遊戯王GX 転生したけど原作知識はありません   作:ヤギー

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VS沙夜 ラストターンの攻防

「どうしようもない弱点があるんだよ」

 

 自信を態度で示す。

 

「沙夜が纏ってるその力はさ、まだ私の味方をしてるんだよ。巡り巡って、だけどね」

「⋯⋯」

 

 真意を推し量ろうと沙夜はじっと私を見ていた。

 

「それは勘違いでしょう。もしかしたらという可能性に縋っているに過ぎないのでは。第一、これまで望んだカードが引けない事はありませんでした。これが良い証拠です」

「そうだよ。望んだカードが引けるんだ。でもそれは、つまり勝ちに繋がるカードを引ける、って事じゃないんだよ」

「望んだカードか引ける、ですか。その望みのカードこそが、勝利に繋がるカードなのですが」

「いや、勝つのを前提とした、ってこと。どうやって勝ちたいか、それを汲んでくれてるんだよ」

 

 勝手にね。と続ける。

 沙夜は思考をまとめるように目を瞑る。

 

「いえ、だとしてもそれが私の弱点にはならないと思うのですが。どうあれ、勝利には向かっているわけですから」

「弱点になるんだよ。だって沙夜の望みは、私を知り尽くして勝つことだからね」

 

 見透かすように沙夜の目を見た。

 

「⋯⋯。まずは何故私の望みがそうだと思ったのか、聞きましょうか」

「一つはあの夜、沙夜が私のことを完璧に知りたいと言ったから。

 そして一つは初手の《エクスチェンジ》。アレは起点である《デスガイド》を奪うだけじゃなく、私の手札のピーピングが肝要だったんだ。それはデュエルに於いても、私の手の内や策を完璧に把握したい、と予想出来る。この二つから私はそう思う」

「成る程。自分の気持ちというのは、時に自分より他人の方が正しく理解しているものですが、こうして優姫様に言われると、やはり納得行くものがありますね。それではさらに聞きましょう、それが何だと言うのですか」

「私は次のターンに仕掛けを作った。それに沙夜には分からない伏せカードも3枚ある。知りたがりの沙夜はコレを気にして確定的に勝利出来るカードが引けないんだよ。いくらそのことを理解していようが、意識しようが、コレらを解明するカードを引いてしまうんだ。それが今の沙夜の弱点だよ」

 

 宿主の想いに反応して応えているだろう精霊の力の作用は、そう簡単に切り替えることは出来ない。沙夜の”知りたい”という根源的な感情は、ちょっとやそっとじゃひるがえることはないと予想できる。

 しかし私もそう。私は多分、”劇的な勝利”を望んでいる。そういう自覚が薄々ある。同じく容易に切り替えることが出来る感情じゃないし、切り替える気もない。

 だからこのデュエル、互いに回り道をして勝利に向かっている構図となっている。どちらが先にゴール出来るか、が肝だ。

 

「よく理解出来ました。今までのデュエルを見るに信じるに足るものだと思います。ですが少々失望しました。その情報は私に教えるべきではなかった」

「うん」

「教えたところで何も変わらないと思っているのでしょうが、知った以上、私は対応できます。この感情を覆す必要はない。要は次ターンを耐え凌げる事が出来れば良いのですから」

「そうだね。次の私のターンが勝負の分かれ目だよ。越したら沙夜の勝ちで越せなかったら私の勝ち。ここが一番楽しい所なんだ。だから、全力で——殺す気で来て。私もそうするから」

 

 私は敢えて教えた。ハッタリだとか心理戦を仕掛けたとかじゃない。沙夜に、この瞬間を強く意識して欲しかった。

 

「良いでしょう。まずはこのターン、万全の態勢を整えましょう。ドロー。魔法カード《強欲な壺》発動です。カードを2枚ドロー。そして《ネクロフェイス》をリリースし《光帝クライス》を召喚、効果により《終末の騎士》と《怨邪帝ガイウス》を破壊、その枚数分ドローします」

 

《光帝クライス》攻撃力2400

 

 動き出した。手札はこれで4枚。手札を見て沙夜は薄く笑った。どう展開するか期待する自分がいる。

 

「魔法カード《太陽の書》発動、優姫様のセットモンスターを表側にします」

「《太陽の書》⋯⋯? 伏せモンスターは《暗黒のミミック LV1》。よってリバース効果発動、1枚ドローする!」

 

 太陽の書。裏側表示のモンスターを表側にするカード。ただそれだけの効果だ。無意味なカードじゃないのは分かる。無意味なカードを引く沙夜じゃないのも分かる。

 何かの準備をしたんだ。

 

「行きますよ。魔法カード《死者蘇生》発動、墓地の《暗黒の召喚神》を特殊召喚させます。そしてこの瞬間、さらに速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動します」

「そうか! その為に!」

「はい。その為だけの《太陽の書》です。《地獄の暴走召喚》は攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚した時に発動出来るカード。その効果により、手札・デッキ・墓地から特殊召喚したモンスターと同名モンスターを可能な限り特殊召喚します。そして相手は自身のフィールドの表側モンスターを選び、そのモンスターと同名モンスターを同じく可能な限り特殊召喚します。私は《暗黒の召喚神》をデッキから2体特殊召喚します」

「《暗黒のミミック LV1》は私のデッキに1枚しか入ってないから特殊召喚はしないよ」

 

 成る程、理解した。《太陽の書》は《地獄の暴走召喚》を発動可能にする為だったんだ。

 

「3体の《暗黒の召喚神》の効果発動。それぞれリリースし三幻魔全てを召喚条件を無視して特殊召喚します」

「来たか⋯⋯!」

 

《幻魔皇ラビエル》攻撃力4000

《降雷皇ハモン》守備力4000

《神炎皇ウリア》守備力1000

 

 再びその威圧感を伴って幻魔が降臨した。憎らしいほどに彼らは強大な存在感だ。

 怯える身体を力を込めて押さえつける。

 

「殺す気で来い、と優姫様は言いましたね。その場の勢いで言ったのなら、取り消す事をお勧めします」

 

 空気が凍る。沙夜は本気の目だ。

 これは最後通告。取り消さなければ沙夜は本気で殺しにくる。唾を飲み込み口を開いた。

 

「その場の勢いで言ったよ。でも取り消すつもりなんてない。あるわけがない。だってそれが楽しいんだから」

「よくぞ言いました。であれば遠慮はしません。——私は三幻魔に命ずる! 死に至るまで優姫様から力を奪い、その全てを私に還元しなさい!」

「く⋯⋯っ!」

 

 三幻魔は命令に応える。さっきよりも激しく奴らは私から力をを奪っていっている。

 ふらっ、と貧血のようによろめきかけた。この状況が続けば、そう経たない内に私は死ぬ。その前に殺さなきゃ。

 

「《ウリア》の効果を発動。私から見て優姫様の一番右のセットカードを選択。そのカードが罠カードなら破壊する」

「⋯⋯え、《エネミー・コントローラー》。速攻魔法だから破壊されないよ」

「ならば《失楽園》の効果で2枚ドロー。《神秘の中華鍋》発動、《光帝クライス》を墓地に送り、その攻撃力分ライフを回復。カードをセットしターンエンド」

 

沙夜LP5800 手札1枚

《幻魔皇ラビエル》攻撃力4000

《降雷皇ハモン》守備力4000

《神炎皇ウリア》守備力1000

セットカード1枚

フィールド魔法《失楽園》

 

「これで万全です。何が来ても受け切れ、何が来ても攻め切れる。そういう布陣です。——これが私の全力ですよ」

 

 沙夜らしさを感じる、万能で鉄壁なフィールドだ。

 それでこそ、攻略のしがいがある!

 

「まずは、力を奪う幻魔の処理からだ。私のターン、ドロー! 永続魔法《強欲なカケラ》の効果を発動、このカードを墓地に送り2枚ドロー! そして伏せカード《おろかな埋葬》! デッキから《暗黒魔族ギルファー・デーモン》を墓地に送る! ここで効果発動! 《ギルファー・デーモン》を《ウリア》に装備して攻撃力を500下げる!」

「1ターンのみ適用されます」

「装備魔法《堕落》発動! 《ラビエル》に装備してそのコントロールを奪うよ!」

「それも1ターンのみです」

「関係ない。伏せカード《エネミー・コントローラー》発動! 《暗黒のミミック LV1》をリリースして《ハモン》のコントロールを奪う。そして私のフィールドのモンスターを全てリリースして《真魔獣ガーゼット》を特殊召喚!」

 

《真魔獣ガーゼット》攻撃力8000

 

 幻魔の攻略。奴らの対策法は奴ら自身の力を逆手に取ること。他にもあるだろうけど、私はコレを選択した。

 

「このモンスターの攻撃力はリリースしたモンスターの攻撃力を合計した数値になる。で、貫通効果もある。⋯⋯どう? 後がないんじゃない?」

「まさか」

 

 沙夜が短く言い切る。そんなわけがない、と言われた気がした。当然、私も分かってる。

 

「だよね。じゃ、《ガーゼット》で《ウリア》に攻撃! さあどうする!」

「こうします。セットカード《針虫の巣窟》を発動。デッキの上からカードを5枚墓地に送ります」

「それか。《ウリア》は墓地の罠カード1枚につき1000の攻守を上げる効果がある。罠を墓地に送るためにそのカードを用意したんだね」

 

 《ウリア》の守備力は今は1000。《針虫の巣窟》も罠カードだから、《ガーゼット》の攻撃を耐え切る為には1枚以上墓地に落とす必要がある。けど、

 

「当然、5枚とも罠カードです」

 

《神炎皇ウリア》守備力1000→7000

 

「さすが。でも《ガーゼット》には及ばない。《ウリア》を破壊して超過ダメージを与える!」

 

沙夜LP5800→4800

 

「ふう、風が吹いたかのようなダメージですね」

「でももうガラ空きだよ」

「はい。ですがそちらももう攻撃の手がないのでは?」

 

 私のフィールドのモンスターは《ガーゼット》のみ。コレだけ見ればたしかにその通りだ。

 

「それこそまさかだよ。まだちゃんと手はある」

 

 手札を1枚掲げて息を吸い込んだ。

 

「速攻魔法《アクションマジック—ダブル・バンキング》発動! 手札を1枚捨てて、このターン戦闘で相手モンスターを破壊した自分のモンスターをもう一度攻撃可能にする!」

「ほう」

「そしてコストで墓地に捨てた《深淵の暗殺者》の効果で墓地からリバースモンスターの《暗黒のミミック LV1》を手札に加える」

 

 ようやく。これで後はもう攻撃するだけ。それだけで勝負が決まる。私の勝ちだ。

 一息つく。言っておきたいことがあった。

 

「沙夜。私は手加減なんてしない。この《ガーゼット》で思い切り殴りつけるよ。もちろん殺す気でね」

 

 高ぶった気持ちのまま話した。諌めるべき感情だと思えるぐらいには私の頭は正常だけど、勢いに身を任せる。

 

「ああでも、まだ人殺しにはなりたくないんだ。だから沙夜。しっかり耐えてね。私は殺す気で攻撃するけど、沙夜は死ぬの禁止だから。わかった? 言いたいことはそれだけ」

 

 なんとワガママなことを言っているんだ、と自分でも思う。

 でも抑えられない。自分を苦しめた恨みがある。エリカを軽んじた恨みがある。けどそんなことより、なによりただこの瞬間、気持ちよくなりたいだけだった。

 殴って、発散して、勝つ。それが今、目前にある。ようやくこの時が来た、と心が躍った。

 

「バトル続行」

 

 《ガーゼット》は自らの拳を腰に置く。パワーを、私の想いを溜めているのだ。

 背中を向ける目の前の下僕から、どんどん力が溢れてくるのが見える。威力8000は伊達じゃない。今の私がこれを受ければ確実に死ぬ。想像するだけで腰が引けそうだ。きっと沙夜もただでは済まないと思う。少なくとも無傷ではいられないはず。

 なんであれ、どうなるか楽しみだ。

 

「ん、そろそろかな。宣言する、《ガーゼット》、沙夜にダイレクトアタックだ! 沙夜、最期に言いたいことがあるなら、今のうちだよ」

 

 《ガーゼット》が攻撃動作に入る。

 これで最後。決着。沙夜に次のターンは回らない。

 

「それでは言わせて下さい。わたしは、《バトルフェーダー》の効果を手札から発動します。効果は、知っていますね」

「! ⋯⋯⋯⋯うふふ」

 

 なぜだか気持ち悪い笑いを発してしまう。全てがぴたりとはまった気がした。

 

「相手モンスターの直接攻撃時に特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる⋯⋯。優姫様がどんなに上手く立ち回っても、このモンスターにかかれば確実に1ターンは凌げます。ここで打ち止め、かくして私のターンは回ってきます」

「そっか」

 

 攻撃がそのまま通るのだと思っていた。防がれるだなんて思ってもみなかった。早々に勝った気になっていたのを反省する。感心して得心する。今になってようやく理解出来た。

 

——ああ。使いどきは、ここか。

 

「伏せカード発動、《マインドクラッシュ》。カード名を《バトルフェーダー》と宣言する。そのカードが相手の手札にあった場合、破壊する」

「⋯⋯っ!」

「よって《バトルフェーダー》の効果は発動されず、《ガーゼット》の攻撃は妨げられない。————これで終わりだ」

 

 《ガーゼット》の拳が、沙夜を打ち抜いた。 沙夜LP4800→0

 

 

 

 空気を震わす爆音と巻き上がった土煙が収まると、防御態勢のまま膝をつく沙夜がそこにいた。

 攻撃が通りデュエルに決着が着いたとというのに、沙夜は肩で大きく息をする以外動かない。

 肉体的には死んでいないようだった。でも内面はどうだろうか。いい一発を与えた私には、もう沙夜に対する悪い感情は無い。素直に心配だった。

 

「さ——」

 

 沙夜、と。呼び掛けようとしたが、発声できなかった。何かに邪魔されたわけじゃない。デュエルが終わり緊張が解けたからか、大半の精霊の力を抜かれた事実と、受けた精神ダメージが、今になって襲ってきたんだろう。

 それでも、と私は私を奮い立たせる。まだやることがあった。朧げな思考でそれが何なのか分からないけど、沙夜に一言言わなきゃいけない。

 

「さ、沙夜」

 

 確認するように言う。今度は声が出せた。

 沙夜も苦しそうに頭を上げてこちらを見る。

 

「沙夜。この先⋯⋯いつになっても、いい⋯⋯。私と、一緒に⋯⋯世界、征服⋯⋯して⋯⋯み⋯⋯よう⋯⋯よ」

 

 視界が霞んでいく。どうにも意識が保てない。急激に精霊の力がなくなったからだ、と漠然と思った。

 それでも見えた。驚いた沙夜の顔。そして、その後の優しく微笑む様子が。

 満足した。きっと、これを以って、私の勝利と言える。

 そこでわたしの意識は途絶えた。 


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