このビッチな女神に祝福を   作:nyasu

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魔剣の勇者に容赦を

「わ、わああああああああああ!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!カズマさん、カズマさぁぁぁぁぁぁん!」

「おいアクア、トイレに行きたくなったりヤバそうになったら言えよ」

「ヤバいから!速く引き上げて!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!わぁぁぁぁ!」

 

湖の中でアクア先輩が叫んでいた。

彼らは本能で理解しているのだ。

自分たちの生存に邪魔な存在である、水の女神を理解していたのだ。

汚れた環境でしか生活できない、そんな彼らにとってまさに女神とは天敵だったのだろう。

がんばれアクア先輩、負けるなアクア先輩。

 

「カズマさん、カズマさぁぁぁぁぁん!」

「なんだ、トイレでも行きたいのか?」

「そんなわけ無いでしょ女神はトイレなんて行かないから!良いから引き上げて、速く引き上げて!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!」

「一昔前のアイドルみたいなこと言ってんじゃねぇよ」

 

やれやれと呆れるカズマさん、その横でめぐみんが紅魔族はトイレ行かないとか言っていた。

まったく、小学生でもあるまいし別に恥ずかしがる事でも無いだろう。

ウンコしない女子はいません、だってスカトロプレイが出来なくなるからな!

エロの女神的にこの主張を曲げるつもりは無い。

 

「よし、今度日帰りじゃ無いクエストをやるとしよう」

「紅魔族はトイレに行きませんけど、それはやめておきましょう」

「私もトイレ行かないよ。そういうスキルがあるからね」

「なにそれスゴイ」

 

腐っても堕落を司るのである。

堕落を支援するスキルの中には、トイレに行かないという物もある。

食事を取らなくても生きていけるスキル、空腹を覚えないスキル、睡眠が無くても平気なスキル、任意で眠ることが出来るスキル、これでネトゲ廃人に誰でもなれる。

煩わしい睡眠や食事にトイレの時間などは無くなり、ゲームという生きる上で必要性の低い娯楽に時間を使えるのだ。

まさに堕落である。

 

 

 

「ワニは嫌、ワニは嫌、ワニは嫌……」

「お、おいアクア。みんなで話し合ったが報酬は全部お前にやるから、元気出せって」

「……れて行って」

「えっ?」

「檻の外の世界、怖い……このまま街に連れてって」

 

新たなトラウマを手に入れたアクア先輩は、檻に入れられたまま運ばれていた。

周囲の視線が冷たい物だが、まぁ慣れた物である。

こうして、私達のクエストは終わりを告げたのだった。

 

「るーるーるー出がらし女神が運ばれてくーよー」

「おいアクア、もう町中なんだからやめてくれ。ボロボロの檻に膝を抱えた女の時点でヤバいんだからな。というか、いい加減出ろよ!」

「嫌……この中こそ私の聖域よ。外の世界は怖いから、しばらく出ないわ」

 

以前の俺のようだとカズマさんが悲しい眼をしていた。

可愛そうに、でも引きこもることは悪いことでは無いと思うのだ。

時間を無駄に使っているだけだから、別に犯罪では無いよ。

他人に迷惑は掛けているけど、仕方ないことだよ。

 

「やめろ、そんな優しい眼で見るんじゃ無い!俺は、俺はぁぁぁ」

「か、カズマ一体どうしたんですか!カズマまでおかしくなってますよ」

「そうだぞ、頭のおかしいめぐみんに心配されるなんてよっぽどだぞ」

「おい、今私の事を頭のおかしいとか言わなかったか?」

「い、言ってない」

 

じぃーっと見てくるめぐみんに視線を反らすダクネス。

つい本音が出てしまったのだろう許して欲しい。

 

「その辺にしなさいよ、争っても仕方ないでしょ」

「なんだこの綺麗なナナシは」

「私の知ってるナナシじゃないです」

「よし、文句があるなら拳で語ろうじゃ無いか」

 

何と言うことでしょう、カズマさんが優しさに触れて苦しんでいるせいでパーティーに不和が広がっていた。

誰が原因だ、まったく酷いことである。

それはそれとして、私のスキルがラブコメの波動を感知している。

なんだこのラ波感……

 

「女神さまぁぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁ!?」

「おいおいマジかよ」

 

私の感知をすり抜けるように、変な人が檻に縋り付いた。

そして、そのまま檻をこじ開けるように広げるでは無いか。

スゴイ、高ステータスだ。なんか強い人に違いない。

 

「何をしてるんですか女神様、こんなところで」

「おい、私の仲間に気安く話しかけるな。貴様、何者だ?」

「おい、ダクネスが騎士っぽいことしてるぞ。ところでお前の知り合いだろ、女神とか言ってるし」

「……女神?」

「そうだよ……うん?」

 

カズマさんとアクア先輩の間に沈黙が訪れる。

ざわざわ……ざわざわ……。

なんでお互いに黙ってるんですかね。

 

「そ、そうよ!女神!私は女神よ!よっ、こっ、うわはぁ!?うへぇ……」

 

アクア先輩は意気揚々と、転けながらも檻を出る。

そして、胸を揺らしながらドヤっとしながら言った。

 

「さぁ、女神の私に何のようかしら?……アンタ誰?」

「僕ですミツルギキョウヤですよ!貴方にこの魔剣グラムを貰って転生したミツルギキョウヤです」

「えっ?」

「えっ?」

「あー、いたわねそんな人もごめん忘れてたわ。結構な数を送ってたし忘れても仕方ないわよね」

 

先輩の素直な所は美点だと思うが、時に真実は人を傷つけるということを私は学習した。

ほら見ろよ、握手会で露骨に嫌そうな顔された時のファンみたいな顔に魔剣の人がなっちゃったよ。

女神に夢を抱きすぎたんだろう、可愛そうに。

 

「ところで、どうして女神様は檻の中に閉じ込められていたんですか?」

 

それには深い事情があるので、アクア先輩がなんやかんや説明して上げた。

だが、本人が出たがらなかった事を伝えなかったのはマズかった。

その結果、魔剣の人が叫び始めたからだ。

 

「はぁぁぁぁぁ!?この世界に女神様を引きずり込んで、そのくせ檻に入れて湖に浸けた!?君は何を考えているんですかぁぁぁ」

「ちょっと、私としては結構楽しいしもうこの世界に連れてこられたことも気にしてないんですけど」

「アクア様、この男にどう丸め込まれたか知りませんが、貴方は女神ですよ」

 

端から見ると女の取り合いである。

まぁ、事実ではあるので否定は出来ない。

 

「ちなみにアクア様は今どこに寝泊まりしてるんです」

「えっと、馬小屋で……」

「おい、いい加減離せ!礼儀知らずにも程があるだろう!」

 

ダクネスに言われて渋々胸元を掴んでいた手を離す魔剣の人。

いいなぁ、私もああいう熱烈な信者が欲しいな、チラッ。

 

「おい、私を信者にしたくば有用性を示したらどうだ」

「私の信者になると不眠不休で飲まず食わずで活動できるようになるよ」

「どうしてそれを先に言わなかったのよえっちゃん!私、信者になるわ」

「この手のひらクルーである。でもやったぜ」

 

早速、淫蕩と堕落の聖職者にしてやろう。

なんだろう、スゴイ破戒僧みたいなパワーワードである。

エロくてだらしない聖職者って、響きが溜まらなくヤバい。

 

「クルセイダーにアークウィザード、それにモンクと上級職ばかり、君はこんな優秀そうな人たちがいるのにアクア様を馬小屋に寝泊まりさせて恥ずかしくないのか」

「えっ、私は?ウィザードの私はスルー?」

「初期職とか、ガチ勢として恥ずかしくないんですか?」

「うぉい、まさかの信者からの追い打ちだよ。そこはフォローしようよ」

「君達、これからはソードマスターの僕と一緒に来ると言い。高級な装備品もそろえて上げよう」

 

ざわざわとカズマさんのパーティーが話し合う。

何と言うことだ、あっちはまともな反応をしている。

でもウチのナナシちゃんは眼をキラキラしていた。

おい、まさかお前……

 

「カズマ、私はこの人と一緒に行くことにした。なに、止めてくれるな」

「あぁ、うん、そうか分かった。お前の考えていることは何となく分かった」

「さぁ、君達も一緒に」

「よし、お前ら集合」

 

カズマさんが何を考えているか分かったが、頑なに先輩達は同意しなかった。

私もそっちに残りたい。だから、離そうよナナシちゃん。

 

「どこに行こうというのかね、君の才能が私には必要だ」

「嫌だよ、あっちの人達見て!踊り子みたいでしょ、キャラが被ってるんだよ!私の格好と同じなんだよ」

「服は性能です、ファッション性なんていらない。偉い人にはわからんのですよ」

 

やだやだ、ナチュラルに私だけ仲間はずれにしたの絶対に許さない。絶対に絶対にだ!

こういう調子乗ってるイケメンが嫌いだって、私思い出した!私の中のゴーストが囁くんだ、リア充爆発しろってな。

 

「説得はしたが、俺のパーティーは貴方に着いていきたくないようだ」

「ならば決闘だ」

「あっ、これ話聞かないタイプだ」

「負けた方が、相手の言うことを何でも聞――」

「良し乗った、スティィィル!」

「ちょ!?」

「スティール!スティール!スティール!スティール!」

 

次々と装備が外れていく。

最初に剣を、次に鎧、インナーも取られていく。

おやおや、防具は装備しないと意味が無いぞ。

 

「チッ、もう無理か。クリエイトウォーター!」

「や、やめろ!無抵抗の人間に、何をするんだぁ!」

「おい戦えよ!股間なんか隠してないで、掛かってこい!フリィィィィズ!」

「さ、寒い!?わ、分かった!僕の負けだ、だから装備を返してくれ!」

「何言ってるんだ。ドロップアイテムは俺の物だろうが、馬鹿かよ」

 

そう言って、カズマさんは奪ったグラムを振りかぶって叩き付けるのだった。

勇者は目の前がまっくらになった。


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