遊戯王GX 転生したけど原作知識はありません   作:ヤギー

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VSカミューラ 幻魔の扉

 カミューラが死んだ。幻魔の扉から伸びた腕に魂を持っていかれたのだ。その後カミューラは糸が切れたように倒れこみ、灰となって消えてしまった。

 主を失ったからか城が唸りを上げて崩れ出す。十代くんたちはカミューラのチョーカーと人形から元に戻ったカイザーを回収し、急いで脱出した。私も彼らの後をついていく。

 沙夜はここにはいない。幻魔の扉が出現したとき、カミューラの魂と一緒にその中に入っていったからだ。

 外に出てレッドカーペットを走る。その中腹辺りまで来た所で足場が消え去り、私は湖に落ちた。前方では岸に辿り着いた十代くんたちが湖を眺めている。消えたのはレッドカーペットだけじゃなく、背後にある城や霧さえも無くなっていた。まるで今までなにもなかったかのように、湖は静かだ。

 見つからないように潜水して岸まで泳ぐ。岸まで来て水面に顔を出し周囲を見ると、もう誰もいなかった。

 上陸してとある木まで歩くとそこにはバックパックがあって、中には私の着替えとタオルが用意してある。もう一度周りを見回し誰もいないことを確認した後、なんの疑いも持たずに服を脱ぎタオルで水気を拭き取ってから着替えた。

 当然のことながら、これは沙夜が用意したものだ。決着間際、沙夜から必要な物を用意してあるからこの辺りで待っていてくれ、という旨の話しを聞いたけど、それは私が湖に落ちることを予測していたということになる。

 改めて沙夜は万能だと思った。非常に好ましく頼もしい。しかしそれは私の横にいるからだ。私と沙夜が無関係になったり敵対関係になったりしたとき、きっと沙夜に対する私の気持ちは反転する。そうなってしまったときのことを考えると心がもやもやした。気をそらすように天を見ると、そこには雲一つない高い高い空があった。

 

 

 

 しばらく待つと、虚空に大きな闇が現れた。じっと見つめているとそこから沙夜が飛び出し、その後すぐさま闇は掻き消える。沙夜の手にはビンが握られてあった。

 

「只今戻りました」

「うん、おかえり。それってもしかして、カミューラの魂?」

 

 ビンを指差して言った。ビンの中では、微かに発光する球体が外に出ようと暴れている。

 

「はい。今よりこのカミューラの魂と先程借りた手首を融合させて蘇生します」

「そんなこともできるんだね」

 

 薄々は察していた。その方法までは知る由もなかったけど、魂を見せられては、なんらかの形で生き返らそうとしているのはすぐわかる。

 

「どうやるの?」

「所謂、錬金術というものを使います」

 

 そう言いながら沙夜は、バックパックから小さめのバケツを取りだし、湖の水をそれに汲んだ。

 

「水の入ったバケツに魂と手首、さらにこの融合石を入れます」

「融合石? なんか凄そう。でも手首に魂が宿ったとして、生きていられるの?」

「カミューラは吸血鬼ですから、一度生き返ってしまえば後は本人の力で勝手に再生してくれますよ」

「ああ、確かに。カミューラだからできる方法なんだね」

「はい。それでは入れます。融合反応の際、小規模な爆発が起こるので少し離れていて下さい」

 

 五歩離れた。沙夜は魂の入ったビンとカミューラの手首をバケツに入れ、私の隣まで離れてから最後に融合石を投げ入れる。

 初めに石が水面を叩く音がした。続いてブクブクと泡が立つような音がして、そのすぐ後、ボンッ、とくぐもった爆発音が出る。すると泡と煙がバケツから吹き出始めた。その二つの比率はすぐに煙だけになり、しばらくの間煙が周囲に立ち込める。

 煙の発生が止まると、風によって散って行き霧散する。そこには座り込んだ五体満足のカミューラと、ひっくり返ったバケツがあった。

 

「これは、成功?」

 

 カミューラは座ったまま動かない。息はしているけど放心状態だ。

 

「カミューラ」

 

 その一声に、カミューラは弾かれるように顔を上げ沙夜を見た。その次に私、周りの風景をその目で捉え立ち上がる。状況を把握したのか、その顔はもう緩んでない。

 

「私はなぜ生きているのかしら? どうやって私を復活させたの?」

「貴女の魂を幻魔より奪い取り、事前に借りていた貴女の手首に宿しました。どうやら上手くいったようですし、早速貴女には優姫様とデュエルしてもらいます」

「ああ、そういえば、そういう約束だったわね」

 

 カミューラは腰に手を当て、乾いた笑いを漏らす。

 

「嫌よ、面倒臭い。もう疲れちゃったわ。そんな義理もないし」

「貴女ならそう言うと思いました。ですが拒否権はありません。さあ、デュエルディスクを構えなさい」

 

 その命令に応じるように、カミューラの右手に嵌めてある指輪が光った。するとそれを切っ掛けにカミューラの腕元に蝙蝠が集い始め、見る見るうちにデュエルディスクへと変身していく。そしてカミューラ自身も肘を上げ、デュエルする態勢に入った。

 

「この指輪の力というわけね。腹立たしいわ。実に腹立たしい。でもこの私を操る程の力を持つ貴女に免じて、我慢してあげる」

「それは有難う御座います。一応言っておきますが、闇のゲームとなっておりダメージを受けた場合、同等の痛みが発生しますので」

「好都合よ。腹いせにボコボコにしてやるわ!」

「「デュエル!」」

 

カミューラLP4000

保科優姫LP4000

 

「貴女の言葉に合わせて動かすのでセットカードの使用の際は、右から何番目、という風に宣言して下さい。また、手札のシャッフルが必要な時も同じく宣言して下さい」

「いいわ。ドロー! 一番右のモンスターをセット、その隣のカードをセット、ターンエンドよ!」

 

 その声と身体の動きには、そんなに差はない。操られることによるデュエルへの支障はなさそうだ。

 

カミューラLP4000 手札4枚

セットモンスター1体

セットカード1枚

 

「私のターン、ドロー!」

 

 6枚の中には《ゴーズ》と《バトルフェーダー》のお守りカードがある。初手にこの2枚が並ぶのは、私としては珍しいことだ。

 

「まずは《魔界発現世行きデスガイド》を召喚するよ! その効果でデッキから悪魔族、レベル3のモンスター、《魔サイの戦士》を特殊召喚!」

 

《魔界発現世行きデスガイド》攻撃力1000

《魔サイの戦士》攻撃力1400

 

 どうあれ、いつものジンクスを実行する。

 

「《二重召喚》発動! このターン、もう一度通常召喚を可能にする! 2体のモンスターをリリースして《フレイム・オーガ》を召喚!」

 

《フレイム・オーガ》攻撃力2400

 

「このモンスターが召喚されたことにより、カードを1枚ドロー! さらに墓地に送られた《魔サイの戦士》の効果でデッキから悪魔族モンスターを墓地に送る! 私は《トリック・デーモン》を墓地に送り、その効果を発動! デッキから《デーモン》と名のつくカードを手札に加える! 加えるのは《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》!」

「悪魔族のデッキってわけね」

「そうだよ。じゃあバトルフェイズ! 《フレイム・オーガ》で伏せモンスターに攻撃!」

「伏せモンスターは《ピラミッド・タートル》よ! 戦闘で破壊され効果発動! デッキより守備力が2000以下のアンデット族モンスターを特殊召喚する! 《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚!」

 

《ヴァンパイア・ロード》攻撃力2000

 

「そいつか。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

保科優姫LP4000 手札4枚

《フレイム・オーガ》攻撃力2400

セットカード1枚

 

「私のターン、ドロー! フフフッ。どうやら早くも終わりのようね!」

「私はそうは思わないけど」

 

 良いカードでも引いたんだろうか。もしかしたら《幻魔の扉》かもしれない。

 

「まずは《ヴァンパイア・ロード》を除外することで手札から《ヴァンパイア・ジェネシス》を特殊召喚!」

 

《ヴァンパイア・ジェネシス》攻撃力3000

 

 やっぱり来たか。でもこれだけじゃ勝ちには届かない。まだなにかあるはずだ。

 

「永続魔法《ジェネシス・クライシス》を発動するわ! その効果によりデッキからアンデット族モンスターを1体手札に加える! 《闇より出でし絶望》を加えるわ! そして《ヴァンパイア・ジェネシス》の効果で《闇より出でし絶望》を捨てて《ピラミッド・タートル》を墓地から特殊召喚!」

 

《ピラミッド・タートル》攻撃力1200

 

「ここで魔法カード《生者の書—禁断の呪術—》を発動する! 墓地のアンデット族モンスターを特殊召喚して、相手の墓地のモンスターを除外するわ! 《闇より出でし絶望》を特殊召喚して《トリック・デーモン》を除外!」

「除外は痛いな」

「そんなこと気にしてる場合かしら? バトルよ! 《ヴァンパイア・ジェネシス》で《フレイム・オーガ》に攻撃! ヘルビシャス・ブラッド!」

「くっ」

 

保科優姫LP4000→3400

 

「《闇より出でし絶望》でダイレクトアタック!」

 

「手札から《バトルフェーダー》の効果を発動! このモンスターを特殊召喚し、バトルフェイズを終わらせるよ!」

 

 本当なら《ゴーズ》を出したかったけど、その場合、攻撃を受けて大ダメージを負うからこっちの方がいい。痛いのは嫌だってのもあるし。

 

「ちっ。大して動揺してなかったのは、こういうことだったわけね。右のカードを1枚セット、ターンエンドよ」

 

カミューラLP4000 手札1枚

《ヴァンパイア・ジェネシス》攻撃力3000

《闇より出でし絶望》攻撃力2800

《ピラミッド・タートル》攻撃力1200

永続魔法《ジェネシス・クライシス》

セットカード1枚

 

 随分展開されちゃったな。でも大丈夫。

 

「ドロー! 伏せカード《悪魔の憑代》発動! これがある限り、私は1ターンに1度、レベル5以上の悪魔族モンスターをリリースなしで召喚できるよ! この効果で《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》をリリースなしで召喚する!」

 

《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》攻撃力3000

 

「バトル! 《ジェネシス・デーモン》で《ヴァンパイア・ジェネシス》に攻撃! ⋯⋯何もないなら相打ち、そして《ジェネシス・クライシス》の効果でアンデッド族モンスターは全て破壊だ!」

「くっ、仕方ないわね」

「私はカードを伏せてターンエンド」

 

保科優姫LP3400 手札2枚

《バトルフェーダー》守備力0

永続罠《悪魔の憑代》

セットカード1枚

 

「ドロー! 《強欲な壺》発動! カードを2枚ドローする! 手札から《牛頭鬼》召喚、その効果によりデッキから《馬頭鬼》を墓地に送る! そして《馬頭鬼》を墓地から除外することで、墓地の《闇より出でし絶望》を特殊召喚!」

 

《闇より出でし絶望》攻撃力2800

 

「また出てきたか」

「今度こそ終わりよ! 《牛頭鬼》で《バトルフェーダー》に攻撃!」

「《バトルフェーダー》はフィールドを離れるとき除外されるよ!」

「《闇より出でし絶望》でダイレクトアタック!」

「罠発動《リビングデッドの呼び声》! 墓地から《ジェネシス・デーモン》を蘇生させる!」

 

《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》攻撃力3000

 

「ちっ。攻撃は中断、ターンエンド」

 

カミューラLP4000 手札2枚

《牛頭鬼》攻撃力1700

《闇より出でし絶望》攻撃力2800

セットカード1枚

 

 さっきカミューラは今度こそ終わり、と言っていた。でもたとえ私が《リビングデッドの呼び声》を使わなかったとしても、フィールドのモンスターだけじゃ、私のライフは削りきれない。

 あの台詞がブラフや意味のない言葉だとするなら話しは別だけど、そうじゃないならカミューラの伏せカードは《リビングデッドの呼び声》みたいな蘇生カード、または戦闘に加勢できるようなカードだ。それ込みで私を倒せる算段だったんだろう。

 まあ、だからといって私の方から特別なにかするわけじゃない。一応そのことを念頭に置くだけはしておこう。

 

「ドロー。《ジェネシス・デーモン》で《闇より出でし絶望》に攻撃!」

 

カミューラLP4000→3800

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだよ」

 

保科優姫LP3400 手札1枚

《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》攻撃力3000

永続罠《リビングデッドの呼び声》

セットカード2枚

 

「もう終わり? 随分ささやかな攻撃だったわね。もう少し頑張ったらどうかしら?」

 

 これはこれは、あからさまな挑発。なにか言い返さないと失礼だね。

 

「そう言うカミューラはかなり押せ押せだよね。成果は出てないみたいだけど」

「あら、これが私のやり方よ。お前に守りのカードが無くなるまで攻撃し続けるわ」

「その前にガス欠になるのはカミューラだけどね」

「言ってなさい。ドロー! フフフ。今度は防げるかしらね? 《牛頭鬼》の効果でデッキから《ゴブリン・ゾンビ》を墓地に送る。そして手札から《ハリケーン》を発動! フィールド上の魔法、罠を全て持ち主の手札に戻すわ!」

「ここで来るのか⋯⋯! チェーンして発動《悪魔の嘆き》! 《ヴァンパイア・ジェネシス》をデッキに戻して、私のデッキから《彼岸の悪鬼グラバースニッチ》を墓地に送る!」

「どうやらこのカードが分かっていたらしいわね! 罠カード《リビングデッドの呼び声》! 《ゴブリン・ゾンビ》を蘇生させる!」

「やっぱりそれか!」

 

 予想が当たって良かった。本当ならこのタイミングに置いて《悪魔の嘆き》で戻すべきなのは《ゴブリン・ゾンビ》だ。でも今みたいに《リビングデッドの呼び声》をチェーンされて特殊召喚されたら、《悪魔の嘆き》の後半の効果が使えなくなってしまう。それを避けたかった。避けられるのが、自身の効果でしか特殊召喚できない《ヴァンパイア・ジェネシス》を対象にするしかなかったんだ。

 

「効果を処理するわ! まず私の《ゴブリン・ゾンビ》が特殊召喚される! そして《悪魔の嘆き》の効果が適用され、最後に《ハリケーン》の効果により魔法、罠が手札に戻る。これにより《リビングデッドの呼び声》の影響下にある私の《ゴブリン・ゾンビ》とお前の《ジェネシス・デーモン》は破壊されるわ。ここで《ゴブリン・ゾンビ》の効果よ! デッキから守備力2000以下のアンデット族モンスターを手札に加えるわ! 加えるのは《酒呑童子》よ!」

「その効果にチェーンして《グラバースニッチ》の効果発動! デッキから《彼岸》モンスターである《彼岸の悪鬼スカラマリオン》を守備表示で特殊召喚!」

 

《彼岸の悪鬼スカラマリオン》守備力2000

 

「ねばるわね。手札から《酒呑童子》を召喚、効果発動! 墓地の《ゴブリン・ゾンビ》と《ピラミッド・タートル》を除外してカードを1枚ドロー! そして速攻魔法《異次元からの埋葬》発動! 除外されている《馬頭鬼》、《ゴブリン・ゾンビ》、《ピラミッド・タートル》を墓地に戻し、《馬頭鬼》の効果発動! このカードを除外して、墓地から《闇より出でし絶望》を復活させるわ!」

 

《闇より出でし絶望》攻撃力2800

 

「バトルよ! 《闇より出でし絶望》で《スカラマリオン》に攻撃! 続いて《酒呑童子》でダイレクトアタックよ!」

「くぅっ!」

 

保科優姫LP3400→2000

 

「ダメージは受けるよ! でもこのとき手札から《冥府の使者ゴーズ》を特殊召喚! 効果で《冥府の使者カイエントークン》を守備表示で特殊召喚!」

 

《冥府の使者ゴーズ》攻撃力2700

《冥府の使者カイエントークン》守備力1400

 

「良い調子ね。《牛頭鬼》で《カイエントークン》を破壊! 右のカードをセットしてターンエンドよ」

「エンドフェイズ時、《スカラマリオン》の効果で、デッキから悪魔族、闇属性、レベル3のモンスター、《彼岸の悪鬼ガトルホッグ》を手札に加えるよ」

 

カミューラLP3800 手札1枚

《牛頭鬼》攻撃力1700

《酒呑童子》攻撃力1400

《闇より出でし絶望》攻撃力2800

セットカード1枚

 

 どんどん私の守りが剥がされていく。カミューラは考えないで形振り構わずに展開してきて、手札は常に少ない。でも私だって猛攻に耐えるためには手札を使わざるを得ない。

 ここらで良いカードを引かなきゃそろそろやばいな。

 

「私のターン、ドロー! よし、良いカード! 魔法カード《トランスターン》発動だよ! 《ゴーズ》を墓地に送り、このカードと同じ種族、属性で、レベルが1つ高いモンスターを特殊召喚する! 私が特殊召喚するのは《ヘル・エンプレス・デーモン》!」

 

《ヘル・エンプレス・デーモン》攻撃力2900

 

「バトルするよ! 《ヘル・エンプレス・デーモン》で《牛頭鬼》に攻撃だ!」

「ぐっ! 大したことないわ!」

 

カミューラLP3800→2600

 

「モンスターとカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

保科優姫LP2000 手札0枚

《ヘル・エンプレス・デーモン》攻撃力2900

セットモンスター1体

セットカード2枚

 

 手札は無いけど、フィールドは盤石。この守りを崩すには相当骨が折れる。これで今までみたいな攻めはできないはずだ。

 

「ドロー! 《酒呑童子》の効果で墓地の《牛頭鬼》と《ピラミッド・タートル》を除外して、1枚ドロー! モンスターを2体守備表示にしてターンエンドよ!」

 

カミューラLP2600 手札3枚

《酒呑童子》守備力800

《闇より出でし絶望》守備力3000

セットカード1枚

 

「私のターン、ドロー。《ヘル・エンプレス・デーモン》で《酒呑童子》に攻撃! カードを1枚伏せてターンエンド」

 

保科優姫LP2000 手札0枚

《ヘル・エンプレス・デーモン》

セットモンスター1体

セットカード3枚

 

「私のターン、ドロー! ナイスよ! 《生者の書—禁断の呪術—》発動! 《酒呑童子》を蘇生させてお前の墓地の《ジェネシス・デーモン》を除外する!」

 

《酒呑童子》守備力800

 

「また除外⋯⋯っ」

 

 《ヘル・エンプレス・デーモン》には破壊されたとき、墓地にある悪魔族、闇属性、レベル6以上のモンスターを蘇生できる効果がある。でも《ジェネシス・デーモン》が除外された今、墓地にある蘇生可能なモンスターは《ゴーズ》のみだ。蘇生対象があるだけマシだけど、《ゴーズ》は《闇より出でし絶望》より100攻撃力が少ない。これではすぐ戦闘破壊されてしまうのだ。

 

「《酒呑童子》の効果で、除外されている《馬頭鬼》をデッキの上に戻し、右から2番目のカードを1枚伏せてターンエンドよ!」

 

カミューラLP2600 手札2枚

《闇より出でし絶望》守備力3000

《酒呑童子》守備力800

セットカード2枚

 

 攻めてこない。でもなにか準備はされた。

 

「ドロー」

 

 良いカードだ。きっと勝負を決めるカード。でも使い所は今じゃない。私の思惑通りなら、使うべきタイミングはあの状況下だ。

 

「《ヘル・エンプレス・デーモン》で《酒呑童子》に攻撃、ターンエンド」

 

保科優姫LP2000 手札1枚

 

《ヘル・エンプレス・デーモン》攻撃力2900

セットモンスター1体

セットカード3枚

 

「私のターン、ドロー! そろそろそのモンスターには退場してもらおうかしらね! 《ヘルヴァニア》の効果発動! 手札の《馬頭鬼》を墓地に送り、フィールド上のモンスターを全て破壊!」

「セットモンスターは《ガトルホッグ》。このモンスターと《ヘル・エンプレス・デーモン》の効果を発動する! 墓地から《ゴーズ》と《スカラマリオン》を特殊召喚! 《スカラマリオン》は自分フィールドに《彼岸》以外のモンスターがいるとき自壊する!」

 

《冥府の使者ゴーズ》守備力2500

 

「馬頭鬼を除外! 《闇より出でし絶望》を特殊召喚するわ!」

 

《闇より出でし絶望》攻撃力2800

 

「さらに永続罠《闇次元の解放》発動! 除外されている《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚!」

「ってことはじゃあ!」

「そうよ、この瞬間を狙っていたわ! 《ヴァンパイア・ロード》を除外することで、手札から《ヴァンパイア・ジェネシス》を特殊召喚する!」

 

《ヴァンパイア・ジェネシス》攻撃力3000

 

 攻撃力3000⋯⋯! 《ジェネシス・デーモン》が除外されている今、その攻撃力に太刀打ちできるカードはない。

 

「バトル! 《闇より出でし絶望》で《ゴーズ》に攻撃! そして《ヴァンパイア・ジェネシス》でダイレクトアタック!」

「永続罠発動《リビングデッドの呼び声》! 《ヘル・エンプレス・デーモン》を蘇生させる!」

「知ってるわ! でも攻撃力は足りない、《悪魔の憑代》でそのモンスターの破壊を防ぐのかしら?」

 

 カミューラはきちんと把握している。この2枚は《ハリケーン》で戻されたカードだということを。

 

「使わないよ! 私は超過ダメージ100を受け、《ヘル・エンプレス・デーモン》の効果! 《ゴーズ》を復活させる!」

 

保科優姫LP2000→1900

《冥府の使者ゴーズ》攻撃力2700

 

「それくらいは残しておいてあげるわ! 私はこれでターンエンド。次がお前のラストターンよ!」

 

カミューラLP2600 手札1枚

《ヴァンパイア・ジェネシス》攻撃力3000

《闇より出でし絶望》攻撃力2800

永続罠《闇次元の解放》

セットカード1枚

 

「ラストターン、ね。それは少し違うよ」

「そう思うなら、さっさとターンを始めたら? どうせ負け惜しみだろうけど」

「そうだね。じゃあ、まずはエンドフェイズ時《スカラマリオン》の効果で《彼岸の悪鬼ファーファレル》を手札に加える。で、ドロー」

 

 これで揃った。

 

「伏せカード《悪魔の憑代》発動! これにより手札から《野望のゴーファー》をリリースなしで召喚するよ!」

「そいつは⋯⋯!」

 

《野望のゴーファー》攻撃力2200

 

「効果発動! 相手モンスターを2体まで破壊する! このとき相手は、手札のモンスターを見せることでこの効果を無効にできる。でも無理だよね、その手札はモンスターじゃないから」

「⋯⋯そうね。《ヴァンパイア・ジェネシス》と《闇より出でし絶望》は破壊されるわ」

「やっぱりね。バトルフェイズ、《ゴーズ》で攻撃」

「伏せカード《リビングデッドの呼び声》、《闇より出でし絶望》を特殊召喚よ」

 

《闇より出でし絶望》攻撃力2800

 

 うん、それはわかっている。そのカードも《ハリケーン》で戻されたカードだ。

 重要なのはここから。

 

「その手札のカード、最初のターンから今まで、ずっと握ったままだったから気になってたけど、やっとわかったよ」

「は? 急になに?」

「《幻魔の扉》でしょ」

 

 それ以外には考えられない。数ターンもの間、ずっと手札にあるのは、意図的に使おうとしなかったからだ。

 

「はっ、何を勘違いしてるのかしら。これが《幻魔の扉》ならもっと早くに使ってるわよ」

「ビビってるんでしょ。もし使ってまた負けたら、今度は助からない。だから使えずにいたんだ」

「話しにならないわね。さっさとターンを終えなさい」

「カードを伏せてターンエンド。次がカミューラのラストターンだよ」

 

保科優姫LP1900 手札0枚

《冥府の使者ゴーズ》攻撃力2700

《野望のゴーファー》攻撃力2200

永続罠《悪魔の憑代》

セットカード2枚

 

 使うにしろ使わないにしろ、カミューラのラストターンなのは変わらない。でもカミューラは使うべきだ。ここで使わなきゃ、一生かかっても人間への復讐なんてできないと私は思う。

 カミューラにとって、これはたかがデュエルだけど、それでも勝負事なんだ。勝ちを目の前にしてリスクを怖れるなんて愚行でしかない。

 

「だから使いなよ」

 

 いや。私にとって、復讐とかはどうでもいい。結局、カミューラのダサいとこが見たくないってのと、全ての力で向かってくるカミューラに勝ちたいっていう、ただの我儘だ。

 

「うるさいわね、ドロー!」

 

 ドローしたカードと元々持っていた手札を見比べるカミューラ。勝利に通じるルートを探っているんだろう。でも私には2枚の不明なカードが伏せてあるから、明確な勝利の道は見えないはずだ。防がれて返り討ちにあうかもしれない、それを考えるとあのカードを使うのは勇気が要るだろう。

 だったら発破をかけてあげるよ。

「吸血鬼は強い力を持っているばっかりに、自分たちさえもその力に振り回されて、挙句滅んだ。このデュエルにおいてもそうだよ。カミューラは最初から最後まで、ずっと《幻魔の扉》という強い力に振り回されてきた」

「⋯⋯」

「吸血鬼ってホント、哀れだね」

 

 それはカミューラの感情を逆撫でしようとした言葉。復讐対象である人間に同情されるなんて、この上なく悔しいだろう。そしてそんな状況に陥った自分が情けなくなるんだ。

 

「うるさい、バカにするな! そんなに使って欲しいなら使ってやるわよ! 《幻魔の扉》発動!」

 

 カミューラは私を睨みカードを振りかざす。

 その感情の発露からは、私は誇り高い吸血鬼だ。力に振り回されてなんかない。そういう想いが伝わってきた。

 ならば私は言ってやりたい。これは人間対吸血鬼ではなく、私とカミューラの一対一の戦いだということを。誰かが邪魔していいものじゃないんだと。そして、勝つのは私だということを。

 

「待ってた! 伏せカード《神の宣告》! ライフを半分支払い、《幻魔の扉》の発動を無効にして破壊する!」

「なっ!? 無効だと!?」

「ただ勝つだけじゃダメなんだ。私は全力を出すカミューラに勝ちたい。それを幻魔なんかに邪魔はさせない!」

「⋯⋯まだよ! まだ勝った気でいるのは早いんじゃないかしら!? 《ヘルヴァニア》の効果発動! モンスターは全て破壊よ!」

「良い足掻きだけど、そこまでだよ!」

「それはどうかしらね!? 《ヘルヴァニア》のコストで捨てたのは《馬頭鬼》! よって除外することで《闇より出でし絶望》を特殊召喚! ダイレクトアタックよ!」

 

 さすがだ。《幻魔の扉》に頼らずとも、しっかり逆転手を引き入れてる。だからこそ勿体無い。《幻魔の扉》を正しいタイミングで使っていれば、もしかしたら私に勝てたかもしれないのに。

 

「伏せカード《闇次元の解放》! 除外されている《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》を特殊召喚する!」

 

《闇より出でし絶望》攻撃力2800

《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》攻撃力3000

 

 これで終わりだ。カミューラにはもう、攻撃の手はない。

 

「ターン、エンド⋯⋯」

「ドロー。《彼岸の悪鬼ファーファレル》を召喚、《彼岸》以外のモンスターがいるから自壊、そして効果発動だ! 《闇より出でし絶望》をエンドフェイズ時まで除外する!」

 

 これでガラ空き。カミューラに私の攻撃を防ぐ手立ては消えた。

 

「終わりだよ! 《ジェネシス・デーモン》で止めだ!」

「うわああああああっ!」

 

カミューラLP2600→0

 

「楽しかった!」

 

 終わってみたら案外そう思えた。

 

 

 

 ここからは、カミューラのその後の話し。

 カミューラの目的は闇のアイテムであるチョーカーで人類の魂を人形に封じ込め復讐し、それを元に吸血鬼再興することだった。その念願はチョーカーを取り上げられたことで一旦は行き詰ったのだけど、カミューラは諦めることはしてない。

 そんなカミューラに私はある助言と提案をした。それは、復讐なんて大それたことをするなら協力者が必要だということ。そして私が協力者になるということだ。

 とはいえ大したことをするつもりはない。そう申し出た理由も大したものじゃない。ただ単に、吸血鬼という珍しい人種と懇意にできたら面白そうと思っただけだ。協力するというのも日常的なサポート程度のことでしかない。

 カミューラは今まで、棺桶の中で長い眠りについていたらしい。それなら現代の生き方なんて知らないだろうし、それを教えていけばそのうち心を開いてくれる。そういう浅い考えからの提案で、ダメ元で聞いただけだった。

 しかし意外にもカミューラは了承してくれた。出会ってから今まで、良い印象なんて少しもないはずなのに承知してくれたのは、多分沙夜も付いてくると思ってるからだ。有能な沙夜がいるからこそ、私みたいな小娘のたわごとを聞いてくれた。

 なんであれ、私はカミューラの協力者になったのだ。その手始めとして、まず携帯を持つことを勧めた。家は自分で創り出せるっぽいしお金も人から奪えばいい。カミューラには生きていく力は備わってるから、後は連絡手段が必要だ。細やかな助言を続けていくためにもそれが一番良いと考えた。

 そうなってから展開は早い。沙夜が携帯を用意したら、カミューラはすぐにこの島を出て行った。

 それから数日。私とカミューラは文通仲間になった。素っ気ない業務連絡みたいな返信しかしてくれないけど、メールを送ったら直ぐに返してくれるのがちょっと嬉しい。

 これが今話の顛末。おそらく、本来ならカミューラは幻魔に囚われたまま、助け出されないんだと思う。結果的に物語を捻じ曲げてしまったことになるが、あまり気にしてない。というより気にする必要はないと思っている。

 なぜなら興味がないから。ただそれだけの話しである。




取り敢えずここまで。しばらく投稿できないです。

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