ONEPIECE 空の王者が海を征す   作:魔女っ子アルト姫

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空の王者、神官と戦う

眼前に舞い降りてきた巨鳥の背に乗りながら此方を嘲うかのような笑みを浮かべている男は、槍で肩を何度も何度も叩きながら品定めをするかのように此方を見つめ続けている。巨鳥と同じく研磨され鍛えれた刀剣と等しい眼差しから放たれる殺気に僅かにビビは心を震わせたが、それは直ぐに消えていた。傍にはレウスがいる、という安心感と自分ももう守られるだけのお姫様では無いと言う自覚が打ち消していた。

 

「青海人……二人か、まあいいだろう。来ただけで上々。ようこそ、我が紐の試練へ……!!」

「紐の、試練……?」

「そうだ。このアッパーヤードにて裁かれる罪人が挑む試練、それが我ら神官が試練。ここは生存率3%の紐の試練……!!」

 

3%、僅か一桁の凄まじく低い可能性だがレウス自身は確かに低いが絶望やキツいと言う実感などはなかった。リオレウスから入手出来る最高峰の素材である〈火竜の天鱗〉は1~4%という確率で入手出来ていたのだからその程度の生存率なら問題ないと思えてしまう。

 

「3%ね……敵を倒す戦いなのに3%って可能性は与えすぎなんじゃねえか?」

「……そうですね、罠であるならもっと突き詰めて完璧を目指すべきですからね」

「フッフッフッ言ってくれるじゃないかお嬢さん……そう思うのならば掛かって来い!このゴッド・エネルに仕える神官、シュラが相手をしてやろう!!」

 

手首のスナップを聞かせ槍を回転させながら挑発するかのような態度を取るシュラ、余程自信があるようだ。

 

「試練ね……海賊にそんな物は関係ねえな、唯邪魔をする奴なら吹き飛ばすかぶちのめして前に進むだけだぜ」

「簡潔で良いですね!」

 

ビビは腰に付けていていた二つの筒のような物を手に持つとそれを連結させるかのようにする、それは瞬時に伸縮し長い棒のようになりつつも一部が外れ湾曲し弓となった。これこそ、ビビ専用の武器としてウソップとレウスが共同で開発した武器、穿竜器である。

 

「ほう……弓か」

「弦には孔雀(クジャッキー)の紐が使われてる、扱い易いはずだよ」

「はい、行きます!」

 

構えを取るレウスに合わせるように矢を抜き弓に当て引き絞っていく、通常の弓では考えられないほどに伸びていく弦にシュラは少し面白そうな物を見るかのようにニヤリと笑っていた。目の前のニヤついている男を狙うビビ、そして遂に矢を放った。

 

「はっバレバレな矢など誰が当るか!!」

 

バク転で回避しながら巨鳥に飛び乗ったシュラ、回避された矢は真っ直ぐと突っ切りながらそのまま大樹に直撃すると軽く炸裂するかのような音を立てながら着弾点が燃え上がった。

 

「なっ矢が燃えるのか!?」

「余所見は厳禁だぜ!!」

 

外れた矢が燃え上がったのは流石に予想外だったシュラは僅かに其方に気をとられている間に前方から迫ってきたレウスへの反応が遅れた。が、巨鳥、シュラの相棒でもあるフザが大きく声を上げながら大口を開けてレウスを迎え撃った。

 

「馬鹿め、フザが唯の鳥だと思っているのか!?」

「ッ!?」

「グアアアアアアア!!!!」

 

レウスも何かを感じ取ったが回避するには余りにも気づくに遅すぎた、フザの口内から感じる暖かいとは言えないほどに熱い空気の奔流。通常の生物が持って良い程の温度では無い、熱い空気が流れている。そして空気を燃やし尽くすかのように炎が鳥の口内から一気に吐き出された。

 

「火、火を吐いた!?普通鳥は火なんて吐けない筈!?」

「如何だ青海人、愚かな事をッ、い、否まだ!?」

 

炎に包まれたレウス、普通ならばフザが吐き出す炎によって焼け焦げている筈なのに奴は無事だと言うビジョンが見えた。迫って来るそれへと突き出した槍、確かな手応えと燃え上がる槍はレウスの体を焼いていく筈なのに奴は無事だと理解してしまっている。炎が晴れた時、そこには炎を衣のように羽織った男が、槍で肩を燃やされているにも関らず平気そうに此方の肩を掴んでいた。

 

「―――へぇ燃える槍か、面白いじゃねえか。だけどな、俺の身体を燃やし尽くすにはこの炎も、槍も、温過ぎるんだよ!!」

「がああっっ!?」

 

握り締められた肩はメキメキと骨が悲鳴を上げて行く、肩を掴んでいる腕を殴り付けるが並大抵の硬度では無い。振り解く所かこのままでは自分の肩は粉砕される、シュラはレウスの胸へと手をやった。

 

「これなら如何だ青海人!!―――衝撃(インパクト)!!」

「何を―――がっ!!?」

 

瞬間、シュラの手から放たれたのは衝撃波。唯手をやっただけで起こせるような物ではなく、巨大なハンマーで胸を殴られたかのような衝撃が身体を貫いた。シュラの方を掴んでいただけにシュラにもその衝撃は伝わっていたが覚悟の上だった。いきなりすぎる衝撃にレウスは手を緩めてしまいその隙にシュラは蹴りを入れつつ後退しフザの背に飛び乗った。

 

「はぁはぁ…奴めなんて力を……!!しかし俺も修行が足りんな、まさか炎を物ともしないとは……それで心綱(マントラ)が乱れてしまった……!!」

 

脱出には成功したがそれによって粉砕寸前だった肩にも大きな衝撃が加わり片方の肩が全く動かなくなってしまった。代償は大きい、だがそれでも奴に衝撃を当てる事は出来たと思ったがレウスは空中で数回回転するとそのままビビの傍へと着地し、酷く咽ていた。

 

「ゲホゲホ……何だ今の……!?奴の手から衝撃が……!?」

「大丈夫ですかレウスさん!?衝撃……掌で押した衝撃で攻撃を!?」

「否そう言う類では無いと思う……あいつは俺の胸に手を置いた、そして次の瞬間には衝撃が……!!」

 

防御を無視して相手に直接ダメージを与えられる衝撃を武器として使ってくる、かなりやっかいな手段を持っている事になる。レウスは荷物を降ろし身体を竜化させていき人獣形態へと移行する。

 

「貴様、動物系の能力者か……!!炎を物ともしないとは流石に驚いた……」

「へっ火を吐く鳥に乗ってる奴が良く言うぜ。さてと、第二ラウンドだ、援護頼むぜビビちゃん!」

「はい任せてください!」

 

素早く矢を番えそのまま放つビビ、そして自らの翼を羽ばたかせて猛進するレウス、フザに指示を出し上へと昇り始めるシュラ。放たれた矢とほぼ同速度で飛ぶレウスは上へと逃げていくシュラを見ると自分の横を飛んでいる矢を掴みそれを一気に上へと放り投げた。

 

「その程度このシュラが解らぬと思っているのか貴様!!」

「先読み的な能力があるようだなお前!俺がさっき、炎に包まれた時も先の風景が見えて居たかのように反応していた!」

「ならこれなら如何です!!」

 

フザの真下から迫って来る矢に加えて右下から迫って来る新たな矢、二方向から同時に迫って来る矢。

 

「フザ回避だ!!」

「グアアアア!!」

 

シュラの力、〈心綱〉によって見えたレウスとビビの行動。それによる回避や先読みじみた行動はフザに素早く指示を出せる、その言葉に従って回避する巨鳥だがその動作に入った瞬間にシュラは三度レウスの次の行動を見てしまった。

 

「なっまさか貴様っ……!?」

「はんっ!!」

 

回避、だがその移動先にそっと置かれるかのように放たれたレウスの火球。シュラは心綱によって敵の動きを先読み出来る、だがフザはそれをする事が出来ない。シュラが読み取った情報を命令としてフザに伝えるにはラグが生じてしまい伝達が間に合わなくなる。パートナーという存在が一方に付いて行けなくなってしまう、これがシュラが背負っている弱点。

 

シュラは思わずフザから飛び降りてしまった、攻撃を回避する為に相棒から跳躍した。その瞬間にしまった!と言わんばかりにフザを見つめたが、フザはそのまま不意打ちに近い火球を諸に受け口から炎を吐き出しながら墜落して行く。それを辛そうに見ながらレウスを睨み殺すかのように鋭い目で見つめた。

 

「貴様ぁぁぁっよくもフザを、我が相棒を!!!」

 

怒りを露にしたシュラは槍を構えながらレウス目掛け、その心臓に槍を突き刺さんと駆け出して行くが次第にその動きが鈍く、遅くなっていく。突き出した槍はレウスの眼前で停止しピクリとも動かなくってしまう。シュラは相棒を討たれた怒りに駆られ半ば忘れていた、この場がどのような場なのかを…。ここは自らの試練である紐の試練の場、試練の為に張り巡らせた仕掛けに自分が掛ってしまっていた。

 

「しまった、紐雲が……!!!」

「紐雲…?」

「レウスさんこれ見てください!」

 

ビビが空中の一部を指で触れているのが見える、何かを弾いているようにも見えるが良く見えない。だが目を凝らして見ると目に見えないほど細い、糸のような雲が張っているのが見えた。自分にもかなりの糸が掛かっているのに漸く気付いた。此処は紐の試練、目にも見ないほど細いが束になれば大人さえ動けなくなる〈紐雲〉が張られていたのが、リオレウスという竜の圧倒的なパワーを有しているレウスを縛るには余りにも少なすぎたようだ。

 

「驚いた……今矢を落としちゃったんですけど、矢が宙に浮くんですもん。何かと思ったら細い雲が」

「成程な……。さてとシュラとやら、覚悟はいいかな」

「グッくそ……!!フザの、仇を……!!!」

「ビビちゃん、あれをやって見てくれ。こいつなら失神ぐらいで止まるだろ」

「解りました」

 

慎重に紐雲を避けつつ近寄ったビビは弓を元の筒状に戻しつつも筒を弄り始めると筒が少々伸び持ち手のような部分が出現しそれを確りと握ったビビはそれを構えた。そう、ビビの武器はある時は弓、ある時はトンファーのようにも姿を変える二面性を兼ね備えた武器。

 

「さあ行きますよ……!!はぁぁぁっっっ!!!」

 

トンファーのように姿を変えた武器を構え、それをシュラの前に構えながら持ち手部分を操作していくと、弓の時のように本体が伸びていく。そして伸びきったそれをシュラへとぶつけると、伸びた部分が一気に戻り身体の内部へと衝撃波を放つかのように炸裂した。

 

「穿竜!!」

「……がぁっ……!!」

 

紐雲のせいで全く身動きの出来ないシュラはそれを喰らい血を吐き出した。鮮血が地面を染める光景を見つつ顔を上げて見れば、そこには相棒を打ち落とした男が竜頭を構えていた。

 

「貴様……!!貴様は俺が……!!」

「眠れよ」

 

竜頭が腹部に炸裂した、紐雲によって吹き飛ばされる事もなくその場に留まったシュラは相棒の仇を討つことも出来ずにやられる事を恥じつつ、フザに謝罪の念を抱きながらそのまま意識を喪失し槍を手放した。

 

「やりましたねレウスさん!ってあら……」

「あれま、やっぱりまだそっちは強度不足かな」

 

一部が壊れてしまった武器を見つつビビは舌を出しててへへと笑う。それを見つつレウスは自らの身体を燃やそうとした槍を拾い荷物を背負いながら、ビビの武器を軽くメンテしてから再び黄金探しを再開した。




穿竜器
ビビ専用武器

ウソップとレウスがビビの為に製作した専用武器。これからの航海に備えて製作した物で素材にはレウスの素材が大量に使用されている。
普段は二つの筒状だが連結させる事で弓、それぞれをトンファーとして使用する事が出来るように設計されている。

がまだ強度に難がありトンファーに使用可能な溜め攻撃を発動した場合、破損する事がある為まだ完成形とは言えない。

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