この素晴らしい世界に本物を!   作:気分屋トモ

8 / 13
やぁ。日曜に投稿を始めたのに最終投稿が何故か木曜になってることに気づいた作者です。
来週はビックリするくらい予定が混んでるので投稿は少しずらして土曜日の夜くらいにすると思います。待ってる方、本当すいません。この八話で許して下さい。少し前に気分で描いた八幡の能力使用時の見た目の絵も張りますから!(ただしクオリティはさほど高くない)
そんな訳で、それではどうぞ。

~追記~
加筆修正しました


比企谷八幡にだって、たまの休みは必要である

 二匹の危険モンスターを手懐けてから二週間、こっそり和真を鍛える指導をしつつ俺は相変わらず高難易度依頼しか貼られない掲示板の依頼を着々とこなしていた。

 

「ハチマンさん、これが今日の報酬になります」

 

「ども」

 

 今日も依頼を終え、いつの間にか名前呼びされているルナさんから報酬金を貰うと俺はそそくさとギルドを後にする。可愛らしく小さく手を振ってくれてはいるのだが、生憎と俺はそれを上手く返すやり方を知らないため、ルナさんには悪いがお辞儀で勘弁して欲しい。

 

 しかし、今日は思ったより早めに依頼が終わってしまった。時刻はまだ昼過ぎ、馬小屋に帰って寝るには些か早い時間帯だ。

 

 以前の俺ならばダラダラするために色々と試行錯誤していたというのに、こっちに来てからはあまりそういったことがない。働いてる俺とか本当アイデンティティクライシスも良いところである。

 

 まぁ結局、別段することが思いつかなかった俺は寝床である馬小屋に戻りに行く。ぶっちゃけ金銭面ではかなり潤ってきているので宿に泊まっても何ら支障はないのだが、()()()()がいるしな。今はまだ良いだろうと思っている。

 

「帰ったぞー」

 

 俺は馬小屋に戻ると、いつも通りのだらけた声を発する。その言葉に、以前は返す者などいなかったのだが――

 

『あ、おかえりハチマン』

 

 俺が飼い慣らした猫、デビル・オブ・ディザスターの子猫は俺に気づくと言葉を返してタタッとこちらへ駆け寄って来る。カマクラと違って甲斐甲斐しいそいつを俺はしゃがんで軽く撫で回してやる。

 

「ただいま。お迎えご苦労さん。ほれほれ」

 

『ニャフー』

 

 モンスターと言えど、やはり元が猫だからか撫でてやると気持ち良さそうな声を出す。それがまた普通の猫のように愛らしいため、俺はよりソイツを優しく撫で回してやる。

 

『おや、帰ってたのかい』

 

「おう、今帰ったぞ」

 

 そんな子猫の声で目覚めたのか、干し草の奥の方から親猫がアクビをしながらのそのそと寄ってくる。オカンのような口調で喋っているのは、今俺が撫で回している子猫の親だからだろう。単純に図太い性格の表れかもれしんがな。

 

 先日手懐けた二匹の猫。俺はコイツらにセツとユキという名前をつけることにした。

 

 どちらとも雪みたいな白さの見た目から適当に取ったもので、他に思いついたものが雪見大福くらいしかなかったことを考えればまぁまぁの着地点だと思って欲しい。

 

『ハチマン、餌がもうないんだ。今から買ってきておくれ』

 

「お前本当に俺に飼われてるんだよな?」

 

 主に餌寄越せとか言う態度ってどうなの。何か、カマクラに似てんな……。ふてぶてしい顔とかマジそっくり。

 

『飼われてる飼われてる。ほら、早く行っとくれ。アタシらは普通の猫より食べるから多目に買っとくんだよ』

 

「お前なぁ……」

 

 実際、コイツらの食事の量は普通の猫の五倍くらいはある。そんなに食って太らないのかと心配になるが、本人達曰くこれくらいは普通と言うので一応納得している。

 

「まぁいいや。ユキは着いてくるか?」

 

『いいの?』

 

 ユキはそう俺に聞きはするものの、尻尾の立ち具合とかを見る限り俺に着いて行きたい気持ちを隠せてない。目も俺と違ってキラキラしてるし。

 

「あぁ、俺の言うこと聞くなら良いぞ」

 

『じゃあ行く! ニャッ!』

 

 ユキは俺の許可が出ると肩にピョンと乗ってきた。ムフーと鼻息を吐く満足げな顔はやはり子供らしい可愛らしさがある。

 

「じゃあ行くか。留守番頼むぞ、セツ」

 

『あいよ』

 

 かくして、俺はユキを肩に乗せてアクセルの街を徘徊することにした。餌のついでに、武器やら防具やらも買っとこうかな。そろそろこの格好も危なくなってきたしな。

 

 そんな感じで俺は脳内でリストを挙げつつ、街の中心へと歩き始めた。

 

 

 

 

 街へ出て気がついたが、この街は意外と活気がある。

 

 駆け出しの街と呼ばれるだけあって、露天商や屋台、八百屋や武器屋など、店自体は充実しているものの、その品質はやはり駆け出しレベル。派手な装飾が少ない辺りは俺好みだが、出来れば長く使えるものが良いだろう。

 

 どんな店が良いか能力で探しても良いのだが、たまには脳を休ませないといけんしな。この前、えっちらオットセイの代わりにパンさんの着ぐるみ着た俺の知り合いが出てきた時は能力を失うのかとヒヤヒヤしたしな。

 

 そういえば、この前に能力が突然切れた時に分かったが、どうやら答えを出す者(アンサー・トーカー)には時間制限があるらしい。この前転ける前に切れたのもその制限時間が来たからのようだった。転けたのは自分の責任だけどな。

 

 何故分かったか? 夢でパンさんのヌイグルミを着た雪ノ下が教えてくれました。それを写真を撮りたかったなんて……思いました、はい、可愛かったです。代わりに脳内に焼きつけたけど、日本(あっち)に戻ったらやってもらおうかな? 俺が殺されるか。

 

『その……これからは気をつけてね?』

 

 こんな感じで心配して言ってくれる雪ノ下の姿を写真に出来なかったのが心底悔やまれる。

 

 因みにその後、葉山がライオンのパンツ一丁になった状態で俺に向かって走ってきた。笑顔で。これが一番俺の脳がどれだけ疲れているのかがよく分かった。怖すぎて逆に眠れんわ。

 

 しかし、どうしたものか。取りあえず、装備は揃えなければならない。以前靴擦れした時に足が大変なことになったのだが、あれからまだ靴も変えていない。

 

 どうしたものかと思いながら街を回っていると、街の中心から少し外れた所に”ウィズ魔道具店”というのを発見した。

 

「魔道具店か……」

 

 杖とか置いてあんのかな。よく考えたら回復薬の一つも持ってない俺はマジでアホだと思いました。攻撃まず当たらないし、当たってもある程度なら自分で処置出来るから良いかなって。

 

 しかし何だろう。この店からは妙に俺を惹き寄せる何かを感じる。見た目も割と普通だが、何故だろう?

 

『ここに入るのー? ご飯はー?』

 

 ふと、ご飯を買いに行くだけと思ってたユキが俺の頬を肉球で叩きながら問うてくる。ちょっと? 肉球は柔らかくて良いんだけど爪が長いのを考慮してくれないと俺の頬が抉れちゃう。俺の頬に消えない傷跡が刻まれちゃう。

 

「ご飯は帰りに買うからもうちょっと待ってくれ」

 

『分かったー』

 

 俺はユキを撫でながらそう宥める。ユキはアクア達と違って従順だから扱いが楽だな。

 

 ユキを撫で終わったところで俺は結局店に入ることにした。別に買わなければどうということはないだろうし、妙に惹かれる理由も気になる。そう思った俺はドアノブに手をかける。

 

「ど、どうも……」

 

 ドアを押すとカランカランとドアベルが鳴る。中を見回してみると薬品っぽい物の棚やどこか怪しげなアイテムが並んだ棚など、数自体はそれなりに多い品々が見られる。

 

「はいはーい!」

 

 奥の方では誰かが来たことに気づいたのか、パタパタと音を立てながら誰かがやって来る。

 

「いらっしゃいませ! 初めてのご来店ですか?」

 

 カウンターに出てきたのは白皙の美人だった。

 

 薄紫色のセーターのような服に、小悪魔っぽい紫色のパーカーっぽい服。綺麗な長い茶髪と由比ヶ浜以上の果実を揺らしている姿は中々目のやりどころに困る。

 

「ひゃ、はい! 初めてです!」

 

 そんな相手に俺が動じずに対応出来る訳もなく、俺は素っ頓狂な声を上げて彼女の質問に答える。

 

「フフッ、大丈夫ですよ。そんな畏まらなくても。私、この店を営んでおりますウィズと申します」

 

「ひ、比企谷八幡です……」

 

 ウィズさんはそんな俺をキモがらずに応対してくれる。あぁ、なんだろう。この癒しの予感。

 

「何が癒しなんですか?」

 

「あ、なんでもないです。気にしないで下さい」

 

 危ない、声に出てたか。たまに無意識に口に出す癖があるらしいからな、気を付けねば。

 

『ねぇハチマン。この人変な匂いがするー』

 

「変な匂い?」

 

 突然、ユキがそんなことを言い出すので俺はついそのまま返事を返してしまう。部屋を嗅いでみても、別に変な匂いはしないが……。

 

『なんというかねー、アンデッドみたいな匂い』

 

「アンデッド? 何でまたそんな匂いが」

 

 アンデッドといえば、人の道理から外れ死んでもなお生への執着を捨てきれぬ、とかなんとかいったゾンビ系のモンスターだ。間違ってもこのような人がなるようなものじゃないと思うが……?

 

 ふと、ウィズさんの方を見てみると何故か冷やせをダラダラ掻いていた。おかしい、何かあったのだろうか。

 

「あ、あの~」

 

「は、ハイッ!? 何でしょうか!? 私、アンデッドでもリッチーでもないですよ!?」

 

「いや、別に貴女がアンデッドとは言ってないんですが……リッチー?」

 

「ハッ!?」

 

 ウィズさんは聞いてもいないことを言うと一人で勝手に混乱している。あぁ……この人リッチーっていうんだ。で、リッチーって何?

 

 今日は使う気がなかったのだが、俺は答えを出す者(アンサー・トーカー)を使って彼女が何者なのか問う。すると、彼女の正体が分かった。

 

不死王(ノーライフキング)、アンデッドの王か……しかも魔王軍幹部。何でこんな所に?」

 

 かなりの大物のようだが、如何せん敵のようには見えないこの人。第一、何で店をやってるんだ?

 

「な、何でそれを知ってるんですかッ!?」

 

 まさか正体がバレるとは思っていなかったのか、次々と自爆発言をしていくウィズさん。なるほど、この滲み出るポンコツ臭がこの人がリッチーとかそういうのに見えなくさせているのか。しかも天然っぽいから演技でもなさそうだし。

 

「それはちょっと言えませんが、大丈夫ですよ。別に危害を加える気はありません」

 

「ほ、本当ですかぁ……?」

 

 涙目で怯えた様子でそう問うてくるウィズさん。何だこれ、可愛い過ぎない?

 

「え、えぇ、はい」

 

「良かったぁ、てっきり私が魔王軍幹部だとバレてここに襲撃しに来たのかと思いましたよ~」

 

 俺が襲う気がないと分かるや否や、ウィズさんは先程ののほほんオーラに戻る。きっと、これが彼女の素の姿なのだろう。

 

「しかし、何故こんな所で店を? 仮にも魔王軍幹部なんでしょう?」

 

 そこが解せぬ。こんな所で商売してるようなのが魔王軍幹部とか、魔王軍は実は大したことないのだろうかと思ってしまう。肩書き的には強いんだろうけどな。

 

「私は魔王城の結界の手伝いだけをしてるなんちゃって幹部ですので、基本的に魔王軍にも協力してません。店も魔王に許可取ってますから問題ないんですよ」

 

 おい、大丈夫か魔王軍。適当過ぎんだろ。ゲームならクソゲーもいいとこだぞ?

 

「それで、本日はどうされましたか? 私のこと黙っててくれるそうですし、少しくらいならサービスしますよ?」

 

 そしてウィズさんのこの変わりよう。信頼し過ぎだろ。もう何かどうでも良くなってきたわ……。

 

『大丈夫?』

 

「あぁ、大丈夫だぞ、ありがとな」

 

 俺の様子を心配してか、ユキは俺の顔を舐めて聞いてくる。あぁ、やっぱ動物って癒しだなぁ……。

 

「あら? そちらの猫、ひょっとしてデビル・オブ・ディザスターですか? どうしてこんな所に?」

 

「え、分かるんですか?」

 

 どうやら、ウィズさんにはこのモンスターのことが分かるらしい。ユキはまだ二つ尾になってないから見た目はただの猫なのに、やっぱ分かる理由でもあんのかな?

 

「猫なのに魔力の流れが見えまして、ひょっとしたらと思ったのですが……ハチマンさんに懐いてるんですか?」

 

 そう言ってウィズさんはユキに触ろうと近づくが、ユキはヒョイっと逃げて俺の頭の上に来た。

 

「シャーーッ!」

 

「ひ、酷いっ!?」

 

 ユキは触られるのが嫌なのかウィズさんを威嚇している。避けられたのがショックだったのか悲しそうな顔をしているウィズさん。何か可哀想だなこの人……。

 

「ユキ、別にこの人は怖くないぞー。襲いもせんし」

 

『本当?』

 

「本当だ。ですよね、ウィズさん」

 

「え、あ、はい。可愛いので触ろうと思ったのですが、逃げられてしまいました……」

 

「だとよ。ほら、ちょっとくらい相手してやれ」

 

『うーん……分かったー』

 

 俺がユキを宥めるとユキはウィズさんの許へと近寄っていく。どうやらただの人見知りだったようだ。

 

「わぁ……フカフカしてますね~」

 

「ニャフッ」

 

 ウィズさんはユキを抱きかかえて笑顔で撫で始める。ユキも気持ち良いのか満更でもない様子だ。ユキを抱き寄せて形を変えるものに目がいったのはきっと気のせいだろう。柔らかそうとか決して思ってない。

 

 その後ウィズさんはユキを抱きながら俺の質問に答えてくれた。魔王軍の手伝いをしているのは誘われたから、店をやっているのは昔の仲間との約束だから、そしていつか来てくれる日まで待っているのだそうだ。

 

 こんな健気な人を待たせているとは一体どんな野郎なのか気になれば、どうやら既に亡くなっている人のようだった。つまり、この人は来るはずのない人をリッチーになっても待ち続けているのだ。

 

 なんか、聞けば聞く程悪い人には見えないんだよなぁ。普通こういうキャラって自分の欲望とか、そういうのに実直な性格なのに、ウィズさんには欠片も見られない。リッチーになったのも仲間を助ける為だったらしいし、仲間想いな人なんだろうな。

 

「それで、今日はここにどのようなご用件で?」

 

「あぁ、そうでした」

 

 すっかり忘れていたが俺は装備品を探していたんだ。その途中、何故かこの店に惹かれたからこの店に入ったんだった。

 

「装備品探してるんですよ。この恰好じゃ戦闘には少し不向きでして。杖とかありますか?」

 

 そう言って俺はブレザーを見せるように軽く引っ張る。ウィズさんは初めて見るものだからだろうか、こちらに近寄ってジッとブレザーを見つめている。ちょ、近いです。何とは言わないけどユキと一緒に柔らかいものが当たってるんで離れて頂けません?

 

「不思議な素材ですね……どこの衣服なんですか?」

 

「俺の故郷のモンです。今はもう行けないんで俺が着ているものしかありませんけど」

 

「そうですか……失礼ですが職業は何をされていますか?」

 

 やばい、まさかの職質。前世(あっち)でも数回しかされたことのない究極的に困る質問。あれって何言っても先入観で物言うから怪しまれるんだよなぁ……。

 

「しょ、職業ですか……一応、アークウィザードやってますが――」

 

「凄い! アークウィザードなんですか!?」

 

 アークウィザードと答えた途端ウィズが嬉しそうにピョンピョン跳ねている。ちょ、めちゃくちゃ揺れてますよ! 目のやり場に困るんで抑えて下さい!

 

『ハ、ハチマーン』

 

 ユキもいい加減圧迫されるのが嫌になったのかウィズさんから逃げて俺の方へ駆け寄って元の定位置に戻る。

 

「あぁ残念……しかし凄いですね、お若いのに! 私も元々アークウィザードだったんですよ! 久しぶりにアークウィザードの方にお会いしましたよ!」

 

「え、そうなんですか?」

 

 意外や意外。この店主はどうやら俺みたく転生特典でなったような偽物ではなく、自身の才能による純正アークウィザードらしい。滲み出るポンコツ臭からか、全然そんな感じには見えないが……。

 

「そうなんですよ! あ、少し待って頂けますか?」

 

 ウィズさんはそう言うと店の奥の方へ引っ込んでいった。何か持ってきてくれるのだろうか。

 

 少ししてウィズさんが持ってきたのは黒の魔道着のようなものとかなり大きめの杖だった。少し使い古されたような感じがするが一体これが何なのだろうか?

 

「こちら私が昔使っていたローブと杖です。お古ではありますがローブは魔法の威力が少し上がる効果がありますし、杖はそれなりに良いものなのでよろしければ差し上げます」

 

「え、良いんですか?」

 

 ローブを広げながらウィズさんはそう説明してくれる。正直、ただで貰えるのは嬉しいし見た目も好みだから素直に貰いたい。

 

 だが、ここで一つ問題がある。

 

 それは、ローブがウィズさんが着ていたお古だというところである。

 

 杖は良い、まだ物だからな。でもローブは無理。だってこの人が着てたんだろ? 仮にも美人のなんだから俺みたいな初心な男にそういう意識してしまうような物を気軽に渡さないでほしい。

 

「美人なんてそんな、大げさですよ~」

 

 照れたようにウィズさんは俺にそう言ってくる。

 

 しまった、声が漏れ出ていた。うわぁ恥ずかしい。

 

「いやそんな、悪いですし……」

 

「大丈夫ですよ~。杖はもう使いませんし、私これきつくてもう着られませんし、ちゃんと洗濯してますから~」

 

 そうじゃねぇよ! しかもこの人めっちゃ近づいてくるし。天然かよっ!?

 

「ほらほら~、取りあえず着てみて下さいよ~」

 

「わ、分かりました! 分かりましたんで一旦離れて下さい!」

 

 じゃないと俺の心臓が持たないんで、割と真面目に。

 

 結局、俺はウィズさんの押しに負けその服を着させてもらうこととなった。

 

「おぉ……!」

 

『わー!』

 

「わぁ~!」

 

 カッターシャツの上から着たローブは思ったより風通しがよく、中々どうして、厚いのに涼しいのか。良い匂いがするのは、出来るだけ意識しないようにしている。

 

『良いんじゃない? 似合ってるよ』

 

「そ、そうか?」

 

「凄いです、腐った目を見た時から思いましたがやっぱり黒が似合いますね!」

 

「ちょっと? ナチュラルに罵倒すんやめてくれません?」

 

『仕方ないよ、ハチマン本当に目腐ってるもん』

 

「え、マジで? そんなに?」

 

 悲報、猫にまで目が腐ってると言われる始末。そんなに酷くないと思うんだけどなぁ……。酷いか、うん。

 

 俺が非常な現実に涙しそうになっているとウィズさんが不思議そうに聞いてくる。

 

「あの……さっきから誰と話しているんですか?」

 

「え、コイツですけど?」

 

 俺はそう言って顔に顔をスリスリしてくるユキを指差す。

 

「え、喋れるんですか? でも、私には何も聞こえないのですが……」

 

『これで聞こえるかな? ウィズ』

 

「ッ!? この声は!?」

 

『シッシッシッ!』

 

 ユキは悪戯が成功したとでも言わんばかりに笑う。なるほど、今までは俺にしか聞こえないように喋っていたのか。

 

「凄いですね、人と話せるモンスターはあまり聞かないのですが……」

 

「そうなんですか?」

 

 何分、どの生物とも喋ることが可能な俺にはよく分からんもんだからな。

 

「はい。基本的に意思疎通を行う前に襲われますのでそれを試みる方自体少ないので」

 

 それもそうか。俺自身コイツらと能力無しで喋れるとは思ってなかったしな。使用制限があるっぽい答えを出す者(アンサー・トーカー)を使う手間が省けるしな。

 

「それで、どうでしょうか? よろしければ差し上げますけど」

 

 ウィズさんは俺が着ているウィズさんのローブとそれを着ている俺を見ながら聞く。

 

「本当に良いんですか? いくらか払いますよ?」

 

 正直、見た目も着心地も良い感じなので貰いたいが、タダで貰うのは気が引ける。女性の服を、しかもお古を買うという行為自体にはこの際目を瞑ってだが。

 

「良いんですよ~。今はもうそれきつくて着られませんし」

 

 どこがきついんでしょうねぇ。深くは聞くまい。というか考えまい。

 

『素直に貰ったら~?』

 

「いや……でも」

 

「でしたら、いくつかこの店のアイテムを買って行って頂けますか? 恥ずかしながら中々売れなくて」

 

 そう言ってウィズさんは恥ずかしそうに頭をかく。どうやら、売り上げは芳しくないようだ。それなら服を貰うお礼にはなるだろう。

 

「それでしたら……まぁ」

 

「フフフ……ありがとうござます。それでは、どんなアイテムが良いですか?」

 

 ウィズさんもそれで承諾してくれたため交渉成立。俺はローブを貰う代わりにアイテムを何か買うことになった。

 

「これなんてどうですか? 最高級のマナタイト。爆裂魔法も肩代わり出来る一級品ですよ!」

 

 ウィズさんはそう言うと棚に飾ってあった丸い水晶みたいなものを見せてくれる。しかし、これがどういったものか分からない。

 

「マナタイトって何ですか?」

 

 聞き慣れない単語に俺は思わず首を傾げる。魔道具店にあるから魔力の回復系アイテムだろうか。それ何てエーテル?

 

「マナタイトは魔法使用時に使用魔力を肩代わり出来るアイテムです。使い捨てではありますが、魔力量が少ない方や多く魔力を使う人は大抵これを使って魔法を使用します。魔力の使い過ぎで倒れてしまっては再悪死んでしまいますからね」

 

 なるほど、そうやってアイテムを使うことで本来は魔力切れにならないように気をつけるのか。めぐみんみたく、ダンジョンなどで倒れてしまえば元も子もないからな。非常用アイテムとしては役立つかもしれんな。

 

 まぁ、俺にとっては最も要らないアイテムだけど。

 

「すみません。俺基本魔力切れ起きないんでそういうのは良いです。他に何かありますか?」

 

「そんな!? 良いアイテムですよ!? 確かに値段は百万程しますけど、爆裂魔法ですら肩代わり出来るんですよ!?」

 

 ウィズさんは信じられないといった様子で手に持っているマナタイトについて捲し立てる。そんなこと言ってもなぁ……ん? 今、何て言った?

 

「ウィズさん、今その商品の値段いくらって言いました?」

 

「え、百万エリスですけど?」

 

 キョトンとした顔でウィズさんはそう返す。いや、高くね?

 

「高くないですか? 普通誰も買わないでしょう、そんなの」

 

「酷い!? 確かに値段は高いですけど、その分質は良いんですよ!?」

 

 いや、質が高くても使い捨てでその値段はなぁ……。金をドブに捨てるのと同義だろう。貢ぐって言った方がまだマシかもしれん。

 

『そんなに高いの?』

 

「あぁ、具体的にはお前に普段あげている餌が数百個はザラに買える」

 

『そんなにかにゃッ!?』

 

 あれ大体千エリスとかそんなんだしなぁ。今度たまには高めのも買ってやるかな。

 

「もしかして、ここにあるアイテム全部そんな感じのアイテムなんですか?」

 

 俺は棚にあるアイテムに向けてそれぞれの効能を問う。すると、それは皆酷いものだった。

 

「空気に触れれば爆発するポーションに、黒歴史暴露水晶、願いが叶うまで外れない首輪……ガラクタだらけじゃねぇか!?」

 

 ビックリするくらいロクな商品がない。何だ、売れないアイテムを集める蒐集癖でもあんのかこの人。

 

「そんな!? 確かにあまり売れてはいませんが、きっとそのアイテムを必要としてくれる方がどこかに――」

 

「いや、いないから売れてないんですよ!?」

 

 自覚ないのか、この人。天然どころかポンコツじゃねぇか。あれか、この世界の美人はポンコツじゃないといけないのか? よく考えたら俺の知り合い皆ポンコツでしたわ。

 

「ハァ……じゃあ、その爆発ポーション下さい。一番火力強めので」

 

 幸い、まだ使い道があるアイテムがあって良かった。他はほとんど地雷臭しかせんから手をつけたくないしな。

 

「はい。二十万エリスになります」

 

 高ッ!? もはやぼったくりのレベルじゃねぇか!

 

 まぁ、買うと言った手前撤回出来る訳もなく、俺はその用途不明のポーションを買うこととなった。この前の報酬の五分の一が吹っ飛んだぞ……。

 

 しかし、このローブと杖を買ったと思えば悪くない。アイテムはガラクタばっかだけどな。

 

「フフフ……ありがとうございます」

 

 ウィズさんは俺がポーションを買うとそう言って笑顔でアイテムを渡してくれる。

 

 ……たまになら、来ても良いかな。

 

 その綺麗な笑顔を見て、そんなことを思ったのは、出来れば内緒にしておきたい。

 

 

 

 

「それじゃ、今日はこれで」

 

『またねー』

 

「はい、またのご来店をお待ちしております」

 

 俺はその後、お喋りがしたいと言うウィズに付き合ってしばらく話を聞いていた後店を出た。良い人なんだが、商才はなぁ……。

 

 ただ、良い店の情報やアイテムも良し悪しの見分け方も教えてもらったのは非常に嬉しい。少し陽が傾き始めているがまだ店は開いているだろうか。

 

 そんなことを考えながら歩いてると見覚えのある姿が見えた。

 

 濃い目の茶色のとんがり帽を被り、オシャレの眼帯をしている我がパーティきっての痛い子、めぐみんだ。

 

 めぐみんはこちらに気づくとちょこちょこ近づいて来る。なんか可愛いなその動き。

 

「どうもこんにちは、ハチマン。ハチマンも買い物ですか?」

 

 そう質問するめぐみんの手には昨日見た杖とは違う杖が握られていた。多分、先日の報酬で新調したのだろう。もう少し来るのが早ければ俺も稼げてただろうに。……いや、それは流石に不謹慎だな。

 

「あぁ、めぐみんも買い物か?」

 

「そうですよ! 見て下さいこの杖! 爆裂魔法の威力を上げる為より良い杖を新調したのです。あぁ、早く爆裂魔法が撃ちたいです……!」

 

 めぐみんは杖に抱き着き捩りながらそう語る。ちょっと、何でこんな変なとこで興奮するのん? 変態はダグネスだけで間に合ってるよ?

 

「そ、そうか……。じゃあ、俺はまだ寄る所があるから。じゃあな」

 

 俺はそうやってナチュラルにその場を後にしようとするが、俺のナチュラルが普通ではない所為か、俺は引き留められてしまう。

 

「あ、ハチマン、私も着いて行っても良いですか? 私この後暇なんですよ」

 

「いや知らんけど……ねだっても奢ってやらんぞ?」

 

 暇だから着いて来るとか何考えてるのかしらこの子。もしかして痛い子? はい、痛い子でしたね。それも現在進行形のかなり痛いやつ。

 

「私を何だと思ってるんですか……。アクアではないのですからそんなことしませんよ」

 

「そ、そうか……」

 

 アクアだとするとは思ってるんですね。まぁ駄女神だし仕方ないか。

 

「……じゃあ好きにしろ」

 

「はい、好きにします」

 

『ハチマン、誰なのこの子?』

 

「うひゃあっ!?」

 

 ユキは俺のローブの中からひょっこり現れるとめぐみんに話しかける。突然現れた喋る猫にめぐみんは思わず素っ頓狂な声を上げ、悪戯が成功したのが嬉しいのかユキの顔は満足げである。

 

「こらユキ。めぐみんにもさっきの悪戯したのか。あまり迷惑をかけるなら今日サンマ買ってやらんぞ」

 

『ごめんにゃさい』

 

 あら何それ可愛い。もっと流行らせようぜ。

 

「あの、その猫は何ですか? この前はいませんでしたよね?」

 

 めぐみんはユキを物珍しそうに見ながら俺に問う。まぁ、喋る猫なんて普通いないだろうしな。気持ちは分かる。

 

「この前一人で受けたクエストで手懐けた。名前はユキだ」

 

『よろしくねー』

 

「よろしくです。ユキ」

 

 めぐみんが挨拶を返すとユキは俺の肩から降りてめぐみんにすり寄る。めぐみんはそれを気持ち良さそうにナデナデしている。あぁ、癒されるなぁ、この光景。

 

「では、このまま行きますか」

 

『行こ行こー』

 

 こうして、ユキを抱き上げためぐみんと共に俺は目的の店へ向けて歩き出す。何故か、俺の隣をもう少し近づけば肩が当たるくらいの近さでだ。

 

「ちょっとめぐみん? 近くない?」

 

「そうですか? 一緒に行くのですからこのくらいは普通かと」

 

「そんなもん?」

 

「そんなもんです」

 

『そんなもんー』

 

 じゃあいいか、と。俺は特に突っ込まないことにした。少し小さい小町みたいなもんだしな。大人しくしてれば常識人だし、気にするでもないか。

 

 俺とめぐみんはそのまま少し入り組んだ道へと入っていく。ウィズの話ではこの辺りのはずだが……。

 

「お、あれか?」

 

 いくつか店が並んでいる所の間に、ウィズに聞いた通りの見た目をした店があった。

 

「あの店ですか?」

 

「あぁ、多分この店だ」

 

 俺とめぐみんはそそくさと中に入って、確かめる。見てみると、色とりどりの服や靴などの衣料品がそこには並べられていた。しかし、店員が一人も見られない。

 

「す、すみませーん……」

 

「おや、お客さんかの?」

 

 呼びかけに応じて出てきたのは中々のご老人。立派な白い髭は胸元辺りまで伸びており、手入れが行き届いたものであることが分かる。それを撫でながら老人はこちらを見やる。

 

「ウィズさんに勧められてここに来たんですが、何か良い靴ありますか?」

 

「ほう、ウィズさんから! ホッホッホッ、ちょっと待っていなさい。軽く見繕ってあげよう」

 

「お願いします」

 

 そう言って店主らしき老人は靴売り場に置いてある商品を漁って何かを探している。

 

 そんな老人を見ていると不意にローブを引っ張られる。まぁ、この場で俺の服を引っ張る人間などめぐみんしかいないのだが。

 

「どした、めぐみん」

 

「ウィズとは誰ですか?」

 

 あぁ、めぐみんはウィズさんのことは知らないのか。となると、あの店自体あんまり知られていないのか?

 

「ウィズってのは街からちょっと外れた所で魔道具店営んでる人のことだ。このローブもさっきその人に貰った」

 

「ほぉ……」

 

 俺が持っていたローブを見せながら説明していると、何故かそんな俺を睥睨するめぐみん。え、何? 近いよ、めぐみん?

 

「な、なんだよ……」

 

「いえ、特には。ただ、また女性を弄んだのかなぁと思いまして」

 

「お前は俺を何だと思ってるんだ……」

 

 俺にそんな技術があるなら伊達にボッチやってねぇよ。この世界じゃボッチの時間の方が今んとこ少ないけどな。ユキとかもいるし。

 

「それに、何か女性の匂いがします。この服ですかね……?」

 

 そう言ってめぐみんはローブの匂いを嗅いでくる。おいなんだ、その勘の良さは。なんで雪ノ下といいお前といい女は皆勘が良いんだ。俗に言う女の勘ってやつか?

 

「き、気のせいじゃないか?」

 

「そうですか……?」

 

 ヤバい、何この状況。浮気疑惑の夫婦みたくなってるんですが。俺何も悪くないはずなのに。

 

「まぁいいでしょう。ハチマンがどこで誰と会おうが、ハチマンの勝手ですからね」

 

「なら何で追及し始めたんだよ……」

 

「気分です」

 

 このロリ、遊びで年上をからかうとは……。和真と今度計画して仕返ししてやろう。

 

「はいよ、お兄さん。これなんかどうじゃ?」

 

 そんなやり取りを交わしてる内に、老人は探し物を見つけたのか、こちらにその靴を見せてくれる。

 

「これは耐久性重視で作られた靴でな、お兄さんみたいな冒険職の人でも重宝すると思うぞ」

 

 見た目はいわゆるエンジニアブーツと呼ばれるものに近く、黒く分厚い皮と(くるぶし)の上まで覆う形が特徴だ。履いてみて分かったが、中々に履き心地が良く靴擦れもこれなら起こさなさそうだ。

 

「これにします。いくらになりますか?」

 

「毎度、五千エリスじゃよ」

 

 俺はその後その靴を包んでもらってから店を出る。ついでだからと言って靴磨きのブラシもその老人は渡してくる。金を払うと言ったのだが、

 

「良いんじゃよ。お前さんみたいな若いモンは、素直にありがたく受け取っとくもんじゃぞ」

 

 こう言われてしまっては何も言えない。俺はお礼を言ってめぐみんと共にその店を後にした。今後も、何か買う時はあの店で買うとしよう。

 

 その後、めぐみんと別れた俺はセツとユキの餌を買って帰った。

 

「帰ったぞーセツ」

 

『おや、やっと帰ってきたかい。待ちくたびれたよ』

 

「悪かったな。ほれ、今日はサンマだ。外で食うが焼くか?」

 

『熱いからそのままおくれ』

 

「さいで」

 

 やっぱり猫舌とかあるのだろうか。俺自身猫舌だから熱いのが苦手なのは分かるが。

 

 俺はそんなことを考えながら馬小屋から少し離れたところで焚き火を作る。

 

「ティンダー」

 

 ボッと小さい火が指先に点くので、俺はそれを馬小屋から軽く取った干し草に移してから薪に放り投げて燃え上がらせる。

 

 自分の分を串に刺してセッティングすると俺はセツ達にもサンマをやる。

 

『あ、塩はあるかい?』

 

「あるぞ。ほれ、こんくらいか?」

 

『僕も塩かけてー』

 

「へいへい」

 

 そんな感じで、美味しそうにサンマを食べるセツとユキ。そんな微笑ましい二匹の姿を見ながら、俺は一人火を見る。

 

「……俺も塩かけるかな」

 

 その後俺もサンマに塩を振って食べてみる。その時に、サンマから磯の香りでなく、土の香りが仄かにしたのはきっと気のせいだろう。

 

 たまには、こんな休日があっても、良いかもしれないな。




どうでしたでしょうか?
細やかな休日も、たまには良いものです。
リアルで可愛い猫がホスィ……。

――追記――

【挿絵表示】

少しばかり変な後書きの修正とようやくアップロードが出来た挿絵を貼ることが出来ました。体とか服装雑だけどこんな感じのを想像して下さい。

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