もう三話目で大丈夫か?って思う人もいるでしょう。他の投稿者様と比べて大分早いペースですしね。大丈夫、今にグンと投稿ペースが落ちますので(何も大丈夫ではない)
今回はタイトル通り彼らと会う話です。面白くなるよう努力はしたつもりです。
また、これからの話は文字数がかなり増えます。下らない会話増やしてるからだけど後悔はしてない。
それでは、どうぞ。
~追記~
加筆修正しました
転生から一夜明けての早朝。馬糞の匂いで目覚めてしまい目覚めは最悪だが、これも一種の経験として割り切ろう。そんな朝を迎えた馬小屋生活一日目。
昨日は肉体的に、というよりは精神的に疲れていた為、すぐに何かをすることなく、そのまま案内された馬小屋で寝ることにした。
言葉にすれば簡単だ。俺は死に、転生し、ここに居る。
けれど、それを心で納得するだけの余裕は、どうも俺にはなかったらしい。だから、俺はその辺りの整理をする為に、休息を取ることにした。
そして、目覚めた時には不思議と納得している自分がいた。今では割り切って、前を見れる。
希望があるのとないのでは、どうやら気持ちの持ちようが違うらしい。こちらに来てから、随分と学ぶことが多い気がする。
「さて、と」
俺は馬小屋から出て軽くストレッチをする。時計がないから分からんが少し日が出ているからきっと六時くらいだろう。涼しげで新鮮な朝の空気は今まで生きてきた中で一番美味かった。やはり、人工物だらけの都会とは大違いだ。
「とりあえずギルドに行ってみるか……」
未だ右も左も分からぬ異世界。能力に頼って最短ルートを行くのもいいが、やはり最初くらいは地道にやろう。金もあまり使いたくはないしな。
ストレッチを手早く済ませて、俺はギルドへ向かうことにした。
普段の俺であれば絶対に起きないし起きたくない時間帯だというのに、ギルドは既にいくらか人が集まっていた。冒険者というのは皆早起きなのだろうか?
「ん?」
そんな人の中で一人、異常な違和感を醸し出す人間がいた。
ソイツは肩パッドやプレート、大剣や杖といったファンタジー感溢れる世界の中で、一人だけ緑色の
「アイツ、もしかして転生者か?」
この世界の技術は見た感じ中世のヨーロッパとそんなに変わらない。機織りで作られたような手作り感溢れる服が一般的で、俺やアイツのような合成繊維の塊のような服は存在しないはずだ。それこそ、転生でもしない限りは。
ならば、答は是である。彼は間違いなく転生者であり、関わると絶対に面倒なことになるタイプの人間だ。俺と似て非なる負のオーラ出せるとか絶対ロクな奴じゃない。俺の八万あるスキルの内の直感がそう告げている。この世界だと割と習得出来そうで困るな……。
俺は彼の視線に入らぬようにそそくさと受付へ向かう。一応、前の世界で培ったステルスヒッキーも意識して。
「あの……」
「あ、ヒキガヤさん! 今日はどのようなご用件で?」
しかし、それを意識し過ぎたが故に、俺は昨日の受付嬢が居る受付の前に行ってしまったことに遅れて気づいてしまった。というかこの綺麗な人、こんな早くから受付やってんのか。
「え!? そ、その、ありがとうございます……」
「え、何がです?」
今更受付場所を変えるのも気が引けるとか思っていると、何故か受付嬢は嬉しそうに頬を赤らめて俺にお礼を言いだした。特に何かした覚えはないのだが、一体何に関してのものだったのだろうか。思考とか感情は
「い、いえ! 何でもありません! それで、ご用件は……?」
「あ、そうでした」
色んなことに気をとられて本来の目的を忘れてたわ。危ない危ない。
「何か駆け出し冒険者向けの、簡単な仕事ってありますか?」
「はい、駆け出し冒険者向けですね。でしたら、こちらの依頼はどうでしょうか?」
すっかり元の調子に戻った彼女はそう言って、引き出しから取り出した羊皮紙か何かで書かれた紙を見せてくれる。
「ジャイアントトード三匹の討伐というのはどうでしょう。報酬はジャイアントトード一匹につき一万エリス、買い取りで五千エリスとなりますので四万五千エリスになりますが、それ以上狩ったとしてもそれだけ報酬は加算されるだけですので討伐数までという制限はありません」
ほう、意外と高いんだな、このモンスター。名前から察するにデカい蛙っぽいが。
「討伐数は冒険者カードに自動で記載されます。そして、モンスターを倒したりして得た経験値でレベルが上がり、レベルが上がると獲得出来るスキルを得るためのポイントが増えますので頑張っていっぱい倒しましょう!」
そう言って彼女はグッと胸の前で拳を作る。彼女のたわわなモノもそれに合わせて揺れるので大変眼福……ゴホンゴホン。
「じゃあ、とりあえずその依頼? を受けます。そのモンスターってどの辺りにいますか?」
「承りました。ジャイアントトードは街を出ると結構色んな所にいますので探す必要はあまりないかと。最近、頭のおかしい爆裂娘とやらが爆裂魔法を撃つ所為で目覚めたジャイアントトードも多いそうですし」
「頭のおかしい爆裂娘?」
何その物騒な名前。絶対危ない奴じゃねぇか。人がゴミのようだとか口走っちゃうの? それはどっかの大佐でしたね。
「一日一回、爆裂魔法と呼ばれる高威力広範囲の魔法を放っては騒音被害や生態系の破壊などを引き起こしている女の子のことです」
おい、本当に駄目なやつじゃん。ある意味モンスターより
「ま、まぁ駆け出しの街、アクセルですから、仕方ないこともありますよ」
そう言ってフォローする彼女だが、顔が若干引きつってる。きっとかなりの
会わなければいいなぁ。そんな不安と共に、俺は街を出ていくことになった。
「エクスプロージョンッ!!」
そして、その不安はすぐさま的中したのだった。
どこから聞こえたその声と共に、辺り一面が爆炎に包まれた。
その方を見やれば、典型的な魔法服を来た少女が決めポーズを決め、倒れていた。
爆発によって、辺りに居たであろうモンスターは跡形も無く消えていた。何なら一部の地面が諸共消えているので、あの爆発を起こした魔法こそが爆裂魔法というものであり、その使い手が件の頭のおかしい爆裂娘、ということになる。
そういえば、この世界では十四歳から成人と認めれるらしい。だから、一見子供にしか見えない彼女も、もしかしたらこの世界では成人の部類に入るのかもしれない。だがそれは、個人的に何か納得出来ない。
そんなことを考えながら、俺は改めて目の前のモンスターを見やる。
「ゲロゲロ」
ジャイアントトードというこのモンスター。想像してはいたが……うん、デカい。ウシガエルとか比じゃないレベルでデカい。軽自動車くらいあんじゃねぇか?
受け入れがたい現実の光景に少し戸惑っていると、ジャイアントトードと目が合った。
「あ」
ヤバイ、捕食される。そう思った俺は不格好な構えで相対する。
「か、かかってこいやぁ……」
我ながら情けない声が出た。あぁ、これ絶対食われるわ。目の端に先程の少女が食われているのも見えるわ。え、ちょっと大丈夫? 食われても大丈夫なの?
「ゲコ?」
しかし、ジャイアントトードは俺を見ても何故か襲って来ない。というか、むしろ俺にすり寄ってきた。え、何で? あと何か生臭い!
「
俺は一応能力を使って聞いてみることにした。相手に伝わるように、言語は彼らと同じものだ。
『どうして俺を捕食しないんだ?』
『何か仲間みたいな雰囲気がするんだー』
悲報、俺はどうやら蛙から見ても蛙っぽいらしい。存外、俺がヒキガエルって呼ばれてたのは的を射ていたらしい。非情過ぎる現実に号泣しそう。あ、ちょっと涙出てきたわ。
『最近は冬眠から目覚めてもすぐキミみたいなヒト達に殺されちゃうんだー』
『まぁ、モンスターだしそんなもんだよな……』
なんか、モンスターも大変なんだなぁとは思う。普通に生きてるだけなのに殺されちまうとか、迷惑もいいとこだろうに。
まぁ襲わなかった礼だ。このまま逃がしてやろう。
『とりあえずここいらの平原はやめとけ。他の冒険者に殺されちまうからな』
『分かったー』
俺の言葉を素直に聞くとジャイアントトードは意外にも軽やかにピョンピョン飛んでいった。何かあれだな、喋った所為で殺しにくいなぁ……。
「ゴッドブロォーッ!!」
ふと、そんな感じで逃げていく後姿に、光をまとった拳で物申す奴が現れた。
水色の神は水のように流れてその美貌を際立たせる。何かの技なのか、拳は神聖さが感じられるものをまとっている為、まるで女神のようだと少しだけ思った。
「ゲコ? ゲコ」
だが、無情にもそんな彼女は見事に捕食された。どうやら拳はあまり効かないらしい。一つ良いことを知った。
「だから食われてんじゃねぇーッ!!」
「ん? ゲッ……」
そう叫んで走ってきたのは、今朝ギルドで負のオーラを拡散してたジャージの男だった。今は負のオーラではなく、捕食された彼女に対する安否と、何勝手に食われてんだという怒りが感じられた。
駆け付けてきた彼はその勢いのまま、ジャイアントトードに斬りかかる。捕食中だからか、切られいても全然動かない。いや、純粋に攻撃力がないのか?
ここで、彼女より先に捕食されていた爆裂娘のことを思い出した。さっきの方を見れば、どうやらまだ捕食されているようだった。
ただ、徐々にその捕食が進行していき、ジャイアント・トードの口から見える彼女の体は次第にその口に飲まれていく。出られないのか固まったままだ。
「おい、そこのアンタ!」
そんな感じで呑気に見ているとジャージ男から声をかけられる。
「何だ?」
「悪いが、そこの捕食されかけてる奴を助けてやってくれないか!? 他の蛙も来てるから下手したら俺達も食われちまう! アンタ見たとこ転生者だし、何か能力持ってんだろ!?」
そう叫ぶジャージ男の周りには、確かに蛙達が捕食せんと近寄って来ている。普通ならアイツらは無差別に人やら何やら、エサと思えば食うっぽいからな。その考えは頷ける。だが、それで俺が手伝う理由にはならない。
「確かに転生者だが、それこそお前も転生者なんだろ? チート持ってねぇの?」
彼が転生者という言葉を発した以上、彼もまた転生者であると言える。そうであれば、どれだけ楽観的な奴であっても、何かしらの対抗手段を持って――。
「持ってねぇ! 最悪なことに、目の前で捕食されているコイツが俺の特典だ!」
「……冗談だろ?」
一体彼は何を特典としたのか。思わず生じた疑問に、俺は迷わず能力を使うことにした。
「
そして、その答を見て、愕然とした。
「……お前、そこの
「なっ!? 何でそれが!?」
あの場で貰える特典は、転生者が望む
しかし、まさか転生させる女神本人をそれに選ぶとは……。選べることにも、選んだ彼にも驚きだ。
だが、彼自身もその特典が
……彼と話してみるだけの価値はあるな。
「悪いが、攻撃を止めてくれ。ちょっと話す」
「は、話す!?」
俺の言葉に驚く彼を無視して、現在女神を捕食している蛙に近づき、話しかける。勿論、伝わるように。
『なぁ、出来ればソイツを食うのはやめてやってくれないか?』
『えー、せっかくのエサなのにー。美味しいよー?』
『いや知らんけども。多分ソイツ、食ったら体壊すから、オススメはしないぞ?』
『そっかー。じゃあやめとこうかなー』
ペッ、とジャイアントトードは素直に捕食中の女神を吐き出してくれた。体中が、蛙の粘液塗れで。
「す、すげぇ……」
『ありがとな。北側の方が冒険者が少ないみたいだから、そっちに逃げな』
『わかったー』
とりあえず、素直なコイツの頭を撫でてやる。何か愛着湧いてきたわ。育てる気ないけど。
手を放すと蛙はまた軽やかにピョンピョン飛んでいった。やはり圧巻されるな、あの絵面。飛ぶ度に振動が伝わってくるし。
その後、俺は他のジャイアントトード達も帰らせた。被害を出さなければあれも可愛いもんだろう。
その結果、ジャイアントトードを狩れなかった俺は、粘液塗れになった少女達を連れたジャージ男、佐藤和真と共に街へ戻ってきていた。
いくらか話したところ、佐藤はどうやら一月程前にこの世界に転生してきたとのことだった。年は俺より二つ下らしいが、変な敬語を使われるのも面倒なのでタメ口にしてもらっている。
そんな佐藤だが、聞くと死んだのは四月の半ばだったらしく、ここではまだ半年も過ごしていないという。十二月の末に死んだ俺と微妙に時差があるようだが、その辺りは異世界だからで片づけるしかなさそうだった。
「しかし比企谷、あの蛙と喋ってたの何の能力なんなんだ?」
「あぁ、あれか。まぁ、何だ。理解する、という能力を応用しただけだ」
「理解する能力?」
「有体に言えば”答”が分かる能力だ。制限があるが、大抵のもんなら分かるし見抜ける。お前の死因も勿論把握した」
そう、実はさっきこっそり能力使って調べてみたのだ。嘘言ってる可能性が捨て切れんかったからだが、死因は割と残念なもんだったし、敵対意思はないと思われる。尤も、単純な人間性は疑わしいままだが。
「おぉい待ってくれ! それは言わないでくれよ、頼むから……」
そう言って顔を俯かせる佐藤の表情は暗い。まぁ、可哀想だし深くは触れてやるまい。
それに、今は少し疲れている。初めて長時間使用したからか、どうやら脳が悲鳴を上げているらしい。まだ能力が体に馴染んでいないのだろう。少し前から頭痛がする。
今後は使用していくことで慣れるだろうが、あまり多発はしないようにしよう。その辺りも、明日頭痛が引いたら考えるとするか。
「でも良いなぁ、特典。俺もちゃんと選べば良かったよ……。こんな奴じゃなく」
「ちゃんと選んではなかったのか……」
「うっ……グスッ……グスッ……」
そう言って佐藤が指し示したのは、ご存知残念美少女の女神さんだ。水の女神である彼女は名前もそれに因んだ、いや、むしろ語源的なアクアというもので、出来れば威厳をもっていて欲しかったのだが、蛙に吐き出されて以降ずっとあの調子で泣いている。
「……まぁ、一応女神なんだ。いつか使える時がくるんじゃないか? 知らんけど」
「そうだな。曲がりなりにも女神だもんな。そうだよな……」
「一応とか曲がりなりにもとかって何よ! 私
佐藤の物言いに憤慨するアクア。ちょっと、粘液飛び散るんでやめてくれません?
ここで、ふと疑問が湧く。シンプルなものだが、場合によっては割と大事になること。
「というか、大丈夫なのか? 女神が居なくなったら誰が死者を導くんだ?」
「あぁ、何かコイツより女神らしいのが出てきて送ってくれたよ。天界にも階級制度があるらしいし、多分いくらでも代わりは居るんじゃないか?」
「公務員みたいな扱いだな……」
しかし、もしそうなら俺が送ったあの女神は何だったのか。アクアは自分を日本担当だと言っていたから、恐らく市役所の窓口ように管轄が違うはずだ。だが、彼女の名前から察するに、彼女はこの世界に関する神のはずだ。
でも、アクアの宗教もこちらにあるというし、その女神の宗教がある世界は、女神ごとに違うのかもしれん。いずれにせよ、その辺りは
「何ですか? 特典とか、女神とか。カズマは時々、よく分からないことを言いますよね」
ふと、会話に入ってきたのは頭のおかしい爆裂娘だった。未だに動けるようになっていない彼女は、現在佐藤に背負われている。
「お前も人のこと言えないけどな」
「おい、私の言動に文句があるなら聞こうじゃないか」
「一日一発爆裂魔法撃たなきゃ落ち着かないとか言ったあげくこうして背負われている奴をどう理解しろって言うんだ」
割と本当に意味不明なんだが。相手が強いのならまだしも、スライムレベルらしいあのモンスターに何故あれをぶっ放したりしたのか。しかも、その後は魔力切れで動けなくなってるし。せめて何かしらの配慮はしろよ。
「仕方ないじゃないですか! 私の心は既に、爆裂魔法に惹かれてしまっているのですからッ! 愛するものの為なら、尽くすのが当然じゃないですかッ! 代償など、気にしてはなりません!!」
グッと拳を握って力説する爆裂娘。なるほど、言っていること自体は一応筋は通っていると言える。が、粘液まみれのその姿で言われても説得力ないんだよなぁ……。
「ところで、そこの目の腐った貴方は冒険者なんですか? 見たところ武器も何も持っていないようですし、カズマみたいに変な服装ですし」
そう言って、爆裂娘は俺の体を見回す。言い返そうとして、自分が未だに制服姿であったことに気づく。そういえば、こちらの服とか武具とか一切買ってないんだよな。依頼も達成出来なかったしどうしよう。
俺は今、自分が割と危機的状況に陥っていることに気づき、段々気分が沈んでいく。やはり異世界だろうと、現実はそんなに甘くないようだ。はぁ、マッカンが恋しい……。
「おい、大丈夫か。目が更に腐っていってるぞ」
「ほっとけ、仕様だ。あと、一応俺も冒険者だぞ、頭のおかしい爆裂娘」
「おい、私のどこが頭がおかしいのか是非聞こうじゃないか」
「何か最近の騒音の苦情の原因がお前の魔法らしいが?」
俺が受付嬢に聞いた話をしてやると黙って目を逸らしていった。あぁ、コイツ、嘘とか苦手なタイプだな……。顔を見れば丸分かりだ。
「つか、今日が初めてだったんだろ? 比企谷も最近まで土木作業の仕事してきたのか?」
「え、してないけど?」
「え?」
「え?」
突然、俺達の間に沈黙が生じ、足が止まる。何故ここで土木作業が出てくる?
「だってお前、ここに来る時は無一文のはずだろ? なら、登録料分は稼がないとそもそも依頼も受けれないはずだが……」
「あぁ、来た時は確かに無一文だったが……」
俺は彼女の計らいでモヒカンのおっさんから金をいくらか貰っている。あまり無駄遣いしないように考えてはいるが、依頼で金を貰うまでは金を使わないようにしたいと思っている。
「マジで!? いいなぁ、俺もそんな優しい人に会いたかったなぁ……」
「お前は貰えなかったのか?」
「あぁ、お陰で数日土木作業を淡々とさせられたさ」
何だろう、この格差。俺が同じ状況だったら確実に泣くぞ。哀れ過ぎる。
「ま、まぁ、そのうち良いことあるんじゃないか?」
「その慰めが今一番心にくるよ……」
そう言って佐藤の顔がどんどん暗くなる。あぁ、何だろうこの不毛な空間。誰もが気分を沈めていく……。
「……なぁ、もし金とかで困ってるならウチのパーティに入らないか?」
不意に、佐藤がそんな提案を持ちかける。正直、この場合においてなら是非ともあやかりたいが……。
「悪いが、養ってはもらっても施しは受けない主義なんでな」
「どう違うんだよ……」
こればっかりは前世から譲れぬ信条だ。他人に借りを作るような真似はあまりしたくない。
「でもお前、パーティメンバーいないだろ? いくら駄目な奴とはいえ、他にメンバーがいないともしもの時に危ないぞ?」
確かに、知らぬ土地での単独行動は死に直結するというのは否定しない。事実、後ろの二人の少女のように食われたりしたら成す術がない、なんてことになりかねないからな。
「何より、うちのダメパーティにチート持ちが入ってくれれば心強いからな」
「佐藤、それが一番の理由だろ? 」
さっきからの話を聞くところ、どうも佐藤のパーティはバランス、というよりはメンバーの能力が偏っているようだ。ここにはいないが、ドMのクルセイダーもいるらしいし、佐藤の周りには変人しか集まらないのだろうか。
「お願いだぁぁ!! このままじゃ一向に金が貯まらないんだよぉぉ!! いい加減落ち着いて寝れる場所が欲しいんだよぉぉ!!」
「ちょ、落ち着け佐藤。揺らすな、頭がグワングワンする。頭痛がしてるから止めてくれ」
「カ、カズマ、落ちます、落ちてしまいます」
「頼むよ比企谷ぁぁ! ここに来て頼れる人間がお前くらいしかいないんだよぉぉ!」
俺が制止をかけるも、佐藤は全く聞きはしない。癇癪を起こした子供のように泣き喚くだけだった。
「分かった、分かったからとりあえず揺らすのをやめてくれ、吐く……」
「ッ! それじゃあ!」
ようやく手を離してくれた佐藤は顔を輝かせる。反対に、こっちは揺らされまくったから吐きそうだ。
「あぁ……俺でいいんなら、入れてくれ」
「ちょっと待ちなさい! 貴方、職業は何なのよ! 上級職以外はお断りよ!」
突然、先程まで泣いていた女神(笑)が割り込んできた。何だろう、ひょっとしてこの子空気が読めない子かしらん?
「おいアクア、なんでお前が決めるんだよ! 第一、転生者の比企谷が俺みたいなただの冒険者な訳ないだろ!」
自虐の入った佐藤からのフォローが入る。気にしていなかったが、和真は特典にコイツを選んだ所為で、ステータスが前世のままなんだよな。成長概念があるから、多少は何とかなるだろうが、成長幅が俺らとは違うから、多分凄く弱い。ジャイアント・トードにあまりダメージを与えられなかったのも、考えてみれば当然か。
「あ、あぁ。一応、アークウィザードになったが……」
「よし、採用!」
「ちょっと待って下さい! 私がいるのにアークウィザードをパーティに入れる気ですか! 私は認めませんよ!」
今度は今度で、爆裂娘が異議を唱える。何なの? 君達人の話を邪魔しないと落ち着かないの?
「めぐみんも何言ってんだ! お前がアークウィザードなのに爆裂魔法しか使えないから、遠距離攻撃がままならないんだろうが! 何ならお前を見捨ててでも俺は比企谷を入れるぞ!」
「おい、流石に見捨ててはやるなよ。仮にもパーティメンバーだろ?」
「カズマカズマ、この人はカズマよりも優しいですよ! いっそ私が彼のパーティに入った方が良さそうな気がしてきました!」
「やめてくれ。その考えでいくと最終的に俺だけ余るから。最弱職の俺だけ余っちゃうから」
さっきまでの威勢はどこへやら。自身が劣性と見るや見事な掌返しを行う佐藤。その潔さ、嫌いじゃないぞ。だが、その前に一つ聞きたい。
「なぁ佐藤。めぐみんって渾名か?」
「いや、本名だ。紅魔族っていう魔力が生まれつき高い、基本的なセンスが中二病な種族らしい」
「へぇ……」
何か由比ヶ浜みたいな渾名だと思ったが、このめぐみんとやらはどうやらそれと同じセンスの持ち主らしい。しかも種族全員が。もう何でもありだな、異世界。
「おい、私の名前に文句があるなら聞こうじゃないか」
「いや、文句はないが、なぁ?」
やはり自分のいた世界の基準で見てしまうと、その違和感は拭えない。だってどう聞いても渾名じゃん?
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者! 頭のおかしい爆裂娘などと不名誉な呼び名をされる筋合いがどこにあろうか!」
「そういう言動なんじゃねぇの?」
はっきり言って材木座のラノベとタメを張れるくらいの中二病さだ。眼帯も聞いたらオシャレらしいし、からかっているようにしか聞こえん。決して俺の黒歴史を彷彿とさせるとか、そんな理由じゃないからな? ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「しかし比企谷、お前アークウィザードならもしかして上級魔法とか使えるのか?」
「ん? 多分使えると思うが、どうかしたか?」
「よし採用。めぐみん、降りろ」
「待って下さい! 私を見捨てないで下さい! 荷物持ちでも何でもしますから! この前みたくヌルヌルのプレ……」
「よぉーし分かったからとりあえず黙ってくれ。ただでさえこの前ので俺の評判がだだ下がりなんだよ」
「何やったんだよ」
「今とほぼ同じ状況になっただけだ」
それだけで俺は納得した。めぐみんが何か言って、佐藤のパーティに残ると言ったのだろう。その目論見通り、それは成功し、今でも彼の脅迫材料になっている。狡賢いというか、何と言うか。
「ねぇカズマさーん! 早くギルド行きませーん? 私早く風呂に入りたいんですけどー」
「だぁもう! うるせぇなぁ! とっと行ってこい、この駄女神が!!」
そして、女神の方はどうやら空気の読めないアホの子らしい。由比ヶ浜に似た部分を感じるのは、多分彼女がその程度の知性しか持っていないからだろう。和真曰く、知性と運はかなり低いらしいし。
こうして、俺はそんな騒がしい佐藤のパーティに入ることが決まった。ほとんどなし崩しではあったが、まぁ悪い提案でもないのは事実だ。能力を使ったデメリットがどれだけのものか分からない今、聞ける人間がいるのは頼もしいからな。
ただ、聞くところによるとパーティにはもう一人いるらしい。まだ見ぬソイツも含めて軽く紹介してもらったが。
最弱職の幸運だけが取り柄な不運な少年、佐藤和真。
パーティ随一の駄目人間にして駄女神、アクア。
中二病感満載なロリッ娘魔法使い、めぐみん。
どうしようもないレベルの変態クルセイダー、ダクネス。
どう見ても問題しかない。最後、変態な上級職とかマジで大丈夫なのかこの世界とか思ってしまう。まぁ、入ると言った手前、今更断るのも難しい。しばらくはこのパーティに世話になるとしよう。
「比企谷ー! 早くギルドに行こうぜー! 飯奢るぞー!」
気がつくと、俺はどうやら立ち止まっていた。先に進んでいた佐藤が俺のことを呼んでいる。
「……あぁ、今行く」
俺はそれに応えて少し小走りで追いかける。前の世界とは違う、新たな仲間となる奴だ。少しくらいは頼るとしよう。
これからは、騒がしくなりそうだ。
「カズマさーん、私も奢って欲しいんですけどー」
「お前はまず風呂に行ってこい! 話はそれからだ!」
「私も出来れば奢って欲しいのです。さもなくば……」
「いいからお前も行ってこい! 蛙臭いんだよ!」
……騒がしくなりそうだ。
一抹の不安を覚えながら、俺は彼らと共にギルドへと向かう。
夕暮れの色に染まる彼らが眩しく見えたのは、俺がまだこの場所に慣れていないからだろうと、そう思いながら。
どうでしたでしょうか?
個人的に俺ガイルの蛙っぽかった一期の作画、嫌いじゃなかった。
カズマは相変わらずですね、書いててなんですけど。自分の保身の為ならグレーなとこから完全ブラックまで手を染めそうです。
四話はストックが二つ増えてから投稿しますのでどうぞ気長にお待ち下さい。
感想、意見、指摘等お待ちしております。
~追記~
ピョン吉の出番はこの回だけに変更しました