この素晴らしい世界に本物を!   作:気分屋トモ

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どうも、気分屋トモです。
UAがいつの間にか7000超えててビックリしました。お気に入りも300超えて嬉しいです。皆さん、ありがとうございます。
さて、そんな皆さんの期待に応えるべく、(個人的には)面白くなるよう添削してたら最終的にストック時からほとんど変わってしまった第五話です。
この辺りから原作にない動きが多発します。つまり、より作者の願望が反映されています、いるはずです。(自信ない)
長々と書きましたが、それではどうぞ。

~追記~
加筆修正しました


かくして、比企谷八幡とその一行は依頼へと赴く

 よく寝た代わりに目覚めは最悪。そんな異世界馬小屋生活二日目。今日ももれなく馬糞で目覚める朝が来た。

 

 馬糞ってマジで臭いよな……。無料とはいえど、せめて目覚めくらいはまともなものにさせて欲しい。これも冒険者の務めなのだろうか。

 

 いつもより目を腐らせているであろう俺は、馬小屋から出て軽く朝のストレッチを行う。その途中、見知ったとんがり帽子がこちらへと向かってくるのが見えた。

 

 ソイツはこの世界では珍しい黒髪と、いかにも魔法使いなマントを朝の清涼な風と共に揺らしている。彼女の種族が皆一様に持つ紅眼を、彼女は十字架の描かれた眼帯で片方を隠しているが、和真曰くそれはお洒落目的で決して意味はないそうだ。いわゆる中二病的なものだろう。そんな恰好をしているのを、俺は一人しか知らない。

 

「よう、めぐみん。どうしたんだ、こんな時間から」

 

 そう、向かってきていたのは我がパーティきっての爆裂娘、めぐみんだった。子供だから朝は遅いと思っていたが、どうやらそうではないらしい。どこかの俺とは大違いだ。

 

「おはようです、ハチマン。魔力が回復したので早く爆裂魔法が撃つ為に、こうしてカズマ達を起こしに来たのですが、ハチマンは朝が早いようですね」

 

 一方で、俺がこの時間に起きていることが意外なのか、めぐみんは何やら一人で感心している。まぁ、早起きそうには見えないだろうしな。

 

「そうでもないぞ。俺が起きてるのはただ単に馬糞の所為で目が覚めただけで、ちゃんとした寝床なら俺は昼まで寝る自信がある。というか寝かせて欲しい」

 

「そんなのはカズマとアクアだけで充分です」

 

 まぁ、俺も慣れてくればそのうち昼まで寝るようになるんだろうけどな。

 

「それで、アイツらを起こすのか? カズマならまだしもアクアは多分起きんぞ?」

 

 カズマは俺と帰ったのは一緒だからある程度寝ているはず。が、アクアは多分遅くまで飲んでいたのだろう、さっき見に行ったら美少女にあるまじきイビキをかきながら爆睡していた。なんか俺の女神像がアイツの所為でどんどん壊れていってるんだが……。

 

「そうですか。ならカズマだけ起こしましょう。言ってしまっては何ですが、アクアはいてもジャイアントトードに食べられてしまうだけですので、いなくてもあまり問題ないかと」

 

「それ、本人に言ってやるなよ? 泣くぞ、アイツ」

 

 めぐみんにまでこの扱いされたら俺なら立ち直れない。まぁ、あの駄女神っぷりを見れば否定は出来んがな。

 

「分かってますよ。それでは私はカズマを起こしに行くとします。ダクネスも多分ギルドにいますので早めに済ませましょう」

 

「そうなのか。なら、俺も荷物を取ってくるか」

 

 ストレッチを終えた俺はめぐみんと共に馬小屋へ戻る。自分の寝床に戻ると、ハンガーがないため干し草の上に畳んで置いていたブレザーを手に取り、軽くはたいて羽織ろうとする。

 

「ん?」

 

 その時、ブレザーから何かが零れ落ちた。ポケットには特に何も入れてなかったはずだが……。

 

「これは……!」

 

 俺はそれを拾って見て驚愕した。

 

 それは、クリスマスイベントの視察と称し、ディスティニーランドへ行っていた時に由比ヶ浜が不意打ちで撮った奉仕部三人の写真だったのだ。

 

「何でこれがここに?」

 

 あれは由比ヶ浜がカメラで撮ったものだ。日にちも経ってないし、時間もあまりなかったからまだ現像していなかったはずだが……。

 

 俺が写真の存在に困惑していると、ふと裏にくっついている付箋のようなものに目がいった。

 

 "お兄ちゃんへ

  結衣さんがお兄ちゃんにって渡してくれたから

  ポケットに入れとくよ!

  大事にしないと小町的にポイント低いよ?"

 

「……大事にしない訳ないだろ、全く」

 

 俺は思わず苦笑する。どうやら、気の利いた妹からの贈り物らしい。本当、いい妹に育ったもんだ。

 

 由比ヶ浜、ありがとう。大事にする。

 

 俺はそれをブレザーの内ポケットに入れたのを確認して羽織った後馬小屋から出る。そこには既にカズマとめぐみんの姿があった。どうやら俺が最後らしい。

 

「悪い、待たせたか」

 

「いや、そうでもないさ。あと、アクアは起きなかったから置いていくぞ」

 

「凄いですよね。あれを見ると私も酒を飲んでみたいという好奇心が薄れてしまいます」

 

「あれは典型的な駄目なタイプだからな。めぐみんは良い子だから、ああはなってくれるなよ?」

 

「大丈夫ですよ。私は良い娘ですから」

 

 めぐみんはそう言って誇らしげに胸を張る。いや、それ自分で言っちゃうのはどうだろうか。何か字が違う気もするし。まぁ別にいいか。

 

「それじゃあ行こうぜ。ダクネスも待ってるんだろ?」

 

「そうですね。それでは、ギルドへ向かうとしましょう」

 

「あぁ」

 

 こうして、俺達は仲良く並んでギルドへと向かい出す。

 

 今日こそは魔法を撃てるだろうか。そんな期待を胸に、俺は涼やかな朝の道を歩いていく。

 

 

 

 

「おーい、こっちだ」

 

 俺達がギルドへと入るとこちらへ向けて手を振る人影が見える。

 

 質の良さそうな鎧を身にまとい、綺麗な金髪をポニーテールでまとめた彼女こそ、我がパーティきってのドMクルセイダー、ダクネスその人だ。

 

 俺より一つ年上ではあるのだが、どうもそういった情緒や清楚さは欠片も見えないこの変態。クルセイダーなのに攻撃が当たらないという欠陥持ちで和真も頭を悩ませていると語っていた。欠陥というかそれもう元から存在しないレベルじゃね?

 

 そんな変態騎士のダクネスが揃ったところで、俺達は掲示板の前でこれからのことを話し出す。

 

「それで、今日はどんな依頼を受けようか」

 

「この一撃熊の討伐依頼なんてどうだろうか!? あぁ、一体どれほどの威力なのか……。想像するだけで堪らんッ!」

 

「却下、名前からして俺達にはまだ早い」

 

「クッ、即切り捨てッ! これも悪くないな!」

 

 ねぇ、本当何なのこの人? 何言ってもドMに受け止めて興奮するんですけど? 何でも興奮出来るとかある意味凄いわ。

 

「私は白狼共の討伐依頼に行きたいです! 我が爆裂魔法、その威力でどれだけの数を葬れるだろうか! 今に見せてくれよう!」

 

「却下、白狼一体一体が強過ぎる」

 

「あぅ……」

 

 めぐみんの案も和真にバッサリ切り捨てられる。落ち込む姿なんか可愛いな。俺はロリコンではなかったはずだが……。

 

「というか、そろそろ言っていいか?」

 

「どうした八幡?」

 

 俺は昨日、ルナさんにとある依頼を受けると言ってある。よって、俺は少なくともそっちに行ってこなければならないのだ。

 

「昨日ルナさんに薦められた依頼を受けるともう言ってあるんだ。だから、俺はそれに行く予定なんだが……」

 

「あぁ、ゴブリン退治か。それなら俺達でも行けそうだな。どうする?」

 

「はい、別に構いませんよ」

 

「私もそれで構わない」

 

 満場一致で可決。お前らさっきの提案は何だったんだよ……。

 

「まぁいいか。じゃあちょっと依頼受けてくる」

 

「おう、頼むわ」

 

 俺は一人掲示板を離れて受付へと向かう。朝とはいえ数人が受付におり、ルナさんの所も今は人がいる。

 

 仕方ない、あの人でなくとも多分依頼は受けられるだろう。そう思い俺は他の受付へと行こうとするが……。

 

「……」

 

 何故かこっちをジッと見てる。ほら、目の前の冒険者の方も困ってますよ! 早く対応してあげて!

 

 そんな俺の思いが通じたのかルナさんは冒険者の方に意識を戻す。良かった、何か分からんけどホッとしたわ。

 

「あの……よろしいのですか?」

 

 不意に、目の前の受付の人にそう言われた。え、何が?

 

「その、ルナさんの方へ行かれた方が……」

 

「え、でも今人いますし……」

 

「それは、そうなんですが……」

 

 受付の人は何か困った様子で腕を組んでいる。一体どうしたのだろうか。まぁ、きっと俺には関係ないだろう。

 

「それより、依頼についてなんですが……」

 

「あぁ、はい。ゴブリンの討伐依頼ですよね? 少々お待ち下さい」

 

 受付の人はそう言って引っ込むとどこからかゴブリン討伐依頼と書かれた羊皮紙を取り出してきた。え、何で知ってるのん?

 

「ゴブリンは平原から少し離れた山の中に住んでいます。最低討伐数は十体で、価格は討伐一体につき二万エリス、買い取りは二千エリスとなります。何か質問はありますか?」

 

 受付の人は何事もないように話を続けていく。何だろう、気になるが聞かない方がいいのかな……。

 

 しかし、(ジャイアントトード)よりも安いゴブリンって……。まぁ、ここじゃ唐揚げとかにもなってるみたいだし、アレはアレでそこそこ需要があるみたいだから当然か。

 

「いえ、特にないです」

 

「分かりました。それではこちらをお渡しします。どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

 そう言って俺に羊皮紙を渡してお辞儀する受付の人に、俺はそれを受けとって軽くお辞儀を返してから和真達の下へ戻る。

 

「依頼受けてきたぞ」

 

「おし、じゃあ行くとするか」

 

「そうだな、早く行った方が帰りも早くなるしな」

 

「そうですね、早く爆裂魔法も撃ちたいですし」

 

「お前はそればっかじゃないか……」

 

 俺が戻ると和真達は既に出発する準備が済んでおり、呼びかけに応えると皆一様に立ち上がる。

 

 さぁて、一狩り行くか。

 

 某狩猟ゲームの謳い文句を心で呟きながら、俺はギルドを後にした。

 

 なお、街を出る間際で泣きじゃくったアクアが来たことで、俺達はようやく全員が揃うこととなった。

 

 喚いてるけど、お前が起きなかったのが原因だからな?

 

 

 

 

 ゴブリン討伐に向けて、街付近にあると言われた山に向かう俺達一行。傍から見れば上級職の美女冒険者三人に、ひ弱そうな男二人。とてもこれからモンスターと戦うとは思えぬメンツではある。

 

 しかし、実際には彼女達は上級職ではあるもののポンコツもポンコツ、欠陥だらけの名ばかりな人間である。

 

 故に、彼女達が俺達の言うことを聞いてくれる訳もなく。

 

「出たわね!? 忌まわしき蛙なんて今度こそ私の攻撃魔法で殺してやるわ!」

 

「おいバカ、また食われる未来しか見えんぞ」

 

「食らいなさい! これは女神の愛と悲しみの鎮魂歌! 食らった相手は死ぬッ!」

 

「おいアクア! 戻って来い!」

 

「ゴッドレクイエムッ!」

 

「ゲロ?」

 

「……やっぱり、蛙ってそこはかとなくかばっ!?」

 

「だから食われてんじゃねぇーッ!」

 

 行く道に現れたジャイアントトードに問答無用で戦いを挑んだり。

 

「あぁ!? ズルいぞアクア! 私にも食らわせて……いやむしろ食ってくれ!」

 

「やめろ! お前まで食われたら俺がコイツらを殺せなくなる!」

 

「大丈夫だカズマ。コイツらは食事中は死ぬまで基本何をしても動かない。だから私も心ぉっ!?」

 

「ダクネスーッ!?」

 

「あぁ、ヌルヌルする……! この感触が何とも!」

 

 自らソレに食われに行って悦んだり。

 

「さぁ、ハチマン見ておくのです! これが人類最大威力の攻撃手段、これこそが究極にして最強の攻撃魔法!」

 

「おい待て、めぐみん! それだと俺も巻き込まれ……!」

 

「エクスプロージョンッ!」

 

 戦いに赴く前だと言うのに、一日一回の魔法を仲間に向けて放ったりする。そして、その本人は嬉しそうにその場に倒れ込む。

 

 曰く、これがこのパーティの"普通"らしい。どう考えても普通じゃないんだよなぁ……。

 

「フフフ……。どうですハチマン。これが爆裂魔法です。使いたくなってきませんか?」

 

「全然、むしろ使いたくなくなったが?」

 

 こんな高火力の魔法ポンポン使ってたらここいら一帯焼け野原になるわ。俺は焼畑農家でも頭のおかしい爆裂野郎でもないんだよ。

 

「というかアイツら大丈夫か? 確実に巻き込まれてると思うんだが……」

 

 俺の目の前には現在、蛙がいたであろう場所に隕石でも落ちたのかと思う程のクレーターが出来上がっており、そこからは爆炎の影響か黒々とした煙と砂埃が入り交じって空へと向かっている。

 

「あぁ、それなら大丈夫ですよ。カズマ達は異常にしぶといのであれくらいなら余裕です」

 

 そんな光景を気にもせず、何なら仲間の安否も気にしないといった風に、めぐみんは俺の呟きにそう答える。

 

「いやお前仲間に向かってしぶといって何だよ……。まぁ、否定出来そうにはないけどよ」

 

 和真をはじめ、アイツらのしぶとさは確かにゴキブリレベルな気がする。特にダクネス。物理攻撃なら無敵な気がしてならん。ある意味最強の盾なんじゃないか?

 

「ダァァァァめぐみんはどこだぁぁぁぁ!!」

 

「ほら、生きてます」

 

「本当だ、タフだなアイツ」

 

 怒りと恨みで満ちた咆哮を上げながら煙の中から出てきたのは緑のジャージを煤だらけに汚した和真だった。

 

「今日という今日はもう許さん! パンツ剥ぎ取って公然に晒してやるッ!」

 

「待って下さい。いや、確かに私が悪いですがカズマは流石にそんな酷いことしませんよね? しませんよね!?」

 

 何かめぐみんが焦ってきてる。当然か、なんせ今の和真の目には怒りの炎が燃えている。下手をしなくとも犯罪紛いのことはやるやもしれん。

 

「真の男女平等を掲げる俺にそんな慈悲は存在しない。必要とあらばドロップキックだって容赦しない」

 

「お、お願いですカズマ! 私今動けないのですよ!? 身動きとれない幼気(いたいけ)な美少女のパンツ剥ぎ取ってカズマは良心が痛まないのですか!?」

 

「百歩譲って美少女だとして、幼気な美少女は仲間に爆裂魔法を撃ち込んだりしないぞこのロリッ子め。更に言えば、両親の心は痛んでも俺の良心なぞ傷一つつきはしない」

 

「ロ、ロリ……!?」

 

「そこは痛ませてやるなよ……」

 

親御さん泣かせてんじゃねぇか……。ただでさえニートして迷惑かけてたらしいってのに……。

 

「さぁて、どうやって脱がそうか? 窃盗(スティール)でも良いが、動けないし直に脱がすのも悪くない……」

 

 そう言うや否や、和真はめぐみんの方にジリジリと寄っていく。めぐみんは逃げようとするが、爆裂魔法の所為で動けない。そんなめぐみんの下半身に向けて次第に滑らかで気持ち悪い動きをさせた手を出している。

 

「ちょっ!? カズマ、手の動きが何やらいやらしいのですが!? 何する気ですかセクハラですか! 訴えますよ!?」

 

「訴えれるものなら訴えてみろ。ただしその頃にはお前のパンツは公然に晒されているがな」

 

「ハ、ハチマン! お願いします、助けて下さい! このままではカズマにパンツを奪われてしまいます!」

 

「いや、知らんけど……」

 

 正直、このままでも問題がなかった俺はめぐみんを助けるか迷った。だってコイツ自業自得だし、俺だってパンツは獲らないにしても何らかの報復は与えるはずだ。

 

「お願いします! 今度何か魔法具の良いお店でも紹介しますから! 何なら、爆裂魔法も伝授しますよ!?」

 

 ふむ、アレの伝授か。それなら助け船を出すのも吝かではないな。しょうがない、助けてやるか。

 

「そこまでだ、和真。流石にパンツは犯罪だぞ?」

 

「グッ……そりゃそうだけど。俺も俺でやられっぱなしじゃ気が済まないんだよ!」

 

 確かに、何もしていない和真に非は一つもない。だから、仕返しがしたいのも分かる。

 

 そうだな、後で能力でも使うとしよう。

 

「そうか、残念だな。俺は行かないがお前にオススメしたい良い店があるみたいでな――」

 

「分かった、止めよう。後でこっそり教えてくれ」

 

 早い。早いです和真さん。俺まだ教えるとか言ってないんだけど? まぁ、止めてくれるならそれでいいけど。

 

「めぐみんも、いくらタフだからって攻撃して良い訳じゃないんだぞ?」

 

「すみません……今度からはダクネスだけにしておきます」

 

 いやそれ解決してるの? あの変態でもあの魔法には流石に……。

 

「凄いなめぐみん! 体に芯から伝わるあの威力、中々味わえぬ快感だったぞ!」

 

 え、嘘、この人何でピンピンしてるの? 何で嬉しげに語ってんの?

 

「ダクネスはキャベツ収穫の時に一度巻き込んでしまったのですが、本人を見る限り大丈夫みたいなので心配ないですよ」

 

「むしろ俺はアレ食らってどうもない体が本当に同じ人間なのか心配になってくるわ」

 

 アレ食らって問題ないとかタフってレベルじゃない。ついでにマゾってレベルでもないと思う。人間って凄いんだな……。

 

「あれ、そういやアクアは?」

 

 ふと、パーティの一人が見当たらないことに気づく。

 

「分からん、多分その辺に……あ、いたいた」

 

 和真がそう言って指を指す方を見ると、そこには体の半分が土に埋もれたアクアがいた。

 

「……ちょっと休憩してから行くか」

 

「……そうだな」

 

 哀れ、女神。蛙に食われ、魔法に巻き込まれ、土に埋もれたまま放置とは。見てられんな。

 

 結局、俺達は山の手前の草原でアクアが目覚めるまで休憩をとることとなった。

 

「はぁ……」

 

 そう溜め息を吐いたのは果たして俺か、それとも和真か。

 

 少なくとも言えるのは、どちらとも頭に手をあてて俯いていたということくらいか。

 

 

 

 

 休憩のため、俺達は近くの木の下で凭れかかっている。陽の光が葉の隙間から降り注いでくるが、直接浴びるよりかはいくらかマシだろう。

 

 それは和真達も同じようで、アクアを除いて意識のある者は皆気持ち良さそうに寝転んでいた。

 

 その中で和真は何やら虚空を見つめてはボーッとしていた。

 

「あぁ……楽して稼ぎたい」

 

「それ、ニートまっしぐらの発言だぞ」

 

 何を呟くかと思えば、欲丸出しの願望だった。

 

 いや、分かるけどさ。働かずに生きたいなんて誰もが思う願望であることは分かるんだけどさ。異世界くらい夢持たねぇ?

 

「八幡、この世界の先輩として一つ教えよう」

 

「何だ」

 

「夢は夢だ。現実じゃない」

 

「身も蓋もないな……」

 

 所詮現実だからか。嫌だなぁ……。

 

「ふと思ったのですが、二人は同じ出身地なんですよね?」

 

 俺達が非情な現実を嘆いていると、仰向けで微動だにしないめぐみんがそんなことを聞いてきた。まだ動けねぇのか?

 

「そうだが、それがどうした?」

 

「いえ、二人は同じ出身なのにこうも違う人間になる所がどんな所か気になりまして」

 

「私も気になるな、二人はどんな所に住んでいたんだ? どうやったらこんな鬼畜な人間が生まれるんだ?」

 

「ナチュラルに俺をディスるのやめてくれない?」

 

 めぐみんの率直な疑問にダクネスも興味があるのか会話に入ってきた。別に教えるほど良い所じゃないんだけどな。

 

「大した所じゃない。魔王やモンスターこそ出ないが俺や和真より凶悪な人間がいっぱいいる所だ」

 

「魔王がいないのですか? それはさぞ平和な気がしますが……」

 

「カズマより凶悪な人間……一体どんな人間なんだろうか! 是非見てみたいな!」

 

 めぐみんはモンスターがいないことに、ダクネスはカズマより凶悪な人間がいることにそれぞれ驚いていた。ダクネスはそれ以上興奮されると話進まないから黙っててくれよ?

 

「平和は平和だな。この世界に比べれば法律も、規則も、統治も行き渡っているからな。だが、人間同士の争いは絶えんな」

 

「何故ですか? 折角平和なのに」

 

 あぁ、この世界では魔王がいなければ平和になると思ってるのか。まぁ、戦争がなくなれば皆平和になると思ってる奴もいたし、当然か。

 

「だからだよ。共通の敵がいないからこそ、些細なことで争うんだ。自分より優れているのが気に入らないとか、自分の思うようにいかないのが腹立たしいとか、そんな下らない理由でな。しかも、能力や容姿の良し悪しでそんな横暴な理由もまかり通ることもある」

 

 本当、よく今まで耐えてきたと思う。誹謗中傷にはもう慣れてしまったが、実害に出ることもあるからああいうのは厄介なんだ。

 

「なんだか大変そうな所ですね。私とは合いそうにもありません」

 

「俺も嫌いだったぞ。というか、大抵の奴は嫌いだぞ、なぁ?」

 

「あぁ、あんな所なんて外人みたく旅行程度に寄るくらいじゃないと息が詰まって死んじまう」

 

 俺と和真はそう言ってお互いに見合うとうんうんと頷き合う。まぁ、悪くない場所もあるにはあるしな。文化自体はそれほど悪いものでもない。ただ、人間が腐ってるだけだから。

 

「そんなにか! あのカズマをもってしてここまで言わせるとは……是非一度言ってみたいな!」

 

「……なぁ和真。コイツならあっちでもやっていけそうだよな」

 

「奇遇だな。俺も同じことを思ったわ」

 

 そう考えるとドMというのは最早最強なんじゃないかと思う。ないか。ないな。

 

「そういや八幡、スキルはもう覚えたのか?」

 

 ふと、和真が何か思い出したように話題を変える。

 

「スキル?」

 

 ゲームとかでよく見る技とかのことだろうか。一体それがどうしたんだ?

 

「この世界じゃスキルを取ってないと技が発動しないんだ。だから、一応確認しとこうかと思ってな」

 

 そうだったのか。何か答えを出す者(アンサー・トーカー)あるし、適当でもいけるかと思ってたわ。やはりそこもRPGみたく覚えるまでレベル上げとかあんのか?

 

「じゃあ軽く説明するぞ。八幡、冒険者カードを出してくれ」

 

「おう」

 

 俺は和真に言われた通り冒険者カードを取り出して見る。ふむ、相変わらず馬鹿げた数値ばかりだな。なんだ、魔力無限って。ただの特典でしたわ。

 

「ちょっと見せてもらうぞ……」

 

「あ、私も見たいです」

 

「私にも見せてくれないか? 仲間のステータスだから把握しておきたいしな」

 

 俺は見られて困るようなものはないと思って軽く見せる。が、よくよく考えたら魔力無限とかバレたらヤバいんじゃね?

 

 しかし、時既に遅し、全ては後の祭りで、三人は俺に興味津々なのか食い入るように俺の冒険者カードを覗いている。

 

「凄いな……私よりレベルが低いのにほとんど私よりステータスが上だぞ?」

 

「何ですかこれ! 私より魔力値が異常に高いじゃないですか!」

 

「クッ、流石チート勢。見事なまでに数値が馬鹿げてんな」

 

 俺の数値を見るなり和真達は三者三様の反応をする。しかし、どうやら俺以外の人間には俺のステータスは異常に高い程度の認識になっているようで、誰も魔力が無限なことに気づいていない。下手に騒がれたら面倒だからありがたいな。

 

「まぁそれはいいや。んで、そのステータスの真ん中に何か色々書いてるよな? そこに取れるスキルの名前が書いてるはずだ」

 

 和真の言う通りに見てみるとそこには確かにこちらの世界の文字で”ティンダー”と書かれているのがあった。きっとこれがスキルなんだろう。

 

「ティンダーとかそういうのか?」

 

「そうそう」

 

 他にも何かめちゃくちゃあるが、どうもイメージが湧かないものもちらほら見られる。

 

「何かカッコいいの多いな。カースドって書いてあるのがちらほらあるが、これはどんな魔法に当たるんだ? このカースド・クリスタルプリズンとか、見た感じ氷系の魔法だとは思うが……」

 

「カースドは基本的に上級魔法に付く連体詞です。非常に強力でスキルポイントも三十程消費するはずです」

 

「おぉ、本当だ」

 

 めぐみんの言う通り、その魔法の横には確かに三十と書かれている。これが必要なスキルポイントなんだろう。しかし、それを知ってるめぐみんって、もしかして意外と賢い?

 

「ぐっ、羨ましい……! そ、それで、スキルを取る為にはその必要スキルポイントっていうのを消費しなけりゃいけないんだが……。八幡、今ポイントいくつあるんだ?」

 

「四百。やけにあるよな、これ」

 

 不思議がる俺の言葉に、俺以外の全員が言葉を失う。あれ、これおかしいのかな? 色々おかしいから感覚が麻痺してるんだよな、俺。

 

「和真は最初いくらあったんだ? 基準が分からん」

 

「ハチマン! それ以上はオーバーキルです! カズマが死んでしまいます!」

 

「そうだぞハチマン! カズマは冒険者の適性が低くて初期スキルポイントは()()だったんだ! あまり言ってやるな!」

 

「畜生ォォォォ! 羨ましい! 羨ましいぞ畜生めッ! このチート野郎! この天然タラシ野郎がぁぁぁぁ!!」

 

「おい、今最後なんつった。誰が天然タラシだ」

 

 俺のどこをどう見てあんな別人種と勘違いしてやがる。どっからどう見ても、俺はただのボッチ……ではないか。

 

「アァァァ! ……まぁ良いや。それより取得方法だが、取りたいスキルを左からなぞってみてくれ」

 

「こうか?」

 

 俺は言われた通り一番上のティンダーをなぞってみた。すると、文字が光り、体の中から何かが変わったような感覚がした。

 

「おぉ……!」

 

「それでスキルは習得完了だ。後はその余りあるスキルポイントで精一杯俺達のために活用出来るスキルを習得してくれ」

 

 なるほど、やはり異世界、俺の心を躍らせてくれる。今ならブレイクダンスも出来そうだ。久しくやってないから出来ないだろうけど。

 

「魔法を使うのに詠唱とかは要らないのか?」

 

「初級魔法に関してはその魔法の名称だけで良いらしい。上級になれるにつれて必要になるって聞いたけど、俺は習得してないし、めぐみんも持ってないから分からん」

 

「爆裂魔法ともなると長い詠唱が必要です。しかし、その分威力も絶大です。よろしければ、私と共に爆裂魔法の道を歩みませんか? 今なら取ってもかなりの余裕が出来ますよ?」

 

 めぐみんはそう言うと俺の方に這って近寄って来る。いや、別にそんな無理してまで寄って来なくても良いんでないの?

 

「いや、とりあえずここにある魔法を取らせてくれ。余ったら考えてみるから……」

 

「やりましたよカズマ! これで私と共に爆裂道を歩んでくれる人が増えましたよ!」

 

 俺の言葉に満足したのか、めぐみんは手足をバタバタさせて喜んでいる。いや、まだ別に良いとは言ってないんだが……。

 

「おい、本当に良いのか? 爆裂魔法はぶっちゃけ諸刃の剣と同義だぞ?」

 

 和真は心配そうに俺にそう聞いてくる。まぁ、使ったら大体目の前のコイツみたく倒れるみたいだしな。普通はオススメしないよな

 

 だが、すまないな。不運なお前には悪いが、俺にはもう一つ特典がある。

 

「あぁ、問題ない。言ってなかったが俺には第二の特典、無尽蔵の魔力(エンドレス・マジック)がある。魔力切れは恐らくないはずだ」

 

「クソォォォォ! 何で俺は駄女神を選んじまったんだァァァァ!!」

 

 それを聞いた和真は、ついに理性が壊れたのか、体を仰け反らせて悔しがって叫んでいる。その様子は阿鼻叫喚の亡者が苦痛に耐えるような姿のようで、見ていて少し心が痛む。

 

 何か、ごめんな……。

 

「ハァ……ハァ……。そろそろ行くか……」

 

 しばらくやって落ち着いた――と言うよりは何かを悟ったように、突然立ち上がった和真はアクアをペチペチ叩いて起こすとそのまま山へと向かって歩き出す。俺達もそれに続いて歩き出す。めぐみんは歩けないため俺が背負うことになった。

 

「……今度何か奢るわ」

 

「……ありがとう」

 

 その後ろ姿は、狩りに出かける冒険者の姿とはとてもかけ離れた、哀愁漂うものだった。

 

 世界って、残酷だよな……。

 

 俺はそんなことを思いながら和真達と共に木陰を後にする。報酬を受け取ったら飯でも奢ろう。じゃないと不憫だ。

 

 その後事態が把握出来たアクアが起き上がるや否や、和真に文句を言っているのを見て、今度からもっとカズマには優しく接してやろうと思ったのは別の話。

 

 魔法、何覚えようかな……。




いかがでしたでしょうか?
進まないね。更に遅くなることも考えると亀進行宣言してて心底良かった。(おい作者)
八幡は恵まれてるね。それに比べて……ごめんな和真。とりあえずサキュバスの店に行ってくると良いと思うよ。うん。
そんなこんなで次回、六話。ついに八幡が魔法を使う回です。はっきり言ってやらかしてしまう気しかしない。タグから何をしでかしそうか予測してみるのもいいかもね。
投稿は木、金辺りで出せたらいいなとは思ってます。最大期間は一週間の予定だから気長にね! 本当すんません。
感想、意見、指摘等お待ちしてます。

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