ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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65-ウチのキャラクターと俺の裏依頼

 さながら映画やアニメの様に、ケイが潜伏した誰かの存在を見抜くのは何回目だっただろうか。

 そんな、どうでも良い疑問を問いとして挙げる代わりに、軽く手を振って挨拶とした。

 

「話が早いって、どういう事?」

 

「取り敢えず、自己紹介の手間が省けるという意味デス。まず、ワタシがここにいる理由デスが……私たちは現在、逃亡生活を送っているのデス」

 

 逃亡生活とは、急に大きな話が出てきた。

 このまま話を聞いていると、イツミとそのペットの一行は、ある貴族の怒りを買ってしまい、その人が執念深く追って来ているのだとか。

 

「自業自得?」

 

「そんな事はないのデス! その貴族がアヤシイルートで購入した絵画が、知り合いが所有していた物と似ていたので、チョット()()()だけなのデス!」

 

「もしそれが善い事だったとしても、蛇を突いたという事実は変わんないよ……」

 

「……そうかもしれませんデスけど」

 

 指摘を受けたキャットの猫耳が、落ち込む様に垂れ下がる。

 

 そういえば……。

 

『ここに出たという大蜘蛛との関係性は?』

 

「あ、それはワタシ特製のニセモノなのデスよ。よく出来てますよね? って、お姉さん達は見てないデスよね」

 

 ニセ、って……。少しは関係があるだろうなと思ったら、出元はこの猫又であった。

 

「つまり、モンスターは実在しない? ……うーん、困ったな。討伐の証明は対象の部位を見せるのが主流の筈だけど」

 

「依頼の方が心配デスか? ご安心ください、先見の明を備えたご主人は、ダミーのアイテムを用意しているのデス。これさえあれば、貴方がたはタダで報酬がもらえるんデスよ?」

 

 それは……ズルじゃないか? 

 俺たちとしては、「大蜘蛛の発見ならず」と伝えてしまうのでも問題ない。

 この依頼は炭鉱町の観光のついでである。報酬がもらえないのでは、観光費が少し減るが、手痛いものではない。

 

 キャットの言うダミーを貰わずとも、問題はないだろう。

 俺はケイの方を見た。

 

「……折角だし、付き合うよ」

 

「本気か」

 

「本気だよ」

 

 面倒ごとになりそうなのは明らかだったが、ケイはその上で判断した様だ。

 

「ありがたいデス。ソウヤさんの方はどうなのデス?」

 

 異論は無い。ケイがそう決定したなら、従おう。

 

「どうやら賛成の様デスね。取引成立デス」

 

「あ、取引なんだ」

 

「こう言った方が“それっぽい”デスから。まずはご主人と会ってもらうのデスよ」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 大蜘蛛との対決の為に用意していたアイテムはどうなる事やら。

 今までの準備が無意味になったものの、ざらざらとした地面を踏みしめる足は重くなかった。

 

 というのも、この準備というのはもっぱらポーションや装備の点検であり、この依頼の為だけに用意した物は特になかった。

 

 武器という点で言えば、最近手に入れた銃がある。

 購入した分と、先日の騒ぎで敵から巻き上げた弾丸。今後の補給の目処が不明な以上、十分な量とは決して言えない。

 これに関しては、切り札として考えれば十分である。

 

「……この辺り、地図に書かれてない」

 

 大きい岩や土があちこちに散り、欠けた壁や天井。非常に歩きづらい地面を踏破して辿り着いたのは、地図に示されていない整えられた道であった。

 

「坑道が部分的に崩壊したと見せかけつつ、アジトへの経路を設けたのデス。事故を避けるため、こういった部分を鉱夫は避けて行くので便利なのデスよ。あるとすれば、壁や天井を補強する程度の土属性魔法を使う、そんな優秀な魔法使いを連れた時ぐらいデス」

 

「へえ」

 

「……むう」

 

 豆知識の様な話を聞きながら、無言で道を行く。

 知識を自慢しているつもりだったのか、反応の薄い俺たちに、頰を膨らませていた。

 

 

 そうして辿り着いたのは、ぽつんと置かれた扉だ。ここにイツミが居るのだろうか。

 

「さて、私たちのアジトに到着です。くれぐれも失礼のな──」

 

「おーいイツミー。そこにいるんでしょー?」

 

 ……俺はキャットを見る。

 

「……言ってみただけなのデス」

 

「うん?」

 

「いえ、なんでもありません、デス」

 

 キャットはそう言っているが、俺から見てもこれは流石に……。そう思って、ケイに1つだけ告げる。

 

「ケイはもう少し人の話を聞くと良いぞ」

 

「……別に失礼の無い態度なんて要らなくない?」

 

「あ、聞こえてたのか」

 

 なら別に良いか。

 

「うん、聞こえたけど無視した」

 

「ちょっと待つのデス。なんでソウヤさんも納得してるんデスか」

 

 

 そうして、質素なようで中々頑丈そうな扉の前に立っていると、その扉が開かれる。

 扉の向こうに見えるのは、この坑道には相応しく質素な内装と、そして暗闇しか居場所がなさそうな黒ずくめの姿をしたイツミが居た。

 あの仮面は相変わらずである。

 

「これはこれは、なんと言う奇遇か。この様な場で再会する事となろうとは。……おや、装備もお揃いにした様で?」

 

「ただいまデス。大蜘蛛の討伐隊を連れてきたのデスよ……隊と言うには少なすぎデスけど」

 

「うむ、おかえり。キャット。中にお菓子を用意してるぞ」

 

「わあい、なのデス」

 

 キャットがパタパタと扉の方、そして奥の方へと駆けて行った。イツミが用意したお菓子が、よほど楽しみであるらしい。

 それを見届けたイツミは、こっちを振り返る。

 

「さて、キャットから大まかな事は聞いたのだろう?」

 

「うん。まさか、逃亡生活だなんてね」

 

「うむ、恥ずかしい限りである」

 

「そしてここに、偽物の脅威を置いて隠れ潜んでいると。……で、なんの頼み事なの?」

 

 早速という感じで、ケイが本題へと踏み込む。

 

 それが今回の本題だろう。

 討伐に来た者を引き込んで、わざわざ頼むような……。一体なんだろうか。

 

「その前に、こちらに案内しよう」

 

 まずはアジトの中の机や椅子に案内されて、お互い腰を下ろす。

 

 

「……まず、大蜘蛛の討伐は、「討伐したものの、掃討が困難な数のモンスターが居る」と報告してくれ」

 

「鉱夫をこの階層で活動させない為?」

 

「うむ。少なくとも、本格的な掃討が始まるまでは、この場所で落ち着けるだろう。それと、このアジトを破棄する場合、証拠隠滅の為完全に崩壊させる予定である。……ああ、無論、討伐の証となるアイテムはこちらで用意しているぞ。あとで渡そう」

 

 それにケイが頷く。

 ……これで悪事の片棒を担ぐ事になった気がするのだが。

 

「そして2つ目に依頼なのだが……、プレイヤー間で私に関する情報が拡散している。大まかには、私がPKというものだが」

 

「ぴーけー?」

 

「プレイヤーキラー、人殺しの様なものだな」

 

「ふうん。怪盗さんがねえ」

 

「それが、不自然なぐらいにプレイヤー間の情報網に浸透しているらしいのだ。公式及び非公式掲示板、そしてウィキ等にだ」

 

 この世界の住民にはわからない様な言葉が幾つも出てきて、ケイが難しそうな顔をして俺を見る。

 

「プレイヤーは、“向こうの世界”で情報を共有していることがある。その媒体が、掲示板とかウィキとか言う奴。その情報網に頼らず活動する人も居るけどな」

 

「なるほど」

 

「私とて、これに関しての本格的な調査を行いたいのだが……いかんせん、時間の流れが違う。こちらでの時間を捨てる程の余裕がないのだ。そこで、ケイお嬢の時間を頂きたい」

 

「はあ?」

 

 イツミが放った言葉を、ケイが理解しかねている様子だ。

 すると、あの仮面の裏が一瞬だけニヤけたような気配がして、俺は察した。この男は、俺たちを本格的な面倒ごとに巻き込むつもりだ。

 

 戦争に、ドラゴンに、帝都での傭兵騒ぎ。

 そんなイベントとは全く違って、()()()()()()()()()()()

 

 俺たちとっては、好ましく無い。

 

「私の代わりに、この情報について調べてくれないだろうか」

 

「ええっと、それは……」

 

 ある程度は冒険だと思って許容するつもりだったが、これは当然、”許容範囲外“だ。

 ペンとメモ帳を取り出し、3秒もせずに言葉を書き出す。

 

『俺たちは協力しない』

 

「……ほう?」

 

『正確には、依頼完了の報告に嘘を混ぜる所までは協力する。だが、現実世界が関わってくる様であれば、話は別だ』

 

 筆談という手段で語り始めた俺を、興味深そうに見つめるイツミ。

 依頼に関しては、モンスターを狩った数をシステムが数えてくれるものでは無い。依頼者がプレイヤーだろうとNPCだろうと、()()()()()()()()()()()()()ならば、依頼は成功となる。

 

 だから、百歩譲ってこれには協力できる。ケイが既に協力の意思を見せているのもあるし、イツミ達は俺とケイとの出会いに関わっているからだ。

 だが、現実世界での情報収集。これは断る。

 

「そこまでの義理は無い、と? 虚偽報告と調査の2つにはそれ相応の報酬をつけるつもりだ。それでもか?」

 

『それでもだ』

 

 明確な拒否を示す俺。

 ケイの方はどうだ、とイツミがそっちに目線を向けるが、ケイは賛成する様に頷いた。

 そちらでは全会一致ということか、と呟くイツミは、顎に指を当ててなにやら考え始める。

 

「……それでは、方向性を変えよう」

 

 方向性だと? 

 まだ何か言うつもりか……。

 

「情報収集に関しては、確認の為という意味が強い。私の予測を裏付ける何かが欲しかったのだ」

 

 要するに、見当はついていたけども、それが本当であるかを確認したいが為にあの依頼を? 

 しかし、現実での活動を要するのを嫌がった事で、その代わりの依頼を考えている様子だ。

 

 ……どうしても、イツミは俺たちを利用したいらしい。

 

 報酬の付く依頼で、完遂後にしがらみが伴わない物なら、考えないこともないが……。

 

「そうだな……」

 

 イツミもその依頼内容を決めかねているのか、また指に手を当てて思考に沈む。

 仮面に開いた目の部分の穴から、閉じられた瞼が見える。

 

 彼が思考を続けてしばらくしてか、アジトの奥の方から小さな姿がやってきた。

 両手にお菓子の様なものを手にして、俺たちを観察している。

 

「……交渉は難航しているのデスか?」

 

「む、キャットか。難航というほどでも無いと思うが……そうだ、キャットはケイお嬢をどう思ってる?」

 

「ミャ? 一体どう言うことデス?」

 

「単純な好き嫌いで答えても良いぞ」

 

 いきなりキャットに問いをかけるイツミ。

 イツミがどう言う意図でその質問をしたのかが気になるが、キャットはその意図がどうであるかを気にせず、真面目に問いの答えを考えている。

 

「……お姉さんは純粋に、強いので憧れますね、デス。お人形のソウヤさんは、何を考えているのか正直分からないのデスが……まあ、どちらかと言えば”好き“デスね」

 

「よし、それなら決まりだ」

 

「決まり……?」

 

「僭越ながら、この怪盗兼テイマー、そして我らがペット達一同。ケイお嬢率いるパーティに参加させて頂きたい!」

 

「……は?」

「ふにゃ?!」

 

 キャットの手から、お菓子が零れ落ちた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「大蜘蛛退治かと思えば、あんな事をやることになるだなんて……」

 

「ああ、驚いた。イツミが俺たちのパーティになると言い出すなんてな。その上、テロ紛いの破壊工作をする始末だ」

 

 あんな事を言い出したのも、一応理由があっての事らしいのだが……。

 王都のドラゴン騒ぎの後に噂されている、見たこともない様な魔法を使う女性。イツミは、その正体をケイだと知っている。

 

 言い逃れの隙を与えぬまま、その転移魔法を目当てにしたパーティ加入を許してしまった。

 ……別に抵抗しなかったが。ケイも俺も。

 

「足がつかない様に偽装をするって言っていたが」

 

「今まで見た感じ、あの仮面は24時間あの格好らしいし、脱ぐだけで効果あるんじゃ無い?」

 

「……確かに」

 

 俺たちとは逆、という事だ。

 

 

 石炭と共に昇降機を上がり、地上に出る。

 外の空気が美味い……とは到底言えないが。

 

 怪しまれないよう、戦闘と探索をしていたであろう時間を地下で過ごし、ほとんど何もしていないのではと思われる可能性を避けた。

 お陰で日がだいぶ傾いている。

 

「あそこに行くか。酒場だかなんだかよく分からない場所」

 

「そうだね」

 

 

 とりあえず、依頼は完了した……という体で、またこの建物にやってくる。

 ダミーとは言え、一応は実物である蜘蛛の頭部を警備員に見せると、興奮した様にライドウの元へと連れていかれた。

 

「マスター! 2人が戻ってきましたよ!」

 

「じゃからノックせんかい! ……ゴホン、ケイにソウヤ、お疲れ様じゃ。それにしても、ヤケに鎧が土まみれじゃないか」

 

「あ、水魔法で綺麗にしたほうがよかったかな? 配慮が足りなくてごめんね」

 

「いや、構わん。して、それが討伐の証明なのかね?」

 

「そ。奴の頭だよ」

 

 さりげない嘘を平気な態度で吐きながら、ダミーを見せる。

 ここに来るまでずっと抱えていたこの蜘蛛の頭部は、そこから巨大な姿を想像させるには十分な大きさだった。

 お陰で、ロープで括り付けて来ないと持ちづらい上に目立ってしまった。

 

「……それと、とっくに繁殖が進んでたみたい。コイツの子供みたいなのがウヨウヨ居たよ」

 

「ほう……、戦わずに戻ってきたのか」

 

「いや、全部ぶっ飛ばした」

 

「……ぶっ飛ばした、とな?」

 

「そ。お陰で、坑道の中がボロボロになっちゃった。私たちもちょっと土被っちゃったし」

 

「な、なんと……」

 

 残念ながら、ケイの言葉は本当である。

 俺たちが行った()()()()によって、2階層の大半をボロボロにしてしまったのだ。

 

 どうしてそんなことをしたのかと言えば、証拠隠滅の為。

 下手に依頼報告を偽って、罪に問われては困る。だから、罪に問う材料を破壊したのだ。

 元々はアジトに処分が目的だが、こちらは俺からの提案であった。

 迷惑に繋がるが、罪にはならない。

 

「ごめん、せっかく炭鉱夫達が頑張って掘り進めたのに」

 

「い、いいや。命が失われなかったのなら良いのじゃ。それにあの層、採れる石炭に限界が見えてきたところなのじゃ。切り上げるタイミングとしては丁度良かったじゃろう」

 

「気を使ってくれてありがとう。残党が残ってても出てこないよう、道を全部封鎖しておいた。昇降機の広場からの入り口全部ね」

 

 ケイが言いながら、地図を取り出してその場所を指差す。

 勿論、この封鎖に関しても証拠を隠す目的によるものだ。

 

「報酬はいいよ。炭鉱を一部潰したんだし」

 

「ちょっと潰されたのを理由に報酬を渋る程、財布も懐も狭くはないわい。死ぬほど良心が痛むと言うのであれば、4分の1は差し引く。その金額で、第3階層の補強に回しておくからの」

 

「それで良いの?」

 

「報酬が得られない冒険者など、いつかは野垂れ死ぬであろうに……」

 

 心優しい……と言うよりかは、同情しているのだろうか? 

 かつては冒険者か何かだったのだろうか、と思いつつ、彼が袋の中身を大雑把に分けるのを眺める。

 

「ほれ、大体4分の3。報酬の分じゃ」

 

「うわあ適当」

 

「なんじゃ、そこまで適当に抜き出したのが気に入らんか」

 

「うんや。豪快な爺さんだなって。それに無報酬を覚悟してたぐらいだから。なんなら、分けが逆でも嬉しかったよ」

 

「ほっほ。なら受け取るんじゃな」

 

「ん、貰うね」

 

 ケイが受け取った報酬を懐に仕舞う。するとライドウが手を差し出した。

 握手をしたがっているみたいだ。ケイには特に断る理由もなく、握手に応えた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「なんかイヤな気分だ……」

 

「そうなのか? ……いや、そうだな。直接交渉してたもんな」

 

 俺は声も姿もこんなもんだから、ケイにほとんど任せるしかない。彼女の働きには感謝である。

 

「それで、えっと……ああそうだ、待ち合わせてるんだよね。何処だっけ、あの変な仮面が待ってるの」

 

「何処かの酒場だ。具体的な場所はメモしておいたぞ」

 

「おー、良いじゃん。……ちょっと気が進まないけど」

 

 あ、嫌だったのか。

 依頼に乗り気だし何も言わないから、てっきり受け入れてると思っていたのだが。

 

「……そういえば、ケイは微妙にイツミの事を嫌ってるよな。どうしてだ?」

 

「……個人的に、ちょっと距離を置きたい」

 

 ふむ、イツミにセクハラでも受けたのだろうか。記憶の限りでは全く思い当たらないのだが。

 

「…………ここだけの話なんだけどね」

 

「ああ、ここだけの話にしよう」

 

「あの人は多分、女だと思う。あとあの仮面、趣味悪すぎ」

 

 ……ああ、なんだって? 

 女だと? 

 

 いや、ケイは「多分」と言っていた。今まで彼は、素肌が全く見せないような装いをしていたのだし、そりゃあ確証も持てないだろう。

 

 それに、人のこと言えないだろう。現実では男性でありながら、こちらでは女性。

 このケイが現れる以前の、俺のスタイルである。これで文句を言えばブーメランも良いところだ。

 

 だが、ううむ……。

 イツミが女性だったとすると……全く想像つかない。怪盗の姿をするぐらいだから、大人の落ち着いた女性、って所だろうか。

 そもそも女性だと言うのは、ケイの憶測だ。今まで通り男である可能性も、十分あるだろう。

 今まで聞いてきたイツミの声は……中性的だったから、なんとも言えない。

 

 歩き続けると、目的地の酒場にたどり着く。

 

「ここだな」

 

「見て分かると良いんだけど……。変装だし、無理かな」

 

「向こうから見つけてもらわないと、会えなさそうだ」

 

 そう言いながら、酒場に入っていくが……。

 

「……うん、バックレ────」

「あ! おーい、こっちこっちー!」

 

 酒場に、元気な声が上がる。

 

「……バックレたかった」

 

「なんか騒がしい女性が居るな」

 

「……居るね」

 

「彼女、こっちに向かって手を振っていないか?」

 

「確かに。……あ、こっち来る」

 

 パタパタと、ボブの黒髪をした活発な女性が駆け寄ってくる。

 身長はやや高めだ。身長高めの女性は大体クール、という先入観により、見た目だけ取ってもギャップが感じられる……。

 

「もうっ、どうして無視するんですかっ。私です私!」

 

 どうやら彼女が、そうであるらしい。

 ありえない、と思いつつケイの方を見ると、ジト目だった。それも凄まじい呆れのこもったジト目であった。

 そうしている内に、女性が俺の耳元にまで口を寄せてきて、

 

「私がイツミでーす」

 

 ……ついには、その正体を明かしてしまった。

 

「ふふ……♪」




もう少し違う場面でイツミの「ソトヅラ」を取っ払わせても良かったかもしれない。

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