カズマさん達と分かれた私達は、魔剣の人のパーティーに参加していた。
あの後、布の巻頭衣を着せられた状態で逃げ帰った魔剣の人は絶望に打ちひしがれていた。
タダ幸運だったのは、まだ資金があったことだろう。
「クレメア、フィオ……と言うわけで新しいメンバーだ」
「よろしくね」
「よろしくぅ」
初期装備になった魔剣の人のパーティーに紹介されると敵意の籠もった視線に晒される。
えっ、なんでラブコメなの?ここだけ、世界観が違うんだけど。
「アンタがどういう理由で入ったかは知らないけど、簡単にいくと思わないでよね」
「そうよ、私達の方がキョウヤと一緒にいる時間は長いんだからぁ」
「はぁ、そうですか……ところで、職業は戦士と盗賊との事ですがそんな職業でやっていけるんですか?どうして、ジョブチェンジしないんですか?もしかして、レベルが足りないとかそういう理由ですか?それってつまり、戦闘は全て任せているって事ですよね。これだけの貯金があると言うことはそれなりのクエストに参加しているはずなのに、全てを任せて自分たちは参加していないって言うのはパーティーに参加している意味があるんですか?寄生プレイとかやる気を感じられないんですがその点はどういうつもりなんですかね?」
「…………」
「…………」
ナナシちゃんの素直な疑問が彼女達にクリティカルヒットしていた。
でも、彼女達は冒険者である前に女の子である。
冒険より恋が忙しいのだろう。
「冒険よりエッチなことの方が好きなんだから仕方ないんだよ」
「べ、別にそんなんじゃないから!嫌いって訳じゃ無いけどね」
「私達はそんなことしないし!まぁ、私達のペースってあるし」
「はぁ?えっ、いつ死んでもおかしくない冒険者なんてやってるのに何を悠長なことを言ってるんですか?別に、欲望は悪いことでは無いんですよ。好きな人と結ばれたい、自分だけを見て欲しい、側に居たい、その思いは尊いことだって分かってますか?気持ちを注ぎたいと考え、注がれたいと考え、その心の全てを与えて受け入れたい、それを他人に渡したくないと思うことは間違いでは無いのです。なぜ、愛さないんですか?」
可愛らしい人の子達に私は女神として久しぶりに働きたくなってきた。
そう、言うなれば興が乗ったのだ。
可愛そうだから助言してやろう。
「愛は有限のリソースでは無く、無限に存在する物。その愛を奪い合う必要はありません。水槽の中にある二つのコップが好きな人と恋敵だとしたら、貴方の愛は注がれる水のような物です。片方のコップにしか注げないというのが間違いなのです。注ぐのを躊躇っているだけで、溢れるほどに愛すれば良いのです。さすれば、いつしか愛は溢れて水槽を埋め尽くす事も可能でしょう。その時、空である恋敵のコップにも水は注がれています」
「な、何を言ってるのよ……よく分からないけど、何だか凄みがあるわ!」
「仲間が居るからと進むことを躊躇う必要はないのです。迷わず進みなさい、その果てに仲間すら愛しなさい。自分と同一の存在などいないのだから、一番近しい場所でお互いを理解するのです。貴方達が愛を育み、理解できず邪魔をする者がいたならば、その者すら汝は愛しなさい。さすれば、同じ愛の元に一つとなることが出来るのです。争いも無く、愛だけが溢れる世界に貴方達が導くのです」
私の後光すら漏れ出る姿に、ナナシちゃん以外の三人が訳も分からず跪いていた。
まさか、辻説法なんてするとは私にも神らしい姿があったらしい。
「で、ぶっちゃけどういうこと?」
「一回ヤってしまえば、後は二回も三回も同じだし、3Pでもすれば問題ない。邪魔する奴は混ぜて乱交してしまえば、同じ穴の狢、いや寧ろ兄弟姉妹。『自主規制』だけしてたら、世界は平和だよ」
「『自主規制』したいオークとか、『自主規制』で生活してるサキュバスが信奉する気持ちが分かったわ。そして、分かってしまった自分が信者として思想に浸食を受けているという事実も認識したわ。やっぱ、邪神だわアンタ。いつか愛の為に人類滅ぼすわ」
「なんで!?」
馬鹿な、そんな人類全てを愛してる私が滅ぼすなんてするわけないじゃないか。
せめて、私の中で一つになろうとかそんなんである。
神として私は人類を愛している。
だから、私は人類に愛されたいのです。
地上の人々の、快楽の受け皿になりたいのです。
生きているすべての生き物の欲望のはけ口になりたいのです。
最大多数の最大幸福、つまり私のあり方は人類に対する慈愛である。
「今、確信しました。貴方はアクア様と同じ女神なのですね」
「見て、ほら見て!分かる人には分かるよ」
「アンタ、許さないとか言ってなかった?チョロすぎない?」
「愛の前には一時の悪感情も関係ないんだよ」
私の中のゴーストが、やめろ、やめてくれぇぇぇと苦しんでいる。
しかし、数十年だけしか生きていない男の残滓よりも女神としての一生の方が長い。
つまり、女性としての感覚の方が大きいのだ。
その上で判断すると、中身はダメだけどイケメンだし、寧ろダメな所が良いというか私がいないとダメそうな感じが溜まらなく愛おしい。
ダメな子ほど可愛いし、ダメ人間って母性本能が擽られる。
神にとって人類は子供のような物、そうこれは肉欲では無く母の愛。
つまり、私がこの男とゴールインしても良いのです。
神は許します、だって私が神だから、私がゴーサイン出してるから!
「ダメだコイツ、トリップしてやがる」
「ハッ……どうして服を着てるんだ?」
「おい、自重しろ。ホテルに行く前に装備を買い揃えよう」
ナナシちゃんの言葉に、他の女性陣二名がギラギラした目で同意する。
たぶんその方向性は違うと思うのだが、本人達が言うなら仕方ない。
「ほ、本当に買うのか?こ、こんなに同じアイテムいらないんじゃ」
「必要な物だから、それに装備を整えないと冒険に出られないぞ」
「良いじゃ無い、今まで頑張っていたんだし少しくらい休憩しても」
「そうよ、たまには冒険を忘れてこういうのも良いじゃ無い」
「待ってくれ、なんだその鞭とか縄、冒険の武器だよね!そうなんだよね!」
「見てみてキョウヤ、この蝋燭とかきっと洞窟で役に立つわよ」
「見てみてキョウヤ、このローションとか逃げるときに役に立つわよ」
ナナシちゃんの要望をアシストするように、他の二名が商品を持って詰め寄る。
彼女達は理解しているのだ、ここで碌な装備が揃えられなくなったら雑魚モンスターを狩る必要が出てくる。
そうすると、彼のやる気はガクッと下がり、危険の少なく時間の掛かるクエストばかりの日々になると。
その分、秘境などでドラゴンと戦うことなどなくなり、始まりの街で少しずつ装備を整える毎日がやってくると。
そして、その時間を二人で使うことが出来ると理解しているのだ。
「待ってくれ、僕の今持ってる装備より高いじゃ無いか!」
「ねぇ、また稼げば良いじゃ無い。ふふっ、そして新しい冒険をするのよぉ。私、貴方のお話聞きたいなぁ……聞かせて、ねぇ?」
「ま、まぁ稼げば良いんだし、そうですね女神様」
「うふふ、坊や良い子でちゅねぇ~」
「おい、それ以上は要求してないからやめろ」
抱きついていた私をナナシちゃんが無理矢理離して、連れて行く。
そんな、あっちはあっちでこれから宿屋に行って新装備を試す(意味深)予定らしいのになんてことだ。
「ほら行くわよキョウヤ」
「そうよ、そういうプレイは私達もしてあげるから」
「待ってくれ何の話、ちょっと待って!強い、はな、離してくれ!あぁ、女神様ぁぁぁぁ!どこに行く気ですか女神様ぁぁぁぁ!」
「あぁ、私の太くて逞しい『自主規制』が遠ざかっていく。やだやだ、私も宿屋で『自主規制』するの、私の『自主規制』を『自主規制』で滅茶苦茶にして、しゅごいのぉぉぉこの『自主規制』って言ったりするのぉぉぉ!」
「往来で叫ばないで貰えますかね、流石に恥ずかしいんですけど」
高級装備に魂を売った女の前では私は無力だったよぉ。
「はぁ……休みてぇ。もう、しばらく何もしたくねぇ」
「じゃあ、宿屋で休憩」
「しない」