「待ってましたわ。よく逃げずに現れましたわね」
「そりゃあ、逃げたらサボりになるからね」
時間になりデュエル場に出向くと、既に常勝院さんが指定の位置にいた。
この広いデュエル場には、青、黄、赤の3色の制服を着た生徒がいて、それぞれ同じ色同士で向き合っている。
この組み合わせは同じ実力同士でデュエルさせるために、学校側が決めたことだ。
しかし、その中に1組だけ、青と赤の組み合わせがあった。
赤の方、つまりオシリスレッドの生徒は十代くんだ。
オベリスクブルーの生徒とデュエルするってことは、やっぱりそれだけ十代くんが強いデュエリストだということだろう。
さすがは私に勝っただけのことはある、なんて、うそぶきの言葉が脳裏をよぎった。
「保科優姫さん。よそ見をしてないで、こっちを見なさいっ。貴女の対戦相手はこのわたくしですのよ」
「ごめん、なんだか緊張しちゃって」
緊張しているというのは本当のことだ。
デュエル場にはたくさんの人がいるが、それ以上の人数が観客席にいる。
見られながらのデュエルはまだ慣れない。
「ダメですわね。そんなことでは、わたくしには勝てませんわよ」
常勝院さんに気負いは全くなさそうだ。
正直、そういうところは羨ましい。
「それでも、勝つのは私だけどね」
「あら、言いますわ」
私は闘志を燃やし、常勝院さんも私に答えるように不敵に笑う。
『それでは、時間になったので、各々デュエルを始めてください』
アナウンスが流れ、常勝院さんと目を合わせる。
「「デュエル!」」
始まった。
常勝院エリカLP4000
保科優姫LP4000
「まずはわたくしのターンですわ! ドロー!」
常勝院さんにはアテナの精霊がいる。ということは、天使族のデッキだろう。
初手はどう来る。
「まずは永続魔法《神の居城—ヴァルハラ》を発動ですわ。そして効果発動! 手札から《光神テテュス》を特殊召喚!」
《光神テテュス》攻撃力2400
テテュスか、アレはドローしたとき、そのカードが天使族なら追加でドローできるモンスター。
仕事されるとかなり厄介だ。
「さらに《創造の代行者ヴィーナス》を召喚して効果を発動ですわ。500ライフポイントを払って、デッキから《神聖なる球体》を1体特殊召喚しますわ」
常勝院エリカLP4000→3500
《創世の代行者ヴィーナス》攻撃力1600
《神聖なる球体》攻撃力500
「次に《馬の骨の対価》を発動、《神聖なる球体》を墓地に送ってデッキから、2枚ドローですわ!」
「うわ、もう動いてきた」
「フフン、その様子だと《テテュス》の効果は知ってるようですわね。それなら、今ドローした2枚の内《オネスト》を見せて、ドロー! ドローしたカードは《テュアラティン》! よってさらにドロー! ⋯⋯ここで打ち止めのようですわね。わたくしはこれでターンエンド」
常勝院エリカLP3500 手札6枚
《光神テテュス》攻撃力2400
《創造の代行者ヴィーナス》攻撃力1600
永続魔法《神の居城—ヴァルハラ》
「わ、私のターン、ドロー」
ヤバイ。今の常勝院さんのドローはヤバイよ。
《オネスト》に《テュアラティン》って。
この状況で選んだかのようなカードたちだ。
《オネスト》は自分の光属モンスターが戦闘するとき、戦闘する相手モンスターの攻撃力を自分の戦闘モンスターに加えることができるモンスターカード。
この効果は手札から不意打ち的に発動できるのが強みだ。
《テュアラティン》は自分のモンスターがバトルフェイズ開始時に2体以上いて、1度のバトルフェイズで全て破壊されたときに特殊召喚できるモンスター。
強いのはその効果だ。自身の効果で特殊召喚した時、属性を1つ宣言し、その全てを破壊する。そして《テュアラティン》が存在する限り、宣言した属性を相手に召喚、特殊召喚をできなくするという効果。
これで闇属性を宣言されたら、もう私の勝ち目はなくなる。
非常にやり辛い相手だ。
私は思わず顔をしかめる。
「良い表情ですわ。その顔が見たかったんですの」
「くっ、でもやりようはいくらでもあるよっ」
常勝院さんの手札の中にあるということがわかっているのは大きい。
この状況においての情報アドバンテージはむしろチャンスだ。
「私は手札から《おろかな埋葬》を発動。デッキから、《魔サイの戦士》を墓地に送り、その効果で、《トリック・デーモン》も墓地に送る。そして墓地に送った《トリック・デーモン》の効果で《ヘル・エンプレス・デーモン》を手札に加える」
《おろかな埋葬》は来ると1枚だけで結構回せるから良いよね。
「魔法カード《トレード・イン》を発動。《ヘル・エンプレス・デーモン》を墓地に送りデッキから2枚ドローする」
さて、ここからだ。
6枚の手札を見て考える。
この手札枚数をもってしても、《オネスト》と《テュアラティン》がある以上、このターンで勝負を決めることはできない。
でも《テテュス》はなんとかしなきゃ。
「私は墓地の3体の悪魔族モンスターを除外し、《ダーク・ネクロフィア》を特殊召喚する」
《ダーク・ネクロフィア》攻撃力2200
これなら《オネスト》があったとしても《テテュス》をなんとかできる。
「そして《魔界発現世行きデスガイド》を通常召喚。効果で、デッキから《クリッター》を特殊召喚する。さらに魔法カード《二重召喚》を発動、このターン、もう1度通常召喚を行える。私は《デスガイド》と《クリッター》をリリースして《暗黒の侵略者》を召喚する」
《暗黒の侵略者》攻撃力2900
「《クリッター》の効果でデッキから《バトル・フェーダー》を手札に加え、バトルフェイズ。《ダーク・ネクロフィア》で《テテュス》を攻撃。⋯⋯《オネスト》は使う?」
「⋯⋯。使いませんわ」
「なら、私の《ダーク・ネクロフィア》は破壊される」
保科優姫LP4000→3800
「私はこれでターンエンド。このとき《ダーク・ネクロフィア》の効果発動。《テテュス》の装備カードとなって、コントロールを奪う」
保科優姫LP3800 手札3枚
《暗黒の侵略者》攻撃力2900
《光神テテュス》攻撃力2400
《テテュス》は封じた。
それに《暗黒の侵略者》で速攻魔法も。
天使族には《光神化》の速攻魔法カードがある。それがあるなら、《地獄の暴走召喚》もあるだろう。
このターンでできるベストをやれたと思う。
「わたくしのターン、ドローですわ。⋯⋯そのモンスター、厄介ですわね」
常勝院さんは忌々しげに《暗黒の侵略者》を見ている。
「速攻魔法でもドローしたの?」
「フン! なんの問題もありませんわ! フィールドの《創造の代行者ヴィーナス》の効果を2回発動しますわ。デッキから2体の《神聖なる球体》を特殊召喚。そのままリリースして《アテナ》を召喚ですわ!」
常勝院エリカLP3500→2500
《アテナ》攻撃力2600
来たね、《アテナ》。
心なしかこっちを睨んでるのが気になるけど。
「バトルですわ。《アテナ》で《テテュス》を攻撃!」
「《オネスト》は?」
「⋯⋯使いませんわ」
保科優姫LP3800→3600
「メインフェイズ。《アテナ》の効果を発動ですわ。《創造の代行者ヴィーナス》を墓地に送り、墓地の《光神テテュス》を蘇生しますわ。そして、天使族が召喚されたことで、貴女に600ポイントのダメージを与えますわ!」
保科優姫LP3600→3000
くっ、これが強いんだよ、《アテナ》は。
天使族の蘇生と天使族が召喚、特殊召喚されたときに600のバーン。
ライフ4000で600は痛いし、蘇生の効果と噛み合っている。
「これで、ターンエンドですわ」
常勝院エリカLP2500 手札6枚
《アテナ》攻撃力2600
《光神テテュス》攻撃力2400
永続魔法《神の居城—ヴァルハラ》
「私のターン、ドロー」
常勝院さんは《オネスト》を使って《暗黒の侵略者》を破壊しようとはしなかった。
もし、手札に《光神化》があるなら、常勝院さん視点だと、勝利まで行けそうなのに。
慎重な性格なんだろうか。
なんにせよ、ありがたい。
「モンスターを伏せて、《暗黒の侵略者》を守備表示にする。これでターンエンドだよ」
保科優姫LP3000 手札3枚
《暗黒の侵略者》守備力2500
セットモンスター1体
「随分と弱気ですのね」
「⋯⋯これも作戦だよ」
「どうだか。わたくしのターン、ドロー。《光神テテュス》の効果で、ドローした《アテナ》を公開してさらにドロー、⋯⋯来ましたわ」
な、なにが。
「墓地の天使族モンスターは4体。よって、手札から《大天使クリスティア》を特殊召喚ですわ!」
《大天使クリスティア》攻撃力2800
保科優姫LP3000→2400
「クリスティア⋯⋯」
「これで、わたくしも貴女も特殊召喚ができなくなりましたわ。貴女の手札にある《バトルフェーダー》の効果も発動できなくてよ」
そうだ、《バトルフェーダー》は特殊召喚してから効果を発動するモンスターだ。
ちょっとまずいかも。
「《クリスティア》の効果で墓地から《創造の代行者ヴィーナス》を手札に加えますわ。そして《ジェルエンデュオ》を召喚、《アテナ》の効果で600ポイントのダメージですわ」
《ジェルエンデュオ》攻撃力1700
保科優姫LP2400→1800
どんどんライフが削れていくな。辛い。
「バトルですわ! 《アテナ》で《暗黒の侵略者》に攻撃! 次に、《クリスティア》でセットモンスターに攻撃!」
「《暗黒の侵略者》は破壊される。セットモンスターは《深淵の暗殺者》。よってリバース効果を発動、《クリスティア》を破壊する」
「くっ、油断しましたわね⋯⋯。破壊された《クリスティア》はデッキの1番上に戻りますわ。わたくしは《ジェルエンデュオ》で攻撃」
「手札から《バトルフェーダー》の効果を発動。特殊召喚してバトルフェイズを終了させる」
「メインフェイズ。《アテナ》の効果で《ジェルエンデュオ》を墓地に送り、そのまま特殊召喚しますわ」
保科優姫LP1800→1200
「溢れたカード捨ててターンエンドですわ」
捨てられたのは《マシュマロン》か。
これで墓地の天使族がまた4体。
常勝院エリカLP2500 6枚
《アテナ》攻撃力2600
《光神テテュス》攻撃力2400
《ジェルエンデュオ》攻撃力1700
永続魔法《神の居城—ヴァルハラ》
「さあ、貴女のラストターンですわよ?」
「確かに、最後だね。勝つにしても、負けるにしても」
「あら、まだ希望を持っていますの。1200のライフ、手札はドローを合わせて4枚。加えて、わたくしの手札には《オネスト》と《テュアラティン》。これでどう勝つつもりかしら?」
わかってるよ。圧倒的に不利なのは。
でもまだ、ドローがある。
「それは、このドロー次第かな。⋯⋯ドロー!」
そのカードは⋯⋯ 。
「来たっ。《彼岸の悪鬼グラバースニッチ》を通常召喚して効果発動。自分フィールドに《彼岸》以外のモンスターがいる場合、自壊する。そして墓地に送られることで効果発動。デッキから《グラバースニッチ》以外の《彼岸》モンスターを1体を特殊召喚する。私は《彼岸の悪鬼バルバリッチャ》を特殊召喚、そしてその効果発動。このモンスターも《彼岸》以外のモンスターがいる場合、自壊する。そして墓地に送られた《バルバリッチャ》の効果。墓地にある《バルバリッチャ》以外の《彼岸》を3枚まで除外し、1枚につき300のダメージを与える。私は《グラバースニッチ》を除外して、常勝院さんに300のダメージを与える」
常勝院エリカLP2500→2200
まずは1段階。
「それで終わりですの?」
「ううん、始まりだよ。私は手札から《終わりの始まり》を発動! 墓地に7体以上の闇属性モンスターがいるとき、5体のモンスターを除外してデッキから3枚ドローする!」
このターンでここまで展開してきたけど、結局、この3枚は運だ。
勝てるかどうかはここで決まる。
私は恐る恐る3枚のドローカードを見た。
⋯⋯なるほどね。
「ハハハ⋯⋯」
「⋯⋯それはなんの笑いですの」
「ごめん、今のドローでこのデュエルの終わりが見えたから」
「そう、ようやくあきらめたということかしら」
「⋯⋯除外されたカードは7枚以上、よって私は手札から《カオス・エンド》を発動! フィールドの全てのモンスターを破壊する!」
「なっ、貴女、ここから逆転するというの!?」
《オネスト》も《テュアラティン》もモンスターがいなかったらなんの意味もない。
ここがまともに攻撃できる、最初で最後のチャンスだ。
⋯⋯そうだとわかっているけど。
「バトルフェイズ。私は手札から《ジュラゲド》の効果を発動する。特殊召喚して自分のライフを1000回復する」
保科優姫LP1200→2200
《ジュラゲド》攻撃力1700
「《ジュラゲド》で攻撃」
常勝院エリカLP2200→500
「メインフェイズにカードを1枚伏せてターンエンドだよ」
3枚のドローの中には、出せるモンスターはいなかった。
蘇生や帰還のカードもこなかった。
このターン、私にできることは、もうない。
保科優姫LP2200 手札1枚
《ジュラゲド》攻撃力1700
セットカード1枚
「今のは最後の悪あがき、ですわね?」
「⋯⋯」
「いえ、違いますわね。貴女はなにかを企んでいる。そのセットカード。あからさまに怪しいですわ」
「⋯⋯」
私はなにも答えない。
「だんまりですのね。まあいいですわ。どうであれ、わたくしの勝利は決まってますの。ドローですわ」
そのドローカードは《クリスティア》。そして他の手札は《アテナ》、《テュアラティン》、《オネスト》、《創造の代行者ヴィーナス》。
残りの2枚は不明だけど、速攻魔法はあるだろう。
この中で召喚するのはなにか。
「わたくしは《ヴァルハラ》の効果で、手札から《アテナ》を特殊召喚しますわ!」
「《アテナ》できたか」
「ええ、わたくしの大好きなカードですの。それに、貴女のセットカード対策でもありますわ」
「対策?」
「わたくし、貴女にもう攻撃はしませんわ」
「⋯⋯」
私の伏せカードを警戒して、《アテナ》のバーンダメージだけで勝負を決めるということだろう。
「わたくしは、《コーリング・ノヴァ》を召喚。《アテナ》の効果を発動しますわ!」
常勝院さん。残念ながら、その判断は間違っている!
「待ってたよ! この瞬間を! 伏せカード《強制脱出装置》を発動するよ!」
そう、これが勝ち筋。
「対象は私の《ジュラゲド》!」
「は、はあ!? なにを考えているんですの!? そんなことをしたら貴女のフィールドは空に⋯⋯、あぁっ!?」
「気づいたね。私はフィールドが空の状態で《アテナ》の効果ダメージを受ける」
保科優姫LP2200→1600
「この瞬間、私は手札から《冥府の使者ゴーズ》を特殊召喚、そして効果発動! 今、私が受けた効果ダメージを相手にも与える! これで終わりだよ!」
《ゴーズ》の珍しい方の効果。それが、私の活路だ。
常勝院エリカLP500→0
「勝てた⋯⋯」
「わたくしが、負けた?」
がくりとうな垂れる常勝院さん。
私も、ぎりぎりのデュエルが終わって、気が抜けてしまった。
俯瞰するように周りを見渡すと、まだまだデュエルをしている組みがたくさんある。
思ったほど時間は進んでいなかったみたいだ。
私は常勝院さんの近くまで歩み寄る。
「常勝院さん。立って」
「⋯⋯なんですの?」
「秘密ルール、覚えてる?」
「ええ」
「アレ、なしにしよう」
「なにを言っているんですの。1度決めた取り決めを撤回するなんて、情けないですわ」
「だったら変更しよう。勝者のお願いを1つ聞くってルールに」
「⋯⋯貴女が良いなら、それでも構いませんわ」
「なら常勝院さんにお願い。私と友だちになってよ。常勝院さんはすごく強かった。だからさ、上とか下じゃなく対等な友だちに。ダメかな?」
「ダメもなにも、貴女が勝者なんだから、貴女に従いますわ」
「良かった。じゃあ、握手しよう」
「いいですわよ。はい」
「うん」
こうして、この世界における初の人間の友だちが私にできた。
後から気づいたんですけど、ゴーズ出せませんよね。
直そうと思ったんですけど、デュエルの内容を大幅に変えないといけなくなりそうなので、このままにしておきます。戒めの意味も込めてね。
みなさんには悪いんですけど、最後の部分は脳内補完してくれると助かります。
すいませんでした。