ONEPIECE 空の王者が海を征す   作:魔女っ子アルト姫

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空の王者、黒炎を纏う

噛み砕かれた丸薬、身体の中に入ったと同時に身体に訪れる変化を把握する。アラバスタでも経験した体が熱くなり全身が燃えているかのような感覚。だがあの時と違い苦しみは無く、確りと意識があるという事をレウス自身が認識していた。自らの意思を保つという考えすら不要、完全なランブルボール。チョッパーに感謝の念を抱きつつ、その力を行使し眼前の敵を打ち果たすという意思を持つ。

 

「ぁぁぁっっっ……!!!グオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」

 

人獣形態へ自然となってしまったレウスだが違和感などなく、ある意味自分の意思でなったのだと感じていた。竜という存在を人の身に映したかのような人獣型、竜の鎧を纏った戦士にも見えるがランブルボールを使った影響かその姿も変貌していた。影を取り込んだように見える程に深みを増した赤い甲殻、そして二周りほど巨大となった身体を持ったそれは最早通常のリオレウスではない。それを凌駕する力を得た存在と化した。漲り迸る様な力に一種の興奮を覚えつつも、その矛先を目の前にいる古龍へと向けた。

 

「覚悟はいいよな、古龍。てめぇの角を圧し折ってやる」

 

ゆっくりと歩きだす空の王者。一歩一歩踏み出す度に地面から起こる音に違いを覚えつつも、どれだけ力が上がったのかを実感しながら竜頭を構えた。巨躯となった身体に釣り合うかのように巨大化した翼を広げつつ真っ直ぐ古龍へ敵意を向ける。怒りと闘志が入り混じった想いが瞬時にキリンにも伝わったのか、それに応えるように古龍は嘶きを上げた。

 

「行くぞっ!!」

 

嘶きが上がった瞬間に翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がるように跳躍し一気に加速した。空から降りてくる雷、古龍の意思によって操られるそれは真っ直ぐにレウスへと迫ったが、レウスはそれを完璧に回避した。本能が鳴らす警鐘を頼った回避ではなく感覚として雷が何処へと落ちるのかが解るような気がしていた。

 

自分でも何故理解出来るのか解らない。しかし、それでも構わない。目の前の古龍という圧倒的な脅威を倒す為の役に立つのならば、それくらいのことは関係ない。激しく移動を繰り返しながら雷を避け、敵へと迫って行く空の王者。キリンも先程とは違うという事を理解したのか、今度は自身へと雷を落としそのままレウスへと突っ込んで行った。雷を落とすばかりでは効果はないと判断したからか、その身に雷を纏いながら突撃した。

 

「竜頭打火!!」

 

対抗するように、本来なら打ち出す火球を竜頭内に留め、そのまま勢い良く振り被った。互いの身体が衝突し、その身体に雷と炎が炸裂した。雷とキリンの力が加わった一撃は興奮状態で無ければ容易く意識を奪い去るダメージをレウスへと与えていた。ランブルボールを使用していても雷が弱点である事に変わりはない。

 

「がああっ……!!おおおおおおおりゃぁぁぁ!!!」

 

体内を突き抜ける雷撃とキリン自身の力。それを受け苦しみの声を上げるが、負けてられるかと言う闘志が痛みを乗り越え、キリンの硬い外皮へと竜頭を捻じ込ませた。硬すぎる外皮を高熱化した竜頭で焼きながらそのまま一気に振り抜いた。先ほど自分を吹き飛ばしてくれた礼だといわんばかりの一撃、それを受けたキリンはそのまま遺跡へと突っ込んだ。

 

「ああああっっっ!!!喰らええええ!!!!」

 

吹き飛んで行くそれを視界の中心で捉えつつもレウスは更に強い興奮を覚えていた。相手を破壊したい、更に蹂躙したいという暴力的な欲望を搔き立てて行く。相手への配慮や同情などが消え去って行き、攻撃欲の塊へと変化していくのを理解しながらもそれを止める事無く受け止めた。暴力的で残虐な欲のままに殴り付けた竜頭を構えそこから溶岩を球状へと纏めたかのような火球を放った。放たれた火球はキリンが突っ込んだ遺跡ごと吹き飛ばす程の爆炎と爆発を巻き起こしながら天へ火柱を突き立てた。

 

―――ああ、あああっ気分が良い!!

 

自分へと雷を振り下ろし勝者のように優雅にしていたあの古龍を、自分の火球を容易く無力化した古龍を、今度こそ炎に包んでやった。その実感が更にレウスに凄まじい興奮と快感を与えていた。自分が自分らしくも無く凶暴で暴力的になっているのを冷静に受け止められているレウスは、それを異常だと解っていてもそこへ足を踏み入れ続けた。

 

「―――!!!!」

 

爆炎が上がり続けている元遺跡の一部へと連なった雷が落ちた。炎を引き裂くように爆炎を消し去り、その中から炎のカーテンをくぐるように姿を現した古龍。だが、その身体に刻まれた火傷と燃えている鬣が炎によるダメージが確実にあるということを物語っていた。

 

「―――!!!」

 

キリンの全身にバチバチとした雷のエネルギーが纏わり付いている。レウスの攻撃によって古龍としてのプライドを傷つけられたのか、キリンは一段と高い嘶きを上げると無茶苦茶に雷を落とし始めた。しかし無差別という訳ではないようで、レウスの動きを封じ退路を断つかのように落とされ続けている。

 

「キレたか、ドスケルビ!!どんどん怒りやがれ、俺はもっと頭に来てんだ!!」

 

だが、頭にきているはレウスとて同じ。仲間を傷つけられたという怒り。俺を倒したいなら俺の怒りを超えて見ろ!とそれを思い知らせるように咆哮した。キリンはその言葉に反応するように前足を上げ更に高い嘶きを上げる。その瞬間、周囲の空間がブゥンと揺れたような気がした。振り上げた角へと膨大な雷が一気に集約していき、それをレウスへ向け一気に振り下ろした。大地を抉り穿つかのような一撃は広範囲に雷を落とし、レウスは凄まじい雷の滝へと飲み込まれた。

 

「っっっ!!!!」

 

十数秒にも及ぶ落雷が終わった時、そこに立っていたレウスは黒焦げになり意識すらないのか、そのまま硬直していた。そのレウスに止めの一撃を加えんとキリンは雷によって筋肉を刺激し一気に加速した。その姿は掻き消え、瞬く間にレウスへと到達しその胸へと自らの角を突き刺した。鎧のような身体へと突き刺さった角。確かな手応えを感じたキリンだが、直ぐにおかしいと思い、次の瞬間不覚を取った事に気づいた。

 

「態々、近づいてくれるなんて……有難いなぁ……!!!」

 

あの雷を受けて尚この男はまだ生きている‼︎角は確かに身体へと突き刺さっているが雷で焼けてない甲殻の深部がそれを受け止め、九死に一生を得ていたのだ。しかも自分の身体へと腕を伸ばし、炎によって焼けて柔らかくなってしまっている部分へと食い込ませ逃がさぬようにしていた。

 

「マジでやばかったぜ…流石古龍だ、だけどな……俺はお前を超えていく、古龍という常識外れをな!!!」

 

この先自分達の旅を遮るように立ちはだかって来る強敵、それを乗り越える為には古龍だろうが撃ち倒し前に進む力を持たなければならない。大切な仲間を守る為に、もっと強くなる。その為にレウスは古龍を倒す。それこそが更なるステージへ進む為の第一歩。

 

「竜頭 黒炎正拳んんんんっっ!!!」

 

先程のブレスのように燃え滾っている竜頭、それを身動きが出来ないキリンの頭部の角目掛けて叩きこむ。キリンの最大な武器ともいえる強靭な蒼い角を圧し折りながら黒炎の一撃がキリンの頭部を焼き飛ばし、身体を焼き貫き、その背後にあった巨木をも燃やし尽くした。瞬時に燃えかすとなった樹を前に倒れこんだ古龍はそのまま動かなくなった。

 

「はぁはぁ……やった、あの古龍を……倒したんだ……!!!」

 

喜びの声を上げたと同時に意識が一気に遠のいていく。軽くなった身体が重力に引かれていくように地面へと崩れ落ち、その身体が元へと戻っていく。レウスもあの雷撃を受けた時点で限界だった、それに耐えながら放った最後の一撃。そして、古龍を倒したという安心感で、張りつめていたものが切れてしまった。

 

「やった、ぜ……この、野郎……」

 

そのままレウスは意識を手放し、泥のような暗闇に呑まれて行った。


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