目の前で微笑む女性に、私は上京した若者が久しぶりに会った両親と何を話せばいいのか分からないような気まずい雰囲気になった。
女性の方も微笑しながらわたわたしている。
ナナシちゃんはそんな私達を無視して爆発するポーションなる物を物色していた。
「こんにちは」
「こんにちは」
「…………今日は良い天気ですね」
「雨ですけど、アンデッド的には良い天気なんですね」
「…………」
「…………」
気まずい、ただただ雰囲気が悪い。
ウチの信者が鼻歌交じりに買い物しているせいで、私は気まずい。
なんで、馴染みの店の店主がアンデッドなんだよ。
「どうした、いつもならセクハラの一発かましてる頃合いなのに大人しいじゃ無いか」
「これはリッチーなの、正直生理的に受け付けない」
「うん?元は人なのだろう、滅せることが出来るから生きてるか死んでるかの違いじゃ無いか」
「あの、そう言う考え方もどうかと思いますけど。あと、生理的に受け付けないんだ……」
へうっ、と変な声を出しながら萎れる店主。
店主の名はウィズ、氷の魔女と恐れられた冒険者だったリッチーらしい。
あの雑魚であるベルディアに死の宣告を受けた結果、仲間達が呪われてしまい、それを解除するべくリッチーとなって効率厨となったあげく、攻略組かってくらいの勢いでラスボスと戦って、今では仲間達が来るのをアクセルの街で店をして待っているとのことだ。
なお、仲間の呪いは解けた模様。
まぁ、人間レベルだと解除できないのは当たり前であり、つまりは魔法は無効化するモンスターだぜとか言ってドヤ顔してたオッサンに、オラ人間レベル以上の魔法だゴラァ、そんな魔法を無効化するはずなのに、知らなかったのか低レベルの魔法以外無効化できないぜ、みたいな感じのやりとりをぶちかませなかったのが原因だ。
今回は、人間程度じゃ解除出来ないぜとドヤ顔するベルディアをアクア先輩というチートでゴラァとぶん殴ったかのように解呪してやったわけだがな。
そう考えると、もうちょっと遅くベルディアと戦えば良かったのだが、こればかりは運が悪いと思われる。
「うん、まぁ、例えばゴキブリを見てキャーてなる人がいるでしょ、それが女神。ゴキブリを見て、無言でゴキブリだって固まるのが私、みたいな」
「ゴキブリ……私、ゴキブリ……」
「おい、ゴキブリとか失礼だろ!」
「ナナシさん?いいんです、私……」
「叩いたら死ぬ程度のステータスの低さじゃないか。そこは、寄生虫のような悪魔と評するべきだ」
「あれぇ~?」
私の説法によってナナシちゃんも悪魔は寄生虫と認識していたようだった。
それはそれとして、ウィズが分かんないよって顔で困惑していた。
それはもう、たゆんたゆん、ぼよんぼよん、ふわふわもちもち、な感じの物を机に押しつけてだ。
なにこのリッチーエロい。
「あ、あのどうして私に抱きついて……ひゃぁ!?ちょっと、触らないで」
「まぁまぁ、まぁまぁ」
「本当にあぁぁぁぁ、温かいのがいっぱいっ!……身体が、身体が溶けちゃう!逝っちゃいます、私逝っちゃう!」
「おいやめろ、身体が透けてるだろ触るんじゃ無い」
その魅惑のボディーに誘惑されて、綺麗なクッションにわーいってしてたらリッチーの身体が蒸気を発してしまった。
蒸気の出る乳マスクか、流石だなとか思ってたのだがどうやら触れた場所から浄化されていたらしい。
なるほど、私もアクア先輩ほどでは無いが触れるだけで浄化が出来るらしい。
エロいことをすれば悪いところが全部無くなるとは、流石エロの女神様なだけあるぜと自画自賛である。
「なん……だと!?」
「どうしたのナナシちゃん」
「コイツを見てくれ」
「すごく……コタツです」
ナナシちゃんの指差す先には普通のコタツがあった。
普通のである、産廃しかないと噂の店に普通のコタツである。
まさか、乗ったら動き出すとか言うオチじゃないだろうな。
「そ、それは冬に使える暖房器具のはずが、一度入ると出ることが出来なくなってしまう捕獲用のアイテムです。英気を養って冬も仕事をする冒険者を増やそうというコンセプトで作られたのですが、買った人は冬に出歩かなくなってしまう悪魔のアイテムです」
「やっぱりコタツだ!」
「ふむ方向性としては、ある意味産廃なのか。本末転倒なところは他の商品に通じることがある、勿論買いだ」
まさに堕落にふさわしいアイテムである。
ナナシちゃんは、買わない方がいいですよというウィズの言葉を無視して即買いであった。
それにしても、これをダメなアイテムだと思ってしまうウィズは真面目なのかそれとも商才がないのか。
「あうぅぅ……まだ、身体に残ってる……」
「へい」
「ほわっー!?やめて下さい、消えてしまいます」
タッチするとプスプスして湯気が出るから楽しくてついである。
やっぱりおっぱいは偉大だ、君はゴキブリからテンガに格上げしたからな。
「おい、それくらいにしてあげなさいよ」
「アンデッドは人権がない、つまりエロいことしても犯罪じゃ無いんだよ」
「やめて下さい、死んでしまいます」
アンデッドでも発情するのかとか試したかったのだが仕方ない。
ヌルヌルにしただけで昇天して、消え去りそうだからこれぐらいにしといてやろう。
「それにしても、ナナシさんが街にいるなんて珍しいですね」
「今は冬だし、モンスターいないなら狩らなくてもいいかなって」
「やっぱり珍しいですね」
「なんで!?」
気付いてないかもしれないが、今までのナナシちゃんなら外に行ってたと思う。
冬将軍とやらがいるらしい、レアモンスターだ、負け確定イベントだったよ、このワンセットくらいやってのけそうである。
そんなことをしてるのは今のところアクア先輩達だけで、働いてないことは珍しい。
休むことを、強いられてるんだ!
「そんな筈は……あれ、でも、あれ?」
「まぁまぁ、まぁまぁ」
「たまにはいいのよ。明日から頑張るわ」
取りあえず、買ったコタツを持ち帰ってぬくぬく過ごすことにするのでした。
コタツを運びだそうとしていると、来客があった。
「ごめんください、ウィズさんはおりますか?」
「はい、おりますが」
「あぁ、良かった」
その来客は、不動産屋さんだった。
なんでもウィズに除霊を頼みたいそうだ。
払っても払ってもすぐ幽霊が集まるから困っている不良債権らしい。
「私に良い考えがある」
「えっ?誰だアンタら」
「除霊してしんぜよう。何を隠そう、ここにいるお方はモンクである」
「えっ?いや、ウィズさんに」
「まぁ、それは良い考えですね」
「えっ?ちょっと、ウィズさん?」
よし決まりだな。
ということで、おねだりの末に除霊する報酬として屋敷を手に入れることが出来た。
なお、女の子の幽霊が出るらしい。森の洋館かな、ポケモンを思い出すぜ。
屋敷にやってくると、本当に幽霊だらけだった。
「破ぁー!」
「聖職者ってスゴイ」
ナナシちゃんが屋敷に入ってから幽霊を殴って始末していた。
殴れれば倒せる、真理だ。
「それはそれとして、新居だからね。お供え物しておこう、勿論のことだが私宛に」
「それ、ただの夕食じゃね?」
「今もこうして集まってくる幽霊を除霊している私を敬うべき、そうすべき」
「追い払ってるのが私な件」
細かいことは良いんだよ。
それにしても部屋が多いな、これはカズマさん達を招待するのも吝かでは無いのではないだろうか。
アクア先輩、馬小屋で過ごしてるしな。
言わないとどうせ押しかけてきて怒ってくるだろうし、先に此方から言うって作戦だ。
なお、アクア先輩はギルドで雪精片手に泣いていた。
また泣いてるよ……。