この素晴らしい世界に本物を!   作:気分屋トモ

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はい、どうも気分屋トモです。
ストック溜まったら投稿すると言ったな、あれは嘘だ。(騙してすんません)
先程明日何があったけとカレンダーを見れば5月9日。
今日は戸塚の誕生日じゃないか!
おめでとう!戸塚! とつかわいい!
そんな訳で何か書こうと思ったけど、この作品俺ガイルからは基本八幡しか出ないんだった……ごめんよ八幡。戸塚のマイナスイオンは与えられそうにないよ……。
そんなこんなで戸塚の誕生日を祝いつつ、四話です。
それでは、どうぞ。

~追記~
加筆修正しました


比企谷八幡は、基本的に義理堅い

 粘液塗れになっている少女二人を風呂へと向かわせ、俺は佐藤と共に再びギルドへと訪れていた。

 

「あ、ヒキガヤさん!」

 

「あ、受付嬢さん」

 

 俺達と同じく依頼を終えて帰ってきた冒険者達でギルド内がごった返している中で、入ってすぐの俺を目敏く発見して寄ってきた人がいた。

 

 それは昨日今日と世話になった受付嬢の女性だった。動く度に視線が顔から少し下がってしまうのを堪え、彼女の呼び声に応じる。

 

「お疲れ様です。初めての討伐依頼は如何でしたか?」

 

「いや、それが……」

 

 彼女の労うような言葉に何と応えたものかと考える。今日俺が行ったことといえば、討伐依頼対象と仲良くなり、討伐されないように一斉誘導していただけだ。何やってんだろうね、俺。

 

「……二人は知り合いなのか?」

 

 隣では彼女からの対応を受けられるのが気に食わないのか、妬ましいといった様子で俺を睥睨(へいげい)する佐藤がそんな質問をする。何もしていないからそういう態度を取られるのは心外なんだが……。

 

「昨日から受付してもらってただけだ。他意はない。あと、名前は今初めて聞いた」

 

「あら、そういえば名乗っていませんでしたね」

 

 失念していたと口に手を当てて反応するルナさん。

 

 そう、俺は二度それなりに言葉を彼女と交わしていたが、名乗られることもなければ何か私的な内容の話をされた訳でもない。はっきり言って、赤の他人なのだ。それを、先入観のみで推測されても困るというものだ。

 

「では改めまして、ここのギルドの受付嬢をしておりますルナと申します。朝から夕方の時間帯は普段から居ますので、御用があればどうぞご贔屓に」

 

「では俺も。遠国から来ました比企谷八幡と言います。何分こちらの事には疎い身ですので、しばらくはお世話になるかと思います。その間、どうぞよろしくお願い致します」

 

 お互いに改めて自己紹介をして礼を交わす。社交辞令とか、しときゃ何とかなるタイプの礼儀を覚えておいて良かった。堅苦しいのは得意じゃないんだよ。

 

「と、まぁ感じだ。お前が思うようなのなんて、今後一切ないと思え。ボッチ舐めんな」

 

「スラッと挨拶出来る奴のどこがボッチなんだよ。あと、俺のパーティに入ったからボッチじゃねぇぞ」

 

「し、しまった……そうだった……抜けよっかな」

 

 ボッチを名乗った数秒後にまさか論破されるとは。かつてボッチの風上にも置けないと雪ノ下に言えた俺のボッチ力はどこに行ってしまったんだ……。

 

「いや本当マジでやめてくれよ!? お前が抜けたらあのロクデナシ共を抑えられる気がしねぇ!」

 

「え、ヒキガヤさんもうパーティに入ったんですか? それも、カズマさんのところに?」

 

「えぇ、まぁ……なし崩しではありましたが……」

 

 公衆の面前で泣きながら縋られたら逃げられないだろう。計算してやったのなら、コイツは将来一色クラスの面倒な奴になる。陽乃さんは魔王だから別な。アレに勝てる人間はそういないから。

 

「そうでしたか……悩みがあったら聞きますので、その時は是非頼って下さい。お食事くらいならお付き合い致しますよ」

 

「は、はぁ……そこまで心配しなくても大丈夫ですよ? 嫌なら抜けるんで」

 

 何故かガチの顔で心配された。何、このパーティそんな評判悪いの? 何したの一体。まだこっち来て半年も経ってないって言ってたよね?

 

「何故ですか!? 俺の誘いは全然受けてくれないのに!」

 

「は、はは。それはその……」

 

 一方、俺が彼女と食事をしても良いと言われたのが納得いかなかったのか、佐藤が抗議の声を上げる。そんなに誘ってたの? お前。

 

 ルナさんはそんな佐藤に何とも困った様子で対応している。どうやら、誰それとやっている訳ではなさそうだが、何故俺なのだろうか。少なくとも言えるのは一つ。

 

「佐藤、お前どうせ下心丸出しで誘ってるんだろ」

 

「そりゃ、なぁ!?」

 

 否定しないのかよ……。これにはルナさんも苦笑いだ。潔いというよりは開き直ってるな、コイツ。

 

 しかし言い辛いなぁ……。初級モンスター倒せないとか、◯ラクエで言ったらスライム倒せないのと同義なんだよなぁ……。

 

「それで依頼の方なんですが……追い返しただけで、倒してないんですよ」

 

 まぁ、誤魔化しても仕方ないし、ここは素直に語るとしよう。多分微妙な反応されるけど。

 

「追い返した、んですか? モンスターをですか? 一体どうやって……?」

 

「コイツ、モンスターともある程度意志疎通が取れるそうなんですよ。で、さっきそれに助けてもらいました」

 

「ぶっちゃけ自業自得だから、助ける気はあんまなかったんだけどな」

 

 まぁ、コイツに話聞きたかったから、助けることにはなったが。今頃件の二人は蛙の粘液を洗い落としていることだろう。想像しても何ら興奮しない辺り、恐らく俺はあの二人を異性として見れないのかもしれない。

 

 俺達の会話に心底不思議そうにルナさんは首を傾げている。ほら、やっぱり微妙な反応されたよ。

 

 少し考えて、何か納得がいったのか、ルナさんはポンと手を叩く。

 

「もしかしてヒキガヤさん、テイマーの素質もあるのかもしれませんね」

 

「テイマー?」

 

 聞き慣れない単語に俺と佐藤の声が被る。テイマーってあれか、SA◯の◯リカみたいなあれか?

 

「テイマーというのはモンスターを使役させる人のことです。動物に好かれやすい、みたいな感じでモンスターにも好かれやすく、意思疎通もある程度出来るみたいです。過去にドラゴンを使役させた人もいたという記述もありました」

 

 へぇ、ドラゴンをねぇ。それ多分過去の転生者が特典とかで手懐けたやつなんじゃねぇの? 知らんけど。

 

「ルナさん、そのテイマーっていうのはスキルとか職業になるんですか?」

 

「いえ、テイマーは本人の実力や人柄などが主な要因となるらしく、スキル等でモンスターを使役することが出来る訳ではないそうです。前例があまりないため断言はしかねますが……」

 

 ルナさんは佐藤の質問に申し訳なさそうに答える。どうやら、テイマーは天性のものらしい。俺、前世(あっち)じゃあんまりカマクラに懐かれてなかったけどなぁ……。

 

「くそっ、俺にもチャンスがあると思ったのに……!」

 

「お前、多分そういうの向いてないと思うぞ?」

 

 ただし、変人を扱うことにおいては誰にも負けないだろうがな。ロデオかな?

 

「まぁ考えても仕方ない。とりあえず、依頼は失敗という形になるんでしょうが、何か別の依頼受けれたりしませんか?」

 

 俺は朝依頼を受諾した時に渡された羊皮紙をルナさんに返しながら他の依頼について尋ねる。この際、聞いた方が早いだろう。

 

「ええと、そうですね。確かゴブリンの討伐以外はどれも上級の依頼ばかりでしたので、オススメ出来るのはゴブリン討伐だけかと……」

 

「ならそれを受けさせて下さい。と言っても、行くのは明日になると思いますが……」

 

 ここに来る時には既に日が傾いていた。ゲームのように死んでもいい訳ではない世界でわざわざ危険度を上げるのは愚行だろう。頭も休めないといけないしな。

 

「分かりました。私は今日はもう当番を終えてしまいましたので、明日手続きでもよろしいですか?」

 

「はい、良いですよ」

 

 明日こそ、ちゃんとモンスターを倒そう。どの作品でも下衆なゴブリンなら心置き無く倒せるはずだ。

 

「それではヒキガヤさん、サトウさん。また明日、ギルドでお待ちしています」

 

「はい」

 

「あぁ、ルナさん。良かったら今から食事でも……」

 

「フフッ、ごめんなさい。今日は予定がありますのでこれにて」

 

 蠱惑的な笑顔でそう言うと、ルナさんは去っていった。佐藤は再び誘い損ねて落ち込んでいる。

 

「そう落ち込むな。お前のパーティだって見てくれだけなら粒揃いだろ?」

 

「いや、お前もそのパーティの一員だからな? 他人事みたいに言うなよ?」

 

「えー……」

 

「そう嫌そうな顔しないでくれないか!? いや、気持ちは痛い程分かるけどさぁ!?」

 

 どうやら、俺は相当嫌そうな顔をしていたらしい。そうだな、少しこのままからかってみるか。

 

「どうしようかなー。アークウィザードだから募集したら多分引く手数多なんだよなー」

 

「おぉい!? マジで行かないでくれよ!? 頼むから、何か奢るから行かないでくれぇ!」

 

「あぁ分かった分かった。じゃあとりあえず何か奢ってくれ。その金額を返すまでは一緒にいてやるから」

 

「それ割とすぐ稼げるんですけど!? さっきの蛙一体倒すだけでここのもの大抵買えるんですけど!?」

 

「蛙だけにか?」

 

「やかましいわ! あぁ、話が進まねぇ!」

 

 コイツ面白いな。雪ノ下も普段こんな感じで俺をおちょくっていたのだろうか。そう思うと何か雪ノ下のことを一概に否定出来ない……訳ではないな。やっぱ自分がされるのは別だわ。

 

「あぁ、そういやあれだ。俺がここに来たのはもう一個理由があったんだ」

 

 そう言って佐藤は受付の方に行って何やら話し込んでいる。何だろう、依頼の達成報告か?

 

 しばらくすると佐藤は少し大きめの袋を貰って笑顔になって帰って来た。なんか気持ち悪いなぁ、あの笑顔。俺の笑顔もあんなんなのか? だったら引くなぁ……。

 

「何の袋だ? 見た感じ依頼報酬っぽいが」

 

「フフフ……。そう、コイツはお前が来る少し前にあった依頼の報酬だ。アクア達が来る前に中身を見せてやるよ」

 

 そう言うと佐藤は着いて来いというジェスチャーをしながら奥の方の机へと向かう。あんまり周りに見られたくないものなのだろうか。

 

「俺が今回の依頼で得た報酬額、何と百万ちょいに上ったのさ!」

 

「な、何っ!?」

 

 その袋から出てきたのはいくらかの金貨と大量の札束だった。百万と言っていたから恐らくあの札一枚が一万なのだろう。

 

 これほどの報酬を貰えるとは、さぞかし強いモンスターを倒したのだろう。

 

「一体、何を倒したんだ?」

 

「キャベツ」

 

「……は?」

 

 おかしいな、聞き間違いか? 今俺キャベツって聞こえたんだけど。

 

「キャベツだ。この報酬は、キャベツの収穫報酬だ」

 

 聞き間違いじゃなかった。

 

「……いやいや、おかしいだろ」

 

 何でキャベツ倒しただけでこんなに金が貰えるんだよ。あれか? もしかしてキュウリとか倒したら更に貰えたりすんのか? この世界の物価基準が分からなくなったわ。

 

「分かるぞ、その気持ち。普通キャベツ倒したくらいでこんなに金が貰える訳がない。そう思うよな」

 

「あぁ、俺の知ってる物価基準が破壊されそうになるくらいにはな」

 

「そうだろう。しかし、それは異世界だからという理由でとりあえず納得して欲しい。早くしないと問題児達が来る」

 

「……まぁ、分かった」

 

 納得はいかないが、それで納得するしかあるまい。佐藤もそれ以外に何か言いたいようだしな。

 

「話が早くて助かるよ。それでだ。アクアの明言の下、この金は全て手元に入ってくるんだが……そこで相談がある」

 

「……聞こう」

 

 急に真面目なオーラを出すと、耳打つ時みたいなボソッとした声で語り出した。

 

「俺は早く家が欲しい。家でなくとも、それなりに自由の効く個人的な部屋がとにかく欲しい。下世話な話、見てくれの良い人間ばかり見てる所為でムラムラする訳だが、それを発散する場所も今はないんだ。俺、今アクアと同部屋だし」

 

「……まぁ、それは辛いな」

 

 そういった点では、馬小屋は割と不便だったりするのかもしれない。俺は来て間もないから言えないが、俺よりもかなり前から居る佐藤が言うのならそうなのだろう。

 

「そこでだ。比企谷の特典は"答"が分かる能力だって言ってたよな? あらゆるものの答が分かるとか、そんな能力じゃないか?」

 

「……まぁ、間違っちゃいない」

 

 厳密には疑問に対しての答しか分からない。それでも、一応そこまで推測出来る辺り、やはり頭は回る方のようだ。

 

 まぁ、コイツにバレたところで支障はなさそうだ。教えても、特に問題はないかもな。

 

「俺の能力は答えを出す者(アンサー・トーカー)っていうもんだ。◯ッシュの原作は読んでたか?」

 

「いや、残念ながら見てない……意外と量が多くてな」

 

「そうか……今度模写出来たらマンガ写してやるから是非読んでくれ。で、能力についてだが、簡単に説明するとこれは知らない言語や問題であろうとも、瞬時にその"答"が出る能力だ。根本として、多少の基礎能力はいるが、特典として貰ったこの能力は基礎能力を必要しない。つまり、どんなものでも"疑問に思えば答えられる"。それが俺の特典、答えを出す者(アンサー・トーカー)だ」

 

 俺はそう言って能力を発動させる。"佐藤は、一体何が目的なのか?"

 

「……まぁ、ありがちだな。俺を連れて賭博場で一儲けする気か」

 

「ッ!?」

 

「何故分かるのか、だろ? それが答えを出す者(アンサー・トーカー)だからだ」

 

 はっきり言って、この能力は正しくチートだ。どの作品においても、頭脳系なら文句無しで最強と言えるレベルだと俺は思っている。

 

「悪いが、俺はそういうことに能力は使わないと決めている。そういうことに使う為に貰った能力じゃないからな。それに、今はこれのリスクがまだ分かってないしな」

 

「……そうか」

 

 そう言って佐藤は落ち込む。まぁ、実際男としては助けてやりたいところだが、それでは本人の為になるまい。悪いが今は我慢してくれ。

 

「あぁ。それと、あと一分もしないうちにアクア達が来る。それはしまっとけよ」

 

「ッ! あぁ、そうしておくよ」

 

 これはせめてもの気遣いだ。ついでに、これも言っておこう。後々聞かれても面倒だ。

 

「佐藤。これは出来れば内密にして欲しいんだが……俺の特典はもう一つある」

 

「な、何故だ!? 普通は一つしか貰えないはずじゃ……?」

 

 俺の発言に、佐藤は目を見開きながら驚く。当然だろう、普通は一つのところを、何故か二つ貰っているのだから。

 

「そこは良く分からん。何でか知らんが、俺を送ってくれた女神様は俺のことを気に入っていたらしい」

 

 前の俺なんて、見る価値もない男だろうに。今思えば、物好きな女神様だと思う。感謝はしているがな。

 

「それについてはまあ今度話そう。ほら、お出でなすった」

 

 俺はそう言って後ろを振り向く。すると、俺達を探していたであろうアクアとめぐみん、それにダクネスとおぼしき人も見える。

 

「いたいたカズマ。何でこんな奥に座ってんのよ?」

 

「そうですよ。お陰で少し手間がかかったじゃないですか」

 

 不満を口にするアクアとめぐみん。まぁ、お前達に見つかりたくなかったからここにいるんだけどな。

 

「悪いな、俺がこっちの方が落ち着くって言ったんだ。あと、そっちがダクネスでいいか?」

 

 さりげなく誤魔化しながら俺は話を逸らす。普段は雪ノ下とかに看破される所為で使えないが、コイツらなら問題ないだろう。

 

「あぁ、合っている。さっきアクア達から話は聞いた。新しいパーティメンバーだそうだな。私はクルセイダーのダクネスだ」

 

 そう言ってアクアの後ろから出てきたのは金髪のポニーテール美女。カズマの言う通り、見てくれは別嬪揃いのようだが、実はコイツ、アクアの次に面倒な変態らしい。

 

「今日は一昨日壊れた鎧の代わりを取ってきたから居なかったが、明日からは一緒だ。これからよろしくな」

 

「どうもご丁寧に。アークウィザードの比企谷八幡だ」

 

 ダクネスはどうやら一昨日鎧を壊されたらしい。もしかしてキャベツか? まさかそんなことはないと思うが……深く聞くまい。

 

 あと、何故少し頬を赤らめているのか。興奮してるのか? 早ぇよ、まだ会ってすぐだろうが。何に興奮してんだコイツ。

 

「……中々そそられる目をしているな」

 

 コイツ、俺の目に興奮してやがる!? あれか、腐った目で何か想像してんのか? 筋金入りの変態じゃねぇか!?

 

 まぁいい……俺も俺で対策は練ってあるんだ。

 

「ま、よろしく頼むわ。ダスティネス・フォード・ララティーナお嬢様」

 

「ッ!? 貴様、何故その名をッ!?」

 

「え、ダクネスってそんな名前だったのですか?」

 

「私も初めて聞いたわ。あんた何で知ってたの?」

 

「ちょっとな」

 

 俺がただ単に変態対策として、能力を使って知ったなんて、言える訳がない。

 

「可愛い名前だよな? ララティーナ」

 

「そうですね、ララティーナ」

 

「確かにそうね、ララティーナ」

 

「お前にも可愛い所があるじゃないか、ララティーナ」

 

「うぅ~! こういう辱しめは好きじゃないんだ! だから言ってなかったのに……!」

 

 効果は絶大。皆してララティーナと呼ぶとダクネスは顔を真っ赤にして悶える。ダクネスはドMのようだが、本名を呼ばれるのは苦手らしい。弄るなら存分にこの部分を弄ってやろう。

 

「まぁとりあえず飯にしようぜ。何か臨時収入が入ったんだろ? お前ら」

 

「くっ! 辱しめておいてすぐさま放置! カズマに負けず劣らずの鬼畜さだな!」

 

 ちょっと何言ってるのこの人? 今ので立ち直って興奮するとか完全に俺の思考の埒外なんですが。ほら、皆変な目で見てくるから止めてくれない?

 

「ふふん、そうよ! この私が大量に倒したんですもの。絶対に高収入が入ってくるに決まってるわ! 報酬は各自のものだけど、美しく気高き私は慈悲と慈愛を持ってハチマンの分も奢ってあげるわ!」

 

「おお、そりゃありがたい。しかし受け取ってもいないものを過信して大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ! 何せ、愛に愛されたようなこの女神様ですもの。ここで宴を開いたって痛くも痒くもない金が入ってくるわよ!」

 

 一体その自信はどこから湧いてくるのだろうか。さっきカズマ以外の収入も、答えを出す者(アンサー・トーカー)を使って答を知った身としては止めてやりたいが、コイツを止める術がないという答も出ている為どうしようもない。後で因縁付けられぬように丁重にお断りさせてもらおう。

 

「そりゃ羨ましいことで。だが、俺は既に佐藤に奢って貰うことになってるから、そっちはそっちで好きな物頼んでていいぞ?」

 

「あらそう? なら皆ー! 今日は派手に宴をやるわよー! 花鳥風月!」

 

「おおおおおおおお!!」

 

 そう言ってアクアはゴツい男共の輪に入って芸をし始めた。何あれすげえ!? 一体どこから水を出しているのだろうか。

 

 さて、後々破産する借金神は放っておいて、こちらで飯を頂くしよう。

 

「こちら、ロールキャベツになります」

 

 運ばれて来たのはキャベツ料理。多分、この一件で捕らえられたキャベツなのだろう。実に美味しそうに調理されている。昨日から何も食べていないのもあって、非常にそそられる。

 

「比企谷、このキャベツは食うだけで経験値を貰えるらしいから遠慮なく食ってくれ。そしてじゃんじゃん働いてくれ」

 

「お前、割と図太いよな……一応、助けた礼ってことで貰うけど、後で色々と対価を要求してくんなよ? 全力で逃げるぞ」

 

「しねぇよ流石に……多分。でも、働き手が欲しいのはマジだ」

 

「多分なのか……。まぁ、そっちは問題ない。まだ魔法の使い方は知らんが、使い方もさっきので分かるだろうしな。使えればそれなりに役立つだろうよ」

 

「おう、期待してるからな!」

 

 そう言って佐藤は俺とは違うキャベツ料理――多分野菜炒めだろう――を食べ始める。俺も冷めないうちに食べるとしよう。

 

「頂きます」

 

 俺は久しぶりの飯に思わず涎が垂れそうになる。いかんいかん、はしたないな。

 

 俺は一口サイズにロールキャベツを割くとそれを食べる。すると、何か体に変化が起こったような感じがした。

 

 俺は冒険者カードを出してステータスを確認する。すると、どうやら俺のレベルが一つ上がっていた。それにより、ステータスにも若干の変化が見られる。なんか、本当にゲームみたいだな。

 

 その後も俺はキャベツを食べ続ける。蒸しキャベツ、焼きキャベツ。様々な調理方法のキャベツを俺は計六品分食べまくった。

 

 結論から言おう。めちゃめちゃ美味い。

 

 本当にこれはキャベツなのだろうか。食感、香り、味と、何から何までキャベツなのに、どうして前世(あっち)のものとはこうも違うのか。しかもこんだけ食べて飽きない不思議。

 

 そして、この食事によって俺のレベルは割と上がって、俺はレベル一からレベル四まで上がっていた。どうやら、俺の食ったキャベツは当たりだったらしく、普通は上がっても一か二だそうだ。こっちに来てから、運が良くなった気がするが、あの女神様が何かしたのだろうか?

 

「お前、意外とよく食うな……」

 

「まぁ、昨日の昼から何も食ってねぇからな」

 

「そうですね、それならばそれだけ食べれるのも納得です」

 

 そう言って、アスパラらしきものをリスみたいな食べ方をしているめぐみんが話に入ってくる。その食べ方って首疲れないのかしらん?

 

「そう言えば、めぐみんやダクネスも結構報酬貰えたのか?」

 

「勿論です! しかし、爆裂魔法を愛する者としては、やはりより威力を上げる杖を新調しなければなりません。ですから、いくら羽振りが良いと言ってもハチマンの分は奢りませんよ?」

 

「私もそれなりに入ったな。まぁ、その際に防具がかなり壊れてしまったから、私はそっちに回すかな。一品くらいなら奢っても良いぞ?」

 

「お気遣いどうも。だが、ここは佐藤が払ってくれるらしいからな。お前らは自分達の為に使っとけ」

 

「そうします。そう言えば、カズマはどれくらい貰ったのですか? 私は爆裂魔法を使った後は動けなかったので三十万程度ですが」

 

「私はあんまり回収出来なかったからかな……二十万くらいしかなかったぞ。レタスも混じってたし」

 

「え、レタス?」

 

 え、何? この世界キャベツだけでなくレタスも空飛ぶの? もう訳分かんねぇなこの世界。

 

「あぁ、レタスはキャベツに比べて換金率が何故かかなり低いんだ。どういう基準かはよく分からんがな」

 

 本当によく分かんねぇわ。俺、普通にレタスも好きだけどなぁ……。

 

「で、俺か? 俺は百万ちょい」

 

「ひゃっ!?」

 

「百万ッ!?」

 

 あ、バカ。アイツに聞かれたらどうすんだ。絶対集りに来るぞ。

 

 しかし、それは俺の杞憂のようで、向こうで何やらデストロイヤーの物真似とやらをやっていた。デストロイヤーって何だろう?

 

「確かにカズマのキャベツ狩りはお見事でしたからね。その結果も頷けます」

 

「そうだな、窃盗(スティール)で羽を奪い、機動力を失ったキャベツをウィンドブレスで効率良く回収してたからな。あれは確かに見事だったぞ」

 

「まぁ、多分商人向きな俺の幸運も働いてくれたんだろうな。でなきゃ、あんなに質の良いキャベツばっかり集まりはしなかったろうさ」

 

「そうですね。カズマは運だけは良いですから」

 

「運だけじゃねぇ! ……よな?」

 

「俺に聞くな……」

 

 こうして、彼らと談笑をしながらの食事はもう少しだけ続いた。

 

 そんな彼らを見ていて、一つ気づいたことがある。それは、彼らの表情についてだ。

 

 冒険者というのは、死と隣り合わせだ。ちょっとしたミスで、死んでしまうということもあるだろう。

 

 けれど、彼らにはそういった死に対する恐怖は感じられない。他もそうだ。

 

 彼らは皆、笑顔なのだ。今日を生きれたと笑う者。明日はどうしようかと考えながら笑う者。いつか叶える夢を見ながら笑う者。それは様々だ。

 

 それは、かつて見た、あのステージを思い出させた。

 

 前を見る者に宿る、生きる輝きだ。彼らには、それが満ち足りている。

 

 それを見るというのは、思いの外悪くない。そう思いながら、俺は少しだけその光景をただ眺めることにした。

 

 

 

 

 その後も夜は更けていき、気づけば夜の帳が降りきった、星々が綺麗に輝くような時間となっていた。

 

 俺達はそれぞれの宿に向かうためギルドの前で別れた。アクアはまだ飲み足りないとか言っていたので置いていくことにした。アイツ本当に女神なのか? 宴会の神様みたいになってるんだが……。

 

 佐藤と二人、街灯があまりない薄暗い道を俺達は無言で歩く。そういえば、お礼を言ってなかったな。

 

「佐藤、今日はその、助かった」

 

「ん? 何が?」

 

 突然のお礼に佐藤は心当たりがないといった感じで首を傾げる。確かに、今のでは何を指しているかは分からんかったな。何と言おうか……。

 

「その、あれだ。飯奢って貰ったり、パーティに誘ってくれたり」

 

「あぁ、それか。気にしなくていいぜ、そんなの」

 

 そう言って、本当に気にしてなさそうに佐藤は笑う。

 

「それよりも、いい加減名前で呼んでくれないか?」

 

「名前で、か?」

 

「あぁ、せっかくパーティになったんだ。よそよそしいのは無しにしようぜ?」

 

 よそよそしい、か。それを簡単に言えるのは今までは葉山くらいしか見たことなかったな。

 

 前の世界では、小町や陽乃さんを除いて誰一人呼ぶことのなかった知り合いの名前。俺がそれを呼ぶには、やはり少し抵抗が生じる。

 

「……実は俺、前世は引きこもりだったんだ。兄弟も友達も、一人もいなかった」

 

「……」

 

 突然、佐藤は語り出した。俺達しか共感出来ない、前世(あっち)での話。

 

「性根が曲がってるし、本音をすぐ言っちまうから、そういうの中々出来なかったんだ」

 

「そうか」

 

 俺も似たようなもんだよ、佐藤。俺の場合、ほとんど本音は言えなかったけどな。

 

「欲しかったんです。何というか、何でも笑って話せる人とか、そういうの」

 

「……そうだな」

 

 幻想は誰でも抱く。形は違えど、求める原理は等しく存在する。

 

「でも基本クズだから。女のパンツ盗って喜ぶような奴だから、どうしてもそういうの出来なかったんだ」

 

「……それは前世(あっち)か? それとも現世(こっち)か?」

 

 前者だったらかなりヤバイ。俺でも流石にそれは引くレベル。

 

「流石に現世(こっち)……いや、どっちでも駄目なのは分かってるけど……。でも、今日比企谷と会って思ったんだ。アンタなら、もしかしてそういう関係を築けるんじゃねぇかなって」

 

「……何故だ? 会ってまだ、間もないだろ」

 

「さぁ、分からねぇ」

 

 そこまで言うと、先程まで前を向いて歩いていた佐藤はこちらへ向き直る。つられて、俺もその場に立ち止まる。

 

「でも、取りあえずは同じ境遇者同士、仲良くやっていかないか? 八幡。そしたらきっと、いつか分かると思うんだ。確証とかはないけどな」

 

 佐藤はそこまで言うと、右手をこちらへ差し出す。それは親和の為の握手なのだろう。

 

 しかし、俺はその手を取ることが出来ない。

 

「俺は……」

 

 理性の化物は。自意識の化物が、その手を取るなと囁くのだ。

 

 裏切る可能性は? 信用に足る要素は? 佐藤の言葉に嘘はないか?

 

 臆病な俺の心は、その手を取ることを恐れている。

 

「……俺も、前世(あっち)じゃ友達なんて、ほとんどいなかったよ」

 

 でも、それでは駄目なのだ。

 

「うん」

 

「……勝手に期待して、勝手に失望して。そんなことをしている自分が今でも嫌いだ」

 

「うん……」

 

 それではまた、同じことの繰り返しだ。あの時の繰り返しだ。

 

「……お前みたく、今日会ってすぐの人間を信用できる程、俺は出来た人間じゃない」

 

「……うん」

 

 けど、あの時とは、もう違う。

 

「……お前は、俺と友達以上の信頼関係を築けるかもしれないと言ったが、それはお前の願望に過ぎない。傲慢で、酷く独善的な思いだ」

 

「……そう、か」

 

 だから、踏み出せ。比企谷八幡。

 

「でも……」

 

「でも?」

 

 お前は、変わると決めたんだろう。

 

「……飯一つ、助言一つで借二つ。返すまでは、一緒にいてやる」

 

 今はもう、自分で選べるだろう?

 

「それじゃあ……!」

 

「だから……まぁ、なんだ。よろしく頼む……和真」

 

 まぁ、恥ずかしいから。目を逸らすことくらいは勘弁してくれよ。パーティメンバー。

 

「おう! よろしく頼む!」

 

 俺の返答に満足したのか、和真はそれ以降あまり口を開かなかった。空気を読んで察してくれる辺りは、どこかアイツに似ているな。

 

 俺は空を見上げる。澄んだ、それでいて眩い星空は、前世(あっち)の空とはもう違う。濁っていなければ見えにくくもない。幻想的なまでに綺麗な空だ。

 

 出来るものなら、アイツらにも見せてやりたいものだ。

 

 俺はそんなことを思いながら馬小屋へと向かう。

 

 今夜はよく寝れるだろうか。




いかがでしたでしょうか?
面倒な八幡はきっとこれでも優しく接しているはずです。捻デレですね。
同じ境遇の者としては和真はやはり仲良くはしたいと思ってるでしょう。チート持ちという点に目が眩んでないとは言えませんが……(笑)
次回はストックがもう一つ増えましたら、投稿しようと思います。
なお、投稿に関してですが長くても一週間以内には次話を投稿するようにしようと思ってます。感想とか貰うとやはり書くのが楽しくなりまして、執筆はそこそこ早く進んでおります。
感想、意見、指摘等お待ちしております。

――追記――
ダクネスの名前がダグネスになっているとのご指摘を頂きましたので三、四話共に変更させて頂きました。
素でダグネスだと思ってました、ごめんなさい。

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