっている様子ではあるが。

 

「何かあったんですか?」

 

「いやー。おやっさんが将陵さんに捕まっちまってな」

 

どうやら将陵佐喜さんに先の戦闘での一件に関して説教を喰らっていたらしい。それで、一緒にいた陣内さんも道連れに喰らっていたと……。

陣内さんを含めた3人は一同に苦笑している。

 

「ま、いいでしょう。とりあえず、島の主要施設を回りましょうか。交流会の場所はその後で」

 

「あ、あの。ちょっと待ってください」

 

これからまわろうという時に、人類軍の長髪の青年があわてた様子で口を挟んできた。「なんでしょう?」と尋ねると、青年は少し言いづらそうに口を開いた。

 

「俺たち、まだ自己紹介してませんよね」

 

「あ、そうよ。まだ全然してなかったわ」

 

そう言われれば、先程からずっとお互いに名前で呼ぶことはなかった。自己紹介をしていないから当然だが、僕は彼らの名前を知らない。

流石にこのままと言うのはやりづらいか。

 

「そういえばそうでしたね。では改めて、自己紹介とまいりましょう」

 

僕は3人に向き直り、改めて口を開いた。

 

「僕はレイ・ベルリオーズ。元は人類軍第7特機隊所属していました。現在は竜宮島ファフナー部隊の部隊長兼、機体開発部副室長を務めています」

 

僕の自己紹介が終わると共に、3人の人類軍パイロットの自己紹介が始まる。最初に始まったのは、女性のパイロット。軍人らしく姿勢を正し、敬礼を取る。

 

「アイシュワリア・フェイン。人類軍ペルセウス中隊所属のファフナーパイロトです。「アイ」って呼んで下さい」

 

次に紹介をするのはスポーツ刈りの青年だ。彼もアイと名乗った女性と同じ様に敬礼の形をとる。

 

「ビリー・モーガン!同じくパイロットです」

 

そして、最後の紹介はおそらくこの3人の中のリーダー格である長髪の青年だ。前の3人と同じ様に敬礼し紹介を始める。

 

「ペルセウス中隊、ファフナー隊隊長。ジョナサン・|ミツヒロ・バートランド≪・・・・・・・・・・・≫!」

 

「……!バートランド―――」

 

ミミツヒロ・バートランド。その名前は僕は良く知っていた。元人類軍の兵器開発部上席技官であり僕らの大切な仲間、遠見真矢の実父だ。

 

目的のためには手段を択ばない策略家であり、当時島に狩谷由紀恵をスパイとして竜宮島の情報を人類軍に流していた。

 

 

僕の師父、日野洋治とともに新型のファフナーの開発を行っていたが、

洋治さんの「1人でも多くの兵を助ける」という設計思想と彼は対立「1人でも多くの敵を滅ぼす」という設計思想を持って、2人は決別し、それぞれあのザルヴァ―トルモデル「マークザイン」と「マークニヒト」を作り上げた。

 

 

 

すでに故人となっているのは蒼穹作戦の折に確認しているが、その最期は詳しくは知らない。

 

おそらく禄な死に方をしなかったのではないだろうか。

 

その彼と同じ名前の人物。縁者だろうか?

 

 

 

 

「―――はい。俺はあのミツヒロの息子です」

 

 

 

僕の呟きに反応したらしい彼は。軽く笑みを浮かべながらそう答えた。

 

 

 

「……そうですか」

 

 

 

「はい。実は俺は、あなたの事は知っていました」

 

 

 

「!」

 

 

 

まさかの発言に、ほかのビリーと名乗った青年とアイと名乗った女性は初耳だったようで「嘘!?」「ホント!?」などと驚いていた。無理もない。正直僕も驚いている。でもそうか、確かにあの男の性格なら、要注意人物として僕を挙げるのも当然だろう。

 

 

何せ僕は―――

 

世界最高クラスのファフナーパイロット、日野道生と世界最高のファフナー技師、日野洋治。この2人の薫陶を受けた、言わば擬似的なサラブレッド。

 

 

仮に僕が人類軍にいたとして、竜宮島で最も注意する人物を挙げるならば、それは僕以外にいないだろう。その2人の持っていたものは、それほどに強力なファクターであることを、僕は熟知している。

 

方や名実ともに世界最高レベルのファフナーパイロット。「666」トリプルシックスという特別な刻印を許されたほどの実力者。

指揮者としても優秀で、僕の戦闘技術と指揮能力は彼から譲り受けたものだ。

 

方や僕が知る中で世界最高のファフナー開発者。

 

世界に2機しか存在しない救世主の名を冠する機体の1機を作り上げ、その知識と技術のすべてを僕に受け渡してくれた、僕の第2の父親だった。

 

あの2人のおかげで、僕はカノンを守り、今も彼女とともに歩くことができている。

それにはもう、感謝の念しか僕にはない。

 

「ここで、こうして会えて、少し感動しています」

 

ミツヒロはその言葉とともに、僕に右手を差し出してきた。握手を求めてきたのだ。

 

 

 

 

「世界最高のパイロット。トリプルシックスの薫陶を受けた、獣の後継。貴方は、俺の憧れです」

 

 

 

 

「―――」

 

 

 

 

正直、こう来るとは予想外ではある。まさか、僕を憧れているなんて、人類軍のパイロット言われるのは、そんな日が来るとはとても思っていませんでした。

 

悪い気はしないのですが、なんだかちょっと、来るものはありますね。こそばゆいといいますか、照れくさいといいますか。

 

 

 

「―――その憧れを幻滅させてしまわぬよう、努力しましょう」

 

僕は彼との握手に応じる。

彼の手は強く、それでいて適度に優しかった。そして、その眼は使命感に溢れ、ブルーの色はひたすらに真っ直ぐな輝きを放っている。

 

実直かつ誠実。好青年に見える反面、真っ直ぐゆえのどこか危うさを感じさせる人物だったが、少なくとも彼の人格は信用できるものだと、僕は素直にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知っていた。知っていたのです。

 

異なる希望。それが出会うとき、必ずしも平和への道が開けるとは限らないと。

守るということ。それが戦いである限り、希望もまた、戦いの中にしか存在しない。

 

すべてを失う可能性ももちろん知っている。それでも、過ぎ去った過去のため、いずれ来る未来のため、そしてこの生きる今のために戦うことを望んだのだから、この未来は必然でもあったのです。

 

一度戦うことを望んだその時、他の道を選ぶ権利を、自ら捨てたのです。

 

 

 

 

全ては―――守るために戦うと、決めたのだから。

 

 

 

 

これが、レイ・ベルリオーズの選択です。




感想、意見、評価、お待ちしています。


ばんばん独自解釈とオリジナル設定を組み込んでいくスタイル。
いつもいつも批判を食らうんじゃないかと戦々恐々としながら書いていますはい。

いやまあ、批判も書いてもらって全然かまいませんよ?きちんと注意事項を守ってるなら。

Tueeeeee表現はしたくないものの、オリ主h活躍させたい。そして、その活躍に納得のいく設定や描写をうまく書きたいと常々思っています。

そのあたりの線引きに気を付けながら書いていますが、何かしら気になる点とかありましたら、是非ぜひ感想欄にください。

よろしくお願いします。

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