この世界では考えられない錬金術を使って何が悪い   作:ネオアームストロング少尉

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感想、評価、ありがとうございます。それと、誤字修正、大変助かっています。忙しくて直す時間が無い私にとって嬉しい限りです。なるべく誤字しないようには気を付けていますが、迷惑をかけています。
今回は原作とは違う展開となります。
※後書きを呼んで貰えると助かります。


五話

 グレンは敵の目的が分からない以上は迂闊に動けないと考え、警備に連絡しようと踵を返そうとしたところで、空を横切る光の線を目にした。

 校舎内から壁を貫通して放たれたらしい今の光の閃光は間違いなく──

 

「──【ライトニング・ピアス】……だと!?」

 

 生徒たちが放った魔術のはずがない。間違いなく敵の呪文だろう。あの恐ろしい殺戮の呪文が密集した生徒たちに向けて放たれた物だとしたら、一発で十人は死んだだろう。

 警備官の詰め所へ向かっていた足が止まり、急に激しい動悸に襲われる。脂汗が止まらない。

 

 グレンの頭によぎるのはあの二人の生徒だ。もし、さっきの呪文が二人のどちらかに向けて放たれたものだとしたら? そこで倒れている哀れな守衛と同じように四肢を投げ出して壊れた人形のように打ち捨てられていたとしたら?

 

 自分はそんな二人の亡骸を前に、何を思うのか。

 

「ふん……関係ないね。上に連絡をつける。どうしようもなく正しい──」

 

 ──その言葉を切ったのは爆音と窓を破って噴き出た炎だった。それはまるで、【ブレイズ・バースト】と呼ばれる、収束熱エネルギーの球体を放ち、着弾地点を爆炎と爆圧で薙ぎ払う強力な軍用の攻性呪文のようだった。

 無論、生徒たちが放った魔術で無いことは明らかだ。

 

 グレンに迷ってる暇など無かった。

 

 

 

 

 

 

 ~Ω~

 

 

 

 

 

 

 フォルティスは敵の狙いを考えながら虱潰しに近場から探し回った。だが、痕跡すら見つからない。

 

 何故、ルミアを連れ去った? 

 

 自分もどうして三年前にルミアが家に引き取られたのかは詳しくは聞かされていない。実の両親に捨てられたとは聞いているが、それだけだ。自分もそれ以上は聞かなかったし、聞く気も無かった。

 今思えば、もう少し話しを聞いてみるべきだった。だが、本当の姉妹のように思っているシスティーナでも今の状況について思い当たる事は無いように見えた。考えれば考えるほど、ルミア=ティンジェルの謎が深まるばかりだ。

 

「……今は、とにかく居場所を見つけないとな」

 

 奴等は堂々と正面から入って来ていた。となると、出るときも堂々と出るか? いや、グレン先生がもし遅れて来ていていたとしたら、既に手は打ってあるかもしれない。それに、民間の人が異変に気が付いててもおかしくないだろう。

 しかし、今こうして救援が来ていない事を考えるに、まだ気が付かれていないのかもしれない。それに、ここまで計画的な犯行だとしたら転送法陣は潰されていると考えていいだろう。 

 

 そして、今の状況で動けるのは自分だけ。ならば、一度学院から出て助けを呼んだ方がいい。例え自分が戦えると言っても限界がある上に、最低でも後二人はいると考えられる。さっきのヤツは油断したからこそ勝てたが、もう一人のレイクと呼ばれた男はそう上手く行かないだろう。

 そうと決まれば、目指すのは校門だ。どちらにしろ助けを呼ばなければ話にならない。

 

 フォルティスは校門の方向に向かって走り出す。若干だが、魔導器でもある義足の右足に違和感を感じたが、今はそんな事に構っている暇は無い。フォルティスは更に走るスピードを上げた。

 

 校舎から出て最短の道を選び走っていく。だが、ここで最短の道を選んだのが間違いだった。

 

「《ズドン》」

 

 一閃の雷光が後ろから顔の横を通り過ぎ、頬に切り傷をつけて壁にぶつかった。後ろに振り返れば、そこには見るも無残な状態の、ジンと呼ばれた男がいた。身体の殆どが焼き爛れていて重度の火傷だと素人の自分でも一目で分かる。顔も見るに堪えないぐらいに焼け爛れていた。

 だが、先ほどの【ライトニング・ピアス】を唱えた、ふざけた呪文は忘れるわけもない。充血した目でこちらを見ている。殆ど顔の筋肉が動いていないのに、その表情は苦痛に満ちた……と言うよりは、憎しみで怒り狂った表情だった。

 

 先ほど通った場所は、ちょうどジンが教室から落ちた地点だった。あの炎の渦からよく生きていたと思う。考えるに、焼かれた事によってほとんど血が出なかった上に、致命傷になる前に火が消えたと言ったところだろう。

 

 ならば、もう一度焼いてやるだけだ。

 

 右手を上げて相手に向ける。そして、指に力を入れたとき横から何者かに切り付けられた。

 

「──ほう、今のを避けたか」

 

 何とか、真横に飛んで致命傷は避けたが決して浅く無い傷だ。右肩辺りから血が滲み出て腕を伝って地面に滴り落ちる。姿を現したのはダークコートに男ーーレイクと呼ばれていた男だった。来た方向から考えるにルミアが居るのは転送塔だろう。

 

「クソガキがァ!! ぶち殺してやる!!」

 

 吠えながらジンはフォルティスに向かって、二発の【ライトニング・ピアス】を放つ。二つとも急所を狙っていた。それを、後ろに倒れることで避け、倒れながら先程の傷で肩から上がらない右手を向けることに成功する。

 

 パチンッ、と指が鳴ると同時にジンを中心とした爆炎が上がる。

 

「ギャアァァァァッ!!!?」

 

 その痛みにから来る絶叫は十秒もしないうちに止まって、激しく燃えながらジンは絶命した。

 しかし、一緒に巻き込もうと考えていたレイクと呼ばれていた男は、自分が仕掛ける前に既に自分の死角へと逃げていた。

 

「くっ」

 

 怪我をした右腕を下に倒れ込んだため、痛みが更に増す。が、すぐに身体を横に転がした。先ほどまでいた所に剣が突き刺さる。

 一回で魔力を多く持ってかれた為に、マナ欠乏症の症状の一つである軽いめまいを起こしながらも、どうにか距離をとって立ち上がる。

 

「ジンをやるとは驚いたぞ。たかが生徒だと侮っていた」

 

 見るからに満身創痍な自分に対して、レイクは決して慢心などせず、いつでも動けるようにしている。

 

「それは……貴様の固有魔術か? 詠唱無しであそこまでの高火力の魔術となれば、末恐ろしいな」

 

「……どうも」

 

 実際、固有魔術では無いがオリジナルだと言う点はあっているだろう。だが、自分が知っている“オリジナル”には程遠いものだ。

 オリジナルはもっと燃費が良く、高火力で、尚且つ、火力を調整し、発火させる場所すら細かく指定出来ていた。

 

 所詮、自分が使っているのは紛い物に過ぎない。

 

 錬成陣や根本的なものは殆ど同じではあるが他は全く違う物になっている。そもそも、定説では錬金術を行使する際に使うエネルギーは地殻変動エネルギーとなっているが、あの国での錬金術は地下に張り巡らせた、魂が凝縮された高密度のエネルギー体の『賢者の石』を利用しており、地殻変動エネルギーを使うことを阻害していた。

 

 なら、この世界では地殻変動エネルギーを制限無く使えると思っていた。だが、錬金術を行使出来なかった。これは自分の予想だが、この世界には魔術は、簡単に言えば呪文を唱えて世界の法則に干渉し、発動する。その法則に従うのであれば、魔術式の塊である錬金術を行使するために、もう一つトリガーとなる物が必要なので無いかと。

 

 そこで、魔術を発動する際に必要なもの……『魔力』に目をつけた。

 

 魔力の本質は生命力だ。生命力が無くなれば命を無くす。つまり、生命力は魂に強く結び付いているのでは無いか? と考えた。

 

 魂と繋がっていると考えれば、魂を利用したエネルギー体である賢者の石と同じ質のエネルギーを引っ張り出せるかもしれない。ならば、地殻変動エネルギーが使えない今、賢者の石と近い物である、魔力をエネルギーとすれば錬金術の行使は可能である。そして実際に、その理屈は合っていた。

 

 しかし、現実は違った。

 

 この錬金術はあの世界だからこそ行使できるものであって、今立っているこの世界では無理だった。

 しかし、諦めるにはまだ早い。だったらこの世界に干渉できるように改変すればいいじゃないか。

 

 だけど、それをするためにはこの錬金術の真理を知らなければいけなかった。

 

 

 

 

 

 

「チッ!!」

 

 思わず舌打ちする。レイクの五本からなる剣がフォルティスに襲いかかってきていた。その剣の腕は魔術師とは思えない。寧ろ、剣士だと言われた方が納得がいくほどの腕前だ。そして、剣を縦横無尽に動かしながら当たり前のように呪文も唱えてくる。

 

 レイクが唱えた【ライトニング・ピアス】が急所に目がけて飛んでくる。避けきれないと確信し、義足である右足を盾にするが、貫通力がある【ライトニング・ピアス】は義足を貫通して腹部を貫いた。だが、魔導器の中の魔力に妨害されたのか、ギリギリ急所から逸らす事が出来た。

 

 焼けるような痛みに意識が飛びかけるが、やっと出来た導火線を無駄にするわけにもいかない。歯を食いしばって、自力では上がらない右腕を左手で支えてレイクに向ける。

 

 既に、レイクの周りには燃焼物と酸素を生成してある。後はそれと繋げた魔力線……即ち、導火線に火種を送り込むだけだ。

 

「燃え──」

 

 レイクはとっさにその場から後方に飛び上がる。

 

「──尽きろッ!!」

 

 導火線を通って火種がレイクの場所へと行くのを見て意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~Ω~

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレン先生!!」

 

「白猫!?」

 

 教室に向かっている最中にシスティーナが廊下の角から飛び出て来た。怪我をしていないことを確認出来て、ほっとした。しかし、直ぐに疑問が湧く。いつも隣にいるはずのルミアがいない。

 

「おい、ルミアはどうした?」

 

「それが……」

 

 システィーナの話す事実に耳を疑う。二人組のテロリストが教室に入ってきたこと。狙いはルミアだったこと。そして──

 

「あの炎はアイツが……?」

 

「私も何の魔術かさっぱり分からないし、詠唱もしてなかった。ただ、『錬金術』って言ってて」

 

「錬金術だと?」

 

 そこで、セリカと話したあの日のことを思い出す。もしかしたら、セリカのヤツ、何か知っていたのではないか、と。あのセリカがただ褒めるはずがない。何かしら理由があるはずだ。

 それに、今回の犯行は間違いなく天の智慧研究会によるものだ。いよいよもってきな臭くなってきた。

 

 そんなとき、廊下の窓が一瞬光ったと思ったら校門の近くで火が上がった。システィーナは走り出す。グレンの静止の声も聞かずに走った。あの時、足手まといと言われて確かにそうだと思った。だけど、あの日感じた悔しさに、気付いたら突き動かされていた。

 

 自分はまた置いていかれた。

 

 そう思えば思うほど悔しくなって兄を追いかけた。そうだ、昔もこうして兄に追いつくために必死にお爺様から魔術を学んだのだ。

 

「兄さん!!」

 

 火が上がった所に辿り着いた時、そこには一つの焼死体と、ボロボロになった兄が倒れていた。

 

 

 




感想等で上がっている疑問や不審点などは、話が進むにつれて触れていくつもりでした。いきなり解説が入ってきてもおかしいかなあ、と思っての事でしたが、逆に混乱させてしまったかも知れません。なので、本文で出来る限り触れていこうかと思いますし、後書きのほうで解説もしていくつもりです。どちらでも、触れられていなかったり、捕捉がなかったら、それは本編のほうで触れていくつもりです。

それと、思うのですが考えることはやっぱり近いですね。だいぶ、ドキッとすることがありました。

本文でちょっと触れましたが、錬成についての事が感想等で多かったですね。これに関しては関係性を持たせるために少々原作と異なるかも知れません。これ自体、私自身の考え方なので矛盾があったり、自分と合わない、と感じる方もいると思います。
これから更に触れていくので本文で楽しみにしていてください。

色々と疑問があるかも知れませんがちゃんと解説はしていきます。

※地殻変動エネルギーについて感想があり、合間を縫って見直してみると、考えていたことと違う意味合いになっていた事に気がつきました。次話が投稿する前に少し手直しします。5/21
5/22だいぶ、手直ししました。ただ一文を変えるつもりでしたが、こっちの方が後々いいかな、と思い結構変わりました。無理やりな感じですけど。

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