ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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31-ウチのキャラクターと俺のイベント終了

「ふぃー、歩きづめの後に横たわるベッドは別格だねえ」

 

「……そうか」

 

「宿屋を何件も何件も回って、野宿を検討し始めた所で、よう!やく!この部屋を勝ち取ったんだよ!本ッ、当に疲れた!」

 

「……そうか」

 

「ソウヤも疲れたんじゃないの?そっちにもベッドあるんだから休みなよ」

 

 部屋に入って右側のベッドに横たわりながら、反対側のベッドを指して言われる。

 まあ、確かに疲れたが……。

 

「いや、な」

 

「……何?」

 

「……夫婦扱いされた事は何とも思ってなごッ」

 

 あ、アイアンクローで口が……。

 

()とそんなに付き合いたいか?ん?正直言って非常に嫌な思いをしているんだがな」

 

 いや、わざわざ(前世の)口調にしなくたって、これ以上ぶり返すつもりはない。しかも女声のままだから中途半端だし……。

 身振りで降参を表すと、怒気はすぐに収まった。豹変とも言える様子だったが、後腐れもなく呆気なく元の調子に戻った。さっきの様子は冗談半分だったのだろう。無論、もう半分は本気なのだろうが。

 ……そういえば、ケイの男口調を聞くのは初めてだな。

 

「……お互い忘れよっか?」

 

「……そうしよう」

 

 ……さて、俺ら、ソウヤとケイがなんの話をしているのかと言えば、話せばそう長くもない事だ。

 戦争から逃れ、入った街の門で一悶着ありながらも、その後苦労して宿を確保。その時に……、

 

「悪いけど、開いてるのは二人部屋だけなんだ。……だけど、君たちは見た所”良い仲”なんだろ?かえって丁度いいだろ。はい、鍵」

 

 と言われ、この宿の家主はいい笑顔で手を振った。

 一方、ケイは手を振るおうとした。グーで。

 

 うん、一応止めたが、代わりに俺に向けて手を振るわれることになった。いや、今のは俺が悪かったけどさ。

 

 

 とりあえず、今までずっと動かしっぱなしだった足を休めるため、ケイの反対側の方にあるベッドに腰を掛けた。

 

「ふうっ」

 

 腰を下ろした反動と一緒に、疲れを息にして吐き出した。

 そのため息で下に向いた目線を、ケイの方に向けてみる。

 

「……」

 

 ケイは、何もないところを見つめていた。

 なにか考え事をしているのだろうか、意識は殆ど思考に割かれている様子だった。

 

「……エルの事、思い出したのか?」

 

「?」

 

「あんな話の後だから、そう思ったんだが……。いや、なんでもない」

 

「……んー、別にいいよ。流石は”異世界の私”と言ったところかな。その予想は正解だよ」

 

 異世界の……そういえば、ケイは以前に俺の事をそう言い表していた事を思い出した。

 すると、彼女は何かを懐かしむ表情で、ゆっくり話を始めた。

 

「休日に、エルのところへ会いに行ったんだ。そしたら、村の子供達が「ラブラブだー!」とか言っちゃってさ」

 

「それって……、初対面から何時ぐらいの事だった?」

 

「3日。たまたま休みだったんだ」

 

「そうか」

 

「その日は、他の村人にもからかわれながらも、エルに村を案内してもらったり……」

 

「……」

 

 ゆっくりと、ケイは思い出話を続ける。

 

 エルに花の冠を被せられた時、あまりの似合わなさに笑われたこと。

 エルの作った食事が、お店のものより大したことのない出来なのに、今じゃもう一度味わいたいと願っていると。

 いつもケイが髪型をポニーテールにしているのは、それがエルのお気に入りの髪型だからと。

 その髪型がお気に入りになったのは、ある日その髪型を一度褒めたしまったのが理由だと。

 

 ケイは、話し続けた。

 虚空を、記憶を見つめながら、その中身を読み聞かせてくれた。時折見せる優しい笑顔は、どこか寂しそうに見えた。

 

「……懐かしいな。どうしても、忘れられない」

 

「……そうか」

 

 俺にも、ケイみたいに思いを馳せるような思い出が()()()のだろうか……?

 

 

 

 

【ピロピロン】

 

「……?」

 

 メールの通知音に、俺は無意識にメニュー画面を呼び出した。

 

「レイナか」

 

 選択して、内容を表示させる。

 レイナは、先程送られた助けを求めるメールとは違い、緊迫感の無い内容だった。

 

『件名:無題』

『先程見つけた一人部屋しかなかった宿ですけど、無事寝床を確保することができました。譲っていただきありがとうございます。あの後、宿は見つかりましたか?

 もし、まだ見つかってなかったら私も宿探しの手伝いをしますよ。私が部屋で休んでいる間、ケっちゃん達はまだ探し続けていると思うと、すこし申し訳なくて……』

 

 メールの画面から視線を外し、ケイの方を見ると、彼女もまた同じ内容のメールを読んでいた。

 このメールは彼女宛である筈なのだが、しかし俺にも一緒に届いてしまっている。

 

 明らかなバグ。だがそれ以前に、俺自身がバグだ。あるいはケイ自身が。

 

「ねえ、これって、どうすれば良いのかな」

 

「返信出来るはずだ。ほら、そこのボタン」

 

「……うわ、なにこれ」

 

 出現したキーボードを目にして、ケイは目を見開く。

 この”画面”同様に、ケイの居た世界では見られないような産物である。

 

「チョコレート?」

 

「なわけがあるか。キーボードってヤツだ。メールの文章を書くのに使う」

 

「書く?」

 

「そう。……君なら、かな入力の方が良いかな」

 

「ああ、これ?」

 

「そうそれ」

 

 ケイが、大量のキーの中に紛れた”かな入力”と書かれたものを、早くも見つけて入力する。

 もしかしたら、この独特なキー配置にもじきに慣れるかもしれない。

 

「そうそう、漢字を書くときは……」

 

 ケイの言語は、俺が使っているものと全く同じものだ。

 もしケイの言葉が異世界語だったり人工言語だったりすれば、俺とケイはどうなっていたのだろう。

 お互いの言語を教え合いながら、一緒に過ごしていたのだろうか。

 

 そんな事をぼんやりと考えながら、基礎を掴んだケイが文章を書くのを眺める。

 

 しばらくの間、この空間には俺たちの姿と、ピコピコといったキーボードの電子音だけがあった。

 

 

 

 

 しばらくの間、この戦場には地鳴りのような爆音と、一瞬の紅い閃光が連続していた。

 

「」

 

 複数の大岩……もはや隕石の様にも見えるそれが何処からともなく飛来し、途中で無数に分裂しつつ敵陣のど真ん中に落ちていった。

 一つ一つの隕石が着弾するごとに爆発し、それが大量に分裂していたものだから、爆発音がもはや繋がって聞こえる。

 

 そんな光景を目の当たりにした僕は……いや、僕だけに限らず、この戦場に居る全員が絶句。驚きを隠せずにいた。

 

 いや、よく見ると一部の手練が構わず戦闘を続行していた。しかし敵の過半数……あるいはほぼ全員もが恐怖に陥っていたからか、戦闘を続ける少人数は善戦していた。

 

「……ふう、清々したわ」

 

 この状況の主犯格……管理人さんが満足げに言う。

 

「流石に連発は難しいわね。アイアン、ポーションを寄越しなさい」

 

「む、むう……いや、待ってくれ」

 

【ピロロン】

 

 通知音……クエストの内容が更新された様だ。

 まさかこのまま終戦というか、イベントが終わるんだろうか。いや流石に続くか……?と思いながらも、詳細を開く。

 

 

『状況の変化により、D-EV「火薬と鉄の傭兵と、魔法と杖の魔法使い」の詳細が更新されました』

 

『・概要

 

 王都ミッド・センタルは、その強大な力でもって謎の敵勢力を退けた。

 前線の敵は戦意を喪失し、逃げ始めている。

 戦場が静寂に返るのは時間の問題だろう。だがその前に、敵の砲台を破壊しなければならない。

 突撃し、雑兵を蹴散らし、そして平穏を勝ち取るのだ。』

 

 

 ああ、これはもうイベントも締めくくりにかかっている。終戦を望んでいた僕からすれば喜ぶべきことなのだろうが、流石に喜ぶどころじゃない。

 とりあえずどうしようか、という意を込めて、アイアンの方を見る。

 

「……前進しようか」

 

「やっぱりそうするしか?」

 

「ない、な」

 

 迷うように言葉を絞り出す様子のアイアンだが、それ以外にも選択肢がないように思えた。

 仕方ない、アイアンの後をついていこう。

 

「何よ、その顔は」

 

「なんでもないぞ、シェール殿」

 

「……まあ、良いわ。それじゃあ敵をもっと苦しませるとしましょう。私の家を奪った罰よ」

 

 ……敵の砲撃が管理人の宿屋を破壊したのが、この惨事のトリガーだったように思える。

 因果応報、とはこのことだろう。

 

 宿屋に籠もっていた頃と比べて饒舌にな管理人を眺めながら、そしてあっけなく終わったしまったイベントと、このイベントを用意したであろう運営に申し訳なく思う。

 でもやっぱり罪悪感としてはちっぽけな物だったので、開き直って前進することにした。

 

 

 その後、アイアンと共に行動し、敵の砲台を破壊する所まで来た。

 既に幾つかの砲台が破壊されていたが、残りの砲台を管理人が吹き飛ばしてしまった。その砲台を守っていた様子の敵魔法使いも、その魔法に巻き込まれて消えていった。

 

 完全に「向かうところ敵なし」だ。

 僕が急いで加勢しなくとも、管理人さえ居ればどうにでもなったのではないか……と思ってしまうほどだ。

 いや、実際の所、そうだったんだろう。

 

「『マジックグレネード』、『ウィンドハンマー』」

 

 1つ目の魔法で球体を生み出し、それを中に放ると2つ目の魔法でそれを飛ばした。

 その球体は砲台の元まで飛んでいき……ドン、と爆発。ズガガーンと誘爆が連鎖する。そして黒焦げた地面だけが残る。

 

 ……今までほとんどの時間を街中ですごしていたから、魔法使いの戦闘の様子を見る機会なんて滅多に無かった。

 だが、そんな僕でも分かる。

 

「規格外……だよな?」

 

「少なくとも、私が知る限りでは彼女と肩を並べる実力者は知らないな」

 

 やはり、そうらしい。

 遠くの方で敵と交戦しているパーティを見ても、そこに居る魔法使いは管理人ほどの火力を発揮していない。

 管理人が強すぎるのか、他の魔法使いが弱いのか。どう考えても前者が正解であった。

 

「……これで最後かしら?」

 

「見る限りではな。砲撃もめっきり見かけなくなった」

 

「そう……」

 

 管理人が、アイアンの返事に相槌をうって……それっきり、また黙ってしまった。

 ただ、彼女は破壊の跡に視線を向けている。何かを考えているのか、ぼうっとしている様子だ。

 

「さて、戦力は大方潰したが。新たな戦力が攻め立ててくる可能性に備えるべきだろうか」

 

【ピロピロン】

 

『D-EV「火薬と鉄の傭兵と、魔法と杖の魔法使い」をクリアしました。

 お疲れ様です』

 

『・概要

 

 王都、ミッド・センタルは勝利を収めた。

 損害は決して小さいとは言えなく、戦争が終わった後も復興で忙しくなるだろう。

 だが、王都が滅ぶという最悪の事態だけは避けられた。

 

 尚、この戦争に貢献した冒険者には報酬が贈られる。』

 

 

「ふむ、心配は無用だったらしい」

 

「みたいだ。お疲れ様……、ってまだ敵が居るけど?」

 

 攻撃を恐れて隠れていたのか、起伏や木陰といった物陰から敵が数人ほど出てくる。

 だがよく見ると、彼らは両手を挙げ、中には白旗を掲げる者もいた。

 ああ、降参ということか。

 

「なるほど、降参か。必死の抗戦を望むよりは、といったとこ――」

 

「殺す」

 

「待て待て待て!シェール殿!ストップ!ステイ!」

 

 彼らを目にした途端に敵意を剥き出しにし始めた管理人に、アイアンはどうにか止めようとする。

 ……しかし、管理人の殺意は一向に収まらない。

 

「”や、やめろ。殺さないでくれ!僕は金で雇われただけだ!”」

 

「雇われとか、そんなの関係ないのよ!”死になさい!”」

 

「止してくれ!」

 

「離して!貴方ごと燃やすわよ!」

 

「無機物が燃えるものか!」

 

 こ、混沌だ……。って、さっき管理人何て言った?

 聞き取れなかったが、外国語か?

 

「管理人って、英語話せるのか?」

 

 ――未だ暴れる彼女に向けた問いは、目の前で怯えている敵にしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 その後、結局管理人が力負けして、怒りは収まった。

 アイアンは大人しくなった敵を拘束し、一足先に街へ戻ると言い残して、敵と一緒に去っていった。その後も、管理人はずっと立ち尽くしていた。

 迷いの末、僕は管理人の様子を見ることにした。

 

 そんなわけで暫く様子を見ていたが……気のせいだろうか、管理人から感じられるピリピリとしたオーラが、僕の背筋を撫でて震え上がらせる。

 チラっと管理人の顔を覗くと、凄まじい形相で見つめ返されるから、僕は思わずビクりとしてしまう。かろうじて目線を外さなかったのは奇跡と言えよう。

 

「あー……その、だな?」

 

「……何よ」

 

「家、というか宿屋が壊されたのは、残念だったよな。僕の部屋も、多分潰れてるんだろ?」

 

「そうね。運が良ければ塵が残ってるでしょうけど」

 

 それはもう何も残っていないと言い換えられないだろうか。

 心の中だけで反論すると、管理人はこれ見よがしに大きく溜息を付いた。

 

 怒りは収まっていないが、落ち着いてはいるらしい。それでも恐ろしいオーラが未だに溢れているんだが。

 

「……なんでおこってるの?」

 

「ん、誰?この声は」

 

「ネイビーか」

 

 戦闘が終わったからか、怯える様子もなく、しかも大胆にも管理人の方へ飛んでいった。

 管理人が不思議そうにそれを見つめていると、ネイビーが放つ光がフードの中を照らした。

 

「そういえば、転職するって言ってたわよね。もしかしてこれって」

 

「精霊使いになる時に契約……と言えるのかな、アレは。とにかく、この子がネイビー。水属性の精霊だ」

 

「ねー、なんでおこってるの?」

 

「……私、騒がしい子供は苦手なのだけど」

 

 まあ、子供扱いもわからないではない。

 この精霊と会話していると、まるで幼稚園児の弟を持った気分になる。いや、末っ子だから分からないが。

 

「ちょ、ちょっと、引っ付かないで」

 

「へんなおねーさん」

 

 しかし、なんというか。精霊を前にして、怒りはめっきりと収まった気がする。

 代わりに、うっとおしいと言いながら精霊から距離をとったり詰められたりしている。

 

「……」

 

「……!」

 

 と思ったら恨むように睨まれた。さっさと引き剥がせというメッセージだろう。怖い。

 

「え、えっと……。ネイビー、こっちおいで」

 

 そう言うと、ネイビーがこっちの胸元まで浮かんでくる。

 それを受け止めると、開放された管理人が溜息を付く。

 

「はあ……何やってるんだろ。もう帰りましょう」

 

「そ、そだね」

 

 毒気を抜かれたといった感じで、王都の方へトボトボと歩いていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「”おい”」

 

「”クソッ、誰だ!……お前は、まさか?!”」

 

「”ほう、お前も知ってたか。そうさ、賞金狩りの……”」

 

「”『エイトリボルバー』……!”」

 

「”……本当、イカした二つ名だよな。最初に考えた奴の顔を拝みたいもんだ。いや、そしたら墓地を掘り返して探さなきゃならないな”」

 

「”フザケやがって!”」

 

 追われていた男が、ホルスターから銃を引き、そのまま相手に向けて撃とうとする。

 

「”おっと(Oops)!”」

 

 エイトリボルバーと呼ばれた賞金狩りの男は、体を捻って射線から躱し、直後に相手が持つ銃を手で弾いた。

 

「……!」

 

 その隙に賞金狩りの男が、腰のホルスターから銃を取り、即座に撃った。弾丸は敵の膝の関節を砕いた。

 

「”……特技を披露するまでもなかったな?”」

 

「”クソッ……!”」

 

 追われていた男は膝をついて、抵抗する素振りを一切見せなくなった。

 たった今手放された銃が、戦意を失った事の表れだ。

 

「”さて、日本じゃ、カイシャクする前にジセイの一句を詠ませるらしいな?”」

 

「”チッ……。こっちに『エイトリボルバー』が来ていたのが、運の尽きだったのかもな”」

 

「”そうか”」

 

 すると、一発の銃声が鳴り、その後に人が倒れる音が続く。

 男は死体を一瞥した後、硝煙を吐く銃口に息を吹きかけてから銃を仕舞った。

 

「”さて、残党はこれで全部……だと良いがな。そろそろ帰るとするか。朝までに帰らないと、お姫様のご機嫌が悪くなってしまう”」

 

 もう喋ることのできない男に言い聞かせるように、彼は月を見上げながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

『敵勢力の捕虜獲得により、新たな情報を入手しました(情報レベル+40)』

 

『情報レベル:100

 お、俺の雇い主の情報なら幾らでも話す!だから死刑だけはよしてくれ!こ、鉱山送り?ああ、そっちの方がマシだ……。

 ああ、雇い主か?パープ魔導国とやらを自称したギャングだよ。話を持ちかけられる前は存在すら疑わしかったが、まさかマジの魔法使いがいるなんてな……。魔法でここに連れてこられるまで、夢でも見ているのかと思ってたさ。

 武器?この銃がそんなに珍しいか?こっちの”大陸”じゃオーソドックスな殺し道具だよ。……そっちの魔法も大概だろ。銃弾の代わりに火の玉が飛び交うとか、下手なジョークより笑えるぜ。~捕虜の傭兵~』




”「ウチのキャラクターと俺の」・「~~~」”の組み合わせだが、今回のに関しては明らかに前後の流れが繋がってないなと我思ふ

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