ONEPIECE 空の王者が海を征す   作:魔女っ子アルト姫

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空の王者と海賊王を目指す者の出会い

「―――な、ななななっ……」

 

開いた口が塞がらない。今の状況を的確に表現する言葉はこれ以外ない。本来の意味は"あまりにも呆れるとぽかんと口を開いた状態のまま一言も言葉を発しなくなることから"という事な為意味は異なる。呆れているのではなく驚きで口が塞がらないのだから。

 

「如何なぁあああてんだあああああああああああああ!!!!!!????」

 

喉が張り裂けんばかりに大声を発する。唯でさえ馬鹿デカい大声は物理的な衝撃を生み出しながら生き物が豊富にいる無人島に響き渡る、その声の主は水面に映り込んでいた自らの姿に驚愕していた。全身に真紅に輝く鱗は宝石のように光を放っている。酷く発達した筋肉は強靭で全てを叩き壊す鈍器を思わせる。そして左腕の先の手は異形の物、竜の頭部を思わせるようなものに変質していた。

 

 

 

―――目を覚ますとそこは森だった。ある日の事、俺は自動車学校の卒業試験を合格(パス)しウキウキ気分で送迎バスに乗車し、何の問題も無く家にたどり着くと、その旨を唯一の家族であるペットの犬に嬉しげに報告した。その後食事を共に取り、久しくかなり頭を使ったのでベッドに飛び込むように倒れ込み、眠りについた筈だった。

 

それなのに妙に肌寒く、身を丸くしながら布団を探すように腕を動かした。だが何時もは深々かぶっているふとんが見つからないことに疑問を覚え、瞳を開けて見つけようとしたら自分は、ジャングルの中にある泉の畔のような場所にポツンと横たわっていた。

 

『―――え……えっ?』

 

混乱し強く動揺した。自分の家という絶対的に安心出来る場に居た筈なのに自分はそこには居らず全く違う森の中に居たのだから。混乱しながらヨロヨロと立ち上がり周囲を見つめた。これはきっと夢なんだと思った、きっとそうだと願うように決め込んだ。だが…覚束無い足取りだったからか足を滑らせて泉へと身を落とした。

 

『ゴボバッ!?』

 

入ってくる水、苦しくなっていく呼吸。全てがリアルに感じられる、これは夢ではない現実だと世界が教えてくれるように思えて来た。もがきながら泉から這い出て水を吐き出し置かれている現実を理解していく。自分が家から何処かの島に転移のようなことをしている事を認めざるを得なかった……。そして不意に目についた果物、自分が横たわっていた場所のすぐそばに無造作に置かれていたその果物。

 

『……とりあえず食ってみようか……?何か、気分が変わるかも……しれんしな』

 

その果物は見れば見るほど派手な物だった、刺々しく皮の一枚一枚が鱗のように見える。それを剥いで中身を割ってみた、中身は胡麻のような種子が散らばっていて、果肉は触ってみるとやわらかく食べれそうだった。縋るようにそれに噛り付いた。

 

『っっっっ!!!?!?!?!?!?』

 

口に含んだ瞬間に身体を貫いてくるのは酷い物だった。渋み、苦味、酸味、辛さ、それも耐え難いほどに凄まじい物、そして止めと言わんばかりの恐ろしいまでのえぐみ。思わずそれを吐き出そうとするよりも早く自分は泉に顔を突っ込み思いっきり水を飲み続けた。幾ら水を喉に流し込んで消える事のない不快な味、何故吐き出さなかったのかと後悔の念を抱きつつ唯々飲み続ける。

 

そして15分ほど経っただろうか、漸く口の中の不快感が消えた所で顔を上げ一息を付く。呼吸をするのも忘れて無我夢中で水を飲み続けて居た為かかなりの満腹感に襲われているが不快感に口の中に支配をされているより遥かにマシだ。呼吸を整えながらもう一度果実を見た。

 

『……いやもう食いたくないけど……勿体ないよなぁ……』

 

世の中にはとんでもない味の果物があると思いつつも口の中にまたあの不快感が沸いて来たのでそれを洗い流す為にうがいでもしようと泉に顔を近づけた時だった。自分の変化に気づいたのは……。そして冒頭へと戻る。

 

 

「な、なぁなぁんんあああああ!!!!??」

 

身体の異常な変化に驚愕しつつ思わず後退りしてしまった、いつの間にか自分は化け物のような物になってしまっている、それが恐ろしくて堪らなかった。もうこれは自分の物ではない、何か違う物だと認識しそれを必死に外そうと地面に叩きつけた時、地割れが起きた。

 

「………はっ?」

 

地面を走った罅割れは酷く深かった。先程まで地割れなど全くなかった、ならばどうしてこんなものが?自分が、やったのか……?と呆然となる。自分に此処までの力などない、っというか人間がここまでの力を生身で持つとか不可能な筈だ。思わず左手の竜の頭部のような物をしげしげと見つめる……。

 

「何か、どっかで見た事が………」

 

そうこの腕の何かは見た事があると思った、凶悪な面構えに猛々しく荒々しい。身体を覆っている鱗も見ようによっては鎧のようにも見えた。真紅の鎧、そして竜……。

 

「ぁぁぁああああああああああ!!!!!これ、リオレウスじゃねええかぁぁあああああああ!!!!???」

 

そう、彼は自らの身が何に変化しているのかを理解した。自分が狩猟ゲーム、"モンスターハンター"に登場する飛竜、火竜リオレウスと化している事に。そして後に彼は知る、自らの口にした果実の正体とこの世界の事を。

 

悪魔の実。動物(ゾオン)系ドラドラの実幻獣種モデルリオレウス。そしてこの世界がONEPIECEの世界であるということに………。

 

 

 

 

 

「……もう何年経ったんだろうな……」

 

近場の岩場に付いた線の山。線が意味するのは日にち、6つの線の中心を貫くような一本の線の合計7つの線がもう数えるのも面倒なほどにある。一週間を示す線の束、それを付けようと決めたのはあの日、あの悪魔の実を食った時だ。幸いな事に腐るほどに時間はあった、時に悩んで時に暴れた。力は身に余るほどにあった、あの果物を食べた事で得た力が。

 

悪魔の実、海の秘宝とも言われる果実。食えば悪魔の力を得る代わりにカナヅチになると言われているこの実を自分は食らった。悪魔の実は簡単に三種類に分類出来る、超人系。動物系、自然系。自分が食らったのは動物系。

 

動物への変身能力を得る。自分の場合はリオレウスと呼ばれるドラゴンへ変身する力を得た。生半可な攻撃は跳ね返す強固な鱗、岩をも焼き尽くす火炎、大空を自由自在に飛び回る飛翔能力。なんとも豪華な力を得る事が出来る実を食べた。

 

「はぁ……なんか順応しちゃってるなぁ俺……」

 

そう言いつつ住処にしている洞穴に寝そべりながら顔を横に向けてみる。そこには煌びやかに光を放っている宝があった。元々この島にあったものだけという訳ではない、この島に上陸し自分に刃を向けて来た海賊から奪った物だ。その一つである金の杯に泉の水を入れて口にする。

 

―――大海賊時代。この世界を表現するならそれが一番だろう。ゴール・D・ロジャーという男が処刑される寸前に放った一言。

 

―――おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやる。…探せ この世のすべてをそこに置いてきた。

 

それが切っ掛けとなって始まった大海賊時代、海には海賊が溢れている。そんな海賊がこの島にもやって来た、どうやらこの島には財宝が眠っているらしくそれを目当てにやって来たらしい。そこで自分は初めて能力を行使して対人戦闘を行い、生きる為に人を殺し食料を奪い財宝を奪った。

 

初めは恐怖もした、吐きもした。だが生きる為に必死に割り切って戦っているうちに恐怖などの感情は消え去って行った。人は慣れていく、何もかも……とアニメで見た言葉は間違っていなかった。気づけば洞窟には見つけ出した財宝だけではなく海賊から奪った財宝であふれていた。だがここは無人島、溢れるほどの財宝も使いようが無かった。

 

「……5年ぐらい経ってるのか、んじゃそろそろ行くか旅に!」

 

思い立ったのはこの財宝を現金に換えて思いっきり贅沢をしたい事から、だから旅に出ようと思った。丸三日休む事無く飛行することも可能である程に高い飛行能力がある自分(リオレウス)なら海を越えて人のいる島に行くことも可能だろう。が問題があった。

 

「………どうやってこの財宝運ぼう……?」

 

海賊から奪った財宝袋などに詰めても数は20を超えるだろう、そんな数を持って飛ぶのは流石に難しい。何か良い案を考えなければならない、出来る事なら砂浜に出る前にそれを考えておくべきだった。そんな時だった

 

「お~い誰かいるぞ~!!?」

「無人島の筈よここは?」

「あっでも誰かいるぞ!?」

「漂流者か」

「なんか荷物持ってんな」

 

麦わら帽子を被った男が率いている5人ほどの集団がこちらに向かっていた。今までの海賊と違って敵意などを感じない為攻撃はしない。寧ろ…何故か好感を持てた、何故だろうか……?

 

「なあお前、ここで何やってんだ?」

「何っと言われてもな……お前こそ何者だ?一応ここは俺の島なんだが」

「俺か?俺はモンキー・D・ルフィ、海賊王になる男だ!!」

 

これが後の海賊王、モンキー・D・ルフィとの出会いだった。


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