ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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68-ウチのキャラクターと俺の手品師詩人

 線路の調査を続け、かつて川が流れていたのだという所に架けられた橋を目印に、情報を纏めつつ帰還した。

 詳細は俺のメモ帳に記録しているが、大まかな概要のみを取り上げると……、線路の老朽化に加え、モンスターによる破壊が全体的にあり、そしてある箇所に関しては重大な損傷が与えられている、といったところか。

 

「……なるほどの。情報を纏めてくれて感謝する、ソウヤよ」

 

 日本人の初期スキルであるお辞儀を発動させておく。礼には及ばないが、報酬に反映すると言うのであれば吝かではない。

 

「貴重な資料じゃ。こちらで預かってもよろしいか?」

 

「別に良いよ。……それにしても、一階の方が凄い事になってるね。大騒ぎだ」

 

 ライガンの部屋へ行くまでに酒場を通過しなければならないのだが、その酒場は、ランチタイムの人気レストランにカオスを適量加えたかのような有様となっていた。

 戻って来る頃には日が沈んでおり、その頃にはもう仕事を終えたドワーフで沢山だった。兎に角大繁盛である。今も床越しに笑い声が響いて来る始末だ。

 

「そこは賑やかと言って欲しいものじゃ」

 

「はは、ゴメンね。ところでキミは加わらないの? お酒好きなんでしょ」

 

「何を言うんじゃ。日に2回も依頼へ赴く阿呆を心配しとったんじゃ。全く、止めても止まらぬとは」

 

「それもゴメンって。前回の分でやらかしたから、仕事はちゃんとできる人だと思って欲しかったから」

 

「余計じゃ。我が身は一つしかないが、依頼の受け口は腐る程あるんじゃぞ」

 

 ケイは俺のいない間、依頼主の制止を退けてまで依頼紙を持って来たらしい。彼女の力を知る俺からすれば無茶なワケがないが、確かに客観的に見れば頭がおかしい。

 ライガンにとって、俺たちは大蜘蛛と戦った挙句に坑道を破壊するような暴挙に出て、数時間後には2つ目の依頼で出発していったのだ。

 オーバーワークを疑われるのも仕方ない。むしろ依頼主の同意抜きで依頼を遂行したってのも中々頭がおかしい。この老いぼれには心配をかけてしまった。

 

 因みにパーティ新入りのイヅミは、下の方で酔っ払いに絡まれてる。あのハープに目線が向けられていたから、今頃は演奏を求めるコールが唱えられているだろう。

 

「して、この箇所……大型モンスターが存在する可能性、と書かれておるな。詳しく説明してくれるかの?」

 

「それね。あそこは線路を横断するような形で、地形が抉られていた。巨大な蛇かミミズかが、地面を削りつつ進んだような跡だったよ。……まあ、私たちの見解だけどね」

 

「巨大な……なるほど、ではこの図はそう言う事か。……そうなると、一度ギルドの記録を漁っておいた方が良さそうじゃ」

 

 記録か。そこで該当するモンスターが見つかれば、討伐の作戦も立てやすいだろう。……その討伐の依頼がこちらに来るとは限らないが。

 

「今から調べ物?」

 

「おう。仕事を終わらせるまで、酒は飲まん」

 

「そっか。……とっくに日が沈んでるのに、頼もしいね」

 

「いつも頼られてるからの。ほれ、報酬じゃ。今回は何も引かんぞ」

 

「流石に今回は何もやってないからね。それじゃ、また」

 

「依頼以外でなら、会ってやろうじゃないか」

 

 もうこれ以上の依頼なぞやらん、という意思表示を受けながら、俺たちはライガンの部屋を後にする。

 

「3度目の依頼は期待できない、か」

 

「残念だったな」

 

 酒場の喧騒が階段越しに聞こえて来る。またあの酔っ払いを退けながら通過しなければ行けないのか、と内心ぐったりとする。

 階段を降りて、酒場の床を踏めば、そこはとっくに酔っ払いの勢力下。ビールにつまみに肉と、ここに居るだけでも酔ってしまいそうな匂いに顔をしかめる。

 

「イズミは……探すまでもないね。何やってんのアイツ」

 

 少し見渡せば、総じて身長の低いドワーフの中に人間を見つける。彼女はハープではなく、ハンカチを手にして何かをやっていた。

 

「スペードのエースを選んだ貴方! この手には何も乗っていませんよね? よろしい! それでは私の手の平に注目してくださーい!」

 

 ……なにをやってるんだ、イヅミは? 

 彼女が何やら言っているが、聞こえない。逆にこちらから呼びかけようとしても、すぐにこの喧騒で搔き消えるだろう。近くへ寄るにしても彼女の周りはドワーフで取り囲まれている。

 どうやって連れ出そうか。素直にアレが終わるまで待てば良いのだろうか。

 

「ここでハンカチを……ほい! ほうら見てください、なんと私のぉぁぁああケイちゃん! 戻ってきたんですね!」

 

 ああ、手品か、あれは。そう思って見ていると、俺たちと目が合った。

 

 気がつけば、手品の事なぞどうでもいいとでも言うのか、手品に使っていた道具を放って、こちらに向けて手を振っていた。

 イヅミの手から、スペードマークがデカデカと描かれたトランプカードが零れ落ちる。

 

「なーにバカやってんの、キミは」

 

「手品やってるだけじゃないですか! 何か私やらかしました? やらかしてません!」

 

「自問自答すんじゃない」

 

「反語ですっ!」

 

「知ってる」

 

「え? ケイちゃん何でその右手をふぎゃああほっへのひう(ほっぺのびる)っ!」

 

 ……手品が数秒で漫才に切り替わった。

 手品の種を見つけようと見つめていた人も、2人のバカを笑い始めた。

 

 そのまま頰を引かれ、酒場の外まで出て行く。キャットが出口で俺たちを待っていたが、その時には既に呆れの視線が送られていた。

 

 

 外に出たところでようやく頰が解放され、イヅミは赤くなった頰を直ぐに押さえつける。

 

「私、演奏を強請られて大変だったんですからね?!」

 

「そう」

 

 やはりそんな状況になっていたのか……。

 で、逃げるに逃げられなくなって、下手な演奏を聞かせたくなかったという理由でもあったのか。手品で誤魔化そうとしてたと

 

「ていうかなんで連れ出したんです?! 手品はいい感じでしたし、別にあのままでも良か──」

 

「キミ、男の目線がどんなものだったか、分からない?」

 

「……はい?」

 

「目線だよ。……分からないみたいだね」

 

 なんのことを言っているのだろうか? 

 少し考えてみる。目線、男。そしてイヅミは女性という事実。

 

 ……ああ、成る程。

 確かに、酒に酔って自制が効きづらい男どもが相手なのだ。そういう奴も居ないとは限らない。

ケイは元男というのもあり、そう言うのには気付きやすいのだろう。というか、()()にそういう描写もあった。

 

「よっぽどの箱入りか、若いか、今まで男として生きてきたか……それぐらいの理由じゃないと、男の目線が分からないってのはなかなか無いよ」

 

「ああ……」

 

 イヅミはケイの言おうとしている事を今理解して、気まずそうな表情をとる。

 

「でもこの世界にそんなのは無いと思うんですけど……いえ、気を付けます。その手を下ろしてください。」

 

「……んん、何がこの世界には無いって?」

 

「そりゃあ、規制が無いわけじゃ無いですから。身体の損傷は兎も角、精神や尊厳に悪影響を及ぼすような事に関しては厳しいんですよ」

 

「……? ……まあ、そっか。兎に角気をつけて」

 

 さっきまで論していた筈のケイが、逆にイヅミの言葉に一度固まる。まあ、これも何度目かのことだから、すぐに受け流したが。

 

 

「あ、報酬の分け前ってどうするんですか? 全く相談してませんでしたけど」

 

「山分けで良い。といってもお互いお金を融通する事はよくあったし、今までは実質共有してたんだけど」

 

 頷く。装備を買う時等、1人のポケットマネーじゃ足りない事は良くあるから、買い物の前にお金を1箇所にまとめていたりしている。その後に残ったお金は、また半分で分けていた。

 

「なんですかそれ。夫婦ですか」

 

「2度とそれを口にするなら、キミの首に刃が落ちると思え」

 

「あ、はい」

 

 辛辣である。メチャちゃんやメアリーに対する対応とは比べ物にならないぐらいだ。

 

 

 ・

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「そういえばキャットは?」

 

「自由に歩かせてますよ。最低限周囲の警戒だけ任せて、後は猫集会にゲスト参加したり日向ぼっこしたり……してると思います。多分」

 

「曖昧だね」

 

「私は詳しく知ってるわけじゃなんですけど、詳しく聞く機会も無いんですよ。ほら、有事の時だけ召喚してますから。普段は」

 

「ああ、テイマーだっけ? そういえば平気でペットを転移させてるけど、この世界じゃそれほど貴重な魔法じゃ無いのかな」

 

 召喚の魔法は、転移という言葉を広義に捉えた場合この括りに入るだろう。

 俺も以前から気になっていたが。

 

「首輪、またはそれに該当する何かを身につけさせて、且つ私の元でしか召喚先を設定できない……。こーんな制約があるんです。ケイちゃんのとは比べ物になりませんって。あ、仕組みについては聞かないでくださいね。知りませんから」

 

 ……それもそうか。ゲーム内の魔法に一々原理や法則が関わっていたとしても、それを把握して扱っていたら頭がパンクしてしまう。

 そもそも召喚魔法はあくまで召喚魔法。転移魔法ではないのだ。

 

 しかし納得するお俺の傍で、ケイがううんとイヅミの答えに納得しないままに唸っている。

 

 

「……まあ、いいや。それはそれとして……必要な時だけ呼び寄せるペットちゃんに関して、ちょっと一言いいかな」

 

「どうかしましたか?」

 

「えーっと、なんて言ったら良いのか分からないんだけど……。最近のキャット、妙に雰囲気が違うような気がするんだよ」

 

 そんな事、ケイに分かるのか? 

 キャットと親しい仲だとは聞いていなかったのだが。

 

「ま、傍から見た私がそう思っただけなんだけど。……ごめん、やっぱ良いや」

 

「え〜! そこで切られたら気になっちゃいますよう」

 

「キミは本人に質問すれば良いでしょ」

 

「ケイちゃんは質問しづらい質問と言うのを知らないんですか?!」

 

 あるんだ。とケイがすっとぼける。

 俺としては、その辺りはイヅミとペットの問題だ。俺たちが関わっても仕方ないだろう。

 

 協力を乞われたり、その関連で身の回りに影響が出てきたと言うのであれば、話は変わるが。

 

「んもうっ。もしかしたらキャットも聞いてるかもしれないのに……。あ、宿につきましたね」

 

「そう言えば、この町を出る予定だけど、あと2日は泊まるから、覚えておいてね」

 

「はーい」

 

 するとイヅミはとっとこ宿屋の中に入っていった。俺も、既に借りていた部屋の中へ向かうことにする。

 

「今日は働いたね」

 

「1日に2回も依頼をやるとは思わなかった。次はちゃんと相談してくれ」

 

「オモチャの虜になってなければね」

 

 なってない。

 

 はあ……あのケイ、最後にブローをかまして部屋に逃げ入ってったぞ。なんてセコい奴だ。

 

「もう2度目は無い」

 

 ケイに向けて放たれたものでは無い、所謂独り言を吐き出しながら、各々自分の部屋の中へ入っていく。

 

 俺は腰に巻いていたポーチを外し、ベッドの上に放る。鎧も重苦しい。脱ぎ捨てる。一応並べて散らかさない様にはするが。

 

「よくこんな物を着て何キロも歩けたな……」

 

「おや、人形のストリップショーが始まったのデス」

 

「人形じゃなくてマネキ……ん?」

 

 振り返る。

 

 居た。

 

「……」

 

 もう一度見る。

 

 居た。

 

「人形の2度見なんて、そうそう拝見できるものじゃないデスね。今日は運がとても良いデス」

 

「……」

 

 ……それから俺は、この数十秒の間、呆けた口を開けっ放しにして、何故キャットがここに居るのかという疑問を解消することに思考を割くことになった。

 

 

 ・

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 ・

 

 

 熟考の末、結局その疑問を解消することはできず、一周回って落ち着いた俺は、放り投げたポーチからメモ帳と鉛筆を出す。

 

『何故ここにいる』

 

「ソウヤさんの匂いがしたので、ここがあの“あの人形のハウスね“。という事でお邪魔させてもらってるのです」

 

『飼い主の部屋に戻ってくれないか』

 

「いいえ、なのデス。別にご主人に呼ばれてはいないデスので」

 

 こっちもこっちでキャットはお呼びじゃ無いのだが。

 どうせなんらかの目的でもあるのだろう。例えばケイの魔法技術だったりとか、ケイの本性だったりとか。

 

 ……俺が標的にされているという想定をしないのは、それが無意味なぐらいに俺が無力だからだ。

 

 虚しくなんかない。

 

「ところで、ご主人はどのような調子デス?」

 

『失態があればケイが取り敢えず頰を引っ張っての繰り返しだ。仲は良くも悪くもない』

 

「そうなのデスか」

 

『気にかけているのか?』

 

「……正確には”気になった“、です。ご主人に限って心配は無用デスよ。ふやぁ〜」

 

 それもそう……か? 

 イツミのことはよく知らないし、あーだこーだ言うつもりはないが。俺が持つケイに対する考えと何となく似ている。俺は納得して置くことにした。

 

 俺は、ベッドに寝転がって欠伸をしているキャットをチラと見る。

 

『キャットは、この依頼が終わるまでずっと周辺警戒か?』

 

「そうデス。私1人で360度警備というのも中々非常識デスが、負担は案外ないデスし、問題ないデスよ」

 

 そう言われてみると、確かにブラックだな……。この猫又は索敵能力を誇ると聞いているが、それでも2人は欲しいところである。

 

「その分ボーナスは貰ってるので、むしろ嬉しいぐらいデス」

 

 ……手当は支払われているらしい。労力に見合った報酬があるだけマシだろうか。

 というか、ボーナス? ペットに給料があるとは……いや、お金ではないが、あるのか。

 

『お菓子券という奴か』

 

「実際には小切手みたいなものデスよ。一枚出せば200Yが返ってきて、そしてお菓子を手にする事ができるのデス」

 

 ……普通にお金渡すんじゃダメなのか? 

 

「ご主人曰く、無駄遣いの予防との事デス。給料という体制を整えつつ、実質的な支払い賃金を減らす……。今思えば、なんと小賢しい策でしょうか。ドラゴンの卵を購入する為の資金繰りの一環だったのでしょうけど、それを直接言われた事はないデスし……」

 

 い、意外とあの怪盗は資金繰りに余裕がないらしい。確かにドラゴンを飼っていると聞くし、その世話代もかかるだろう。

 しかし、少しだけイメージが崩壊した。怪盗も予算を気にかける時代になってしまったのだ。

 

『世知辛いな』

 

「世知辛いのデス。まあ、別に減給されているわけじゃないデスし、気にしてないんデスが」

 

 本人は大して気にしていないらしい。中々寛大な猫又である。

 

 

『それで、イヅミの部屋には行かないのか?』

 

「ここで寝泊まりさせて頂くのデス」

 

『何故だ』

 

 訊いかけるも、答えは返ってこなかった。




楽しむ読み物としては完成度低いですな。
物語を書きたいからと始めたからには、じっくりねっとりと書き進めるとしよう。

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