蒼穹のファフナー ~The Bequeath Of Memory~   作:鳳慧罵亜

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また2週間ぶりの更新。

最低でもこのペースは守っていきたいかなーと思いつつ、書き上げていく。

それではどうぞ。


開戦

 

「―――消えた……」

 

実体化するフェストゥムへ牽制するために竜巻状のワームに接近していた濃紺色のケストレル。搭乗していた溝口京介は、その異変を正確に言葉に表した。

 

そう、確かにワームにはフェストゥムが実体化する予兆が視認できていた。暗い紫色の輝きが竜巻状のワームから零れ、フェストゥム特有のワームスフィア現象に近い現象とともに、フェストゥムが実体化する、同時にこのワームは消失する。そう、確かにワームは消失している。つまりフェストゥムは実体化しているはずなのだ。にも関わらず、ワームが存在していた場所に居るはずの金色の動体が確認できない。

 

消えた―――そう感じるのは極自然のことであろう。

 

だが、すぐに溝口は気づく。やつは消えたのではない。

 

『溝口さん!』

 

「っ!」

 

真矢の声が聞こえた瞬間、溝口は頭上を見上げた。視界の上が太陽に照らされたかのように眩しくなる。ケストレルの上、どこまでも続く蒼穹から、黄金の祝福が迫ってきた。

 

離脱せねば―――。その光景を見た瞬間溝口の思考が働く。だが、どうしようもない事とはいえ、それは迫る黄金に対しては悪手であった。溝口はすぐさまアフターバーナーのレバーを引く。だが、機体はまるで時が止まったかの様に沈黙した。

 

溝口のケストレルが半透明な紫色の球体に包まれる。フェストゥムの主な攻撃手段であるワームスフィア現象が発生しようとしているのだ。だが、今のスフィアは消滅させるためではなく閉じ込めるためのものである。

 

その証拠に、フェストゥムは溝口にぐんぐん接近している。両腕は大きく、5本の爪の様なものが伸び、全体的にマッシブな人型をしている黄金の肢体。顔に当たる部分には一つ目の下に口の様なものがある。という部位を上下ずらして並べている

という、生理的に嫌悪と恐怖を与えるような醜悪な造形をしていた。

そして、フェストゥムはその全てに例外なく読心能力を備えている。人間のあらゆる思考はその黄金の存在に読まれてしまうのだ。つまり一瞬でも離脱を考えたりすればその思考をフェストゥムは読み取り、離脱を阻止してしまう。ワームスフィアに囚われた機体は、その瞬間にすべての機能を停止させられた。

 

だが彼の名誉のためにいうが、それ(思考)は人類にとってはどうしようもないものであるのだ。古今東西あらゆる人類において、思考を全く行わない人間など存在しない。

それはまったくもって当然の生理現象とも言えるのだから。

 

『あなたは―――そこ、に―――い、ま、すか―――』

 

ノイズの混ざった女性のような声がフェストゥムから発せられる。『あなたは、そこにいますか?』という簡潔な質問だ。だが、その質問に答えてはならない。

仮に、この回答に「YES」と答えたならば、その存在を理解して取り込むためにフェストゥムは溝口をケストレルごと同化しようとしてくるだろう。仮に「NO」と答えたならば、その存在を「無」に還す祝福、ワームスフィアによる攻撃を仕掛けてくる。

 

また、同化されたものは文字通り「いなくなる」為に、どちらにせよ人類にとっては攻撃されているのと変わらない。フェストゥムの目的が何であれ、あれらの行動は人類にとって

ことごとくが害になる。

 

「―――っ!―――っっ!」

 

溝口は眼前に迫り来る醜怪な祝福に、叫びそうになるのを必死にこらえこの状況を脱しようとレバーを操作するが、ケストレルはその機能を完全に停止させていた。だが、目前に迫り来る「死」を前に、溝口は自分を見失っていない。眼前に巨大な黄金の巨体が喋りながら迫ってくるのはそれだけで発狂しかねない恐怖と絶望を感じてしまう。それを前にして凄まじい精神力と言えるだろう。死の秒読みが始まっても、彼は懸命に足掻いている。

 

果たして、その足掻きは届いた。

 

輸送機の誘導を行っていた真矢が、誘導を切り替えし、溝口を救出するため、フェストゥムへ向かってきたのだ。

 

「いるよ―――」

 

フェストゥムの背後から急速に接近する赤紫のケストレル。遠見真矢は確りと右手に操縦桿を握りしめ、答えてはならないフェストゥムの問いに|あえて≪・・・≫答える。

コクピット内における彼女の目の前。モニターは既に、黄金の巨体を捉えていた。フェストゥムは真矢に反応したように、真矢の方へ顔を上げた。

 

「―――ここに!」

 

カチ、という音と共にグリップのトリガーを握りこむ。直後、彼女が乗る機体の底部から2基のミサイルが発射され、ミサイルは加速しながらフェストゥムへと飛来する。フェストゥムは直ぐに反応し、右手を伸ばし爪を広げた。すると人間でいう掌に相当する部分から、複数の触手の様なものが急速にミサイルへ向けて伸びていき、ミサイルは

その触手に直撃し爆発する。そしてフェストゥムは左腕を盾にしてミサイルを防ぐ。

 

そのアクションの直後、溝口の乗るケストレルを覆っていたワームスフィアが消失した。そう、フェストゥムは読心能力を持つが、それ以上に自身の問いに答えた者を優先する傾向があり、真矢の行ったように、敢えて問いに答える事で、そちらの方へ意識を向けてしまい、捕えた対象を開放してしまう欠点があるのだ。

 

「っ!?―――っええい!」

 

機体が動くようになったと分かった瞬間、溝口は思い切りアフターバーナーのレバーを引く。肥大化した噴射炎と共に凄まじい加速をもってその場を離脱しようとするケストレル。だが、それに気づいたフェストゥムはさせまいと左手から触手を伸ばし、ケストレルを捉えてしまう。アフターバーナーにより強力な推進力を得たケストレルに追いつくフェストゥムの動きの素早さ。これは以前には存在していなかった。

 

「っぐうう!」

 

急激な加速から一気に停止され、多大なGが溝口を襲う。アフターバーナーも停止し、機体に異常を知らせるアラートがけたたましくコクピット内に反響するが、それどころではない。

 

Gを受け大きく息を吐き出させられた溝口。だが、直ぐに状況を理解し、後ろを振り向く。

 

その視界には先程よりもより近くに迫る醜悪な黄金の顔があった。

 

あわや絶体絶命。そう思われた瞬間、フェストゥムが姿勢を崩した。直後にフェストゥムの脇を赤紫の機体が過ぎ去っていく。真矢が再びフェストゥムにミサイルを当てたのだ。

 

今度は背後から撃ち込まれたため、フェストゥムも反応が出来なかったのだろう。いくら読心能力を備えているといっても、1人に意識を向けていればもう1人にまでは注意が向かないのは人もフェストゥムも同じらしい。フェストゥムの顔は真矢のケストレルへ向いた。この瞬間、溝口はあのフェストゥムの意識から外れたことになる。

 

「ナイスお嬢ちゃん!!」

 

この機を逃がさず、そして同じ轍を踏まない為に溝口は奥の手であるイジェクションシートを起動させた。コクピットの風防がはじけ飛び搭乗席のシートが射出される。宙に投げ出される形となった溝口は自分の位置がフェストゥムの死角になることを確認して、パラシュートを起動させた。

 

真矢の乗るケストレルがフェストゥムよりも上に位置してくれているおかげで、このままフェストゥムの視界に入る事無く着水できる。溝口は右手を大きく横に伸ばして親指を立てた。

 

「よかった……」

 

真矢は溝口が無事なのを確認して一瞬ほっ、と息を吐く。が、直ぐに表情を引き締めアフターバーナーのレバーを引いた。ケストレルが通過した直後、その位置に向かって溝口が搭乗していたケストレルが振り回された。その衝撃で溝口のケストレルは原形を保っている程度にまで大破してしまう。

 

真矢は戦場となる彦島へ機体を飛ばす。アフターバーナーを切り、フェストゥムを徐々に突き放す程度の速度を出して飛ぶ。

 

その背後を追うようにフェストゥムのワームスフィアが多数ケストレルを捕えるように出現するが、その全てを真矢は置いていくようにケストレルを操作する。

 

逃げるケストレルと、追うフェストゥム。フェストゥムは完全に真矢によって戦場へと誘導されていった。

 

CDCではその状況をリアルタイムで把握していた。

 

「グレース大破、アロウズが敵を誘導!」

 

「ソロモンはスフィンクス型と断定!」

 

「人類軍輸送機、着水します!」

 

上から要澄美、ジェレミー・リー・マーシー、陳晶晶の順番で報告が矢継早に上がっていく。それらを確認した真壁史彦は次の指示を出す。

 

「シールド閉鎖。敵を閉じ込めろ!!」

 

「了解!第3、第4ヴェルシールド、展開します!」

 

ヴェルシールド。敵の攻撃から物理的に島を守る為に作られた防壁。「ヴェル」の名の通り、特殊な波長を持ったエネルギーで構成され、敵の攻撃のエネルギーや衝撃を拡散させたり、核兵器の熱量をすら遮断する強力なシールドだ。攻撃の種類によって波長を変えることで鉄壁の防御力を実現するが、機器が大型なためファフナーに搭載することはできず、相手が同じ波長を持つ場合は無効化され、敵の侵入を許してしまうという欠点も抱える。

 

数年前までは島に存在するシールドは第1と第2のみであったが、現在は最大第8までシールドを展開でき、このうちの第3、第4シールドで敵とファフナーを囲い、戦闘における被害を最小限にする「バトルフィールド」という戦場を構築することができるようになった。

 

島の海底部に存在する発生装置が起動し、シールドを投射する。海面を裂くようにせりあがる赤いシールドは敵をたやすく閉じこめるだろう。

 

真矢の乗るケストレルが、敵を1人きり残す為アフターバーナーを起動し、一気にフェストゥムを突き放しにかかる。読心能力を持つフェストゥムは真矢の狙いを瞬時に把握、

止めるべく大破した溝口のケストレルを叩きつけようと振りかぶる。

 

だが、いくら心を読めても、動き出しが遅ければ意味はない。振り上げたケストレルを真矢へ向けて振り下ろした時にはすでにシールドは完成し、真矢の乗るケストレルはシールドの向こう側。振り下ろされたケストレルはシールドに激突し爆炎を上げるのみである。ここに、フェストゥムはただ1人形成されたバトルフィールドに取り残されることとなる。

 

真矢はそれを後ろ目で確認すると、そのまま減速しつつ剛瑠の格納庫へ向けて飛んで行った。

 

「第3、第4ヴェルシールド展開。バトルフィールド、形成完了!」

 

澄美の報告を受けた史彦は頷いて隣に立つレイに顔を向ける。それをレイは頷いて応えた。

 

「ファフナー部隊出撃。クロスドッグ形成後敵の迎撃を開始してください!」

 

その号令と共に、すべてが動き出す。

 

『ナイトへーレ、開門!』

 

Alvis、海底部。ファフナーの発進を行うナイトヘーレの門には、すでに4機のファフナーがスタンバイしていた。各々それぞれに用意された武装を手に取り、門へと送られる。

 

『出撃口、グリッド3206!』

 

出撃口にある程度まで進むと、機体が一気に加速する。ナイトヘーレから海面に射出するために、速度を持たせるためだ。門より発進された機体は特殊な水球に囲われた状態で海面を飛び出す。

 

水球は一定の高度に達するとはじけ飛び、中の機体が露わになる。紫、カーキ、グレー、ワインレッド。各4色に塗装された巨人が彦島に降り立つ。その中の1機、マークツェーンは手にしている狙撃銃「ドラゴントゥース」を構えた。

 

 

発射された弾丸はバトルフィールド端で、ヴェルシールドに攻撃しているフェストゥムの背後にヒットする。背後の輪飾りの様なものが弾丸によって欠けるが、その程度の損傷は瞬く間に修復されていった。

 

振り返るフェストゥム。その視界の奥に、4機の巨人が佇んでいた。

 

「こっちだフェストゥム!」

 

挑発するように声を張るマークツェーンの搭乗者、西尾暉。その声に応じてかフェストゥムは真っ直ぐにライフルを構えるマークツェーンへと突進を仕掛ける。だが、フェストゥムの突進がマークツェーンへ当たる直前、その行く手を阻むように紫の巨人が飛び込んでくる。

 

「ゴウバイン!!見参!」

 

テレビに出演していることもあってか、妙に堂の言った名乗り向上を上げるマークフュンフの搭乗者、堂馬広登はすぐさま機体の専用武装であるシールド「イージス」を展開する。

 

4基ある発生装置から展開される水色のシールドはフェストゥムの突撃を受けても揺らぐことなく受け止め続ける。40m近くある機体とフェストゥムを覆い隠すほどの土煙が上がる衝撃を機体ともども受けているはずだが、ビクともしていない。

さらに、展開されたイージスの発生装置。その内の両端の2基がフェストゥムを囲むように稼働する。すると、その2基の部分のみシールドが消え、装置内の発振機が折曲り、まるで銃身のような形態をとる。

 

そう、それはまさにマークフュンフに新たに搭載された攻撃武装。長らく防御専門で、火力不足に悩まされてきたマークフュンフに、レイ・ベルリオーズが考案した、イージスそのものを射撃武装に転換するレーザー砲を搭載させたのだ。これによって、マークフュンフが一気に最大4門のレーザー砲を手に入れ、火力不足が解消されたことになる。

 

そして、マークフュンフの左右に、それぞれマークノイン、マークツヴォルフが配置され、陣形が完成された。

 

「ファフナー。クロスドッグ、エンゲージ!!」

 

「アローズ、剛瑠島へ帰還します!」

 

CDCも慌ただしく情報の交換が行われている。リアルタイムで状況が変化する戦場の情報をこうして複数のオペレーターにより情報が飛び交っている。それを聞きながら、レイは中央メインモニターに映し出される戦場の状況を見ていた。

 

―――2年ぶりの実戦。そして彼らにとっては初めての彼らのみでの戦闘。不安はありますが、敵はB型のスフィンクス1体。さて……

 

敵と後輩たちの戦闘を見ながら、次の戦いへ向けて状況を細かく分析していく。現状戦えない彼にとって、隊長としてやるべきことをやろうとしているのだ。思考ながら、聞こえてくる情報では、真矢が剛瑠島に帰還したことが伝えられていた。

 

『アローズよりCDC!トラック、ハンドオーバー!』

 

「アローズ、了解!ケートスは此方で誘導します」

 

晶晶が真矢の応答をする。輸送機の誘導のためにキーボードを打っていく晶晶。誘導のメッセージを送り終わったところで、真矢が再び発言した。

 

『CDC!マークジーベンの出撃許可を!』

 

「―――!」

 

レイは一瞬思考を止めた。確かに真矢、彼女はレイ達の世代では唯一現役のファフナーパイロットを務めている。

 

彼女は一騎を除けばファフナー部隊トップのファフナーの搭乗適性を持っており、その世代では最も最後にパイロットとなっていたために、未だに現役を続けられていた。だが、彼女を出撃させるのは、ほんの一瞬。レイは迷ったのだ。

 

彼女とはそれなり以上に友人として親しく、カノンとも彼女は親しかった。そして、現状の敵戦力ならば後輩たちだけでも十分撃破可能だと、最終的に判断したために

彼女までを送り出すのは躊躇われたのだ。

 

「……!真壁司令!」

 

晶晶もそうだったのだろう。一瞬驚いた表情を見せ、その後史彦へ指示を仰ぐ。

 

「許可する。ジーベンを、剛瑠島へ!」

 

史彦はパイロットたちの意思を尊重する姿勢をとっている。一瞬の逡巡の後、出撃許可を出した。レイもそれを聞いて瞬時に思考を切り替える。手元のコンソールを操作し、ファフナーのドッグへ通信をつなげた。

 

「CDCよりファフナードッグへ。マークジーベンを剛瑠島、ファフナー搭乗庫へ。新型DT装備、発進体勢で待機させてください」

 

『なっ―――真矢を出すのか!?』

 

通信に応答したカノンは驚きの声を上げた。無理もない。

 

「真矢から出撃許可の要請が来ました。急いで移送を、彼女なら2分と立たずに出撃準備を済ませますよ」

 

『りょ、了解!』

 

「お願いします」

 

そう言って通信を切る。もう1度コンソールを操作し、今度は真矢へ通信をつなげた。

 

「真矢。聞こえますか?」

 

『うん。聞こえてるよ』

 

通信に答えた真矢の声からは、恐怖や緊張は感じられず、彼女の特徴的な、どこか陶酔的な甘い声が聞こえてくる。僕は一瞬の間をおいて、口を開いた。

 

「マークジーベンに新型ドラゴントゥースのデータを送ります。搭乗しだい確認してください」

 

「了解」

 

「ぶっつけ本番ですが、いけますね?」

 

2年ぶりの実戦で、使用データすら存在しない初めての武器を使わせるのはやや心苦しいが、彼女には頑張ってもらうしかない。やや辛口で確認をとるのは、彼女への信頼の証だった。

 

「任せて。使いこなして見せる」

 

当然のように彼女は応えた。それに僕は一瞬降格が上がったのを感じながら、「お願いします」と言って通信を終え、直ぐにモニターの方へ視線を向ける。だが、そこに敵の姿はなかった。

 

「敵、反応消失!ソロモンの応答が消えました!」

 

「プレアデス型と同じ……!」

 

上がってくる報告を聞いて、直ぐに思い至った。かつて戦ったフェストゥムの中でも、特に高い戦闘力を持った個体。プレアデス型と同じ透過能力を敵は行使してきたのだ。

ファフナー4機はそれぞれ周囲を警戒する。だが、見えない敵の攻撃を防ぐのは、不可能に近かった。

 

真っ先に襲われたのはマークツェーン。機体の直ぐ上から、職種の様なものが伸びてきて、機体の左腕を突き刺す。なんと、更にそこから同化現象特有の緑色の結晶が生えてきた。

機体を同化するつもりか―――あれではペインブロックは不可能だ!

 

直ぐにマークツェーンの状況を把握、思わず声を出しかけたが、CDCから機体へ指示を出すのはできない。戦場にいない自分に苛立ち、思わず歯ぎしりする。

 

マークツェーンの異常にいち早く気付いたのはマークノイン。西尾 の姉である彼女だからこそ気づけたのだろう。機体の標準装備である拳銃「デュランダル」でマークツェーンの腕を射撃、損傷させる。

 

それならば、後はネクローシスで腕部を強制崩壊させることができる。だが、かなりの痛みをフィードバックするので、彼は戦闘が終わったら用精密検査だろう。

 

『飽和攻撃を要請!ライン08まで後退。急げ!!』

 

CDCに皆城総士の声が響く。その声を聴いた瞬間、僕もまた声を上げていた。

 

「エリアWS7からWS89までの範囲をデナイアルで爆撃してください!」

 

「了解。デナイアル、発射します!」

 

その数秒後山林部、及び海底部から多数のミサイルが発射された。それら全てはファフナーのいる付近をめがけて飛来する。そして、ある程度地面に近づいたところで近接信管が起動、爆破される。広範囲に爆炎が上がり、爆風がファフナーもろとも周囲を飲み込むが、先頭に立っていたマークフュンフがイージスで皆を護っていた。その姿はまさに守護神と言うにふさわしい。

 

そして、これにより周囲の環境は激変。特に瞬間的な気圧変化は相当なものになる。たとえ姿を隠していてもこの環境の変化には追いつきはしないだろう。その証拠に、剛島から彦島にたった今到着したマークジーベンが戦闘エリアに到達した途端にライフルを構え、発砲した。

 

発射された弾丸は、ワームの気圧変化によりフェストゥムの居る位置を中心に渦を巻くように土煙を巻き込んでいるその中心に直撃した。その瞬間、今まで透明になっていた

フェストゥムが、その姿を現した。その胸に当たる部位の中心にはしっかりと、真矢の撃った新型ドラゴントゥースの弾痕が残っていた。

 

新型ドラゴントゥース。空中戦闘を得意とするマークジーベンと、狙撃に対して極めて高い適性を持つ彼女との相性のミスマッチを解消する為に開発した武装。

 

主に銃身を可能な限り切り詰め固定用アンカーを撤去、各部の軽量化を計った物で、装弾数が若干低下し、最大射程の減少、射撃時の反動が強くなっているが、空中での取り回しはレールガンよりも高く仕上がっており、かつ威力はドラゴントゥースと変化はない。

 

そして、姿を現したフェストゥムへ目がけ、マークツヴォルフが凄まじい勢いで、「レヴィンソード」を振りかぶる。レヴィンソードも僕が考案したものを改良した物で、

ロングソードの発展と言える兵装だ。主に刀身幅の拡張と、刀身中央にプラズマアクセラレータを搭載したことにより、形成されたプラズマ刃が秒間数千回の勢いで刀身を上下に行き来する。それにより、ロングソードの3倍近い切れ味を生み出している。

 

そのレヴィンソードによりフェストゥムは一刀のもとに両断された。だが、そのまま消滅するかと思われた両断されたフェストゥムは、消滅するどころか、緑色の決勝に覆われ始めた。

 

元の躯体の何倍にも結晶は膨れ上がり、砕け散った瞬間―――信じられないことに、4体に増殖したのだ(・・・・・・・・・)

 

CDCでもその衝撃は伝わってきており、一瞬、報告の声がうわずったほどだ。

 

「て、敵、4体に分裂!」

 

「―――」

 

―――分裂?莫迦な。あれでコアが破壊されなかっただと?

 

「ソロモンの解析では敵のコアは依然1つだけです!」

 

「胴体だけ分身したというのか」

 

方々から上がる報告に、素早く思考をまとめる。成程、つまりただの身代わりだ。

 

「色々やりますね敵も。恐らく残りは影の様なものです。一定のダメージを与えれば消滅するかと」

 

「うむ。だが、敵が増えるというのは実際脅威だな」

 

「少し、長期戦になるかもしれません」

 

真壁指令の反応に、僕はそう答える。実際、数が増えたところで個体毎の戦闘力が低下してはいない。2年ぶりの実戦である彼らでは、多少の苦戦は免れないだろう。4体に増えたフェストゥムの攻撃を回避するため、マークツヴォルフとマークノインがその場から離脱。軽く分断された状況となる。

 

―――不味い。連携が途絶えた以上、フェストゥムの撃破は遅くなる。このままだと敗北はないでしょうがそれなりのダメージは避けられない……!

 

万一の時には「アレ」を使わなくてはならないかもしれない。そう思いコンソールを操作しようとした時、CDCにオペレータ以外の、パイロットやジークフリートシステムからでもない声が届いた。

 

『こちらケートス。我々も戦力を投入する』

 

その声は、先程島に誘導され、バトルフィールドの外で待機していた、人類軍からの共闘の申し出だった。

 

『共に脅威を退けよう!!』

 

その声は低く、しかし勇敢さと、頼もしさを感じる厳かな重みが含まれていた。

 

 

CDCのモニターにも人類軍の者と思わしきファフナーの映像が届いた。

 

映像には3機のファフナーが映っており先頭の1機は何か全く不明だったが、残りの2機にはレイは見覚え、というよりは知っている機体の面影を感じた。

 

―――メガセリオンモデルと、グノーシスモデルの発展系……先頭の1機は解らないけれど、すべて新型機か。フェストゥムが強くなるのを嫌がる人類軍があえて製造した新型機。その性能を見せてもらいましょう。

 

人類軍のファフナーは既にレーダーにも映っており、それぞれが彦島へむけて移動していた。

 

「人類軍、ファフナー3機が彦島へ!」

 

「シールド部分解除」

 

澄美の報告に真壁指令はシールドの解除を命じる。つまり、彼らの参戦を許可するつもりなのだ。澄美は一瞬戸惑い「えっ……あ」と、真壁指令の方へ振り向くが指令は構わず「フィールドに入れてやれ」と指示を出した。そして、1度僕の方を見る。

 

「構わんな?」

 

僕はその問いに頷いた。当然、願ってもいない事だ。

 

「はい。共闘を持ち出してきている以上、断る理由はありませんし、あの機体の戦闘データを取りたいところです。向こうもそれを承知の上で共闘を持ちかけているはずですし」

 

こうして、竜宮島で初めて明確に、向きをそろえての人類軍と共同戦線が実現したのだった。




感想、意見、評価、お待ちしています。

うん。思ったより話が進まない。そして戦闘回のはずなのに戦闘シーンが少ないというのはどういうことなのだろうか。

そしてナチュラルに入るオリジナル設定。
マークフュンフのレーザー砲、レヴィンソードの考案をしていたレイ。意外と働き者なのです。

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