この世界では考えられない錬金術を使って何が悪い 作:ネオアームストロング少尉
「そこッ! 《大いなる風よ》──っ!」
黒魔改【ストーム・ウォール】に上乗せされた【ゲイル・ブロウ】の威力は、一組の生徒が展開した強固な【エア・スクリーン】の守りを、ぎりぎりでぶち抜いて──
「──う、うわぁああああッ!!」
とうとう、その身体を場外へと弾き飛ばしたのであった。
一瞬の静寂。そして──
『き、決まったッ!? なんと、なんとぉおおおッ!? 二組が。あの二組が優勝だぁあああああッ!!』
次の瞬間、会場は総立ちで拍手と大歓声を送っていた。もはや、敵も味方も、勝者も敗者も、学年次の違いすらない。物凄い決闘を演じた両者に対する純粋な賛美の嵐が会場を包む。ただ一人、ハーレイだけが、無念そうにがっくりと肩を落としていた。
辛うじて勝利を拾ったものの、その激しい消耗と疲労から、システィーナがぐったりと脱力して。その場に片膝をついていると、喜びの言葉と共に二組の生徒達が観客席から飛び出し、次々とシスティーナのもとに駆け寄ってくる。
「え!? なに、きゃあッ!?」
大騒ぎする友人達に、胴上げされるシスティーナ。宙で目を白黒させて慌てるシスティーナにお構いなく、二組の生徒達は歓喜のままシスティーナの健闘を讃える。
「......よくやった」
アルベルトはそんなシスティーナ達の様子を遠目で見守りながら、誰にも聞こえない声で呟くのであった。
しかし、その大きな歓声によって本来聞こえてくるはずの音が、聞こえづらくなっていた。そのせいか戦闘音に気が付くのは、もう少し先になる。
~Ω~
次々と湧いて来るゾンビを相手にフォルティスは十八番の錬金術では無く、ステップを踏みながら向かってくるゾンビの顔を目がけて拳を振るっていた。いくら綺麗なゾンビとはいえ、それは死体である。
全く本来の役割を果たしていない筋肉に骨。それに拳をたたき込めば、生きている人間などより簡単に破壊することが出来る。それも【ウェポン・エンチャント】によって強化された拳だ。その結果、殴った衝撃によって首元から肉が裂ける音と共に頭部が飛んでいく。
首を無くした死体は少しの間動いていたものの糸の切れた人形のように動かなくなった。
「くっ......キリがない」
じりじりと距離を詰めてい来るゾンビに警戒していると、何処からともなく【ライトニング・ピアス】が手足を狙って飛んでくる。それを、危なげなく避けて掴み掛かってくるゾンビを殴り倒す。
「ふふっ、どうしましたか? ほらほら、どんどん増えますよ?」
そのエレノアの言葉に呼応して次々とゾンビが増えていく。しかし、それは増えているのではなく、破壊したハズのゾンビが再生して戦線に復活しているのだ。フォルティスは酷い頭痛に悩まされながらも状況を打破するべき方法を模索する。
魔晶石のストックは残り一つ。今の魔力残量で完全に破壊できるのは二体。回復したとして六体いけるかいけないか。ゾンビの数を確認するに合計で二十体ほど......少々キツイところだ。それに、いつどこからエレノアが攻撃してくるか分からない。
しかも、救援はまだ来ないといっていい。これほど激しい戦闘だと言うのに周りが気が付いた様子がない。それにゾンビを燃やし狼煙代わりの煙を所々で上げているが、それも気が付いている気配がない。
これらの状況を考えるに、気が付かない所まで誘導されたか、エレノアが人払いしたか、あるいは両方か。
だが、魔術競技もそろそろ終わるはずだ。あっちが片付けばすぐにでも救援が来るだろう。故に、フォルティスは持久戦に持ち込むため魔力消費が少ないこの方法をとった。
エレノアも黙っているわけも無い。たが、姿を見せない。それは、フォルティスの錬金術を警戒しての事だ。視界に入ればすぐさま着火させられる。改めて、その錬金術の怖さを感じた。
しかし、このまま行けば確実に勝てる。いくら強力な錬金術が使えるとはいえ、それを活かせる環境を作らなければいい。それに、明らかに魔術戦に慣れていない。まだまだ体力を残しているように見えるフォルティスだが、その表情から焦燥が感じ取れる。
多少、余裕ができたエレノアは思う。
「あっちは上手くいっているでしょうか......まあ、上手くいけば御の字といったところですし。陽動としては十分でしょう」
そう、あくまでも第一目標はフォルティスの確保だ。
~Ω~
──魔術競技祭閉会式は粛々と進んだ。競技場に学院の生徒達が整列し、開式の言葉から始まり、国歌斉唱、来賓の祝辞、結果発表。つつがなく、なんの滞りもなくその工程を消化していく。
いよいよ、アリシアが表彰台に立った。その背後にローゼスとセリカが控える。
『それでは、今大会で顕著な成績を収めたクラスに、これから女王陛下が勲章を下賜されます。二組の代表者は前へお願いします。生徒一同、盛大な拍手を』
拍手が上がる。しかし、拍手が疎らになっていき、次第にざわざわち会場が沸き立ち始めた。
「あら? 貴方達は......?」
表彰台に立ったアリシアは、生徒達の間を縫って自分の前に現れた人物達を、目を
「アルベルト......? それに、リィエル......?」
「......来たか」
戸惑うアリシアをよそに、セリカはぽつりとそんなことを漏らしていた。かたわらに立つゼーロスが不審に思い、アリシアに耳打ちする。
と、その時だった。
「いい加減、馬鹿騒ぎも終いにしようぜ」
当然、厳めしい面構えのアルベルトが突然、似合わないくだけた口調で言い放った。
「なん、だと......ッ!?」
そして、アルベルトらしき男が、ぼそりと呪文を唱える。すると、男女の周囲が一瞬んぐにゃりと歪んでーー
「き、貴様らはッ!?」
そこに立っていたにはグレンとルミアだった。
~Ω~
「......どうやら体力の先に、その義足がもたなかったようですね」
義足である右足の膝を地面に突けて肩を上下させているフォルティスに淡々とエレノアは告げる。
逆によくここまでもった方だ。今回の魔術競技ということで従来使っていた物より頑丈に作られた物であったが、まさか戦闘になるとは思わなかった。義足の状態を見る。動かそうとしても上手く動かない。どうやら魔力を流す回路の何本かが焼き切れたようだ。
この義足の原理を簡単に説明すれば、魔力を筋肉の代わりとしている。それが、本当の筋肉のように行き過ぎれば筋肉を断裂するといったように、この義足もまた耐えられる魔力の流れを越えて動かした事により、回路を焼き切ってしまったようだ。
だが、動かない訳では無い。
「こう追い詰めた訳ですし。今一度、勧誘致しましょう......我々と一緒に来る気はありませんか?」
フォルティスは内心、何が勧誘か、とエレノアの回りくどい言い方にイラついていた。この状況で言う
しかし、相手も出来る限り自分を味方として取り込みたいようだ。
だが、分かり切ったこと。
「断る。人体錬成をした俺が言うのもあれだが──」
「──俺にも俺なりの『正義』ってのがある」
今までに無い強い力を秘めた目でフォルティスは言い切った。
しかし、エレノアは断られると予想していたのだろう。フォルティスが言い切るが否や、ゾンビ達が瞬く間に襲い掛かって来た。
勿論、フォルティスも予期していたことで、すぐさま大きく後方に下がった。
何もむやみやたらにゾンビと戦っていた訳ではない。ゾンビが復活すると分かっているのであれば、
故に、殴り飛ばす方向は同じだった。つまり、今ゾンビは目の前にしかいない。
パンッ! と、手を合わせ地面に両手を付ける。錬成するのは強固な壁。それをゾンビの周りに錬成していく。フォルティスの前方を少し開けてゾンビを囲う壁が出来上がった。
そして、その囲いの中に光るものが投げ込まれた。
エレノアはそれが何なのか分かると同時に伏せる。この時、偶然見えたことが幸いした。最も、囲いには入っていないもののゾンビ達の後ろ辺りに位置取っていなければ、どうにかして邪魔することができただろう。
その光るものとは『魔晶石』。
魔力をたっぷりと内包したものだ。
「──蒸し焼きだ」
大きな爆弾でも爆発したような音と共に、炎の塊が爆ぜる。逃げ場が上にしかない炎は温泉が噴き出したかのように、上へと上がって火柱を作った。
意外と早く更新できました。本当はこの話で終わらせるつもりでしたが、思ったより長くなりそうなので分けることにしました。しかし、今回、めまぐるしく視点が変わってしまって読みくかったと思います。正直、この夏辺りで結構進めなければ、長く更新できない可能性があるので、少々急ぎ足で進んでおります。
それと、最後のはハガレンのお父様戦でやった技と同じです。やり方が少し違いますが。
※何やら、区切りに使っている部分に( )を付けると顔文字に見えてしまうとかなんとか。とはいえ、今さら変更するのもおかしいので、このまま行きます。スミマセン。