男性転生者だらけのインフィニット・ストラトス   作:鋳型鉄男

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お待たせしましたが、やっと一巻の半分が終わります。
今回から場面の間に◆◇◆を入れるようにしてみました。こっちの方が良さそうですね。
そしてお気に入り120件+UA7000越えありがとうございます。


4月中旬 その3 vs Blue Tears

『来ましたわね』

 

 今回の対戦相手であるセシリアさんから声が掛かる。鮮やかな青の機体は4枚のフィン、自立機動兵器『ブルー・ティアーズ』を従え宙に留まっており、まさに王国騎士と言う佇まいである。

 そして特殊兵器をセンサーで走査すれば、事前に調べた通りレーザー型が4つ、そして弾道型(ミサイル)2つの合計6つが機体に装備されていることが分かる。つまりブルー・ティアーズが装備する砲門は手に掲げるレーザーライフル《スターライトmkⅢ》と合わせ7つある事になるわけである。

 

「おう、来たぜ。ちょっと先生に捕まって遅れたけど、ほぼ時間通りだ」

『レディを待たせるのは紳士ではありませんわよ。それは良いとして、一つお聞かせ願います?』

 

 はて、様子がおかしい。事前に聞いていたセシリアさんとはもっと高飛車で、『最後のチャンスをあげますわ』とか言ってくるって聞いてたんだが、何かあったんだろうか。

 ハイパーセンサーによって拡大されたサファイアの瞳はまっすぐとこちらを見ており見下す様子は感じられない。

 

『あなたは何の為に今ここに立っていますの』

 

 何の為に?良く分からない質問だ。別にこの決闘に来た理由なら一組の皆に頼まれたからで済むんだが…

 

『特に考えも無く立っている様ですわね。これではあなたに負けた2人が少し哀れでは無いかしら』

 

 これもしかして今、挑発されたのか?ついでにこの間戦った二人(ライバル)まで見下されている気がする。

 それは見逃せないので反論しようとするが、それはセシリアが射撃体勢に移行したことで中断された。

 

『ならばせめて、今ここで、偶然ではない誇りをもって力を振るう者の実力を示してさし上げますわ!』

 

 独特の射撃音と共に閃光が空を裂く。初撃は避けるつもりであったが想像より早い精密射撃に、スラスターの一部を撃ち抜かれる。熱量に耐えきれずに装甲が一部溶け落ちた。

 

『さぁ踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!』

 

 射撃に次ぐ射撃。単純な火線の密度であればリチャードの方に軍配が上がるが、その分一射一射が必殺の精密射撃になっている。恐ろしい速度でシールドが削られていくのが見え、慌てて機体を増速する。

 

『一応教科書程度の機動は学んできたようですわね。ですが素人が齧った程度の機動でわたくしからは逃げられなくてよ!』

 

 直感に従い顔を思い切り反ると、直後に頭部がある筈だった場所をレーザーが通り抜ける。焼けた空気から保護するために絶対防御が発動し大きくシールドが削られたのを見るに、今の射撃が正に致命傷をもたらすものであったことが分かる。

 完全に手加減無しだ。素人相手に出していい技術ではないと断言できる

 

「ちょっとセシリア!大人げないでしょう!もっと手加減してあげなさいよ!」

「この間のリチャード君の時はそうだったじゃない!」

 

 観客席のヤジに完全に同意である。録画されていたセシリア対リチャード戦、彼女は少しずつギアを上げるかのように射撃の苛烈さを増していたが、今は完全にギアが入った時と同じ程度の密度で撃たれている。

 

『わたくしも学園へ入学して浮かれていただけですわ。敗北を通せば誰だって学習しましてよ?』

 

 向こうは余裕をもってヤジに応えているが、こちらには文句の一つも言う余裕は無い。

 この数分、いや3分足らずでシールドエネルギーが1/3削られており、このままだと5分足らずで、下手するとビット稼働すら叶わずに終わる可能性が見えてくる。

 一か八か、死地に飛び込んで接近する必要が見える。

 

『覚悟は出来た様ですわね。ですがその程度の機動で近づけるとは思わないで下さるかしら?』

 

 彼我の距離はリチャードの時よりも近く、そしてその道程は遠い。せめて期待の半分にでも応えなければならない。

 だがその覚悟をあざ笑うかのように、レーザーライフルの射撃の隙を狙っている俺を尻目にブルー・ティアーズのフィンが彼女のもとから飛び去り、こちらに銃口を向けてくる。

 

「そろそろ曲調を変えましょう。ステップを踏み外すような事は無いと期待していますわよ?」

 

 

 

◆◇◆

 

 さてここは私マリアーノ含む一夏君のセコンドと監督を受け持ったという織斑先生が待機するピット内のリアルタイムモニター前だ。空気はかなり悪いと伝えておこう。

 対セシリア派を代表して来たらしい鷹月さんはかなり悔しそうな表情で画面を注視しており、転生者組も顔色は悪い。原作ではファースト・シフト前の白式で27分耐えきったというが、それを信じる事が出来ないような試合展開になっているのだから仕方あるまい。

 試合時間は現在8分強、段々と一夏君の機動がセシリアの射撃に追いついて来てはいるが、既に2/3以上削られた白式のシールドエネルギーを見るに安定して接近戦に持ち込めるようになる前に一夏君の敗北が完全に決定するだろう。

 セシリアが最初から本気の、遊びのない試合運びをしてくるのは正直予想外であった。正しくは予想していたが無視していたという形だ。

 原作のセシリアは一夏君との決闘後もどこか見せびらかす様な戦いを好んでいた様だし、リチャード君との決闘でもその様子が見て取れた。

 それがどうだ。敗戦から立ち直るどころか初心者を相手取るという慢心すら欠片も無い様では無いか。

 

「ふむ。以前の決闘の事があったからもしやとは考えたが、流石に代表候補生相手では織斑も形無しか」

 

 ビットからの射撃を避け果敢に切り込んだものの、後ろからの第2射を避け損ねた一夏君を見て織斑先生が言う。

 同じく専用機を持つ身として正直に言えば、ここまで動き回り全方位からの射撃を躱している時点で嫉妬を覚えるレベルだが、やはり稼働時間の壁は本来分厚く、高いものと言う事だろう。

 

『踏み込みがまるで足りませんわ。良く避けているのは褒めて差し上げますが、それだけでは勝てませんわよ』

『くっ…何か、何か手は無いか。この距離を詰める機能は…』

 

 ビットが飛び始めてからは止まっている筈の本体に近付けず、ではビットをと切りかかれば本体に狙撃される。その様子は原作で一夏君がビットを死角へ誘導したのとまさに真逆の構図であった。

 

「やべぇな。一夏が全然近づけねぇ。セシリアってこんなに強かったのかよ」

「正直侮っていた。慢心が無いだけでこうまで…」

「リチャードには負けていたようだが、彼女のように貴様達と違い実力で選ばれた人間に侮る要素など無い。敗北から慢心を捨てた彼女のように、良く反省して次回に活かすことだ」

 

 織斑先生が完全に一夏の敗北を予想した状態になっている。彼を推している身として悔しいがこれが実力差と言う事だろう。

 先ほどから一夏の足も止まり始めた。このままではセシリアを攻略できないまま決闘が終わってしまう。

 ……彼がそこまでの()()()である筈が無い。そう信じてはいるが、現実がこれではどうしようもない。セシリアのフィナーレ宣言と共に足を止めた一夏君へビットの一斉射撃が迫る。決闘の後の事を考え直さなければならないと確信した。そして

 

 

――白式が一条の閃光となった

 

 

◆◇◆

 

「なっ…瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?この短期間で修得していたと仰いますの!?」

 

 慢心せず、油断せず、考えうるあらゆる戦術を予想して挑んだこの決闘。バリアー無効化攻撃を最大限に警戒し一切の接近を許さなかった試合運びは我ながら完璧であったと言える。

 だが、その流れが崩された。ISに乗り始めて三週間足らずの男がイグニッション・ブーストを成功させるなどいくら何でも現実離れしているとしか言えない。それどころか今の一撃、絶対防御を発動させた挙句、被弾ゼロだった機体のシールド・エネルギーを半分近く奪っていった。

 恐らくイグニッション・ブーストの最中に一瞬だけ見えた光の刃にそのような機能があると見て取れる。

 

『とっとと、ぶっつけ本番でも出来るもんだな。千冬姉のあれ』

「な…まさかあなた、練習どころか知識すらないままイグニッション・ブーストを!?あなた何者ですの!?」

 

 冗談のような事実を目の当たりにし、混乱する私を責めるものは居ないと信じたい。完全に予想外だ。多少接近を許した所でミサイルで迎撃する用意をしていたのに、それすら今の一撃で破壊されている。

 天賦の才、と言う言葉が頭を過る。かつて自分に送られてきた言葉。それを送るべき相手だと心のどこかで彼を認め始める。

 

『一番最初に聞かれたよな。何の為にここに居るのか、って』

 

 まっすぐな瞳がこちらを射抜く。最初の訳も分かっていない様な情けないそれでは無い、確かな意志と力を感じさせる瞳だ。

 

『俺がここに居るのは、家族を、皆を守る為だ。あの時も、そして多分その前からずっと俺の事を守ってくれた千冬姉の、こんな俺に期待してくれる皆の名前を守る為に、この決闘も勝たせて貰う!』

 

 再びのイグニッション・ブースト。光刃が超高速で迫るが、近くに戻していたビットを切り裂かれるが何とか躱す事に成功する。

 

「切り札を隠し持っていたようですが、そう何度も通じるとは思わないでくださいまし!」

 

 幾ら切り札に振り回されようとこの身は代表候補生。直後に体勢を立て直し、スターライトで反撃を返す。しかし、向こうのシールドエネルギー残量は僅かであるにも関わらず、もはや照準を定める事が難しいほど動き回っている。

 

『なぁ、俺は理由を答えたぜ。だからそっちも戦う理由って奴を話してくれよ』

 

 ……優位を取ったつもりなのだろうか。動き回りつつも仕掛けてこない彼から逆に問われる。

 セシリア・オルコットが戦う理由。負けてはならない理由。上に立つ器を示さなければならない理由。それは…

 

「私の家を、オルコットの名を、母が築いた誇るべきモノを守る為ですわ!」

 

 憧れの、今は亡き母の大切なモノたち。輝かしいそれらを亡者に奪わせる隙を生み出さないためにも、私は勝者でなければ、貴い者でなければならないのだ。

 気炎と共にビットの斉射を向ける。直撃は取れなかったがスラスターにダメージを与える事が出来た。これで今までのように逃げ続ける選択肢を潰す事が出来ただろう

 

『うわっと。…つまり俺とお前は似たような理由で戦うライバルって事だな。ますます負けられねえ!』

 

 推力バランスが崩れたのか先ほどよりも回避のキレは無い。それでも細かいロールで直撃を避けるのは才能と言うべきか血筋と言うべきか。

 こちらを睥睨する瞳にタイミングを計るような色が付く。恐らく次の一合で決めるつもりなのか。

 ――()()()()()()。相手の癖を見抜いたのがそちらだけでは無い事を思い知らせねばなるまい。

 ビットを射撃体勢に移行させ、あえて隙を晒す。

 

『おおおおっ!』

 

 釣れた!ダメージが蓄積しすぎたのか、イグニッション・ブーストでは無く通常の、それでもまだ速いが、ブーストでまっすぐ懐に飛び込んでくる。このタイミングでは取り回しの悪いスターライトは間に合わない。

 ……だがこの攻撃の()()は見抜いている。後は勝利の為にほんの小さなプライドを捨てるだけ!

 

「インターセプターっ!!」

『なっ!』

 

 初心者向けの機能である音声による武器展開。今まで影も見せなかった近接用のブレードで光刃を受け止める。

不安要素だったインターセプターの耐久力は何とか足りた。賭けには勝った。そして

 

『あっ…くそっ、悔しいな』

「残念でしたわね。ですが、このわたくしをここまで追い詰めた事を褒めて差し上げますわ」

『試合終了。――勝者、セシリア・オルコット』

 

 最後の一撃に失敗した代償を支払った彼は悔しそうに決闘の結末を受け止める。対するこちらも少し悔しいものだ。

 

「試合の勝者はわたくしですが、決闘の勝利をお譲りしますわ。一組の皆様にもそうお伝えくださいまし」

『へ?あ、ああそういえばそうだったな。結局何で喧嘩になったのか良く分からねぇけど、皆と仲良くな』

「そうさせてもらいますわ。では失礼いたします」

 

 そう言って出てきたピットへと帰還する。これ以上の語らいは別の場所でするべきだろう。

 

 

 確か以前の五組の決闘騒ぎでは戦ったメンバーでディナーを共にして友好を改めて深めたという。それに倣うのも良いかもしれない。

 クラスメイトが一人も居ないピットを、少しだけ寂しく思う。確か母の周りにはいつも誰かしら居なかっただろうか。

 これを見直す機会になっただけでもこの決闘に意味はあったと言う事だろう。では後は…

 

「クラスメイト+織斑との夜会の予約ならもう終わってるんで後はお好きにどうぞ」

「あなた執事か何かの経験が?それともやはりどこかの工作員ではなくて?手回しが早すぎますわよ」

 

 

◆◇◆

 

 

 学級の書類仕事を粗方済ませたいつものような一日の夜。山田真耶は教員用の食堂で担任の織斑千冬と夕食を済ませていた。彼女の夕食がいつもより一品多いのは気のせいだと主張されている。

 

「織斑君、初心者とは思えないくらい頑張ったみたいですね。この間までISについてほとんど知らなかったなんて嘘みたいです」

「多少は努力している様だからな。これなら実技をもう少しキツ目にしても大丈夫だろう」

「素直じゃないですから。本当は代表候補生にあそこまで戦えた織斑君が誇らし……あっ!お刺身取らないで下さい…」

「まだまだあいつには伸びしろがある。それに他の男性操縦者が何もしないでもISを操縦できるといった勘違いをしない為にまだまだ叩いて鍛える必要がある。だな?山田先生?」

 

 身内ネタで弄ろうとしたところに制裁を加えられつつ、教員としての心得を説かれる。今の所五組の中にそのような気配は無いのだが、備えるに越した事は無いので頷く。

 

「みんな頑張っているみたいなので、優しくしてあげてくださいね?」

「それは君の役割だ」

「織斑先生優しくするの苦手ですから…ああ!それは駄目です!……ううぅ」

 

 更に夕食の品目が減ってしまった。仕方が無いのでちょっと怒り気味な織斑先生の御尊顔をおかずにすることにする。正直ご飯大盛りで行けそうだ。

 

「クラスと言えば、遅れてくる予定の男性操縦者はいつ頃来るんだったか」

「来週ですね。2組にも中国から留学生が来るみたいですよ」

「そうか。問題児でなければ良いのだが」

「少し伝手を当たってどんな子か聞いてみましたけど、やる気に一杯で教えがいのある男の子が多いみたいですね」

 

 そう、私たちの担当するクラスはまだ全員が揃ったわけではない。そしてまだ欠けているメンバーの一部が来週クラスの仲間入りするのだ。

 織斑君を中心として纏まっているこのクラスなら、どんな子が来ても大丈夫だろうという信頼が既に出来ている。

 

「きっとみんな仲良くできると思います」

「君は随分クラスを信頼しているんだな。私も早く彼らを信用したいものだ」

「それ程でも。織斑先生はまだ引っ掛かりがあるんですか?」

「まぁ、な。出来過ぎる奴というのは困り者でな。裏がある例が多すぎる。それに全員が何がしか隠し事の気配がある。向こうから明かしてくれれば楽なのだが」

 

 確かに彼らは小声で話しているよく事があるし、年の割に人間が出来ていると思う事もある。

 

「でもそれを信頼してあげるのが学校の先生じゃないでしょうか?怪しい怪しいって言われてるカーチス君も白旗君も凄くいい子ですし、浮ついてるように見えるパラジオス君も授業では良く質問できる面を持ってます。こちらから信頼してあげれば、きっと応えてくれますよ」

「…ハァ。教員としては君に勝てないかもしれないな」

「あ…ありがとうございます」

 

 こうしてこの夜は、担当するクラスの良い所探しで更けていくのだった。

 

 

◆◇◆

 

 

(()()()()()織斑一夏は強いな……出だしでこの成長率ならいずれ来る例の件も問題ないだろう)

 

 照明を全て落とした暗い部屋の中、カメラ越しに見た今日の決闘騒ぎを振り返る。

 結果としては零落白夜によるエネルギー切れと原作と敗因は替わらないが、既に、しかも自力でイグニッション・ブーストを修得したというではないか。

 

(他の主人公候補(転生者)の存在に対する反動か?主人公補正と言う奴だな。それとも……)

 

 とある人物へ個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)を繋げ、決闘の記録と頼まれていたデータを送信する。彼はこの身と同類、イベント毎に情報の共有は不可欠だし、こちらでは不可能な事を全て任せているため、頼み事は断れない。

 

《………こちらからの送信は以上。そちらの様子は………了承、相変わらずの様子でむしろ安心する。どこかで問題があった場合は援軍を送るので遠慮なく、だ》

 

 こちらから送信したデータの送信を完了し、対してあちら側の近況を受信する。そう長い期間接触があった訳では無いが、形成されたイメージ通りの活動をしている様だ。

 

《次の通信はクラス対抗戦(リーグマッチ)後。激戦が予想されるが、逆に言えばその程度と予測できる》

 

 収集を任せている情報からも致命的な事は起きないだろうと予想されている。万が一の場合も対抗手段がある。

 

《今日は此処まで。それでは――》

 

 

 

 

《世に平穏のあらんことを》

 




ひと月以上かけてやっとセシリア戦が終わりました。
私の書く戦闘は移り変わりが急すぎる気がしますが、大丈夫でしょうか?

以上。感想・誤字脱字報告・助言・ご意見お待ちしております。
就活が終わってむしろ空き時間が無くなった為次話転校生たちの話の更新はしばらくお待ちください。

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