この素晴らしい世界に本物を!   作:気分屋トモ

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やぁ。
簡素だけど、今回から挨拶はこれです。ポーションは決して作りません。
UAがとうとう1000突破です。ありがとうございます。ランキングも結構前だけどルーキー日間辺りで三位になって気がする。今はどこにいったんだろう?
オリジナル云々のタグはここで真価を発揮するよ! ダサイとかそういう感想は絶対受け付けないよ。センスはどうにもならないからね。あと、前からかもしれないけど今回特にカズマさんがクズマさんしてない気がするので一応タグ追加します。
長くなったけど、それではどうぞ。

~追記~
加筆修正しました


瞬く星空に彼は彼女達を思う

 俺達は現在、ゴブリンがいると言われた山まで来ていた。

 

 鬱蒼と生い茂る木々に整備されていない山道。自由奔放に生えまくった行く手を阻む草々に俺は少し苦戦していた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「ハチマン、大丈夫ですか?」

 

 俺に背負われためぐみんは息の上がった俺を見てか心配そうな表情でこちらを見る。ちょっと? 何とは言わないけど慎ましやかで柔らかいものが密着してるんですが、気づいてます? こっちは気づいてから心臓バクバクいってるんですが。

 

「あぁ、大丈夫だ。ちょっと歩き難いだけだからな……」

 

 実際、俺は凄く歩き辛かった。学校帰りに死んだとはいえ、それでそのままローファーで山歩きなど無謀もいいところだ。加えてめぐみんを背負っていることを考えれば下手をしなくても靴擦れするに決まってる。というかしてる。今度金を貯めたら装備一式買おう、そうしよう。

 

 将来の収入の使い道を早くも決めた俺は、現在の状況を和真に尋ねる。

 

「それで和真。近くにゴブリンはいるのか?」

 

「いや、今のところいないっぽいぞ」

 

 俺の質問に和真は周りを窺いながら答える。何故、和真にそんなことが分かるのか。それは、和真が現在発動している能力が関係している。

 

 敵関知スキル。何の捻りもない、文字通りのスキルなのだが、これが意外と使い勝手がいい。

 

 何せ敵の数だけでなく、その位置まで把握出来るのだ。恐らく、レベルを上げれば敵の情報も得られるはずだ。今度出来たら教えてもらうとしよう。

 

「おっ、敵反応有りだ。けどなんだが……」

 

「どうしたのだ?」

 

 何やら和真が訝しげな表情をして頭を捻っている。何かあったのだろうか?

 

「いや、反応が一つしかねぇなぁって」

 

「一つだけ? ゴブリンは群れで動くんだろ?」

 

 俺の知識が正しければゴブリンは基本群れで行動するはずだ。ゲームの際、エンカウントした時のウザさでいえばアイツらはナンバーワンだろう。それほどまでに彼らは基本群れで動く。

 

「一匹なら恐らくゴブリンじゃないかもしれん。様子見で窺うか?」

 

「だな。下手に動くよりここは待機だな」

 

 臆病かつビビりで有名な俺達は早くも意見が合致し、その辺の草むらへ隠れようとする。

 

「ちょっとカズマさんカズマさん。私することないんですけど。ここ最近扱いがより雑になってるんですけど」

 

 だが、そんな俺達の会話に横槍を入れるように不機嫌そうなアクアが割って入ってくる。朝置いて行かれそうになったのもあるのだろう。起きなかった本人が悪いだけだが。

 

「お前はもう少し慎みを持て。何でもかんでも華やかに事が進むと思ったら大間違いだ。それこそ、また蛙に食われるぞ」

 

「嫌よ! もう蛙に食われるのなんて二度とごめんよ!」

 

「おい、声が大きい」

 

 和真がアクアをぞんざいに扱った所為で、アクアが抗議の声を大きく上げてしまった。これじゃ隠れる意味がなくなるだろうが。

 

「さぁ! どんな相手でもかかって来るがいい! 願わくば、ガツンと来るような一撃を見舞ってくれるようなモンスターが望ましい……!」

 

「敵にどんな要望突き付けてんだよ」

 

「さぁ! 出てくるのなら来いなのです! ハチマンが成敗してくれますよ!」

 

「さらっと挑発してしれっと俺を巻き込むのやめてくんない?」

 

 ダクネスもめぐみんもアクア(アホ)に感化されていつもの調子で構えている。というかめぐみん、背負われる身であんまり調子乗ると置いていくからな?

 

「すみません……」

 

分かればよろしい。

 

 ガサガサ。

 

 ふと、俺達の騒ぎように応えたのか、草むらから何やら揺れる音がする。その音に反応して皆がそちらを見やる。

 

「きゅ?」

 

 しかし、警戒の度合いに反してその草むらから出てきたのは、何の変哲もない小柄のリスだった。こっちの世界にもリスがいるのか。

 

「なんだリスじゃないですか。心配して損しましたよ」

 

「期待外れだな……まぁ可愛いから良しとするか」

 

「もしかしてカズマさんの言ってた反応ってこのリスなの? プ~クスクス! とんだゴミ性能じゃない!」

 

 めぐみんとダグネスはそう言って肩を撫で下ろし、アクアはリスに寄って行きながら和真をからかう。和真を見れば眉間に皺が寄り、今にも切れそうな顔をしていた。

 

「おい、アイツ置いて帰ってもいいかな、八幡?」

 

 その和真は苛立ちからかそんなことを口にする。まぁ、気持ちは分からんでもないけどさ……。

 

「多分もっと面倒なこと起こすからやめとけ」

 

 答えを出す者(アンサー・トーカー)を使ってはいないが、何故かそんな気がしてやまない。

 

 そしてその予感は時を待たずして当たったようだった。

 

 ガサガサ。

 

 再び、リスが出てきた方の草むらが揺れる音がする。だが、先程とは何か様子が違う気がする。

 

 何というか、肌にまとわりつく嫌な予感というか……ひょっとしたらヤバいかもしれん。

 

「おいアクア、そこから離れろ。何か嫌な予感がする」

 

 俺はリスと戯れているアクアにそう警告する。しかし、さっきの和真の予感が外れたことで気が抜けているのか、はたまた単純に危機察知能力が乏しいだけなのか、アクアは笑いながら答える。

 

「え~何よハチマンまで。もしかしてハチマンもビビってるの? プ~クスクス! 情けないわね!」

 

 やっべぇコイツ殴りてぇ!

 

「なぁ、和真。俺もアイツ置いていって良い気がしてきたわ」

 

「ハチマン、さっきと言っていることが逆ですよ」

 

 そう言うなめぐみん。今、アイツを見ていると無性に腹が……。

 

「おい……アクア」

 

「ん? どうしたのよハチマン。リスなら自分で寄せ付けなさいよ」

 

「いや、お前の後ろの奴……何だ?」

 

 俺の言葉にアクアはそちらを振り向く。

 

 草むらから出てきたソイツは、リスなんて可愛らしい影はどこにもない。それは、言うなれば猫科の猛獣だった。

 

 虎やライオンなんて小さく見える、それほどまでに成長し、黒い体毛に覆われた体躯は俺達冒険者を欲さんと語っている。

 

 サーベルタイガーよりも大きな二本の牙を持つ口から常に涎が垂れているのは、きっとしばらく何も食べていないからなのかもしれない。

 

「……こんにちは~」

 

「ガァァァァッ!!」

 

「いやぁぁぁぁ!?」

 

 耳に劈くような咆哮を上げたモンスターはアクアに襲い掛かった。アクアは泣きながらそのモンスターの攻撃から逃れようとしている。

 

「おいっ! 何だあのモンスターは!?」

 

「知らねぇよ! あんなモンスター初めて見たぞ!?」

 

 俺と和真はその突然の事態に困惑する。ジャイアントトードとは違い、気が緩めば”死”が待っているのだと、そう感じさせるような感覚を、俺はこの時初めて感じた。

 

「あれは初心者殺しだッ! 名前の通りゴブリンの群れに付いて行ってゴブリン目当ての駆け出し冒険者達を襲う危険なモンスターだッ!」

 

 ダクネスはそう叫びながら剣を構える。どうやら、あのモンスターは初心者殺しと言うらしい。聞く限り、知性があるのだろうか、これはかなりヤバいかもしれん。

 

「アクアから離れろッ!」

 

 ダクネスは剣を振りながら襲われているアクアを初心者殺しから庇うように剣を構えた。

 

 しかし、ダクネスの攻撃は一度たりとも当たりはしない。だが、初心者殺しは剣を恐れたかダクネスの前から一歩後退(ずさ)ると威嚇するように吠える。

 

「ガァァァァッ!!」

 

 そして、熊よりデカい手をダクネスの剣に向けて振り下ろす。その威力は想像よりも高く、蜘蛛の糸を断ち切るように、ダクネスの剣を簡単に折ってしまった。

 

「そんな!? コイツ、私の剣を折ってしまったぞ!?」

 

 ダグネスは刃の途中から綺麗に折られた剣を見て珍しく慌てだす。流石に自分の剣が折られるとは思っていなかったようだった。

 

「あぁ、どうしよう!? 今すぐコイツに突っ込んで一撃食らってみたいが、クルセイダーとしてアクアを守らねばいけない!」

 

 いや、違いましたわ。平常通り興奮してましたわ。この状況下で興奮出来るとか最早逸材だわコイツ。

 

「ちょっとカズマ! ハチマン! 早く助けなさいよ! 私死んじゃうじゃない!」

 

 ふと、ほぼ存在をほぼ忘れかけていたアクアがこちらに助けを求める。そもそもの原因はお前だろうがッ!

 

「うるせぇ駄女神! お前が招いた災厄だろうがッ! 自分で何とかしろよッ! 何なら置いてでも逃げるぞッ!」

 

「ワァアァァァ!! カズマが言っちゃいけないこと言った! 私女神なのに! 水の女神なのに!!」

 

「どこがだこの駄女神めッ! お前回復魔法なけりゃただの宴会芸人みたいなもんじゃねぇか!」

 

「また言ったぁぁぁぁ! カズマがまた駄女神って言ったぁぁぁぁ!!」

 

「あぁもうめんどくさいなお前ら!!」

 

 収拾のつかない言い争いに俺は流石にキレる。何で死にそうな状況でお前らそんなことが出来るんだよ!

 

「グォォォォ!!」

 

 そんなことをしていると、痺れを切らした初心者殺しはダグネスに向かって襲いかかる。不味い、このままでは最悪ダグネスが致命傷を負ってしまう。

 

答えを出す者(アンサー・トーカー)!」

 

 俺は能力を使いこの場での最善の"答"を導き出す。仲間を助け、初心者殺しを倒す方法を。ついでにアクアに痛い目見せられるようなものがあればなお良いな!

 

そんな願いも交えて出した答を、俺は即座に実行した。

 

「闇を祓いし氷雪よ、光すら封印()ざす氷晶よ! 極寒にして凛冽(りんれつ)なりし絶対零度の氷結魔法! 我が呼び声に応え、我が許にて顕現せよ! 仇為す全てを凍て尽くす、六花の加護をここにッ!」

 

 右手を前に差し出し、慣れない詠唱を口にしながら俺は魔力を高める。その最中、空気中の水分が凍っていくような感覚と共に、自身の魔力が手に集まって高まるのを感じた。

 

「カースド・クリスタルプリズンッ!!」

 

 詠唱が終わり、魔法が発現する。高まった魔力を押し出すようにすると、初心者殺しに向かって氷の道が出来上がる。

 

そして、初心者殺しに氷が触れた瞬間、氷はそれを逃がすまいとゆっくりとその動きを止めていく。暴れようにも、体が次第に凍っていくため逃れられない。

 

やがて完全にその動きを止めた時には、そこには透き通った六角水晶が形成されていた。中には、事態を飲み込めぬまま息絶えた初心者殺しがおり、それを見て、俺は思わず驚嘆の声を上げる。

 

「おぉ……すげぇ……」

 

 なんと美しい光景だろうか。場違いにも俺はそんなことを考えていた。

 

「こ、これは凄いな……」

 

「す、すげぇ……これが本物のアークウィザードか……」

 

「おい、まるで私が偽物みたいな言い方じゃないか。文句があるなら言ってみるがいい」

 

 和真達も若干一名を除き俺と同じ感想を呟いている。めぐみんも気持ちは分かるがそれは他の魔法も使ってから言おうな。

 

「あれ、あの駄女神はどこ行った?」

 

 そこで和真がアクアがいないことに気づく。あれ、さっきまでダクネスの後ろにいなかったか?

 

「あ……」

 

 ふと、めぐみんが何かに気づいたように声を漏らす。

 

 そして、そちらを見ると氷晶の中に異物が――否、アクアが初心者殺しと共に凍っていたのだ。 

 

「あぁ……」

 

 俺はどうやらアクアを巻き込んで魔法を発動させたらしい。腹いせの解消が本当に”答”に考慮されていたらしい。

 

だからだろう。俺は今、清々しい気分で満ち溢れている。しかし死んでないよな、あれ……。

 

「ハチマン、これは流石に……」

 

 それに気づいたダクネスも少し気の毒そうに呟く。

 

「分かってるよ。暖めるか……」

 

 俺は凍ってしまったアクアを元に戻すべく、再び詠唱を始める。

 

「燃え盛るは炎、焼き尽くすは(ほむら)。我が手から放出せよ。ファイアボール」

 

 ボッボッ、と配管工事のおっさんよろしく、掌から炎の塊を出してアクアが凍っている氷に当てる。すると、意外な程にすぐ溶けた氷の中からアクアが飛び出してきた。

 

「ちょっと、何するのよ!? 死ぬかと思ったじゃない!」

 

 そう言うや否や、アクアは俺の胸倉を掴んで前後に揺らす。ちょ、めぐみんもいるから出来ればやめてくれ、ぐわんぐわん揺れる。

 

「私凍らされたんですけど!? 女神なのに氷漬けにされたんですけど!?」

 

「アクア、揺れます、落ちます、ずり落ちます。揺らすのやめて下さい」

 

「いや、元々はお前が煽ってきたのが原因……ちょ、マジで吐く……」

 

「謝りなさいよ! 女神を凍り漬けにしたこと、謝りなさいよ!」

 

抗議の声を上げるも、俺の言葉を聞かずにアクアはなおも俺の胸倉を掴んだまま揺らしてくる。このままでは昨日のキャベツをリリースする羽目になる。それは避けたい。

 

「分かったよ、だからとりあえず落ち着いてくれ。帰ったら何か奢るから」

 

「言ったわね!? 最低でもシュワシュワ三杯は奢りなさいよ!?」

 

 チョロイ。女神なのに酒に釣られるとかチョロすぎて女神界の今後が心配になってくる。

 

「しかし凄いですね。手練れの冒険者でもこの威力の魔法を扱えるのは中々いませんよ?」

 

 アクアを宥めていると背負い直しためぐみんは俺が作った氷晶を見ながら悔しそうに呟く。

 

「そ、そうなのか……。俺はただの冒険者だぞ?」

 

「ただの冒険者というのはカズマみたくステータスが低く取柄のないような人のことを言うのです。間違ってもハチマンはそんな部類ではありません」

 

「ねぇ、めぐみんは俺をディスらないと気が済まないのか? そろそろ泣きたくなってくるぞ?」

 

「ま、まぁ、カズマはカズマで何か良いところあるんじゃないか? そんな言ってやるなよ」

 

「ねぇ、俺泣いて良い? ハチマンにすらその言い様されるとか辛すぎる」

 

「これで少しは私の気持ちが分かったかしらカズマ! これからはもうちょっと私に優しくしなさい!」

 

「はぁ? やだよ、何言ってんだ?」

 

「なぁんでよぉぉぉぉ!?」

 

 結局、死にそうになったことも忘れた俺達は、しばらくそんなやり取りを繰り返すことになった。緊張感なさすぎなんだよなぁ……。

 

 

 

 

 その後、ようやく平常――と言ってもさっきとあまり変わらないのだが――に戻った俺達は目的のゴブリンの群れを難なく退治。依頼討伐目的数の倍ほどいたが、俺の魔法の実験台として利用させてもらった。加減を間違えて何匹か燃やし尽くしたり塵にしてしまったがな。

 

 そして、今はその帰り。モンスターの配達サービスを利用してゴブリンの回収をしてもらった俺達は、既にアクセルの街へと戻ってきていた。

 

 ゴブリンの討伐依頼達成と初心者殺しの出没、討伐についてはギルドで報告を済ませたのだが、如何せん、その対応をしてくれたルナさんが忘れられない。

 

『ヒキガヤさーん、こちらこの度の報酬となります』

 

『あ、はい……あの、何か機嫌悪い――』

 

『ヒキガヤさん、お疲れ様でした』

 

 怖ッ!? 目が全然笑ってないんですけど!? 俺なんかしました!?

 

 まぁ、そんな彼女の可愛らしい黒い笑顔は予想外ではあったものの、俺は人生で初めて給料と呼べるものを貰うことになった。

 

 ゴブリン討伐数二十二匹、買い取り十五匹、初心者殺し討伐、買い取り共に一匹。締めて六十万強の報酬を俺達はこの日だけで稼ぐことが出来た。報酬は勿論割勘、一人当たり十二、三万程の収入となる。

 

「おぉ……! やっぱチート持ちがいると違うなッ!」

 

 普段の収入がどれほどかは知らないが、和真の反応を見る限り駆け出し冒険者にとっては中々良い金額のようだ。周りの冒険者達には初心者殺しを倒したことを随分と持て囃されたが、能力頼りの勝利だったためかあまり嬉しくはなかった。

 

 その後、俺はアクアを凍り漬けにしたお詫びも含めて和真達とギルドで軽く飲むことになった。手持ちが良いからか、和真は今日は飲みまくってやると言って最初からシュワシュワを大量に頼んでいた。

 

「プハーーッ!! やっぱりクエスト終わりにはキンキンに冷えたシュワシュワよね!」

 

「ワハハ! お前今回何もしてねぇじゃねぇか!」

 

「いいのよそのくらい! さぁ、まだまだ飲むわよ! すいませーーん! シュワシュワもう一杯追加でーー!!」

 

「おいアクア、俺は三杯までしか奢らんからな?」

 

 ほどなくして、彼らは見事に出来上がっていた。呑兵衛のアクアなら分かるのだが、和真や他の冒険者達も酔いの回りが早いのは多分和真が音頭をとっているからだろう。昨日の以上に、彼らは騒ぎ盛り上がっていた。

 

「イヨッ! 花鳥風月!」

 

「オォォォォッ!?」

 

 アクアは花鳥風月などの宴会芸スキルを使うと何やら小銭を冒険者達から投げられていた。多分、膨らんでいく借金の返済にでも充てるのだろう。そんな姿を見ると、ますますコイツが女神に見えん。和真がぼやいていた通り本当に宴会芸の神なんじゃないかと思う。

 

「あ、そうだ和真。ほれ」

 

「ん? どうした八幡?」

 

 既にいくらか酔っ払っている和真に、俺は先程の報酬からいくらか金を取り出して手渡す。何の金か分からないのか、和真は首を傾げている。

 

「昨日の飯代だ」

 

「あぁ、別に気にしなくても良かったのに」

 

 納得した和真はそう言って笑いながらそれを懐に仕舞う。

 

「いや、気にする。俺は基本こういうのは嫌いだからな」

 

 人に迷惑をかけない、干渉しない程のガンジーもビックリな博愛主義者なボッチにとって、他者との明確な従属関係が生じることは極力避けたいものだ。例えそれがパーティメンバーであろうとも、その辺りはきっちりせねばなるまい。

 

「ハッ!? まさか、パーティを抜けるとか言わないよな!?」

 

 しかし、何を勘違いしているのか、和真は俺の言葉を聞くなり詰め寄って問い質してくる。近い、離れろ、鬱陶しい。

 

「今は特に考えてない。だが、俺は出来れば基本ソロで動きたい。だから、必要な時に呼ぶような形にして欲しいんだが」

 

「何故だ? というか、それパーティっていうのか?」

 

 すまんな、仲間とかいた経験ないから定義が分からん。呼んで手伝ってくれたらパーティなんじゃねぇの?

 

「パーティかどうかで言えば知らんが、ソロで動くのはそっちの方が効率良いからだ。今日みたいな動きじゃ俺はこの先確実にチート能力を持て余すだろうからな」

 

 言うことを聞かない仲間を宥めて、突っ走る仲間を庇って、強いモンスターと戦う。そんなの縛りプレイと変わらんし、何のために都合の良いチート能力取ったか分からん。

 

「それに、誰かに頼る戦いをするよりかは自分だけでしっかり戦える方がいざという時に困らないだろ? お前、絶対俺を頼ってサボるだろ。俺はそれを絶対に許さない」

 

「そ、そんなことはないぞ……?」

 

 俺はそうやって睨むが、和真はそれに合わせて目を逸らす。つまり、サボる気満々だったのな、お前。その気持ちは分からんではないけどな。

 

「まぁそういうことだ。各々が効率的に成長する為にも俺はソロで動きたい。勿論、呼びかけには基本応じるぞ」

 

「それなら……まぁ……」

 

 和真は納得はしなかったようだが渋々了解してくれた。良かった、これで心置きなく自由に動ける。ボッチ万歳。

 

「しかしなぁ……出来れば八幡にはもっと全力で無双して欲しかったんだけどな。俺が楽出来るし、金は増えるしで一石二鳥」

 

「お前なぁ……」

 

 コイツ、本当自分のことしか考えてねぇな。そりゃ無双するのは男としちゃ夢見るもんだが、手放したのはコイツ自身だしな。自業自得だ。

 

「八幡、俺は強くなれると思うか?」

 

 和真は心配なのか、酒を煽りながらそんなことを聞いてくる。見れば、少しだけ顔が暗い。

 

 強くなれるか、か。んなもん誰にも分からんさ。

 

「さぁな」

 

 だから、俺はただそう返すだけ。そのついでに俺は酒を頼む。こっちじゃ自己責任だし、飲んでも構わんだろう。少し、飲んでみたいしな。

 

「だよな……」

 

「人に聞いて分かるもんなんて、たかが知れてるからな。そんなもんだ」

 

 さっきの明るさはどこへやら。和真は軽くなったジョッキを覗きながらただ黙っている。

 

「……ただまぁ、何だ。和真」

 

 俺は和真を呼んではみたが、どうやら何も考えていなかったらしい。その後に続く言葉は一つとして頭に浮かんでこない。

 

「その……あれだ。お前は、強くなりたいと思ってるのか?」

 

 ここで俺がコイツを手伝ってやるのは容易い。答えを出す者(アンサー・トーカー)を使えば指導だって朝飯前でちょちょいのちょいだ。短期間で大幅レベルアップも出来るだろう。

 

「そりゃあ、なりたいさ。強くなって、モテまくって、チヤホヤされたい」

 

「そ、そうか……」

 

 しかし、それではきっと、本当に救いたいものは救えない。

 

 今になって思う。平塚先生はこういうことを言っていたんだな。

 

 自分で決めた理由を、自分の意思で動く覚悟を、持っていなければ駄目なのだと。

 

 全く、失ってから気づくものは多いというが、俺の場合与えられてもないのに失ってばかりな気がするな。

 

「でも……」

 

「でも?」

 

「八幡みたいな、本物のカッコよさってのは、それじゃ得られないんだろうな」

 

「はぁ?」

 

 何だそりゃ。俺はそんなカッコいい人間じゃなかろうに。

 

「今日見て思ったよ。初心者殺しを報告した時、俺ならきっとアイツらに自慢してたけど、八幡はしなかっただろ?」

 

 まぁ、ああいうのは慣れてなかったし、する気もないしな。

 

「他人が優れているのは羨ましいし妬ましい。正直、ソイツが他にも恵まれてたら陰湿な嫌がらせをするくらいにはな」

 

 そんなにか、と思ったが、やはりそう思う時点で俺は恵まれているのだろう。もしくは、既に諦めているかのどちらかだな。

 

 和真はそこで再びジョッキを煽る。中々の飲みっぷりで残っていた酒は全て飲み干してしまった。

 

「ハァ……でも、八幡は不思議と羨ましさとか、妬ましさとか、そういうのが湧かないんだ。八幡なら、持っててもおかしくない、みたいな?」

 

「なんじゃそら」

 

 つくづく要領を得ない説明だ。だが、何が言いたいのかだけは何となく分かる。

 

「あぁ、何だろうな。でも、何て言うんだろうな……こういうの」

 

 和真、それはきっと"憧れ"と呼ぶんだ。俺がかつて雪ノ下に見た、理想とは違う、在りたかった自分の姿なんだ。

 

 尤も、俺にそんなものがあるなんて思っても見なかったけどな。

 

「要するにあれだ。八幡みたいでなくとも、仲間くらいはカッコよく守れるくらいに強くはありたいな」

 

 そう言って和真はニカッと笑う。それは、気持ち悪さを含まない純粋な笑顔だった。

 

 俺は、仮にも奉仕部の人間だ。そんな俺が困った仲間を見捨てたら、アイツらにどんな折檻を食らうか分かったもんじゃない。

 

 持つ者は持たざる者に慈悲を。恵まれぬ者には救いを。飢えた者に魚を与えるのではなく魚の取り方を教える我が奉仕部の理念に則って、俺はお前を手伝おう。

 

「承ろう、その依頼。俺が、お前を強くしてやるよ。絶対な」

 

 でねぇと、帰ったらアイツらに怒られそうだからな。

 

「は、八幡……!」

 

 和真は俺の言葉に泣きそうになっている。やめろ、気持ち悪い。男が泣くな。近づくな。

 

「お待たせしました」

 

 そこで、俺が頼んだ酒はウエイトレスによって()()運ばれてきた。樽みたいなジョッキに白い泡を発散させたこれがシュワシュワと呼ばれる酒らしい。炭酸飲料みたいだな。

 

「ほらよ」

 

 俺はその内の片方を和真の前に置く。

 

「え?」

 

「明日から鍛えるからな。しばらくは飲めんと思って、黙って飲んでな」

 

 俺はそう言ってジョッキを前に出す。目線はやっぱり逸らしたままで。

 

「……おうッ!」

 

 ガシャン、と。二つのジョッキが重なり合う。それに合わせて俺達は酒を煽る。

 

「……思ったより苦いな」

 

「そのうち飲んでりゃ慣れるぜ、八幡師匠!」

 

「師匠はやめろ。これ持ってあっち行け。昼のあれな」

 

 恥ずかしくなった俺は和真に一枚の紙を渡して追いやる。その紙にはこの街の秘密の店の情報が書いてあるが、それに関してはあまり触れまい。

 

「お、和真が戻ってきたぞ!」

 

「お、仲間とはもう良いのか?」

 

「あぁ、問題ない。さぁ、飲むぞお前らーーッ!」

 

「オオオオッ!!」

 

 和真が音頭を取り始めると、ギルドはまた一段と騒がしくなる。めぐみんやダクネスもその様子を見て笑っている。静かにと言ったろうが……。

 

「全く、カズマは騒がしいですね」

 

「まぁ、カズマらしくて良いじゃないか」

 

 和真らしい、か。きっと、俺の知らないことも彼女達は知っているのだろう。でなければ、その言葉は出てこない。

 

 そういえば、俺はアイツらのことを知っていたのだろうか。本物を望んだ、彼女達のことを、俺はどれだけ知っていたのだろうか。

 

 ……いや、止そう。考えても無駄だろうからな。

 

「……やっぱ、集団には慣れんな」

 

 俺はそう言いながら和真達のいる方を見る。酒を飲み、冒険者と肩を組み、歌を歌いながらよく分からない踊りを踊っている。

 

 そして、そんな彼らには皆、笑顔が浮かんでいる。

 

「ハチマンは混ざらないのですか?」

 

 ふと、いつの間にか隣に来ていためぐみんがそんなことを俺に問う。ダクネスはトイレにでも行ったのか、この場にはいなかった。

 

「あぁ、苦手だからな。ああいうのは」

 

 いつだって見てるだけで、皆にいなくて良いのは、俺だからな。もう慣れた。今更混ざりたいとも思わんしな。

 

「……見てるだけで良いんだよ。ああいうのは」

 

 いつだったか。眩しく、光輝いていたステージにいた彼女達のことを俺は再び思い出す。

 

 誰からも喝采を浴び、万雷の拍手を送られ、熱狂の只中にいた彼女達の顔には、思いは違えど、目を逸らせぬ程の綺麗な笑顔があった。

 

 一番後ろで眺めていただけだけど、俺はそれを忘れはしない。例え、アイツらが俺を忘れても。俺だけは決して忘れない。

 

「ハチマンは、何故このパーティに入ったのですか?」

 

 ふと、めぐみんは何を思ったのか、俺にそんなことを問うてくる。

 

「……別に、気まぐれだ」

 

 案外、人との付き合いなんてものは、本人次第で変わるもんだ。だから、これも俺の気まぐれによるものだろう。

 

「……そうですか」

 

 俺の答えに、めぐみんは静かに返す。その表情は、何故か少し嬉しそうだった。

 

「それでは、私はそろそろ帰ります。ダクネスが戻ってきたらそう伝えておいて下さい」

 

「あぁ、分かった」

 

「それと……」

 

「それと?」

 

「今日は、私を庇ってくれてありがとうございます」

 

 めぐみんはそう言うとニコッと笑って、去っていった。

 

「……気にすんな」

 

 俺は窓の外を見る。既に陽は落ち、夜闇が広がる空には、色とりどりの星が瞬いている。

 

 もしも、彼女達があの星であるならば、俺は一体何なのだろうか。

 

 そんなことを耽りながら、俺は一人酒を煽る。

 

 かつて憧れた大人の味はほろ苦い。それはきっと、俺がまだ子供だからなのかもしれないな。




いかがでしたでしょうか?
書いた本人が言うのはあれだけど、和真が誰おま状態。特に後半。どうしてこうなった。
詠唱に関してはそのうち言わなくなるとは思いますが、希望があれば黒歴史になるであろう詠唱は考えます。多分ないだろうけど。センスの無さに脱帽まであるね。
感想、意見、指摘等お待ちしております。

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