The beginning of a castle   作:里芋(夏)

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テスト終了からおよそ3週間。
圧倒的なスランプを乗り越え…られずに時間を生贄に書き上げた俺は、読者の皆様に深くお詫び申し上げるのであった。



ついでに次はしぶりん誕生日短編(ガチ)を8/10に別で上げますとかダイマしちゃったりして☆

もう、俺ってばお茶目さん!






必要事項と

さて、あれよあれよと言う間に時間は流れ、時刻は正午ちょっと過ぎ。

 

昼前には設備説明も終わり、カフェでの昼食となったワケだが、このクソ暑い中外で食うのもどうかと言うことで冷房の効いた屋内へ、

 

「あ、今西さん。俺手前に座りますよ…烏龍茶ですよね?」

 

「あぁ、悪いね」

 

「いやいや、年功序列ってことで…あ、俺の分は適当なパスタ注文しといてくれると」

 

「了解」

 

 

このカフェの何が良いって、ファミレスばりのドリンクバーがタダで飲めるのだ。

あ、もちろん後で商品を注文するのと引き換えで、だが。

 

値段的には百円程度の違いだけど、夏場にサッと入って清涼飲料やらアイスティーが飲めるのは本当に素晴らしいと思う。

 

「涼くんは何が良い?コーラ?スプライト?オレンジ?」

 

「あ、大丈夫です!飲み物くらい自分で「まぁまぁ、先輩の顔を立てると思って、ね?」…じゃあ、オレンジで」

 

「りょーかい。…お嬢さん方は?」

 

 

「こっちは私と美優さんで行きますから、大丈夫ですよ」

 

そう言った高垣さんと三船と共にドリンクバーへ、

 

 

 

 

 

…さて、三船さんは自分と肇ちゃんの分を入れて戻って行ったわけだが、

 

 

 

「…あの、高垣さん(・・・・)。そんなに見つめられると、流石に照れると言いますか…」

 

いくら俺がアイドル(見られる仕事)で相手が美人でも、無言で見つめられ続けたらそりゃあ謎の恐怖ってもんがあるわけで、

 

 

「…むぅー、お久しぶりですっ」

 

「お、おう?お久しぶりで…ってああ!やっぱ楓!?」

 

俺が発した"楓"の呼称にパアッと柔らかい笑みを浮かべる彼女。

 

 

「いや、自己紹介の時ももしかしたらって思ったけど…ってか、楓がアイドルなんてやるとは思わなかったわ。目立つの苦手っつってなかった?」

 

『それにその目は?』と続けようとして咄嗟に会話を切った俺に、果たして気付いたのか気付いていないのか、彼女はうぐいす色の左目(・・・・・・・・)の横にある泣き黒子を撫でた。

 

 

「今もあまり得意では無いですけど…だから、もう少し違う自分になれたらな…って」

 

 

「…まぁ、中学生になってもコンビニの店員さんとちゃんと話せないような子だったもんなぁ…」

 

「もうっ、翼くん!」

 

頰をプクーっと膨らませて『私、怒ってます』アピールする楓。

 

天性のあざとさはやはり健在なようだ。

 

 

「ハイハイ、悪かった悪かった…ほら、取り敢えずあっち戻ろうぜ」

 

いい加減、喉を乾かせた3人が可哀想だ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

午後イチで行われるのは宣材写真の撮影だ。

 

楓と川島さんは前職のおかげか順調に撮影終了…したのだが、

 

 

「涼くーん、体ガッチガチだよ〜?ほら、リラックスリラックス!」

 

「は、はい!」

 

 

問題はメディア露出(本格的な被写)は初経験の3人。

 

意外なことに三船さんまで、一眼レフなんて持ったことのない俺でもわかるくらいには緊張しているようで、

 

 

「はーい、肇ちゃんも可愛いんだからスマイル〜!」

 

「ぁ…すみません!」

 

 

「美優さーん、表情(カオ)硬いよ〜?もっと自然なのちょーだーい!」

 

「あ、えっと…」

 

 

 

 

 

「んー、まだちょっと硬い感じするね〜…メイクそのまんまで一旦休憩挟もっか!」

 

監督的にこのままでは良い絵は撮れないと判断したのか、撮影は一時中断。

 

 

 

「3人ともお疲れさまだね。取り敢えず、お茶でもどうだい?」

 

いただきますと言って今西さんからペットボトルを受け取った3人だが、そのキャップは一向に開かれない。

 

 

さっきから隣の川島さんに「励ましてあげなさいよ…」みたいな目を向けられているが、俺はこういう場で緊張しないタイプだし被写経験も少ないしでまともなアドバイスは、

 

 

「初めはティーへん(たいへん)ですけど、お茶でも飲んで頑張りましょう♪」

 

 

 

…んん?

 

 

「…あの、楓さん。今のってもしかして…ダジャレ、ですか?」

 

肇ちゃんの言葉に笑顔で頷いた音源()

 

 

「モデルの先輩が、初めての撮影で緊張してたときにこうやって笑わせてくれて…それ以来初めての子と現場が被ったら毎回言ってるんです」

 

ね?緊張解けたでしょう?と続ける楓に満場一致で苦笑いを返す俺たち。

 

 

 

「…でも、確かに緊張は解けた気がします」

 

そう返した三船さんと共に顔を上げた二人、

 

 

「監督、撮影再開しても大丈夫かな?」

 

「ええ、機材とスタッフの方はいつでも」

 

すぐさま今西さんが監督に掛け合い、3人はそれぞれセットの中心へ向かって行く。

 

 

涼くんは元気いっぱいの笑顔を、

 

肇ちゃんは少しはにかんで、

 

三船さんは少し恥ずかしそうに、それでいて此方が見惚れるような微笑みを浮かべて、

 

 

 

 

「ーーうん、みんな良い笑顔だ」

 

今西さんの声が、広いスタジオに響いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

個人用の宣材撮影の後は、一足先に終わってた組も入っての撮影となった。

 

男子二人の写真と女子の集合絵、それから全員の集合写真を撮って…

 

 

カメラマンさんに頼んで1枚だけ今西さんも入った集合写真を撮らせてもらって、スタジオとスタッフさんに一旦お別れ。

 

 

 

ボイスサンプル録りは先に宣材撮影を取ったからか、さっきは硬くなっていた3人も含めてサクサク進み、リテイクも数えるほどで無事終了。

 

 

 

 

 

ノルマを達成した現在、俺たちは346プロの芸能人行きつけの個室居酒屋で夕食を食べている。

 

 

のだが、

 

 

「へーぇ、世界って案外狭いのねぇ…」

 

柚子酒を嚥下してそう零したのは、アイドルの中では最年長の川島さん。

 

 

チビチビ大量に飲んでいるお酒のせいか、はたまた過去語りをされた恥ずかしさか、うっすら頰に赤みの差した楓を尻目に、お酒のせいで若干回りが遅い頭でこうなった原因を考える。

 

 

そう、確かみんなの前で初対面のはずの新人アイドル『高垣楓さん』を呼び捨てにしたからだったか?

 

今西さんのいらんところで鋭いツッコミにより気付いたみんなに問い詰められ…別に恋仲だったワケではないが、昔語りってのは何故か恥ずかしく感じるモノで…って、俺は何に言い訳をしてるんだか。

 

 

川島さんのニヤニヤ顔に反応しないのは、全てを語らされて静かに飲み食いするだけの機械と化した俺のささやかな抵抗だ。

 

 

 

「でも、幼馴染が7年越しに偶然再会するなんて…なんだかドラマみたいですね」

 

肇ちゃんも"そういうの"が気になるお年頃なんだろうが、直接言われたら意識してしまうのは仕方ないわけで、

 

 

「ははは…まぁ、確かに俺も驚いたけど…」

 

自分は赤面していないことを祈りつつビールをあおり、話題の転換を図る。

 

 

「あ、そうだ。取り敢えず連絡先交換しときません?多分これから使うだろうし…」

 

確認の意を込めて今西さんの方を向くと帰って来たのは首肯一つ。

 

 

ほら、とQRコードを画面に表示させると、一部は文句を(もっと弄りたいと)顔に出してではあるが交換し始めた。

 

メニューに目を通し、通路に顔を出す。

 

 

「…すいません。砂肝と鳥わさ、それから生ビール瓶でー!」

 

あいよ!とガタイのいいおばさんの返事を聞いて、顔を正面に戻す。

 

 

 

 

「ーーで、翼くん?」

 

「楓さ〜ん?」

 

 

『続きは?』

 

 

 

…ちくしょう、思春期少女と婚期真っ只中の乙女回路をナメてたぜ。

 

 

 

 

 

 






前書きでは調子ぶっこいて本当にすいませんでした。


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