このビッチな女神に祝福を   作:nyasu

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貞操観念の弱い女神に先輩を

チュンチュン、チュンチュン、そんな小鳥の囀りが耳元で聞こえた。

朝チュン、朝チュンなのか!これが例の朝――。

 

「しゃぁぁぁ!異世界だぁぁぁぁ!」

「あぁ、現実が襲いかかってきた」

 

もう駄目だ、お終いだーと項垂れてる私の横でどこかの海賊王を目指している男のように両手を挙げて叫んでる女がいた。

私を特典に選んだ迷える魂ちゃんである、名前は調べてなかったので知らない。

 

「さぁ、女神様冒険よ!最初は何をしたらいいの?」

「その前に、不具合とかありませんかね?」

 

なんか、ヤバめな雰囲気を醸し出すような異音が発生していたんですが、恐らく記憶障害くらいはありそう。

一番酷いと肉体がゲル状になったりするけどそれは無さそうなので一番有力だろう。

 

「不具合?何それ、そんなのありま……」

「あぁ、やっぱりありますよね。てへっ、とかあの野郎言ってましたもんね」

「待って待って、名前が思い出せない!私の名前って何だっけ?」

「知りませんよそんなの、迷える魂ちゃんって呼んでましたから」

「えぇぇぇぇぇ!?ちょ、ふざけんな!どうすんの」

 

それは、まぁここで新しい名前を名乗るのはどうでしょうか。

例えば、ああああとかそういう名前にするとか。

滅茶苦茶強くなりそうな名前ですよ、勇者ああああとかね。

 

「まぁ、第二の人生ですし名前だけで良かったじゃないですか」

「名前っていうか、前世の記憶が殆どないんだけど!」

「セーフですね」

「アウトだよ!限りなくセーフに近いアウトだよ!」

 

でも死んでないですし、死ななければ安いので問題ないと思います。

それにしても、周囲の視線が辛い。

あぁ、外とか怖いし日差しがキツイ、休みてぇ……。

 

「もう、この際名前はいいわ。ナナシとでも名乗ることにしましょう」

「そうですね」

「それで、さっきの話だけどどうすればいいの?女神様、サポートしてよ」

「すいません、部署が違うのでこの世界の事とか知らないです」

「……えっ?」

 

正直、仕事できない。

私が事実を言うと、彼女は固まってしまった。

数秒のフリーズ後、再起動した彼女は私の両肩を掴んだ。

そして必死の形相で前後に揺らし始めた。

やめてください、死んでしまいます。

 

「どー言うことよ!アンタ、女神でしょ!なんで、サポートできないのよ!」

「あうあうあう、揺らさないで下さい」

「じゃあ何が出来んのよ、これからどうすんのよ!」

「取りあえず、街でも目指せばいいんじゃないですか」

 

そしたら、膝に矢を受けてしまった衛兵さんに遭えるはずなので、とイベントを進めることを提案してみた。

そして、私たちは道なりに進むことでアクセルという街にやってきた。

始まりの町アクセル、ここはなぜか駆け出しなのにレベルの高い冒険者のいる不思議な場所。

そんな紹介をされながら、私たちは足を踏み入れた。

 

「まずは冒険者に登録するといいって聞いたわ。行くわよ、えっと」

「キラキラネームなので、えっちゃんて呼んでください。本名は死にたくなるので」

「因みにどんな名前」

「エロースです。いや、実際エロいですけどね」

「それは……なんというか、まぁ神様だしありっちゃありなのか?うーん」

 

正直、なんでこんな名前のなのか教えてほしい。

名前のせいで、私はエロエロなんだからな。

神様ってイメージに左右されて、性質が決まっちゃうんだからな。

まぁ、そんな悩みを頭の片隅に放り投げながらも冒険者ギルドにやってきた。

 

ギルドに入るとさっそく知らないオッサンから、ようこそ地獄の入口へと強面な方が案内してくれた。

受付を案内してくれるとはいい人である。

 

「冒険者登録には千エリスが必要です」

「えっ?」

「えっ?なにそれ聞いてない」

 

迷える魂ちゃん改め、ナナシちゃんが受付嬢に突っ掛かっていた。

そうか、お金を取るのか。借金する形で登録とか、あっできないですかそうですか。

 

「ねぇ、ちょっとエロ……えっちゃん!お金持ってる」

「持ってないです。なので、ちょっと稼いできます」

「えっ、どうやって?」

「あそこの酔っぱらいを路地裏にでも誘い込んで」

「まさかのカツアゲ!?」

「ちょっと、火遊びついでに寄付をして貰おうかと思います。任せてください、これもサポートの一環ですからね」

「それって、ちょ、おま!?ダメだろ、何しようとしてんだ!」

 

大丈夫です、初めてですけど知識はあるのでいけます。

千エリスと言わず、数万エリス稼いできますよ。

 

「待って待って、罪悪感がすごいことになるから早まらないで」

「私は犠牲になるのではない、未来へ礎になるだけです」

「かっこいい風にまとめないで、やろうとしてることは頭おかしいから」

 

良い案だと思ったのだが、ナナシちゃんの全力抵抗により断念せざるを得なかった。

仕方ない、こうなったらあそこの老人辺りに貸してもらおう。

移動するだけで何故か警戒するナナシちゃんを背後に、私は優しそうな老人に話しかけた。

 

「すみません、エリス教徒の方ですか?」

「そうですが、貴方は」

「実は私達遠くから来たところでお金がないので貸してもらえませんか。なんでもしますので、お願いします」

「ちょ」

 

後ろでナナシちゃんが驚いているが、別に問題はなかった。

老人は、女性がなんでもするなんて言うもんではありませんよと言いながら二千エリス貸してくれたからだ。

やっぱり頼るべきは先輩の力だって分かんだね、本当にエリス教徒は最高だぜ。

 

ともあれ、無事にお金を手に入れた私達はさっそく登録することにした。

 

「それではカードを……えっとナナシ様は普通のステータスですね。これだと冒険者しかなれませんがよろしいですか」

「えっ、冒険者登録なので冒険者ですよね?」

「あぁ、ジョブの冒険者にしかなれないという意味です。最弱職となってしまいますが、色々なスキルを覚えられますよ」

「へぇ、そうなのかー」

 

じゃあそれでと、気軽な感じでナナシちゃんは承諾する。

お姉さんが再三に渡って本当にいいのか聞いてくるのは心配だからだろうか。

次に、私の番がやってきた。

 

「こ、これは……!?」

「えっ、やっぱりえっちゃん腐っても女神だし強いのかな」

「魔力と知力以外は人並以下、なんですかこのステータスはどうやって今まで生きていたんですか!?」

「えぇぇぇ……」

「魔力はあるので、ウィザードにはなれると思います。頑張りましょう、頑張っていつか上級職になりましょう」

「分かりましたぁ……」

 

どうです、これでも女神ですよなんてドヤれると思ってた頃が私にもありました。

まさか、人間以下とはなんという女神の面汚し、もう働きたくない。

むーりぃー、冒険とかむーりぃーです。

 

「その、頑張って」

「明日から頑張ります」

「それ、頑張らない奴だよ!」

 

ナナシちゃんのツッコミが冴え渡る。

すいません声の音量下げてもらってもいいですか、メンタルボロボロなのでキツイです。

しかし、ダメージを受けながらも私達は冒険者登録が出来た。

やったね、私達の冒険はこれからだ。

 

「さぁ、依頼を探すわよ」

「えぇぇぇぇぇ」

「働きなさいよクソニート、晩御飯代とか借金を返すわよ」

 

結局、モンスターの討伐はまだやめとけと周りから忠告されたのでギルドでバイトする依頼を受けることにしました。

注文された品物を運ぶだけのお仕事です。

休憩しながら頑張りましょう。

 

「って運びなさいよ!」

「セルフサービスです」

「サボりでしょ!」

「違います、お客様に捕まってしまったので仕方なく動かなかっただけです。私は悪くない」

 

バイトをしていると、目敏いナナシちゃんに注意されてしまいます。

でも、仕方ありません。がっちり腰をホールドされてるんですから動けませんよ。

この人誰だっけな、確か名前はダ……ダーなんとかさんである。

取りあえず、胸に顔を突っ込んでおけば注文してくれるいいお客さんである。

 

「げへへ、もう一杯シュワシュワ頼んじゃおっかなぁ」

「本当ですか、シュワシュワ追加でお願いします」

「不健全!違う仕事になってるから!何してんの、こっち来なさい!放しなさいよセクハラ男!」

「あぁ、俺のおっぱいが!」

 

名残惜しそうに手を伸ばすダーなんとかさん。

またシュワシュワを注文したら会いに行ってやろう。

 

「もう、どうしてそう貞操観念という物がないかな!浮世離れってレベルじゃないからね、とんだビッチよ!」

「別に胸くらい触らせても」

「ダメに決まってるでしょ」

 

減るものじゃないしと思うのは、元男だったからってのもあるのだろうか。

それとも、私の信仰の属性というか権能というかがそっち系だからなんだろうか。

実際問題、司るそれに影響を受けてしまうのは仕方がない。

自分としても、馬鹿にされるから変えたいんだけどなぁ。

 

「はぁー、今日も一日頑張ったわ。やっぱり、仕事終わりにはよく冷えたシュワシュワよね。さぁ、じゃんじゃん飲むわよ」

「おい、冒険するための土木作業だってことを忘れるなよ」

「馬鹿ね、そういうことは明日考えればいいのよ。今を楽しむ、それがアクシズ教徒っていう物よ。すいませーん、シュワシュワひと……」

 

ナナシちゃんの説教中、新規で入ってきたお客さんに呼ばれて仕方なく振り返ると、そこには見知った顔の青い髪の女が固まっていた。

あっ、こえアカン奴だ。

 

「ねぇねぇ、もしかしてアンタ!」

「違います、神違いです!」

「いや、絶対そうよ!久しぶりね!アンタもこっちに来てたのね」

「おいアクア、あのすんごいエロい姉ちゃんは知り合いなのか?」

 

神は言っている、ここは逃げるべきだってな。

私が言うんだから間違いない、私が神だからだ。

 

「ちょ、待ちなさいよなんで逃げるの!」

「ふぎゃ!?」

 

しかし、現実は非常である。

ば、バカな!筋力のステータス高っ、なんで力強い先輩なんだこの人!

 

「おぉ、黒のTバック。下着までエロい」

「えっちゃん、パンモロしてる!隠して隠して」

 

ナナシちゃん、それどころじゃないです。

この悪気なく人を不幸にする先輩女神をどうにかしてください。

 

「無視すんじゃないわよ、こっちは先輩なのよ!」

「神違いです」

「んな訳ないでしょ、才色兼備なアクア様が間違えるわけがないわ。アンタ、『淫蕩と堕落の女神エロース』でしょ!エロいこと四六時中考えて仕事サボってたエロースでしょ!我がままボディでエリスに精神的ダメージを与えてたエロースでしょ!」

 

やーめーてー、そうだけど公衆の面前で言わないで、ザワザワしてるから!

なにこれ、公開処刑!もう、街から出たいんですけど。

 

「あー、そういう設定を口走ってる痛い子なんで気にしないで下さい。おいアクア、よくわからんが困ってるだろ。あとは俺がやるから代われ、できれば朝まで二人にしてくれ」

「設定じゃないから!この子も私も女神!女神なんだから!」

 

なんてことを口走ってと思っていたら、アクア先輩の横にいた男の人の説明に周りの人間があーと納得する。

すごい、ナイスフォローだ。フォロ方さんとでも渾名を付けてあげようか。

ありがとうフォロ方さん、でもパンツ凝視しすぎぃ。

 

「なんだ騒いでるのはいつもの頭の可笑しい姉ちゃんか」

「またいつものアクシズ教徒か」

「あっ、壁塗りプリーストの姉ちゃんか」

「なーんーでーよー!敬って、私女神なんですけど!」

 

この広い世界で、何故だか私はアクア先輩にエンカウントした。


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