ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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静かな夜
となるはずだった



59-ウチのキャラクターと俺の静かな夜

 アンドロイドというものは、大半が人間を模した見た目、仕草をする。

 それは人間の役割というものを代行するという目的故に、行き着いた形なのだろう。

 

「だいっ嫌いな時計塔を登らずに済んだっていうのに、なにぼうっとしてるの?」

 

「……ケイ。帰ってきたのか」

 

「うん、城壁を一周だけしてきたよ。キミの為に、急ぎながらね」

 

 ケイが俺をこの宿に送った後、見回りが途中だった為彼女だけが散歩を続けたのだ。

 

「なんか、悪いな」

 

「別にいいよ、散歩ついでだし。それよりも……」

 

 ぼんやりと思考する頭が、ここで一度停止する。

 ケイが俺の目の前を陣取って、私を注目せよと言わんばかりに見下ろしてくる。

 ベッドに腰を下ろしていた俺は、彼女の顔を見上げた。

 

「悩み多しソウヤに、一つ質問」

 

「質問って……また」

 

「メチャくんの家に居たアンドロイドは、何人だった?」

 

「───それって」

 

「おっと、私に真実を求められても困る。私だって今でも疑っている段階なんだから」

 

 ……確信しているわけではない、が、感づいているという事らしい。

 俺は視線を下ろして、ゆっくりと問いの答えを言う。

 

「俺が見たハルカは……いや、俺も確証を持てない」

 

「えー?」

 

「まだ分からない」

 

 あの時俺が目にしたのは、裂けた肌の向こうに見える、千切れたチューブや電線。

 血や肉は一切見当たらない。無機質な身体が垣間見えたのである。

 

 しかし、だからって”そう“と決めつける訳にはいかない。

 

「あれはただの義手なのかもしれない」

 

「義手?」

 

「ああ、俺が見たのは、機械仕掛けの左腕だった。……という可能性だ」

 

「へえ……随分と先進的な義手だ事」

 

「あるいは、もしかしたら───」

「もしかしたら、彼女は生きていない。って言う事でしょ。いやあ、恐ろしいよ、本当に」

 

「……恐ろしい、ね。さっきも同じことを言ってたな」

 

 

「うん。本当に、アンドロイドって奴は恐ろしい。作り手次第では、まるで死者が生きているかのように振る舞えるんだから」

 

「死者が生きている、か」

 

 時計塔の上で、あの家に居たアンドロイドの数について問われた。あの時には既に、ケイはハルカがアンドロイドである可能性を感じ取っていたのだろう。

 だからあんな言い方をしたんだ。もし気付いていなくとも、矛盾を起こさない言い方で。

 そう言うには少し雑な質問だったが……。

 

 ケイが気付いた切っ掛けに関しては、エルフにあるべき魔力が感じられないとか、そこら辺か。

 

「ゾンビみたいだ、とお前は思ってるのか?」

 

「へえ、この世界にもゾンビっていうのがあるんだ。でも流石にそこまでは思ってないよ。あれ腐ってるから臭いし」

 

「あ、そう」

 

「死という概念が存在しない、というのは共通なのかもね。アンドロイドには詳しくないから、勘違いかもしれないけど」

 

 死の概念がない、ねえ。

 プレイヤーに関しても言えると思うのだが。

 

「ん、そういえばキミ達も似たようなもんか」

 

「まあな。ちょうど俺もそう思った所だ」

 

「一度は死んだ事あるんだよね。死ぬ感覚ってどうなのさ?」

 

「痛くも痒くも無いぞ。強いて言えば自分の身体が見える。復活するまで消えないから見放題だ」

 

「あ、そう」

 

 質問してきたと言うのに、いかにも興味が無さげな言葉を返される。

 何故だ。

 

「死に際の痛みを覚えたまま生きてるよりマシだと思うぞ」

 

「なかなか恐ろしいことを言うねキミ」

 

 そう思うと、事故で記憶を失ったのは幸運と言うべきか。

 いっその事過去の事なぞ……なんてな。

 

 俺の記憶を求めると言うこの行動を、止めるつもりはない。それは今もこれからも変わらない。

 

「もしエルが前世の記憶を引き継いでいたとしたら……、彼女に悪いことをしたかも」

 

「……そこまで考えなくても良いと思うが」

 

「そう言われても、ふと思いついては申し訳なくなっちゃうんだよ」

 

 ああ……それは分かるかもしれない。

 

「諦めないんだな。エルの事を」

 

「…………それは」

 

「……?」

 

「まあね」

 

 濁された……? 

 

「お前は……いや、なんでもない」

 

 何かを聞き出そうと思って、問い詰めようとする口がその言葉を吐き出す前に止める。

 

「そこで引くんだ、へえ。ま、いいけどね」

 

 ケイが退屈そうに欠伸をして、ベッドに横たわる。寝る時間とするにはまだ早いと思うが。

 

 しかし彼女は今から寝てしまうらしい。毛布まで被って熟睡する気満々だ。

 仕方ない、俺も寝るとしよう。

 

 着慣れたローブ姿に着替えると、彼女が寝ているのとは別のベッドに倒れ込んだ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「……?」

 

 ……朝か。

 

 どうやらいつの間にか寝てしまった様だ。俺はベッドに横たわりつつ、首だけを動かして外を見る。

 

「まだ夜じゃないか……」

 

 月の形と位置を見るからに、深夜0時過ぎだろうか。

 そんな面倒な事をしなくともメニューを開けば、簡単に確認できるのだが。

 

 ……午後11時だった。日付が変わってすらいない。

 

 寝直そうか、と思って目を閉じるが、窓からぼんやりと入ってくる光が気になって眠れない。

 

 

 寝ようにも寝れず、仕方なく月明かりを眺め始めてから数分経った頃だろうか。

 

 真夜中の街は、間違いなく静寂に包まれていると言える。

 人はもうめっきり見かけない。街灯だけが並ぶ今の道なら、なんの障害もなく大人数で行進できるだろう。

 

 ……少し散歩してみるか。

 

 ここのリスポーン地点となる場所は把握している。

 万が一の事があっても大丈夫だ。

 それでも変に心配されても困るから一応の書き置きを残してから出て行った。

 一応装備も装着しといて。

 

「行ってきます」

 

 そしてこの言葉を残して、扉を開ける。と言っても、眠っている彼女の耳には届かないだろうが。

 

 

 宿屋を出て、なるべく街灯の下を歩きつつ空を眺める。

 この辺りは現代社会における都市に環境が近いからか、空に見えるはずの星々はほとんど見えなくなっている。

 現代人で都会っ子の俺にとっては、この夜空の方が見慣れていた。

 

 なにかの数を指す時に“星の数ほどある”と例えられる事があるが、この場合は精々が10個かそれ以下になるだろう。

 

「あ」

 

 もっぱら空を眺めて歩いて居たのだが、するといつのまにか広場に到着していた。

 別にここを目的地にしていたわけじゃ無いが……。

 

「……?」

 

「……あれ?」

 

 おや。あの小さな作業服の姿は……。

 これはなんという奇遇だろうか。昼前に別れた筈二人に、その日の内に再会できてしまった。追いかけてきたパターンを含めると、昼間の時点で達成しているが。

 

 この広場はこの姉弟がよく訪れるところなのだろうか。姉の方もここで遭遇したと記憶している。

 

 軽く手を振って挨拶。ついでに人形姿の頭部を露わにして、俺が誰なのかを思い出してもらう。

 

「ソウヤにい? こんな夜遅くにどうしたノ?」

 

『さっきまで寝てたが、目が覚めてしまった。今は散歩してる』

 

 相手が喋り始めてから用意したメモ帳に、そう書いてから相手に向ける。

 

「このあたりの治安はいいけど、最近雲行きがあやしいから気をつけてよネ?」

 

『勿論だ』

 

 ケイが警戒して散歩ついでに見回りするほどだ。これから何も起きないとは到底思えない。

 現にこうして戦闘用の装備を着込んでいるのだし。……これはもっぱら正体を隠すためであるが。

 

『お前は何か対策でも考えているのか?』

 

「ボク? あー、そういえば特に何も考えてないヤ……」

 

 その答えを聞いて、彼のことを不用心だと思うことは無かった。保有するアンドロイドを含めば、その戦闘力は少なくとも上位に食い込んでいるだろう。

 

『メチャちゃんくんの技術力なら、心配するまでもないよ』

 

「うん? えっと、ありがとう。……ん、メチャちゃん“くん“?」

 

 俺はすぐにメモ帳のページをめくると、彼の隣に空いているスペースにお邪魔することにした。

 かちゃ、とわずかに防具がぶつかり合って音を鳴らす。

 

 

「あ、そういえば、ソウヤにいって弓使いなんだよネ? 銃相手になんとかなるノ?」

 

 それに関しては問題ない。すでに俺は銃を購入している。性能や弾丸の供給に関しては厳しいが、万が一の対策としては十分だ。

 ポーチに仕舞っていた銃を取り出す。

 

「そっか、買ったんダ。……それってもしかしてデジねぇの?」

 

 それは製作者の名前だろうか。買うときの彼女の名前を聞いていないから、彼の予想に対する答え合せはできない。

 俺は肩を竦める仕草だけで返した。

 

「ん、わかんないんダネ。ボクの知り合いなんだケド」

 

 生産職仲間としての交流はあるのか。メチャちゃんくんの技術力だと他の人は置いてけぼりになりそうだ。

 なんたってこの国の法で下手に広められないのだ。人によっては気まずくなりそうだ。

 

「でも良かったネ。デジねえの銃はコピー品としては上等だよ。きっと近いうちにデジねえの銃が主流になると思う」

 

 へえ。俺たちはお得な買い物をしたというワケだ。有り難く使うとしよう。

 見せるために取り出した銃をまた仕舞って、そういえばと思ってメモ帳にとある質問を書いて見せる。

 

『そういえばメチャちゃんくんは何故ここに?』

 

「んえ? ……ちょっと、開発の合間に休憩してるだけダヨ」

 

 開発か。……よく考えたら、設計から素材調達や製造まで、全て彼一人でやっているのだろうか。ゲームとして一部簡略化されているとしても、控えめに言って非常にすごい。

 アンドロイドの手を借りているとしても……。

 

 ……ああ、そうだ。たった今「手」のことを思い出した。

 

「じゃなくて、メチャちゃんくんって一体何? 言いにくいっていうか、書きにくくないの?」

 

 今になって思い出したとある事に、頭を抱えそうになるが、代わりに質問に対して首を横に振る。

 一眠りしてさっきまで忘れていたが、そういえば彼は……、

 

「……」

 

「えっと、どしたのソウヤにい?」

 

 ……彼には申し訳ないが、少しだけ意地悪なことをしよう。

 

『何を開発しているのか当ててやろう』

 

「おお?」

 

『ズバリ、「義手」だ!』

 

「おー……でも残念、もう作ってマース。エッヘン!」

 

 へえ、もう義手は作られている。

 

『そうなんだ。でも凄いな、それで誰かを助けた事があるのか?』

 

「あるヨ。近所のオジさんが腕を丸々焼いちゃったから、交換したんダ。……あ、ちゃんと麻酔は使ったヨ!」

 

 誰がそこまで言えと。たしかに麻酔なしに生の腕を切り離すというのは、想像するだけでも身が震えるが……。

 いや麻酔があっても震える。

 

『そこまではきいてないが、成る程。因みに他は?』

 

「んーん? 一人だけダヨ」

 

 へえ、そうか。なるほど。

 

 彼が言った事が真実であれば、あのハルカは……。

 

 彼女()()はこの世界に居らず、そしてメチャちゃんくんは自らの姉の存在をその手で作り出した。

 ともなればきっと、この世界のあの世界にも彼女は、ハルカは居ない。

 

 なんて、それが事実だと決めつけることは出来ない。それが100%だとはとても言えない。

 もしかしたら、腕を失ったという事を他人に教えたくないだとか……。だから、彼女が生きていないとかいう確信はできない。

 

 まあ、知ってどうにかする、というわけでは無いが……ただ、()()()()()()の人間の話を聞きたいだけだ。

 

 存在しない人間を作り上げて、家族のように接して、どんな気持ちなんだろうか? 

 

 豊かな日常を形作る姉の存在が、隣に居てくれる。

 ただしそれは、自らの手による“作り物”。

 

 果たしてそれは……。

 

 ……いや、この言葉は彼の行動を人道的とは言い難いと言って咎めるものではない。

 彼の家庭事情に干渉する権利を当然持たない俺は、こうして小賢しく想像することしかできない。

 

 

「どうかしたノ?」

 

『何でもない』

 

「うーん? ……そうだ、ソウヤにいも義手にする? 右腕のパワーだけでも上げたら色々と便利になると思うヨ!」

 

 いやそれは……遠慮しておきたい。

 今はまだその時ではないのだ。怖いし。……と思ったが、最近物騒である以上、戦闘力向上の機会は早めに掴んだほうがいいのかもしれない。

 

 少し悩んで、頭の中で結論を下すと、俺はベンチから立ち上がった。

 

『頼む。幾らだ?』

 

「標準的な義手の移植で200,000Yだネ」

 

 俺はベンチに倒れこむように座った。

 

 高い……。

 

「あ、ゴメン。でもボクが扱ってるのはオーバーテクノロジーだし、融通を利かせちゃうとお国サンに目をつけられちゃうんダ。……それと言っておくケド、コレの3割は税金だから、イジワルじゃないからネ?」

 

 その辺りは仕方ない。一度依頼で付き合った仲というだけで割り引いて貰うつもりも無かったし。

 ……ケイあたりはやりそうな事だが。

 

【ピロピロピロ】

 

「あ、ゴメン! ボクの電話」

 

 この世界に電話……。この世界観とは合わない言葉に、なんとも言えない気持ちになってしまう。

 彼は車の中でも弄っていた機械を取り出して、何かと通話しているようだ。

 

「……また?!」

 

「うおっ」

 

 急に叫ばないでくれ、耳が潰れる。耳なんて無いが。

 

「あ、うるさかったヨネ、ゴメン……。えっと、前と同じように4人で探して。よろしく」

 

 そして携帯が閉じられる。何かトラブルでもあったのだろうか。

 

「ソウヤにいは姉さまの事見なかった?」

 

 ハルカの事か? 

 それなら日没後の時間に倉庫の中で見かけた……が、そんなこと言えるわけないから首を横に振った。

 

「……分かった。ボクはそろそり戻るネ」

 

 ……何があったか分からないが、俺もそろそろケイの所へ戻るとしよう。散歩ですっかり目が覚めてしまったが、まあその時は現実世界で適当に時間を潰せばいいか。

 最近になって、ケイの目の前でログアウトしても問題なくなった事だし。

 

『気をつけて』

 

「うん」

 

 ……本当に何があったんだ? 

 急いでいる様子のメチャちゃんくんの後ろ姿を見て、まあ干渉する事も無いかと俺は宿屋の方へ向かった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

【───】

 

 深夜。何かを感じた私は飛び起きるように目を覚ました。

 

 勘と言ってしまっても良いような感覚に叩き起こされたけど、不機嫌そうにする事もなく、まず一度周囲の気配を集中して探った。

 

 分かったのは、ソウヤがいない事と、メモ紙が置いてある事。

 プレイヤーの特性を知っていた私は、特に急ぐ事もせずに、軽い警戒だけを続ける事にした。

 

「……何もない。気のせい、と言う事はない筈なんだけど」

 

 私を叩き起こした()()とは、物音や魔力でもなく、本当に勘としか言いようが無いモノだった。

 虫の知らせとでも言うべきか。しかし私は虫では無い。

 

 とりあえず、置き手紙の方を確認する。

 

『夜中に目が覚めたから、適当に散歩する。なんかあったらメールする』

 

 内容を見て、向こうのベッドの中身が空であることに納得する。まあそんな所だろうは思っていた。

 この文字の書き方はソウヤの物だって分かる、偽装された人攫いという事は無いと思う。そもそも人が直接侵入する時点で私は起きてる。

 

「……私もちょっと散歩に行こうかな」

 

 アイテムで軽くソウヤの位置を確認する。レーダーの範囲内に居るらしい、散歩から帰るのか、ゆっくりとこちらに移動しているのがわかる。

 

「『翔ばせ』」

 

 とりあえず窓から空に出て、人がいなさそうな建物の屋根に移る。これぐらいなら転移魔法よりも楽でコストも低い。その上風が気持ち良い。

 

 さて、辺りに不審な物は……。

 ……見つけた。厄介な奴が二人。でも二人までなら楽に済む。

 

 

「さて……、全く魔力が匂わないキミは」

 

 急降下。

 目標の相手をうまく使って衝撃を逃す。代わりに落下の衝撃をこの男に譲ってやる。

 

「何をするつもりなんだい? 異邦の傭兵さん」

 

 そうすると、勢いが乗せられた私の体重全てと石畳で、男が板挟みにされた。

 抵抗の気配はない。気絶したと判断する。

 

「……!」

 

「キミは要らないよ」

 

 前を歩いていた男がこっちに振り返る。武器に手を伸ばしてはいないが、声を出されると厄介だ。

 それに、口はこれだけで十分なんだ。風魔法による鎌鼬が首を裂く。

 二人目が倒れて、光となって散るのを見届けてから、下敷きになっている奴の様子を確認する。

 

「さて……、気絶してる奴を尋問してもなあ」

 

 落下の勢いを使った攻撃は力加減が難しいから、気絶で済んだのも幸運みたいなもんだけど。

 気絶で済まなかったとしても、回復ポーションを使えばいいんだけれど。

 

 どうやら奴らは既に、街の中に潜伏しているようだ。一応城壁の抜け穴は確認した筈なんだけど、どうやってか門番か壁を越えたらしい。

 

「ああ。しまったな、どうやって入ったか聞き出したい所だけど……そもそも、コイツの言葉分かんないもんなあ」

 

 言語の違いという問題を、今になって思い出す。

 仮にこの男が起きて尋問が出来ても、同じ言葉が話せないんじゃ無意味だ。

 

 取り敢えず土魔法で腕や脚を固める。ついでに口も塞ぐ。

 化け物でも無い限り逃げる事はないだろう。

 

 ああそうだ、それと……。

 

「これは頂くよ」

 

 腰にささっている、剣でいう所の鞘だろうか。銃が収められているそれごとベルトから外す。弾はこの中かな? ……あった。

 二人からそれを貰う。この二人分を合わせても、弾の数はあまり多くない。

 

 厄介ごとが発生した事をソウヤに連絡しようとするが……、彼はすでに察しているみたいだ。

 

『未開封のメールが一通あります』

 

『さっき空から何かが落ちてきたのが見えた。お前だろ』

 

 これはこれは、目敏い男なもんだ。人の注意が向きづらい上空で、私の人影に気付くだなんて。

 それとも最初から夜空でも見上げていたのか。確かに、星が数える程しか見えないと言うのは、私としても珍しく思えるのだけど。

 

「取り敢えず『転移』」

 

「んまぶっ」

 

 レーダーを見ながら転移を発動して、思い通りの所に飛ぶ。我ながらに正確な距離感覚に自ら頷いた後、目の前の家出人形に言葉をかける。

 

「……目の前でやられると眩しいんだよ。夜に慣れた目だと余計に。で、何かがあったのか?」

 

「銃。あの奴らだよ。奇襲出来たから、銃を譲ってもらった。これがキミの分ね」

 

 さっき貰ったものの内一つを渡す。それと幾つかの弾も。買った奴との見た目は同じだし、多分同じ弾が使えると思う。

 

「折角買った銃が……まあ貰う。お前にとってはむしろ使いずらいだろうしな。それで、奴らがどうやって入ったかは?」

 

「それは分からない」

 

「そうか……」

 

「兎に角、私は他の奴を探しながら裏口を見つける」

 

 これを特定しないと、今後も侵入を許す事になる。出来れば殲滅、最低でも侵入を止めないと。

 

「ケイ、俺は」

 

「キミは向こうで寝てる傭兵を、衛兵に突き出しておいて。そうすれば国も対応を始める」

 

「向こう……?」

 

 簡単に道順を伝える。そこに行けば見つけられる筈だ。相当のアクシデントがない限り。

 

「私は辺りを調べる。ほら時は金なりだ、行動開始!」

 

「ちょ……ああ、わかった。見つけて、連れていけばいいんだろう?」

 

「理解が早くて助かるね。じゃ」

 

 ソウヤが素直に頷いてくれたから、私も行くことにした。また風魔法で空へと飛び上がって、さっきの地点へと移動する。

 

 彼が危険に見舞われる可能性がある、と言うのは考えるまでもなく分かっている。私としてはそこが今でも心配になっている。

 しかし理論的に考えれば、プレイヤーである彼にとっては殆どのリスクは大した事にならない。

 何故なら、彼の身に何があろうと、それは彼自身の人生を脅かすものではないからだ。

 

「……ここら辺から探るか」

 

 思考を切り替えよう。

 

 まず、先程はっ倒した男二人が足を進めていた方向とは逆、つまり彼らの足跡を辿ることにした。

 また別の敵が居ない事は上空から見て分かっているけれど、見落としや屋内に隠れている可能性を踏まえて慎重に。

 

 

 

「……魔力」

 

 手掛かりになりそうな物を見つけた。

 人が普段内包しているものでは無い。魔法か何かで使われた後の残留として漂っている。

 

 魔法を使っての侵入なら、多くの手段が取れる。そりゃあ軽い見回りじゃカバーできない訳だ。

 魔力の無い連中だと思って甘くみるべきじゃなかった。

 

 この国は、ミッド王国と比べて魔法に疎いように見える。だからこの集団が通ってしまうんだろう。

 

 

 魔力の発生源らしき地点を見つける。

 整備が行き渡っていない、朽ちた建物が並ぶ地区だった。つまりが、スラム街だ。

 

 やはり、そこで大規模な魔法が使われているようだ。

 夜中のスラム街に、青みがかった光が見える。円と複数の記号が記された陣。

 

 ……魔法陣。

 

 私が居た世界でも『魔法の固定化及び自動化』と言う理論を基に利用されていた技術だ。

 

 しかしこの世界では、もっぱら魔法の効果を増幅する目的で扱われる。

 そして自動化は他の技術に代わっている。

 

 その一方で彼らは……? 

 以前の戦争で一部魔法が使われていた事を鑑みるに、奴らは魔法使いの協力者達が居る。森の中でソウヤと話していた時も、この話が出てきたが……。

 

 そうすると、あー……。

 

「……ああ面倒だ! 飛び込んで、ぶっ倒して、話を聞き出す!」

 

 自分でも自覚できないぐらいに僅かに残っていた眠気が、今更になって表面化してきた。

 けれども、事実この方法が一番手っ取り早い。すぐ目の前に答えがあると言うのに、どうして問題を真面目に解かなければならないのだ。

 

 目標の状態を確認する。

 敵は7人。内3人の服装が、魔法使いだと一目で分かる姿であった。他は銃で武装している。

 魔法使いと傭兵に距離があるが……。先に魔法使いを無力化するべきか。

 

 剣を抜く。防具は身につけていないが、元から要らない。ローブを亜空間から引き出して、体を包み込む。オマケに闇魔法で輪郭を誤魔化す。

 これこそが、この状況での最適な装備。

 

「『雷を』!」

 

 上空から雷魔法を放つ。地上付近で拡散して、複数の敵を巻き込んだ。

 

「『撃つ』!」

 

 剣を媒介に、弾が高速で放たれる。

 銃と違って発射自体は無音だが、その弾が空気を切る音だけは十分に聞こえる。

 

「“敵襲だ! 空から攻撃されてるぞ!”」

 

 傭兵が銃を構えて上空を狙い始めた。攻撃を受けた魔法使いは、死んでいるか雷魔法で怯んでいる。

 

 星の見えない夜空を背にしている状況では、この黒いローブを見つけるのは難しい。

 銃による破裂音だけが上空に届く。このままここに滞空していれば───

 

「───!」

「?!」

 

「……?」

 

 傭兵の奴らが大声で何かを言い始めた。破裂音に紛れて聞こえなかったのだが。

 私の方に向かれていた注意は外され、代わりに建物の間の小さな道へ一斉に銃を向けた。

 

 あそこに誰かが居るのか? ……って! 

 

「ハルカ?!」

 




時間がないか、自分の書く物語に自信が持てないか、書く手段を失ったか。
書けない時は、大抵この三つに該当する。

そして今回は、全ての要素が詰まっていた。
自由な時間は減り、展開に頭を悩ませ、そしてPCに触れる機会すらなくなった。
スマホでの執筆が今後主になるだろうが、スマホ用の外付けキーボードを購入したから、手段については問題ない。

以上、近況報告でした。
次回から盛り上がると思う……?

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