この素晴らしい世界に本物を!   作:気分屋トモ

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やぁ。皆は元気? 私は元気じゃないよ。それでも出すよ、第七話。
今回は完全オリジナルですね。つまり、私の妄想はここから本領発揮だね。オリキャラも出るよ。オリジナル詠唱も唱えちゃう。センスがホスィ……。
それでは、どうぞ。

~追記~
加筆修正しました


一人のボッチは、こうして彼らと出会う

 二日酔いに苦しむことはなく、初めて馬糞の臭いで目覚めなかった馬小屋生活三日目。気持ちの良い目覚めと共に今日も一日が始まる。

 

 馬小屋の前で日課になりつつあるストレッチを済ませ、俺はギルドへと向かう。これで明日やらなければ三日坊主ではあるが、それもこの調子ではなさそうだ。

 

 俺は歩きながら遠くに見えるギルドを見て、改めて思う。このギルド、遠くからでもそこがギルドだと知っていれば気づくくらいには大きい。

 

 そして外装。赤レンガの瓦に白塗りの壁というヨーロッパ周辺の街造りを彷彿とさせる雰囲気をまとっており、その瀟洒(しょうしゃ)な建物には大抵人の出入りが多く、今日も朝早くから多くの人が行き交っていた。

 

 中へ入ってみてもそれは同じで、そこにはプレートやマントといったファンタジー特有の服装をした者達で溢れている。

 

 しかし、今日は少し様子がおかしかった。いつもなら多少の人だかりができているのが常な掲示板の前に、今日は誰も立っていないのである。

 

 不思議に思い、掲示板を覗いてみる。そういえば、昨日一昨日と受付で依頼を受けていたが、本来はここにある依頼を取って受付に持って行くことで依頼の受理が出来るらしい。知らんかった……。

 

 しかし、覗いた先には驚きの光景が待っていた。

 

 なんとそこには昨日受けたような依頼は一切なく、全て高難易度の依頼しかなかったのだ。グリフォンや一撃熊、デストロイヤーなど物騒なモンスターの名前しかそこには並んでいなかった。

 

「どういうことだ?」

 

 昨日までは問題なかったはずだ。なのに今日、突然依頼が途切れるなんてことがあるのだろうか。

 

 そんな疑問に答える声が隣から聞こえた。

 

「申し訳ございません。ただいま魔王軍幹部が襲来中との情報を受け、調べてみると近隣のモンスターが皆隠れてしまったらしいんです。二週間程で王都からの騎士団が来られますので、その間まではこの調子かと……」

 

「あ、ルナさん。おはようございます」

 

 今日は依頼を受ける者がいない所為か、受付からひょっこり現れたルナさんが俺にそう説明してくれる。

 

「……フフフ」

 

 俺が名前を呼んで振り向くと、少し呆けた様子で固まったルナさんは突然笑った。え、何、俺に対してじゃなかったとか? うわぁ、やっちまったよ、恥ずかしい……。

 

「いえ、初めて私を名前で呼んでくれたなぁと思いまして」

 

 もっと恥ずかしいことしてたわ。俺が女子の下の名前で呼ぶのなんて小町くらいしかいなかったのに。あ、戸塚は性別が戸塚だから別な?

 

「あ、その、嫌でしたか……?」

 

「いえいえ、別に嫌ではありませんよ。何なら呼び捨てでも構いませんし」

 

「いえ、流石にそれはちょっと抵抗あるというか、なんというか……」

 

 ハードルが高いなんてレベルじゃない。断崖絶壁を登れとかそんくらいのハードさだわ。それも命綱なしでやるくらい。

 

「そうですか……。では慣れてからでもいいのでどうぞ気軽にお呼び下さい」

 

「ルナさーん、ちょっと良いですかー?」

 

「はーい! それでは、私はこれで」

 

 そう言ってルナさんは受付の方に戻る。どうやら他の職員から呼ばれたらしい。そこそこ上の人なのかな?

 

 しかしどうしたものかと、俺は頭を悩ませる。

 

 俺は別に問題ない。昨日の依頼で魔法を扱う感覚も分かったし、能力があるから油断こそしなければある程度の依頼はこなせるだろう。

 

 しかし、和真達は別だ。アイツらは俺みたいなぶっ飛びステータスは持っていない。いや、ある意味ではぶっ飛んでいるが、レベルもパーティとしての連携力も低いからな。連れて行くのは危ないだろう。

 

 そうこう考えていると、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「おーす、八幡。今日も早いな」

 

 振り向くとそこにはアクア達を引き連れてこっちに来る和真がいた。

 

「おぉ和真、丁度良い。少しいいか?」

 

「何だ? パーティ脱退ならお断りだぞ?」

 

「ちげぇよ、依頼のことだよ。必死過ぎだろ、何、俺のこと好きなの?」

 

「それこそちげぇよ。で、依頼? 昨日みたくゴブリン退治でいいんじゃないか?」

 

「それがだな――」

 

 俺はそこで他のメンバーも含めて事のあらましを説明してやる。

 

「――という訳だ。俺は能力があるから平気だがお前らは危ないからしばらく依頼に出ない方が良いんじゃないか?」

 

「そうですね。そんな危ない奴がいるんだ、休んでても罰は当たらんだろ」

 

 和真は俺の説明を聞いてうんうんと納得したように頷く。まぁ、和真の自己保身の精神は俺以上っぽいしな。了承するとは思っていたが……。

 

「ちょっと待ちなさいよ! それじゃ私借金返せないじゃない!」

 

 やはりと言うべきか、借金神のアクアが異議を申し立てる。だが、そんなん知らん。

 

「お前が勝手に作った借金のことなんて知らんし面倒を見る義理もない。適当に働いてろ」

 

「お前はせっせとアルバイトでもして働いてろ」

 

「なんでよぉぉぉぉ!?」

 

 俺と和真がそう言うとアクアはまた泣きじゃくって和真を揺さぶる。毎度毎度大変だよなぁと、俺は和真を見ながらしみじみ思う。

 

「まぁ、しばらくは依頼に出ないという意見には同意です。下手に出ても死ぬだけでしょう」

 

「私も賛成かな。剣が折れたから新調したいし、この前買った鎧もそろそろ出来上がってるだろうから一度実家に戻るとするよ」

 

 そして、どっちに転ぶか分からなかっためぐみんとダグネスが賛成派に傾いた。これによって、俺以外のメンバーは依頼を受けない方針に決まった。

 

 その後俺達は各々自由に動いて良いということになりその場で解散。泣きじゃくるアクアを和真に押し付けて俺は再び掲示板を見る。

 

 改めて見て思ったが本当に上級の依頼ばっかだな。割の良いのがどれか見ただけじゃ分からんな。

 

答えを出す者(アンサー・トーカー)

 

 俺は能力を使って一番割が良い仕事を探す。すると一つ依頼に目が留まる。

 

 ”デビル・オブ・ディザスターの撃退依頼

  報酬二百万エリス 難易度二十五”

 

 デストロイヤーに並んで難易度が異常に高いこの依頼。デストロイヤーは国から最高金額の懸賞金をかけられている為納得出来るのだが、この依頼の相手はどうやら強くてデカい猫らしい。何だろう、火車かな?

 

 ”湖の近くに現在縄張りを置いており、

  近隣の村人が襲われる被害が多発中。

  撃退でも良いのでどこかへ追いやって欲しい”

 

 なるほどな。こりゃまた難儀なこって。

 

 どんな猫かも気になるし、答えを出す者(アンサー・トーカー)でも大丈夫って出たし、行ってみるか。

 

 俺はその依頼の紙を剥ぎ取って受付に持って行く。

 

 受付に大分止められたがルナさんが通してくれたお陰で何とか依頼を受けることが出来た。今度何かお礼しないとな。

 

 さて、いっちょ稼いできますかね。

 

 

 

 

「ニャーーン」

 

「……」

 

 俺は今、かなり困惑している。

 

 何故なら、目が覚めるとデビル・オブ・ディザスター、直訳して”災厄の悪魔”と呼ばれるモンスターに、俺は今、顔を舐められていたからだ。

 

『あ、起きたー』

 

 どうしてこうなった?

 

 ――――――

 

 ――――

 

 ――

 

 依頼を受けた俺は目的の湖まで歩くつもりで出かけた。

 

 しかし、思ったよりこの場所が遠く、一時間ほど歩いても全然目的地に着く気配がなかったのだ。

 

 そこで俺は、少し楽をする為に魔法を使うことにした。

 

「アクセル。クイック・アイズ」

 

 敏捷強化魔法のアクセル、視覚強化魔法のクイック・アイズをそれぞれ使用。これにより、今の俺は大抵の動きを把握し、その速度に合った動きをすることが出来る。

 

 しっかりと行く方向を見据え、俺は思い切り地面を蹴った。

 

「おおぉっ!?」

 

 それは想像以上の速さで、俺は少し転けそうになるものの、体は転けないように自然と動いてくれる。恐らく答えを出す者(アンサー・トーカー)が無意識下でも発動しているのだろう。普段の俺なら、この光景を見ただけで思考が確実に停止するだろうしな。

 

 草が、地面が、木が、空までが、俺が足を蹴り出す毎に、めくるめく変わっていく。過ぎ去っていく。そして、驚く程軽い体はその速度を肌で感じ、置き去りにしていく。それは、今までの俺では見ることは到底出来なかった光景。夢に描いた非現実的な風景だった。

 

「ハハッ……!」

 

 柄にもなく高揚しているのが分かる。普段は大人ぶっていても、こういう時はやはり子供なんだろう。俺は思わず笑みをこぼす。

 

 そして、あっという間に目的地の湖に着いた俺は強化魔法を解いて、その場を見る。

 

 そこは随分綺麗な湖だった。湖を囲むように生えた木々の濃い緑が、深そうな水底も透き通って見える程澄んだ水に太陽の光と共に反射し、とても幻想的な景色を作り出している。

 

 目を奪われる程の光景に俺は感嘆の声を上げざるを得なかった。

 

「おぉ……」

 

 かつてこのような景色を見たことがあるだろうか。いや、ない。そう思う程に、その景色は美しかった。

 

『ここで何をしている?』

 

 だからこそ、ソイツが来たことに気づかなかったことに、俺は戦慄する。

 

「なっ……誰だ!?」

 

 声のする方に急いで振り向くと、そこには目を疑うような生物がいた。

 

 尾は二つに分かれていたが、基本的な見た目は確かに猫だった。大きめの猫だと分かっていたが、そのサイズがあまりにも予想外で、俺はその姿に思わず一歩後退る。

 

 俺の身長よりもデカい顔、そしてそれよりも更に大きい純白の体毛に覆われた胴体は昨日の初心者殺しを優に超える。目元にはかつて誰かに付けられたであろう痛々しい傷跡が刻まれており、それでもなお放たれる威厳は生物として格段に上であることが瞬時に分かってしまう。

 

『答えな、小僧。お前はここで何をしている?』

 

 返答次第では容赦しないと、言外にそう言っているように聞こえる問に俺は生唾を飲み込む。

 

 俺は今答えを出す者(アンサー・トーカー)を使っていない。なのにこうして相手の考えが聞こえるということはこのモンスターが直接送っているということになる。そして、大抵この手のモンスターは化物クラスであることが多い。

 

 選択は間違えてはならない。そう思い、俺は答えを出す者(アンサー・トーカー)を使おうとするが――。

 

『わー! 何これー?』

 

 ――後ろから来たもう一匹のモンスターに吹っ飛ばされた為、使うことが出来なかった。

 

「グハッ!?」

 

『あっ、こらアンタ』

 

『ん? 何か踏んだ?』

 

 そして、そこで俺の意識は途絶えた。

 

 ――

 

 ――――

 

 ――――――

 

 ……あぁ、思い出した。俺、今俺の顔をめっちゃ舐めてきているこの猫に蹴飛ばされて踏まれたんだった。

 

 情けないなぁ……何が大丈夫だろうだよ。余裕で気絶させられてんじゃねぇか。しかもコイツ、多分子供だろうに。

 

『あ、起きたー』

 

 俺が起きたことに気が付いたのかソイツは舐めるのをやめて俺から離れる。俺の顔ベタベタなんだけど。

 

 俺は重い体を起こして立ち上がる。そして、湖の水で顔を洗ってから改めてソイツと向かい合う。それくらいはどうやら待ってくれるらしい。

 

 先程見た程の大きさではないものの、余裕で俺より大きな体躯をしたソイツはこっちを見ながら尻尾を立てている。猫が尻尾立てる時って構って欲しいんだったっけ?

 

『お兄さん、何しにここに来たの?』

 

 その猫は俺にそう問うてくる。雰囲気的に純粋に疑問に思ってるようだ。

 

「お前らが近隣住民を襲うからこの辺りから追いやってくれとの依頼があってな。お前ら本当に人襲ってんの?」

 

 俺は正直、見た感じこの猫が人を襲うとは思えん。どっちかというと、さっきみたく無邪気に踏みつぶしそうだが……。

 

『あぁ、やっぱりそうなってたのか』

 

「やっぱり?」

 

 俺の質問にまた俺の後ろに佇んでいた親猫が答える。なんだよ、お前人の後ろに立たないと気が済まないのか。◯ルゴが相手なら死んでたぞお前。

 

『この子が人間を見つける度にじゃれつくから普通の人間は死んじゃってねぇ。色々逃げて来たんだけど、この子言うこと聞かないんもんでねぇ』

 

 そう言って親猫は子猫を見やる。続いて見れば、子猫は俺から離れ、今では蝶々を追いかけていた。

 

『アハハ! 待てー!』

 

 その様子は普通なら微笑ましいものだったのだろう。しかし、如何せん威力がヤバい。具体的には手を思い切り振りかぶったら地面が抉れる。やめて! 無意味に地面を削らないであげて! そこら辺クレーターだらけになってる!

 

「なるほど、あれじゃ普通死ぬわな」

 

 遊び半分で引っかかれようものなら確実に肉体がぱっくり裂けるだろうな。向こうにとってはただのじゃれつきだったとしても、その威力はじゃれあいなんてレベルじゃない。

 

『しかしアンタ、よく死ななかったねぇ。有名な冒険者かい?』

 

 だからこそ、だろう。親猫は俺が死ななかったことに随分驚いている様子だった。

 

「いや全く、最近こっちに来たばっかの新米冒険者だ」

 

 まぁ、普通の冒険者かと問われれば返答に困るがな。本当、頑丈で良かった……。

 

『ニャハハハッ! 面白いこと言うねぇ。仮にもアタシらデビル・オブ・ディザスターって名前付けられてんだ、そんじょそこらの冒険者なら腐る程狩ってるよ』

 

 親猫は豪快に笑うとこちらを見据える。やはり親猫の方は子猫と違い威厳がある。並大抵の冒険者ならきっと卒倒するかもしれない。そう感じるくらいには物凄いプレッシャーだった。

 

『どうすんだい? アタシらを倒そうって言うんなら、本気出すよ? もちろん、ここから動く気はないしねぇ』

 

 つまり、どうにかしたければ倒せと、そういうことですか。

 

 正直、ここに来るまではどんな相手だろうと倒す気でいたんだが……気が変わった。

 

「いや、お前らを倒す気はない」

 

『ほう? じゃあどうするんだい?』

 

「まぁ、ちょっと見てな」

 

 俺はそう言って親猫に背を向ける。そして子猫に呼びかける。

 

「おーい! お前、俺の所で飼われないかー?」

 

『……何?』

 

 親猫は俺の言葉が予想外だったのか、あり得ないものを見るようにキョトンとしている。

 

『えー僕ー?』

 

「そうそう、どうだ? 体小さく出来んだろ?」

 

 答えを出す者(アンサー・トーカー)で調べてみたが、コイツらの種族はどうやら体の大きさをある程度自由に変形出来るらしい。それなら、普通サイズの猫になってくれればコイツらは普通の猫と変わらないはずだ。

 

『毎日遊んでくれる?』

 

「体小さくしてくれればな。飯もちゃんと出すぞ」

 

 流石に体が小さければ威力もそんなにないだろう。猫は好きだし、それくらいなら構ってやれる。飯は……猫缶あるかなぁ……。まぁ、何とかなるだろう。

 

『じゃあ行くー!』

 

 そう言うや否や、子猫は本当に子猫サイズになってこっちに寄って来る。おぉ、本当に小さくなれるとはな。中々便利な能力だな。

 

 俺はカマクラに構ってやるのと同じ要領で子猫を撫でまわす。気持ちいいのか子猫はもっともっととすり寄ってくる。可愛いなコイツ。

 

『……なるほど、手懐けようとするとは思わなかったね』

 

 親猫は心底意外と言った様子で呟く。まぁ、確かに普通はそんなこと考えないよな。だが、生憎俺は普通じゃないんでな。その辺、一緒にしてもらっては困る。

 

「そりゃ、お前らが普通に猫してるからな。大きさが違うだけで、普通の猫と大して変わらんだろ」

 

 むしろウチの猫より猫してるまである。アイツ、猫じゃらしで滅多に遊ばんしな。遊んでも戯れてやるか感が凄い。お前本当に飼われてるんだよな?

 

『へぇ、やっぱ変わってるねぇ、アンタ。けど、それをアタシが許すとでも?」

 

「お前も来てくれたら、丸く収まるんだが……」

 

『ないね。強くもない奴に懐柔される気はないよ』

 

 瞬間、辺りの空気が変わる。

 

 親猫の周りには先程感じた殺気に加え、異常な魔力が収束していっているのが感じられる。

 

『かかってきな、小僧。懐柔させたいなら、アタシに本気出させるくらいはやってみな。でないと、噛み殺すよ?』

 

 駄目かー。戦わずに終わらせようと思ったのにどうして突っかかってくるかなー。

 

 仕方ない。存分に能力を使って、お前を認めさせてやろう。

 

「分かったよ。ま、お前らの種族が何だろうが、俺には勝つ自信があるからな」

 

 俺はそう言いながら答えを出す者(アンサー・トーカー)を発動させ魔力を高める。コイツに勝つ方法を常に頭に浮かばせなければ、恐らく死ぬ。恐怖を知る、という点でも、これは良い機会だ。

 

「お前は下がってな、死にはしないだろうが巻き込まれたらただじゃすまんぞ」

 

『うん、分かったー』

 

 子猫は俺の言葉に従ってその場から離れてくれる。さぁ、これで準備は整った。

 

『アンタ、名は?』

 

「比企谷八幡。これからお前のご主人になる冒険者の名前だ、デビル・オブ・ディザスター」

 

『そうかい。じゃあ、いきなり本気でも構わないね!』

 

「勿論、だっ!」

 

 その言葉を合図に、俺は思いっきり振りかぶって親猫を殴る。こっそり強化魔法をしていたが、別にルールなんてないしな、文句を言われる筋合いはない。

 

『ふーん、中々良い攻撃じゃないか』

 

「なっ!?」

 

 しかし、俺の奇襲は失敗に終わった。何故なら、奴は慌てた様子もなく俺の攻撃を肉球で受け止めていたからだ。割と良い案だと思ったんだがな。

 

『魔力の流れを見れば分かるよ。アンタ、何か支援系の魔法をかけてるだろ? すぐ来ると思ったよ』

 

「他人の魔力見るなんて、趣味の悪い猫だなおい!」

 

 そんな能力もあんのかよ。他にも何か持ってそうだし、しっかり"答"を弾き出さないといけないな。

 

『奇襲仕掛けた奴が抜かすんじゃないよ。そらっ、お返しだよっ!』

 

「やべ……ッ!」

 

 デカい体躯を捻らせて、奴は二本ある長い尾を思い切り俺に叩きつけにくる。フワフワそうに見えるが、当たったらヤバそうだ。

 

 俺はギリギリで躱し、奴から距離をとる。俺が居たところを見れば、そこは既に奴の尻尾で抉られた後で、食らってみればそこそこのダメージを受けるのは確実だろう。

 

「んー……サクッと行くか。時間かけるのは悪手っぽいし」

 

 俺は後ろに飛んで逃げると走りながら詠唱を始める。

 

「光の妃、怪異の王。穢れを焼べ、障りを穿つは迅雷なり」

 

『ほう、上級魔法かい。撃たせないよッ!』

 

「オッ……!?」

 

 危険と察知した奴は俺に飛びかかって来るが、それも考慮していた俺には少し届かない。というか、予測してこの反応速度はちょっとシャレにならん。早く終わらせねば。

 

『チィッ! トルネードッ! 吹っ飛びなッ!』

 

「あ!? 無詠唱だと!? 聞いてねぇぞんなもん!」

 

 アークウィザードでもそこそこレベルを上げなければ取得できない無詠唱スキル。それを難なく扱い、奴は地面から上へ引っ掻くようにして、上級の風魔法を起こす。

 

 風が吹き荒れ、地面はめくりあがる。大規模な渦巻きは周囲をも巻き込み、俺も少しだけその攻撃を食らう。いや、それよりも。

 

「クソッ! やり直しかよッ!」

 

 詠唱が長い魔法は強力な分発動に時間がかかる。無詠唱が相手だと、発動させる前に邪魔が入る。もっと能力に慣れてから来るべきだったな……。

 

『さぁ、まだまだいけるだろ? アタシをもっと楽しませてみな!』

 

 豪快に笑いながらこちらを見やる。けれど、その目には油断は見えない。キチンと危ない敵として認識している証拠だ。

 

「じゃあ、お望み通り。チート勢の本気を見せてやる……!」

 

 俺は神経を研ぎ澄ませて脳にありったけの意識を持っていく。集中とは少し違う、無駄を削ぎ落とすための行為。

 

 今はまだ慣れていない為、負担が大きい。こと、魔力も消費しながらだと尚更だ。だから、本当に短時間で終わらせるつもりの時しか使うつもりはなかったんだが……。

 

「後悔するなよ? お前の攻撃、全て避けきってやる」

 

『ほぉ……本当か、試してやるよ! アースシェイカーッ!』

 

 親猫は呪文を唱えながら地面を思い切り殴りつける。どうやら、地震を起こす威力を上げる為直接地面に魔力を送っているようだ。

 

 悪いな。こっからはただの()()だ。

 

「光の妃、怪異の王。穢れを焼べ、障りを穿つは迅雷なり」

 

 俺は詠唱をしながら走り出す。もちろん、支援魔法はかけている状態だが、その速さは来る時よりも上げている。体への負担は、一旦無視だ。

 

 地面が割れ、隆起と陥没を繰り返す。地震なんてものではないが、今の俺にはどう避けるか、どう攻めるか。全てが見える。動きが速い分、避けるのも楽だ。

 

『むっ、動きが変わったね。これでも食らいな! インフェルノ!』

 

 そう言って奴は口からとてつもなく大きな炎の塊を吐く。爆裂魔法ではないにしろ、その温度は軽く皮膚を焼き、体ごと燃やし尽くすだろう。

 

 だが、その弱点も見えている。

 

 俺はその魔法の核の部分に防御魔法を張っておいた足で蹴って起動を逸らせる。

 

『ぐっ……!』

 

 思ったより熱かったが、詠唱には支障ない。無視して俺は奴へと近づく。

 

『なっ……!?』

 

「白き瞬きは悪魔を滅し、黒き輝きは神をも降す。極光ここに至り、その輝きを以て、全ての闇を打ち払わん」

 

 詠唱が終わった俺は奴に向けて手を向ける。狙いは腹部、動きを鈍くさせればこちらも楽になる。

 

「カースド・ライトニングッ!」

 

 刹那、俺の手からは高密度の雷が放たれる。視界を強化してもなお追いつくことが叶わぬその速度を以て、雷は親猫を貫く。

 

「ぐおっ!?」

 

 しかし、威力を込めすぎた所為か、俺自身が反動で吹き飛ぶ。ちょっと張り切り過ぎたな。

 

『グッ!?』

 

 流石に堪えるのか、直撃を食らった奴は苦しそうに声を上げる。子猫には悪いがもう少しやらなければなさなそうだ。

 

『……痛いじゃないか、小僧』

 

 笑みを浮かべて相対する。その眼には、先程の軽い雰囲気など欠片も残っていない。歯向かってきた獲物に対する怒りのみだ。

 

「小僧だかんな。()()()くらい、多目に見てくれよ?」

 

『舐めた口を……!』

 

 親猫を挑発するように俺も不敵に笑う。きっと、さぞ気持ち悪い笑顔を浮かべていることだろう。想像出来てしまう辺りが悲しい。

 

「少し痛むが、我慢しろ」

 

 俺は再び詠唱を始める。それと同時に、俺の周囲の温度は低下し、足元の草も凍り始める。魔力も、昨日とは比べ物にならないほど底上げしている。頭痛がするが、まだ耐えられる。

 

「闇を祓いし氷雪よ、光すら封印()ざす氷晶よ。極寒にして凛冽(りんれつ)なりし絶対零度の氷結魔法。我が呼び声に応え、我が許にて顕現せよ。仇為す全てを凍て尽くす、六花の加護をここに」

 

「凍結魔法……! しかも、この魔力量……ちっと分が悪いね!」

 

 親猫はそう言うと上空へと飛ぶ。しかし、少し遅かったな。

 

「カースド・クリスタルプリズンッ!」

 

 詠唱が完了し、奴に向けて手を向ける。それに伴い、自分の目の前に氷の道――否、氷の棘が立ち並ぶ。

 

「フンッ!」

 

 そして、上に届かせる為に手のひらが上になるようにして腕を振り上げる。空気ごと持ち上げるような感覚だ。

 

 魔法は地を凍らすだけでなく、そのものすらも凍らすように重なりか、上へ上へと昇る。そして、捉えた獲物を逃さない。

 

『グアッ!?』

 

 脚を捕らえた氷は、瞬く間に広がり、その動きを封じる。

 

 やがて氷塊程の大きさの氷に閉じ込められた奴の顔には驚きの表情が浮かんでいる。

 

「まだやるか? デビル・オブ・ディザスター」

 

 俺は動けなくなった奴の前に行き、そう問う。答は、聞かなくても分かるがな。

 

『……こりゃ、勝てそうにないね』

 

 奴はそう呟く。それが決着の合図となり、奴に子猫が近づいていく。

 

『お母さん、大丈夫!?』

 

『あぁ、大丈夫だよ。安心しな』

 

 子供を安心させるように親猫はそう言っているが、本人は氷から出てこない。それが子猫の不安を煽るようで、その表情は明るくない。

 

「意外と元気そうだな?」

 

『そりゃあね、こんなの一つで倒れてたらそもそも恐れられてないよ。ただ、これ以上は死にそうだから遠慮しとくよ。アタシはまだ死ぬ気はないからね』

 

「賢明だな」

 

 自分より強ければ懐柔される。そう言った親猫が命を張ってまで戦う理由はない。見極めも良い。俺としては、楽に済んで助かった。

 

『アンタ本当に駆け出しなのかい? こんな魔力量、今まで見たことないよ』

 

 信じられないといった様子で親猫は俺に問う。まぁ、俺でも普通はそう思うよ。駆け出しの冒険者が危険モンスター相手に圧倒することも、上級魔法を連発してピンピンしてるのもな。

 

「あぁ、何せ諸事情あって、この世界に来たのが四日前だ。駆け出しも駆け出しさ。間違ってないだろ?」

 

 尤も、能力だけは上級どころか英雄レベルかもしれんがな。

 

『ニャーハハハッ! いいねぇアンタ、気に入った! アタシも着いて行かせてもらおうかね!』

 

 親猫はそう言うと、俺の作った氷をいとも簡単に砕いて何食わぬ顔で出てくる。更に、貫いたはずの部分の傷が少しづつ修復されていく。どうやら自然治癒能力があるようだ。

 

「えぇ……マジで?」

 

 どうやら、親猫はまだ余裕で動けるらしい。ヤバい、恥ずかしい。何がまだやるか? だよ。めっちゃ手抜かれてんじゃねぇか。

 

『見たところアンタ、魔力が尋常じゃないからね。恐らくアタシより上かもしれないし、そんな相手とやるのは面倒なんだよ』

 

 そう言いながら、親猫は子猫と同じように小さくなると、俺の肩にひょいと乗ってくる。

 

『それに、アタシがアンタに着いていけばアンタも依頼が片付くんだろ? それで飯でも奢りな』

 

「それは別に構わんが……良いのか? お前、ここ縄張りにしてたんだろ?」

 

『良いんだよ。どうせいずれは動かなきゃいけないしね。この子だけ行かせるのも心配だしねぇ』

 

 親猫が顎で示唆する方向を見ると、子猫が足元にすり寄ってよじ登ろうとしていた。多分、親猫と同じように肩に乗りたいのだろう。俺は腋辺りを持って肩に置いてやる。

 

『この子と私、アンタの所で世話んなるってことで良いかい?』

 

「あぁ、いいぞ。二匹くらい、俺が賄ってやるよ」

 

 猫を育てると思えばどうという事はない。飯代がどれくらい要るのかは知らないが、必要なら今回のような依頼に出向けば良いだけだ。

 

『決まりだね。じゃあよろしく頼むよ、ヒキガヤ』

 

 そう言って親猫は俺の額にすり寄ると、自分の頭をくっつけてくる。すると、体の中で何かが変化したような感覚に見舞われる。

 

「おぉ?」

 

『安心しな、アンタを認めた印として少し能力を分けただけさ。体に支障はないよ』

 

 どうやら、俺を認めてくれたことで何かを付与してくれたらしい。

 

 俺は冒険者カードを取り出して見る。しかし、ステータスやスキル、特にこれといって変わった様子はなかった。

 

「何を分けてくれたんだ?」

 

『飛行能力』

 

「分け与えれんのかよ!?」

 

 何それ超便利。しかも夢にまで見た空を飛ぶことが遂に叶うとは……。異世界様様だな。

 

『まぁね。見てな』

 

 そう言うと親猫は俺の肩を蹴って跳ぶ。否、飛んだ。

 

「おぉ……本当に飛べんだな」

 

 何かシュール。猫が翼もなしに飛ぶ姿とはこんなにもシュールなものなのか。残念ながら、俺の語彙力をもってしてもそれくらいの感想しか出てこなかった。

 

『アンタもほら、真似してみな』

 

「普通出来ねぇよ……」

 

 俺を万能な人間とでも思ってるのか? まぁ、今なら大抵のことは出来るけど、頭痛が酷くなるからやりたくないんだよ。

 

『ほら早く案内してくれよ、アンタの家に。アタシ腹減ったよ』

 

『僕も減ったー』

 

「お前ら、結構図々しいのな……先に依頼済ませてからな」

 

 その後、俺は湖の後処理や近隣住民への報告を済ませて、俺は二匹を肩に乗せてギルドへと帰った。

 

 途中、結局使用した答えを出す者(アンサー・トーカー)が突然切れて、降り方が分からなくなった俺が盛大に地面に激突したのだが、恥ずかしいので割愛させてもらう。

 

 ”デビル・オブ・ディザスターの撃退依頼 成功

  依頼報酬 二百万エリス"

 

 冒険者生活四日目にして、俺はどうやら小金持ちになったらしい。

 

 今夜は少し、豪勢にするとしよう。新たな飼い猫と出会えたことに、細やかな祝福を。




どうでしたでしょうか?
オリキャラ(二匹)、出ましたね。可愛いぬこ達です。名前は次回出るよ。
報酬とかは割と、というかかなり適当です。ぬこ達のモンスター名は何か危険だけど可愛いキャラが作りたかったという思いの具現化です。犬派には申し訳ないが私は猫派だ。異論はもちろん認める。ハシビロコウが最近人気出てるけどその前から好きだった私の感性って何なんだろう。
しばらく立て込んでいる部活とか勉強とかの間に書くんで誤字が誤字と判断できないくらい誤字が出るかもしれません。すんません。
CREAさんはいつも誤字報告感謝してます。ありがとうございます。

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