むすっとした顔でナナシちゃんが飲んでいた。
あれから数日、私達は別行動をしていた。
一緒にいない、たぶんこれが一番早いと思います。
そういうわけで、レべリングは単独である。
「どうしたの、ナナシちゃん。睡眠以外カエルを狩ってたのに珍しい」
「人を獣の血に飢えた狩人みたいに言うのはやめて。それにしても、アンタはアンタで適応してるわね」
「えー、そんなことないよぉ~」
そう言われるが私は今までなにもしていない。
そう、何も!して!いない!
ただ、ギルドに入り浸って仲良くなった人と食事をしていただけだ。
冒険譚という自慢話を聞いたり、プレゼントを貰ったり、プレゼントをギルドに売ってお小遣いにしたくらいしかしてない。
「どうして働いてないのに、収入があるのよ……」
「エロけりゃ誰にでも股を開く訳じゃないよ。良い女ってのは抱かれずに貢がせるのよ」
「キャバ嬢としてもやっていけそうね」
まぁ、男心は分かるからね。
権能的にヒモになる才能はあるのである。
「それよりどうしたの?んー?」
「カエルが全滅した。ここら一帯で見当たらなくなったわ」
「何をしたんだよぉ……」
冬眠から目覚めたカエルがいたはずなんですが、おかしい。
「モンスター寄せからの自爆特攻してたらいつの間にか……」
「揮発性の毒とか、もはやテロだよぉ」
「うるせぇ!踊り子みたいなエロい格好して貢がせてる悪女が!このエロテロリストがぁ!」
「いたたた、もげる!ポロリしちゃうからやめぇ!」
どうしてナナシちゃんはことあるごとに掴み掛かってくるかなぁ!
自分のを揉みなさいよ、まったくもう!まったくもうだよ、まったくもう!
そんな私達と対照的に、生活が苦しいのがカズマさん達だった。
「カズマさぁぁぁん!お願い、お願いよぉぉぉ!」
「ざっけんなぁ、自分がツケで飲んでたんだろ!だいたい、金があるわけないだろ!」
「なんでよ、こないだのお金はどこ行ったの!使っちゃったの、馬鹿じゃ無いの!」
「馬鹿はお前だ、お前が全部使ったんだろうが!その上、ツケで飲むってどういうことだ」
またやってるよ、と周囲に思われるようなやりとりを二人がしていた。
ギルドに入ってきて早々、アクア先輩が腰に抱きついて懇願するもスルーしていたが泣きつかれて動けないカズマさんがそこにいた。
まず、最初の時点でスルーしようとする当たりが中々クズい。
「よし分かった、俺に良い考えがある」
「なになに、へそくり?やだぁ、それなら早く」
「お前の装備を売ろう。何、ギャルのパンティーが高値で売れることだってある。見た目だけなら、まぁ」
「だ、ダメよ!この羽衣は私の唯一のアイデンティティーなのよ!やめて、取らないで」
「うるせぇ、こちとら金がいるんだよ」
「やめてぇ!私の大事な物を奪わないで!そんな、無理矢理!力尽くなんて最低よ!」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ!事実だけど、誤解されんだろ!」
可愛そうなアクア先輩、いいぞもっとやれ。
しかし、現実は非情であった。
二人を見ていたら、アクア先輩と目が合ったのだ。
……し、知らないよぉ。
「ちょっと、アンタいいとこにいるわね!金貸しなさいよ、もちろん無期限よ!」
「それはもはや貸してないよぉ」
「いいから来なさい!」
先輩の命令は絶対、逆らうと余計に酷くなるってアクシズ教徒に関わったことがあるから知ってた。
私は諦めて先輩の元に向かう。
「はぁ……」
便利な固有スキルである、浮遊スキルによってふよふよ漂うように浮きながらに移動して先輩の元に行く。
このスキル、無重力みたいな感じで歩かなくて良いから楽である。
「なにそれすげぇ!?」
「エリス先輩が、私のエリス先輩がアクア先輩に奪われる」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、事実だけど誤解されるでしょ」
さっきと同じように固有スキル、エクストラポケットというものを使う。
すると、空間にチャックのような物が出てそこが異空間と繋がっている。
よくあるアイテムボックスという奴である。
持ち運びの労力を減らし、楽したいというまさに堕落の神らしいスキルである。
「お、王の財宝か」
「どっちかっていうとスティッキィ・フィンガーズ」
アリーヴェデルチするエリス先輩は、強面の冒険者達の手にアクア先輩から渡された。
『人身売買されたみたいに言うのやめてくれる!?』
おっと、なんか変な電波を受信した気がしたぞ。
借金を払って上げたが、そこはカズマさん。
流石に払うよと良心の呵責からか働くことを決意した。
カズマさん、ギルドで働くってよ。
「あーそ、じゃあいってらー」
「お前も行くんだよ、アクア!」
「そうですよ、後輩からカツアゲはどうかと思います」
「めぐみん、この世は弱肉強食。自然の摂理って奴よ」
「なるほど、一理あります」
「納得すんなよ。調子乗るだろ」
あぁ、相変わらずアクア先輩はフリーダムである。
そして、カンストしているステータスが憎い。
これ以上成長が見込めないのだ、そうエリス先輩の胸と同じようにね。
神様は最初から完成してるから成長しないのだ。
『が、頑張れば大きくなりますぅ!』
おっと、また謎の毒電波を受信したぞ。
「すまない。まだ、このパーティーの募集はしているのだろうか?」
私が虚空を見つめて、アへ顔を晒しているとカズマさんの方で声が聞こえた。
正気に戻って、其方を見れば金髪碧眼の女騎士がいた。
「はいはいくっころくっころ」
「くっ……何故だか呆れられた視線を感じる」
「大丈夫ですよお嬢さん、上級職の方は大歓迎です。ハッハッハッ」
「そ、そうか……なんだか思ったのと違う、いやだがまだ本性が出てないのかもしれない」
女騎士さんはブツブツ言ってるが、なんだろう。
私の権能が囁いている、私の中の権能が囁くのよ。
コイツはやべぇ、すげぇ性癖の臭いがプンプンするってな。
「ねぇ、えっちゃん。あの人、なんでモジモジしてるのかしら」
「それはね、ナナシちゃんと私がヤバい奴を見るような目で見ているからだよ」
「ねぇ、なんでカエルの話を聞いて興奮してるの?馬鹿なの、変態なの?」
「それはね、やっぱりヤバい奴だからだと思うよ」
私達を余所に、めぐみんが「おぉクルセイダーとは壁役として素晴らしい」と褒め称える。
アクア先輩も「これでパーティーの防御も完璧ね」と太鼓判を押している。
カズマさんも「よし、これだよ。こういうのを求めていたんだ」と喜んでいる。
あっ、これアカン奴だ。
「絶対、あの三人がいいねしてるのはヤバい」
「そうね、めぐみんの時にアクアさんが喜んでいたのに通じる物があるわ」
「ちょっと説得してみる」
私はカズマさんの方を見ながら固有スキルを発動する。
スキル、オラクル。
視界に入ってる人間と脳内で会話が出来る、ただし瞬きできない。
『聞こえますか、聞こえますか……私は今、貴方の脳内に直接語りかけています』
『この声はえっちゃん、そんなニュータイプだったのか』
『ファミチキ下さい』
『これもスキルか、すげーな』
目と目が合う、瞬間好きだと気付いた。
じゃなくて、順応早っ!
頭の中で声が聞こえたカズマさんは私の方を見ながら何やら納得した様子を見せていた。
普通に対応できるのはすごいと思います。
『コイツ、直接脳内に……それでご用件は?』
『神は言っている、その女はやめなさいと』
あっ、ドライアイ。
目がシバシバするので、オラクルを中断。
返答は聞かなかったけど、伝わったよね。
流石のカズマさんも一周冷静になって横の二人の様子を見て悟ったようだった。
「取りあえず、少し時間をくれないか。すぐに決めるのは良くないと思うんだ」
「何でよ!アークプリーストに、アークウィザード、そしてクルセイダーのパーティーになれるのよ!」
「そうですカズマ、パーティーの防御力が上がればなんの憂いも無く我が爆裂魔法も撃てますよ!」
「やっぱりナシで、これからのご活躍お祈りしています」
「なんでよぁぁぁぁ!?」
二人の熱い推しに、カズマさんは決意を固くしたようだった。
「はうぅん!」
「えっ?」
「……どうした?」
「いや、今、えっ?なんか今」
「言ってない」
カズマさんの質問に、キリッとした顔で否定する女騎士を見て気付いた。
コイツ、ドMだ。