ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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中身が薄い


04-ウチのキャラクターの出発準備

「レイナ」

 

「はいっ……!」

 

「何でこんなことをしたの? 管理人さんに協力してもらってまで…」

 

 極めて優しく、トゲの無いような言葉を選んで語りかける。

 この問いの後、暗い部屋の中二人の沈黙が暫く続く。トゲのない言葉を選んだはずが、レイナは俺から只ならぬ気配を感じ取ったようだ。

 

「そんなに相部屋が良かったの?」

 

 レイちゃんが静かな動揺に身を竦める。多少の悪気はあったらしい。

 

 因みにだけど、俺は別に怒ってなど居ない。これっぽっちも。

 ただ、純粋に同じ部屋で泊まろとうと計画を立てた理由が聞きたいだけだ。だが、これが尋問じみた光景だと言われれば、俺はすぐさま”違う”と返す。

 

「……その、怒ってま」

 

「全然?」

 

「え、あの、その……はい」

 

 何で怖がるんだろう。俺はただ笑顔を向けているだけなんだけど。

 まあ、少し緊張した空気なのは分かる。

 

 どうやって問い詰めようかと考えるが、ふと考えを改める。

 俺、あるいは私だって悪戯は割りと好きだ。先程の少年の件もある。だから問い詰める権利はないように思える。

 

「まあ、悪戯好きの私が言うことじゃないか」

 

「……はい?」

 

「さっきさ、防具を売ってた男の子と話してたんだけど、ちょっと悪戯したら怒って帰って行っちゃったんだよ」

 

 半笑いでその事を語る。もしこの話題に題名を付けるならば、”少年と胸の悪戯”と名付けられるであろう。如何わしいなオイ。

 話を聞いたレイちゃんは、重い空気が抜けていったことを感じた様で、少し笑みを見せながら言う。

 

「悪戯って……また”可愛いって言ってくれたもんね!”とか言っちゃったんですか?」

 

「ううん、そうじゃなくて、防具の胸周りのサイズが合わなかったから、その事でちょっとね」

 

 うん、あの時の俺は痴女と呼ばれても可笑しくなかった。ただ初心な少年を弄っていただけなんだがな。

なんて思っていると、今度はレイナがピキリと固まった。視線をある一点から外さずに。

 

「胸……?」

 

「うん、胸だけど…」

 

「……胸ですか」

 

 そう言って、レイちゃんは自身の体を見下ろす。その行動の意味を、数秒もせずに理解した。

 その身体の特徴を言及する意義は無いが、敢えて言えば…日和山である。

 

「はあ……。やっぱりゲームの中ぐらいは”持つもの”になりたかったです」

 

 けれど、今の私は”持たざるもの”…。と何処か詩的に言うと、勝手に気を落ち込ませ始めた。

 やはりこの子は胸にコンプレックスを抱いているらしい。

 

 今の俺はケイであるが、これにどう反応すべきか迷う。と言うより、対処法を知らない。

 

「う、うん」

 

「……そういえば、それって無修正ですか?」

 

()()?」

 

「それです。その()です」

 

 恨むような目で俺の胸部を見る。

 特段と大きいわけじゃないし、別に日和山ってるわけでもない。高校生の平均ぐらいの大きさだ。多分。

 うん、女子高校生のバストの平均とか調べたことある筈がない。知る筈もない。だから”多分”だ。

 

「そう言われても……修正って何?」

 

「知らないんですか?! 普通は最初のキャラクタークリエイトでしか自由に姿を改変できないんですけど、課金すると何度でも自由に修正できる権利が買えるんですよ!」

 

 怒りっぽい口調で熱心に訴えかけられる。

 課金すると、この姿も改めて変えられるらしい、初耳だ。しかしそれなら、なぜレイナは胸のサイズを最初から……水増し?サバ読み?しなかったのだろう。

 

「私、そんな事も知らずにリアルの身体をそのままキャラクターにしちゃったんです!」

 

嘆くように。むしろ絶望しているかと思うほど悲しそうに、しかし力強く言い放った。

 

「は、はあ」

 

「……改めて訊きますけど、それって無修正ですか?」

 

な、なんと言うべきだろうか。リアルから流用している訳じゃないから、どちらかと言えば“修正”寄りだろうが……。

 

「ええっと、無修正、かな?」

 

「……つまり、本物」

 

「いや……えっと、レイちゃん?その手のアレは何?」

 

「本物……」

 

 あの、 その両手をワキワキしないで近寄らないでください。

 ちょっと目が怖いです。

 

「ちょ、ちょっと。やめ」

 

『警告:迷惑行為(性的)』

 

「……む」

 

「た、助かった…!」

 

 私の彼女の間に一つのメッセージウィンドウが現れた。

 ココに居る二人がそのウィンドウを見ることが出来た様で、彼女は両手を下ろして項垂れた。

 

「うー、持つ者の触り心地を少しでも知りたかったです……」

 

「それは……えっと、もうちょっと仲が良くなってからね?」

 

 なっても触るのを許すわけじゃないけど。

 というか、助かった。システムが警告してくれなければ、私の貞操は大変なことになっていたかもしれない。

 

「ていうか、女の子同士だから良いじゃないですか!」

 

 いえ、良くないです。特に”俺”が。

 …とは言えない。言えるのはココロの中だけである。代わりに愛想笑いでもしてみようか。

 

「あはは……」

 

 乾き笑いになった。

 

 

 

 

 

 その後は驚くほど何もなく……と言うより、一度の警告で大分自重したようで、お互い大人しく一夜を過ごした。

 一つしか無いベッドはレイちゃんに譲り、俺の方は布団で眠った。これに彼女は難儀を示したが、とりあえず押し切った。

 

 布団はどこから持ってきたのかというと、いつの間にか部屋の前に置かれていた、多分管理人さんの気配りだろう。

 あの『宿代はいちおくYです』が無ければ、俺の中での管理人さんへの評価はうなぎ登りだったろうに。

 

 朝日が窓から差し込んでいる中、俺はレイちゃんと話しながら、剣を手入れしていた。

 ゲームの中だから意味があるのかは分からないし、初心者指導書にそういうことが書かれているワケでもない。

 

 意味があるのかは分からないまま手入れを終えると、立ち上がって装備を身につけた。

 

「今から行きますか?」

 

「うん。あんまり人が多いのは苦手だからさ」

 

 これから行こうとするのは、防具のお買い物である。早朝に買い物に行く人なんてのは少ないだろう、という考えで、今から出かける支度をしている。

 

「人が苦手なんですか?」

 

「ごちゃごちゃしたのが苦手、なのかな」

 

 例えば満員電車、アレが苦手だ。逆に苦手じゃないのは、満席のレストランや食店とかだ。

 人様が乱雑にゴッチャゴッチャしている場所が、俺のウィークポイントらしい。

 

「あ、朝食はあのテーブルの並んでる所で取れますよ」

 

「わかった。それじゃ行こ」

 

 そう言って、俺は扉を開いて先に出る。

 扉を開きっぱなしにして、レイちゃんが付いてくるのを待つと、前の方から少年が歩み寄ってきた。

 彼も朝食を取りに出てきたのだろうか、だなんて思っていながらその顔を見る。

 

 ……あれ?

 

「あ」

「あ」

 

「…? あ、トーヤさん、お早うございます!」

 

 後から来たレイちゃんが、俺を見つめる彼に構わず挨拶をかました。

 レイちゃんは彼と知り合っているようだが、俺ともお互い顔を覚えている縁である。

 

 まずは謝ろうか、なんて事を考えていると、少年はバシっと俺を指差した。

 

「ち、ち、痴女!」

 

「いや痴女じゃないって! あの時は悪かったかr」

 

「なにが悪かっただ! この痴女!」

 

「に、二度も言うこと無いじゃん…!」

 

「知らんわい!」

 

 唐突に口喧嘩が始まった。

 謝ろうとしている俺と、遠慮なく悪口をふっかける彼では、俺が防戦一方の口喧嘩が続くだろう。

 

「ちょ、ちょっと! 何があったんですか?」

 

 だが、第三者の介入によってそれは中断された。

 

「っく……!」

 

「落ち着いてよ! あの時の事は本当に謝るから!」

 

「っ…はぁ。わかったよ」

 

 そう言うと、彼は俺に向けていた悪意とか敵意とか諸々を収めた。

 あの一件の事だけで、こんなに敵視するとは思わなかった。

 

「……ゴメンなさい」

 

「良いよ、もう大丈夫だ」

 

「な、仲直りしましたか?」

 

「…もう大丈夫だ」

 

 少年、たしかレイちゃんが”トーヤ”と呼んだが、彼が素っ気ない態度で質問を返す。

 さっき、レイちゃんが彼の名前を出してから思っていたが、やはりこの二人は知り合いだったようだ。

 そして言うまでもないだろうが、トーヤはこの宿屋の住民の一人だったようだ。

 

「お前ら知り合いだったのか。というかさっき同じ部屋から出てきたよな」

 

「はい、お友達です!」

 

「通常一般の友達は、同じ部屋で寝るもんじゃないが…」

 

「ちょっとだけ合宿気分で楽しかったですよ? 少しだけゴタゴタがありましたけど」

 

「うん、ゴタゴタ、ね」

 

 確かにそうだった、と一人納得しているが、対してトーヤなる少年は納得しかねているようだ。

 

「まあ良いが…。そういや昨晩、レイナさんの名前で危険人物の通知が来たぞ」

 

 が、何か気になることがあるのか、改めて俺らに質問を振ってきた。

 

 危険人物の通知?

 しかもレイちゃんの名前で、という事は、あの警告メッセージの様にその件の事が周辺の人に伝わっているのだろうか。

 

「お前らは当事者だからわからないだろうが、僕のところにそういうのが来たぞ。多分管理人も気づいてる」

 

「え、そ、そうなんですか?」

 

「そうだ」

 

 ……え、待って。管理人さんもプレイヤーだったの?通知が届いているって言うことはそういう事?

 

「…バッチリ届いている筈だ」

 

「あ、あの、ケっちゃん、私どんな顔して食堂に行けば良いんでしょう」

 

「え、ああ、まあ……普通の顔してご飯を食べてれば良いと思うよ」

 

「そんなの出来ませんよ!」

 

 とは言っても、あまり大事には至ってないのだから、わざわざ朝食時に事情を話すのは双方にとって面倒なものだろう。

 

「まあ、せめて管理人さんには事情を話したほうが良いかな」

 

「……なあ、そっちで何があったんだ? 痴女のお前ならまだしも、レイナさんが警告されるなんて」

 

「ちょっと」

 

 いや、確かに痴女の件は俺のせいかもだけど、引っ張ること無いじゃないか。

 

「ええと、女の子同士の話をしていた、ということじゃダメですか?」

 

「…ああ、もう良い。男の僕が聞くべきことじゃないって事が分かった」

 

「あ、そうですか、助かります」

 

「…先行く」

 

 話は終わりだと言わんばかりに階段を降りていくが、俺とレイちゃんはその後ろをついていく。

 

「……何故ついてくる」

 

「私たちも朝食を取るところだったの」

 

「そうか、……なんか締まらん」

 

 後半部分を、ギリギリ聞こえないぐらいの声量で少年が呟く。

 仕方ないじゃん。

 

 

「ああ、そうだ。お前」

 

 階段を下り終え、どこかの席に座ろうかと思っていると、少年ことトーヤにまた話しかけられる。

 

「食事が終わったら、ココで待ってくれ。……昨日の商談の続きだ」

 

「え?」

 

「また後で」

 

 また素っ気ない態度で言うと、遠くの席に座っていった。

 

「……?」

 

 商談の続きってなんだろうと、疑問を覚えているが、別に良いかと、思考を破棄する。

 何処に座ろうかと見回していると、ふとレイちゃんが私に声をかける。

 

「私、管理人さんに昨晩の事を話してきますね」

 

「あ、そういえばその事伝えるんだったね」

 

「はい、それじゃ、少しだけ待ってください」

 

 そう言ってレイちゃんも続けてこの場から立ち去った。

 

 すこし見渡すと、十数人ぐらいの人数が居る食堂の中、誰も座っていない机の所の椅子に座った。

 

 

「……メニューが無い」

 

 さて、席に付いたのは良いのだが、机には何もない。壁にメニュー表があるわけでもないし、どうやって料理を頼むのだろう。ウェイトレスも見当たらないが。

 俺は何かしら知っているであろうレイちゃんに問いかけたい所だったが、彼女は管理人さんの所で、事情を話している最中だ。

 

 そう思っていると、当の彼女が早速戻って来た。ピンチに駆けつけてくる英雄の如きタイミングだ。

 

「もう終わったの?」

 

「いえ、面倒くさいから別に話さなくて良いって、話す前に返されてしまいました」

 

「…あ、そうなの」

 

「はい」

 

 一応、管理人としての責務を果たしてもらいたいと、見知らぬ人物へそう望む所だったのだが……。まあ、その人の判断に口を挟む気はない。ならば放置で決まりだ。

 

「それと、戻ってきて早速で悪いけど、これってメニューを頼むのはどうするの?」

 

「あ、メニューですか? それは皆同じものが出されるので、必要ないですよ」

 

 要するに、小学生で言う給食と呼ばれるものに似た感じだろうか。

 

「レストランみたいに注文を受けてから作ると、どうしても遅れるらしいです」

 

「へえ」

 

 しばらく待つと、向こう側から沢山の皿を載せたワゴンを押す人がやって来た。

 宿屋で働いている人だろうか、それにしてはやけに重武装である。むしろ騎士なんじゃないか。

 

「それと、言い忘れましたけど、料理してくれる人は宿に泊まっている人から当番で回してるんですよ」

 

「え、当番? 宿に止まっている人から?」

 

「はい。お陰で他の宿より宿代が安いんです!」

 

 まあ、そんなに大きな差でも無いんですけどね、と補足するレイちゃんだが、俺はその変則的な宿ルールに驚きを隠せないでいる。

 要するに料理はセルフサービスと言うことだろうか。それも、他の人の分も作れと来た。

 セルフサービスにも程がある。

 

 という事は、あの全身アーマーはこの宿の住民だということだろう。

 そう考えると、あの格好から醸し出る違和感が、不思議と解消されていった。

 

「あ、因みに料理が出来ない人の時は、代わりの人がやったり、管理人さんが作ったりしてくれてますよ」

 

「そ、そうなの」

 

 そんな事言われても、変なルールなのは変わりないんだが。

 周囲を見ていると、客であるはずの人が、一人で配膳しようとしている人を手助けしている。

 数人がかりでの配膳は、その人数に比例して早く完了した。

 

 宿の客が料理を手伝ってるという話は、この光景を見たことでかなりの現実味を帯びたものとなった。

 

 

 因みにこの朝食の献立は、ハム、チーズ、キャベツのサンドウィッチと、目玉焼きだった。

 

 

 

 

「ご馳走様です!」

「ご馳走様」

 

 料理を食べ終えると、食事の終わりの挨拶をする。

 

「ケっちゃん、確かトーヤさんから何か言われてましたよね?」

 

「うん、ココで待っててだって」

 

 確か商談の続きだとか言っていたが、財布の用意でもすれば良いのだろうか。

 

「それって、私も待ってて良いんでしょうか?」

 

「別に良いと思うよ」

 

 そう俺は返して、彼が来るまでどう待とうか考えている。

 が、その必要は無かったようで、すぐにやってきた。

 

「待たせたか」

 

「いや、というかそれって…」

 

 戻ってきた彼が持っていたのは、何処か見覚えのある、しかし形状が記憶と合致しない防具だった。

 

「ああ、お前が買おうとしてた防具だ」

 

 とは言うが、昨日見たものとは形状が違う。

 胸を護る部分が、多少ふくらんでいるようだが。

 

「あ、もしかして昨晩話してたアレのことですか?」

 

 レイちゃんの言う”アレ”と言うと”変態痴女事件”のことだろう。

 その問いに対して頷くと、立ち上がってその防具を受け取った。

 

「これ…、やっぱり調整されてる。まさか君がやってくれたの?」

 

「僕以外のだれがやるんだ」

 

 実際に触ってみれば、修正された跡が残っているのが分かった。

 やはり、これは昨日買おうとしていた防具だ。

 

「……ありがと」

 

「あ、ああ」

 

 目を逸らして返される。

 結局、彼はサイズを見ただけで判断して作ってくれたようだ。

 

「確か2300だよね?」

 

「ああ、あと調整の手数料も付けて、合計2500Yだ」

 

「2500……っと、コレで良いかな」

 

 財布から三枚の紙幣を取り出して、それらを渡した。

 

「…ああ、お釣りの500Yだ。お買い上げどうも」

 

「うん、ありがと」

 

 釣り銭をもらいつつ、俺は貰った防具を弄っている。

 

「……サイズはどうだ?」

 

「うん、大丈夫だよ。でもどうしたの? 買うって約束してなかったけど」

 

「それは…、女性向けの防具を作るのも経験だと思っただけだ」

 

「そう? そういえば、1割増しの話は」

 

「あれはナシだ! 良いから黙って貰ってけ!」

 

 あ、怒って階段を駆け登ってった……。

 ドタバタと、階段の段を蹴り破ってしまいそうな勢いだった。

 

「な、なんか怒っていましたけど……大丈夫ですか?」

 

  その様子を一通り見届けたレイちゃんは、彼の勢いに若干引きながら、俺に確認を取ってきた。

 

「いや、別に大丈夫だけど」

 

「そうですか、良かったです…。それ、トーヤさんから買ったんですか?」

 

「うん、買った。今朝のお買い物は中止かな」

 

 目的の防具はすでに手に入ったからな。

 

「ということは…」

 

 そうだ、新しい防具はこの時点で入手できたし、件の採集に同行することが出来るだろう。ようやく。

 

「うん、待ちかねたかな?」

 

「い、いいえ! 全然待ってません!」

 

 うん、そのセリフはもっと別の所で使うべきだが、その言葉を聞けてよかった。

 

「それじゃ、今から行く? 薬の素材採集」

 

「はいっ!」




レイナの胸も薄い。
あ、投稿は書き終えて一度見直しをして直ぐに行っています。書き溜めとかしてません。

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