カズマさんのパーティーに入りたいと、駄々を捏ねる女騎士さん。
名前をダクネスというらしい彼女は、断られれば断られるほど鼻息を荒くしてカズマさんに加入を要望する。
私はこれを、ドMループと名付けようと思う。ループって怖いよね。
そんな彼らの元に、短い銀髪の少女が近付いてきた。
スレンダーで露出の多い軽装、顔に傷のある冒険者の少女だ。
そして、よく見知った少女だ。
「アハハ、ダメだよダクネス。そんな強引に迫っちゃさ」
「あ、貴方は……」
「やぁ、私はクリス。ダクネスの友人で見ての通り盗賊だよ。君、役に立つスキルが欲しいんだってね。盗賊スキルとかどうかな?中々便利なスキルが多いんだ。今ならキンキンに冷えたシュワシュワ一本で手を打つよ」
「へぇ、すいません!シュワシュワ一つ!」
注文されたシュワシュワを一気に飲み干し、彼女はプハッーと声を出した。
美味すぎる犯罪的な美味さだ、とでも言いそうだ。
「ッ!?」
「どうしたんです、クリスさん」
「な、何でも無いよ」
私の舐め回すような視線に、彼女は背筋を震わせる。
綺麗な背中だ、白磁のようで触れれば柔らかそうだ。
弾力を僅かに孕んだ小さい胸に、芯に固さを伴った引き締まった腹筋、背中から腰に掛けてのラインは緩やかで綺麗な曲線の尻。
「……ハッ!?」
「どうしたのえっちゃん?」
「私のエロセンサーが言っている、あのスリーサイズを知っていると」
「……ふざけた名前のスキルね」
な、なにおう!
偽装系や変装から潜伏まで無効化する優秀なスキルだぞ!
私の邪な視線から、逃れるすべはあんまりないってスキルなんだぞ!
魂レベルで体型を特定するエロスキルなんだぞ!
「でも、それは知り合いということなの?」
「知り合いだけどいるはずのない存在なの」
「なるほど、ならばそれは有名人とか故人、あるいは……」
ナナシちゃんは口元を歪めて楽しそうに口にする。
「たとえば、女神とか?」
「すごいよナナシちゃん、シリアスっぽい!」
「アンタの発言でシリアルになったわ、雰囲気ぶち壊しだよ」
そこに気付くとは天才か、とでも言えば良かったのだろうか。
それはそれとして、あの周囲をキョロキョロ見回して何やら警戒している様子の先輩らしき人物に話しかけるべきか。
どうでもいいけど、どうしてアクア先輩は気付いてないんですかね。
「あっ」
「あっ」
「ヤッホー、せんぱ――」
「ちょ、ちょっとごめんね!この子借りるから!」
先輩が素早い動きで私を抱きかかえ拉致していく。
ステータスのおかげか、その動きに無駄は無い。
路地裏まで連れてかれた私は、壁を背に動きを封じられる。
怖い怖い、耐えられない。
横から逃げようとすると、進行方向を遮るように両手を先輩が前に出して遮られる。
「か、壁ドンッ!」
「ななななななっ!」
「どしたの?」
顔を真っ赤にした先輩が、口をパクパクさせていた。
なにそれ可愛い、チューしよ。
「わわわわわわっ!」
「どしたの?」
「キ、キスッ!お、女の子同士ならノーカン!ノーカン!」
なぜか、テンパりながらノーカンを連呼する先輩。
どうした、チンチロでもやるの?
「って、違ーう!何してるんですか!」
「あぁ、いつもの先輩だ」
「なんでいるの!なんでキスしてくるの!馬鹿なの、死ぬの!うわぁぁぁぁぁん!」
「あうあうあう、やめてください死んでしまいます」
前後に揺らされて、頭がクラクラする。
まさか、こんな場所で殺されそうになるとは貧乳恐るべし。
「ど、どうして……アクア先輩すら誤魔化せたのに」
「先輩が魂レベルでエロいから」
「なんで私が悪いみたいに言うの!私が悪いの!うわぁぁぁぁん!」
先輩が泣きながら胸に顔を埋めて来た。
そして、泣きながら胸を叩いてくる。
あの、ちょっと、だんだん力が、痛っ!
「畜生、この胸が悪いのか!」
「いたたた、殴らないで、殴らないで先輩!」
もはや叩くレベルでなく、殴るレベルだった。
何がそうさせるのか、胸への憎悪が彼女が駆り立てるのか。
取りあえず、ヒールお願いします。
落ち着いた先輩は、自分が内緒で下界に降りていたことを教えてくれた。
あー分かる分かる、こういうのエロ同人で見た。
優等生がちょっと非行に走って脅されていやーんな感じになるやつだ。
そんな願望があったなんて……エッチな子!
「先輩ってエッチだなぁ……」
「何で!?何がどうして、そうなった!」
「そんなことより、こんなところで時間を潰していていいんですか?待たせてるんですよね」
「待って!それも大事だけど、さっきのは撤回して!私がエッチな子だって言うの、撤回して!」
「大丈夫です、私は分かってますから!」
「分かってないよ!やめてよ、そのドヤ顔!誤解だよ、誤解してるからね!」
大丈夫です、淫蕩と堕落の女神は全てを受け入れます。
女神がエロいとかラスボス臭が漂いそうで良いと思います。
ともあれ、待たせるのは悪いとのことで私達はギルドに戻った。
なお、先輩は何故か疲れた顔をしていた。
普段デスクワークなのに下界に降りてるから疲れてるんだろう、可愛そうに。
「大丈夫ですかぁ、先輩」
「あぁ、絶対分かってないよ。自分が原因だって分かってないよぉ」
「私が……胸ですか?」
「それ以上言ったら、怒るよ!」
もう怒ってるよぉ……。
怖いので、刺激しないで置くことにした。
ギルドに戻ると、ダクネスと名乗る女騎士さんが床に転がっていた。
両手両足を縄で拘束されて、ビタンビタンと暴れ狂っている。
「ダクネスぅぅぅぅ!」
「おぉ、クリスか」
「何で普通に対応してるの!」
「クリスか、私の事は気にするな。カズマが私を無力な女だと教えてやると、身体を拘束してこれから現実をカズマなりのやり方で教える所だ。きっと、すんごいことに違いない」
「おい誤解を招く表現はやめろ!事実だけど、ドン引きしてんだろ!見るな、お前ら俺を見るなぁぁぁぁ!」
ギルドにいた女性陣から冷たい視線が注がれる。
唯一注いでないのは、ハァハァしながらしゅごいのぉとか言ってる淫乱女騎士ダクネスと私くらいだ。
「……えっちゃん?」
「お前がママになるんだよ!これからお前は公開『自主規制』されて、カズマさんの性奴隷にされるのだ!ですよね、カズマさん!」
「悪化するようなことを言うのはやめろー!違うんです、なんだアンタら!だ、誰だ通報しやがったのは、離せ!俺はまだ何もしていない!あっ、違うんです!まだって言うのは言葉の綾で、やる予定とかないです!」
私の悪乗りで、カズマさんが連行されていく。
……やり過ぎちゃったぜ。まぁ、無実だから大丈夫だろう。
だから無表情で私を見るのをやめて下さい、ナナシちゃん。
「後で保釈手続き」
「りょ、了解です」
ふぇぇぇ、ハイライトのない目が怖いよぉ。
夜、カズマさんは無事に解放された。
真実を見極める魔道具とやらを使って無実を証明し、そして違法捜査だの冤罪のでっち上げなどクレームを付けた上で、ろくに事情聴取もされなかった事を理由に訴えるとまで言って、慰謝料を貰って帰ってきた。
しゅごい、タダでは転ばないハングリー精神を垣間見た気がする。
「ごめんね、カズマさん」
「くっ……ゆ、許さないからな」
「えぇ、ダメぇ?ほんの、出来心なんだけどぉ」
「……今回だけだからな」
抱きついてやれば、流石のカズマさんも怒るほどでは無いと許してくれた。
横でぼそっと、女性陣が最低だの、男って馬鹿だの言ってるが、私もそう思う。
さすがカズマさん、社会的に潰そうとした人間を許せるなんて中々出来る事じゃ無いよ。
なお、煽りでは無く本心である。
「結局、スキルを教えて貰おうとして口論になって冒険者は弱いと言われた事にカチンと来たからああなったと、まったくもう人騒がせだよ」
「クリス、少し黙れ」
「なんで!?」
「良いところで、くっ!」
悔しそうなダクネス。
まぁ、何があったかというのは大体エリス先輩が言っているとおりの事だった。
冒険者を舐めるなよ、ようはスキルの使いようだ、上級職だからって強いわけじゃ無い、俺が勝ったらパーティーに入れないって感じのやりとりだったらしい。
カズマさんが思いついた上級職の倒し方で無力化するという意味が、あの誤解を招くような言葉には込められてたのだ。
「カズマ、勝負はまだ付いていないぞ!さぁ、いますぐ続きを」
「もういいよ、俺の負けで良いから、帰れ帰れ」
「くうぅぅ、関わりたくないからと負けを認めてまで追い出そうとするとは、やるな!じゃあ、パーティーに入れて貰えるとのことで、また来るぞ!」
「もういやだぁぁぁぁぁ!ナシ、今のナシで!」
ててーん、カズマさんのストレスがマッハになった。