ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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こんにちは。VRMMOであるにも関わらず、MMOのテンプレート的要素を大いに無視している私です。


52-ウチのキャラクターと俺の銃撃戦

「くっ……!」

 

「ソウヤ!」

 

 銃声の直後に、右肩と背中に凄まじい力が叩きつけられる。同時に足元の二箇所で小さく土煙が跳ねる。

 痛覚もなく、ダメージを受けたという感覚。被弾したと理解した俺は、その場に倒れ込む様にして伏せつつ、体力回復のポーションの入っているポーチに左手を伸ばす。

 視界が赤く滲み、右手には力が入らない、部位ダメージによって動きに支障が出るようだ。

 

「『壁を』! 皆、遮蔽物の後ろに隠れて!」

 

「敵座標確認、パーティミニマップに反映。攻撃を開始します」

 

 ポーションを一息に飲み干すと、右腕が思い通りに動くようになる。

 弓矢を構え、先程ケイが作った壁の後ろに張り付く。他の3人も同じ様に壁の後ろに隠れ、エミータだけは敵に向けて発砲していた。

 エミータが何処からか取り出した銃は、所謂オートマチックと呼ばれる種類の拳銃。リボルバーと比べると連射がしやすい物だったと記憶しているが。

 

 ああ、この世界は一体何時からファンタジーからガンアクションに衣替えしたんだ? ここの運営は一体何を考えているんだ?!

 

「ソウヤ、大丈夫?!」

 

「ああ、問題無く回復した。敵の位置は?」

 

 この世界の事実上の神に恨みを寄せているのを止めて、ケイに問いかける。

 たった今、その横でエミータが射撃を止めて、壁に身を隠した。その瞬間に銃声と弾丸が壁に打ち付けられる音が聞こえる。

 

「分からない。音からして遠くから撃ってるみたいだけど……。エミータ、人数は?」

 

「現在確認している敵対存在は、人間が4人です。全員が銃火器により武装している事が確定しています。そして、先程の私の射撃で1人が負傷したのを確認しました」

 

「少なくとも4人。1人負傷、そして全員銃持ち……」

 

「野盗が銃を使ってくるなんテ……、不公平だヨ~!」

 

 アンドロイド作ってるお前のセリフじゃないと思うのだが。

 しかし、攻撃されるまで存在に気付けなかったとは……。

 

「……気配は感じなかったのか?」

 

「魔力の気配は殆ど……銃を使う奴らは魔力を持たないみたい。だから気付かなかった……ごめん」

 

「別に良い。距離も遠いしな」

 

 さて、ファンタジーらしからぬ銃撃戦が始まった。状況を確認しなければ。

 

 レーダーを確認する。地形までは表示されないから正確な位置は分からないが、とりあえず遠くの位置で横一列で並んでいるのはわかった。

 

「一応車を守っておいてくれ。足がないと困る」

 

「言われなくともやるよ。『守れ』」

 

 ケイが短く詠唱して、向こうからゴロゴロという物音がする。壁に隠れているままじゃ見えないが、確かに壁で車を守ったのだろう。

 

 さあ、どうしようか。

 俺は戦術家でもなんでもない、取り敢えず物陰に隠れておくぐらいしか、銃に対する対処法を知らない。

 

「ケイ、弓は届くか?」

 

「これは無理」

 

 それじゃあ今回も俺はお役御免になるらしい。矢を矢筒に戻す。

 

 そうだ、銃という武器を使っていれば弾切れを何時か起こすはずだ。その隙を狙って行動するべきだと思うが……。

 

「提案、ワタシの飛行能力を使用した、上空からの奇襲。」

 

 するとエミータがらしい戦術を提案した。

 そういえば、このアンドロイドは空を飛べるのだ。聞こえだけは中々な攻撃だと思うのだが。

 

「エミータ、飛行中に被弾したら落ちちゃうヨ」

 

「飛行中に被弾する確率は低いです」

 

「……ダメ」

 

「了解、この場からの反撃を続行します」

 

 主人であるメチャちゃんくん、この作戦を気に召さなかったらしい。確かに、体1つで銃弾に晒されつつ空を飛ぶにはリスクがある。

 

 さて、ケイはこれからどうする? さっきは偉そうに指示をしたが、別に俺が戦闘を指揮しているわけではない。彼女の事は無論信用しているし、俺への指示にだって従うつもりだが……。

 

【―――】

 

 ふと敵の銃声が止んで、その隙を狙ってエミータが銃で反撃する。

 ……いや、エミータだけではなく、ケイも行動に出た。剣を盾に変形させつつ、壁から身体を出していた。

 

「『ハイ・エクスプローシブ・シェル』!」

 

 珍しく魔法の名前を詠唱したケイの眼の前に、腕数本分の太さと腕1本分の長さを持つ弾丸のようなものが現れ、そして放たれる。

 どうやら、この壁を使いつつ敵と撃ち合う事を選んだようだ。流石に距離を詰めるにも遠いし、転移を使わないとなればこうするだろう。

 

「……すごい。やっぱりケイねえって、魔法使いとしてすごく熟練してるんだネ」

 

 ああ、確かにすごい。

 彼女の世界の魔法を操る時、簡単な単語だけで操ったりしてしまう事が多いが、そんな事ができるのは一握りの魔法使いだけだと、彼女から聞いたことがある。

 

『言ってた通りだろう?』

 

「この状況で筆談するソウヤにいも相当なものだけどネ……」

 

『弓も届かないような遠距離戦だ。俺の仕事は支援と自分の身を守ることしかない』

 

 まあ銃も怖いっちゃあ怖いが、それを言うとケイの魔法だってヤバイ。何がヤバイって、俺の身体を一瞬で蒸発させるぐらいは簡単に出来てしまうぐらいヤバイ。

 ……ソレに比べて俺はと言えば、弓の射程外だと精々が弾除けぐらいである。コレではただのカカシだ。

 

「魔法の着弾を確認。至近弾ですが、殺傷効果は認められず」

 

「じゃあもう1回、『ハイ・エクスプローシブ・シェル』!」

 

「……有効な効果を確認しました。敵対存在の内1人の死亡を確認。付近に居た1人がパニック状態になっています」

 

「よし!」

 

 おい待て、”よし”じゃない。さすがに詠唱時間が短くないか? 

 

「凄いネ……」

 

 凄いというより、反則だと俺は思う。

 この世界にとっての反則と言えば、普通の人は銃やチート行為を連想するはずだが、俺ならばそこにケイを付け加える事だろう。

 きっと彼女なら、現代の軍にだって一騎当千を果たしてしまう。

 

「馬の足音を確認、推定数6体。騎兵による攻撃の可能性があると判断します」

 

「私が対処する。向きは?」

 

「方位292を中心に進行中です」

 

「分かりづらい! 『盛り上がれ』!」

 

 エミータの報告を分かりづらいの一言で受け流すと、ケイが地面に剣を突き立て、詠唱する。

 その言葉はライブの観客等に訴える類の意味では無く、ただ物理的な効果を求めるものだった。

 

「……先程使用した魔法の説明を求めます」

 

「前々から思ってたけどその喋り方慣れないなあ! ただここを中心にして、円状に地面を弄っただけだよ」

 

 ここからは見えないが、つまりは馬では走破出来ない起伏を生み出して対処したようだ。

 

「……了解。丁度、落馬或いは馬を止めたと思わしき音を確認しました」

 

 それも効果的だったらしい……。

 馬と関わりの少ない現代人には出来ない発想だ。

 

「はあ、ったく……。奇襲して、そして馬を使った追撃か。でもこれで敵は馬から降りる筈。……メチャちゃん、今からその車で突破する」

 

「え?! でも、お弁当が……」

 

 メチャちゃんくんが、さっきまで食事をしていた机の方を見る。

 弁当はまだ残っている。このまま逃げればアレを置いていく形になるだろう。

 

「乗るまでの間は壁で保護する。発進した後は目眩ましをするけど、気にしないで直進して!」

 

「ううう……。分かっタ」

 

「いい子だ。……じゃあ行くぞ、『守れ』!」

 

 ケイの魔法により、ここから車までの道の両端に壁が出来る。

 

「さあ走れ走れ!」

 

 それを合図に、全員が今まで遮蔽物に使っていた壁から飛び出して、そこへ走る。

 ケイによって作られた幾つもの壁が、この場所がまるでちょっとした要塞であるかのように演出していた。

 

「入れ!」

 

 ドアを開き、次々と入っていく。エミータとメチャちゃんが前方に、俺とケイが後方に座った所で、車のエンジンが始動する。

 車が特別大きな音を立てて、車が急激に加速していく中、ケイはドアを閉めずにそこから身を乗り出していた。

 

 一体何をするのかと思って見守っていると、ケイが手を前に掲げ、そして詠唱する。

 

「『水よ』、そして『炎よ』!」

 

 文字にしてたった2文字の言葉を二組、ケイが唱える。すると大きな滝がこの場に現れたのかと思わせる程の水が現れ、次に放たれたドラゴンのブレスが如き炎がその水を熱する。

 地面に広がる前にその液体の殆どが蒸発し、間もなくあたり一帯が霧も包まれた。

 

「『風よ、霧を留めろ』!」

 

 勿論車はその中に突入している。前も横も見えないような状況だが、ケイの指示通り車は直進している。

 馬への対処として弄った地面を乗り越えたのか、大きな揺れがガタンと襲ってくる。

 

「うっ……!」

 

「ケイ!」

 

「大丈夫、振り落とされそうになっただけ……! メチャちゃん、できる限り速く、真っ直ぐに!」

 

「分かってるし、もうフルスロットルなノ!」

 

 ケイが開きっぱなしにしているドアから蒸気が入り込んでくる。それと同じ様に、後ろから撃ってきているであろう銃声もが新鮮に聞こえてくる。

 

「おい、身を隠さなくて大丈夫なのか?!」

 

「当たっても大丈夫!」

 

「急所にでも当たったらどうする!」

 

 確かに俺は2発受けてもポーションで対処できたが、もし急所にでも当たれば一大事だ。

 俺はケイに死んでほしくない。車の中へ身を隠すようにしつこく言う。

 

「だから速く隠れろって!」

 

「ああもう、分かったって! 『壁を』!」

 

 ダメ押しにケイに言いつけた所で、ようやくケイの方が折れる。妥協案のつもりなのか、後方に壁を生み出してからドアを閉めた。

 ケイがシートにどっしりと座り込むと、大きくため息をつく。

 

「自分が撃たれても良くて、私が撃たれそうになると止めるわけ?」

 

「偶然俺がなんとかなっただけかもしれないじゃないか!」

 

「2つも弾が当たって、無事で、それが偶然だって? それで何とかなるなら遠距離の一発ぐらいかすり傷も同然じゃないの?!」

 

「どうしてそう言い切れる!」

 

「疑問、ケイさんとソウヤさんは」

「遠距離武器は遠くなるほど威力が落ちるのは当然でしょ! それとも銃は例外なの?」

 

「それは……! ……そうだが」

 

 銃弾は、その距離に応じて減速するものだった筈だ。ケイの言うことは間違いじゃない。

 俺は黙り込んで、ケイから目線を逸らす。

 

 ……声を荒げてしまった。ケイにしか聞こえない声だから、他人には俺の感情など寸とも伝わっていないかもしれないが。

 

「はぁっ……。それに、私は奴らの馬を潰してた。こうして対処しないと後々に追いつかれる可能性があるの。……この乗り物は速いから、その可能性ってのも低いけどね」

 

 ケイも感情が昂ぶっていたのを自覚したのか、一度息を吐いてから、落ち着いた言葉で述べた。

 別に彼女は、無意味に後方の敵へ攻撃していたわけじゃないのだ。

 

 

「……疑問、ケイさんとソウヤさんは口頭で会話しているように見えますが、ケイさんはソウヤさんとの筆談を必要としないのでしょうか」

 

「……え?」

 

 その時に、ようやく俺たちは気づく。

 ここまであからさまな口喧嘩をしてしまえば、俺らのコミュニケーション手段について疑問を持たれる事は避けられない。

 律儀に沈黙を待ってから提示された質問に、初めてその事を認識した。

 

「はぁ……その件に関しては、落ち着いてからで良い?」

 

「了解。場合によっては今後の協調性の向上が見込めるため、早めの情報提供を要求します」

 

 言わば保留である。

 ケイが質問を返した所で、彼女の目が俺をじっと睨んでいることを見逃さなかった。

 

 ……分かった、これの大半は俺が原因だと認めよう。

 

「……怖かっタ……。色んな意味デ」

 

 その一方で、ハンドルを握っていたメチャちゃんくんは冷や汗を流していた。

 

 

 

 

 移動を続け、気候にも若干の変化が見られる程の距離を行く俺たち。

 半端に終わった昼食は荷物と一緒に置かれている食料で補いつつ、草、土、石の上を車で走っていった。

 

 日が暮れる頃には俺もケイも落ち着きを取り戻した。

 

「それじゃあ、自前に話していた通り、この辺りで休憩するヨ」

 

「了解っと。ソウヤ、寝てないよね?」

 

「起きてる」

 

「良かった。ピクリとも動かないから居眠りを始めたのかと」

 

 まあ、こうして話をする程度には落ち着いている。

 因みに、本当の所は居眠りしていた。……減速を始めた頃には意識が戻ってきたのだが。

 表情も変わらないこの人形の事だから、自律人形が眠った所でただの人形に戻るだけだ。

 

「えーっと、それじゃあボクは……あっ」

 

「ん、どうかしたのかな?」

 

「あー……、野営ってどうすル?」

 

「はい?」

 

 

 ……どうやら、このメチャちゃんくんは野外で夜を過ごす方法を知らないらしい。

 

 ケイが幾つか質問してみれば、どうもこの子は車内で寝泊まりしていたとのこと。

 確かにこの車は金属で作られているから、そこらのボロ屋よりも寝心地が良いだろう。

 

 しかしそうすると、俺たち2人の寝るスペースがない。

 運転席は倒れる背もたれという立派な物が備わっており、元より荷物によって制限された後部座席のスペースはベッドの一部分と化ける。残る助手席では、後の3人を詰め込むには余りにも不十分だ。

 

 そうなれば、少なくなくとも2人は外に追いやられてしまう事になる。

 

「……で、センタル王都に行く時はエミータとメチャくんだけだったから問題なくて、それで気付かなかったワケだね」

 

「うん……。あ、ボクはメチャちゃんだよ?」

 

「いやそれ紛らわしいし。なんなの、男の子なのにメチャちゃんって」

 

「むーっ」

 

 まあ、そういう理由があったのなら意識から外れてしまうのも仕方ない。

 それにしても、今の問答で気になった事が一つだけあるのだが。

 

『どうして帰りの時だけ護衛を?』

 

「最近戦争とかドラゴンとか、色々物騒だかラ……」

 

 ああ……。

 

「とにかく、私達の寝床は元々私達がやるつもりだから心配しないで。メチャくんは何時も通りにしてて良いよ」

 

「だからメチャちゃんだっテ! ……でもボクだけで良いノ?」

 

「それじゃあ、折角の快適な寝床を空にしておくつもり? 子供のキミが使いなさい。正直エミータが見張りやってくれるだけで助かるし。確か睡眠しなくても平気なんだってね?」

 

「はい。マスターが睡眠中の間は、基本的に車の上で索敵しています」

 

 意外と大胆な場所でやるんだな……。確かに高台なら視界もよく通るだろうが。

 

「それじゃあ、私達は見張りを交代しないで済むわけだ。それだけで十分だよ」

 

「うん……」

 

「よし。じゃあ私達は準備をしておくね」

 

 

 さて、寝床の準備と言ってもそれほど大したものではない。

 2人分の寝床というのは、布を地面に敷き、そしてブランケットを体に巻き付けるという、極めて簡易的な物である。雨は降りそうにないからテントは使わない。

 

 付け足すとすれば、快適な睡眠の為にケイが土魔法で地面を調整するぐらいか。

 それと、先程の襲撃の様な遠距離攻撃に備え、ある程度の高さの壁を構築している。頑張れば一軒家も建てられそうだが、そこまでする意味は感じられないから、壁までとのこと。

 

「燃料を持ってきたぞ……うわ、随分と様変わりしたな」

 

「ちょっと魔法を習えば、これぐらいキミでも出来るよ?」

 

 そうするにはステータスが足りない。必要なステータスを満たさないと、魔法を習得することは出来ないのだ。

 しかし、ケイが言っているのは”ケイの魔法”の事である。ステータスというシステムが介入しない可能性があるのなら、もしかしたら人形でも魔法が使えるかもしれない。

 

「それじゃあ、適当な時に頼む」

 

「ほれ来た、今夜は講義でもしようか。早いに越したことは無いってね」

 

「早速か……」

 

 思い立ったが吉日というヤツだろうか。そんな言葉があるにしても唐突である。

 

「先延ばしにして、使えないまま必要になっても困るからね。……よし、出来た」

 

「ああ。次は食料の調達だったか?」

 

「うん、適当に良さそうなのを狩ってくるよ」

 

「一応気をつけて」

 

 2日間とは言え、ずっと保存食なのは……いや、意外と困らない。

 この世界には魔法による冷蔵庫が存在するから、それなりに美味しい食料を旅中の備蓄として持ち出せはするのだが、やはり出来たての物には劣る。

 

 以前の依頼で、村で保存食類を貪った事を思い出す。食えない程不味いと言うワケではなかったのだが、あれは本当に硬い食事だった。

 あまり大きな贅沢は出来ない村だからか、冷蔵庫といった保存手段は少ないのだろう。しかも後に聞いた話では、ドラゴーナは基本的に噛む力も強いため、食事の硬さも気にならないらしい。

 だから、人間の食べるものは基本的にアレよりはマシだ。それに工夫次第では家庭の食卓と同等の食事が出来たりもする。ドラゴーナが悪食なだけだった。

 

 

 閑話休題。

 

 食料が十分にあるとしても、今後の為の経験として晩飯は現地調達と予め決めていた。今は狩りに向かう者と、調理の準備をする者と別れている。勿論狩りに行くのはケイだ。

 ……普通は男女逆なのだが、この場合ケイがイレギュラーなのが原因なだけだろう。彼女は元男なのだ。

 

 道具を持ち出したり火を付ける用意など、料理に必要な物を揃えていると、メチャちゃんくんがやってくる。

 

「本当にその場で料理するんだネ」

 

 その通りである。

 朝食と晩飯は寝泊まりの都合で一箇所に留まるから、時間の掛かる調理には丁度いいのだ。逆に昼飯は保存食で済ませる予定だ。

 

「一応美味しい物は積んであるんだけド……、カレーとか、クッキーとか、菓子パンとか。あ、飴もあるヨ」

 

 基本的に子供が好きそうな物が多い……。彼の中身の年齢は、ガワより2、30年は上だと思っていたのだが。

 

『旅の食事で好きな物って何だ?』

 

 お前は一体何歳なんだ? と紙に書いてしまいそうになるのを堪え、無難な話に留める。

 

「ボクは菓子パンだヨ! 運転中でも片手で楽に食べられるからネ」

 

 それは片手運転で道路交通法違反にならないだろうか……と思ったが、この子が運転する時点でとっくに手遅れなのを思い出す。

 この世界に馴染んでしまったら、現実の生活に支障が出てしまいそうだ。

 

『運転をエミータに任せなかったのか』

 

「うん、まだその機能をインストールしてなかったかラ」

 

 ふうん。何もすべてが機能が備わった状態で出来上がったわけじゃないのか。

 そう言えば戦闘型だと言っていたが、戦闘ではない別の役割として作られたアンドロイドも居るのかもしれない。

 

 作業の手を止めるのも程々にして、メモ帳の代わりに火付け道具を手に取る。

 火の魔結晶を使用した手軽な着火具を使うと、数秒で焚き火が出来上がる。ケイならこれぐらい素手でやってのけると思うと、自分の頼りなさを自覚してげんなりする。

 

 

「……ケイねえって、すごく強いよネ」

 

 ジワジワと炎が大きくなっていくのを見ていたメチャちゃんくんが、ふとそんな事を口にした。

 

 彼の言う通り、確かにケイが居ると楽だ。四次元ポケットで荷物の心配はしなくて良いし、転移で遠距離の移動は短時間で済む。

 元騎士であり尚且つ大魔法使いな経歴もあって、その戦闘力は強敵から俺を守ってくれる。

 

「あの人が居てくれたら、すっごく頼れるよネ。すっごく強いもん」

 

 確かに、ケイが居て助かった場面は何度もあった。

 

 俺が最初に彼女を頼ったときの記憶を振り返る。

 人形の姿に化けてしまった俺は、そのままの姿ではマトモに買い物することが出来ない。街へ入ることさえもだ。

 その時ケイは、その代わりに俺の身体を隠すローブを買って、戻ってきてくれた。文句たらたらではあったが。

 

 で、頼ったからにはその借りを返さなきゃいけないものなのだが……。

 

『俺は呆れるぐらい何度も頼ってる。こんな俺の事を指さして”楽している”と言われても、別に変じゃないぐらいだ』

 

 自虐的な言葉を書き上げて、失笑気味な笑みを()()()で浮かべつつ見せる。

 メチャちゃんくんが紙の方を見て、少し驚くような表情をすると、直ぐに別の方を向いて考え込み始めた。

 

 一体どうしたのだろうか。と俺は彼の顔を覗き込む。

 

「……別に、変じゃないよ。頼らないと大変だったんだよね? 『呪いで姿と声を奪われている』……だったっけ?」

 

 呪いで姿と声を奪われている……自己紹介の中にあった言葉だ。それがどうしたのだろう。

 

「最初はそういう”設定”なのかなって思ったけど……、本当は大変で、辛いんだよね」

 

『哀れむような物じゃない。今じゃ不都合は少ない』

 

「それは、あの人に頼ってるから……でしょ? 複雑な理由で頼ってるんだったら、”楽している”だなんて言えないよ。きっと、頼らないと辛くなって大変だから、頼るんだと思う。自分に出来ることを他の人に任せっきりにするのは、それは楽してるっていう事なんだと思う」

 

「……」

 

「だから、えっと……えへへっ、説教みたいになっちゃったネ! さっきのことは忘れテ! 何か間違ってるかもダシ!」

 

 ……子供相手に説教されるってのも貴重な経験だ。記憶喪失の実績がある俺でも、当分は忘れそうに無さそうだ。

 

『自覚した上での軽い自虐ネタだったから、真剣に説教しなくても良かったんだが』

 

「えぇっ、自虐ネタだったノ?! てっきり本気だと思っちゃっタ……」

 

 早とちりというやつだ。俺はくすりと笑って、十分に大きくなった炎の上にやかんを吊り下げ、水の魔結晶を使った便利な魔道具で水を注ぐ。

 乾燥地帯や高温の場所では直ぐに劣化するらしいが、ここではそんな事はないから、普通に便利グッズである。

 

『お前は何か飲むか?』

 

「あ、良いノ? じゃあココアの粉取ってくル! あと砂糖!」

 

 ……味覚は子供なのに、あんな大人気のある説教が出来るなんてな。

 まあ、そういう理由抜きで単に甘党なのかもしれないが。

 




『ハイ・エクスプローシブ・シェル』 属性 火・土
 HE弾。着弾と同時に爆発する。追加詠唱により弾速・爆発範囲、威力が上昇する。
 因みに、火と土属性を持つ魔法は、現代兵器をモチーフにしたものが多い。原因は俺の知識が偏っている為。許せ。

 ドラゴン戦でも似たようなもので、『崩壊せよ』というものがあったが、無論こちらはケイの世界の魔法。
 『ハイ・エクスプローシブ・シェル』が着弾と同時に爆発するのに対し、『崩壊せよ』は任意のタイミングで爆破できる。しかし、放った後にそのタイミングを変えることは出来ない。所謂、時限爆弾な槍。


『水よ』 『炎よ』
 ケイの魔法を行使する時、単純な制御のみで十分な場合はこの様な掛け声をする。本来はちゃんとした詠唱を行う。大体俳句の一句分ぐらい。
 たまにそうでなかったりするが、制御自体は脳内の演算やイメージで行うから要はなんでも良い。言葉はあくまで補完である。


こういった解説は多分今回だけ。
魔法に関する想像力が欲しい。創造力とも言う。

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