このビッチな女神に祝福を   作:nyasu

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冒険者にエロ魔法を

「火力が足りない」

 

翌日のことだった。

宿屋のグレードをあげるには稼ぎが少ない。

ならば、ギルドで朝まで過ごすというギルド難民と化していた私の近くでカズマさんが言った。

どうやらカズマさんは、昨日の冒険から経験を活かして仲間を増やすことにしたらしい。

ちなみにウチのナナシちゃんは逆に自分を鍛える道を選んだ。

他人に頼ろうとするカズマさん、自分を頼ろうとするナナシちゃん。

同じ冒険者でもスタイルが違う。

まぁ仕方ない、冒険者は最弱職、人にスキルを教えて貰えなければただのデメリットの塊、ぼっちなナナシちゃんには向いてないのだ。

早くレベル上げて転職を進めます。

 

「急にどうしたんですか、カズマさん」

「おいえっちゃん。まさか、ここに泊まったのか?」

「暖かいですからね……」

 

占領していたテーブルから布団を剥ぎ、元に戻す。

テーブルとテーブルをつなげると、ベッドになるんだからテーブルすげぇ。

 

「よく追い出されなかったな」

「ガチ泣きしてやれば、こっちのもんですよ」

「誇っちゃダメだろ」

 

あれは怖かった。

ルネさん激おこぷんぷん丸だったからね。

ストリップで小遣い稼ぎしてたくらいで怒られるとは思わなかったけどね。

別に誰かと寝てないし、ギルドで『自主規制』した訳じゃないから怒ることでもないと思うんだよね。

 

「カズマさん、お腹は空きませんか?」

「なんだ、なんか食べ物でもあるのか?まぁ空いたけど」

「ではちょっと待って下さいね」

 

取り敢えず朝ごはんを調達する為に酔っ払い達に近付く。

みんな酔い潰れて寝てしまっている。

お酒は最高だもんね、仕方ない。

 

「ダストさん、ダストさん、朝ですよ。よし寝起きですね」

「……なんで服を着てるんだ?」

「ブレインウォッシング。ダストさん、お腹空きました。ご飯下さい」

「財布はそこにあるから……後で返してくれ」

 

意識が朦朧としている状態だったので軽く魔法を掛けたら、あら不思議。

これで懐が暖かくなります。

これを何人かでやって、さぁ朝ごはんです。

 

「なっ……そんな手がっ!?」

 

途中、ガタッと立ち上がった姿勢のまま固まった紅魔族の子がいたが、君じゃこの手は使えなさそうである。

ホクホク顔で帰ってみれば、カズマは両手をあげて喜んだ。

 

「エロ系魔法って便利だな。洗脳とかエロの定番じゃ無いか」

「でも、魔法抵抗値によっては効かないよ」

「……催眠術みたいなことは出来ないのか」

 

 

例えば酒によって肉体が弱り、色気によって視野が狭くなり、眠気によって意識が薄くなり、好意によって判断が甘くなり、そうやって心の隙間が出来た相手でないと効かない魔法である。

まるで戦闘には役に立たない、健常者に対しては無意味な魔法である。

 

「他には何があるんだ?」

「液体に粘性を与える魔法や一時的に意識を反らす魔法、意識を固定する魔法や透明になる魔法」

「時間停止とかソープとか企画物なアレか」

「女神固有の魔法だからポイント的に無理かも」

 

言うなれば、ゴッドブローやゴッドレクイエムがそれに近い。

固有の魔法、それすら習得が出来るのは冒険者の強みだが運命という摂理をねじ曲げるにはそれ相応の代価が必要だ。

楽して覗きを働くことは出来ないのである。

相手の時間を止めたりも出来ないのである。

 

 

「そういえば、あの子はどうしたんだ」

「ナナシちゃんのこと?」

「一緒にいないってのは、何て言うか珍しいからな」

 

カズマさんは言うとおり、ナナシちゃんとは昨日から一緒にいない。

そこに気付くとは天才かと思わず反応してあげたくなる。

私とフィーリングが合うカズマさんと違ってナナシちゃんは対極的な人間。

つまりは、身持ちが固い真面目さんである。

そんな彼女がこんな世界ですることと言えば、ひたすらストイックに身体を鍛えることに決まっていた。

 

「彼女はレベリング中だよ」

「おいおい、ゲームでもしてるのか?」

「間違いじゃ無いよ。だって、この世界はまるでゲームのようだからね」

 

この世界は過酷で、しかしそれを覆い隠すように非現実的だ。

神すら干渉できないような魔王なんて化け物がいる時点で過酷だと分かるのに、ゲームのような世界観がそれを当たり前のようにたらしめる。

神がチートを与えているのに、チーターが沢山いるのに、それでも勝てない魔王はゲームのラスボスのように倒せる相手か?私はそうは思わない。

少なくとも、チートを持った転生者よりも強い女神すら魔王をどうこう出来ないのに、それ以下の人間が出来るはずが無い。

出来るとしたら、キャラ性能では無くプレイヤースキルがすごい人だけだろう。

弱いままで弱いなりに戦う人こそが魔王を倒せるのだ。

 

「どうせ無駄なんだから、無理することはないのに、それでも頑張っちゃうんだよね」

「あー、何て言うかしんどいな。ってことは、モンスターと戦ってるのか?」

「私に良い考えがあるって行って出掛けたよね」

 

私は最初から期待しないし諦めている。

いつか誰かが勝手に解決して大団円、それを眺めて一件落着を待っている。

でも、そんなことを彼女は納得出来なかった。

出来ない彼女は彼女なりに戦う道を選んだ。

魔王と同じ土俵で、魔王と同じ世界観で、魔王と戦おうとした。

彼女は本気で魔王を倒そうと思っているのだ。

その結果、彼女はゲームのような世界をゲームのような方法で解決しようとした。

 

「そういえば、昨日からアクアがいないんだがそれと関係あるのか」

「大正解だよ。先輩ってああ見えて優秀だからね、効率を重視するナナシちゃんがほっとく訳が無いんだよ」

「レベリング……アクア……一体何の関係が」

 

首を傾げるカズマさん。

まぁ、そのすごさを理解するって言うのは難しいよね。

普通のプリーストと比べれば分かるけど、アクア先輩レベルの支援や回復はポンポン出せる物じゃない。

怪我をした、回復します、HPマックスなんてのはゲームの世界だけだ。

現実だと、怪我をした、回復します、気休めだわグフッでデッドエンド。

それほどまでに人格はあれでも女神はすごいのだ。

 

そんなスゴイ女神という特大のチートを無意識で選んだとしたら、もうそれは途轍もないことだ。

幸運なことに、価値を知らなくても最良の存在を引き当てたって訳だからね。

 

「ダメだ、降参だ」

「先輩は水の女神なんだよ。その水は、神が与えた聖なる水、つまりは聖水って訳だ。先輩が出した水は全て聖水になってしまう。そして女神は救いを与える存在だからアンデッドを呼び寄せてしまうんだ」

「今の流れだともしかして、墓地にでも行ってるんじゃないだろうな」

「ゲームばっかりしてるだけあって、気付くのが早いねカズマさん」

 

そう、ナナシちゃんが行っているのはアンデッドに対して弱点特攻を行うことでのレベリング。

囮は女神アクア、攻撃手段は先輩の出した聖水、そしてあとは聖水を掛けるだけのお仕事である。

ゲームで言うならやってくる敵をAボタン連打で攻撃して倒しまくるに近いかもしれない。

アンデッド討伐→酒を買って奉納→代わりに聖水を渡される→それでアンデッド討伐→以下ループ。

例えるなら無限アクア式レベルアップシステムとでも言っても過言じゃ無い。

 

「下世話な話、先輩の体液でも効果はあるから縛って放置でもレベル上げられるんだよね」

「なるほど、いいことを聞いた」

「その場合、経験値のマージンが減ってしまうのが難点だけどね。貢献度的に考えると囮の方が貢献しちゃうから、経験値配分が微妙になる」

「本当、ゲームみたいな世界だな」

 

二人してしみじみとそんな事を、一日中喋っているのだった。

結局、仲間になりたそうな人は来なかったよ。

 

 

 

 


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