「フム……よしこんなもんか。ほれ出来たぞ、メリー号つったか。この船で無事な箇所で新しい船に使えそうな部分をリストアップしといたぞ」
「ああ悪いなフランキー、手間な事させちまって」
「何良いって事よ、にしてもお兄ちゃんおめぇこの船に豪く執着して他が良いのかい」
メリー号の各所を点検し終えたフランキーは手伝いをしていたウソップへとリストを書いた紙を渡しながら思わず聞いてみた。覚悟を決め彼らなりに決めた事なのだろうが一番ショックを受けていたウソップがそれを容認したのはかなり意外だったように思えた、彼が一番この船をまるで人間のように扱っているかのように感じたからだ。
「確かに嫌、だけどよ……俺の我侭で皆に迷惑を掛けちまう……。それにメリーだって自分の事で一味に揉め事が起きちまうなんていやだと思うからよ」
「成程な。おめぇなりに心にケジメ付けたって事か、長っ鼻おめえ思った以上に男じゃねえか」
「あったり前だ、って長っ鼻って言うな!!!!」
ウソップのツッコミを受けつつも再度メリー号の甲板をさすったフランキーは改めてこの船が愛されている事を思いながら先程話をしたロビンへと少しだけ視線を向ける。ロビンは冷静を装うとしているが何処か不安そうな感情を浮き彫りにさせている、それだけの内容を言ってしまったのは確かだがそれでも彼女は確りとそれを受け止めていた。ならばこれ以上何も言う事もない、言いたかった事と聞きたかった事は全て終えた。
「んじゃ俺は帰るぜ」
「おうありがとうなフランキー!」
「気にすんな。それとよ、近日中にアクアラグナっつう馬鹿でかい大波がこの島にやってくる」
「アクア、ラグナ……?」
アクアラグナとはウォーターセブンに一年に一度襲い掛かる高潮の事である、毎年押し寄せる凄まじい高潮で家屋の浸水や建物の水没が当たり前のように発生する水害。現在の街並みはその高潮によって沈んでしまっている家屋の上に建てられた街並みだという。その宣告を受けたナミは確かに風が強くなりながらも気圧が低下している事に気付き船を移動させる事を決める。その為一味は街の宿に宿泊したが結局まだレウスからの連絡もなく、彼の子電伝虫への連絡も通じる事もなかった……。
「おーいレウス~どこに行ったんだ~!?」
「船長さんそんな大声を出したら恥ずかしがって出て来ないんじゃないかしら?」
「んっそっか?」
「ルフィ、レウスなら俺が臭いで探すぞ!」
流石に心配になって来たルフィ達は手分けをして彼を探す事となった、ルフィはロビン、チョッパーと共に街中を歩きながらレウスの捜索を開始する。彼の事だから大丈夫だと思うが流石に心配になってくるという物、自由行動という事にしながら皆でそれぞれ散りながら探す事となった。
「あいつ何処行ったんだよ本当に、迷子かぁ~?」
「ゾロなら兎も角レウスがなるかなぁ」
「多分ならないと思うわ、剣士さんと違って確りしてるし」
「ハハハッそりゃそうだ!!あっおいチョッパー水水肉だ!!レウスの分も買って行こうぜー!」
「おおっ良いなー!ロビンの分も買ってくるからな!!」
「ええっじゃあここで待ってるからね」
水水肉の売り場へと駆けて行く二人を見送ったロビンは静かに思考の海に意識を沈めた。昨日のレウスの台詞、もう自分は狙われないという言葉が非常に引っ掛かっている。自分を狙っていると言えば世界政府しかあり得ないがその政府が自分を狙わなくなるというのはもう考えられない、しかし
―――連中はもっとやばい物に標的を定め、そのために動き出そうとしている。
それが一体何なのか全く分からなかったが自分に話を聞きたいと言ってきた男、フランキーが訪ねてきた言葉がずっと引っ掛かっている。
『何かのスケッチ?』
『ああ、俺もその時ちらっと見ただけなんだがありゃ間違いなく何かの機動兵器のスケッチだった。如何言葉にしたら良いのかわからなかったが漸くハッキリした、ありゃ竜だ』
『竜……』
竜のような兵器、それに心当たりがないかと言われれば一つだけあった、それは嘗てよく通っていた研究所にあった酷く古びていた一冊の本に一ページだけ残されていた奇妙な記録。世界を滅ぼす邪龍を打ち滅ぼす為に作られたという禁断の兵器の存在、それは竜に模して作られたとだけ書いてあったがもしやそれを狙っているという事になるのだろうか。しかしあるかも分からないそれを政府が狙うのだろうか。
―――あるかどうかも分からないがそれでもリターンは計れないような代物だ、お前さんが抱えてるもんよりも、な。
だがそれが最も強い説得力を保持している、だとしたらそれを探す事を条件にレウスは自分への狙いを政府へ打ち切らせたという事になるのだろうか。だとしたらなんて事をするんだろうか、そんな事をしたら一生政府の手の内に収められたまま自由なんてない事になるのに。
「ニコ・ロビン、CP9だ」
「っ!?」
思考の海からその一言は自分を一気に引き上げる引き金となった、自分の背後の壁の近くに声からして男が仮面を被っているフードで身体を隠しながら自分に向けて声を発した。CP9という言葉を聞いて身体が硬直した、サイファーポール、それは世界政府直下の諜報機関であり政府からの指令を受けて影で動く組織。自分の事に気付いた上で声を掛けてきている。
「……」
「大人しくついて来て頂きたい、ニコ・ロビン」
「彼の話じゃもう私は狙われないって話だそうだけど」
「賞金首を捕まえるのに理由が必要か」
「―――ああ、必要だなクソ豹。俺との契約はどうなった」
そのフードの男の首へと背後から腕が伸びて鷲掴みにする影があった、フードの男は全く苦しげな様子など見せようとしないが溜息を付きながら後ろへと振り向いた。
「……貴様は時間まで待機の予定だろう」
「特例で出して貰った、お前の事が気がかりでな……このまま首、へし折られたいか」
「……ふんまあ良いだろう」
首から手を離された男はそのまま空高く跳躍するとそのまま建物の上を疾走していきそのまま姿を消して行った。ロビンは咄嗟に壁へと目をやると丁度死角になっているような所にフードを被りながら仮面を付けていたレウスを見つけた。
「貴方…まさか本当に……!?」
「……ああっ。ちょっとした契約をな……きっともう大丈夫だろ、ルフィ達と一緒に居ればきっと。それと好い加減名前で呼んでやれよ、喜ぶぜ」
「貴方は如何するつもりなの!?」
「……さあな、じゃあな。ルフィ達にはまだ、言わないでくれよ」
そのままレウスは地面を蹴って先程の男と同じように建物の上を走りぬけて去って行ってしまった、追った方が良いのではないかと思ったが直ぐにルフィとチョッパーが戻って来たが彼の言葉通りに口を閉ざしてしまった。
「ねぇ船長」
「何だロビン?」
「皆の事、名前で呼んでも怒らないかしら……?」
不安そうに聞くロビンに対してそれを聞いたルフィは嬉しそうに笑った。
「怒るわけねぇだろ俺達は仲間だぞ」
「そうだぞ俺はロビンにチョッパーって呼んでもらった方が嬉しいぞ!」
「それじゃあ、今度からそうさせてもらっても、良いかしら」
「ああそうしてくれ!!」
笑顔でそう言うルフィに釣られた笑ったロビンはチョッパーに手を引かれてそのまま街中を進んでいく、彼の言う通り皆ならきっと大丈夫なのだろうという不思議な確信と暖かさがある。それに満足していた。
が、その日最悪の出来事が起こるのであった。
「さあレウス様、行きましょう―――私たちの明るく愛しい未来へ♡」
「……ああ、分かった」